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第6期科学技術・イノベーション基本計画

2021年6月23日

はじめに

我々は⼤きな時代の岐路に⽴っている。科学技術・イノベーション政策は、今後しばらくはどの国においても、⼆つの⼤きな⽅向を常に⾒据えながら策定されていくことになるだろう。すなわち、科学技術には、20 世紀後半から爆発的に拡⼤した⼈間活動に由来する地球規模の危機を克服するための知恵が求められている。

その⼀⽅で、それぞれの国は、グローバルな協調と調和をうたう様々な国際提⾔やコンセプトを競い合いながら、⾃国の競争⼒強化のための国内改⾰と科学技術への未来投資の拡⼤を加速していく。

⼈⼝の指数関数的な増加、巨⼤化する都市環境、⼤量⽣産と⼤量消費に⽀えられた国内総⽣産(Gross Domestic Product)の成⻑神話、国の制約を凌駕しようとするグローバリゼーションの進展など、「グレートアクセラレーション」とも呼ばれるこれら 20 世紀の遺産が、⼤気中のCO2やメタンガスの増加、更にプラスチック流出等による海洋汚染を⽣み出し、異常気象や気候変動、海洋⽣態系への影響といった地球の危機を作り出している。これこそ「⼈新世」の現出という仮説が⽰す世界的な課題の認識でもある。また、今や世界は、⽶中対⽴の先鋭化など混迷の度を深め、我が国の安全保障をめぐる環境も⼀層厳しさを増している。第 6 期科学技術・イノベーション基本計画(以下「第6期基本計画」という。)で掲げる我が国の科学技術・イノベーション政策は、こうしたグローバル課題解決への政策的貢献を企図するものでなければならない。翻って、科学技術・イノベーション政策には、国⺠の⼀⼈ひとりにいかなる恩恵をもたらすのかという国内向けの視座も⽋かすことはできない。我が国は、これまでも少⼦⾼齢化や過疎化の進展といった課題を抱えてきたが、更に近年、深刻化する⾃然災害、科学技術の国際競争⼒低下など新たな社会的課題に直⾯している。また、若者世代の⾃⼰肯定感の低さなど次代を担う⼈材に関する課題も浮き彫りになっている。それらを解決するためには、⾃然科学のみならず⼈⽂・社会科学も含めた多様な「知」の創造と、「総合知」による現存の社会全体の再設計、さらには、これらを担う⼈材育成が避けては通れない。

グローバル課題への貢献と国内の構造改⾰という両軸を、どのような政策で調和させることができるのか。第 6 期基本計画に求められているのは、そのための政策的創案である。

その時に我々が⽬指すべきは、第 5 期科学技術基本計画(以下「第5期基本計画」という。)で掲げた「サイバー空間とフィジカル空間を⾼度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両⽴する⼈間中⼼の社会」である Society 5.0 を現実のものとすることであろう。2015 年の国連サミットで採択された持続可能な開発⽬標(SDGs)の提案に強く共感しながら、そこに「信頼」や「分かち合い」を重んじる我が国独特の価値観を重ね、20 世紀の負の遺産を超えた我が国の未来社会像として Society 5.0 を再提⽰する。社会や⾃然との共⽣のための循環型社会の実現、信頼に基づく市⺠感覚、三⽅よしの社会通念、分かち合いの共感性、こうした「ソフトパワー」の価値を、信頼性の⾼い科学研究や技術⼒、更には極めて質の⾼い社会データの存在と結びつけ、我が国の未来社会像として Society 5.0 を世界に問いかける。加えて、このコンセプトの提⾔によって、我が国が、この価値観を共有できる国・地域・国際機関等との連携を強め、国際社会における信頼の要となることを⽬指す。

こうした基本認識の下、この第 6 期基本計画では、我が国が⽬指すべき Society 5.0 の未来社会像を、「持続可能性と強靱性を備え、国⺠の安全と安⼼を確保するとともに、⼀⼈ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」と表現し、その実現に向けた『「総合知による社会変⾰」と「知・⼈への投資」の好循環』という科学技術・イノベーション政策の⽅向性を⽰した。また、その達成のため、次の5年間で約 30 兆円の政府研究開発投資を確保し、これを呼び⽔として官⺠合わせて約 120 兆円の研究開発投資を⾏っていくことを明記した。今後5年間、我々はこの⽅向性に沿って、果敢に各政策を推進し、社会全体の再設計を成し遂げるとともに、社会からの要請に応じて知のフロンティアの開拓と挑戦する⼈材の育成に取り組み、そして社会変⾰を更に加速させるダイナミックな好循環を起こしていく。科学技術とイノベーションの⼒によって、地域、ジェンダー、⾔語、⽂化の多様性を尊重し、互いの⾃由と信頼という原則を共有できる国々とともに、新たな世界秩序の中でオール・インクルーシブな社会を実現していかねばならない。そして、その中枢の⼀⾓を我が国が担っていくべきである。

振り返れば、科学技術は、我が国が戦後の壊滅的状況から復興する際に拠りどころとしたものであった。だとすれば、「⼈新世」とも⾔われる地球規模の危機に直⾯する時代の中で、Society 5.0 を普遍的でグローバルな未来社会像として前⾯に掲げ、⽇本国憲法が⾼々とうたい上げたように、「国際社会において、名誉ある地位を占めたい」。それが第 6 期基本計画の中⼼的メッセージである。

第1章 基本的な考え⽅

1.現状認識

第5期基本計画の策定時には、情報通信技術(ICT, Information and Communication Technology)の急激な進化によるグローバルな産業構造の変化やセキュリティ問題などのネットワーク化への対応、また、地球規模で起こるエネルギー・資源・⾷料等の制約や環境問題、さらに、国内における少⼦⾼齢化や地域経済社会の疲弊、⾃然災害等のリスクが⼤きな課題として認識されていた。

これらの課題はいずれも、現在も引き続き重要であることは論をまたないが、この 5 年間に⽣じた特筆すべき新たな社会の変化としては、世界秩序の再編、現実の脅威となったグローバル・アジェンダ、情報社会(Society 4.0)の限界の露呈が挙げられる。そして、これらの変化を、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡⼤が加速させている。

(1)国内外における情勢変化

① 世界秩序の再編の始まり

現在の世界は、中国の台頭と激しい⽶中対⽴の先鋭化等の変化によって混迷の度を深めている。そのような地政学的変化がもたらす新しい世界秩序の模索は、顕在化した国家間の競争であり、⾃国存続のために国際連携を再構築しようとする新たな「連携」への流れである。

科学技術・イノベーションは、激化する国家間の覇権争いの中核となっている。⽶中をはじめとする主要国は、先端的な基礎研究とその成果の実⽤化にしのぎを削り、その果実を、安全保障上の脅威等への対応のための有効な対応策として位置付け、感染症の世界的流⾏、国際テロ・サイバー攻撃、激甚化する⼤規模⾃然災害への対応も含め活⽤する取組を進めている。また、こうした中、技術流出問題も顕在化しており、各国ともこれを防ぐ取組を強化している。

各国の状況を⾒ると、政府の役割への期待が⾼まり、各国とも⼤規模な財政出動により国⺠の雇⽤・事業・⽣活を⽀えている⼀⽅で、地域・コミュニティレベルでの分断が⾒られている。グローバルな視点から⾒ると、⼀国の枠を超え、国際社会で叡智を結集し協調・連帯していく重要性が強く認識されている⼀⽅で、世界におけるリーダーシップの在り⽅が問われている。

このように、現在、世界各国は国家と世界の秩序に関する模索の時代にあり、我が国も新たな世界秩序・ルール作りにおいて主導的な役割を果たすことが求められている。

② 現実の脅威となったグローバル・アジェンダ

気候変動や⽣物多様性の劣化、交流⼈⼝拡⼤によるパンデミックのリスクなど世界全体が直⾯している様々な問題(グローバル・アジェンダ)が、現実の脅威となって我々の社会に警告を与え、グローバルな企業活動においても効率性のみならず持続可能性や強靱性を重視する動きへと変化している。

特に地球温暖化が引き起こす気候変動問題は、多頻度かつ激甚化する⼤規模⾃然災害となって、現実の脅威となり、「気候危機」とも⾔われる⼈類が直⾯する最⼤の課題となっている。これを踏まえて、欧州、⽶国、中国などの諸外国では、コロナ禍で落ち込んだ経済回復と環境投資を⼀体的に⾏うべく、⼤規模な投資を計画している。

我が国においても、2020 年 10 ⽉の第 203 回国会の総理所信表明において、2050 年までに温室効果ガス排出を実質ゼロとする、すなわちカーボンニュートラルを⽬指すことを宣⾔した。成⻑戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げ、グリーン社会の実現に最⼤限注⼒し、⾰新的なイノベーションの促進や規制改⾰などの政策を総動員して、脱炭素社会の実現に取り組むこととしている。

③ 情報社会(Society 4.0)の限界の露呈

世界が⼯業社会(Society 3.0)から情報社会(Society 4.0)に移⾏する中、GAFAに代表されるITプラットフォーマーは、従来の商慣⾏やルールに囚われないビジネスモデルやサービスを築き、巨⼤な利益を⽣む国際経済活動を牽引してきた。

⼀⽅で、その弊害とも呼べる課題が顕在化してきている。ITプラットフォーマーによる国際的な情報独占が⾃由競争を制約しつつあることへの強い懸念、情報化の流れに取り残された情報弱者の出現、世界の富をごく⼀部の資産家が保有するという豊かさの偏在がもたらした「格差」や「社会の分断」、「将来への不安」など、⼀⼈ひとりの幸福を毀損する事態も⽣じている。

第6期基本計画の射程は、これら国内外の情勢の変化に対して、我が国の⽴ち位置を画することである。

(2)情勢変化を加速させた新型コロナウイルス感染症の拡⼤

① 国際社会の⼤きな変化

2019 年 12 ⽉頃から、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が引き起こす新型コロナウイルス感染症が中国から世界に拡⼤した。2020 年3⽉には、WHOが「新型コロナウイルス感染症の拡⼤がパンデミックと形容される」と評価するに⾄り、⼈類にとって考慮すべき⼤きな要素の⼀つとなった。

感染症対策の共有やワクチン・治療薬の開発は、⼈類の⽣存を懸けた共通の政策⽬標として、国際連携によって進めることが求められる⼀⽅で、各国は、国家の存続と威信をかけて、感染拡⼤の防⽌と経済活動の維持など国⺠の安全・安⼼の確保のためにスピード感のある変⾰を迫られている。また、効率⼀辺倒で構築された国際的なサプライチェーンは、新型コロナウイルス感染症の拡⼤を前に、そのもろさと危うさを露呈し、各国に⾃国経済の持続性と強靱性の⾒直しを迫っている。このような動きが、顕在化しつつあった世界秩序の再編の動きを加速させている。

② 激変する国⺠⽣活

国内に⽬を転じれば、新型コロナウイルス感染症は、我々の⽣活を⼀変し、半ば強制的に⾮⽇常をもたらしている。特に Society 5.0 の具体化の前提となる社会全体のデジタル化が⼗分に進んでいないことが明⽩になった。⾏政のデジタル化や企業等におけるテレワーク、⼤学等におけるオンライン教育など、デジタル化に対応した環境整備は、組織・機関によって進捗状況にばらつきがあり、しかも社会全体としてはその⼟壌が整備されていないなど、今なお導⼊の途上であった。

この度の災禍は、このような我々の社会の在り⽅そのものを変えていく契機となった。既に我が国でも、働き⽅や学びの在り⽅、医療サービス、飲⾷や観光などにおいて、従来の常識とは⼤きく異なる形での取組が始まっている。テレワークやオンライン教育、遠隔診療など、これまで何度も議論されてきた取組が、新型コロナウイルス感染症への対応を余儀なくされることによって、⼀気に進みつつある。

具体的には、2020 年 7 ⽉に「世界最先端デジタル国家創造宣⾔・官⺠データ活⽤推進基本計画」を取りまとめ、新型コロナウイルス感染症の感染拡⼤の阻⽌に向けたITの活⽤と、デジタル強靱化による社会構造の変⾰・社会全体の⾏動変容の両⾯を進める⽅針を打ち出した。2020 年 10 ⽉には、これらの取組を具体化・加速化すべく、デジタル・ガバメント閣僚会議を改組し、内閣総理⼤⾂を議⻑とする体制に強化するとともに、その下で、マイナンバー制度を含めた国と地⽅のデジタル基盤の抜本的改善策、官⺠のデータ利活⽤に関するデータ戦略の取りまとめを⾏った。

また、⾏政⼿続のオンライン化を更に推進するため、⺠から官への申請⼿続等については内閣府規制改⾰推進会議が、⾏政内部の会計・⼈事⼿続等については内閣官房⾏政改⾰推進本部がそれぞれ主導して書⾯・押印・対⾯等の⾒直し⽅針を策定した。

さらに、⾼度情報通信ネットワーク社会形成基本法の全⾯的な⾒直しを⾏うとともに、⾏政の縦割りを打破し、⼤胆に規制改⾰を断⾏するため、2021 年 2 ⽉、デジタル改⾰関連法案を閣議決定し、国会提出した。結果として、「ニューノーマル」とも呼ばれる新しい⽣活様式は、第5期基本計画で打ち出した Society 5.0のコンセプトを部分的にではあるが体現することとなった。

2.「科学技術・イノベーション政策」としての第 6 期基本計画

我が国では、科学技術基本計画の根拠となる法律、「科学技術基本法」が 2020 年 6 ⽉に改正され、2021 年4 ⽉から「科学技術・イノベーション基本法」へと名称が変わり、⼈⽂・社会科学の振興とイノベーションの創出が法の振興対象に加えられる。これは、科学技術・イノベーション政策が、科学技術の振興のみならず、社会的価値を⽣み出す⼈⽂・社会科学の「知」と⾃然科学の「知」の融合による「総合知」により、⼈間や社会の総合的理解と課題解決に資する政策となったことを意味するものである。

(1)我が国の科学技術基本計画に基づく科学技術政策の振り返り

① 第1期から第4期までの経緯

科学技術基本法に基づき、1996 年に第 1 期科学技術基本計画が策定された。当時、我が国は、欧⽶追従型の科学技術政策から、世界のフロントランナーの⼀員として、⾃ら未開拓の科学技術分野に挑戦し、未来を切り拓いていくための政策転換や、⼈類の直⾯する課題への貢献が求められていた。こうした状況を背景に、政府研究開発投資の拡⼤、研究開発システム改⾰、研究開発の戦略的重点化等に重きを置いていた。

第 2 期、第 3 期の基本計画では、科学技術活動が⼤規模化・複雑化する中で、重要性の⾼い研究領域への重点投資等を⾏い、我が国の国際競争⼒を⾼めることを主たる⽬標に掲げた。科学技術の社会実装を前⾯に出した第 4 期では、研究開発の成果をイノベーションの⼒によって社会に還元し、社会変⾰と課題解決を核とする⽅向へ転換した。

② 第 5 期基本計画で提起した Society 5.0 のコンセプト

第5期基本計画の策定時において、世界ではICTが進展し、グローバルなITプラットフォーマーがビジネスモデルを⼤きく変化させていた。加えて、欧⽶、中国等の国々は、ものづくり分野にICTを最⼤限活⽤することで、第4次産業⾰命とも⾔うべき構造変化を産業に起こそうとしていた。

そのような中、我が国は、ICTを最⼤限に活⽤し、産業構造のみならず、国⺠にとって豊かで質の⾼い⽣活の実現の原動⼒にすべく、サイバー空間とフィジカル空間の融合という新たな⼿法に⼈間中⼼という価値観を基軸に据えることで、我が国や世界の直⾯する課題を解決し、⼈々に真の豊かさをもたらす未来社会を構築する新たなコンセプトを打ち出した。それが 2016 年に策定された第 5 期基本計画で提起した「Society 5.0」である。

このコンセプトは、ICTの浸透が⼈々の⽣活をあらゆる⾯でより良い⽅向に変化させる、デジタル・トランスフォーメーション(以下「DX」という。)により導かれる未来像と⼀致するものであった。

③ ⽬的化したデジタル化と相対的な研究⼒の低下(第5期基本計画期間中の振り返り)

第5期基本計画期間中の科学技術・イノベーション政策を振り返ると、Society 5.0 の前提となるデジタル化については、あらゆる分野でIT化を進めていたものの、既存の業務の効率性の向上を⽬指す取組が中⼼となり、諸外国のようなデータ連携・活⽤による新たなビジネスモデルの創出などは⼗分に⾏えず、ICTの持つ本来の⼒を⼗分に⽣かし切れていなかった。特にコロナ禍で明らかになったように、オンライン会議やテレワークのためのITインフラは、その安定性やセキュリティに関して、運⽤の問題や⼼理的な不安などの課題もあり、また、各組織が異なるシステムでネットワークを閉鎖的に利⽤している現在の状況では、分野を跨いだリアルタイムでのデータ収集・分析・活⽤を⾏う環境が整っていないなど、Society 5.0 の実現に向けた基盤整備へのスピード感や危機感が⽋如していた。

このため、第 5 期基本計画期間中には、データ連携基盤の整備や「AI戦略 2019」の策定等による官⺠のデータ活⽤環境の整備を進めるとともに、SIP(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program。戦略的イノベーション創造プログラム。)ムーンショット型研究開発制度といった社会課題解決のための⼤型プログラムの創設によりイノベーションの創出を進めている。

また、研究⼒については、ノーベル賞受賞者は多数輩出しているものの、論⽂の量・質ともに国際的地位の低下傾向が継続している。特に研究⼒を⽀える若⼿研究者を取り巻く環境を⾒ると、任期付きポストの増加や研究に専念できる時間の減少など、引き続き厳しい状況が続いている。

第5期基本計画期間中においても、研究環境改善のための取組を講じてきたが、既存の枠組みの制約条件の中で、真に研究現場の変⾰を駆動させる対策を必ずしも⼗分なスピード感と規模感を持って進められなかった側⾯もある。このため、2020 年 1 ⽉には「研究⼒強化・若⼿研究者⽀援総合パッケージ」を策定するなど抜本的な対策に取り組んでいるが、未だ道半ばである。

(2)25 年ぶりの科学技術基本法の本格的な改正

2020 年の第 201 回国会において、25 年ぶりとなる科学技術基本法の本格的な改正が⾏われた。この法改正では、法律の名称を「科学技術・イノベーション基本法」とし、これまで科学技術の規定から除外されていた「⼈⽂・社会科学(法では「⼈⽂科学」と記載)のみ」に係るものを、同法の対象である「科学技術」の範囲に位置づけるとともに、「イノベーションの創出」 を柱の⼀つに据えた。

科学技術基本法改正の⼀つの柱として「⼈⽂・社会科学」の振興が法の対象に加えられた背景としては、科学技術・イノベーション政策が、研究開発だけでなく、社会的価値を⽣み出す政策へと変化してきた中で、これからの政策には、⼀⼈ひとりの価値、地球規模の価値を問うことが求められているという点が挙げられる。今後は、⼈⽂・社会科学の厚みのある「知」の蓄積を図るとともに、⾃然科学の「知」との融合による、⼈間や社会の総合的理解と課題解決に資する「総合知」の創出・活⽤がますます重要となる。科学技術・イノベーション政策⾃体も、⼈⽂・社会科学の真価である価値発⾒的な視座を取り込むことによって、社会へのソリューションを提供するものへと進化することが必要である。

もう⼀つの柱である「イノベーションの創出」が法の対象に加えられた背景としては、この 25 年間のイノベーションという概念の含意の⼤きな変化が挙げられる。かつて、企業活動における商品開発や⽣産活動に直結した⾏為と捉えられがちだったイノベーションという概念は、今や、経済や社会の⼤きな変化を創出する幅広い主体による活動と捉えられ、新たな価値の創造と社会そのものの変⾰を⾒据えた「トランスフォーマティブ・イノベーション」という概念へと進化しつつある。

この改正の⼆つの柱は、我が国が Society 5.0 の実現を⽬指すにあたり、未来像を「総合知」によって描き、バックキャストにより政策を⽴案し、イノベーションの創出により社会変⾰を進めていく上で不可⽋なものであり、第6期基本計画は、この「総合知」の観点から、より進化した科学技術・イノベーション政策を企図している。

他⽅で、新しい現象の発⾒や解明のみならず、独創的な新技術の創出等をもたらす「知」を創出する基礎研究・学術研究は、ますます重要になっている。「知」は、⾮連続な変化に対応し、社会課題を解決するイノベーションの創出の源泉である。我々は、⼈類が⻑い歴史のなかで積み上げてきた膨⼤な「知」を次世代に引き継ぐと同時に、新しい現象の発⾒や解明、新概念や価値観の提⽰を⾏うことでフロンティアを切り拓き、新たな「知」を創造する責務がある。

世界を主導する卓越した研究を強化し、豊かな発想の⼟壌となる多様な研究の場を確保するなど、我が国の基礎研究⼒を⼀層強化すべく取り組んでいかなければならない。

また、研究活動をグローバル・アジェンダに結びつけるための国際連携の強化、創出された知をイノベーションに活かす仕組みを構築することなども重要である。

特に近年は、AI技術における深層学習やゲノム編集技術のように、基礎研究・学術研究が社会実装に直結する例も出てきており、⼤学・国⽴研究開発法⼈発スタートアップや産学連携の⾼度化など産学を緊密に連携させる仕組みが求められている。

(3)第6期基本計画の⽅向性

第6期基本計画に求められることは、この5年間の国内外の情勢変化を踏まえ、⽶中対⽴の先鋭化など世界秩序の模索の動きや現実の危機となった気候変動問題をはじめとするグローバルな課題の克服への貢献、そして、半ば強制的に⾮⽇常をもたらしているコロナ禍に対応する国内の構造改⾰という両軸を、どのように実現し、国⺠⼀⼈ひとり、世界の市⺠に多様な幸せ(well-being)をもたらすのか、そのための政策的創案を世界に⽰していくことである。

そのためには、⼯業社会(Society 3.0)から情報社会(Society 4.0)への移⾏において、⽣活スタイルや産業構造まで含めた社会構造が変化し、従来の延⻑線ではなかったという経験を踏まえ、Society 5.0 への移⾏においては社会の変⾰を断⾏しなければならないという強い意識を持って、第5期基本計画で掲げた Society 5.0 を具体化していくことが必要である。その際、SDGsと軌を⼀にしながらも、そこに「信頼」や「分かち合い」を重んじる我が国独特の価値観を重ね、我が国の信頼性の⾼い科学研究や技術⼒、更には極めて質の⾼い社会データの存在と結びつけ、20 世紀の負の遺産を超えた我が国の未来社会像として Society 5.0 を世界に⽰していかなければならない。

この未来社会像を具体化することによって、この価値観を共有できる国・地域・国際機関等(EU、G7、OECD等)との連携を強め、国際社会における我が国のプレゼンスを⾼めていくことを⽬指していく。

3.Society 5.0 という未来社会の実現

(1)我が国が⽬指す社会(Society 5.0)

Society 5.0 は、第 5 期基本計画等において「サイバー空間とフィジカル空間を⾼度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両⽴する⼈間中⼼の社会」として提唱されたものであり、第 6 期基本計画では、これを国内外の情勢変化を踏まえて具体化させていく必要がある。

このうち「経済発展」については、引き続き⽬指すべき⽬的の⼀つであることに変わりはないが、国境のないサイバー空間における経済活動が急激に拡⼤する中でGDPという指標の持つ意味合いが異なってきており、また、⼈々の価値観も富の追求に限定しない多様な幸せ、更に国や世界への貢献を重視するなど変わりつつある。このような情勢変化を踏まえると、経済発展の⼤前提となる国⺠の安全・安⼼の確保や持続可能で強靱な社会づくり、更には⼀⼈ひとりの多様な幸せを追求できる世の中にしていくことが、結果として「経済発展」につながるものと⾔える。

特に気候変動を⼀因とする甚⼤な気象災害やパンデミックの発⽣などの差し迫った脅威の克服や、今後とも発⽣するであろう⾮連続な変化に対する洞察とその準備は、我が国にとって喫緊の課題であり、また、ICTの浸透により、新たな価値として⼈々の⽣活をあらゆる⾯でより良い⽅向に変化させるDXの推進は、個々のニーズにかなったソリューションを提供する可能性を広げている。そして、これらの実現は、企業のビジネスモデルの変化、更には産業構造の改⾰につながり、ひいては我が国の国際競争⼒に資する。

このような背景を踏まえて、我が国が⽬指す社会を表現すると、「直⾯する脅威や先の⾒えない不確実な状況に対し、持続可能性と強靱性を備え、国⺠の安全と安⼼を確保するとともに、⼀⼈ひとりが多様な幸せ(wellbeing)を実現できる社会」とまとめられ、このような未来社会を実現することこそが第6期基本計画を策定する⽬的である。これは、SDGsとも軌を⼀にするものである。

① 国⺠の安全と安⼼を確保する持続可能で強靱な社会

我が国の社会や国⺠⽣活は、災害、未知の感染症、サイバーテロなど様々な脅威にさらされているとともに、我が国を取り巻く安全保障環境が⼀層厳しさを増しており、国⺠の⼤きな不安の根源の⼀つとなっている。また、これらの脅威に加え、⽶中による技術覇権争いの激化、国際的なサプライチェーンの⼨断リスクや技術流出のリスクが顕在化するなど、安定的かつ強靱な経済活動を確⽴することも求められており、我が国の技術的優越の維持・確保が鍵となる。

さらに、環境問題については、⼈間活動の増⼤が、地球環境へ⼤きな負荷をかけており、気候変動問題や海洋プラスチックごみ問題、⽣物多様性の損失などの様々な形で地球環境の危機をもたらしている。今を⽣きる現世代のニーズを満たしつつ、将来の世代が豊かに⽣きていける社会を実現するためには、⾷品ロス問題をはじめとする従来型の⼤量⽣産・⼤量消費・⼤量廃棄の経済・社会システムや⽇常⽣活を⾒直し、少⼦⾼齢化や経済・社会の変化に対応した社会保障制度等の国内における課題の解決に向け、環境、経済、社会を調和させながら変⾰させていくことが不可⽋となっている。

政府は、科学技術の発展を梃⼦にして、我が国の国際競争⼒の強化を図るとともに、これらの様々な脅威に対して常に適切に対応することができる持続可能で強靱な社会の構築や総合的な安全保障の実現を⽬指すことが求められており、国⺠の安全・安⼼を確保すべく様々な取組を充実・強化させる必要がある。その際、科学技術には多義性があり、ある⽬的のために研究開発した成果が他の⽬的に活⽤できることを踏まえ、適切に成果の活⽤を図っていくことが重要である。

② ⼀⼈ひとりの多様な幸せ(well-being)が実現できる社会

経済的「富」の拡⼤を豊かさの現れと考え、その代表的指標としてGDPの増⼤を⽬標としてきた我々の社会は、その結果としての経済優先による環境破壊、世界の富の偏在と社会的分断などの弊害を眼前にしている。Society 5.0 の世界で達成すべきものは、経済的な豊かさの拡⼤だけではなく、精神⾯も含めた質的な豊かさの実現である。そのためには、誰もが個々に⾃らの能⼒を伸ばすことのできる教育が提供されるとともに、その能⼒を⽣かして働く機会が多数存在し、さらには、より⾃分に合った⽣き⽅を選択するため、同時に複数の仕事を持つことや、仮に失敗したとしても社会に許容され、途中でキャリアを換えることも容易であるといった環境が求められる。しかも、そうした働き⽅によって、⽣活の糧が得られるとともに、家族と過ごせる時間や趣味や余暇を楽しめる時間が⼗分に確保されなければならない。

また、多くの国⺠が⼈⽣ 100 年時代に健やかで充実した⼈⽣を送るため、健康寿命の延伸だけでなく、いくつになっても社会と主体的に関われるような、いわば「社会参加寿命」の延伸に取り組むことが求められる。さらに、⼈々がコミュニティにおける⾃らの存在をいつも肯定的に捉えることができるような、社会において⼀つの組織を離れても⾃らの夢を持ち続け、⽣きがいを持って社会に参加し続けることができるような環境が求められている。それによって⾃らの能⼒を向上させ、活躍可能な場を切れ⽬なく⾒つけることができるようになることも不可⽋である。このような包摂性を持った社会の構築を⽬指す。

(2)Society 5.0 の実現に必要なもの

① サイバー空間とフィジカル空間の融合による持続可能で強靱な社会への変⾰

Society 4.0(情報社会)から Society 5.0 への移⾏は、既存の政策の延⻑線上の政策では不可能である。移⾏のためには、新たな未来社会像を前提にして、バックキャスト的アプローチにより、社会全体の再設計(リデザイン)を⾏うことが不可⽋である。

その際、鍵となるのが、Society 5.0 の前提となる「サイバー空間とフィジカル空間の融合」という⼿段と、「⼈間中⼼の社会」という価値観である。Society 5.0 では、サイバー空間において、社会のあらゆる要素をデジタルツインとして構築し、制度やビジネスデザイン、都市や地域の整備などの⾯で再構成した上で、フィジカル空間に反映し、社会を変⾰していくこととなる。その際、⾼度な解析が可能となるような形で質の⾼いデータを収集・蓄積し、数理モデルやデータ解析技術によりサイバー空間内で⾼度な解析を⾏うという⼀連の基盤(社会基盤)が求められる。

このような新しいプロセスに、⼈間中⼼という価値観を組み込むことにより、⼀⼈ひとりの国⺠、世界の市⺠を意思決定の舞台の中⼼⼈物として押し上げ、社会はより良い姿へと柔軟に機動的に変化していく。そして、国⺠⼀⼈ひとりに寄り添った利便性の⾼いサービスを提供するとともに、様々な社会課題を解決し、持続可能で強靱な社会を構築していく。さらには、新たな産業、新たな都市を開花させる道を開き、国際社会に対し、気候変動に代表されるグローバルな課題を克服する新たなモデルを提⽰することが可能となる。

② 新たな社会を設計し、価値創造の源泉となる「知」の創造

新たな社会を設計し、その社会で新たな価値創造を進めていくためには、多様な「知」が必要である。特にSociety 5.0 への移⾏において、新たな技術を社会で活⽤するにあたり⽣じるELSIに対応するためには、俯瞰的な視野で物事を捉える必要があり、⾃然科学のみならず、⼈⽂・社会科学も含めた「総合知」を活⽤できる仕組みの構築が求められている。

また、「知」は、⾮連続な変化に対応し、社会課題を解決するイノベーションの創出の源泉である。研究者の内在的な動機に基づき、新しい現象の発⾒や解明、新概念や価値観の提⽰を⾏うことで、フロンティアを切り拓いていく必要がある。基礎研究・学術研究をはじめとした多様な研究の蓄積があり、その積み重ねの結果として、時に独創的な成果が創出され、世界を変えるような新技術や新しい知⾒が⽣まれる。

③ 新たな社会を⽀える⼈材の育成

Society 5.0 時代には、⾃ら課題を発⾒し解決⼿法を模索する、探究的な活動を通じて⾝につく能⼒・資質が重要となる。世界に新たな価値を⽣み出す⼈材の輩出と、それを実現する教育・⼈材育成システムの実現が求められる。

急速に社会構造が変化する中、既存の枠組みや従来の延⻑では対応できない課題に取り組む能⼒が求められており、初等中等教育の段階から、好奇⼼に基づいた学びを実現し、課題に⽴ち向かう探究⼒を強化する必要がある。

また、⼈⽣ 100 年時代が到来しており、かつてない⻑さの⼈⽣において、⼈それぞれが興味・関⼼に応じた多様な幸せの形を追求するためには、社会⼈になっても多様な学び直しの機会があり、新しい時代に応じたライフスタイルを追求できる環境が必要である。

あわせて、社会としても「知」の循環を促進し、新たな価値の創造につなげ、⼈⽣のどの段階においても、個⼈の能⼒が最⼤限発揮されることや、複線型のキャリアパスが構築できること、新たなチャレンジができることが可能な環境を構築することが求められる。

加えて、あらゆる情報がオンラインで届けられ、コミュニケーションもSNSなど⾮対⾯かつ匿名で⾏われるようになると、触れる情報に偏りが⽣じ、従来のような対⾯を前提とする⼈と⼈のつながりが変化していく可能性がある。このような社会の変化に適切に対応する情報リテラシーが求められる。

また、直接本物に触れる経験が減少していく中、Aを含むSTEAM教育等を通して、直接本物に触れる経験を積み重ね、感性や感覚を磨いていくことが⼀層重要になる。

(3)Society 5.0 の国内外への発信・共有・連携

今後のポストコロナ時代の世界秩序模索の期間において、我が国が国際社会をリードするために、新たな社会モデルと価値、そして、それを実現するための戦略を⾔語化し、“Society 5.0”として国内外に具体的に問いかけていく。

国⺠に向けては、様々なメディアや共創の場等の活⽤により、多様なセクター間の対話と協働を促すなど、科学技術・イノベーションへの関⼼を不断に⾼めるための情報発信をはじめとする努⼒を継続し、市⺠参画による社会問題の解決やシチズンサイエンスを活性化させていく。そして、各国・地域・国際機関等(EU、G7、OECD等)に向けて、この社会像を共有・連携していく。⾔い換えれば、時代の⼤きな流れである「デジタル化、データ連携・活⽤」を核とした、社会全体の再構築に取り組む中で、歴史的、⽂化的に⽇本⼈の中に内包されている、伝統的な価値観や他者への思いやりと共感の⾏動様式、さらには、信頼に基づいた共創といった要素を盛り込んだ未来像として、世界に提⽰すべきである。そして、この新たな社会モデルを⽤いて、価値観を共有する国々と連携し、安全・安⼼の確保と⼀⼈ひとりの多様な幸せ(well-being)の最⼤化につながる未来像を描いていく。

GDP世界3位の経済規模を持った我が国が、パラダイムシフトともいえる転換期に、世界に先駆けて新たな未来社会を実現することで、世界の注⽬を喚起し、世界の優秀な⼈材と未来への投資の関⼼を呼び起こし、世界の「共創の場」としての⽴ち位置を確⽴していくことを⽬指す。そのような⽴ち位置を確⽴した暁には、我が国は、国際社会で名誉ある地位を占めることになろう。

2025 年には⼤阪・関⻄万博が開かれる。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとする万博は、まさに、Society 5.0 のショーケースにふさわしい。機を逸することなく、未来社会の具体像を提⽰していかなければならない。

第2章 Society 5.0 の実現に向けた科学技術・イノベーション政策

第1章では、我が国が⽬指す未来社会(Society 5.0)として、国⺠の安全と安⼼を確保する持続可能で強靱な社会、⼀⼈ひとりの多様な幸せ(well-being)が実現できる社会を提⽰し、また、Society 5.0 の実現に必要なものとして、社会の再設計とサイバー空間での社会基盤の構築、「知」の創造、⼈材の育成を取り上げた。本章では、これらのポイントを、改正「科学技術・イノベーション基本法」の考え⽅に則り、イノベーションの創出(社会変⾰)の結果としての社会像、知のフロンティアを開拓する研究⼒、科学技術・イノベーションの創出を⽀える⼈材育成の3つの節に分け、2030 年を⾒据えて、今後 5 年間に、政府が⾏うべき施策について整理する。

なお、具体的な取組については、誰がいつまでに何を⾏うのかを明確にし、関係者と予⾒性を共有することにより、CSTIによる司令塔機能の下、科学技術・イノベーション推進事務局による横断的な調整によって、関係司令塔会議や関係府省庁が連携し、関係者とともに⽬標を達成していくことを⽬指す。

第1章を踏まえ、3つの節の⼤⽬標を以下のとおりとする。

  • 我が国の社会を再設計し、地球規模課題の解決を世界に先駆けて達成し、国⺠の安全・安⼼を確保することで、国⺠⼀⼈ひとりが多様な幸せを得られるようにする
  • 多様性や卓越性を持った「知」を創出し続ける、世界最⾼⽔準の研究⼒を取り戻す
  • ⽇本全体を Society 5.0 へと転換するため、多様な幸せを追求し、課題に⽴ち向かう⼈材を育成する

これら科学技術・イノベーション政策を遂⾏するにあたっては、国際的な協調と競争の視点を常に強く意識しなければならない。例えば、多様な⼈材が協働、競争する中でイノベーションは創出されるため、国際頭脳循環の強化は、活⼒ある研究開発のための必須条件である。我が国として、グローバルに「知」の交流促進を図り、研究⼒、イノベーション⼒の強化を進めなければならない。他⽅で、テクノロジーを巡る国家間での覇権争いや国際的な技術流出の懸念も顕在化している。こうした中、⼤学等の研究組織や所属する研究者には、リスクを認識した研究マネジメントを⾏うことが必要となる。特に、研究者が研究の健全性・公正性(研究インテグリティ)の意義を理解し社会に対する責任を果たすと同時に、主体的かつ積極的に科学技術・イノベーションに係る国際活動に参画できるよう、政府として⼀定の⽅向性を⽰すことが求められている。

その上で、我が国の強みを⽣かしつつ、グローバルな課題の解決への貢献や国際発信の強化と、総合的な安全保障の観点を考慮し、新たな科学技術外交を展開していく。

1.国⺠の安全と安⼼を確保する持続可能で強靱な社会への変⾰

我が国の社会を再設計し、地球規模課題の解決を世界に先駆けて達成し、国⺠の安全・安⼼を確保することで、国⺠⼀⼈ひとりが多様な幸せを得られる社会への変⾰を⽬指す。

このため、まずは、(1)サイバー空間とフィジカル空間とがダイナミックな好循環を⽣み出す社会へと変⾰させ、いつでも、どこでも、誰でも、安⼼してデータやAIを活⽤できるようにする。そしてデータやAIを最⼤限活⽤し、グローバルな課題への貢献と国内システムの改⾰に取り組まなければならない。

具体的には、(2)地球規模課題へ対応し、我が国の温室効果ガス排出量を 2050 年までに実質ゼロとし、世界のカーボンニュートラルを牽引するとともに、循環経済への移⾏を進めることで持続可能な社会を構築する。また、(3)⾃然災害や新型コロナウイルス感染症など、顕在化する経済社会や国⺠の⽇常⽣活のリスクを低減するとともに、国⼒の源泉である重要な情報を守り切ることで、強靱な社会を構築する。

また、(4)社会のニーズを原動⼒として課題の解決に挑むスタートアップを次々と⽣み出し、企業、⼤学、公的研究機関等の多様な主体が連携して価値を共創する新たな産業基盤を構築する。そして、(5)地域が抱える課題の解決を図り、Society 5.0 を先⾏的に実現する多様で持続可能な都市・地域(スマートシティ)を全国へ、そして世界へ展開する。

さらに、(6)上記の取組を⽀えるとともに、様々な社会課題に対応するため、「総合知」を活⽤し、ミッションオリエンテッド型研究開発や社会実装を戦略的に推進し、イノベーションを創出する。加えて、社会変⾰を⽀えるための科学技術外交を展開し、戦略的に国際ネットワークを構築していく。

本節では、上述の (1) から (6) の各項について整理する。また、それぞれにおいて、これらの取組を⽀える社会をデザインする⼈材などのイノベーション⼈材の育成を官⺠が連携して進める。さらに、国内の改⾰とともに、グローバル課題への貢献にも積極的に取り組む。

【⼤⽬標】
  • 我が国の社会を再設計し、地球規模課題の解決を世界に先駆けて達成し、国⺠の安全・安⼼を確保することで、国⺠⼀⼈ひとりが多様な幸せを得られるようにする
【参考指標】
  • The Sustainable Development Goals Report
  • より良い暮らし指標(Better Life Index)
  • 健康寿命
  • GDP
  • 国際競争⼒

(1)サイバー空間とフィジカル空間の融合による新たな価値の創出

(a) 現状認識

第5期基本計画において、我が国が⽬指すべき未来社会の姿として世界に先駆けて提唱された Society 5.0は、「サイバー空間とフィジカル空間を⾼度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両⽴する⼈間中⼼の社会」と定義され、第5期基本計画期間中には官⺠を挙げてその実現に向けて取り組んできた。例えば、DFFT(Data Free Flow with Trust)の提唱や、AIの適切な社会実装を推進するための「⼈間中⼼のAI社会原則」の策定、「G20 AI原則」の取りまとめなどを通じて、国際的な議論をリードしてきた。

しかしながら、新型コロナウイルス感染症対応において、⾏政、教育、医療などあらゆる分野でデジタル化の恩恵を⼗分に受けることができなかった。マイナンバーシステムをはじめとする⾏政システムが国⺠にとって⼗分に利便性のあるものとなっていなかったこと、国や地⽅公共団体の業務プロセスの改⾰、国⺠の個⼈データ利⽤に対する信頼や産業界の協調領域の拡⼤が⼗分でなかったことなどに起因すると考えられる。

新たな価値を創出するようなデータ連携の仕組み、データ流通を担うプレーヤーが活躍するための環境整備や、我が国のデータ活⽤の基盤(デジタルデータの整備、政府・地⽅公共団体間連携、標準化、取扱いルール等)の更なる整備について、スピード感や危機感を持って取組を進めることが求められる。

通信インフラについては、今後ますますネットワーク上を流通するデータ量が爆発的に増えていく中で、省電⼒性、信頼性、リアルタイム性等の課題が数多く指摘されており、抜本的な対応が必要である。

さらに、⽣産性や利便性の向上に向けた業務の⾒直しとデジタル化を強⼒に推進するとともに、国⺠が漠然と有しているパーソナルデータの活⽤に対する不安の解消や、産業界における協調領域の拡⼤など、ステークホルダー間での信頼の醸成が、データ連携の推進の鍵となってきている。

⼀⽅、世界各国でも、デジタル社会においてデータが国の豊かさや国際競争⼒の基盤であると捉え、デジタル化の進展やイノベーションの推進によるデータ量の拡⼤、AI能⼒の向上を⽬指し、例えば欧⽶では、包括的かつ具体的なデータに関する戦略をここ1〜2年の間に公表し、これらに沿った施策を強⼒に推進している。また、⼀部の国では、デジタルツインを国家規模で構築し、利便性の⾼いサービスの提供を本格化させる事例が⽣まれている。このような状況を受け、各国・地域では、データの取扱いに関する基本原則を策定するなどの動きや、デジタル社会の在り⽅に関する国際場裡での議論が始まりつつある。

このような状況に対し、我が国では、SIPを中核として、農業や交通インフラ等の分野ごとのデータ連携基盤やそれらが相互接続するための分野間データ連携基盤の整備、スマートシティの基本的な設計指針となる「スマートシティリファレンスアーキテクチャ」を策定するなど、官⺠が連携し、取り組んできた。また、制度や政策、組織の在り⽅の改⾰とあわせ、社会のデジタル化を強⼒に進めるため、施策の策定に係る⽅針等を定める⾼度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)の全⾯的な⾒直しを⾏うとともに、新たな司令塔としてデジタル庁を設置することとし、「デジタル社会の実現に向けた改⾰の基本⽅針」、「デジタル・ガバメント実⾏計画」や「データ戦略第⼀次とりまとめ」を策定するなど、我が国が世界有数のデータ活⽤先進国となる端緒を開いたところである。

【現状データ】(参考指標)
  • ⾏政サービス関連データのオープン化状況(オープンデータ種類):27,635 件
  • DXに取り組む企業の割合:ユーザー企業 41.5%、IT企業 33.8%(2020 年)
  • ICT市場規模:99.1 兆円(2018 年)
  • IMDデジタル競争⼒ランキング:27 位/63 カ国中(2020 年)
  • 分野間データ連携基盤で検索可能なカタログセット数:52,797(うち、⺠ 5,535)
  • 上記カタログセットを提供するサイト数:35 サイト(うち、⺠ 1)
  • 研究データ基盤システムに収載された公的資⾦による研究データの公開メタデータ(機関、プログラムごとなど)
  • 通信網の整備状況:5G基盤展開率(2020 年3⽉末時点指標なし)、光ファイバ未整備世帯数 53 万世帯(2020 年3⽉末時点)
  • Society 5.0 の認知度、サービスへの期待・不安:認知度 12.9%(2019 年)
  • 数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度の認定教育プログラム数
  • 情報通信分野の研究開発費:23,624 億円(2019 年度)
(b) あるべき姿とその実現に向けた⽅向性

Society 5.0 の実現に向け、サイバー空間とフィジカル空間を融合し、新たな価値を創出することが可能となるよう、質の⾼い多種多様なデータによるデジタルツインをサイバー空間に構築し、それを基にAIを積極的に⽤いながらフィジカル空間を変化させ、その結果をサイバー空間へ再現するという、常に変化し続けるダイナミックな好循環を⽣み出す社会へと変⾰することを⽬指す。

このため、デジタル社会を実現する司令塔と国家戦略の下、必要な規制の⾒直しを図りつつ、この新たな社会システム基盤を構築、徹底的に活⽤し、グローバルな課題と国内のシステム改⾰に挑むことで、国⺠の安全と安⼼を確保する持続可能で強靱な社会を実現する。また、戦略からインフラや⼈材に⾄る全体的なアーキテクチャに基づく合理的なサイバー空間の構築と、その活⽤を前提としたフィジカル空間における業務改⾰や産業構造の不断の変⾰が必要である。

このような社会を⽀えるのは、⼈材と社会インフラである。「数理・データサイエンス・AI」に関する素養を備え、社会のあらゆる分野で活躍する⼈材を⼤量に育成する。また、全国津々浦々まで次世代のインフラが整備された環境において、データやAIを活⽤する技術を実装する。これらを通じて、いつでも、どこでも、誰でも、データやAIを活⽤し、これまで実現できなかったようなサービスを次々と創出できる基盤を構築する。

また、⾏政機関が「データホルダー・プラットフォーム」としての役割を担い、ベース・レジストリ(公的機関等で登録・公開され、様々な場⾯で参照される、⼈、法⼈、⼟地、建物、資格等の社会の基本データ)の整
備や、⾏政サービスに関連したデータの標準化と⺠間への開放を進めるとともに、教育、医療、防災等の分野に関しては、国が整備する安全・安⼼で信頼できるデータプラットフォームを官・⺠が⼀体となって活⽤することで、あらゆるモノやサービスに関する多種多様なデータを基にしたデジタルツインをサイバー空間に構築する。

さらに、信頼性のあるデータ流通環境の整備、セキュリティやプライバシーの確保、公正なルール等の整備を図ることで、企業によるデータの相互提供・活⽤、様々な分野で開発・提供される国⺠の利便性と安全な暮らしを⽀える利便性の⾼いサービスを活性化するとともに、データやAIの社会実装に伴う負の⾯や倫理的課題等にも対応し、多様な⼈々の社会参画が促され、国内外の社会の発展が加速する。

こうした変化に呼応し、あらゆる分野のあらゆる業務でデータ活⽤を前提とした業務変⾰・デジタル化の徹底が進み、産業構造の変⾰と国際産業競争⼒が向上し、データ活⽤に関する国⺠の社会受容、企業の協調意識が⾼まり、国境を越えてデータの活⽤がより⼀層進むといった好循環が⽣まれる。

このような社会を実現することで、持続可能で安全・安⼼な社会の構築や、様々な社会課題の解決に向けた取組を⽀援するとともに、世界に先駆けて Society 5.0 を実現する我が国の姿を世界へ発信する。

【⽬標】
  • 「データ戦略」を完遂し、サイバー空間とフィジカル空間とがダイナミックな好循環を⽣み出す社会へと変⾰させ、いつでも、どこでも、誰でも、安⼼してデータやAIを活⽤して新たな価値を創出できるようになる。
【科学技術・イノベーション政策において⽬指す主要な数値⽬標】(主要指標)
  • スタートアップや研究者を含めた誰もが、分野間でデータを連携・接続できる環境を整備
    防災分野:全都道府県でSIP4Dを活⽤した災害対応が可能
    スマートシティ:100 程度の地⽅公共団体・地域(スタートアップ・エコシステム拠点都市を含む)
(c) 具体的な取組
① サイバー空間を構築するための戦略、組織
  • 「デジタル社会の実現に向けた改⾰の基本⽅針」の下、デジタル社会の形成に関する司令塔として、強⼒な総合調整機能(勧告権等)を有するとともに、企画⽴案や、国、地⽅公共団体、準公共部⾨等の情報システムの統括・監理を⾏い、重要なシステムについては⾃ら整備するデジタル庁を、2021 年中に発⾜させる。 【IT】
  • デジタル社会の形成を促進する観点からの規制の⾒直しを図る。 【IT、規制、関係府省】
  • データに関する⾏政機関や⺠間などの各プレーヤーの⾏動理念を明確化するとともに、サイバー空間を構築し、データを活⽤した新たなビジネスや⾏政サービスを創出するためのデータ戦略について、2020 年末の「第 1 次とりまとめ」の策定をはじめとして、2021 年度から関係府省の取組進捗状況を確認し、不断の⾒直し、具体化を⾏う。 【IT、科技】
② データプラットフォームの整備と利便性の⾼いデータ活⽤サービスの提供
  • データ活⽤サービスの根幹となるベース・レジストリ(個⼈、法⼈、住所、⼟地、事業所等)について、そのデータホルダーの関係府省とIT本部が連携し、2021 年 6 ⽉までに整備等の⽅向性の検討を⾏い、2021 年度内に⼀部先⾏プロジェクトについて運⽤を開始するとともに、データ標準の整備を順次実施する。 【IT、関係府省】
  • 地⽅においても都市においても、国⺠⼀⼈ひとりが同じレベルの細やかな⾏政サービスを享受し、また、オンラインで⼿続を⾏うことを可能とする。このため、政府情報システムについて、標準化や統⼀化により相互の連携を確保しながら統合・⼀体化を促進し、⺠間システムとの連携を容易にしつつ、ユーザー視点での⾏政サービスの改⾰と業務システムの改⾰を⼀体的に進めることで、国⺠・事業者の更なる利便性向上と運⽤経費等削減(2025 年度までに 3 割削減(対 2020 年度))を図る。また、地⽅公共団体の 17 業務に係る情報システムを対象に、標準化・共通化を進め、2025 年度までに基準(標準仕様)に適合した情報システムへの移⾏を⽬指す。標準化・クラウド化の効果を踏まえ、地⽅公共団体の情報システムの運⽤経費等については、標準準拠システムへの移⾏完了予定後の 2026 年度までに 2018 年度⽐で少なくとも 3 割の削減を⽬指すこととする。 【IT、総】
  • 教育、医療、防災等の分野において、官⺠が⼀体となって活⽤でき、⺠間サービス創出の促進に資するデータプラットフォームを、データ戦略のタイムラインに従い、2025 年までに構築し、運⽤を開始するとともに、その際、データプラットフォームの整備及び利活⽤状況について測定可能な指標が策定・運⽤されている状態となることを⽬指す。 【IT、科技、防災、⽂、厚、国、関係府省】
  • ⺠間サービスについて、協調領域におけるデータ共有プラットフォームを早期に構築するため、2021 年度までにモデルケース創出に取り組むとともに、⽇本の産業競争⼒の強化及び安全・安⼼なデータ流通を実現するため、異なる事業・分野間で個別に整備されたシステムやデータをつなぐための標準を含むアーキテクチャについて、2022 年度までにIPAにおいて整備・検討し、複数の分野での結論を得る。【経】
  • 分野を越えたデータ流通・利活⽤に関する課題や、関係機関が抱える共通的な課題に対し、技術⾯、制度⾯、⼈材⾯から産学官の英知を結集して解決に取り組み、持続可能な「データ・エコシステム」を構築するため、DSAを中核とした、分野間データ連携の仕組みを 2023 年中に構築し、内閣府が実施する研究開発課題(SIP等)で構築する分野ごとのデータ基盤、スマートシティ及びスーパーシティのデータ連携基盤並びに研究データ基盤システムの相互接続を進め、DSAやスマートシティ官⺠連携プラットフォームを通じて周知啓発などに取り組む。さらに、⾏政機関の「データホルダー・プラットフォーム」としての役割の拡⼤やデータの国際的流通の増⼤、データやAIを使⽤したサービスの進展等に合わせ、より⾼度なデータ利活⽤を実現する⽅策について検討する。【IT、科技、防災、警、⾦融、総、⽂、厚、農、経、国、環】
③ データガバナンスルールなどの信頼性のあるデータ流通環境の構築
  • データ流通を促進するための環境整備(情報銀⾏、データ取引市場等)の現状・課題やそのルール等について、2021 年度内に検討を⾏い、結論を得る。 【IT、知財、科技、個⼈、総、経】
  • ⺠間保有データの活⽤推進のため、データを提供する側の国⺠や企業の不安解消、データを提供する先の組織・団体の信頼性向上等、⺠間保有データの取扱ルールの在り⽅を 2021 年度内に検討する。【IT、知財、個⼈、関係府省】
  • データ社会全体を⽀える本⼈認証やデータの真正性確保など、各種トラストサービスの検討について、2021 年度中に解決の⽅向性を⽰し、2025 年度までに可能なものから順次、整備していく。【IT、総、経】
④ デジタル社会に対応した次世代インフラやデータ・AI利活⽤技術の整備・研究開発
  • 国⼟全体に網の⽬のように張り巡らされた、省電⼒、⾼信頼、低遅延などの⾯でデータやAIの活⽤に適した次世代社会インフラを実現する。このため、5G/光ファイバの整備を進め、5Gについては、2023年度末には 98%の地域をカバーし、光ファイバについては、2021 年度末には未整備世帯数が約 17 万世帯に減少すると⾒込まれる。さらに、宇宙システム(測位・通信・観測等)、地理空間(G空間)情報、SINET、HPC(High-Performance Computing)を含む次世代コンピューティング技術のソフト・ハード⾯での開発・整備、量⼦技術、半導体、ポスト5Gや Beyond 5Gの研究開発に取り組む。【地理空間、宇宙、総、⽂、経】
  • ポスト5Gシステムや当該システムで⽤いられる半導体の開発とともに、Beyond 5G の実現に向け、2025年頃から順次要素技術を確⽴するため、研究開発基⾦の活⽤などにより、官⺠の英知を結集した研究開発を促進する。 【総、経】
  • 次世代インフラやデータ、AIを徹底的に活⽤し、⼀⼈ひとりに寄り添ったサービスを提供するため、「AI戦略 2019」に定める中核基盤研究開発に取り組む。 【科技、総、⽂、経】
⑤ デジタル社会を担う⼈材育成
  • デジタル社会を担う⼈材が輩出・採⽤され、社会で活躍できるよう、産学官が連携し、デジタル社会の基盤となるような知識・能⼒を教育する体制を更に充実させるため、2021 年度より、⼤学と政府や産業界等との対話を加速し、統計学の専⾨教員の早期育成体制整備、数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度の普及⽅策や、インターンシップ、PBL等も活⽤した学修成果を重視する教育の推進を通じて、雇⽤・採⽤の在り⽅と⾼等教育が提供する学びのマッチングについて、共通認識を醸成する。【IT、内閣⼈事局、⼈、⽂、経】
⑥ デジタル社会の在り⽅に関する国際社会への貢献
  • データ流通に関するグローバルな枠組みを構築するため、データ品質、プライバシー、セキュリティ、インフラ等の相互信頼やルール、標準等、国際的なデータ流通を促進する上での課題について、2021 年度までに⽅向性を⽰し、解決に向けた⽅策を実⾏する。 【内閣官房、IT、知財、個⼈、総、外、経】
  • デジタル社会の在り⽅等に関する国際的な対話を促進するため、上記の取組を通じて得られたグッドプラクティス等の成果をOECD等の国際場裡に提供するとともに、2023 年に⽇本が開催国を務めるG7やIGF等における成果に反映することを通じて、国際的な議論を牽引する。【IT、科技、総、外、経】
  • 2025 年に開催される⼤阪・関⻄万博において、「2025 年に開催される国際博覧会(⼤阪・関⻄万博)の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本⽅針」を踏まえ、データやAIを活⽤して Society5.0 を体現する。これにより、広く国内外に我が国の実装⼒をアピールし、海外からの投資を呼び込む。【万博、科技、総、経】
⑦ 新たな政策的課題
  • 〇デジタル化を巡る社会状況の変化が激しい中、国境を越えたデータ活⽤促進⽅策、官⺠におけるデジタルツイン構築の促進⽅策、世界の⾼度⼈材を⽇本へ引き付ける⽅策や社会受容を政策へ反映する⽅策などについて、エビデンスを⽤いながら常に状況に応じて計画を⾒直すため、2023 年度までを⽬途に、政策の評価、⾒直しを⾏い、新たに講ずべき政策を検討する。 【IT、科技】

(2)地球規模課題の克服に向けた社会変⾰と⾮連続なイノベーションの推進

(a) 現状認識

急激な気候変動に伴う気象災害や、それによる⼈的・経済的損失の拡⼤、⽣物多様性の劣化、海洋プラスチックごみ問題など、地球規模での社会的な課題が深刻化している。中でも、気候変動問題への対応は喫緊の課題であり、その解決に向けて、2020 年から本格的に運⽤されているパリ協定を着実に実施し、同協定の⽬指す今世紀後半の世界の脱炭素社会の実現に向けた取組を進めていくことが不可⽋となっている。

こうした中、EUをはじめ、⽶国、中国等世界各国で、カーボンニュートラルの宣⾔と、実現のための技術開発、社会実装等への積極的な投資が展開・計画されている。そして、この流れは、EUの「グリーンリカバリー」等に⾒られるように、カーボンニュートラルへの取組がコロナ禍からの経済復興の柱に位置付けられることで、更に加速している。

我が国でも、2020 年 10 ⽉の第 203 回国会での総理所信表明の中で、気候変動問題への対応が国家としての最重要課題の⼀つとして位置付けられ、2050 年までにカーボンニュートラルの実現を⽬指すこととしている。温室効果ガスの排出を前提とする経済活動が基盤となっている現状の社会構造とは抜本的に異なるカーボンニュートラルな社会像を⽬指すには、社会変⾰と⾮連続なイノベーションが不可⽋である。このための⾰新的な技術開発に対する継続的な⽀援を⾏う 2 兆円規模の基⾦を創設することとされた。また、2050 年までにCO2排出量実質ゼロを⽬指す地⽅公共団体である「ゼロカーボンシティ」も全国で 300 を超えるまで増加しており、各地域での取組も進んできている。

⼀⽅、世界的な⼈⼝増加や経済発展に伴う中⻑期的な資源制約や廃棄物排出量の増⼤への対応も世界的な課題となっており、循環経済(サーキュラーエコノミー)を⽬指す取組が各国で進められている。我が国においても、「第四次循環型社会形成推進基本計画」に基づき、ライフサイクル全体での徹底的な資源循環や地域循環共⽣圏の形成等に係る取組を積極的に推進している。

なお、近年、急速に関⼼が⾼まった海洋プラスチックごみ問題については、2019 年 6 ⽉の G20 ⼤阪サミットにおいて、新興国・途上国を含めた取組の第⼀歩として、2050 年までに追加的な汚染をゼロにすることを⽬指す「⼤阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が⾸脳間で共有されたところである。

【現状データ】(参考指標)
  • ⾰新的環境イノベーション戦略(イノベーション・アクションプラン、アクセラレーションプラン、ゼロエミッション・イニシアティブズ)の進捗状況
  • ゼロカーボンシティ数:325 地⽅公共団体(2021 年3⽉ 17 ⽇)
  • 環境分野の研究開発費:12,894 億円(2019 年度)
  • エネルギー分野の研究開発費:11,654 億円(2019 年度)
  • RE100 加盟企業数(⽇本):50 社 (2021 年2⽉1⽇)
  • 温室効果ガス排出量:12 億 1300 万トン(2019 年度(速報値))
  • ⽇本における平均気温上昇度:1.24℃(1898 年から 2019 年の間)
  • 資源⽣産性:約 39.3 万円/トン(2017 年度)
  • 循環型社会ビジネスの市場規模:約 40 兆円(2000 年度)
(b) あるべき姿とその実現に向けた⽅向性

2050 年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、2050 年カーボンニュートラルを実現する。また、健全で効率的な廃棄物処理及び資源の⾼度な循環利⽤による循環経済を実現する。これらの実現に向けた対応が、グリーン産業の発展を通じた経済成⻑へとつながることで、世界をリードし、経済と環境の好循環が⽣み出されるような社会を⽬指す。

そのためには、国⺠のライフスタイル、産業構造や経済社会全般の変⾰及び社会的な課題の解決を⽬指すための「脱炭素社会」、「循環経済」、「分散型社会」への三つの移⾏による経済社会の再設計(リデザイン)とともに、⾮連続なイノベーションが不可⽋であり、⾼い⽬標とビジョンを掲げ、それに向かって産学官が⼀体となって、まずは 2030 年に向けて総⼒を挙げて幅広く取り組むことが必要である。

こうした観点から、カーボンニュートラルの実現に向けては、グリーンイノベーション戦略推進会議などの議論をもとに、省エネルギーの徹底、電化の促進と電⼒の脱炭素化(再⽣可能エネルギーの最⼤限の導⼊に向けた技術の加速度的普及、安全最優先での原⼦⼒利⽤)を進めるとともに、次世代型太陽電池、CCUS/カーボンリサイクル、⽔素等の⾰新的イノベーションを強⼒に推進する。その際、技術導⼊、社会実装を促すべく、国⺠のライフスタイルの脱炭素化の促進、ゼロカーボンシティの実現・拡⼤と国⺠理解の醸成を図るとともに、必要な制度・基準などの仕組みも検討する。

加えて、こうした我が国の取組について、積極的な国際発信を⾏い、⽇本のプレゼンス向上を図ることで、世界各国の研究機関の英知を結集し、国際共同研究の推進、サプライチェーン等の構築を⽬指すとともに、エネルギー・環境関連事業への投資の国内への取り込みや企業活動の積極的な⾒える化を促進する。

また、循環経済の実現に向けて、廃棄物の処理・適正管理に加え、代替素材の開発などのイノベーションを促進していくべく、製品の⻑寿命化や資源の⻑期的保全・維持、廃棄物の発⽣の最⼩化などを進める。また、各地域が⾃然資源や⽣態系サービス等の地域資源を⽣かして⾃⽴・分散型の社会を形成し、地域の特性に応じて補完し、⽀え合う「地域循環共⽣圏」を創造しつつ、持続可能な地域づくりや国⺠のライフスタイルの転換を促進する。

【⽬標】
  • 地球規模課題が深刻化する中で、我が国の温室効果ガス排出量を 2050 年までに実質ゼロとし、世界のカーボンニュートラルを牽引するとともに、循環経済への移⾏を進めることで、気候変動をはじめとする環境問題の克服に貢献し、SDGsを踏まえた持続可能性が確保される。
【科学技術・イノベーション政策において⽬指す主要な数値⽬標】(主要指標)
  • 我が国の温室効果ガス排出量:実質ゼロ(2050 年)
  • 資源⽣産性:約 49 万円/トン(2025 年度)
  • 循環型社会ビジネスの市場規模: 2000 年度の約 2 倍(2025 年度)
(c) 具体的な取組
① ⾰新的環境イノベーション技術の研究開発・低コスト化の促進
  • 「⾰新的環境イノベーション戦略」について、グローバルな状況を踏まえ、イノベーション・ダッシュボード、アクセラレーションプラン、東京ビヨンド・ゼロ・ウィークを適時適切に⾒直し、産学官が⼀体となって着実に推進する。また、カーボンニュートラルを⽬指す上で不可⽋な分野について、①年限を明確化した⽬標、②研究開発・実証、③規制改⾰や標準化などの制度整備、④国際連携などを盛り込んだ「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成⻑戦略」を踏まえて、⾰新的な技術開発に対する継続的な⽀援を⾏う基⾦事業等を活⽤し、⾰新的技術の社会実装を推進する。 【科技、総、⽂、農、経、国、環】
  • 都市間・分野間のデータの相互接続性やシステムの拡張性が保たれるよう「スマートシティリファレンスアーキテクチャ」を参照しつつ各地域における都市OS(データ連携基盤)の実装を加速化する。また、ゼロカーボンシティを表明した地⽅公共団体等において、多種多様なビッグデータを⽤いた気候変動対策が⾏われるよう、ゼロカーボンシティの取組の進展に資する⽀援を 2021 年度から開始する。【科技、総、⽂、農、経、国、環】
  • ムーンショット型研究開発制度の 2050 年⽬標(「地球環境再⽣に向けた持続可能な資源循環を実現」及び「未利⽤の⽣物機能等のフル活⽤により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な⾷料供給産業を創出」)の達成に向け、必要な研究開発を加速するとともに、社会実装に向けた道筋を明確化する。【科技、農、経】
  • 国際社会と協働しつつ、産総研ゼロエミッション国際共同研究センター、次世代エネルギー基盤研究拠点、
    東京湾岸イノベーションエリア等の「⾰新的グローバル研究拠点」の機能を強化し、国内外の⼈材や知の
    交流を活性化する。 【⽂、経】
  • 2050 年カーボンニュートラルの実現や、国際的なルールメイキングへの積極的関与も含めた「みどりの⾷料システム戦略」を 2021 年5⽉までに策定する。同戦略において、新たな農林⽔産政策の展開を検討し、2050 年に⽬指す姿を⽰した上で、⾷料・農林⽔産業の⽣産⼒向上と持続性の両⽴をイノベーションで実現する。 【農、関係府省】
  • 循環経済への移⾏に向けて、環境配慮型の設計推進、使⽤済製品の選別効率化等の⾼度リサイクル基盤技術開発、海洋⽣分解性プラスチック等環境負荷の低い⾰新素材の研究開発やイノベーション推進のための投資等を推進する。 【⽂、経、環】
  • 気候変動は⽣物多様性劣化の要因である⼀⽅、⽣物多様性の基盤となる森林⽣態系等はCO2吸収源となるなど、相互に緊密に関係・関連していることから、⽣物多様性保全と気候変動対策のシナジーによるカーボンニュートラルの実現に向けての研究開発を⾏い、吸収源や気候変動への適応における⽣態系機能の活⽤等を図る。 【農、国、環】
  • 〇社会インフラ設備の省エネ化・ゼロエミッション化に向けた取組や建設現場における省エネ化に向けた⾰新的な技術開発を推進するとともに、⾃然環境が有する多様な機能を活⽤し、CO2吸収源対策にも資する「グリーンインフラ」の社会実装を推進する。 【国、環】
  • ⾼精度な気候変動予測情報の創出や、気候変動課題の解決に貢献するため温室効果ガス等の観測データや予測情報などの地球環境ビッグデータの蓄積・利活⽤を推進する。 【⽂、環】
② 多様なエネルギー源の活⽤等のための研究開発・実証等の推進
  • 現在⾒直しに向けた議論が進められている「エネルギー基本計画」等を踏まえ、省エネルギー、再⽣可能エネルギー、原⼦⼒、核融合等に関する必要な研究開発や実証、国際協⼒を進める。 【⽂、経】
③ 経済社会の再設計(リデザイン)の推進
  • 産業創造や経済社会の変⾰、社会的な課題の解決を⽬指して、「脱炭素社会」、「循環経済」、「分散型社会」への三つの移⾏による経済社会の再設計(リデザイン)に向けた具体的な取組を進める。その際、グローバルな視点とともに社会実装を意識した「地域」の視点も重要であることから、地域の脱炭素化に向けた取組を⽀える分野横断的な研究開発を推進するとともに、三つの移⾏を統合的に具現化する「地域循環共⽣圏(ローカルSDGs)」の創造を⽬指す。 【⽂、経、環】
  • 2021 年 11 ⽉のCOP26に向け、⾒直しの議論が進められている「地球温暖化対策計画」を踏まえ、技術開発の⼀層の加速化や社会実装、ライフスタイル・ワークスタイルの変⾰等の地球温暖化対策を⼤胆に実⾏する。 【経、環】
  • ライフスタイルを脱炭素化するための技術の普及を促すため、「国・地⽅脱炭素実現会議」等における議論を踏まえつつ、住まい・移動のトータルマネジメント(ZEH・ZEB、需要側の機器(家電、給湯等)、地域の再⽣可能エネルギー、動く蓄電池となるEV・FCV等の組み合わせを実⽤化)、ナッジやシェアリングを通じた⾏動変容、デジタル技術を⽤いたCO2削減のクレジット化等を促す技術開発・実証、導⼊⽀援、制度構築等に取り組むことで、ライフスタイルの転換を促し、脱炭素のプロシューマーを拡⼤する。 【環、関係府省】
  • 廃棄物の排出削減やリサイクル処理に係るプロセスの⾼度化・効率化、製品のバイオマス化等を通じた資源循環を⾏うとともに、焼却せざるを得ない廃棄物のエネルギー回収、処理によって発⽣した温室効果ガスの分離・貯留・有効利⽤を⽬指すことにより、「循環経済」への移⾏を加速化する。 【経、環】
  • 「分散型社会」を構成する⽣物多様性への対応については、絶滅危惧種の保護や侵略的外来種の防除に関する技術、⼆次的⾃然を含む⽣態系のモニタリングや維持・回復技術、遺伝資源を含む⽣態系サービスと⾃然資本の経済・社会的価値の評価技術及び持続可能な管理・利⽤技術等の研究開発を推進し、「⾃然との共⽣」を実現する。 【環】
④ 国⺠の⾏動変容の喚起
  • ⼈⽂・社会科学と⾃然科学の融合による「総合知」を活⽤して、カーボンニュートラルの実現に向けた国⺠⼀⼈ひとりの取組の重要性に係る国⺠理解の醸成や脱炭素型への⾏動変容の促進を図る。とりわけ、BI-Tech(⾏動科学の知⾒と先端技術の融合)を活⽤した製品・サービス・ライフスタイルのマーケット拡⼤を 2022 年度末までに⽬指すとともに、個⼈のCO2 削減のクレジットを低コストで⾃由に取引できるブロックチェーン技術を⽤いたプラットフォームの構築を図る。あわせて、こうした我が国の取組等について国内外への発信を精⼒的に実施する。 【科技、経、環】

(3)レジリエントで安全・安⼼な社会の構築

(a) 現状認識

近年の⾃然環境や経済・社会活動を巡る⾮連続な変化に伴い、国及び国⺠の安全・安⼼は脅威にさらされている。気候変動等に伴い⾵⽔害等が頻発化、激甚化しつつある上、近い将来、⼤規模な地震・津波災害の発⽣が⾼い確率で想定され、現状の防災対策⽔準では、逃げ遅れによる死者・⾏⽅不明者の発⽣や、家屋やインフラの被災による国⺠⽣活や経済社会に対する被害の防⽌が困難な状況にある。

また、国⺠の安全・安⼼を確保し、社会経済活動を⽀える基盤として、インフラの維持管理、更新は極めて重要であるが、インフラの⽼朽化が加速する中において、予算や⼈⼿の不⾜による不⼗分なメンテナンスなどに起因する機能喪失や⼤規模事故の発⽣、災害に対する脆弱化等が懸念される。

⼀⽅で、今般の新型コロナウイルス感染症の世界的流⾏により、感染症に対する社会システムの脆弱性が顕在化した。グローバル化の進む社会においては、ヒト・モノの国境を越えた移動により感染症が短期間に国境を越えて拡⼤するリスクが存在しており、今後も新たな⽣物学的な脅威が発⽣し、国⺠の⽣命や経済社会に⼤きな打撃を与えるリスクが存在している。

さらに、サイバー空間の急拡⼤とともに、新たな技術や⼿法等の活⽤によりサイバー攻撃が多様化・⾼度化し、重要インフラやサプライチェーン等に対する想定外の脅威も懸念される。サイバー空間だけでなく宇宙空間や海洋空間における⼈間活動の活発化に伴う脅威も懸念される。

また、我が国の安全保障をめぐる環境が⼀層厳しさを増している中、科学技術・イノベーションにおける覇権争いが激化し、先端技術の研究開発等に各国がしのぎを削っている。このような背景の下、技術流出問題が既に顕在化しており、軍事転⽤等による安全保障上のリスクが想定される。これに適切に対処するため、技術的優越確保の観点からの技術の研究開発動向や重要技術を把握し、育成・活⽤するとともに、技術流出を抑制することの重要性が増している。

【現状データ】(参考指標)
  • ⾃然災害による死者・⾏⽅不明者数:114 ⼈(2019 年)
  • ⾃然災害による施設関係等被害額:約 1 兆円(2018 年)
  • 短時間強⾬(50mm/h 以上)の年間発⽣回数:約 327 回/年(2010〜2019 年平均)
  • 建設後 50 年以上経過するインフラの割合:(例)道路橋:約 63%(2033 年)
  • サイバー攻撃件数:(例)ランサムウェア:約 6,113 万件(2019 年)
  • 感染症発⽣動向調査における感染症患者の報告件数(例)結核:22,448 件(2018 年)
(b) あるべき姿とその実現に向けた⽅向性

頻発化・激甚化する⾃然災害に対し、先端ICTに加え、⼈⽂・社会科学の知⾒も活⽤した総合的な防災⼒の発揮により、適切な避難⾏動等による逃げ遅れ被害の最⼩化、市⺠⽣活や経済の早期の復旧・復興が図られるレジリエントな社会を構築する。これに加えて、必要なインフラの建設・維持管理・更新改良等を効率的に実施することにより、機能や健全性を確保し、事故や災害のリスクを低減するなど、国⼟強靱化に係る科学技術・イノベーションを活⽤した総合的な取組を推進する。

さらに、多様化・⾼度化しつつ刻々と変化を続けるサイバー空間等の新たな領域における攻撃や、新たな⽣物学的な脅威から、国⺠⽣活及び経済社会の安全・安⼼を確保する。

世界的規模での地政学的な環境変化が起き、覇権争いの中核が科学技術・イノベーションとなっている現況下にあって、科学技術・イノベーションが国家の在り様に与える影響はますます増⼤するとの認識の下、産学官が連携し、分野横断的に先端技術の研究開発を推進し、安全・安⼼で強靱な社会の構築に貢献するとともに、国⼒の根源である重要な情報を守り切る。

このような、レジリエントで安全・安⼼な社会を⽬指すため、様々な脅威に対する総合的な安全保障の実現を通して、我が国の平和を保ち、国及び国⺠の安全・安⼼を確保するために、関係府省庁、産学官が連携して我が国の⾼い技術⼒を結集するとともに、「知る」「育てる」「⽣かす」「守る」の視点が重要である。すなわち、「『安全・安⼼』の実現に向けた科学技術・イノベーションの⽅向性」に基づき、いかなる脅威があるのか、あるいは脅威に対応できる技術を「知る」とともに、必要な技術をどのように「育てる」のか、育てた技術をどのように社会実装し「⽣かす」のかを検討し、また、それらの技術について流出を防ぐ「守る」取組を進める。具体的には、我が国が育てるべき重要技術分野の明確化及び重要技術への重点的な資源配分を実施するとともに、我が国の技術的優越を確保・維持する観点や、研究開発成果の⼤量破壊兵器等への転⽤防⽌といった観点から、適切な技術流出対策等を着実に実施する。これらにより、我が国にとっての重要技術を守るとともに、我が国の研究セキュリティを確保し、総合的な安全保障を実現する。

【⽬標】
  • 頻発化・激甚化する⾃然災害、新たな⽣物学的脅威などの国⺠⽣活及び経済社会への様々な脅威に関する社会的な不安を低減・払拭し、国⺠の安全・安⼼を確保する。
【科学技術・イノベーション政策において⽬指す主要な数値⽬標】(主要指標)
  • 基盤的防災情報流通ネットワークSIP4D(Shared Information Platform for Disaster Management)を活⽤した災害対応が可能な都道府県数:全都道府県(2023 年)
  • 防災チャットボットの運⽤地⽅公共団体数:100 以上(2023 年)
  • 2025 年度⽬途に府省庁及び主要な地⽅公共団体・⺠間企業のインフラデータプラットフォーム間の連携及び主要他分野とのデータ連携を完了
  • 2021 年度にサイバーセキュリティ情報を国内で収集・⽣成・提供するためのシステム基盤を構築、産学への開放を実施
  • ⽣物学的脅威に対する対応⼒強化:2021 年度より感染症に係る情報集約・分析・提供のためのシステムを強化し、随時情報集約を実施。2022 年度より、研究者の分析に基づくリスクコミュニケーションのための情報を提供
  • 新たなシンクタンク機能:2021 年度より⽴ち上げ、2023 年度を⽬途に組織設⽴
(c) 具体的な取組
① 頻発化、激甚化する⾃然災害への対応
  • 国際的な枠組みを踏まえた地震・津波等に係る取組も含め、⾃然災害に対する予防、観測・予測、応急対応、復旧・復興の各プロセスにおいて、気候変動も考慮した対策⽔準の⾼度化に向けた研究開発や、それに必要な観測体制の強化や研究施設の整備等を進め、特に先端ICT等を活⽤したレジリエンスの強化を重点的に実施する。組織を越えた防災情報の相互流通を担うSIP4Dを核とした情報共有システムの都道府県・市町村への展開を図るとともに、地域の防災⼒の強化に取り組むほか、データ統合・解析システム(DIAS)を活⽤した地球環境ビッグデータの利⽤による災害対応に関する様々な場⾯での意思決定の⽀援や、地理空間情報を⾼度に活⽤した取組を関係府省間で連携させる統合型 G 空間防災・減災システムの構築を推進する。さらに、産官学⺠による災害対応の更なる最適化⽀援及び⾃助・共助・公助の取組に資する国⺠⼀⼈ひとりとのリスクコミュニケーションのための情報システムを充実するなど、災害対応のDX化を推進する。そのため、SIP4Dについて、2021 年度より都道府県災害情報システムとの連接を順次実施する。また、防災チャットボットについて、2023 年度より市町村及び住⺠との情報共有のためのシステムの⼀部を稼働するとともに、更なるシステムの充実に取り組む。【科技、防災、関係府省、関係地⽅公共団体】
  • 情報共有システムに係る研究基盤を構築するとともに、⼈⽂・社会科学の知⾒も活⽤した防災対策⽔準の評価や避難者の⾏動⼼理分析、防災における社会的要請や課題の分析、防災技術のベンチマーキングなどを踏まえた、防災研究の全体俯瞰に基づく効率的・効果的な研究開発投資及び社会実装の取組を実施する。【科技、防災、関係府省、関係地⽅公共団体】
② デジタル化等による効率的なインフラマネジメント
  • 国⼟強靱化に向けた効率的なインフラマネジメントを実現するため、公共⼯事における先端技術の実装を進めるとともに、各管理者におけるインフラデータのデジタル化・3D化を順次実施し、それらのデータを利活⽤するためのルール及びプラットフォームを整備する。 【科技、国、関係府省】
  • インフラ分野での連携型データプラットフォームの構築に向け、2021 年度までに府省庁及び主要な地⽅公共団体・⺠間企業のデータプラットフォーム間の連携のための環境を整備し、以降、インフラ管理者間の連携を進めるとともに、国⼟強靱化その他の付加価値創出に向け、防災分野、都市分野、産業分野等とのデータ連携を実施する。 【科技、関係府省】
③ 攻撃が多様化・⾼度化するサイバー空間におけるセキュリティの確保
  • 〇サイバー攻撃が多様化・⾼度化するなど、⾮連続な情勢変化が⽣じる中にあって、そのような変化に追従・適応する能⼒が必要となる。その観点を踏まえ、攻撃に対する観測・予測・分析・対処・情報共有等のための研究開発や体制構築を実施する。具体的には、サイバーセキュリティ情報を国内で収集・⽣成・提供するためのシステム基盤を 2021 年度までに構築し、産学への開放を進める。加えて、量⼦コンピュータ時代に対応した⾼度な暗号技術等の開発、サプライチェーンリスクへ対応するための脆弱性や不正機能の検知といった技術検証等を推進する。 【内閣官房、科技、総、経、関係府省】
④ 新たな⽣物学的な脅威への対応
  • 新たな⽣物学的な脅威に対して、発⽣の早期探知、流⾏状況の把握と予測、予防・制御や国⺠とのリスクコミュニケーション等に係る研究開発を推進する。具体的には、2021 年度より感染症に係る情報集約・分析・提供のためのシステムを強化し、随時情報集約を実施する。また、2022 年度より、研究者の分析に基づくリスクコミュニケーションのための情報を提供する。 【内閣官房、科技、厚、関係府省】
⑤ 宇宙・海洋分野等の安全・安⼼への脅威への対応
  • 宇宙分野や海洋分野を含むその他の安全・安⼼への脅威に対し、国際的な連携体制を確保しつつ、先端的な基盤技術の研究開発や、それぞれの課題に対応した研究開発と社会実装を実施する。【内閣官房、科技、宇宙、海洋、外、⽂、経、防、関係府省】
⑥ 安全・安⼼確保のための「知る」「育てる」「⽣かす」「守る」取組
  • 安全・安⼼の実現のための重要な諸課題に対応し、科学技術の多義性を踏まえつつ、総合的な安全保障の
    基盤となる科学技術⼒を強化するため、分野横断的な取組を実施する。
  • 国⺠⽣活、社会経済に対する脅威の動向の監視・観測・予測・分析、国内外の研究開発動向把握や⼈⽂・社会科学の知⾒も踏まえた課題分析を⾏う取組を充実するため、安全・安⼼に関する新たなシンクタンク機能の体制を構築し、今後の安全・安⼼に係る科学技術戦略や重点的に開発すべき重要技術等の政策提⾔を⾏う。そのため、2021 年度より新たなシンクタンク機能を⽴ち上げ、2023 年度を⽬途に組織を設⽴し、政策提⾔を実施する。 【内閣官房、科技、関係府省】
  • 新たなシンクタンク機能からの政策提⾔を踏まえながら、必要に応じ研究開発プログラムやファンディング等と連動させて重点的な研究開発につなげる仕組みを構築する。明確な社会実装の⽬標設定を含む研究開発プログラムのマネジメントを実施する。 【内閣官房、科技、関係府省】
  • 研究活動の国際化、オープン化に伴い、利益相反、責務相反、科学技術情報等の流出等の懸念が顕在化しつつある状況を踏まえ、基礎研究と応⽤開発の違いに配慮しつつ、また、国際共同研究の重要性も考慮に⼊れながら、政府としての対応⽅針を検討し、2021 年に競争的研究費の公募や外国企業との連携に係る指針等必要となるガイドライン等の整備を進める。特に研究者が有すべき研究の健全性・公正性(研究インテグリティ)の⾃律的確保を⽀援すべく、国内外の研究コミュニティとも連携して、2021 年早期に、政府としての対応の⽅向性を定める。これらのガイドライン等については、各研究機関や研究資⾦配分機関等の取組状況を踏まえ、必要に応じて⾒直す。 【科技、⽂、経、関係府省】
  • 我が国の技術的優越を確保・維持するため、重要技術の明確化、重視する技術分野への重点的な資源配分、適切な技術流出対策等を実施する。国際的な技術流出問題の顕在化といった状況を踏まえ、グローバルに知の交流促進を図り、研究⼒、イノベーション⼒の強化を進めることと、総合的な安全保障を確保することを両⽴しつつ、多様な技術流出の実態に応じて段階的かつ適切な技術流出対策を講ずべく、情報収集を進めるとともに、制度⾯も含めた枠組み・体制の構築について検討を進める。【内閣官房、科技、関係府省】

(4)価値共創型の新たな産業を創出する基盤となるイノベーション・エコシステムの形成

(a) 現状認識

近年、GAFAに代表される巨⼤IT企業をはじめとして、世界中で、スタートアップが極めて短期間で⼤企業をしのぐほどに急成⻑し、産業構造のみならず、都市構造やライフスタイルまでをも変⾰する⼤きな潮流となっている。こうした巨⼤企業に続き、⽶国、中国を中⼼に世界中で「ユニコーン」企業が多数登場し、各国の市場を席捲しつつある。また、先進諸国は、⾰新的なスタートアップを創出すべく、スタートアップ・エコシステムの形成に戦略的に取り組んでいる。

さらに、既存の⼤企業においても、「⾃前主義」から脱却し、多様な分野で機動性を⽣かした挑戦を⾏うスタートアップや⾰新的な技術シーズを有する⼤学などと連携したオープン型、ディスラプティブ型のイノベーションが求められている。

⼀⽅、これまで我が国は、既存事業会社を中⼼としたクローズ型、リニア型のイノベーションが主流となっており、スタートアップが⼗分に活躍できなかった。また、スタートアップが成⻑しようとしても、起業前・起業直後(シード・アーリー)期の資⾦不⾜、経営⼈材不⾜、事業会社との連携の困難性、初期需要創出不⾜、⼤学や国⽴研究開発法⼈発スタートアップの創出不⾜等といった課題があり、世界に⽻ばたくスタートアップを創出するイノベーション・エコシステムが⼗分に発達していない状況にある。

このため、我が国では、2020 年7⽉にスタートアップ・エコシステム拠点都市を選定し、世界に⽐肩する⾃律的なスタートアップ・エコシステムの形成を推進している。また、企業、⼤学、公的研究機関などの多様な主体による連携・共創の舞台となるオープンイノベーションの拠点として、筑波研究学園都市及び関⻄⽂化学術研究都市の形成などを進めてきている。

【現状データ】(参考指標)
  • ⼤学等スタートアップ創業数:⼤学等発 204 社(2019 年度設⽴)、研究開発型法⼈発 13 社(2018 年度設⽴)
  • VC等による投資額・投資件数:年間VC等投資額 2,891 億円/1,824 件(2019 年度)
  • 国境を越えた商標出願と特許出願:主要国のうち、単位⼈⼝当たりで商標出願数よりも特許出願数が相対的に多い国は⽇本のみ
  • 研究者の部⾨間の流動性:企業から⼤学等へ転⼊した研究者数 1,150 ⼈、⼤学等から企業へ転⼊した研究者数 218 ⼈(2019 年度)
(b) あるべき姿とその実現に向けた⽅向性

社会のニーズを原動⼒として課題の解決に挑むスタートアップを次々と⽣み出し、企業、⼤学、公的研究機関等が多様性を確保しつつ相互に連携して価値を共創する新たな産業基盤が構築された社会を⽬指す。

このため、都市や地域、社会のニーズを踏まえた⼤学・国⽴研究開発法⼈等の研究開発成果が、スタートアップや事業会社等とのオープンイノベーションを通して事業化され、新たな付加価値を継続的に創出するサイクル(好循環)を形成する。このサイクルが、社会ニーズを駆動⼒として活発に機能することにより、世界で通⽤する製品・サービスを創出する。さらに、事業の成功を通じて得られた資⾦や、経験を通じて得られた知⾒が、⼈材の育成や事業会社・⼤学・国⽴研究開発法⼈等の共同研究を加速させる。こうして、⼤学や国⽴研究開発法⼈、事業会社、地⽅公共団体等が密接につながり、イノベーションを創出するスタートアップが次々と⽣まれ、⼤きく育つエコシステムが形成される。

このような流れが切れ⽬なくつながるシステムが都市や地域を核に形成されることによって、社会課題の解決・社会変⾰を導くイノベーションが連続的、相互連鎖的に創出される。加えて、スタートアップの世界展開、世界からの投資の呼び込みの拡⼤につながる。

こうしたエコシステムの実現に向け、ニーズプル型のイノベーションの創出を強⼒に進めるとともに、スタートアップ及び事業会社のイノベーション活動が促進されるよう、制度⾯、政策⾯での環境整備を進める。さらに、⼤学・国⽴研究開発法⼈等の「知」が社会ニーズに⽣かされるよう、産学官連携による新たな価値共創の推進やスタートアップ・エコシステム拠点都市の形成を進めるとともに、エコシステムを⽀える⼈材育成に取り組む。

【⽬標】
  • ⼤学や研究開発法⼈、事業会社、地⽅公共団体等が密接につながり、社会課題の解決や社会変⾰へ挑戦するスタートアップが次々と⽣まれるエコシステムが形成され、新たな価値が連続的に創出される。
【科学技術・イノベーション政策において⽬指す主要な数値⽬標】(主要指標)
  • SBIR制度に基づくスタートアップ等への⽀出⽬標:570 億円(2025 年度)
  • 官公需法に基づく創業 10 年未満の新規事業者向け契約⽬標:3%(2025 年度)
  • 実践的なアントレプレナーシップ教育プログラムの受講者数:1,200 名(2025 年度)
  • ⼤学等及び国⽴研究開発法⼈における⺠間企業からの共同研究の受⼊額:2025 年度までに、対 2018 年度⽐で約7割増加(2025 年度)
  • 分野間でデータを連携・接続する事例を有するスタートアップ・エコシステム拠点都市数の割合:100%(2025 年)
  • 企業価値⼜は時価総額が 10 億ドル以上となる、未上場ベンチャー企業(ユニコーン)⼜は上場ベンチャー企業創出数:50 社(2025 年度)
(c) 具体的な取組
① 社会ニーズに基づくスタートアップ創出・成⻑の⽀援
  • 政府による、ニーズプル型のイノベーションの創出を進めるため、2021 年 4 ⽉に施⾏される新たな⽇本版SBIR制度を、関係府省が連携して推進する。本制度に基づく研究開発制度を 2021 年度から導⼊し、政府の⽀出⽬標を設定するとともに、本制度を活⽤して開発された製品等を調達し、初期需要を創出することにより、スタートアップの創出、成⻑を強⼒に⽀援する。 【科技、関係府省】
  • 社会課題の解決や市場のゲームチェンジをもたらすスタートアップの創出及び効果的な⽀援を実現するため、⼤学・国⽴研究開発法⼈等発ベンチャー創出を促進する環境整備、ベンチャーキャピタルのファンド組成の下⽀えや、研究資⾦配分機関等による⼤規模な資⾦⽀援(Gap Fund 供給)を実施する。【⽂、経】
  • スタートアップが⼤企業と共同研究等を通じて連携する際に、オープンイノベーションの促進と公正かつ⾃由な競争環境の確保の観点から適正な契約がされるよう、各契約における問題事例やその具体的改善の⽅向性や、独占禁⽌法上の考え⽅を整理したガイドラインを策定する。 【公取、経】
  • ⼤学等発スタートアップやその連携先企業について、適切な協⼒関係が構築できているか、継続的な実態把握を⾏う。 【科技、経】
  • スタートアップの経営課題を踏まえた経営⼈材の要件を整理すること等を通じて、経営⼈材の不⾜により成⻑を阻害されている有望なスタートアップに経営⼈材候補者が転職することが容易となる環境を創出する。 【経】
  • スタートアップ⽀援を⾏う政府関係機関が連携し、技術シーズを⽣かして事業化等に取り組むスタートアップや、創業を⽬指す研究者・アントレプレナーなどの⼈材を継続的に⽀援する。 【経、関係府省】
② 企業のイノベーション活動の促進
  • イノベーション経営に挑戦する企業が資本市場等から評価されるよう、ISO56002:2019や「⽇本企業における価値創造マネジメントに関する⾏動指針」等を踏まえた銘柄化の制度設計を実施する。また、研究開発に係るファンディングにおいて、当該⾏動指針や産学官連携ガイドライン等を踏まえた企業の取組状況を勘案した審査を順次実施する。 【経】
  • 欧⽶企業での社外⼈材が活躍するダイバーシティの状況や、世界各国・企業の取組、2020 年度に実施した過去の研究開発事業の分析結果等を踏まえ、研究開発事業について、リニア型ではなく、新たに⽣じた社会課題等に応じて柔軟に研究開発を進める新たな政策⼿法の構築を図る。 【経】

参照

https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/6honbun.pdf

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