ビジネス全般

令和3年度介護報酬改定に関する審議報告―Ⅲ 今後の課題

  • 令和3年度介護報酬改定の基本的考え方や各サービスの報酬・基準の見直しの方向については以上のとおりである。
    今回の介護報酬改定に基づき、全ての介護サービス事業者において、新型コロナウイルス感染症をはじめ、感染症や災害への対応力を強化し、要介護者等に必要な介護サービスを安定的・継続的に提供していくことが求められる。また、団塊の世代が 75 歳以上となっている 2025 年に向けて、更には介護サービス需要が一層増大・多様化し、生産年齢人口の減少が進む 2040年を見据えて、国民一人一人が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるよう、地域包括ケアシステムを推進するとともに、それぞれの地域で、尊厳を保持しながら、状態に応じた適切な介護サービスを受けられるよう、着実に対応していくことが求められる。
  • あわせて、今回の介護報酬改定の影響を把握するとともに、次期介護報酬改定に向けて、見直すべき事項がないか、検討を進めるべきである。
    その際、各介護サービスが、その専門性や特異性を最大限発揮しながら、利用者の状態に応じて適時・適切に過不足なく提供されるよう、留意すべきである。また、医療と介護の役割分担も踏まえながら、医療と介護の連携を一層推進する視点にも留意すべきである。ケアの質や職員の負担の状況を適時に把握しながら取組を改善していく視点にも留意すべきである。
    次期介護報酬改定までに特に検討を進めるべきと考えられる事項について、以下のとおりまとめたので、厚生労働省において着実に対応することを求めたい。
    また、検討は、しっかりとしたデータに基づき行うことが必要であり、介護報酬改定の効果検証及び調査研究、介護事業経営実態調査の更なる精緻化を進めるとともに、各種の調査・研究等を通じて、実態を適確に把握することを求めたい。さらに、CHASE・VISIT 情報をはじめとする介護関連のデータの収集・分析を進め、検討に活用することも求めたい。

Table of Contents

【感染症や災害への対応力強化】

(感染症や災害への対応力強化)

  • ○ 感染症対策や業務継続に向けた取組について、事業者の対応状況や有効性等を把握し、感染症や災害が発生しても地域において必要なサービスを継続的に提供していくために有効な方策を、引き続き検討していくべきである。
    また、通所介護等の事業所規模別の報酬等に関する対応について、その実施状況や効果を検証し、必要な見直しなどの対応を検討するべきである。

【地域包括ケアシステムの推進】

(認知症への対応力向上等に向けた取組の推進)

  • 今後増加が見込まれる認知症の人に対し、尊厳を重視し、本人主体の生活を支援する観点から、地域における参加・交流の更なる促進方策の検討を進めるとともに、介護サービス事業者における認知症への対応力向上を一層進めるため、CHASE によるデータ収集(DBD13 等に加え、任意として提供される NPI-NH 等を含む)・フィードバックの取組も活用しながら、行動・心理症状への対応や、中核症状を含めた評価の方策を検討していくべきである。

(看取りへの対応の充実)

  • 「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容に沿った取組について、取組状況を踏まえつつ、更なる推進方策について検討していくべきである。

(中重度者・看取りへの対応や自立支援・重度化防止の取組の充実)

  • 介護付きホームや認知症グループホーム等の介護保険サービス利用者について、療養上の世話や看取り、自立支援・重度化防止に係る実態等も踏まえながら、訪問看護や訪問リハビリテーション等の利用を含め、今後、必要な対応について検討していくべきである。
  • 居宅介護サービスにおいて、質の高い訪問看護及び訪問リハビリテーションの更なる普及を図る観点から、訪問看護事業所から理学療法士等が訪問して行う訪問看護と、訪問リハビリテーション事業所が行うリハビリテーションについて、実態調査等を行い、それぞれの役割に応じたサービス提供の在り方や看護職員の確保の強化策について、検討していくべきである。

(居宅介護支援)

  • 居宅介護支援について、質の向上や業務効率化等を図る観点から、適切なケアマネジメント手法(※)等を図る方策を検討するとともに、より適切なケアマネジメント手法の実効性が担保されるような方策について、検討していくべきである。
    (※)疾患別の適切なケアマネジメント手法に限られない。
  • 今回の介護報酬改定で一定の ICT 活用又は事務職員の配置を図っている事業所について、逓減制の見直しを行うこととしたが、当該措置により、ケアマネジメントの質が確保されていること等に関する効果検証を行うとともに、ケアマネジメントの公正中立性の確保を図る取組についても効果検証を行い、必要に応じて対応を検討すべきである。

(地域の特性に応じたサービスの確保)

  • 都市部、離島や中山間地域など、どの地域においても必要なサービスが確保されるよう、今回の改定における措置を検証しつつ、人材確保を含め、地域の実情に応じた必要な方策を引き続き検討すべきである。その際には、将来の地域ごとの介護ニーズの変化も踏まえながら、人材確保・サービスの確保に資する介護の経営の大規模化、各サービスの基準、サービス類型の在り方も含めた、サービス提供の在り方についても検討していくべきである。
  • 地域区分について、引き続き介護事業経営実態調査等で各地域の状況や各サービスの実態の把握を行うとともに、その結果も踏まえつつ、派遣委託費の取扱い、介護職員処遇改善加算及び介護職員等特定処遇改善加算による影響、安定的な人件費の把握や区分移動のルールの設定等、財政中立を原則として、その在り方について、引き続き検討していくべきである。

(定期巡回・随時対応型訪問介護看護及び(看護)小規模多機能型居宅介護の普及等)

  • 中重度の要介護状態となっても住み慣れた地域で暮らし続けることができるよう、24 時間 365 日の在宅生活を支援する定期巡回・随時対応型訪問介護看護、(看護)小規模多機能型居宅介護の更なる普及を図るための方策について、引き続き検討するとともに、これらのサービスについて、事業者の経営実態や利用者の状況も踏まえ、その機能・役割を改めて検証した上で、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けることができるよう、在宅生活の限界点を高めるために必要な対応を総合的に検討していくべきである。
  • 定期巡回・随時対応型訪問介護看護がこれまで果たしてきた機能や役割を踏まえつつ、今回の介護報酬改定で定期巡回・随時対応型訪問介護看護と同様となる基準の緩和を行うこととした夜間対応型訪問介護の機能や役割を含め、今後の在り方について検討していくべきである。

(療養通所介護)

  • 療養通所介護について、今回の介護報酬改定で月単位の包括報酬とする見直しを行うこととしたが、看護小規模多機能型居宅介護の機能や役割を踏まえつつ、今後の在り方について検討していくべきである。

(個室ユニット型施設の入居定員の見直しに係る検証)

  • 今後、現行の入居定員の基準を超える新たなユニットを整備する施設において、ケアの質が維持され、職員の過度な負担につながらぬよう、当該ユニットの整備・運営状況を定期的に把握しつつ、適切な運営や指導が行われているか検証し、必要な見直しなどの対応を検討するべきである。

(小規模介護福祉施設等の基本報酬)

  • 小規模介護福祉施設及び経過的地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護の基本報酬について、その収支差率については地域差が見られることから、経営実態について今後調査し、通常の基本報酬との統合に向けて引き続き検討していくべきである。

(介護医療院)

  • 介護医療院について、今回の介護報酬改定で創設された加算の効果や、サービス提供の実態、介護療養型医療施設、医療療養病床からの移行状況を把握した上で、介護療養型医療施設の廃止期限も踏まえつつ、円滑な移行の促進と介護保険財政に与える影響の両面から、どのような対応を図ることが適当なのかを検討していくべきである。

【自立支援・重度化防止の取組の推進】

(介護保険制度におけるアウトカムの視点も含めた評価の在り方)

  • 今回の介護報酬改定でリハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養など多職種が連携した取組を推進することとしたが、その取組の実施状況、効果等について、CHASE・VISIT 等も活用しながら検証し、更なる推進方策を検討していくべきである。
  • 平成 30 年度介護報酬改定において、自立支援に向けた事業所へのインセンティブとして ADL 維持等加算が創設され、今回の介護報酬改定ではこれを拡充することとしたが、引き続きクリームスキミングにより利用者のサービス利用に支障が出るなどの弊害が生じていないかなどについて検証し、必要な対応を検討していくべきである。
  • リハビリテーションサービスについて、生活期のリハビリテーションは、心身機能、活動、参加のそれぞれにバランス良く働きかけることが重要とされている一方、現時点でそのアウトカムに関する適切な評価方法が定まっていないことから、その具体的な評価方法について、科学的な妥当性を前提としつつ、現場で活用されている評価方法も参考に、引き続き検討していくべきである。また、その検討を踏まえて、通所リハビリテーションにおける、ストラクチャー、プロセス、アウトカム評価を組み合わせた総合的な評価方法について、検討していくべきである。
  • 今回の介護報酬改定では褥瘡マネジメントや排せつ支援において新たにアウトカム評価を導入することとしたが、介護保険制度におけるアウトカムの視点も含めた評価の在り方について、引き続き検討していくべきである。

(口腔、栄養)

  • 施設系サービスにおける口腔衛生管理、栄養ケア・マネジメントの取組の充実について、対応状況を把握し、その推進方策について、検討していくべきである。

(介護サービスの質の評価と科学的介護)

  • CHASE・VISIT を活用した計画の作成や事業所単位での PDCA サイクルの推進、ケアの質の向上の取組について、取組状況を把握し、更なる推進方策を検討していくべきである。特に、訪問系サービス等の今回の介護報酬改定で評価の対象とならないサービスや、居宅サービス全体のケアマネジメントにおける CHASE・VISIT の活用を通じた質の評価の在り方等について、今後検討していくべきである。

(介護老人保健施設)

  • 介護老人保健施設における在宅復帰・在宅療養支援機能の評価の充実として、今回の介護報酬改定で訪問リハビリテーションの実施等に対する評価を行うこととしたが、取組状況を把握し、在宅復帰・在宅療養支援機能の促進に向け、更に検討していくべきである。

【介護人材の確保・介護現場の革新】

(介護人材の確保)

  • 介護人材の確保の状況を適時に把握しつつ、介護職員処遇改善加算及び介護職員等特定処遇改善加算について、引き続き上位区分の算定や取得促進を強力に進めながら、その在り方や処遇改善、介護分野への人材の参入促進を含めた総合的な人材確保の取組について、引き続き検討していくとともに、介護人材の確保等の目的が達成されたか状況を迅速に把握しつつ、効果検証を行っていくべきである。
  • 介護職員処遇改善加算について、職場環境等要件見直し後の状況の把握を進め、介護職員等特定処遇改善加算については、経験・技能のある介護職員が多い事業所や職場環境が良い事業所をより精緻に把握するとともに、その評価の方法について今後検討するほか、配分方法についても引き続き検討していくべきである。
  • ハラスメント対策について、実態も踏まえつつ、必要な対応を引き続き検討していくべきである。

(テクノロジーの活用)

  • テクノロジーを活用した場合の人員基準の緩和等について、利用者の安全確保やケアの質、職員の負担、人材の有効活用の観点から、実際にケアの質や職員の負担にどのような影響があったのか等、施行後の状況を把握・検証するとともに、実証データの収集に努めながら、必要な対応や、介護サービスの質や職員の負担に配慮しつつ、更なる介護現場の生産性向上の方策について、検討していくべきである。
  • 各種会議や多職種連携、サービス提供における ICT の活用について、実施状況を踏まえて、必要な対応を検討していくべきである。

(認知症グループホームの夜勤職員体制)

  • 認知症グループホームの例外的な夜勤職員体制の取扱いについて、利用者の安全確保やケアの質、職員の負担、人材の有効活用の観点から、施行後の状況を把握・検証し、必要な対応を検討していくべきである。

(いわゆるローカルルール)

  • 人員配置基準等について、自治体ごとに異なる解釈や取扱い(いわゆるローカルルール)が行われている状況について、引き続き実態の把握を行うとともに、対応を検討していくべきである。

(文書負担軽減や手続きの効率化による介護現場の業務負担軽減の推進)

  • 今回の介護報酬改定では、利用者への説明・同意等に係る見直しや記録の保存等に係る見直し等を行うこととしたが、現場の実態等も踏まえながら、介護現場の業務負担軽減の観点から、更なる文書負担の軽減や手続きの効率化等について、引き続き検討していくべきである。

【制度の安定性・持続可能性の確保】

(適正化・重点化)

  • 介護保険制度の安定性・持続可能性を高める観点から、サービス提供の実態や利用者に与える影響などを十分に踏まえながら、介護サービスの適正化や重点化、財源が限られる中で保険料等の負担も念頭に置いた介護報酬の見直しを引き続き検討していくべきである。

(報酬体系の簡素化)

  • 今回の介護報酬改定では、療養通所介護における月額報酬体系の導入や、一部の加算について基本報酬への組み込みや廃止を行うこととした。利用者のわかりやすさという観点や介護サービス事業者の事務負担軽減の観点から、趣旨・目的やそれぞれの関係性も踏まえた加算の見直しをはじめ、報酬体系の簡素化について、引き続き検討していくべきである。

【その他】

(介護保険施設のリスクマネジメント)

  • 介護保険施設のリスクマネジメントについて、今回の介護報酬改定では、安全対策に係る体制評価を行い、事故報告の様式について周知を行うこととしたが、事故の発生予防・再発防止の推進の観点から、報告内容の分析や有効活用等についてどのような対応を図ることが適当なのか、今後検討していくべきである。

(福祉用具の安全な利用の促進)

  • 福祉用具の事故等に関して、再発防止の観点から、市町村等においてどのような内容の情報が収集されているのか実態把握を行うとともに、関係省庁及び関係団体と連携しつつ、事故が起きる原因等の分析や情報提供の方法等について、Ⅱ6①(介護保険施設におけるリスクマネジメントの強化)アの取組を踏まえながら、更なる効果的な取組について、今後検討していくべきある。また、福祉用具専門相談員の更なる質の向上の観点から、福祉用具の事故防止に資する情報を基に、福祉用具専門相談員の指定講習カリキュラム等の必要な見直しを検討していくべきである。

(福祉用具貸与・販売種目の在り方)

  • 介護保険制度における福祉用具の貸与・販売種目について、利用実態を把握しながら、現行制度の貸与原則の在り方や福祉用具の適時・適切な利用、利用者の安全性の確保、保険給付の適正化等の観点から、どのような対応が考えられるのか、今後検討していくべきである。

(基準費用額)

  • 介護保険施設における基準費用額について、引き続き介護事業経営実態調査で実態の把握を行い、必要に応じて対応を検討するべきである。

(介護事業経営実態調査等)

  • 介護報酬改定の基礎資料となる介護事業経営実態調査等について、より正確な経営実態等の把握に向けて、各介護サービス事業者に調査への協力を求めることを含め、有効回答率の向上を図り、統計の調査精度を高めていくための、より適切な実態把握のための方策を、引き続き検討していくべきである。

参照

令和3年度介護報酬改定に関する審議報告―Ⅰ 令和3年度介護報酬改定に係る基本的な考え方

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