2020年から続く新型コロナウイルスの影響で、公衆衛生という言葉は広く知られることになりました。
ですが、公衆衛生とは当然ながら感染症対策のみに用いられる概念ではなく、むしろ新型コロナウイルスというのはそのほんの一部に過ぎません。
公衆衛生という言葉の注目度が高まっているうちに、日本という国が抱える公衆衛生上の課題を、日本のリスク特性という観点から見てみます。
Table of Contents
自然災害
日本で発生する自然災害としては、地震、津波、台風、洪水などが全国各地で問題として出てきます。
地域によっては、雪崩や地滑り、噴火活動も重大な自然災害の一つとして対策が求められています。
2011年の東日本大震災は、地震および津波による被害を合わせると、死者は約2万人、被災者・避難者・負傷者は約37万人、被害額は約17兆円という規模とされます(平成28年版防災白書)。
2016年(平成28年)の防災白書では、南海トラフ沿いの巨大地震(マグニチュード8~9クラス)が発生する確率は、30年以内に70%程度と述べられており、その日は刻一刻と迫っているとも言えます。
- 南海トラフ:四国の南の海底にある水深4,000m級の深い溝
南海トラフ沿いの巨大地震は、震源が浅く、規模が大きいため、長周期地震動が強く励起されることが懸念される。地震調査研究推進本部によれば、南海トラフ沿いでマグニチュード8~9クラスの地震が発生する確率は、今後30年以内に70%程度としており、近い将来に発生が懸念される。
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/pdf/H28_honbun.pdf
関東以西の主要都市への影響も懸念されていますが、地震を止めることはできないので「どう備えるか」という方向へと思考を切り替える必要があります。
地震の懸念と並行して、火山活動への注視も求められます。
同時に、山がちな地形も相まって、日本の河川は急勾配であることが多く、氾濫を起こしやすい特性があります。台風や豪雨によって水量が多くなると氾濫のリスクが高まり、都市エリア近傍で氾濫した場合浸水被害などによって住環境が悪化するということもあります。
二次的影響
自然災害がなぜ公衆衛生上重要になるか。それは「住環境の悪化」を引き起こすためです。
災害そのものによる負傷も当然ながら重大な影響を及ぼしますが、それ以上に尾を引くのが住環境の悪化です。その影響の一端を列挙してみましょう。
- 下水の逆流等による悪臭
- 建物の浸水による害虫発生
- 下水の破損による排泄物処理網の麻痺
- プライベート空間の消失による精神負荷
- 住み慣れない住環境への強制移動による精神負荷
- 被災地域の医療従事者の生活環境の悪化
- 被災地域の医療体制の悪化
重要なのは、被災地域で生活を送る医療従事者の生活も当然ながら悪化しているために、医療体制が悪化し、けがや病気の治療を十分に行えなくなるという点です。
交通網・物流網が麻痺していると、被災地域外からの派遣も満足に行えずに復旧に時間がかかり、二次被害が拡大するという悪循環が発生する恐れがあります。
災害による被害の体験や、その後の生活への長期的な影響は、二次的影響として被害を拡大させかねません。
心的外傷後ストレス障害、うつ、不安障害などは、被災者やその家族だけでなく災害復旧従事者にまで影響を及ぼす可能性があります。
日本の脆弱性・自然災害
自然災害に対する将来を考えたとき、日本の脆弱性は下記3つに大別されます。
- 人口密度:日本人口の約半分が、洪水になりやすい地域に集中している。
- 高齢者の割合:自然災害時の一次的影響、二次的影響は、高齢者ほど受けやすい。
- 気候変動:気候の亜熱帯化や、海水面上昇による陸地減少などの影響は未知数。
感染症
国としての感染症リスクを考えた場合、おもに次の要素を考慮する必要があります。
- 人口密度
- 国際交流(旅行を含む)
- 予防接種率
- 国民の健康状態
- 衛生的予防措置
- 薬剤耐性の発生状況
日本の人口密度
日本の主要都市圏(東京、大阪、福岡など)は、世界有数の人口密度であり、OECD諸国の中でも軒並み上位に位置しています。
人口密度が高いということは、その地域では人同士の接触機会が多くなる可能性が高いということになるため、感染症のリスクが高くなるのは直感通りです。
その他のリスク
公衆衛生上のリスクは、自然災害や感染症以外にも複数考えられます。
例えば、次のようなものがあるでしょう。
- 食中毒
- 化学物質の漏洩
- 核災害(原子力発電所等)
- テロ攻撃
大気汚染や土壌汚染、水質汚染なども最終的には私たちの健康状態に影響してくるため、公衆衛生上の課題の一つです。
終わりに
公衆衛生のキーワードは
- 地域社会
- 感染症管理
- 衛生管理
- 教育
- 早期診断
- 予防治療
- 医療・介護
- 社会的仕組みの構築
です。
医療は軽症から重症まで幅広く「患者さんを診て治療する」という側面が強いですが、公衆衛生の場合は「教育や仕組みを通じ、地域社会全体で、予防や早期治療を行う」という側面に重きが置かれています。
自然災害への備えも、広く捉えれば「予防」ですね。
国民全体で勉強して、来るべき「災害」「疾病」に対して備えておきましょう。