倫理指針 規制

Let's 解読!倫理指針 Part 06 「研究機関の長の責務等(総括的な監督、体制・規程の整備)」

次は、研究機関の長の責務等です。

こちらも二本柱であり「総括的な監督」と「体制・規程の整備等」から成ります。

研究に対する総括的な監督

⑴ 研究機関の長は、実施を許可した研究について、適正に実施されるよう必要な監督を行う責任を負うものとする。

これだけ読んでも気づかないのですが、従来の倫理指針から大きく変わった箇所がここです。

以前は「研究機関の長は、実施を許可した研究について、適正に実施されるよう必要な監督を行うとともに、最終的な責任を負うものとする。」と、赤字の記載がありました。

これがごっそり抜けており、最終的な責任を負うのは研究機関の長ではなく、研究責任者へと変更されています。

⑵ 研究機関の長は、当該研究がこの指針及び研究計画書に従い、適正に実施されていることを必要に応じて確認するとともに、研究の適正な実施を確保するために必要な措置をとらなければならない。

研究が指針や計画書に従って実施されているかどうかの確認は、最終責任者ではなくなったとしても、研究機関の長としての責務として残っているのですね。

⑶ 研究機関の長は、研究の実施に携わる関係者に、研究対象者の生命、健康及び人権を尊重して研究を実施することを周知徹底しなければならない。

「研究の実施に携わる関係者」というのは、研究者等にくわえて、業務委託契約によって研究業務の一部を担う人達も含まれます。

そのため、研究機関の長は、違う組織または会社の人たちに対しても、ちゃんと「研究対象者の生命、健康及び人権を尊重して研究を実施」するように周知徹底する責務があります。

⑷ 研究機関の長は、その業務上知り得た情報を正当な理由なく漏らしてはならない。その業務に従事しなくなった後も同様とする。

例えば、研究機関の長の任期が終わって退職した後も、週刊●●のような雑誌社にネタとして持ち込んだり、YouTubeチャンネルを立ち上げて曝露したり、ということは絶対にダメです。

まず、研究機関の長を務められるような方がそんなことをするとは考えられませんが、うっかりお酒の席で漏らしてしまうのもダメです。

研究の実施のための体制・規程の整備等

⑴ 研究機関の長は、研究を適正に実施するために必要な体制・規程を整備しなければならない。

「研究を適正に実施するために必要な体制・規程」とは、例えば、「有害事象の取り扱いに関する手順書」「情報漏洩を防ぐための組織や体制の構築(あるいは設備の整備)」「研究参加者あるいはご家族からの相談や問い合わせに対応するための窓口の設置」などがあるでしょう。

特に、相談窓口の設置については、電話番号やメールアドレス、ウェブサイトの問い合わせフォームの設置であったり、その対応のための人員確保など、何かとお金がかかります。もちろん、手順書作成や情報漏洩防止策にもそれなりに費用がかかるものの、有害事象や情報漏洩は、研究参加者からの相談に比べたらそこまで発生するものではないでしょう。

研究参加者やご家族からの相談は、むしろ、倫理的な懸念や誤解を防ぐという観点からは、「相談しやすい環境」の整備が望ましいとも考えられます。

とはいえ、研究自体というよりは、研究機関全体のリソースに関わる話なので、研究責任者よりも研究機関の長が主に勘案するべき事項と言えるでしょう。

⑵ 研究機関の長は、当該研究機関の実施する研究に関連して研究対象者に健康被害が生じた場合、これに対する補償その他の必要な措置が適切に講じられることを確保しなければならない。

⑶ 研究機関の長は、研究対象者等及びその関係者の人権又は研究者等及びその関係者の権利利益の保護のために必要な措置を講じた上で、研究結果等、研究に関する情報が適切に公表されることを確保しなければならない。

研究参加者のプライバシーを守りながら、研究結果を社会全体に公開することで、医学や生命科学の発展に貢献することが求められます。

⑷ 研究機関の長は、当該研究機関における研究がこの指針に適合していることについて、必要に応じ、自ら点検及び評価を行い、その結果に基づき適切な対応をとらなければならない。

「点検及び評価」のために、例えばチェックシートのようなものが使われることが考えられますが、それらの準備は各研究機関において行うことが求められています。

⑸ 研究機関の長は、倫理審査委員会が行う調査に協力しなければならない。

例えば、施設で保管している「研究参加者が署名した同意説明文書の原本」などを開示することが倫理審査委員会から求められた場合には、研究参加者のプライバシーを守りながらも、調査に協力する必要があります。

⑹ 研究機関の長は、研究に関する倫理並びに研究の実施に必要な知識及び技術に関する教育・研修を当該研究機関の研究者等が受けることを確保するための措置を講じなければならない。また、自らもこれらの教育・研修を受けなければならない。

研究機関の長に任命された方は、倫理指針に関する教育・研修を受けることが求められています。

また、研究機関の長としての権限や事務的な業務が、他の方に委任されるケースもあり得ますが、その際にも、委任される方は倫理指針に関する教育・研修を受ける必要があります。

⑺ 研究機関の長は、当該研究機関において定められた規程により、この指針に定める権限又は事務を当該研究機関内の適当な者に委任することができる。

研究機関の長の業務は当然ながら幅広く大量であるでしょうから、実際には実務をどなたかに委任する必要があるケースが多いでしょう。

その場合、どんな方が候補に挙がるでしょうか。例えばですが、「学部長」「病院長」「保険所長」「研究所長」のような方々が考えられます。

また、すべての業務を丸ごと委託するというよりは、頻繁に起こる、あるいは緊急の対応が求められるような業務が優先的に委任されるでしょう。

具体的には下記のようなものが考えられます。

  • 研究計画書の倫理審査委員会への付議であったり、研究計画の許可を行うこと
  • 機関外部に業務を委託する際の契約締結業務
  • 重篤な有害事象への対応業務
  • 機関が保有する個人情報の安全管理措置業務

-倫理指針, 規制

© 2024 RWE