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過去10 年 程度 の動きと新型感染症下の1年間での変化
「 選択する未来 」委員会報告(2014 年 11 月)(以下「選択する未来 1.0 」という。 )は、①少子化の流れを変える、②付加価値生産性を飛躍的に向上させる、③東京一極集中の流れを変える、の3つの目標を掲げ、 2020 年代初めを目途 にジャンプ・スタートを提案したが、中間報告ではその実現はできなかったと評価した。 新型感染症下のこの1年間で これらに関する 基調にどのような 変化 が見られ た かを振り返 る とともに、新型感染症の影響が懸念される格差 ・貧困に関する課題 を確認する 。
(選択する未来 1.0 の目標①: 少子化の流れを変える)
2019 年の出生数は 86.5 万人と過去最少を記録した。 一方、 出生率の上昇に効果があるとされる、 ①労働時間の短縮、②高等教育費の負担軽減、③待機児童の解消 にはそれぞれ進展が見られる。
労働時間については、 働き方改革により長時間労働の是正が進む中で、 減少傾向に ある。 一方、一般労働者、パートタイム労働者ともに時給は増加傾向にあり、 2020年4月から始まった同一労働同一賃金の下でパートタイム労働者の平均賞与も増加した。
教育費の負担軽減として 、 2019 年 10 月から 幼児教育・保育の無償化 、 2020 年度から 私立高等学校授業料の実質無償化 と高等教育無償化 が始ま った 。 これらにより家族関係社会支出対GDP比は 1.9 %程度へ上昇し、概ねOECDの平均水準( 2.1 %)に近 付 いている。 特に、 高等教育無償化による 初年度の 授業料等減免・給付型奨学金の 対象者は約 27.2 万人 となり 、 住民 税 非課税世帯の進学率は 約1割上昇し、5割となった。
待機児童の解消 に向けて は 、保育の受け皿は 2013 年度から 2017 年度の5年間で 53.5 万人分が整備され、 2018 年度から 2020 年度の3年間で 約 31.2 万人 分の整備が見込まれている。さらに、菅内閣の下で 「新子育て安心プラン」が策定され、 2021 年度からの4年間で保育の受け皿を約 14 万人増やすこととされた。あわせて、 不妊治療への支援強化も行われ た。
しかし、新型感染症の影響もあって、多くの国で出生数が減少する 中 、我が国の 2020 年の妊娠届出数も前年を大きく下回っており、 2021 年の出生数は過去最少を更新すると見込まれる。 未婚者で出会いを探している人 の3割以上が新型感染症前と比べて新たな出会いが減少した。 さらに、新型感染症の影響により女性を中心に非正規雇用が大きく減少し、結婚や出産の中心となる 15 歳~ 4 4 歳の 失業率も上昇するなど、女性や若者が厳しい状況に置かれている。 結婚・出産を 取り巻く環境はこの1年間で極めて厳しい状況 となっていると言わざるを得ない。 女性や若者 に目を向けた政策 の重要性はこれまで以上に高まっている 。
(選択する未来 1.0 の目標②: 生産性の飛躍的向上)
選択する未来 1.0 が提案を行った 2014 年以降 も 、 全要素生産性の伸びは 高まっていない。 この背景にはいくつかの課題がある。第一に、経済の新陳代謝の停滞である。中間報告でも指摘したが、中小企業の全要素生産性の伸びを見る と特に生産性の高い企業が退出し ていることが押下げ要因となって いる。 その背景について 引き続き分析 を行う とともに 、 優良な中小企業の 事業承継 の支援 を徹底して 進めていく必要がある。新規 参入による 押上げ も小幅にとどまって おり、スタートアップを生み出し、かつその規模を拡大する環境を整備する必要がある 。
第二に、付加価値生産性の向上に大きな役割を果たす無形資産投資の伸び悩みである。 デジタル化の遅れに加え、 特に人材投資や組織改編の投資を含む経済的競争力投資は、企業による教育訓練投資が伸び悩む中で極めて低い水準にとどまってきた。 また、 ベンチャーキャピタル投資額や その 1件当たりの金額、ユニコーン企業数 が低い水準にとどまっていること などから も、 我が国のイノベーション力に引き続き大きな課題があることが示唆される。 例えば、大企業 人材による起業を支援する制度を活用し、大企業人材を解放し、イノベーションを後押しすることも有効と考えられる。
一方、 新型感染症の下でも 付加価値生産性を高め ていこうとする 企業の意欲は 様々な面から確認できる。 2021 年の賃上げ率は 1.81とコロナで業績が厳しい中でも 高い水準を維持 し ている 。 製造業・非製造業ともに ソフトウェアへの投資意欲は根強い。 また、 最低賃金を含む賃金相場が上昇する場合への対応として 、 システムや設備の導入による生産性向上を選んだ 中小企業 が多い。 こうした前向きな動きを様々な支援により後押ししていく必要がある。
また、 上場企業における女性役員数は昨年7月時点で 延べ 2,500 名を超え、過去最高となり、経営幹部 の 多様性確保 に向けた取組も 少しずつ 進みつつある。さらに、 菅内閣 の下、 次の成長の原動力をつくり出すため、 2021 年9月のデジタル庁創設をはじめとする デジタル ・ ニューディール、 2050 年カーボンニュートラルを目指す グリーン・ニューディールが動き出した 。これら を通じて民間の投資 を引き出 すとともに、 多様な人材の登用によるイノベーションを進め、 付加価値生産性向上への取組を後押しし ていくためにも人材への投資強化は急務 である。
(選択する未来 1.0 の目標③:東京一極集中の流れを変える)
新型感染症が広がる前の 2019 年まで、 就学や就業の際に東京圏に若者が流入する 中 で、 東京一極集中の流れは変わらずに続いてきた 。
新型感染症の下、 そ の基調に変化の兆し が見られる。テレワークが広がり、 時間や場所にとらわれない多様な働き方が可能であることが明らかとな った。オンライン会議等の活用により、企業の本社を地方に移す動きも 見られる 。そして若者を中心に地方 移住 への関心はこの1年間で高ま っ ている。これらを背景に、 2020 年 7 月以降、東京圏 へ の 転入超過数はゼロ近傍で推移している。
職住近接・自転車通勤志向で都市中心部や 交通利便性等に優れた 近郊住宅地の地価 が 上昇 しており、特に、 地方中枢都市では全国の地価が下落する中で地価の上昇が続いている。
東京 23 区に在住又は通勤する方が地方へ移住し 就業 する場合に 最大 100 万円、 移住し 起業する場合には 最大 300 万円を支給する事業が 、 2019 年度から実施されて おり、その利用を更に促進していく必要がある。さらに、 菅内閣の下で、大企業で経験を積んだ人材を地域の中堅・中小企業の経営人材として紹介する取組 が大幅に強化され 、 地域経済活性化支援機構 REVIC のリストに基づいて大企業人材を 採用する 地域企業に対し、その 人材に支払う年収の3割×2年相当分 上限 500 万円 が補助されることになっ た。 これらの取組を着実に推進することにより、 都市部 の大企業 から 地方への人の流れを太くし、この流れを定着・拡大していくことが求められる 。
(新型 感染症の下での格差・貧困に関する課題)
新型感染症が広が るまでは、 所得格差を示すジニ係数 所得再分配後 は概ね横ばい で推移 し、 相対的貧困率と子どもの相対的貧困率は、 2013 年以降 、 経済が好転する 中 で、 2018 年まで改善 してきた。
2020 年の所得階層別の所得の動向を 「家計調査」の実収入で 見る限り 、1人10万円を給付する特別定額給付金の効果もあって、 簡易なジニ係数は 2019 年の0.224 から 2020 年 の 0.217 へ とほぼ横ばいにとどまり、 所得格差指標の悪化は見られない。ただし、 2020 年に入って女性を中心に非正規雇用が大きく減少し、 15 歳~ 44 歳の 失業率も 、 2021 年3月に低下したものの、 平年よりも高い水準にある。
こうした中、生活保護世帯数の推移を世帯類型別に見ると 、主として経済的要因が背景と見られる 「その他の世帯」が緩やかに増加しており、今後の動向に留意していく必要がある。また、株価の上昇は家計にプラスの影響をもたらす一方、株式の保有割合は高所得層ほど高いことから、資産格差に与える影響についても注視していく必要がある。 格差が拡大・固定化・再生産されないようにする ためにも、 雇用調整助成金や休業支援金等の活用とともに、職業訓練・ 就職支援などセーフティネットや学び直しなどを強化していく必要性が高まっている。