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第1章 Beyond 5Gを取り巻く状況と本検討について
1.1 検討の背景
(1)諮問の内容
コロナ禍でのデジタル化の進展等により、国民生活や経済活動における情報通信の果たす役割やその利用に伴うセキュリティの確保が一層重要なものとなっている。
特に、Society 5.0の中核的な機能を担う次世代情報通信インフラ「Beyond 5G」については、激化する国際競争等を背景として、先端技術開発等の取組が重要な局面を迎えている。
総務省が2020年6月に策定した「Beyond 5G推進戦略」では、2030年代の社会像として、サイバー空間とフィジカル空間の一体化(Cyber Physical System)を進展させ、国民生活や経済活動が円滑に維持される「強靱で活力のある社会」の実現を目指すべきとされている。
その実現に向けて、同戦略が提言する「研究開発戦略」や「知財・標準化戦略」を一層強力に推進するための具体的な方策の検討が急務となっている。
また、2021年4月から、「科学技術・イノベーション基本法」が施行されるとともに、「第6期科学技術・イノベーション基本計画」(2021年3月閣議決定。5か年の計画)の計画期間に入った。
同計画に基づき政府全体では、イノベーションの創出に向けた取組や分野別戦略(「量子」、「AI」、「知財・標準化」、「宇宙」、「安全・安心」等)の策定や見直しが進められ、今後、関係府省が連携した政策の具体化等が一層加速する見込みであることから、総務省におけるICT技術政策を再整理した上で、政府戦略への対応を検討する必要がある。
以上のとおり、今後の情報通信分野の技術動向や政府全体のイノベーション政策動向等を踏まえつつ、強靱で活力のある2030年代の社会を目指したBeyond 5Gの推進方策等についての検討・整理が必要であることから、2021年9月、「Beyond 5Gに向けた情報通信技術戦略の在り方」について総務省より情報通信審議会に諮問された。
(2)2030年代の社会像
総務省が2020年6月に策定した「Beyond 5G推進戦略」では、Beyond 5Gが実現する2030年代に期待される社会像として、国民生活や経済活動が円滑に維持される「強靱で活力のある社会」の実現を目指すべきとしており、その具体的イメージとして、「誰もが活躍できる社会(Inclusive)」、「持続的に成長する社会(Sustainable)」、「安心して活動できる社会(Dependable)」の3つの社会像を掲げている。
Beyond 5Gは、Society 5.0を支える「フィジカル空間とサイバー空間の一体化」の実現に必要な次世代の情報通信インフラであり、2030年代のあらゆる産業・社会活動の基盤になっていくことが見込まれている。
(3)国際的な動向
諸外国では、国際競争力の強化等のため研究開発計画の具体化や政府研究開発投資の拡大等を進めており、今後も世界各国でBeyond 5G市場での主導権を握るべく取組が拡大・進展していくことが見込まれ、我が国としても研究開発等の取組を強化しなければ、開発競争に遅れを取り、Beyond 5G市場での存在感を失ってしまうおそれがある。
現在、世界の通信インフラ市場(基地局)では、海外の主要企業が高いシェアを占め、関連特許も多数保有しており、今後も海外企業が高い国際競争力を維持・確保することが見込まれるが、日本企業の通信インフラ市場での国際競争力は低い状況にある。我が国としてこのまま手を打たずに同じ状況が続けば、Beyond 5Gにおいても海外企業の後塵を拝してしまうおそれがある。
他方で、日本企業は、基地局、スマートフォン等では苦戦しているものの、それらに組み込まれている電子部品市場では世界シェアの約4割(製品によっては約7割)を占めており、Beyond 5Gに向けた潜在的な競争力は有していると考えられる。
(4)情報通信分野の消費電力とカーボンニュートラル
我が国の通信トラヒックは増加傾向が続いており、コロナ禍による生活様式の変化のため、通信トラヒックは従前の推計を上回る増加となっている。これに伴い、ICT分野の消費電力も増加傾向にあり、今後の技術やサービスの発展等に伴ってICT分野における消費電力の大幅増加が懸念されている。
そうした中で、我が国では、国際公約として2050年カーボンニュートラル実現を目指すことを宣言しており、政府全体の方針においても、グリーン・デジタル社会の実現や2040年の情報通信産業のカーボンニュートラル達成等が位置づけられているなど、ICT分野におけるグリーン化・デジタル化に向けた取組の必要性が高まっている。
次世代の情報通信インフラとなるBeyond 5Gのネットワーク構築に当たっては、世界的課題であるグリーン化への対応が不可避であり、我が国として超低消費電力化に向けた研究開発等の取組を抜本的に強化していかなければならない。
(参考)カーボンニュートラルの実現に関する国際公約、グリーン・デジタルの推進や情報通信分野のカーボンニュートラルに関する政府戦略
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1.2 政府全体の政策動向
(1)国家戦略としてのBeyond 5Gの推進
岸田内閣では、成長と分配の好循環による「新しい資本主義」の実現を目指し、「デジタル田園都市国家構想」、「経済安全保障」、「科学技術立国」の推進を成長戦略の柱として掲げ、デジタル分野をはじめとした成長分野に大胆に投資していく方針が示されている。
その中で、Beyond 5Gの早期実現に向けて光ネットワーク技術や光電融合技術をはじめとする革新的な情報通信技術の研究開発を推進・加速していく方針が示されている。
(参考)直近の主な政府戦略、総理大臣発言
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(2)「デジタル田園都市国家構想」の推進
政府の成長戦略の重要な柱である「デジタル田園都市国家構想」は、高齢化や過疎化などの社会課題に直面する地方においてこそ新たなデジタル技術を活用するニーズがあることに鑑み、地域の個性を活かしながら、地方を活性化し、持続可能な経済社会を実現することで、地方から全国へのボトムアップの成長を図るものである。
同構想の実現のためには、光ファイバー、5G、データセンター/海底ケーブル等のデジタル基盤の整備が不可欠の前提であることから、総務省において2022年3月29日に「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」を策定・公表し、以下に取り組むこととしている。
- 光ファイバー、5G、データセンター/海底ケーブル等のインフラ整備を地方ニーズに即して スピード感をもって推進する。
- 「地域協議会」を開催し、自治体、通信事業者、社会実装関係者等の間で地域におけるデジタル実装とインフラ整備のマッチングを推進する。
- 2030年代のインフラとなる「Beyond 5G」の研究開発を加速する。研究成果は2020年代後半から順次、社会実装し、早期のBeyond 5Gの運用開始を実現する。
(3)「経済安全保障」の推進
我が国は、自由で開かれた経済を原則として、民間主体による自由な経済活動を促進することで経済発展を続けてきている。他方で、近年、国際情勢の複雑化、社会経済構造の変化等が進展する中、国民生活や経済活動に対するリスクの顕在化が認識されるようになっており、経済政策を安全保障の観点から捉え直す必要性が高まっている。また、諸外国では、産業基盤強化の支援、先端的な重要技術の研究開発、機微技術の流出防止や輸出管理強化等の施策を推進・強化している。
そうした状況を踏まえ、政府では、新たに経済安全保障担当大臣を設置するとともに、経済安全保障推進会議(議長:総理大臣、副議長:経済安全保障担当大臣、官房長官、構成員:各国務大臣)を開催し、①サプライチェーンの強靱化や基幹インフラの信頼性確保などを通じた我が国の経済構造の自律性の向上、②人工知能や量子などの重要技術の育成による日本の技術の優位性ひいては不可欠性の確保、③基本的価値やルールに基づく国際秩序の維持・強化を目指す、という3つの目標・アプローチのもと、我が国の経済安全保障を推進するための法整備も含めた検討が進められている。政府において「経済安全保障推進法案」が閣議決定され、2022年2月25日に第108回国会に提出された。
(4)「科学技術立国」の推進
2021年4月から、「科学技術・イノベーション基本法」が施行されるとともに、「第6期科学技術・イノベーション基本計画」(2021年3月閣議決定。5か年の計画)の計画期間に入った。
基本計画では、目指すべき未来社会Society 5.0に向け、「国民の安全と安心を確保する持続可能で強靭な社会」や「一人ひとりの多様な幸せ(well-being)が実現できる社会」の実現を目指すこととしており、サイバー空間とフィジカル空間の融合による持続可能で強靱な社会への変革を進めるための科学技術・イノベーション政策として、Beyond 5G、宇宙システム、量子技術、半導体等の次世代インフラ・技術の整備・開発やカーボンニュートラルに向けた研究開発を推進するとともに、「AI」、「量子」、「宇宙」、「環境エネルギー」等に係る国家戦略の見直し・策定等を進めていく方向性が示されている。
この基本計画に基づき、現在、関係府省が連携した政策の具体化等が進められているところ、「量子」と「宇宙」の分野における政策動向を以下に示す。
①「量子技術イノベーション戦略」の推進
量子技術は、将来の社会・経済を飛躍的・非連続的に発展させる革新技術であるとともに、経済安全保障上も極めて重要な技術であり、米国、欧州、中国等を中心に、諸外国において研究開発投資を大幅に拡充するとともに、研究開発拠点形成や人材育成等の戦略的な取組が展開されている。
我が国においても量子技術に関する中長期戦略として2020年1月に「量子技術イノベーション戦略」を策定し、関連技術の研究開発等を推進してきたが、同戦略策定以降、コロナ禍によるデジタル技術の進展や量子産業の国際競争の激化など量子技術を取り巻く環境が大きく変化するとともに、量子技術に期待される役割も増大してきたことから、新たな量子技術に関する戦略の検討が進められ、「量子未来社会ビジョン」(2022年4月22日統合イノベーション戦略推進会議)が策定されている。
②「宇宙基本計画」の推進
宇宙基本法に基づき、宇宙開発利用に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、政府において2009年6月に「宇宙基本計画」が策定された。
その後、安全保障における宇宙空間の重要性や経済社会の宇宙システムへの依存度の高まり、リスクの深刻化、諸外国や民間の宇宙活動の活発化、宇宙活動の広がり、科学技術の急速な進化など、昨今の宇宙を巡る環境変化を踏まえ、2020年6月に「宇宙基本計画」が改訂された。
また、「宇宙基本計画」に定められた政策を着実に推進していくため、政府が取り組むべき事項を個別具体的に書き示した工程表を作成し、毎年末に施策の進捗状況を宇宙政策委員会で検証し、宇宙開発戦略本部で同工程表を改訂している。
1.3 検討に当たっての基本的な考え方と進め方
2030年代の次世代情報通信インフラ「Beyond 5G」の実現に向け、我が国では、「Beyond 5G推進戦略」(2020年6月 総務省)を策定し、「Beyond 5G推進コンソーシアム」及び「Beyond 5G新経営戦略センター」を設立して産学官の活動を活発化し、国として「Beyond 5G研究開発促進事業」による集中的取組に着手してきた。
具体的には、5Gの特長から高度化・拡張した7機能(超高速・大容量、超低遅延、超多数同時接続、超低消費電力、超安全・信頼性、拡張性、自律性)を柱として、産学官においてBeyond 5Gのビジョンや技術課題等の具体化を進めるとともに、Beyond 5G研究開発促進事業(令和2年度第3次補正予算による研究開発基金)では主に基盤的な要素技術についての公募型研究開発を開始したところである。
Beyond 5Gを巡る国際的な研究開発競争は年々激化しており、諸外国の取組が今後ますます強化・拡大されることが想定される。
このため、我が国として、これまでの研究開発戦略や知財・国際標準化戦略をさらに具体化した上で、産学官が一体となってこれを推進することによって、開発成果の社会実装や市場獲得等の実現と、日本の国際競争力強化や経済安全保障の確保につなげていく必要がある。
その際、あらゆる産業や社会活動の基盤に結びついていくBeyond 5Gの役割に鑑み、デジタル田園都市国家構想や地方を含む社会全体のデジタル化、環境エネルギー問題(カーボンニュートラル)を踏まえたグリーン化、国際競争力強化と経済成長、ウィズコロナ/ポストコロナ社会、防災・減災、国土強靱化などの日本全体及び世界的な課題に対して政府全体の政策方針に基づき対応していく必要がある。
さらに、そうしたBeyond 5Gの役割やBeyond 5Gで求められる機能、これに対応する要素技術の内容・性質、 Beyond 5Gに関連して産業界や大学が主体となり進めている取組(例:IOWNグローバルフォーラム、O-RANアライアンス、HAPSアライアンス)等も踏まえ、Beyond 5Gを、現行の移動通信システム(無線技術)の延長上だけで捉えるのではなく、有線・無線、光・電波、陸・海・空・宇宙等を包含し、データセンター、ICTデバイス、端末等も含めたネットワーク全体を統合的に捉えていくことが必須となる。その上でのBeyond 5Gで期待されるユースケース、求められる要求条件を整理し、ネットワークのアーキテクチャー・構成要素等について、現段階で可能な限りの明確化を図った上で、我が国としての具体的な「研究開発戦略」が必要な局面となっている。
こうした考え方のもと、情報通信審議会(情報通信技術分科会 技術戦略委員会)(以下「本審議会」という。)においては、Beyond 5G推進コンソーシアムにおけるビジョン・技術課題の検討状況や国際連携の取組状況など産学官の活動や、民間企業・大学・国研が主体となった取組状況について、主要な関係者から定期的に聴取し、それら関係者の知見や意見を共有・反映しながら検討や論点整理を進め、主要な論点についての詳細な調査・深掘り等も行った上で、「研究開発戦略」の具体化を行ってきた。
また、「知財・国際標準化戦略」については、その具体的な検討がBeyond 5G新経営戦略センター(戦略検討タスクフォース)で進められてきたことから、本審議会において同タスクフォースの検討状況についても定期的に聴取し、その内容も踏まえた「知財・国際標準化戦略」の方向性を整理することとした。
第2章 Beyond 5Gが実現する社会像
2.1 Beyond 5Gが実現する2030年代の社会ビジョン
Beyond 5Gが実現する社会像について、「Beyond 5G推進戦略」(2020年6月総務省)で提言した3つの社会像をもとに、政府全体で取り組む国家戦略や社会課題等に照らして以下のように整理・具体化した。
具体的には、「誰もが活躍できる社会(包摂性・Inclusive)」では「デジタル田園都市国家構想」への貢献、健康医療・社会寿命延伸や働き方改革、「持続的に成長できる社会(持続可能性・Sustainable)」ではグリーン・環境エネルギー問題への対応や国際競争力強化・経済成長、「安心して活動できる社会(高信頼性・Dependable)」では経済安全保障、ウィズコロナ/ポストコロナ社会への対応や防災・減災・国土強靱化等が挙げられる。
これらの社会像にBeyond 5Gで対応していくことにより、Society5.0の実現を果たすことにつながっていく。
2.2 Beyond 5Gのユースケース
(1)Beyond 5Gで期待される業界ごとのユースケース
2.1の社会像を基本としつつ、Beyond 5Gは今後あらゆる産業や社会の基盤として様々な社会的課題の解決に寄与することが求められることから、「Beyond 5G ホワイトペーパー」(2022年3月 Beyond 5G推進コンソーシアム公表)等を参照しながら、情報通信分野に限らず幅広い業界における2030年代に向けた課題や将来像を把握し、多くの産業や利用者にかかわる広範囲な利用シーンを洗い出し、Beyond 5Gに期待されるユースケースを以下のとおり整理する。
金融 |
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建設・不動産 |
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物流・運輸・倉庫 |
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鉄道 |
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航空 |
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情報通信 |
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メディア |
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環境・エネルギー・資源 |
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自動車 |
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機械 |
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電機・精密 |
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半導体・工場 |
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生活・食品・農業 |
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流通・小売・卸 |
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医療 |
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公共・行政・教育 |
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飲食 |
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娯楽・レジャー |
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宇宙 |
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HAPS |
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(2)Beyond 5Gにおける宇宙ネットワークのユースケース
(1)のユースケースのうち、「宇宙」の分野については、宇宙ネットワークと地上系ネットワークとのシームレスな連携・接続に対する期待が高まっていること、衛星経由の通信技術はインフラ未整備の地域を含め地球全体をカバーすると同時に地表画像のデータも収集できるため安全保障にも直結することなどから、その重要性に着目して、Beyond 5Gにおける宇宙ネットワークのユースケースを以下のとおり整理する。
ユースケース | 概要 | ユースケース実現に必要な技術例 |
地上系ネットワークの拡張 |
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光通信技術、地上網とのシームレス連携技術、ネットワーク制御・運用技術 等 |
移動するプラットフォームへの通信サービス |
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ハンドオーバー技術、ネットワーク制御・運用技術、タスク管理技術 等 |
宇宙クラウドサービス |
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衛星光通信技術、ネットワーク制御・運用技術、エッジAI技術、セキュリティ技術 等 |
宇宙・極地・海洋の経済活動支援 |
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ネットワーク制御・運用技術、光地上局技術、クラウド連携技術 等 |
通信ネットワークの強靱化対策 |
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ネットワーク・シミュレーション技術、サイトダイバーシティ技術、タスク管理技術 等 |
量子暗号による安全な通信(宇宙経由の暗号鍵配送) |
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量子暗号通信技術、セキュリティ技術、光通信システム技術 等 |
宇宙経由の超低遅延ネットワーク |
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ネットワーク制御・運用技術、ネットワーク・シミュレーション技術 等 |
マルチキャスト型データ配信サービス |
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ネットワーク制御・運用技術、地上局の小型軽量化技術、タスク管理技術 等 |
次世代型メタバースの実現(アバターロボットの極地活動支援) |
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ネットワーク制御・運用技術、地上局の小型軽量化技術、クラウド連携技術 等 |
究極の“カーボンニュートラル通信”の提供 |
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ネットワーク制御・運用技術 |
第3章 Beyond 5Gに求められる要求条件
第2章のユースケースにおいて、Beyond 5Gに求められる要求条件は以下のように整理される。今後、これをもとに、多角的な視点から、社会基盤としてのBeyond 5Gに求められる要求条件を整理し、標準化する必要がある。
Beyond 5Gでは、5Gの性能面の要求条件である「高速・大容量」、「低遅延」、「多数同時接続」をさらに向上させるだけでなく、「低消費電力」、「拡張性(カバレッジ)」、「自律性」、「安全・信頼性」といった社会的な要求条件が求められている。
また、これら要求条件のうち、「多数同時接続」では「測位・センシング」の高精度化、「自律性」ではネットワークの「オープン性・グローバル性」、「安全・信頼性」では耐災害性の向上を含む国土の「強靱化」が求められている。
これらの要求条件を実現することによりBeyond 5Gがあらゆる産業や社会活動の基盤としての役割を果たすことで、様々な社会課題の解決に貢献し、Society 5.0の実現への道を切り開く基礎となっていくものと考える。
第4章 Beyond 5Gネットワークの全体像
4.1 Beyond 5Gのネットワークアーキテクチャー
本審議会におけるこれまでの検討を踏まえ、Beyond 5Gネットワークの全体像として、「サービス」、「ネットワークプラットフォーム」、「ネットワークインフラ」、「デバイス・装置・端末」で構成されるネットワークアーキテクチャーの方向性を以下のとおり整理する。
「ネットワークインフラ」層において、オール光ネットワークや光電融合技術の実用化が進むことにより、超強力汎用ハードウェアの実装やクラウドネイティブな制御部とのハード・ソフトの分離が進展していく見込みである。
これにより、「ネットワークプラットフォーム」層において、移動網や固定網、衛星・HAPSネットワーク等も含めたネットワークのオープン化、分散化、共有化が進み、それらのネットワークが、「マルチネットワークオーケストレーター」で自律的に統合・制御されることとなり、「光ダイレクト対応多地点接続」や「エクストリームNaas」などが実現する。このようなネットワークのオープン化、分散化、共有化、統合が、従来のネットワークの在り方そのものを変革する重要な概念となる。
これらの結果、「サービス層」において多様な分野のデジタルツインが組み合わさり、革新的なサービスがBeyond 5Gネットワーク上で提供・利用されていく見込みである。
4.2 Beyond 5Gネットワークの構成要素
(1)Beyond 5Gネットワークの基本構成要素
Beyond 5Gネットワークを構成する技術(研究開発要素)を明確化する観点から、コアネットワーク、伝送、無線アクセスネットワーク(RAN, Radio Access Network)、デバイス、ネットワークオーケストレーター、サービス/アプリケーション等で構成されるネットワークの基本的な構成要素(主に地上系部分)の方向性を以下のとおり整理する。
Beyond 5Gにおいて、RANについては、無線装置(RU, Radio Unit)、分散基地局(DU, Distributed Unit)、集約基地局(CU, Central Unit)、及びこれらの基地局機能をインテリジェントに制御するRANインテリジェントコントローラー(RIC, RAN Intelligent Controller)で構成されるとともに、コアネットワークからRANまでを含むネットワークリソース全体を柔軟に動的制御するネットワークオーケストレーターが配置されるイメージである。その中で、ユーザーの要求に応じたサービス品質を確保するためのスライスが構築され、例えば低遅延なサービスが求められる場合には、低遅延スライスによりエッジで配置されるMECサーバと情報がやり取りされる。
(2)非地上系ネットワーク(NTN)
あらゆる産業や社会活動の基盤となるBeyond 5Gでは、地上系ネットワークと、宇宙ネットワークや高高度プラットフォーム(HAPS:High Altitude Platform Station)等の非地上ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)を統合的に運用することにより、陸上・海上・上空・宇宙をシームレスにつなぎ、国土100%をカバーするような通信カバレッジの拡張や、これを利用した様々サービスの提供・利用が期待されている。
まさに「日本の国土のどこでもつながり、利用できる通信インフラ」を実現するNTN統合ネットワークは、Beyond 5Gの重要な構成要素であり、その研究開発と社会実装の推進は、政府の「デジタル田園都市国家構想」(総務省「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」)、経済安全保障政策、科学技術イノベーション政策の観点から重要な取組である。
Beyond 5Gでは、こうした取組の加速とともに、宇宙政策や航空政策の観点からの関係府省との連携、これまでの総務省・NICTによる宇宙通信技術開発(衛星光通信、量子暗号通信)の成果展開の観点からの技術ユーザーとなり得る産業界や関係府省との連携等を図りながら進めていく必要がある。
また、垂直統合型で通信サービスが提供される現在の宇宙ネットワークについては、地上系ネットワークの発展形態を踏まえれば、ネットワークのオープン化や宇宙システムのオープンアーキテクチャー化が進展すると予想される。このため、オープンで標準的なインタフェースの導入によるネットワーク仮想化やグローバルスタンダードとなり得るアーキテクチャーのデザイン、宇宙システム全体のオーケストレーション等の分野において、我が国として戦略的なイノベーション創出が期待されている。
(3)量子ネットワーク
Beyond 5Gに関連する先進技術分野として、量子コンピューティング、量子センシングや、光時計等といった量子情報機器・デバイスが相互に接続され、量子情報(量子ビット)が流通する「量子インターネット」の実現が期待されている。
具体的には、現在、総務省・NICTが研究開発を進めている量子暗号通信技術(量子鍵配送(QKD))が量子通信の中継やネットワーク構築等を実現する上での基盤技術となり、これを応用・発展させることにより、将来的(2040年頃)には、古典ネットワーク(Beyond 5G、6G、7G)層と量子鍵配送ネットワーク層の上に、衛星・地上でグローバルに量子ビットが流通する量子ネットワークが構成され、これらのネットワークを活用した量子アプリケーション・サービスが提供されるという、究極のセキュアネットワークが構想されている。
このため、Beyond 5Gに向けて中長期を見据えた技術課題として、研究開発等に取り組む必要がある。
第5章 Beyond 5G研究開発戦略
5.1 研究開発課題の「重点化戦略」
(1)Beyond 5Gに向けた日本の強み
3章のBeyond 5Gに求められる要求条件(7機能)に着目した主な要素技術について、シンクタンクにおいて、Beyond 5G推進コンソーシアムの検討資料、国内外の技術動向、関係者からのヒアリングなど現時点で得られる情報を基に「日本の強み」について分析を行った結果を以下に示す。
同分析では、現在、世界で取り組まれているBeyond 5G関連の研究開発のうち、特にオール光ネットワーク、量子暗号通信、完全仮想化ネットワーク、オープンネットワーク(Open RAN)などで、現段階では我が国の産学官による研究開発が先行している旨の整理がなされている。
他方、現段階で要素技術が先行していたとしても、これから諸外国が研究開発投資や市場獲得に向けた取組を加速し、Beyond 5G市場の主導権争いが激化していく中で、我が国が勝ち残っていけるか否かはこれからの取組にかかっており、日本の強みを十分に活かして開発や実用化・社会実装でリードしていける戦略が必要である。
(2)産学官で取り組むべきBeyond 5G研究開発課題
4章のBeyond 5Gネットワーク全体像の検討や上記(1)の分析も踏まえ、Beyond 5Gに向けて産学官全体で取り組むべき研究開発課題として、「①オール光ネットワーク技術」、「②オープンネットワーク技術」、「③情報通信装置・デバイス技術」、「④ネットワークオーケストレーション技術」、「⑤無線ネットワーク技術」、「⑥NTN技術」、「⑦量子ネットワーク技術」、「⑧端末・センサー技術」、「⑨E2E(エンドツーエンド)仮想化技術」、「⑩Beyond 5Gサービス・アプリケーション技術」の10課題を以下のとおり整理する。
(3)研究開発課題の重点化の基本的考え方
上記(2)の研究開発10課題について、国の研究開発投資により全ての課題に等しく注力していくには財源や人的資源が限られていることに考慮し、今後特に重点的に国費を投入して注力すべき研究開発課題を絞り込み、研究開発を戦略的に推進していく必要がある。
その研究開発課題の重点化に当たっては、「日本の強み」、「技術的難易度」、「自律性確保」、「国家戦略上の位置づけ」、「先行投資を踏まえた加速化の必要性」を柱とした以下の考え方に基づいて資源配分の重点化を行い、我が国の国際競争力の強化や経済安全保障の確保を推進していくことが適当である。
①日本の強み
日本が強みを有する、又はそのポテンシャルを有することから、研究開発投資を集中することによって、他国との間で日本の優位性の確保・維持や早期確立が見込める。
②技術的難易度
技術的難易度が高く実用化に向けて研究開発上のブレイクスルーを必要とすることから、民間単独での研究開発投資にリスクを伴う。
③自律性確保
他国の研究開発に過度に依存すると、我が国における自律的、安定的な情報通信サービスの提供に支障を来すおそれがあることから、重点的な研究開発投資が必要となる。
④国家戦略上の位置づけ
当該技術の研究開発と社会実装を推進することにより、政府の各種国家戦略への貢献につながる。その実現のためには、関係府省と連携した政府一体での推進体制の構築や研究開発計画の立案・遂行のために重点的な研究開発投資が必要となる。
⑤先行投資を踏まえた加速化の必要性
国費等による先行的な研究開発投資の状況を踏まえ、①~④の観点や社会実装・市場獲得等の前倒し実現の必要性等から重点投資による研究開発の加速化が必要となる。
(4)国が注力すべき「重点研究開発プログラム」の方向性
上記(2)の基本的考え方に基づき、研究開発課題の重点化の方向性について以下のように類型化・整理を行った。
これを踏まえて、国による今後のBeyond 5G研究開発投資においては、日本が強みを有する又は先行している技術であり、それらのかけ合わせにより世界をリードしていくことができる技術として「オール光ネットワーク関連技術」、「非地上系ネットワーク関連技術」、「セキュアな仮想化・統合ネットワーク関連技術」を重点研究開発課題の柱(重点研究開発プログラム)と位置づけ、優先的に注力していくことが適当である。
5.2 研究開発と社会実装の「加速化戦略」
現状の5G国際市場において日本企業(ベンダー)は欧州、中国、韓国等の外国企業(ベンダー)の後塵を拝する中、諸外国はBeyond 5Gに向けて競争力強化等のために研究開発計画を具体化し、政府研究開発投資を積極的に拡大している状況にある。
そして今後さらに、Beyond 5Gの市場獲得に向けた取組は世界的に加速され、主導権を握るための熾烈な競争が繰り広げられる見込みである。
そうした状況下で、日本の企業等は、世界的にも優秀な研究開発力で強みを持つ技術分野を一定程度は有しているが、その国際競争力や市場獲得力において課題がある。
このまま手を打たずに、従来の延長上での取組を続けているだけでは、我が国は開発競争に大きく遅れを取り、Beyond 5G市場での存在感を失い、有望な研究開発力や技術力が、社会実装や海外展開を実現できずに埋没してしまうという強い危機感がある。
こうした危機を打開し、Beyond 5Gの熾烈な国際競争下で我が国が勝ち残っていくためには、我が国のBeyond 5G研究開発で得られた成果が世界的なBeyond 5Gのキーテクノロジーに位置づけられる必要があり、そのためには、研究開発成果をできる限り早期に国内で社会実装し、その有用性を世界にいち早く発信することで、グローバルなデファクト化を推進していくことが重要である。
これらを実現するための研究開発と社会実装の「加速化戦略」が必要不可欠であるところ、その具体的な取組を以下に示す。
(1)早期ネットワーク実装とマイグレーション実現に向けた「Beyond 5G社会実装戦略」の推進
これまでのBeyond 5G導入時期(Beyond 5G推進戦略上では2030年頃と位置づけ)について、以下①②③を重点研究開発プログラムとして研究開発を加速化し、その開発成果については、2030年を待つことなく、大阪・関西万博を起点として「2025年以降順次、社会実装」(できるものから早期に製品化・市場投入、ネットワークへの実装、国際展開)を進めることにより、「社会実装の開始時期の前倒し」を図る必要がある。
- ①通信インフラの超高速化・超省電力化を実現するための「オール光ネットワーク関連技術」
- ②陸海空をシームレスにつなぐ通信カバレッジの拡張(国土100%カバー)を実現するための 「非地上系ネットワーク関連技術」
- ③利用者にとって安全かつ高信頼な通信環境を確保するための「セキュアな仮想化・統合ネットワーク関連技術」
また、上記①②③の研究開発成果をキーテクノロジーとして、大阪・関西万博での成果発信とともに、順次現行ネットワークに実装していき、Beyond 5Gへマイグレーションしていく取組を着実に進めていく必要がある。
このため、以下のようなマイグレーションシナリオを基本として、上記の取組を一体で進める「Beyond 5G社会実装戦略」を強力に推進する必要がある。
- (2022年度~)特定用途や特定エリアにおける上記技術を活用したBeyond 5Gの先進ユースケースを具体化する。
- (2024年度~)オール光ネットワーク技術や仮想化ネットワーク技術等の組み合わせによる、公的機関を含む先進ユースケースのユーザやエリアでの利用を念頭に置いた技術開発・検証を行う。
- (2025年度~)上記成果を大阪・関西万博において産学官が一体となってグローバルに発信する。
- (2026年度~)オール光ネットワーク技術や仮想化ネットワーク技術等の機能拡充と段階的なエリア拡大を進める。また、非地上系ネットワーク技術等とも組み合わせた日本全国・グローバルへのエリア拡大を進める。
(2)研究開発戦略と一体となった「Beyond 5G知財・国際標準化戦略」の推進
重点研究開発プログラムについて研究開発の初期段階から、戦略的パートナーとの国際連携や標準化に向けた国際協調を行いながら研究開発を強力に推進し、我が国が目指すBeyond 5Gネットワークアーキテクチャと重点研究開発プログラム開発成果について、オープン&クローズ戦略により国際標準化と知財取得を的確に進めていく必要がある。
具体的には、
- オープン(協調)領域については、国内企業も含め多様なビジネス創出につながるオープンアーキテクチャの促進を基本として、ITUや3GPP等でのネットワークアーキテクチャとキーテクノロジーの国際標準化を有志国とも連携して我が国が主導し、国際標準に適切に反映していく必要がある。
- クローズ(競争)領域については、重点研究開発プログラムの成果のコア技術を特定し、権利化・秘匿化等を行い、我が国の競争力の源泉となる差異化要素として囲い込む必要がある。
現時点における知財・国際標準化戦略の詳細は第6章に記載しているところ、上記のオープン&クローズ戦略を含めた知財・国際標準化戦略については、総務省と主要な通信事業者・ベンダー等による連携・協力のもとで非公開の検討体制を早期に構築し、標準必須特許等の知財の活用方策も含め、その具体化を進める必要がある。
(3)世界市場をリードできる「Beyond 5G海外展開戦略」の推進
我が国の研究開発成果の海外展開を推進し、グローバル市場の獲得につなげていくためには、我が国の重点研究開発プログラムで得られた成果が世界的なBeyond 5Gのキーテクノロジーに位置づけられることが必要である。
そのためには、「社会実装戦略」による国内での早期かつ順次の社会実装を実現し、その有用性を世界にいち早く発信することで、グローバルなデファクト化を推進していくことが重要である。
このため、「知財・国際標準化戦略」(オープン&クローズ戦略)のもと、国内企業も含め多様なビジネス創出につながるオープンなBeyond 5Gネットワークアーキテクチャを促進することを基本として、ネットワークアーキテクチャとキーテクノロジーの国際標準化を有志国とも連携して我が国が主導していくとともに、重点研究開発プログラムの成果を主要なグローバルベンダとも適切に連携しながら、世界の通信事業者への導入を促進していくことが必要である。
こうした考え方を基本とした「Beyond 5G海外展開戦略」を、総務省と主要な通信事業者・ベンダー等による連携・協力のもとで強力に推進する必要がある。
これらの取組を通じて我が国が世界市場をリードし、30%程度の市場シェアの確保を目指す必要がある。
(4)関係府省と連携した政府一体によるBeyond 5Gの推進
重点研究開発プログラムの着実な推進と開発成果の社会実装に向けて、デジタル田園都市国家構想、経済安全保障、グリーン等、政府全体の国家戦略の重要な構成要素と位置付けた上で、総務省が単独で取り組むのではなく、必要な施策について関係府省と連携しながら政府一体で推進する必要がある。
(例)
- ネットワークの超低消費電力化を実現する情報通信機器、デバイスの研究開発
- HAPSを成層圏において運用する際に必要な航空制度上の対応
- 宇宙ネットワーク技術を含めた衛星システム全般の研究開発
- 量子ネットワーク技術の研究開発について、量子イノベーション戦略の関係府省と連携
- 研究開発成果展開(技術ユーザー、アプリケーション)の観点から関係府省と連携 等
(5)Beyond 5G研究開発による情報通信産業のカーボンニュートラルへの貢献
重点研究開発プログラムへの集中投資を行い、研究開発成果をネットワークに順次実装していくことにより、通信ネットワーク全体の消費電力量の大幅な削減を図る。
具体的には、オール光ネットワーク技術をデータセンターからコアネットワークへと順次実装していくことに加え、ネットワークオーケストレータによるコアネットワークから無線基地局までの自律制御により可能となる省電力運用、無線基地局におけるバワーデバイス実装や出力制御による省電力化、ディスアグリゲーテッドコンピューティングによるデータセンターの地方分散と給電状況に応じたリソース運用(「エネルギーと情報の地産地消」)等の取組を組み合わせることにより、通信ネットワーク全体の電力使用効率を2倍程度に向上させ、2040年に見込まれる温室効果ガスの排出量から45%程度の削減に寄与することとなる。
これに再生可能エネルギー利用拡大等による温室効果ガス削減効果を合わせるなどにより、2040年の情報通信産業のカーボンニュートラル達成に貢献していく。
なお、「社会実装戦略」に基づく研究開発成果のネットワーク実装(マイグレーションシナリオ)に伴う通信ネットワーク全体の省電力化効果については引き続き精緻化を進めることが適当である。
(6)重点研究開発プログラムの「大型基幹化」と「集中的取組フェーズの拡充」
上記(1)~(5)を実現するためには、国の研究開発投資により重点研究開発プログラムに今後5年程度かけて集中的に取り組むことが必要不可欠である。
このため、これまでの研究開発集中取組期間(Beyond 5G推進戦略上では2025年までを先行的取組フェーズと位置づけ)を「2027年頃まで」に拡充し、重点研究開発プログラムについては大型の基幹プロジェクトを組成し、研究開発を強力に推進・加速化する必要がある。
こうした大型基幹研究開発プロジェクトに取り組む必要があること、また、更なる先のフェーズの研究開発課題、情報通信インフラの世代交代サイクルやマイグレーション等を見据え、中長期的な視点から継続的な取組を可能とする必要があることから、研究開発予算の多年度化を可能とする枠組みを創設することが望ましい。
(7)Beyond 5Gに向けた人材育成・人材循環の基盤となる取組
上記のようなBeyond 5Gの社会実装を見据え、情報通信分野の人材育成や人材循環の基盤となる環境整備を促進していく観点から、ICTを活用し、様々な領域、分野(農業、医療、公共等)における新たな技術、ビジネス、サービスや課題解決のためのソリューション等を創出できる人材を育成するための実践の場を提供することが適当である。
このため、企業、研究所、大学、公的機関、国際機関、ユーザー等が参画し、ICTを活用した実践的研究開発やプロジェクトマネジメント経験が得られる共創の場、プラットフォーム、リビングラボ、テストベッドの設置を推進することが適当である。
5.3 研究開発ロードマップ
5.1及び5.2に基づき、我が国が取り組むBeyond 5G研究開発の着手・実施、開発成果の創出・実装開始等についての時期や期間に関する目標工程をロードマップとして以下のとおり整理する。
第6章 Beyond 5G知財・国際標準化戦略
6.1 研究開発戦略に基づく国際標準化ロードマップ
(1)国際標準化ロードマップについて
Beyond 5Gにおいて我が国の国際競争力を強化していくためには、研究開発成果を踏まえた社会実装とその実現に向けた国際標準の獲得と知財(標準必須特許を含む)の取得を一体的な企業戦略として戦略的に取り組むことが求められており、Beyond 5Gに向けた「研究開発戦略」と連動した「知財・国際標準化戦略」の具体化が必要である。
5章に示したBeyond 5Gの各要素技術が、2030年代に社会実装されることを前提に、ITU等のデジュール機関、3GPP等のフォーラム機関、Beyond 5Gにおいて現時点で想定される国際標準化機関の候補を前広に挙げ、想定される国際標準化ロードマップを以下のとおり整理する。
(2)国際標準化ロードマップの基本的考え方
Beyond 5Gに係る国際標準化については、各企業が標準化すべき個々の要素技術の研究開発状況に応じて、標準化を行う場合の技術性能要件の検討、各国から順次提案受付、国際標準の審議・策定等が進められる見込みであり、Beyond 5Gの国際標準化機関の活動状況に応じ、研究開発成果を適時適切に入力し、戦略的に標準化活動を進めていく必要がある。
このため、Beyond 5Gを5章で示した研究開発戦略に基づきデジタル田園都市国家インフラとして社会実装を進め、海外展開を図っていくため、特に以下の点に留意しながら、「国際標準化戦略」を具体化していく必要がある。
- 我が国の研究開発成果を適切に標準化・社会実装に結びつけられるよう、国際標準化機関におけるBeyond 5Gに係るネットワークアーキテクチャに関する標準化の検討に当たっては、積極的に参画していく。
- 特にBeyond 5Gを構成する主要技術については、3GPPにおいて2028年頃(リリース21)に検討され、さらにITUにおいて新たな規格の策定に係る議論が進められることが想定されるため、重点研究開発プログラムについては、「Beyond 5G社会実装戦略」を踏まえつつ、リリース21以前のリリース19(2025年頃)及びリリース20(2027年頃)から官民一体となり、我が国として優先的に標準化の推進を図り、議論をリードしていく。
- 重点研究開発プログラムの標準化にあたっては、環境エネルギーなど世界的課題に関わる指標にも着目し、通信分野以外の標準化活動の動向も見極めながら、関係省庁とも必要に応じ連携して標準化を図り、普及促進を図る。
6.2 知財・国際標準化戦略の方向性
「Beyond 5G推進戦略」(2020年6月総務省)では、Beyond 5Gの必須特許のシェアを5G必須特許の世界トップシェアと同水準の10%以上を獲得・維持することを目標としている。
企業の国際競争力を強化していく観点からは、獲得した標準必須特許と関連する周辺特許を活用し、他の特許を取得している企業と共同でパテントプールを形成するなど、知財の収益化や事業防衛など戦略的に活用していくことが重要である。
また、我が国の優れた技術を国内外に広く展開して行くには、研究開発ロードマップで示された重点分野を中心に我が国の優位性のある技術について、知財化を図るとともに、国際標準化ロードマップを踏まえ、標準必須特許を積極的に取得することが重要である。
さらに、研究開発成果の早期の社会実装の観点からは、Open RAN、HAPS、IOWNなど国内外の企業が幅広く参画する構想で実現が期待される技術やサービスを中心に、各企業がオープン&クローズ戦略を持ちながら、通信事業者と通信ベンダーとの連携や社会実装に関心が高いと考えられる国における通信事業者等との連携を円滑に図っていくことが重要である。
(1)特許分析を活用した我が国の優位性等の把握(IPランドスケープの活用)
「Beyond 5G新経営戦略センター」において、3章のBeyond 5Gに求められる要求条件(7機能)に着目し、Beyond 5G等に関する各国の主要企業・研究機関が作成した白書などを参考にBeyond 5Gにおいて必要となる技術を網羅的に抽出し、2010年以降の特許出願の状況から、現に日本が特に強みを有すると考えられる技術などを分析しており、5章の「重点研究開発プログラム」の対象3技術についての分析結果を以下のとおり整理する。
【①オール光ネットワーク関連技術】
オール光ネットワークに関連する技術として、「超高速・大容量」に係る機能として「オール光ネットワーク」を、また、オール光ネットワークと親和性が高い「超低消費電力」に係る機能については、IOWN構想などにおいても光電融合技術として位置づけられている「低消費電力半導体」について分析している。 とりわけ「オール光ネットワーク」については、日本の出願件数や上位出願企業数が多く、また、他国と比較しても日本企業の研究開発が進んでいる分野であることが読み取れる。また、オール光ネットワークと関連の強い「低消費電力半導体」については、現時点では他の技術領域に比べて特許出願件数が少なく、今後、研究開発が進んでいく領域と考えられる。 このため、今後、重点研究開発プログラムにおいて研究開発を進めるにあたっては、技術動向を踏まえつつ、IOWNグローバルフォーラム等を通じた標準化活動や国際共同研究の活用など通じた適切な外国パートナー企業との連携関係を構築し、我が国の技術を生かした早期の普及展開を図っていくことが重要である。 【②非地上系ネットワーク関連技術】 「非地上系ネットワーク関連技術」については、「拡張性」に係る機能として、特に「HAPS活用」について分析している。「HAPS活用」については、特許出願件数は非常に少ないものの、日本企業の研究開発が先行している分野であることが読み取れる。 今後、重点開発プロブラムにおいて研究開発を進めるに当たっては、HAPS構想に係る研究開発や標準化活動を推進する一方で、「非地上系ネットワーク関連技術」の全体像を整理しながら、HAPSを含めた我が国の強みを分析し、「非地上系ネットワーク技術」を中心に研究開発を進め、技術領域全体を牽引していくことが重要である。 【③セキュアな仮想化・統合ネットワーク関連技術】 「セキュアな仮想化・統合ネットワーク関連技術」については、「自律性」に係る機能として、特に「完全仮想化」について分析している。「完全仮想化」については、出願件数が多く、また、海外企業が先行していることから、日本企業が強みとし難い分野であることが読み取れる。 このため、今後は、上記の「オール光ネットワーク」や「HAPS」などの強みを持つ分野を生かしながら、国際共同研究などを通じて、最適な海外企業をパートナーとし、技術力を伸ばしていくことが重要となる。また、「セキュアな仮想化・統合ネットワーク関連技術」については、ネットワークオーケストレーション技術やオープンネットワーク技術、エンドツーエンド仮想化技術など、多岐の技術要素から構成されるものであり、今後、注目されるべき技術を更に整理しながら、我が国が標準化や研究開発、国際共同研究などにおいて注力すべき分野を整理していくことが重要である。 |
(2)特許分析に関する今後の方向性
(1)の分析結果は、あくまでも7機能のうち、現時点で注目の要素技術として挙げられた項目について、特許出願件数の観点からの調査・分析を行ったものである。
Beyond 5Gに係る研究開発や標準化活動等の国際競争が激しくなる中、限られたリソースで効果的な成果を得ていくためには、こうした分析を研究開発戦略や知財・国際標準化戦略の評価と必要に応じた見直しにつなげていくことが必要であり、今後、
- 特に重点課題として位置づけられている重点研究開発プログラムのうち、「非地上系ネットワーク」や「セキュアな仮想化・統合ネットワーク関連技術」については、特許出願における国際特許分類や注目すべき技術等を整理・分析
- Beyond 5G 研究開発 10 課題に基づく各研究開発プロジェクトに関し、新たなサービスの創出につながる注目技術に関連するテーマを抽出
などに活用できるよう分析手法の向上や改良を重ねていくことが重要である。
(3)重点研究開発プログラム実施における国際標準化・知財取得の方向性
我が国が強みを有する技術を活用し、国際競争力を強化していくためには、研究開発動向を分析しつつ、研究開発段階から、
- 普及展開に必要な要素技術について、標準化を図り、標準必須特許の取得や周辺特許の取得を進めるべきもの
- 企業の競争力の源泉となる技術であり、特許を取得しつつも、ライセンスせずに自社技術として確保するもの、完全に秘匿化すべきもの
などのオープン&クローズ戦略に基づく国際・国内での展開シナリオを整理し、また、研究開発の進捗状況や市場動向の変化を踏まえながら、必要に応じて、「研究開発戦略」への反映や「国際標準化戦略」の見直しにつなげていくことが重要である。
こうした認識の下、現時点における(2)の分析を参照しながら、重点研究研究プログラムの対象3技術について、今後の展開に向けた方向性をまとめる。
【①オール光ネットワーク関連技術】
「オール光ネットワーク関連技術」については、Open RANや仮想化NWなど「セキュアな仮想化・統合ネットワーク関連技術」に関連性が深い技術項目については各研究開発の進展等を踏まえた知財・国際標準化戦略の反映が必要である。
特に、我が国が強みを有する光の伝送技術と電子処理の技術を組み合わせて新たな通信ネットワーク向けプロセッサを生み出す光電融合技術は、ネットワークの超低遅延や大容量・高品質化を飛躍的に伸ばすだけにとどまらず、電力効率の向上による電子機器の低消費電力化を実現しようとするものであり、ネットワーク機器への適用のみならず、多様なデバイスへの適用可能性を視野に入れ、我が国のデジタルインフラの中核技術としていくべき技術である。
また、こうした技術については、今後、国際的な開発競争が一層激しくなることが見込まれることから、社会実装と市場展開を両輪で図ることが必要であり、オール光ネットワークに関する技術開発検証等の成果を踏まえ、必要な標準化を円滑に図り、2026年度以降にオール光ネットワーク機器を含めた幅広い関連製品のグローバル展開を推進していく。
【②非地上系ネットワーク関連技術】
「非地上系ネットワーク関連技術」については、個別技術の標準化だけではなく、サービスの信頼性確保の観点から、多様な事業者間での相互運用性に関連した研究開発・標準化についても対応していくことが重要である。
特にHAPSについては、我が国の複数の通信事業者がその構想に参画しており、ルーラルエリアや空域での速やかなサービス提供、大規模災害被災地域での迅速な代替インフラの整備といった役割が期待されている。
他方で、HAPSについては、成層圏の環境下においても耐久性のある機器の開発や通信サービスにあたっての品質確保のほか、航空分野に係る国際ルールの整備と国内法への反映について課題があることが指摘されており、関係省庁と連携しながら、2030年までに世界に先駆けた新たなサービスを実現していくことが重要である。
標準化については、必要な周波数の確保とそのために必要な共用条件の検討を以下のとおり進める。
- 2023年ITU世界無線通信会議(WRC-23)で、IMT基地局としてのHAPS(HIBS)が利用可能な周波数が不足している状況を改善するため、日本としてHAPSに必要な周波数が確保できるよう、対応していく(議題1.4)。
- 2027年ITU世界無線通信会議(WRC-27)で、HAPSも含めたNTNの利用できる周波数の拡大の議論ができるように、共用条件の検討等の対応をしていく。
【③セキュアな仮想化・統合ネットワーク関連技術】
「セキュアな仮想化・統合ネットワーク関連技術」については、国際的に事業者間の競争が激しい分野であり、国際競争力の強化の観点からは、国内市場はもとより、海外市場への進出を念頭に置きながら研究開発・標準化・知財化を進めていくべき分野である。
現在、仮想化・統合ネットワーク関連技術の導入に不可欠なRANやモバイルコアネットワークといったネットワーク関連機器については、我が国企業の海外進出が出遅れている分野である。
また、特に、「仮想化・統合ネットワーク関連技術」の導入は海外の通信事業者とのネットワークの相互接続や相互運用を確保するなど、国内外の通信事業者と通信ベンダーが、研究開発・標準化の段階から連携を図ることが不可欠である。
このため、O-RAN AllianceやIOWN構想に参画する海外の通信事業者との連携を念頭に、2025年度までにRAN Intelligent Controller及び仮想化技術に係る研究開発を推進することで、その成果を活用した標準化を後押しし、国際市場での展開を本格的に開始する。
(4)Beyond 5Gの利活用の推進に向けた標準化等の推進
重点研究開発プログラムの成果の社会実装を加速し、少子高齢化などによる労働力不足の解消、地域活性化といった社会課題解決やイノベーションの創出に結びつけ、真のデジタル田園国家インフラとするためには、多様な地域や生活シーン、行政分野、産業分野にとって利便性・信頼性の高いものとしていくことが不可欠である。
そのためには、これまで5Gの整備開発において取り組んできた、多様な産業でのユースケース作りを進化させ、通信事業者や通信ベンダーが多様なセクターと連携し、標準化していくべき機能要件やサービス要件を整理し、通信サービスとして広くサービスが提供される基盤を提供していくことが重要である。
このため、
- 2022年度中に「Beyond 5G推進コンソーシアム」と「Beyond 5G新経営戦略センター」等の関係機関が有機的に連携し、標準化すべき機能要件やサービス要件を物流・運輸、金融、準公共分野等の多様なセクターと連携し整理
- 研究開発成果等を踏まえ、2024年度以降に多様な産業での活用可能な通信サービス基盤の構築に必要な標準化や認証制度の創設等の検討
を進め、Beyond 5Gの社会実装を進めていくことが重要である。
さらに、我が国の研究開発力を強化し、よりイノベーティブな技術を生み出していく観点からは、中小企業・ベンチャー・スタートアップが研究開発から知財・国際標準化の取組に参画しやすい仕組み作りも重要であり、例えば重点研究開発プログラムにこうした事業者が参画した場合には、知財・国際標準化活動に対する支援を行う仕組みを検討していくことも必要である。
(5)知財・国際標準化の戦略的推進のための人材育成
Beyond 5Gの国際標準化活動を円滑に推進し、日本のプレゼンスを強化していくため、官民が一体となって主要な国際機関における主要ポストの確保に取り組む。
また、企業の経営層の強い意志とリーダーシップのもとで、国際標準化と知財取得に関する関係部門の一体的運用や有機的連携、効果的な人事評価の仕組み、技術・経営戦略を組み立てる幹部人材の育成等、組織作りと人材育成を一体的に進めることが必要であり、企業の取組にインセンティブを付与する観点から、国として以下のような施策を講じていく。
- 国の研究開発関連施策において、経営戦略等と知財・国際標準化戦略との関係性、関係部門との連携体制、人材育成の方針や取組を評価する仕組み
- 国際標準化人材の育成に積極的に取り組む企業におけるメンターや若手専門家に対する国際会議対応の支援
「Beyond 5G新経営戦略センター」において、産業界や大学・高専が連携・協力して、「リーダーズフォーラム」を通じた幹部候補人材の育成、ハッカソンイベント等を通じた技術者交流の場の提供等に取り組む。
第7章 今後の取組・フォローアップについて
本報告書では、Beyond 5Gが実現する2030年代の社会像を見据えながら、そのユースケースや要求条件を整理し、Beyond 5Gネットワークのアーキテクチャーや構成要素等の方向性を描いた上で、我が国において国として優先的に注力すべき重点研究開発課題、研究開発と社会実装の加速化戦略、ロードマップを含めて「研究開発戦略」として取りまとめた。
本研究開発戦略では、早期ネットワーク実装とマイグレーション実現に向けた「Beyond 5G社会実装戦略」の推進、研究開発戦略と一体となった「Beyond 5G知財・国際標準化戦略」の推進、世界市場をリードできる「Beyond 5G海外展開戦略」の推進、関係府省と連携した政府一体によるBeyond 5Gの推進、Beyond 5G研究開発による情報通信産業のカーボンニュートラルへの貢献に関する方向性を示した上で、Beyond 5G重点研究開発プログラムを大型基幹プロジェクトとして強力に加速化する等の方向性を示した。
このうち、「知財・国際標準化戦略」については、本研究開発戦略に基づき、Beyond 5G新経営戦略センター(戦略検討タスクフォース)の検討結果も踏まえながら、国際標準化ロードマップや知財・国際標準化の方向性についての整理を行った。
Beyond 5G推進コンソーシアム、Beyond 5G新経営戦略センター、産業界や大学等におけるBeyond 5Gの主要な関係者におかれては、本報告書が示した方向性を踏まえ、Beyond 5Gで我が国が世界をリードすべく、産学官が一丸となった取組を加速していく必要がある。
また、総務省においては、本研究開発戦略を強力に推進・加速化し、確実に成果を出していくため、関係者の取組の促進や関係府省との連携も図りながら、必要となる研究開発投資の拡充や研究開発制度の整備等に取り組む必要がある。
あわせて、本研究開発戦略に基づくBeyond 5G重点研究開発プログラムの早期かつ順次のネットワーク実装(マイグレーションシナリオ)や大阪・関西万博での発信を念頭に置いた「社会実装戦略」、世界市場をリードしグローバル市場獲得につなげていく「海外展開戦略」について、産学官の関係者と連携・協力して具体化を進めるとともに、これを強力に推進していく必要がある。
さらに、総務省においては、Beyond 5G新経営戦略センターをはじめとする産学官の関係者と連携・協力して非公開の検討体制を早期に構築し、国内外の研究開発・国際標準化の動向・進展等も踏まえ、知財・国際標準化戦略(オープン&クローズ戦略)の具体化に取り組む必要がある。
そして、本審議会としては、これらの考え方も踏まえ、本報告書を踏まえた関係者の取組が着実かつ円滑に実施されていくよう、今後定期的にフォローアップしていくとともに、新たな課題や環境変化等が生じた場合には必要に応じて更なる検討を行うこととする。
参照
総務省トップ > 広報・報道 > 報道資料一覧 > 「Beyond 5Gに向けた情報通信技術戦略の在り方」報告書(案)についての意見募集