ビジネス全般

世界経済の動向~感染症による影響からの回復~

世界経済の動向

2021年の世界経済は、各国において財政・金融政策による下支えが行われている中で、新型コロナウイルス感染症(以下、感染症)の拡大防止のための経済活動制限措置が各国で段階的に緩和されたことを受け、持ち直している。欧米を中心に景気が世界的に同時に持ち直す中で、需給がひっ迫し、原材料及び人手の不足や価格上昇が生じており、それらが経済に与える影響に留意が必要な状況となっている。また、中国では、環境規制や不動産過熱抑制策の影響等により景気回復のテンポが鈍化しており、他国への影響も懸念される。本節では、こうした21年の世界経済の動向を概観する。

1. 各国の感染及び経済の概況

(1)ワクチン接種と感染の状況

20年において、感染拡大は、ロックダウン等の経済社会活動の制限を通じ、経済にマイナスの影響を与える関係にあった。20年末以降のワクチン接種の進展は、この関係を一定程度、変えることとなり、世界経済の改善への動きを後押しした。

まず始めに各国のワクチン接種と感染の状況をみてみよう。先進国においては、21年前半にはアメリカと英国でワクチン接種が先行して進展し、その後、他の先進国においても接種が広がった。先進国の感染者数等の動向をみると、新規感染者数は、21年後半において各国で拡大する局面がみられたが、ワクチン接種が進展する中で、死者数や重症者数は、20年や21年前半と比較して増加が抑えられる結果となった。ワクチン接種の進展により、感染拡大と制限措置の関係が薄れ、後述するように経済への打撃が抑えられるようになった。

一方、アジア新興国をみると、先進国に比べ接種の進展が遅れた。東南アジアでは、21年夏に感染が拡大し、経済活動の制限措置が実施されたが、秋頃は感染の増加が抑えられ、制限措置は緩和されつつある。

ただし、21年11月下旬以降、新たな変異種の感染が各国で確認されており、感染による経済への影響には注視が必要である。

(2)各国の実質GDPの推移

(欧米先進国)

ワクチン接種の進展は、感染拡大と経済動向の関係に変化をもたらしたと考えられる。すなわち、ワクチン接種の進展前は、感染拡大と制限措置実施が強く結びついており、経済動向にも大きく影響したが、接種進展後は、その結びつきが薄れてきた。この下での世界経済の動向を、各国GDPを中心に振り返ってみよう。

アメリカでは、21年前半、ワクチン接種が進展する中で制限措置が緩和され、実質GDP成長率は、21年1~3月期、4~6月期に前期比年率で6%台と高い成長となった。7~9月期には、供給制約を受けた自動車の減産等により消費や設備投資の伸びが鈍化したものの、プラス成長を維持した。10~12月期には、消費や輸出、在庫投資等がプラスに寄与し、前期比年率6.9%と、再び6%台の成長となった。

欧州各国をみると、21年夏までに域内移動の制限緩和が行われたこともあり、7~9月期において旅行等のサービス消費が増加し、4~6月期に続き大きなプラス成長となった。ただし、GDPの需要項目の内訳をみると、設備投資については、半導体不足を背景に輸送機器の投資が大きく減少したこと等から、7~9月期において、ドイツ及び英国で前期比マイナスとなった。

各国の輸出入の動向を財・サービス別に確認すると、財輸出については、欧米各国とも4~6月期は前期比プラスとなったものの、7~9月期には、供給制約の影響や中国向け輸出の減少等により、前期比マイナスとなった。サービス輸出については、各国とも財輸出に比べ戻りが遅い中で、フランスにおいては、旅行需要が堅調だったことなどから、21年後半に大きく増加した。

(アジア新興国)

アジア新興国では、ワクチン接種が遅れたことにより、先進国とは異なり、21年においても感染が拡大した局面で制限措置が実施され、実質GDPは下押しされた。

中国では、20年に感染拡大に伴う落ち込みから他国よりもいち早く回復したものの、21年7~9月期の実質GDPは、前年比で+4.9%(4~6月期は同+7.9%)、19年比で+10.0%(4~6月期は同+11.4%)と、前期から伸びが鈍化した。回復鈍化の要因として、7月下旬から8月における感染再拡大を受けた経済活動の制限措置の強化、8月以降の政府による環境規制の強化及び石炭等の原材料価格の上昇による電力供給不足の深刻化に伴う生産の下押し、累次の不動産市場の過熱抑制策の強化を背景とした不動産市場の冷え込み等が挙げられる。

インドでは、21年3月後半から感染が再拡大し、4月以降、地方政府ごとに経済活動制限措置が採られたことにより、21年4~6月期の実質GDPは19年比で-9.2%と、1~3月期の+4.7%から大きく低下した。感染者数が減少傾向に転じる中で、6月以降は各地で制限緩和が進み、7~9月期の実質GDPは19年比で+0.3%とプラスに転じた。

タイやインドネシアをはじめとする東南アジア各国では、21年夏頃に感染が再拡大し、外出制限や在宅勤務強化等の制限措置が採られた。その結果、21年7~9月期の実質GDPは、タイでは19年比で-6.7%、インドネシアでは同-0.1%となった。東南アジアで経済活動が制限されたことにより、部品の生産が滞り、日本や中国における自動車等の減産につながった。その後は、感染状況の改善やワクチン接種の進展を受けて経済活動が順次再開していったことで、底打ちして持ち直しに向かっている。

2. 需給のひっ迫と物価の上昇

21年の世界経済は、各国同時的な景気持ち直しを受けた需要が増加する中、供給制約の顕在化に特徴付けられることとなった。具体的には、部品供給不足、物流の滞留、人手不足等である。加えて、原材料価格が上昇するとともに、物価も世界的に上昇した。

本項では、こうした動きについて確認する。

(1) 部品供給の不足・物流の滞留

21年には、企業は部品供給の不足に直面し、それが生産の下押しにつながることとなった。製造業企業が直面した部品供給不足の度合いを確認するために、サプライヤー納期に関する製造業企業の認識を世界全体のPMIでみると、20年後半以降、長期化の傾向が強まった。

部品供給の不足は、特に半導体において深刻である。半導体の不足により、21年には各国において自動車の生産が下押しされた。供給面での制約は幅広い分野でみられているが、半導体不足はその代表例と言える。半導体の不足により、乗用車の生産や販売は、欧米を中心に低下傾向が継続している。自動車生産の低迷は、各国の設備投資や輸出を下押しする一因となっている。OECDの試算によれば、自動車産業における供給制約により、21年のGDPが、ドイツでは1.5%超、メキシコ、チェコ、日本では0.5~1.0%程度押し下げられたと試算しており、影響の深刻さがうかがえる。

供給面での制約は、部品の不足だけではなく、物流面にも表れている。アメリカのロングビーチ港におけるコンテナの待機状況をみると、21年秋以降、待機しているコンテナの割合が上昇していることが分かる。

(2)人手の不足

欧米では、上記でみてきた原材料や部品として用いられる財の不足に加え、人手不足もみられつつある。

欧米における労働力需要の状況をみるために求人数の動向を確認すると、アメリカ、ドイツ、英国のいずれにおいても、21年に求人数が増加している。特にアメリカでは、求人数が失業者数を上回って推移しており、労働需給がひっ迫していることがうかがえる。

労働需給のひっ迫により、アメリカや英国では賃金上昇率も高まっている。アメリカの賃金の動向について、パウエルFRB議長は、22年1月、賃金は勢いよく上昇しており、生産性を上回る実質賃金の伸び続いた場合に物価上昇圧力がかかるリスクに注意を払っている旨を発言した。

アメリカの地区連銀経済報告(ベージュブック)では、大幅な賃上げや柔軟性の高いサービスを提供する競合他社に従業員が引き抜かれ、離職率が増加したとの報告がある。実際に、アメリカの賃金上昇率と自発的離職率をみてみると、レジャー・接客業においては、21年半ば以降、賃金上昇率と自発的離職率がともに急上昇している。

(3)原材料価格の上昇

21年後半には、資源価格をはじめ、原材料価格が一段と上昇する局面が見られた。

原油価格についてみると、21年7~8月には、デルタ株による感染拡大等を受けて低下した後、9~10月には各国の景気持ち直しを受けて上昇し、11月初旬にはWTIが84.05ドル/バレルと、14年10月以来の高い水準となった。その後は、アメリカ政府による戦略石油備蓄放出の動きや、新たな変異株であるオミクロン株の出現等を受けて下落したものの、オミクロン株に対する懸念後退等を背景に再び上昇し、21年1月20日時点で86.9ドル/バレルとなった。

21年には原油価格のほかに、天然ガスや石炭の価格も上昇した。背景には、世界的な経済の持ち直しによる需要増や、欧州等での風況不良による風力発電の出力低下に加え、天然ガスについては、ロシアからの供給の減少といった要因も存在する。21年終盤には価格上昇が一服したものの、20年初に比べ高水準の状態が続いている。

資源価格を始めとする原材料価格の上昇は、企業の収益に影響を及ぼす。原材料価格の上昇が収益に与える影響を確認するため、価格転嫁の進展度合いを示す「販売価格DIと仕入価格DIの差」(以下「疑似交易条件」という。)をみてみよう。両者の差は産出・投入の相対価格の動きを示しており、投入価格の上昇をどの程度産出価格に転嫁できているかを推し量ることができる。製造業、サービス業のいずれにおいても、20年後半以降、仕入価格DIが大きく上昇した。仕入価格の上昇は、一定程度は販売価格に転嫁されているものの、擬似交易条件は悪化しており、製造業の方が企業の収益の悪化度合いが強いことが予想される。

(4)物価の動向

上述のような供給面での制約や資源価格の上昇等により、21年は世界的に物価の上昇がみられた。

アメリカ及びユーロ圏の消費者物価上昇率(総合)をみると、21年4月以降、エネルギー価格の上昇の寄与がユーロ圏では過半、アメリカでもおよそ3分の1を占めている。ガソリンや電力・ガスといったエネルギー関連の価格は、アメリカ及びユーロ圏のいずれにおいても、前年比で2桁台の高い伸びとなっており、消費者物価全体の上昇に寄与している。

アメリカでは、エネルギーのほか、主に中古車価格の上昇により輸送機器の価格上昇もみられる。パウエル議長は21年12月、アメリカにおける物価上昇について、足下では物価上昇が広範囲の財やサービスに及んでおり、一時的とはみなせないと指摘した。言い換えれば、コスト増の価格への転嫁と、経済の回復に伴う需要増の両面を反映したものと評価できる。

ユーロ圏では、ドイツで20年7~12月に行われた付加価値税率の引下げによるベース効果も、物価の押上げ要因となっている。

物価の上昇は、先進国のみならず、新興国を含め世界的にみられている。IMFによれば、先進国及び新興国の消費者物価上昇率(総合)の前年比は、20年にそれぞれ+0.7%、+5.1%だったのが、21年はそれぞれ+3.1%、+5.7%に上昇する見込みである。新興国を見ると、エネルギー価格の上昇や通貨安等を背景に、ブラジルやロシアなどの国において消費者物価の上昇率が高まっている。

3. 財政金融政策の動向

(1)金融政策

21年の金融政策の動向をみると、欧米では、金融市場が安定化したことに加え、景気が持ち直してきたことを受け、20年3月以降に実施されてきた大規模な金融緩和を縮小する動きがみられる。一方、中国では、中小企業を支援することを目的として、預金準備率の引下げが実施された。他の先進国や新興国においては、主要国における金融緩和縮小を見据え、政策金利を引き上げる動きがみられた。

(アメリカ)

FRBは、20年3月以降に実施してきた大規模な資産購入について、20年12月の会合以降、雇用最大化と物価安定の目標達成に向けて「明確な一層の進展」がみられるまで、米国債を少なくとも月800億ドル、不動産担保証券(MBS)を少なくとも月400億ドル、保有額を増加させ続けるとしていた。21年11月のFOMC会合においては、「明確な一層の進展が達成された」として、保有額の増加ペースを、米国債については100億ドルずつ、MBSについては50億ドルずつ縮小することを決定した。また、12月のFOMC会合では、物価上昇の進展と労働市場の一層の改善を踏まえ、22年1月以降、資産購入縮小のペースを加速させ、米国債については200億ドルずつ、MBSについては100億ドルずつ縮小することを決定した。続く22年1月会合では、資産購入縮小を3月上旬に完了させることを決定した。また、FRBは同日、「バランスシート縮小のための原則」を公表し、バランスシートの縮小は利上げプロセス開始後に実施することなどを明記した。

政策金利であるFF金利(フェデラル・ファンド金利)の誘導目標範囲については、22年1月時点で0.00~0.25%に維持されている。21年12月会合において示された、各FOMC参加者が適切と考える政策金利予想の中央値をみると、利上げ幅が0.25%であるとの前提に基づけば、21年9月会合においては22年で1回の利上げが適切であるとされていたところ、12月会合では、22年で3回の利上げが適切であるとされ、利上げの前倒しを示唆する予想となった。22年1月会合の声明文では、「物価上昇率が2%を大きく上回り、労働市場も強さを示していることを踏まえると、近い将来に政策金利の誘導目標範囲を引き上げることが適切」とされた。同会合後の記者会見において、パウエル議長は、3月会合で利上げの可否を決定する予定である旨を発言した。

(ユーロ圏)

ECBは、20年3月以降に実施してきたパンデミック緊急購入プログラム(PEPP:Pandemic Emergency Purchase Programme)について、段階的に縮小させることを方向付けた。PEPPは、感染症の危機が去ったと判断される時点で終了(ただし22年3月末までは実施)するとされていたところ、21年9月の政策理事会で、資金調達環境と物価上昇見通しに対する評価に基づき、同年第4四半期における買入が、前2四半期と比べて適度にペースを下げて行われると予想するとした。同年12月の政策理事会においては、22年第1四半期の資産購入ペースについて、前4四半期よりも低いペースで行われると予想するとし、経済の回復と中期的な物価目標に向けての進展を考慮し、22年3月にプログラムを終了することを決定した。それと同時に、資産購入プログラム(APP:Asset Purchase Programme)について、購入ペースをそれまでの月200億ユーロから引き上げ、22年第2四半期につき400億ユーロ、第3四半期につき300億ユーロとすることを決定した。22年10月以降は、毎月200億ユーロのペースでの資産購入を維持し、主要金利の引上げ開始の直前まで純購入を続けるとしている。

政策金利については、20年に引き続き、21年も据え置かれている。

(英国)

BOEは、21年12月の金融政策委員会において、政策金利を0.10%から0.25%に引き上げることを決定した。BOEは政策金利引上げの理由について、経済指標、特に労働市場関連データにおいて、11月の委員会での予測に沿った進展が続く中で、消費者物価指数を目標の2%に持続的に戻すために必要だとしている。今後については、2%の物価上昇目標を持続的に達成するためには、予測期間中(24年末まで)に金融政策の若干の引締めが必要となる可能性が高いとした。

資産購入の目標額については、21年において、国債、社債ともに維持されている。

(G20)

21年に、アメリカやユーロ圏、英国で金融政策の正常化に向けた動きがある中で、その他の主要国においても同様に、政策金利を引き上げる国が多くみられ、金融政策の正常化に向けた動きが世界的に広がっている。

G20における政策金利の引上げ・引下げ回数に関して。19年及び20年には、米中貿易摩擦を背景とする景気の減速や、感染拡大による打撃を受け、政策金利の引下げを行う国が多くみられたが、21年には、韓国のほか、ブラジルや南アフリカといった新興国において、政策金利が引き上げられている。各国の政策金利引上げの背景には、各国において物価が上昇している点に加え、主要先進国における金融緩和の正常化に向けた動きによる資金流出懸念があるとみられる。

(補論)中国の金融政策

中国では、20年2月以降、感染症による経済への打撃を緩和するため、MLF(Medium-term Lending Facility(中期貸出ファシリティ))金利の引下げ等、緩和的な金融政策が採られたが、21年前半は、景気の回復に伴い緩和の度合いは低下した。しかし、7月に入り、一部の商品価格の継続的な上昇による小規模零細企業の生産経営コストの増加に対応するため、預金準備率を0.5%ポイント引き下げ、12月にも特に中小企業支援を強化する目的でさらに0.5%ポイント引き下げた。中国人民銀行は、それぞれ約1兆元(7月実施分)と約1.2兆元(12月実施分)の長期流動性が供給されるとしたが、穏健な金融政策スタンスの変更を意味するものではないとしている。

21年の通貨供給量・社会融資総量(金融システムから実体経済に供給される資金の総量)の伸びについて、21年3月の全人代では、「前年の水準を明らかに上回るように促す」から「名目成長率とほぼ一致するようにする」に変更された。この方針を踏まえ、社会融資総量 (フロー)は、21年は前年比16.4%減(9月までの累積)となり、20年の同35.8%増から大幅に低下した。四半期ごとにみても、21年第1~3四半期には前年の水準を下回った。M2の伸びも、20年3月から年末にかけて前年比10%超と高い伸びとなったが、その後は低下し横ばいとなっている。

また、中国人民銀行は22年1月、1年物のMLF金利を0.1%ポイント引き下げた。銀行の貸出金利の指標とされるローンプライムレート(1年物)も、21年12月及び22年1月に、それぞれ0.05%ポイント、0.10%ポイント低下した。

(2)財政政策

感染拡大以降、各国では大規模かつ累次に及ぶ経済対策や支援策が採られてきた。欧米では、21年に経済の持ち直しを受け一部支援策が終了または縮小された。一方、感染症の影響の長期化を受け、一部の支援策は延長された。

先行きの不確実性が残る中、企業等への支援策を縮小、終了、継続126のいずれを選択するか国によって対応が分かれている。また、短期的な支援策に加え、中期的な施策を含む新たな経済対策が成立する動きもみられた。

(ア)21年に終了した支援策

以下では、21年に終了した支援策として、アメリカの失業手当拡充措置、英国の雇用維持スキームを例に挙げ、その動向を概説する。

(アメリカの失業手当拡充措置の終了)

アメリカでは、20年4月以降、失業手当の拡充措置(金額の上乗せ、対象者の拡大(自営業者等)、受給期間の延長)が実施された。当初は20年6月までの措置だったところ、その後の追加対策によって延長や再開が繰り返され、21年9月が措置の期限となっていた。21年6月から7月には、連邦政府の措置終了を数か月後に控える中、それを待たずして、約半数の州において、順次、前倒しで終了となった。9月には、再度の延長措置は行われず、残りの州においても終了を迎えることとなった。

拡充措置が一部の州において前倒しで終了された背景には、アメリカ経済が着実に持ち直す中で、失業手当の拡充措置が雇用の回復を妨げているとの指摘があった。パウエル議長は、21年6月、雇用者数や労働参加率が感染症前の水準を大きく下回っている要因の1つとして、失業保険の拡充を挙げている。

アメリカの失業保険受給者数の動向を確認すると、21年9月の連邦政府による失業手当拡充措置の終了により、自営業者や、従来の期間を超えて受給者する者が大きく減少した。失業手当拡充措置の終了の影響を名目個人所得の推移でみると、措置の終了に伴い、21年9月に失業手当による所得が減少したものの、その他の個人所得(雇用者報酬等)が20年末以降増加を続けており、個人所得全体でみれば堅調に推移している。

(英国の雇用維持スキームの終了)

英国では、20年3月から雇用維持スキーム(Coronavirus Job Retention Scheme)が実施されてきた。本スキームは、企業向け従業員給与補助として、一時休暇中の雇用者を対象に人件費の一定率を企業に支給するものである。当初は20年10月末の終了を予定していたが、イングランドで2度目の都市封鎖実施が表明された10月31日、11月末まで延長・拡充することが表明された。人件費の政府補助率は、20年3月の開始時の80%から段階的に引き下げられ、10月には60%としていたが、11月には再度80%に引き上げられた。その後、雇用維持スキームを最終的に21年9月末まで継続することに改められ、補助率については21年6月まで80%とし、7月に70%、8~9月に60%に、段階的に引き下げることとした。21年春以降に経済活動が段階的に再開される中、同スキームは、実際に、政府補助率の段階的縮小を経て、21年9月末で終了となった。英国の一時帰休者数の推移をみると、20年秋から21年初にかけて実施された都市封鎖により増加したものの、経済再開と政府補助率の縮小が並行して行われ、減少が続いた。

本スキームの効果について、Institute for Government(行政効率化等を研究する英国の民間シンクタンク)は、21年9月に公表した報告書において以下のようにまとめている。同様の制度を導入していないアメリカやカナダでは、感染拡大初期には雇用が10%以上減少し、かつ、その後の生産回復局面では人手不足の問題が生じたのに対し、英国ではロックダウン期間中においても雇用の減少が抑えられたと指摘している。その上で、本スキームは、採算の合わない職の存続をも支援することで労働市場の再配置を遅らせるリスクを高める可能性があるとし、経済と労働市場のより円滑な機能のため、新たな公衆衛生上の制限が設けられない限りは、21年9月末で廃止するのが妥当であるとしている。本スキームの終了時点で、約110万人(民間部門の雇用の約4.5%)が一時帰休を行っていたが、BOEは、本スキームの終了に伴う大規模な人員削減はみられず、終了後の失業率押上げへの影響は限定的であるとしている。

(イ)新たに成立または公表された中期的施策

このように、感染の影響を受けた一部支援策が終了となる中で、各国では中期的な経済対策実施の動きがみられた。以下では、アメリカ及び英国について、21年後半に公表、成立した施策を取り上げる。

(アメリカ)

アメリカでは、バイデン大統領が政権発足後に打ち出した計画をベースに、インフラ投資、環境投資、教育支援等の中期的な経済政策について民主・共和党間で議論が行われてきた。インフラ投資については、21年11月15日、道路・橋梁の修繕や鉄道の近代化等を主な内容とする、総額約1.2兆ドル(約128兆円、対GDP比5.7%)の「インフラ投資法(Infrastructure Investment and Jobs Act)」が成立した。環境投資や教育支援等については、「より良き再建法(Build Back Better Act)」として法案化され、21年11月19日に下院で可決されたが、22年1月中旬時点で、上院では未可決となっている。

(英国)

英国は、21年10月27日、「2021年秋季予算案及び歳出計画(Autumn Budget and Spending Review 2021)」を発表(2021-22歳出計画額約1兆ポンド、対GDP比45.1%)し、国内経済の順調に回復している点を背景として、第2-1-33表の経済対策を中心としたコロナ後の経済構築に着手する方針を示した。

(エ)財政収支及び債務残高の見通し

20年3月以降、各国は大規模な財政支出を行ってきた。OECD見通しにおける欧米主要国の政府財政収支対GDP比をみると、アメリカ、英国、フランスでは20年に赤字幅が大きくなっており、その後は縮小していく見込みとなっている。ドイツにおいては、他の欧米主要国よりも赤字幅は小さいながらも、21年は20年に比べて赤字幅が拡大し、22年以降に縮小していく見通しとなっている。また、政府債務残高対GDP比をみると、各国20~21年に上昇し、その後はおおむね横ばいで推移する見通しとなっている。

感染拡大を受けた財政政策対応に関し、OECDは、21年12月の見通しにおいて、財政政策は引き続き柔軟であるべきで、短期の見通しが不確実な間は、拙速な政策支援の縮小は避けるべきとすると同時に、中長期の持続可能性についての明確なガイダンスを示す枠組が必要という指摘も行っている。欧米主要国では、財政状況が悪化していることを踏まえ、増税等の方法による財源の確保や財政健全化に向けた取組を検討、実施している。アメリカでは、教育投資や環境投資に関する10年間の歳出計画において、富裕層や企業に対する増税等により、必要な財源確保の検討を行っている。ドイツでは、21年11月に公表した3党の連立協定書において、22年は感染症の継続的な影響への対処のため20年、21年に引き続き債務ブレーキを免除するものの、23年以降は同ルールを再び適用する旨が盛り込まれた。フランスでは、20年及び21年における感染症に起因する政府債務の増加分を1,650億ユーロと見積もり、増税ではなく成長とそれに伴う追加収入により、42年までに償還するとした。英国では、現行一律19%の法人税率について、23年4月から、企業の収益に応じて最高25%に引き上げることとし、また、21年10月公表の予算責任憲章において、24年度までに公的部門の経常的収支を均衡させることを盛り込んだ。これら各国の動きに加え、EUでは、21年10月にEUの財政ルール(経済的ガバナンスに関する枠組)の見直しを再開する旨のコミュニケを公表した。コミュニケでは、コロナ禍での政策対応の経験も踏まえ、短期のマクロ経済の安定や中長期の社会・環境面での課題に対応するために効果的な枠組みの模索を図ることとしている。また、20年7月に合意された総額7,500億ユーロの復興基金については、財源である共同債の返済のための新たな独自財源に関する批准が21年5月に完了した。独自財源には、各国におけるリサイクルされないプラスチック量に基づいて分担金が決まるといった新たな試みがみられる。

4.世界経済の見通しとリスク

(1)世界経済の見通し

(世界経済の成長率見通し)

国際機関の世界の実質経済成長率見通しをみると、21年については、IMF・OECDともに、供給面での制約やデルタ株等の影響により、成長率見通しがわずかに下方修正されたものの、5%台後半の成長が見込まれている。続く22年における世界経済の成長率は、IMFは21年10月時点で4.9%と見込んでいたものの、22年1月時点の見通しでは、主にアメリカや中国の成長率引下げの影響から、4.4%へと下方修正された。

(欧米の物価上昇率見通し)

欧米の物価上昇率について、金融当局による見通しを確認すると、アメリカでは、21年の3月会合から12月会合にかけて、21~23年の物価見通しの上方修正が続いた。21年12月会合では、PCEデフレーターの総合については、22年第4四半期に2.6%、23年同期に2.3%、コアについては、22年第4四半期に2.7%、23年同期に2.3%と、21年の上昇率ほどではないものの2%を上回る上昇が続く見通しとなっている。パウエル議長は、21年9月会合から12月会合にかけ、22年第4四半期の物価見通しが総合、コアともに0.4%ポイント上方修正されたことについて、物価上昇がより持続的になるリスクが高まったと述べつつ、金融政策の変更の効果もあり21年よりは上昇率が低下する見込みである旨を述べた。

ユーロ圏では、21年12月会合において、消費者物価(HICP)の上昇率が22年には総合で3.2%と、9月会合の1.7%から大きく上昇修正された。ただし、ECBは22年中に物価上昇が緩和されるとしており、コアでは、22年には2%を下回り、総合においても23年には2%を下回る見通しとなっている。

(2)世界経済の主な下方リスク

(需要と供給の不均衡)

本節「2.」で確認した通り、21年には、半導体等の部品の不足や輸送期間の長期化といった供給制約の課題が顕在化した。また、労働市場では、アメリカや英国において、人手不足等を背景に賃金が上昇している。先述の国際機関の見通しでは、供給制約が徐々に解消されていくことが前提とされているが、供給制約の状況が長期化あるいは深刻化した際には、世界経済の下押し要因となり得る。また、物価上昇圧力の高まりと持続化は、企業収益の圧迫や、販売価格に転嫁されれば消費者の購買力の低下を通じ、景気を下押しする要因になり得る。賃金上昇が企業の生産性を上回って上昇するような場合には、価格上昇圧力が更に強まる可能性もある。こうした需要と供給の動向には注視が必要である。

(欧米における金融緩和縮小の影響)

本節「3.」で確認した通り、21年終盤には、FRBが資産購入の縮小を決定するなど、欧米において金融緩和縮小の動きがみられた。先進国での金融緩和縮小や金融引締めは、金融市場における調整を通じて、新興国の経済回復に影響を及ぼす可能性がある。現在のところ、新興国の株価や為替に大きな変動はみられず、新興国からの資金流出も全体としてはみられていないが、先進国での物価上昇率の高止まりや急上昇が続き、先進国の金融政策変更が想定よりも前倒しになった場合、金融市場における調整を通じ、新興国経済、ひいては世界経済の下振れ要因となり得る。

(中国経済の減速)

本節「1.」でみたように、中国経済は、政府による環境規制や不動産開発規制等を背景に、回復テンポが鈍化しており、両規制の影響は当面持続することが予想される。中国は、世界第2位の経済規模を有しており、その減速は貿易等を通じて世界経済全体に大きな影響を与える可能性がある。

OECDは、中国経済が急減速した場合、他国から中国への輸出減少を通じた影響、中国が輸出する財の価格上昇を通じた影響、株価低下の影響等を通じ、各国及び世界の景気を下押しするとしている。特に、東アジア各国や、ブラジル、南アフリカ等の国では、輸出総額に占める中国向け輸出の割合が以前よりも高まっており、貿易を通じた影響が大きくなることが見込まれる。

(感染の動向)

21年11月、感染の再拡大を受け、オーストリアやスロバキアといった欧州の一部の国において、再度のロックダウンが実施された。また、同年11月下旬には、新たな変異株であるオミクロン株の出現が確認され、各国において、入国制限の強化等の措置が採られている。経済活動の制限措置については、欧米をはじめとする先進国では、21年1月中旬時点で、20年や21年前半のような厳しい措置が実施されているわけではない。ただし、各国で再び厳しい制限措置が実施される場合には、当該国及び他国の経済が下押しされる可能性があり、また、変異株の感染状況によっては、消費の萎縮等につながる可能性もあり、引き続き感染の動向には注視が必要である。

参照

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