エビデンス全般

研究計画書を書いてみよう!そもそも何書けばいいの?

2020年12月18日

いざ研究を計画しようと思っても、研究計画書(プロトコール)をどう書けばいいか分からず手が止まってしまう方、少なくないのではありませんか?

プロトコール論文もあるにはありますが、すべての研究でプロトコールが論文として公開されているわけではありません。

何を書けばいいか分かると、日々の仕事の中でも研究のタネを見つけやすくなりますので、今回は研究計画書にどんなことが書かれているのか見てみましょう。

研究計画書の概要(観察研究の場合)

臨床試験のような介入のある類の研究では考慮すべき事項がより複雑になります。

まずは介入研究よりは難易度の低い観察研究を題材に見てみましょう。

といっても、観察研究でも考えなければならないこと、決めておかなければならないこと、書かなければならないことは非常に沢山あります。

「観察するだけなんだから楽勝楽勝!」なんてことはありませんので悪しからず。

大雑把にみても、17項目は書かなければなりません。

研究計画書の半分近くは実施するうえでの運用手順に関わる内容です。

研究課題(リサーチクエスチョン)に直接的に関わる部分について、まずは見ていきましょう。

青字にした部分ですね。

  1. 研究の背景
  2. 研究の目的
  3. 評価項目
  4. 研究デザイン
  5. 研究の対象者
  6. 研究の方法や手順
  7. 統計や解析について
  8. 同意取得方法
  9. 研究を中止または終了する場合
  10. 研究参加に伴う利益や負担、リスクについて
  11. 倫理的側面について
  12. 研究を通じて集められる試料や情報の取り扱いについて
  13. 研究の質の担保
  14. 研究実施体制や連絡先
  15. 略語
  16. 改訂履歴
  17. 参考文献

研究の背景

研究の背景は、すべての始まりです。ここを書くためには、死ぬほど文献を読み込んだり、専門家の意見を聴いたりする必要があります。

研究は、連綿と続く医療や科学の発展の流れの中に位置づけられます。

既に分かっていることを繰り返し検証することが重要な場合もありますが、多くの場合、既に分かっていることを研究する価値は認められにくいです。

仮に実施できたとしても、論文や学会で発表しようとした時に、「それはすでに分かっているからうちの雑誌には載せられない」「他の発表の方が新規性が高いので残念ながら口頭演題の枠は用意できない」など、無碍に扱われる可能性が高くなります。

臨床系の研究なら、対象とする疾患について、その原因であったり、疫学的な情報は可能な限り調べつくすことが必須です。

調べが浅かったりすると、研究がある程度進んだ段階で「あれ、同じことが既に2年前に論文発表されている」なんてことに後から気付いて地獄を見ることになります。

差別化のために、既にアメリカやヨーロッパでは研究があるが、アジアではまだ同様の研究はない、なんてことを根拠にアジア発の研究として実施することもよく見られます。

研究の目的

研究の目的は、「食品Aと食品Bの減量効果を評価する」のように記載します。あまりごちゃごちゃ書くと分かりにくいので、できるだけシンプルな文章が好ましいです。

ただし、シンプル過ぎて伝わらないという場合もありますから、そこは審査員たちとの駆け引きや調整も出てきます。

評価項目

評価項目は、エンドポイントなどと呼ばれることもあります。

評価項目は、研究の目的に対応している必要があります。

「食品Aと食品Bの減量効果を評価する」が研究の目的なら、「減量効果を何で測るか?」の部分が評価項目です。

減量効果は比較的簡単、、、と思いますが、体重なのか腹囲なのか、人によってイメージするものが違う場合もあるので、そのイメージの齟齬を防ぐという視点が肝心です。

また、体重で測定するとしても、どの時点の体重なのか、という部分も必要です。

食品Aや食品Bを食べ始めてから半年後の体重なのか、1年後の体重なのか。

体重は季節変動もありますから、1年後の方がいいでしょうね。

ただし、小学生を対象にこんな研究をしたら、体重は減るどころか年々増えていかないと不健全ですから、減量効果の測定対象には向きません。

研究対象者にも関わる部分ですが、評価項目や研究目的に「成人における」くらいの制限も入れていいかもしれませんね。

このように、研究計画書の各事項というのは、ストレートに順々に決まっていくことはあまりなく、行ったり来たりしながら決まっていくのが普通です。

研究デザイン

研究デザインは、いわゆる「ランダム化比較試験でいきます!」という部分です。

ランダム化比較試験を食品の減量効果を見るような研究で採用するかはわかりませんが、2群比較なのか、プラセボを置くのか、クロスオーバー法を使うのか、比較方法は様々です。

ランダム化を行う場合は、食品Aを食べたのか、食品Bを食べたのかが分からないようにしなければならないので、味から見た目から食感まで全部一緒にしなければなりません。

そんなのは大変ですしコストに見合ったリターンが得られるとも思えませんから、研究の目的や扱うテーマ次第では、ランダム化は行わないのも選択肢としては十分理に適うこともあります。

研究の対象者とも絡む部分ですが、研究を実施する地域や施設についても考える必要があります。

北海道、本州、四国、九州、沖縄など、どの地域を対象に研究するか。全国津々浦々にするのか、関東だけに絞るのか。食生活のバラツキを減らすために地域を絞るのか。

特に、研究対象者が1つの施設に集まってくるような場合と、研究対象者が複数の施設に分散する場合とで、単施設なのか多施設なのかという大きな違いが生まれてきます。

運用上は単施設の方がラクですが、出てくる結果が施設に依存しているのではないかという指摘に反論出来なくなるのという側面もあります。

うーん、悩ましい。研究は1人ではできませんね。

研究の対象者

研究対象者は、先ほども述べたような年齢も加味して決める必要があります。

また、妊娠の可能性がある場合、食事をコントロールするような研究に参加するのはあまり好ましくないでしょうから、研究対象にならないように「除外基準」に含めることになるでしょう。

食品Aと食品Bに動物由来成分が入っており、宗教上の理由で食べられない人もいるかもしれませんね。

食事制限が必要な疾患を持つ方はどうでしょうか。

企業のスポーツ部に所属していて、毎年大会に出場するような人はこの研究に参加しても大丈夫でしょうか?外れ値の原因になったりしませんか?

そんなことを考えながら、どんな人は研究対象者に相応しいか、どんな人は研究対象者に入らない方がいいのか、考えて決めておきます。

あまり厳しくしすぎると、出てきた結果を当てはめられる集団が狭くなってしまいますが、かといって何も制限をかけないとデータが集まらなかったり、ノイズが入って結果の解釈が出来なくなったりします。

ここも研究を計画する人の腕の見せ所ですね。

研究の方法や手順

募集方法

研究参加者をどうやって集めるかも重要な要素です。

集めようと思えば、TwitterなどのSNSも使えるかもしれませんが、そもそもSNSユーザーに限定されてしまいますし、SNSのヘビーユーザーに偏りがちでしょう。募集は先着順なことが多いですから。

なりすまし等は、研究参加の同意確認時に本人確認を行えば防げそうですが、Twitterユーザーに偏った場合、Twitterで情報を早めに掴める程度にITリテラシーが高い集団が母集団になります。

市町村の1年に1回の健康診断時に募集をかけた場合は、その地域に限定されるのはもちろんですが、自治体の健康診断に行く集団ということで、会社勤めの人達の割合は減るでしょう。

いつ募集をかけ始めて、いつ募集を終えるかも研究参加者の内訳に影響を及ぼす場合があります。

例えば、3月に募集をかけた場合、年度末決算の会社に勤めている人達は忙しくなりがちなので集まりにくいでしょう。

7月や8月に募集をかけた場合、もし大学生が対象に入るのであれば長期休暇なのでバイト感覚で参加を希望するなど、集まりやすくなるかもしれません。

情報の取得方法

どのように情報を取得するか、という部分も大切ですね。

自己申告なのか、誰かのインタビューを受けて答えるのか、スマートウォッチなどのデバイスでデータ収集するのか。

どの方法も一長一短があります。

自己申告の場合、虚偽の回答をしたり、そうでなくても記憶が間違っている可能性もあります。

誰かのインタビューを受ける場合、インタビューを行う人のスキルがバラバラだったり、同じ人でもインタビュー方法が系統立っていない場合、インタビュー実施者に起因するバラツキが発生します。

デバイスを使う場合も、デバイス操作になれておらず正確にデータが集まらなかったり、デバイスの電源が切れているのに気付かなかったり、デバイスを破損させてしまったりすることもあるでしょう。

かかる費用も情報の取得方法によって大きく異なるでしょうから、お財布との相談も必要になってきます。

統計や解析について

研究の目的や種類に依っては、研究計画書であまり厳しく決め過ぎない方がいい場合もありますが、今回はそこそこ決めておいた方がいい場合について見てみます。

例えば、「成人における、食品Aと食品Bの1年後の体重減少量を評価する」という研究なら、1年後の体重の食品A群と食品B群の値をどのように要約して記述するか、は書かなければならないでしょう。

連続量の場合、たいていは平均値と標準偏差、中央値に落ち着きます。

平均値の比較方法であったり、比較を行う際の優位水準α(だいたい0.05)、検出力 1-β(だいたい0.80)、両側検定か片側検定か(だいたい両側検定)を決めたり、ですね。

この解析方法を決めておくことで、サンプルサイズ設計に繋がるわけです。

サンプルサイズ設計はある種の「賭け」

ほら、ここまでくると、研究対象者や研究デザインとも繋がるでしょう?

サンプルサイズが大きくなりすぎて予算オーバーだったり、スケジュールに間に合わないといったことが予想されるなら、デザインを考え直さなければなりません。

良いところまで研究計画が進んでいると後戻りできないという心理に陥りやすいのですが、忘れてはならないのは「研究の目的」です。

研究目的の達成のための方法は1つだけとは限りませんから、考えて考え抜くことで突破口が開けるかもしれませんよ。

まとめ

ということで、難易度が比較的低いとされる観察研究の研究計画書のごく一部について見てみました。

いやー簡単ではないですね。ですが、やってみるとやりがいもありますし、結果が出れば、ポジティブな結果でもネガティブな結果でも、研究史に名を残せるという点も魅力の1つです。

この記事が、研究ちょっと興味あるなーという方の後押しになったらという願いを込めて。

そうそう、臨床研究の道標、安くはありませんがお勧めです。

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