臨床試験 規制

ICH-E16 医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品の開発におけるバイオマーカー

1.はじめに

1.1 背景

バイオマーカーを利用することは、より安全で有効な医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品の利用可能性を促進し、用量選択に指針を与え、それら医薬品のリスク・ベネフィット特性を改善できる可能性がある。本ガイドラインは、各地域におけるバイオマーカーを含めた資料提出に関するこれまでの経験を基に作成されている。それらの資料提出は、バイオマーカーの適格性確認のみを目的とした場合もあれば、承認申請のための医薬品の規制に関わる過程の一部として行われた場合もあった。バイオマーカーに関するデータを提出するための一貫した様式を作成することは、審査を容易とし、地域間の評価の交換を促進するであろう。

1.2 目的

本ガイドラインは、ICH E15 1 において定義されたゲノムバイオマーカーについて、その適格性確認を目的として、規制当局へ資料を提出する際の同資料における用法の記載要領、資料の構成及び様式に関する推奨事項を示したものである。適格性確認とは、提案されたバイオマーカーの用法の範囲内において、当該バイオマーカーが生物学的過程、反応または事象を適切に反映し得ると判断され、探索期から承認後にわたる医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品開発におけるその使用が支持されるというバイオマーカーに関する評価結果を踏まえた結論である。規制当局へのバイオマーカー適格性確認に関する資料提出は、バイオマーカーが直接的または間接的に規制当局の意思決定を支援するために行われるであろう。

本ガイドラインの目的は、バイオマーカーの適格性確認のための資料提出に際して、推奨される資料構成を調和させることにより、地域を通じて資料に一貫性を持たせ、規制当局との議論及び規制当局間の議論を促進することである。すべての ICH 規制地域間で、調和した様式として利用が推奨されることから、スポンサーの負担を軽減することにもなる。今回資料の様式を提示することにより、特定の医薬品の承認申請資料においてバイオマーカーデータの組み入れを促すことにつながるものと期待される。

バイオマーカーの適格性確認は、探索期から承認後にわたる医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品開発のいずれの段階においても可能である。本ガイドラインでは、適切であると判断された場合に、バイオマーカーの適格性確認に関するデータを医薬品の承認申請のための国際共通化資料コモン・テクニカル・ドキュント(CTD)に組み入れるための一般的な考え方も提示している。CTD 様式の利用は、バイオマーカーに関するデータを新医薬品の承認申請資料の一部として提出する場合、その他承認後における規制に関する手続き、あるいは規制当局により要求された場合に利用することが適切であると考えられる。

1.3 ガイドラインの適用範囲

本ガイドラインは、臨床及び非臨床を問わず、橋渡し研究に基づく開発手法、薬物動態、薬力学、有効性及び安全性の観点を含む医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品の開発に関連したゲノムバイオマーカーの適格性確認のための提出資料における用法の記載要領、資料の構成及び様式を適用範囲とする。適格性確認のための提出資料には、単独もしくは複数のゲノムバイオマーカーを組み合わせた使用に関するデータ及び申請を含むことが可能である。

このガイドラインは、ゲノム以外のバイオマーカーを明示的には適用範囲としないが、この文書に記載される原則は、例えばゲノム、プロテオミクス、イメージングに分類される多様なバイオマーカー、及び医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品の開発に関連するその他の適格性確認に際して適用可能である。また、例えば、ゲノムとゲノム以外のバイオマーカー組み合わせの適格性確認ための申請にも適用可能である。これ以後この文書においては、特別の定めのない限り、総称として“バイオマーカー”との用語を用いることとする。

本ガイドラインは、現在のバイオマーカーの評価方法を改善するための、新規の分析手法の妥当性確認に関するデータの提出も適用範囲とする。なお、バイオマーカーの適格性確認の過程、あるいはバイオマーカーの適格性が確認されたと規制当局が判断する基準はいずれも、本ガイドラインの対象外である。

1.4 一般原則

提案されたバイオマーカーの用法は、各バイオマーカーの適格性確認を支持するデータに対応する。提案された用法は、提出資料中において明確に詳述されるべきである。また、医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品の開発において、バイオマーカーを特定の目的で使用する場合にはその旨を記載すべきである。バイオマーカーの適格性確認におけるバイオマーカーの用法は狭い場合や広い場合がある。すなわち、バイオマーカーが単独またはある薬効分類における複数の医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品に有用な場合もあれば、複数の薬効分類を横断して有用な場合もあると考えられる。

資料の構成は、バイオマーカーの用法によらず一貫していることが原則であるが、個々の資料提出に特有の状況に応じたある程度柔軟な対応は許容される。さらに、この推奨される資料構成の利用は、例えば非臨床におけるバイオマーカーの用法が臨床に拡大する場合のように、将来新しい用法へとバイオマーカーの利用範囲を拡大する際に行われる適格性確認において、資料の提出や審査を促進させる。

バイオマーカーの適格性確認のためのデータ様式は、バイオマーカーの用法によって大きく変わり得る。それゆえ、本ガイドラインには、バイオマーカーの適格性確認のための資料提出におけるデータの様式について、一般的な指針のみを示している。その様式はデータの評価を容易にするものであり、また、試験報告書、表及び原データ(各地域の手続きに基づき規制当局が求めた場合)を含む。データの様式は、対象としているバイオマーカーの分析に用いた方法及び基盤技術が同じである場合には一貫しているべきである。可能な場合には、現在用いられている標準的な方法及び/または認められている方法について言及すべきである。

本ガイドラインに記述された資料の構成は、十分な根拠となるデータを作成(収集)した後にバイオマーカーの適格性確認のための提出資料を対象としたものである。しかし、この資料の構成は、適格性確認を裏付けるバイオマーカーに関するデータの作成前あるいは作成中に、規制当局からの科学的助言を受けることを目的とした提出資料にも使用することが想定される。

推奨されるバイオマーカーの適格性確認のための提出資料は、資料の提出や審査を容易にするために、CTD 様式と調和させている。バイオマーカーの適格性確認のための提出資料の構成を、5 部より成る CTD の様式(モジュール 1~5)に準じた場合の全体像を以下に示す。バイオマーカーの適格性確認のための提出資料の各セクションとそれに対応する CTDのセクションの関係は以下の通りである。

  1. セクション 1(各地域の行政情報):CTD モジュール 1
    適格性確認の過程における特異的な情報を含む
  2. セクション 2(概要):CTD モジュール 2
  3. セクション 3(品質に関する文書):CTD モジュール 3
  4. セクション 4(非臨床試験報告書):CTD モジュール 4
  5. セクション 5(臨床試験報告書):CTD モジュール 5

更なる詳細については、ICH M4 及び関連ガイドラインを参照のこと。電子化コモン・テクニカル・ドキュメント(eCTD)により申請する場合には、ICH M2 ガイドライン(医薬品規制情報の伝送に関する電子的標準)、関連ガイドライン、各地域の法律、規則、勧告を参照すること。

世界規模の医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品の発において、バイオマーカーの利用を促進するために、適格性確認のための資料は、関連する規制当局に対して同時期に提出することが推奨される。ある規制当局によって既に適格性が確認されたバイオマーカーについては、新医薬品の承認申請において、適格性が確認された用法の範囲内であれば、バイオマーカーに関するデータを、同規制当局に対して再提出する必要はない。その際、新医薬品の承認申請資料またはその他関連する規制に関する手続きにおいては、その規制当局による評価報告書を添付することでよい。

2.バイオマーカーの適格性確認に関する提出資料の構成

バイオマーカーの適格性確認のための提出資料には、以下のセクションが含まれるべきである。

  1. セクション 1: 各地域の行政情報
  2. セクション 2: 概要
    • バイオマーカーの適格性確認に関する総括評価
      緒言、提案されたバイオマーカーの用法、データの概要、総括的かつ重要なデータの評価
      及び方法、進行中または計画中の試験における必要な付加的データ、提案されたバイオマー
      カーの用法の妥当性について。
    • 以下に示す総括資料(適切な場合)
      • 分析法に関するデータ
      • 非臨床のバイオマーカーに関するデータ
      • 臨床のバイオマーカーに関するデータ
        新医薬品の承認申請資料に含む際には、総括評価や総括資料といったセクション 2 の内容は、CTD モジュール 2 の適切な箇所に記載すべきである。
  3. セクション 3: 分析に関する報告
    • バイオマーカーの適格性確認のための試験で用いる治験薬の構造、製造方法、品質特性(利用可能な場合)
      これらの情報が、新医薬品の承認申請資料とは独立したバイオマーカーの適格性確認のみを目的とする提出資料に含まれることは考えにくい。
  4. セクション 4: 非臨床に関する報告
    • 分析法の開発に関する報告
    • 分析法のバリデーションに関する報告
    • 非臨床試験報告書(in-vitro)
    • 非臨床試験報告書(in-vivo、種を特定すること)
  5. セクション 5: 臨床に関する報告
    • 分析法の開発に関する報告
    • 分析法のバリデーションに関する報告
    • 臨床薬理試験報告書
    • 臨床の有効性及び/または安全性に関する試験報告書

これらのセクションへの記載が推奨される内容について、その詳細を以下に示す。

2.1 セクション1: 各地域の行政情報

このセクションには、各地域に特異的な文書(例えば、申請書及び/または添え状)を含むべきである。このセクションの内容と様式は、関係規制当局により規定される。

2.2 セクション2: 概要

CTD 様式を例示として、バイオマーカーの適格性確認のための提出資料は、提出されたデータの有用性及び限界についての考察し解釈するためにバイオマーカーの総括評価を含むべきである。その評価は、別途添付される分析、非臨床及び臨床のデータ概要により裏付けられるべきであり、その概要には、事実に即して要約された試験データが本文、図表において示されるべきである。

2.2.1 バイオマーカーの適格性確認に関する総括評価

2.2.1.1 緒言

このセクションは簡潔に記載されるべきである。このセクションは、疾患及び/または実験条件、バイオマーカーの定義(例えば、ゲノムバイオマーカーの場合、SNP、CNV 又は識別的遺伝子発現に関する特徴)及び探索期から承認後にわたる医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品開発におけるバイオマーカー利用の理論的根拠の説明を含む。

  • 以下に示すバイオマーカーの重要な特徴の要約を含むべきである。
    • 有用性及び限界(例えば、可能であれば関連する標準的な方法との比較、関連する種/集団に関する情報の有無)
    • 単独/複合バイオマーカーの別(もし複合バイオマーカーであれば、それを構成するマーカー及びそれらを選択した過程を明示すべきである)
    • 目的及びバイオマーカーの利用を支持する試験デザイン(例えば、前向き試験か後ろ向き試験か、試験対照、症例数)
      提案されたバイオマーカーの用法に関する概要を、このセクションに含むべきである。バイオマーカーの用法についてのすべての記述を含め、更なる詳細については、次のセクションに記述すべきである。
2.2.1.2 バイオマーカーの用法

バイオマーカーの用法に記載される要素には、(i)一般的な使用領域、(ii)バイオマーカーの具体的な用途及び(iii)バイオマーカーをいつ、どのように使用すべきかを規定する重要な事項を含むべきである。バイオマーカーの用法は、医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品の開発中での使用に限ることでもよい。適格性確認を実施するバイオマーカーは、特定の医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品の開発や使用の促進及び現時点で利用可能なバイオマーカーまたは、安全性または有効性のエンドポイントの評価の改善につながることが期待される。

提案されたバイオマーカーの用法は、最初の適格性確認のための提出資料によって裏付けられるべきである。規制当局による評価の過程において、提案されたバイオマーカーの用法と資料との間に不一致が認められた場合は、規制当局が合意すれば、適格性確認の過程において補足資料を提出することができる。

バイオマーカーの用法

バイオマーカーの用法は、以下の分類に応じて記載される(以下の例示を参照すること):一般的な使用領域は以下を含む(ただしこれらに限定するものではない)

  • 非臨床/臨床
     薬理
     毒性
     有効性
     安全性
     疾患
バイオマーカーの具体的な使用用途

バイオマーカーは、以下を含む(ただしこれらに限定するものではない)広範な目的で使用され得る

  • 患者/被験者選択
    • 選択/除外の基準
    • 試験のエンリッチメント及び層別化
  • 疾患の病態及び/または予後の評価
  • 作用機序の評価
    • 薬理学的作用機序
    • 治療効果発現の機序
    • 毒性/副作用発現の機序
  • 用量最適化
    • 動物モデルにおける無影響量(NOEL)
    • 動物モデルにおける無毒性量(NOAEL)
    • アルゴリズムに基づく用量設定(アルゴリズムによる定量的用量設定)
    • 妥当な用量範囲の決定
  • 薬物応答のモニタリング
    • 安全性のモニタリング
    • 有効性のモニタリング
  • 有効性の最大化
    • 医薬品の有効性の検出/予測
  • 毒性/副作用の最小化
    • 毒性/副作用の検出/予測
    • 毒性/副作用の発現/可逆性の検出/モニタリング
バイオマーカーの用法に関する重要な事項

バイオマーカーの用法に関する重要な事項は以下を含む(ただしこれらに限定するものではない)

  • 特定の医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品における使用/特定の薬効分類における使用/特定の医薬品、バイオテクノロジー応用医薬品または特定の薬効分類に関連しない使用
  • 疾患の診断、表現型、予後もしくは病期
  • 試料採取
  • 分析法の特定
  • 組織もしくは生理学的/病理学的過程
  • 祖先及び/または地理的起源も含む人口統計学的特性
  • 環境因子
バイオマーカーの用法に関する例

以下のゲノムバイオマーカーに関する例示のように、バイオマーカーの測定は、一つの適格性確認のための資料提出において、一般的な使用領域及び/または具体的な使用用途次第で複数の用法に適用可能な場合がある。ここに示す例は仮説のゲノムバイオマーカーであるが、バイオマーカーの用法に関する記述の原則は、適格性確認のために提出されたすべての種類のバイオマーカーに適用可能である。

  1. 非臨床・安全性
    腎障害分子-1(Kim-1)及びクラスタリン(Clu)のメッセンジャーRNA の発現量は、ラット毒性試験における薬剤(バイオテクノロジー応用医薬品)誘発性急性尿細管毒性のゲノムバイオマーカーとなり得る。バイオマーカーの適格性確認における提出資料の用法は、次のとおり定義される:

    • 一般的な使用領域: 非臨床、安全性、毒性
    • バイオマーカーの具体的な使用用途: 毒性の発現機序の評価、動物モデルにおける用量最適化(動物モデルにおける無毒性量)
    • バイオマーカーの用法に関する重要な事項
      • 特定の医薬品又はバイオテクノロジー応用医薬品における使用: 該当なし
      • 分析法の特定: mRNA
      • 組織もしくは生理学的/病理学的過程: 腎臓
      • 種: ラット(Rattus norvegicus)
  2. 臨床薬理/薬物代謝
    CYP2C9 遺伝子多型によって、代謝能が低い者(PM)及び正常な代謝能を有する者が存在し、医薬品 A の暴露に個体差が生じる。CYP2C9 PM であることが判明している患者/被験者においては、代謝クリアランスの低下によって、医薬品 A の血漿中濃度が上昇する。
    バイオマーカーの適格性確認における提出資料の用法は、次のとおり定義される:

    • 一般的な使用領域: 臨床薬理/薬物代謝及び安全性
    • バイオマーカーの具体的使用用途: 患者/被験者選択(選択/除外の基準、試験のエンリッチメントもしくは層別化)、患者に応じた用量最適化及び副作用の予測/リスク最小化
    • バイオマーカーの用法に関する重要な事項:
      • 特定の医薬品又はバイオテクノロジー応用医薬品における使用: 医薬品 A
      • 分析法の特定: 遺伝子型判定
      • 種: ヒト
      • 祖先及び/または地理的起源も含む人口統計学的特性: 人種特異的な対立遺伝子頻度
  3. 臨床・安全性
    HLA-B*1502 対立遺伝子は、Han-Chinese において医薬品 B 服用後のスティーブンス・ジョンソン症候群を生じる危険性の増加と関連する。

    • 一般的な使用領域: 臨床・安全性
    • バイオマーカーの具体的使用用途: 患者選択(選択/除外の基準)、安全性の予測及び副作用/毒性発現の機序
    • バイオマーカーの用法に関する重要な事項:
      • 特定の医薬品又はバイオテクノロジー応用医薬品における使用: 医薬品 B
      • 分析法の特定: 遺伝子型判定
      • 種: ヒト
      • 祖先及び/または地理的起源も含む人口統計学的特性: HanChinese
2.2.1.3 方法及び結果の概要

このセクションには、もし利用可能であれば図表形式にて全試験を通しての方法または結果の概要を含むべきである。その後には、提案されたバイオマーカーの用法に関する知見の考察及び解釈を含め、全体の結果に関する重要な評価が記載されるべきである。バイオマーカーの適格性確認のための計画、試験結果に関して有用性及び限界を記載したうえで考察し、バイオマーカーの用法のベネフィットを分析し、試験結果がいかにそのバイオマーカーの用法を裏付けるかについて記載すべきである。

根拠となるデータからの重要な結果、特定された不備、それらがどのように提案した用法に関係しているのか、あるいはどのように今後の適格性確認の提出において検討されるのかについて、簡潔な概括評価が含まれるべきである。さらに、議論のための重要な論点についても、言及されるべきである。

2.2.1.4 結論

結論には、以下のような事項を含む。

  • 関連する試験結果に基づいた、バイオマーカーの利用により期待されるベネフィットに関する評価(バイオマーカーが、提案されたその用法をいかに裏付けるかに関する解釈を含む)
  • バイオマーカーの適格性確認のための試験を実施した際に直面した問題、及びその問題をいかに評価し、解決したかに関する取り組み
  • 未解決の問題の特定、バイオマーカーの用法の適格性確認を行う上で、その問題が障壁とはならないと考えた理由、及び/または該当する場合、その問題解決のための今後の計画に関する記載

2.2.2 データの概要(必要に応じて、分析、非臨床、臨床)

データの概要には、分析(手法の開発)または何らかの付加的な分析、非臨床または臨床試験(必要に応じて)について事実に即した要約情報(バイオマーカーの適格性確認のための試験に関する総括的な分析、個々の試験のまとめを含む)を含むべきである。これらは、利用可能であれば図表形式にて全試験を通した結果を記載すべきである。

そのために、このセクションは以下のような事項を含む。

  • 1)方法及び関連する試験デザイン、2)分析及び生物応答としての再現性、3)統計解析法(仮説に関する記述、エンドポイント、標本数の妥当性を含む)を含むバイオマーカーの適格性確認のための全体的
    な計画についての記載及び説明
  • バイオマーカーの適格性確認のために研究された対象集団選択の妥当性に関する記載、民族又は病態に関連して、選択に由来する制限に関する議論
  • 標本の適切性を決定する基準(例えば、種類、量及び/または標本の週齢(年齢)、DNA 収量等)
  • 標本の取り扱い、保存、品質要求事項に関する特定の推奨を含む分析法の性能特性に関する記載(例えば、in vitro の分析方法に関しては、正確性、精度、その他標準的なパラメータ)
  • バイオマーカーの非臨床的/臨床的使用を裏付ける結果に関する記載(例えば、表現型/アウトカムに関する後向き/前向きな相関)

規制当局における評価プロセスを円滑にするために、適格性確認のための資料における図表の利用が推奨される。このセクションは、他のセクションに記載された内容を繰り返すのではなく、むしろ試験報告書及びその他文書(セクション 4、5)に記載されたより詳細な内容を適切に参照することが推奨される。

2.2.2.1 個々の試験のまとめ

このセクションには、バイオマーカーの適格性確認のための資料中に含まれる個々の試験のまとめが記載される。バイオマーカーの適格性確認のための提出資料が、主に公表論文等に基づくものである場合、公表論文等に由来する要約、主要な表をこのセクションに記載してよい。その際、セクション 4 及び 5 に含まれる報告及び/または文書における各試験の情報を要約すべきである。これらのセクションの長さは提出される情報により異なる。

2.3 セクション3: 品質

医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品の品質及び製造に関する情報が、新医薬品の承認申請資料とは独立したバイオマーカーの適格性確認のみを目的とする資料提出に含まれることは考えにくい。

2.4 セクション4(非臨床)及び5(臨床)

本セクションには、バイオマーカーの適格性確認のための完成した試験報告書が添付されるべきであり、規制当局の求めに応じて原データが含まれることもある。医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)への適合性状況も本セクションに記載する。試験報告書を作成するにあたり、必要に応じて関連する ICH ガイドライン(例えば、E3、E15、M4E、M4S)を参照すべきである。各試験報告書における、データの記載様式は、バイオマーカーの特性(例えば、ゲノムバイオマーカーに関しては SNPs 及び/または CNV など)及び測定方法(例えば、ゲノムバイオマーカーに関してはマイクロアレイ及び/またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR))によって異なるであろう。

バイオマーカーの種類あるいは測定方法によらず、対象とした試料(例えば、種、齢、性別など)を選択した根拠及び表現型に関する変数について明確に記載すること。バイオマーカーの適格性確認に使用した試験報告書においては、重要な変数を特定すべきである(以下の内容を含むべきであるが、これらの例示に限定するものではない)。

  • バイオマーカー試験に参加した患者/被験者の数及び分類、及びバイオマーカーに関するデータを評価可能な患者/被験者の数及び分類
  • 非臨床及び/または臨床エンドポイントに関する後ろ向き及び/または前向きの相関解析に基づくバイオマーカー検査の性能特性。これらの報告書には機能解析の結果に加え、方法及び試験デザインも示すこと
  • 選択した分析方法の妥当性及び結果の解釈に影響を与え得る変数
  • ハードウェアまたは用いた技術基盤
  • 選択した技術に関して、現在国際的に標準とされている方法
  • 食事、運動、測定スケジュールといった結果の解釈に影響を与え得る臨床的な変数
  • 生データの測定に用いた方法とソフトウェア
    一例として、ゲノムバイオマーカーの場合、以下の事項もまた付加的で重要なパラメータとして含むことがある。
  • 標本の品質を決定する基準(例えば、標本の週齢(年齢)、DNA 収量等)
  • 遺伝子発現解析あるいは DNA 配列あるいはその他の構造解析に用いた方法(例えば、5-メチルシトシンといったエピジェネティックなマーカー等の修飾 DNA 塩基を含む)
  • 候補遺伝子を絞り込んで解析を行った場合、候補遺伝子の選定基準(位置、機能に基づいて判断したか、遺伝子発現プロファイリングデータを根拠としたかなど)
  • ゲノムバイオマーカーの測定結果、それら全て可能であれば、現在国際的に標準とされている方法に従うこと

当該バイオマーカーの適格性確認に有用なその他の文書については、非臨床の情報に関してはセクション 4 に、臨床の情報に関してはセクション 5 に添付すること。これには、セクション 2、4 及び 5 に関連する参考情報を含むが、これらに限定するものではない。以下の参考情報も含む。

  • 論文審査のある学術専門誌の論文(メタアナリシスに関する内容も含む)
  • バイオマーカーの有用性に関して意見を有するアカデミアまたは企業研究所、患者団体、官民コンソーシアム、医療監視団体の専門家による見解
  • 規制当局による評価文書あるいはそれに代わり得る文書(例えば、関連する科学的助言に関する報告書)
  • 市販されているバイオマーカーの分析法に関する製造業者の技術解説書(適切な場合)

3.略語

  • CNV – コピー数の変異
  • DNA – デオキシリボ核酸
  • NOAEL – 無毒性量
  • NOEL – 無影響量
  • PM – 代謝能の低下した者
  • RNA – リボ核酸
  • SNPs – 一塩基多型

-臨床試験, 規制

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