リアルワールド云々の言葉が流行り始めた時期と重なって「モダリティ」という言葉をヘルスケア界隈で耳にするようになりました。
細胞治療、遺伝子治療、腫瘍溶解性ウイルス、融合タンパク製剤などが、新規モダリティの典型例ですね。
なんとなーく、「新しいカタチの治療方法」のような、片仮名で「カタチ」とか表現するタイプのぞわっとする文脈で使われます。
そもそも「モダリティ」ってどんな意味か、そして、なぜ「新しいカタチの治療方法」のような文脈で使われているのでしょう?
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モダリティって一体何者?
英語辞典における定義
Oxford dictionary で調べてみましょう。
modality [noun]
/məʊˈdæləti/
- [countable] (formal) the particular way in which something exists, is experienced or is done
They are researching a different modality of treatment for the disease.- [uncountable] (linguistics) the idea expressed by modals
- [countable] (biology) the kind of senses that the body uses to experience things the visual and auditory modalities
https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/modality?q=modality
英語辞書でも一番上にヒットするくらい、モダリティというのは生命科学の分野で使われるのが普通のようですね。
直訳すると「何かが存在したり、あるいは何かを経験したり、または、何かを行うための特定の方法」ということですね。
なぜ「モダリティ」なんていう言葉を使うのでしょうか。methodとかwayとかで良さそうなものですが。
調べてみると、「モダリティ」という言葉は、言語学の分野で使われているようですね。
言語学の分野で用いられる場合、モダリティとは「言表態度」と日本語訳されています。
言表態度と言表事態
言表態度とは、その言葉どおりで「態度」に当たるものです。
一方、対となる言葉として言表事態という概念もあります。
- 言表事態:命題、言いたいことそれ自体
- 言表態度:命題、言いたいことそれ自体ではなく、その言葉を発する人の態度や主観
なぜ新薬開発の場面で「モダリティ」が使われるようになった?
ここからは推測100%ですが、「新薬」という一言で片付けられないものが続々と登場してくる、という一点に尽きるのではないでしょうか。
上の言表事態と、言表態度に置き換えると、次のようになります。
- 標的(タンパク質、RNA、DNA)そのもの
- 標的(タンパク質、RND、DNA)そのものではなく、どうやってそのターゲットにアプローチするかという態度や考え
今までは非常に単純で、ターゲットが決まれば、そのターゲットにくっつき易い低分子か抗体を作って、そのアフィニティを如何に高めるか、薬物動態を如何に効率化するか、という部分で競争が起きていました。
ところがこれからは、ターゲットが決まっても、そのターゲットに対するアプローチ方法がもの凄く多岐にわたっていきます。
アフィニティや薬物動態だけの競争には留まらないことになるわけです。
そんなニュアンスを込めたくて「モダリティ」なんて表現が使われているんじゃないかという推測になります。
ということで単なる推測ですが、訳も分からず「モダリティ」という表現を使うのではなくて、その表現に込められたニュアンスも理解して使えるといいですね。