原薬及び製剤の連続生産
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1. はじめに
1.1. 目的
本ガイドラインでは連続生産(CM)の開発、実施、運用及びライフサイクルマネジメントに関する科学的、及び規制上の考慮すべき点を示す。既存の ICH 品質ガイドラインに基づき、本ガイドラインでは CM の概念を明確にし、科学的アプローチについて記載し、原薬及び製剤のCMに特有の規制上の考慮すべき点を示す。
1.2. 適用範囲
本ガイドラインは化学薬品及び治療用タンパク質製剤の原薬並びに製剤の CM に適用する。新製品(例えば、新医薬品、後発医薬品、バイオ後続品など)に加えて既存の製品のバッチ生産から CM への切替えの際にも適用可能である。本ガイドラインに記載する原則は場合によっては他の生物起源由来/バイオテクノロジー応用医薬品にも適用できる。
CM では、製造工程への投入原料の連続供給、工程内での中間体/中間製品の変換及び工程からの生産物の連続的な取り出しが伴う。本ガイドラインを個々の単位操作(例えば、打錠、灌流式バイオリアクターなど)に適用してもよいが、本書では 2 単位操作以上が直接連結しているCMシステムの統合された側面を中心に取り上げる。そのような状況では、CMの1単位操作内でのいかなる変更もその下流及び上流(例えば、フィードバック制御など)の単位操作に直接的そして多くの場合即時に影響を及ぼす可能性がある。
技術、剤形及び分子タイプを問わず一般的な CM の基本的な考え方を本ガイドラインの本文に記載する。付録では、説明用の例並びにモダリティ(例えば、化学薬品、治療用タンパク質製剤など)、技術及び製造方法(例えば、原薬から製剤までの一貫製造など)に特有の留意点を提示することで、ガイドライン本文を補強する。当該付録に記載の例及びアプローチは全てを網羅しているわけではなく、代替アプローチも使用できる。CM 及びバッチ生産共に広く適用可能な事項は本ガイドラインの適用範囲外であり、他の既存の ICH ガイドラインを適宜使用すべきである。
2. CMの概念
2.1. CMの各種モード
CMは製造工程の一部又は全ての単位操作に適用可能である。CMモードの例を以下に示す。
- 一部の単位操作をバッチモードで行い、他の単位操作は統合して連続モードで行う製造アプローチの組合せ
- 原薬又は製剤の製造工程の単位操作全てを統合して連続モードで行う製造アプローチ
- 原薬と製剤の単位操作を原薬と製剤の境界を超えて統合し、1 つの CM 工程とする製造アプローチ(すなわち、原薬を統合した単位操作で製造・加工し、最終製剤を得る)
上記のいずれの CM モードも、原料の投入量及び製造量を一定に維持するため、製造工程にサージライン又はタンクを取り入れることができる。
2.2. ロットの定義
原薬及び製剤ともに ICH Q7 でのロットの定義がいずれの CM モードにも適用される。ICH Q7での定義に基づくと、CMで製造したロットサイズは以下のいずれかの観点から規定される。
- 生産物の製造量
- 原料の投入量
- 所定の質量流速での稼働時間
CM 工程の特性により科学的な妥当性が示される場合、他のアプローチでロットサイズを定義することもできる。
ロットサイズは範囲としても定義できる。例えば、ロットサイズの範囲は最短及び最長稼働時間で定義することもできる。
3. 科学的アプローチ
3.1. 管理戦略
CMの適切な管理戦略の策定は、CMに特有の考え方(以下に取り上げる)、及びICH Q8~Q11に記載の原則を考慮した包括的なアプローチを取ることにより可能となる。
3.1.1. 管理できた状態
管理できた状態(ICH Q10)とは、継続する製造工程の稼働性能及び製品品質について保証を提供する状態のことである。当該状態は、CM のモード及び特有の工程ステップにより変わりうる。例えば、管理できた状態は、CM 工程によっては、一連のパラメータ(例えば、工程パラメータ、品質特性など)が所定の範囲内である場合に実証可能であるが、工程は必ずしも定常状態でなくてもよい。管理戦略の要素は、管理できた状態をモニタリングし、必要な場合は工程の管理状態維持のために適切な措置を取る。運転の恒常性を評価し、パラメータが所定の範囲内ではあるが従来の運転範囲の外側にある、又はドリフト若しくは傾向を示している状況を特定するための体制を整備しておくことが重要である。後者の状況では工程が所定の運転範囲外で稼働するリスクを示している可能性があり、評価及び必要に応じて是正措置が求められる。
3.1.2. 動的特性
動的特性に関する知識は、CM での管理できた状態の維持に重要である。具体的には、どのように一過性のイベントが伝播するかを理解しておくことは、製品品質に対するリスクの特定、及び適切な管理戦略の策定に役立つ(工程モニタリング及び管理において考慮すべき点は第3.1.5 項を参照のこと)。CM 稼働中に生じる一過性のイベントは、計画できるものと(例えば、プロセスのスタートアップ、シャットダウン、一時停止など)、計画できないもの(例えば、外乱など)がある。
動的特性の把握に、滞留時間分布(RTD)の特性解析が役立つ可能性がある。RTD は原料などの移送、及び変換にかかる時間を示し、工程、組成・処方、物質の特性、装置の設計、及び配置などに特異的である。(例えば、RTD に基づくなど)動的特性を理解することにより、原料などの追跡が可能となり、該当する場合は、サンプリング及びダイバージョン時の戦略の策定をサポートする。また、このような理解は、製造工程の稼働性能という観点からも重要である。例えば、動的特性は、化学薬品原薬の生産での選択性、及び治療用タンパク質原薬の生産でのウイルス安全性といったプロセス特性に影響を及ぼすことがある。
動的特性は、科学的に妥当性が示されたアプローチを用いて、計画された運転範囲、及び想定される投入原料などの変動性にわたって明らかにされるべきである。適切な手法(例えば、RTD試験、in silicoモデル作成と実験による確認など)を用いて、動的特性、及びその変動が原料などの移送、及び変換に及ぼす影響を理解すべきである。これらの手法が系の動的特性の妨げとならないこと、及び特性解析が商業生産の工程に対応していることが必要である。例えば、RTD 試験を実施する際に、固体又は液体流の構成物質の代わりに用いるトレーサーは、本来の構成物質に極めて近い流動性を有している必要がある。トレーサーは、工程の他の成分と化学変化を起こさず、かつ、処理された物質と装置表面との相互作用に影響を及ぼすべきではない。工程中の分量組成を少し変更させて検討するステップ試験(例えば、構成物質を少しずつ増量するなど)は、RTD を求め、かつ外部トレーサーの工程への添加を回避することができる有用な技法である。他のアプローチも使用可能であるが、その場合は妥当性を示す必要がある。
3.1.3. 原料の特性解析及び管理
原料特性は、原料供給、動的特性及び生産物の品質といった CM の運転、及び性能の各種側面に影響を及ぼす可能性がある。原料特性及びその変動性の製造工程の稼働性能、及び製品品質への影響の理解は、管理戦略を策定する上で重要である。投入原料は、バッチ生産で使用される原料規格で一般に検討される評価や管理に加えて、追加で特性を評価し、管理する必要がある場合がある。例えば:
- 固形製剤の工程では、原薬及び添加剤の粒子径、凝集性、吸湿性、又は比表面積が粉末の供給及び系内の物質の流動に影響を及ぼす可能性がある。
- 化学合成原薬の工程では、供給される液の粘度、濃度、又は多相性(例えば、固体の存在など)が流動性又は反応に影響を及ぼす可能性がある。
- 治療用タンパク質(例えば、モノクローナル抗体など)の工程では、金属塩、ビタミン、及び他の微量成分などの供給ストックの変動性が高いと、細胞培養の性能に悪影響を及ぼす可能性がある。稼働時間が長くなると、培地、緩衝液又は下流の CM 工程での他の出発原料のロットが複数必要になることがあり、工程の変動性がさらに大きくなる可能性がある。
3.1.4. 装置設計及びシステム統合
CM システム構築のための装置、及び装置統合の設計は、動的特性、物質移送及び変換、生産物の品質などに影響を及ぼす。CM 工程及びその管理戦略策定の際には、個々の装置の特性だけでなく製造工程の稼働性能に影響を及ぼす可能性のある統合システムの特性も考慮することが重要である。これらのシステムの特性としては、投入原料や生産物の連続フローの維持、CM の運転で生じる可能性のある中断(例えば、フィルター交換など)の管理、及び装置それぞれに規定された稼働範囲内で目的とする物質のフロー中での変換を完了するシステムの能力が含まれる。設計において考慮すべき点の例を以下に示す。
- 装置の設計及び配置(例えば、最長稼働時間、又は最大サイクル数での装置コンポーネントの適合性及び完全性;目的とする変換を進めるための構成部品の形状;物質のフローを円滑にし、蓄積、又は付着を回避するための装置の空間配置など)
- 装置間の接続(例えば、2 単位操作間での質量流速の差を小さくするためにサージタンクを使用するなど)
- 物質のダイバージョン、及びサンプリングポイントの場所(例えば、物質のフローや変換を妨げないようなダイバージョンバルブ、及びサンプリングプローブの場所の選択など)
さらに、CM 工程に適した装置の設計又は選択は、工程の簡略化、工程モニタリング及び物質のダイバージョン、並びに工程能力や性能の向上を可能にすると考えられる。例えば原薬工程では、反応器の設計は不純物の生成及び蓄積を効果的に抑制し、その結果、精製ステップを減らすことができる。同様に、治療用タンパク質の原薬生産では、システム設計は工程を集約化し、サイクル時間を短縮できる。
3.1.5. 工程モニタリング及び管理
工程モニタリング及び管理は、製造中の管理できた状態の維持を支援し、システム性能のリアルタイム評価を可能にする。目標値/設定値及び管理限度値、デザインスペース、測定対象となっている特性の規格の設定を含む工程モニタリング及び管理のための共通アプローチは CMに適用可能である。
プロセス解析工学(PAT)(ICH Q8)は CM に非常に適している。適用例として、治療用タンパク質濃度のモニタリングのためのインライン UV フローセル、混合均一性評価のためのインライン近赤外分光分析、晶析装置の生産物モニタリングのための粒子径分析などがある。PATの使用は、外乱のリアルタイム検出を可能にする。したがって、CM は、例えば、フィードフォワード、フィードバック制御などの能動制御に基づく自動工程管理戦略に容易に適合できる。ICH Q8及び ICH Q11に記載の管理戦略の原則は CM工程に適用できる。
適切なサンプリング戦略の策定は、工程モニタリング及び管理の重要な一面である。モニタリング対象の変数、モニタリング方法や頻度、採取する物質量(物理的なサンプリング、又はインライン測定を用いたデータサンプリングのいずれか)、サンプリング場所、統計的手法、及び判定基準は、データの用途(例えば、外乱などの急激な変化の検出、リアルタイムリリース試験(RTRT)(ICH Q8)を使用する場合のロットの品質アセスメント、工程の傾向又はドリフトの分析など)や動的特性に依存する。他に考慮すべき重要な点は、測定が工程を妨害しないようにすることである。データギャップ(例えば、PAT 再校正、供給システムの補充、システムコンポーネントの故障など)に伴うリスクのアセスメントは、緊急対応方法が必要かどうかを明らかにすべきである。
3.1.6. 物質のトレーサビリティ及びダイバージョン
CM 工程には、例えば、システムスタートアップ及びシャットダウン中や、外乱が適切に制御又は軽減化されていない期間など、不適合品が製造される期間を含むことがある。製造中に生産物の流れから不適合のおそれのある物質をダイバートさせる能力は CM の重要な特徴であり、かつ管理戦略を策定する際に考慮すべきである。
規定された運転条件にわたる個々の単位操作及び統合システムの動的特性の理解は、物質の経時的な追跡を可能にする。これにより、製造を通しての原料の追跡が確保される。物質のトレーサビリティ、上流工程の外乱が下流工程の製品品質に及ぼす影響の理解、及び適切な測定手法の使用(例えば、PAT など)は、製品の収集、又はダイバージョンの開始、及び終了時期のリアルタイム決定を可能にする。ダイバートされた物質量は、動的特性、管理戦略、外乱の重大性(例えば、大きさ、継続時間、頻度など)、及びサンプリングやダイバージョンポイントの場所といった複数の要因の影響を受けることがある。加えて、ダイバージョン戦略は、物質をダイバートさせた場合に、物質のフロー、及び動的特性に及ぼす影響を明確にすることが重要である。ダイバージョンの開始から終了までの判断基準、生産物収集を再開するために判定基準を設定すべきである。
3.1.7. プロセスモデル
プロセスモデルは、CM 工程の開発に使用でき、ダイバージョン戦略を含む商業生産での管理戦略の一部としても使用できる。プロセスモデルは品質特性をリアルタイムで推定するために使用でき、そうすることにより管理できた状態を維持するためのタイムリーなプロセスの調整が可能となる。開発中には、プロセスモデルは入力変数(例えば、工程パラメータ、物質特性など)と出力変数(例えば、製品品質特性など)がどのように関係しているかを示すことで、デザインスペースの設定を支援できる。in silico実験法の使用により、プロセスモデルは工程の理解も促し、実験の数を抑えることができる。
モデルに関する一般的な留意すべき点(モデルのバリデーション要件に対する影響の結果を含む)については、「Points to Consider」を参照のこと。CM への適用において他に考慮すべき点について以下に取り上げる。
- プロセスモデルは、システム設計及び配置、並びに関連する物質の特性に特有である。
- モデル開発には、基礎となるモデルの前提(例えば、プラグフローか混合フローシステムかなど)、及び当該前提が有効な場合への理解が必要である。モデル入力変数及びモデル支配方程式の選択には、リスクアセスメント、十分な科学的根拠及び関連データが必要である。モデル性能に影響を及ぼす重要な入力変数を、感度分析などの適切なアプローチに基づいて決定することが重要である。
- モデル性能は数学的な構成、モデル入力変数の品質(例えば、ノイズ、データの変動性)などの因子に依存する。モデル性能の判定基準を設定する際には、モデルの用途、及び実験的測定やモデルによる推定での不確実性を明確にする統計学的アプローチが考慮されるべきである。
- モデルのバリデーションは、事前に規定した判定基準に基づき、用途に対するモデルの適合性を評価する。モデルのバリデーション活動は、主に基礎となるモデルの前提の妥当性、及びモデルや参照方法の感度と不確実性の理解の程度を実証することに関連する。
- モデル性能のモニタリングは、日常的、及び工程に変更があった場合(例えば、投入原料、工程パラメータの変更など)に実施されるべきである。モデルの変更(例えば、モデル性能の最適化、モデルの用途の変更、基礎となるモデルの前提の変更など)、モデル開発の適用範囲、及びモデルのバリデーション判定基準の影響を評価するためのリスクに基づくアプローチは、効果的かつ効率的なモデルのライフサイクルマネジメントを可能にする。変更の程度、及びそのモデル性能への影響によっては、モデルの再開発及び再バリデーションが必要になることがある。
3.2. 製造量の変更
製造量の変更に対する一般的なアプローチに関連して考慮すべき点を以下で論じるが、これらのアプローチに変更を加えることも可能である。既承認製剤の場合には、選択したアプローチの妥当性を示すこと、全体の管理戦略及び製造工程の稼働性能に与える影響を把握すること、また必要に応じて管理戦略を更新することが重要である。変更によっては製造工程の修正及びプロセスバリデーションが必要になる。
- 質量流速及び装置の変更を伴わない稼働時間の変更:稼働時間の延長により、これまで短い稼働時間では認められなかった問題が明らかになることがある。新たなリスクや制約を考慮すべきであり、例えば、工程のドリフト、発熱、原料/中間製品の蓄積、構成要素(例えば、バリデートされたin vitro細胞齢、樹脂のサイクル数、測定システムの校正状態など)の性能限界の超過、原料/中間製品の分解、膜又はセンサーの汚損、微生物汚染などがあげられる。同じ装置、工程及び管理戦略が用いられる場合、製造量の減少(バリデート済みの最長稼働時間を下回る)は、追加のリスクを意味するものではない。
- 全体の稼働時間及び装置に変更を伴わない質量流速の増大:このアプローチに伴うリスクは、生産物の品質に影響を及ぼす可能性があり、動的特性及び質量流速増大に対応するシステム能力の変更に関連する。したがって、このアプローチでは、工程パラメータと管理、原料/中間製品のトレーサビリティ、RTD、サンプリング、ダイバージョン戦略などの管理戦略の再評価と修正が必要となる可能性がある。
- 装置を複数用いることによる製造量の増加(すなわち、スケールアウト):一般的に用いられる 2つのスケールアウトアプローチに関する考慮すべき点は以下のとおり。
- 製造ラインの複製(同じもの):製造量を増加させるために、統合された CM製造ラインを複製すること(すなわち、元の CMシステムと同じ装置及びセットアップなど)ができる。複製された製造ラインも同じ管理戦略に従う。
- 同一の製造ラインにおける単位操作の並列化:同一の製造ライン上で一部の単位操作のみを複製する場合、並列化された単位操作間の管理を維持することに伴うリスクがある。考慮すべき事項として、並列操作間での均一なフロー分布の維持、並列フローの再統合、動的特性の変化及び原料/中間製品トレーサビリティがある。
- 装置サイズ/容量の増大によるスケールアップ:工程及び装置設計によっては、装置サイズを増大することで製造量を増加できる場合もある。バッチ生産の場合と同様に、装置のスケールアップ時の一般原則が適用される。RTD、動的特性、システム統合などの要素が変わる可能性があるため、管理戦略の様々な側面が影響を受ける可能性がある。元の管理戦略の適用可能性については各スケールで評価すべきであり、必要に応じて管理戦略を修正すべきである。
3.3. 継続的工程確認
CM では、インライン/オンライン/アットラインモニタリング及び管理、ソフトセンサー及びモデルといった PAT ツールの使用により頻繁な工程モニタリング及び管理が達成できる。これらのツールにより、動的特性及び原料/中間製品の品質に関連するパラメータに対するリアルタイムのデータ収集が可能になり、それによりすべてのロットが管理できた状態であることを担保する。また、CM は装置サイズを増大させることなく製造量を容易に変更できるため、商業生産と同じスケールで開発知識を得る機会となる。これらのツールはシステム設計及び管理戦略とともに、プロセスバリデーション活動の早期実施及び従来のプロセスバリデーションの代替手法としての継続的工程確認(ICH Q8)の採用を促す。
4. 規制上の考慮すべき点
4.1. 工程の記述
ICH M4Qに従い、コモン・テクニカル・ドキュメント(CTD)の3.2.S.2.2項及び 3.2.P.3.2項において製造工程を順序に沿って説明し、CTDの 3.2.S.2.6項又は 3.2.P.2.3項で示した製剤開発データを用いて裏付けるべきである。CMの場合、以下の点を加えて工程を説明すべきである。
- CM 稼働戦略に関する記述:運転条件(例えば、質量流速、目標値/設定値、範囲など)、工程内管理又は試験、日常的な生産で生産物収集の際に満たすべき判断基準及び原料/中間製品収集並びに該当する場合はダイバージョンについての戦略
- 該当する場合、装置間の原料/中間製品の移送方法(例えば、垂直、水平又は気送システムなど)
- 各工程ステップにおける原料/中間製品の流れの概要を示すフロー図、該当する場合は以下の点を明確にする。
- 各工程での原料/中間製品の投入及び取出し位置(原料/中間製品のダイバージョン及び収集ポイントを含む)
- 単位操作及びサージライン又はタンクの場所
- 連続工程のステップかバッチ生産工程のステップかを明示
- 工程モニタリング及び管理(例えば、PATによる測定、フィードフォワード又はフィードバック制御など)、中間製品試験又は最終製品管理が実施される重要なステップ及びポイント
- 装置設計又は配置及びシステム統合のうち、開発中に工程管理に重要であること、又は製品品質に影響を及ぼすことが明らかとなった側面についての適切かつ詳細な説明
4.2. 管理戦略
CM 工程の管理戦略は、稼働時間を通して生産物が目的とする品質であることを保証するために設計されている。管理戦略では本ガイドラインの第 3 項に取り上げた要素に留意すべきである。製造において関連する管理及びアプローチ、並びに CM 工程の稼働について説明すべきである。管理戦略については以下の点を取り上げる。
投入原料の特性:投入原料の特性及びその変動性(例えば、ロット内、ロット間、供給業者間など)が連続処理に及ぼす影響を評価し、提案する原料特性の許容範囲については原料規格設定時に妥当性を示すべきである。投入原料が薬局方に収載済みの場合、規格及び試験方法は該当する薬局方の要件を超える場合もある。
- 工程モニタリング及び管理:管理できた状態のモニタリング及び維持のためのアプローチが頑健であることを申請資料に適切に記載すべきである。工程及び品質に関する判断(例えば、工程の一時停止又は原料/中間製品のダイバージョンなど)のために、いかに管理システムが工程パラメータ及び工程内での原料/中間製品特性の測定を利用するかについて、そのアプローチを記載すべきである。その他に、サンプリング戦略(例えば、場所、サンプルサイズ、頻度、統計学的アプローチ及び判定基準、並びにそれらと用途との関連性など)、使用する場合はモデルの概要(例えば、多変量統計的プロセス管理など)、工程内管理の判断時でのデータ使用(例えば、原料/中間製品のダイバージョンを開始するためなど)等の重要な事項を定義すべきである。CM 工程中に生じる可能性のある変動やバラツキが見えないデータ解析方法を使用してはならない。例えば、データの平均を求める際には、CM の全稼働時間でデータの平均を求めるのではなく、適切な時間間隔で求めることを検討すべきである。したがって、統計学的サンプリング計画及びデータ解析を説明し、その妥当性を示すべきである。
- システム操作:システムスタートアップ、シャットダウン及び一時停止の管理、並びに外乱の取扱いについて手順書を設定し製造所で維持すべきである(付録 V を参照のこと)。これらの操作(例えば、外乱の取扱いなど)に関連するアプローチについては、その詳細を適切なレベルで申請資料に記載すべきである。一過性及び一時停止イベントで影響を受けた原料/中間製品の処理については、生産物の品質に生じる可能性のあるリスク(例えば、外乱が下流に伝播した場合の影響など)を考慮した上で、妥当性を示すべきである。
- 原料/中間製品のダイバージョン及び収集:原料/中間製品のダイバージョン及び収集戦略について説明し、その妥当性を示すべきである。戦略の説明には、原料/中間製品のダイバージョンの開始判定基準、ダイバートする原料/中間製品の量の決定根拠、原料/中間製品収集の再開条件などを含めるべきである。ダイバージョン戦略の策定の際には、サンプリング頻度、RTD 並びに外乱の大きさ、継続時間及び伝播などの因子を考慮すべきである。ダイバートする原料/中間製品の量は、RTD 及びその他の測定の不確実性を考慮して、妥当な安全域が適切に取り入れられているべきである。原料/中間製品収集、ダイバージョン及び処理(例えば、隔離、オフライン試験、調査など)を管理する手順は申請資料に記載する必要はないが、医薬品品質システム(PQS)(ICH Q10)内に維持すべきである。
- RTRT:生産物の品質特性の一部又は全てに RTRT を適用してもよい。RTRT は CM 実施の規制要件ではない。RTRT を提案する場合、関連する参照試験法を記載すべきである。RTRT 実施のためのデータ収集アプローチの開発では、データ収集の中断(例えば、近赤外(NIR)プローブの再校正など)がいかに製品品質に関連する判断に影響するかのリスクアセスメントを含めるべきである。提案する管理戦略には、これらのシナリオで生じる製品品質に対するリスクを低減化するための代替又は追加の品質管理を含めるべきである。
RTRT による結果が不適合又は不適合の傾向を示す場合、適切な調査を実施すべきである。従来の出荷試験法の代替法として用いるモデルについては、「Points to Consider」を参照のこと。 - 装置及びシステム統合:装置設計及びシステム統合のうち、生産物の品質及びその管理に重要であることが示されている側面については、説明し、全体の管理戦略の中で妥当性を示すべきである。
管理戦略の概要は CTDの 3.2.S.2.6項又は 3.2.P.2.3項に示し、当該項には製造工程及びその管理方法の理解、並びに評価を可能にする詳細情報を含む CTDの項へのリンクを付けるべきである。
4.3. ロットの説明
ロットサイズを定義するアプローチ(第2.2項の例を参照のこと)及び申請する商業生産時のロットサイズ又は範囲を申請資料に記載すべきである。
範囲で申請する場合、その妥当性を示し、当該範囲を達成するためのアプローチについて説明すべきである(第 2.2 項)。申請した範囲内でのロットサイズの変更は PQS 内で管理可能である。承認後に承認範囲を超えて製造量を変更する場合は、データの裏付け(第3.2項)及び適切な管理(すなわち、事前承認又は届出)を行うべきである。
ロット間の恒常性及びシステムの頑健性を確保するため、適切な定量的指標を規定すべきである。例えば、ロットサイズを収集した生産物の量で規定する場合、各ロットでの生産物の収集量に対するダイバージョン分の相対量を考慮すべきである。
実際に目的とするロットサイズを生産開始前に規定し、PQSで管理すべきである。
4.4. プロセスモデル
申請資料に記載するモデル開発、バリデーション及び維持管理の適用範囲、並びにその詳細はモデルタイプ及び影響のカテゴリに対応しているべきである。プロセスモデルは所定のシステムに特有であるべきである(例えば、装置、配置、接続など)。商業生産の一部で使用されるモデルについては全情報を製造所で維持管理すべきである。プロセスモデルに規制当局が期待することについては、「Points to Consider」を参照のこと。
4.5. 原薬及び製剤の安定性
安定性データパッケージで規制当局が期待することは概して CM とバッチ生産間で違いはない(例えば、ICH Q1A、ICH Q5Cなどを参照のこと)。他のガイドライン(例えば、ICH Q1Aなど)に規定されているような安定性試験にパイロットスケールロット(例えば、少なくとも実生産スケールの 10 分の 1 など)を用いることの考え方は、CM には適用されない場合がある。安定性試験用と商業生産ロットの製造量が異なる場合に考慮すべき点については、第3.2項を参照のこと。
基準となる安定性データを得るために用いるロットは、商業生産工程を反映した製造工程及び装置を用いて製造されるべきである。安定性基準ロットは、ICH 安定性試験のガイドラインに記載のある変動性(例えば、原薬ロット又はセルバンクのバイアルが異なるなど)を反映しているべきである。複数の安定性試験ロットを同じ質量流速のままで生産稼働時間を短縮して製造してもよい。ただし、管理できた状態が確立され、より長い商業生産稼働時間を通じて維持されることが証明されている場合に限る。代わりに、化学薬品であれば、上記の変動性をロットに反映している場合(例えば、異なるロットの原薬を順に用いるなど)、1 回のスタートアップ/シャットダウンからなる 1 回の CM 運転で、複数の安定性試験ロットを得ることができると考えられる。
4.6. バッチ生産工程から CMへの切替え
生産モードをバッチから連続に変更する場合、第 3 項で特定した要因に留意し、適切な管理戦略の開発が必要となる。バッチ及び連続工程で得た生産物の品質は同等であるべきである。生産物の同等性/同質性を確保し、追加の生物学的同等性、非臨床又は臨床試験及び安定性データの必要性について評価するためには、科学及びリスクに基づくアプローチを採用すべきである。治療用タンパク質製剤の場合の生産物の同等性/同質性を確保する方法に関するさらなる詳細は ICH Q5Eで確認できる。製造業者は承認済みバッチ生産工程を CM工程に変更する前に規制当局から承認を得るべきである。製造業者は申請する変更について規制当局の期待、製造業者の戦略及びデータパッケージの受入れ可否を明確にするために、規制当局の助言を求めることができる(例えば、CM への切替えに必要な処方の変更の可能性、及びこれらの変更の製品登録への影響など)。
4.7. プロセスバリデーション
各極の規制及びガイダンスに設定されているように、バッチ及び CM 工程には同様のプロセスバリデーションの要件が適用される。ロット数が固定されている従来のプロセスバリデーションアプローチに加えて、継続的工程確認アプローチも使用できる。ただし、継続的工程確認アプローチの使用は、製品及び工程理解、システム設計並びに全体の管理戦略に基づいて妥当性が示されるべきである。
継続的工程確認を用いる場合、収集されたリアルタイムデータにより管理できた状態が維持され、稼働時間を通して目的とする品質の生産物が製造されていることが示されるよう、CM システム性能及び中間体/中間製品等の品質が連続的にモニタリングされているべきである。申請資料には、継続的工程確認のために申請した管理戦略の妥当性を裏付ける根拠を記載すべきである。
継続的工程確認アプローチを使用して初回の製品上市を裏付ける場合、申請者はバリデーション活動が十分となり、商業用製造工程の信頼性が確保されると考えられる時期を規定しておくべきである。
4.8. 医薬品品質システム
PQS での期待事項はバッチ生産工程と CM 工程で同じであり、関連する ICH ガイドラインに従うべきである。CM で稼働上重要なことは、原料/中間製品等のトレーサビリティ、工程モニタリング及び中間体/中間製品等のダイバージョン戦略が十分に設定されている場合に、不適合中間体/不適合中間製品等をロットからダイバートできる点である。必要な場合、中間体/中間製品等のダイバージョンの手順はPQSの下で設定すべきである(第4.2項を参照のこと)。計画されたイベント(例えば、システムスタートアップ及びシャットダウンなど)によりダイバートされた中間体/中間製品等については、イベントが製造工程の稼働性能に対して設定された判定基準を満たす場合、通常、調査を要さない。外乱を管理するためのアプローチの例を付録 Vに示す。付録 Vに記載のとおり、予期せぬ外乱が生じた場合には、適切な調査、根本原因分析、並びに是正及び予防措置(CAPA)を実施すべきである。外乱の管理方法を中間体/中間製品等のダイバージョンのカテゴリ別に記載した包括的な計画又はディシジョンツリーをPQSの下で維持すべきである。
4.9. ライフサイクルマネジメント
CMのライフサイクルマネジメントには、ICH Q12に記載の原則及びアプローチが適用可能である。既存の製品のバッチ生産から CM 工程への切替えに伴う追加のライフサイクルマネジメントについては第4.6項を参照のこと。
4.10. CTDで提出する CMに特有の情報
ICH M4Q で概要が示されているとおり申請資料に情報を記載すべきである。該当する場合、CMに関連する追加要素も申請資料に記載すべきである。表1に当該要素の一部を示す。原薬から製剤までの一貫した CM工程の場合、一貫したフロー図といった情報及びデータを 3.2.P項にまとめて示してもよい。その際、3.2.S 項への相互参照を付ける(さらなる詳細については付録IVを参照のこと)。
表 1:CTDで提出する CMに特有の情報
CTD 項 | 情報及びデータ |
3.2.S.2.6 3.2.P.2.3 |
製造工程の開発の経緯
|
3.2.S.2.2 3.2.P.3.2 |
ロットの定義
|
3.2.S.2.2 3.2.P.3.3 |
製造工程及び工程管理に関する説明
|
3.2.S.2.4 3.2.P.3.4 |
重要工程及び重要中間体の管理
|
3.2.S.4.1/4.2 3.2.P.5.1/5.2 |
規格及び試験方法/試験方法(分析方法)
|
3.2.S.4.5 3.2.P.5.6 |
規格及び試験方法の妥当性
|
3.2.R | 各極の要求資料
|
5. 用語
- 能動制御:
工程の出力が目的とする範囲内に維持されるよう工程を自動的に調整するハードウェア及びソフトウェアアーキテクチャ、メカニズム並びにアルゴリズムで構成されるシステム。例としてはフィードフォワード及びフィードバック制御がある。 - ロット:
規定された限度内で均質と予測できる、1 つの工程又は一連の工程で製造された原材料等の特定の量。連続製造の場合には、ロットは製造の規定された画分に相当する。ロットサイズは、特定の量又は特定の時間内に製造された量と定義される。バッチともいう。 - 外乱:
システムに導入される工程への入力が正常な運転範囲又は条件(例えば、工程パラメータ、原料/中間製品特性、装置の状態又は環境など)を超えるような想定されていない変化。 - ダイバージョン:
製造工程で生産物の流れから原料/中間製品等を分離及び隔離する手順。 - 原料/中間製品等のトレーサビリティ:
製造工程を通して原料/中間製品等の分布を追跡する能力。 - モデルの維持:
製品のライフサイクルを通して規定された一連の活動で、モデルの性能をモニタリングし維持することで継続してモデルの意図した承認済みの目的に対する適切性を担保する。 - 多変量統計的プロセス管理:
多変量統計手法を適用することで、複雑な工程データを相関性があると考えられる変数で解析する。(EP) - 動的特性:
条件変更又は一過性イベントに対する製造工程の反応。 - 滞留時間分布(RTD):
物質が特定の工程環境/容器/単位操作を通過する際の滞留時間範囲の尺度。(ASTM E2968-14) - 稼働時間:
ある量の生産物の製造に要する時間。 - ソフトセンサー:
物理的な測定の代わりに用いられるモデルで、測定データ(例えば、工程データなど)に基づいて変数又は特性(例えば、原料/中間製品の品質特性など)を推定する。当該データ変数の選択を含むモデル開発は、包括的な製品及び工程の理解により進められる。 - 定常状態:
時間が経過しても変化しない安定した状態。 - システム:
製造の構成。CM においては個々の装置からなり、それぞれの装置、モニタリング、管理システムとの接続及び空間配置で構成される。 - 一過性のイベント:
工程が動的変化を受ける一時的な状態。この変化は外乱又は選択した運転条件での意図的な変更(例えば、スタートアップ、シャットダウン、ある運転条件の別条件への変更など)により生じることがある。 - 単位操作:
工程での 1 つの基本ステップ。単位操作では、反応、結晶化、混合、精製、造粒、ろ過、ウイルス不活性化などの物理的又は化学的変換を伴う。
6. 参照文献
- ASTM E2968-14:Standard Guide for Application of Continuous Processing in the Pharmaceutical Industry
- EP:欧州薬局方
- ICH Q1A:安定性試験ガイドライン
- ICH Q5C:生物薬品(バイオテクノロジー応用製品/生物起源由来製品)の安定性試験
- ICH Q5E:生物薬品(バイオテクノロジー応用医514 薬品/生物起源由来医薬品)の製造工程の変更にともなう同等性/同質性評価
- ICH Q6A:新医薬品の規格及び試験方法の設定
- ICH Q7:原薬 GMPのガイドライン
- ICH Q8:製剤開発に関するガイドライン
- ICH Q9:品質リスクマネジメントに関するガイドライン
- ICH Q10:医薬品品質システムに関するガイドライン
- ICH Q11:原薬の開発と製造(化学薬品及びバイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)ガイドライン
- ICH Q12:医薬品のライフサイクルマネジメント
- ICH M4Q:CTD(コモン・テクニカル・ドキュメント)品質に関する文書の作成要領に関するガイドライン
- Points to Consider:ICH品質に関するガイドライン実施作業部会留意事項「ICHによって承認された ICH Q8/Q9/Q10の実施に関する指針」