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電子カルテの抱える課題ー研究利用する際の注意点

電子カルテの抱える課題

電子カルテはリアルワールドデータの柱の1つとも考えられ、臨床研究や疫学研究において重要な情報源です。

日々の診療情報が記録され、数か月から長くても数年ほどが追跡期間の限界である治験に比べて、長期間の追跡が可能な場合もあるという魅力も備えています。

とはいえ夢ばかり見ても実際に利用しようと思った時の失望が大きくなってしまいます。

本記事では、電子カルテの抱える課題や限界点について考えてみましょう。

  1. 診断や処置は選択的
  2. 電子カルテの記録は患者管理が目的
  3. 分母の定義が困難

1.診断や処置は選択的

医療機関における診断や処置、治療は、当然ながら「個々の患者さんに合わせて最適なものを実施」しています。

当たり前と言えば当たり前ですし、目の前の患者さんを第一に考えたら、最適なものがあるのにわざわざ2番目に適したものを実施する理由もないでしょう。

患者さんのこれまでの治療歴であったり、併発している疾患を考慮するのは当然ながら、「最適な治療」を考える際に用いる判断材料は臨床的な情報にとどまりません。

患者さんの好みや性格、生活習慣や家族構成、金銭的な事情といった、その患者さんという一個人を取り巻く複数の要素が効いてきます。

また、病院側の事情も当然ながら影響します。

ありとあらゆる選択肢を備えている病院というのは限られており、その患者さんに医療サービスを提供する必要があるタイミングで、その病院が手元に有している選択肢が選ばれます。

医療スタッフを始めとする人的リソースも考える必要があります。いざ検査が必要となっても、その時病院にいる医療専門家全員が検査を実施できるわけではありません。

使いたい診断機器や医療機器や医薬品があっても、使いたい時までに病院内に導入されていないと使えません。

目の前の患者さんを入院させたいと考えても、病院内のベッドの空き状況も考えなければなりません。

仮に同じ状態の患者さんが2人いたとしても、A病院とB病院では選ばれる診療行為は全く同じにはならない場合があります。

判断する医療専門家の考えの違いもあるでしょうし、病院間でのルールや基準の違いによることもあるでしょう。

要するに「個々の患者さんに合わせて最適なものを実施」しているのですが、その「最適」を決める要素が多岐にわたっており、純粋に医学・科学的な判断基準のみではないという部分が厄介なのです。

2.電子カルテの記録は患者管理が目的

研究利用目的で電子カルテのデータを使おうとしたときに、データを見ながら決して忘れてはならないのは「研究目的に収集されたデータではない」という点です。

そんなの忘れるはずがないという方もいるでしょうが、データとにらめっこしているうちに、その前提条件をつい忘れてしまって落とし穴にはまってしまうことも珍しくありません。

電子カルテに記録される情報は、「患者さんの健康状態や治療状況を管理して、より良い医療サービスを提供するため」に記録されています。

そのため、その目的に照らし合わせた時に必要と判断された情報が重点的に記録されており、必要と判断されなかった情報はそもそも記録されていない場合があります。

電子カルテに記録しなくても、病院内の別の場所に記録されており十分と考えて、電子カルテには記録されないこともあるかもしれませんね。

むしろ電子カルテに重複して書くのは、情報更新が必要になった時に情報更新漏れに繋がってリスクを高めるだけだ、という視点もあるでしょう。

電子カルテに記録される情報は、施設によってそのポリシーに差があって然りですから、A病院ではやたらと●●の情報が書かれているが、B病院では●●の情報がほとんどない、という場合に、単にA病院とB病院で電子カルテに記録するポリシーや決まり事の違いに起因することもあります。

入院患者さんと外来患者さんとでは、記録する際の精度や情報の密度等が異なることもありますから、同じ施設でも入院患者さんなのか外来患者さんなのかに応じて解釈を変える場面もあるでしょう。

3.分母の定義が困難

大病院や専門的な治療を提供している医療機関の場合、全国各地から患者さんが集まってくる場合があります。

また、駅近くのクリニックやショッピングモール内にある医療機関など、人が集まる場所に位置する医療機関も、比較的離れた場所から来院していることもあり得ます。

すると「患者さんが普段生活している地域」と「医療機関の地域」に差異が生まれることになります。

この差異で悩むことになるのは、地域別の疾病や感染症等の発生状況を分析するときです。

東京都〇〇区における感染症Xの発生状況を調べたい、として○○区の医療機関Cの電子カルテ情報を使おうとしても、〇〇区在住の人は4分の1ほどで、残りは周辺の区や市、県から来ていたということもあるでしょう。

電子カルテ内に患者さんの住所情報が含まれていて、研究利用について患者さんから同意が得られていたとしても、地域がばらばらだと分析したいときに細かく分かれてしまい必要な数が集まらない、ということにもなります。

「医療機関Cを受診している患者さん」という集まりの母集団はいったい何なのかがぼやけてしまうんですね。

まとめ

データ駆動型社会が叫ばれている昨今、夢や理想を見るのも大切ですが、限界や特徴を押さえておくことで地に足のついた議論が出来るでしょう。

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