この記事では、「臨床試験に誰もがアクセスしやすい社会を創る会」(以下、「創る会」とします)による、日本の臨床試験情報システムjRCT(Japan Registry of Clinical Trials)の改善に向けた継続的な要望活動についてご紹介します。
「創る会」は2023年6月の活動開始以来、jRCTの検索性の低さ、専門用語が多くて患者さんには理解が難しいこと、また情報を入力したり更新したりするのが煩雑であることなど、さまざまな課題を指摘してきました。そして、厚生労働大臣などに対して、具体的な改善策を繰り返し提案しています。これらの要望は、単に技術的な修正をお願いするだけでなく、運用体制や予算の確保、関係者間での継続的な対話、さらには臨床試験情報へのアクセスを取り巻く環境全体の改善にまで及んでいます。
「創る会」の要望活動がこれほど長く続き、また詳細にわたっていることからは、jRCTが抱える問題が表面的なものではなく、システムの根本に関わる根深い課題であることがうかがえますね。これに対して、厚生労働省もjRCTの大規模な改修や有識者検討会の設置といった対応を進めており、患者さん中心の設計と、さまざまな立場の人たちが協力し合うことが、本当にアクセスしやすい臨床試験情報基盤を作るためには不可欠であるという認識が広がりつつあるようです。ここでは、「創る会」の活動記録や関連資料に基づいて、jRCT改革の経緯や主な論点、そして今後の展望について考えていきたいと思います。
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アクセスしやすい臨床試験情報を目指して:「創る会」のイニシアチブ
背景:日本の臨床試験情報環境とjRCTの役割
臨床試験の情報は、新しい治療法を求めている患者さんやそのご家族、治療の選択をサポートする医療従事者の方々、そして医学研究を進める研究者にとって、非常に大切なものです。日本には、臨床研究法という法律に基づいて、国内で行われる臨床研究(治験も含まれます)の情報を登録し、公開するための公的なシステムとしてjRCTがあります 1。このシステムは、臨床試験の透明性を確保し、試験に参加する方々を守り、研究の質を保つことを目的として導入された登録制度の一部なんですよ 3。
しかし、jRCTの運用が始まってから、検索機能の使いやすさや、一般の方々が治験情報にどれだけアクセスしやすいか、また国内の治験・臨床研究情報をどれだけ網羅できているか、といった点が課題として認識されるようになりました 4。jRCTは国立保健医療科学院が運営しているとされていますが 1(厚生労働省が運営しているとの記述もあります 2)、2008年からは臨床研究(試験)情報ポータルサイトを通じて、登録された情報が公開されてきました 3。
一方で、日本国内にはjRCT以外にも、大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)センターが運営するUMIN-CTR(臨床試験登録システム)など、複数の臨床試験登録システムが存在しています 5。UMIN-CTRは主に学術研究機関での臨床研究(臨床研究法に基づくものを除く)を対象としていて、jRCTは臨床研究法に基づく臨床研究や治験を対象とするなど、それぞれが異なる種類の研究を扱っているのです 5。このように情報源が分かれていると、利用する方々が必要な情報を網羅的に見つけるのが難しくなってしまいます。このことも、jRCTの改善と情報を一つにまとめる必要性を高めている要因と言えるでしょう。厚生労働省もこの問題を認識していて、国内に複数あるデータベースを順次jRCTへ統合し、検索機能を改善していく方針を示しています 6。
「創る会」:設立、使命、主要ステークホルダー
このような背景の中で、「臨床試験に誰もがアクセスしやすい社会を創る会」は、「患者、医療従事者、研究者、企業など、臨床試験に関わるすべての人が、必要な情報に容易にアクセスし、活用できる社会の実現」を使命として設立されました(「要望活動報告書」はじめに)。この会は、患者さん、ご家族、医療関係者、研究者の方々によって立ち上げられ 7、日本製薬工業協会(製薬協)の患者団体連携推進委員会が事務局を担っているんですよ 7。
共同発起人には、そうそうたる方々が名を連ねています。例えば、天野慎介さん、桜井なおみさん(一般社団法人全国がん患者団体連合会)、眞島喜幸さん、辻邦夫さん(一般社団法人 日本難病・疾病団体協議会)、西村由希子さん(特定非営利活動法人ASrid)、齊藤光江さん(順天堂大学医学部附属順天堂医院)、そして中村健一さん、若尾文彦さん(国立研究開発法人国立がん研究センター)といった、患者団体、難病団体、研究支援組織、大学病院、国立研究機関の代表的な方々です(「要望活動報告書」1. 活動開始と方針提示(2023年6月))。
特に注目すべきは、活動を始めた当初から、厚生労働省、国立保健医療科学院、国立がん研究センター、製薬協の関係者がオブザーバーとして参加していた点です(同上)。このように多様なメンバー構成と、主要な機関との初期からの連携は、「創る会」が幅広い合意形成と、政策提言を行う相手との直接的な対話の窓口作りを意図した、戦略的なアプローチを取っていることを示しています。これは単なる草の根運動ではなく、既存の医療システムの中で影響力を持つ組織や個人との連携を重視した活動体であると言えるでしょう。
要望活動の時系列記録:「創る会」によるjRCT改革要求(2023-2025年)
「創る会」によるjRCT改善に向けた要望活動は、2023年6月から2025年5月にかけて、厚生労働大臣や厚生労働省医政局長などに対し、継続的かつ段階的に具体的な提案として提出されてきました。その経緯と主な内容を時系列で見ていきましょう。
まず、2023年6月8日には、厚生労働記者会への説明資料という形で、jRCTの検索性の低さや専門用語の多さといった現状の課題が指摘されました。そして、あらゆる関係者にとって使いやすいサイトへとjRCTを改修するよう厚生労働省に働きかける方針が表明され、3カ年計画(対話の場の創出、ユーザーフレンドリーなjRCT構築、啓発活動)が提示されました。将来的には、jRCTを基盤として、疾患領域ごとに二次利用可能な環境を目指す構想も示されたのです。
続いて2023年7月10日には、当時の厚生労働大臣 加藤勝信 様らに宛てて、より具体的な提案がなされました。jRCT(登録・データベース機能)と国立保健医療科学院臨床研究情報ポータルサイト(検索・参照機能)の役割分担の検討や、jRCTの検索機能・表示情報の改善(例えば、患者さんが普段使うような平易な用語や一般的な疾患名、同意説明文書で使われる用語での検索への対応、検索文字を入力した際の予測表示機能の導入、患者さんが知りたい順番での検索結果項目の表示など)が提案されました。さらに、同意説明文書(ICF)をサイト上で閲覧できる機能や、ICFが患者さんの視点でレビューされたかどうかのチェック欄の設置、厚生労働省やPMDA(医薬品医療機器総合機構)への届出情報と一般に公開される情報の分離の検討、登録内容を変更した際の不具合の解消、そしてシステム改修を検討する場への「創る会」メンバーの参加希望などが盛り込まれました。
2023年12月12日には、当時の厚生労働大臣 武見敬三 様らに対し、情報を入力する側と検索する側の双方の負担を軽減するための策や、事業を進めるための体制整備・予算確保に関する要望が提出されました。入力者の負担軽減策としては、短期的な計画(例えば、変更・軽微変更・届出外変更を同時に行えるようにする機能や、実施計画のPDFに変更内容を反映させる機能、医療機関の変更箇所を表示する機能、複数の変更申請を一時保存できる機能、氏名や電話番号などのスペースの有無を「変更なし」とみなす機能、e-Rad番号の表示形式の修正、医薬品コホートごとの進捗を自由に記載できる欄の追加など)と、中期的な計画(例えば、jRCTへの登録とPMDAへの届出という重複作業を減らす機能や、複雑な説明が必要な場合に画面を共有しながら対応できる機能など)が提示されました。検索者の負担軽減策としては、短期的な計画(例えば、検索条件を入力する画面の表示形式の改善(掲載項目や項目名の見直し)、検索結果をダウンロードできる機能、患者さん向けの資料を掲載する機能とその表示文言の改善、専門家向けと市民向けの検索画面を分けることなど)と、中期的な計画(例えば、疾患名を選択する機能の見直し、予測変換機能、検索結果を並べ替える機能、データを二次利用するための機能の追加(検索条件や表示条件を指定できるようにする、検索条件をURL化する、データをコード化するなど)、スマートフォンへの対応、表示を拡大・縮小したり背景色を変更したりといった色覚に配慮した機能など)が提案されました。体制整備としては、委員会形式での検討と多様な視点の導入(「創る会」の参加希望を含む)、短期・中期の要望への迅速かつ着実な対応、そして改修に必要な予算措置が求められました。
2024年5月31日には、再び厚生労働大臣 武見敬三 様らに対し、これまでの要望内容がjRCTの改修にどのように反映されたか、また今後の対応状況や改修の見込みについて「創る会」へフィードバックすること、令和6年度のjRCT改修に向けた仕様検討のための有識者検討会へ「創る会」の構成員が参加することなどが強く求められました。また、患者団体、医療・研究機関、製薬企業など、さまざまな関係者の意見を取り入れた改修を行うこと、ユーザーフレンドリーなjRCTの構築や啓発活動、保守運用・改修に必要な予算を迅速に措置すること、令和6年度以降も「創る会」と継続的に意見交換できる場を設けること、jRCTの使用方法や臨床試験情報に関する積極的な啓発・周知活動を行うこと、そして国内の臨床試験情報を一元化するためにjRCTとUMIN(大学病院医療情報ネットワーク)を統合し、適切な運用体制を整備することが要望されました。
2024年8月9日には、厚生労働大臣 武見敬三 様、厚生労働省医政局長 森光敬子 様(当時)らに対し、過去の要望書および「jRCT改修に向けた要望に関する調査結果」を踏まえた改修の実施、令和7年度の予算確保を含む、安定的かつ継続的なjRCT運営のための予算措置、有識者委員会での議論内容や要望事項への対応状況・改修見込みについて「創る会」へフィードバックすること、令和7年度以降も継続的な議論ができる検討会などの場を設けること、そして患者団体などが実施するシンポジウムなどへの協力と支援が要望されました。
そして2024年12月6日には、厚生労働大臣 福岡資麿 様、厚生労働省医政局長 森光敬子 様らに対し、2023年以降の要望書の内容および「jRCTのあり方検討に係る有識者委員会」の意見を反映した大規模な改修と継続的な保守運営、ユーザビリティを確認するためのテストプロセスへ「創る会」が参加し、そのフィードバックを反映させることなどが求められました。さらに、令和7年度の予算確保と安定的・継続的な運営のための予算措置、有識者委員会での議論内容や要望事項への対応状況・実装見込みについて「創る会」へフィードバックすること、令和7年度以降の継続的な議論の場を設け、関係各所(健康・生活衛生局難病対策課、がん・疾病対策課など)と連携して疾患領域別の二次利用可能な環境の実現に向けた検討を行うこと、そして患者団体などが実施するシンポジウムなどへの協力と支援が要望されました。
直近では、2025年5月14日に、厚生労働大臣 福岡資麿 様、厚生労働省医政局長 森光敬子 様らに対し、これまでの要望内容および有識者委員会の意見を反映した大規模改修と継続的な保守運営、改修後のマニュアルなどに「患者にわかりやすい情報の提供」に関する記載を盛り込むことなどが要望されました。また、ユーザーフレンドリーなjRCT構築に必要な予算を確保し、安定的・継続的な運営のための予算措置を検討すること、リリース前のテスト環境で「創る会」が確認する機会を設け、そのフィードバックを反映させること、有識者委員会での議論内容や要望事項への対応状況・実装見込みについて「創る会」へフィードバックすること、jRCTの基盤整備に加えて、関係各所と連携して疾患領域別の二次利用可能な環境の実現に向けた検討と支援を行うこと、令和7年度以降も継続的な議論ができる検討会などの場を設けること、そして臨床試験へのアクセス向上に向けた医療従事者などの人材育成・体制整備や、患者団体などが実施するシンポジウムなどへの協力と支援が求められました。
(出典:「臨床試験に誰もがアクセスしやすい社会を創る会」提出要望書に基づく)
初期の問題提起と政策提言(2023年6月)
活動を始めた当初、「創る会」は厚生労働記者会への説明資料を通じて、jRCTの検索性の低さや専門用語の多さが、患者さんによる情報理解を難しくしている現状を指摘しました。そして、あらゆる関係者にとって使いやすいサイトへとjRCTを改修するよう厚生労働省に働きかける方針を表明し、2023年度から2025年度にかけての事業計画(対話の場の創出、ユーザーフレンドリーなjRCT構築、臨床試験情報の啓発・周知活動)を提示したのです。将来的には、jRCTを基盤として、疾患の領域ごとに情報を二次的に利用できるような環境を目指すという構想も示されました(「要望活動報告書」1. 活動開始と方針提示(2023年6月))。
jRCTシステム改善に関する具体的提案(2023年7月)
続いて、厚生労働大臣や医政局長などに対し、より具体的なシステムの改善案が提出されました。主な提案には、jRCT(登録・データベース機能)と国立保健医療科学院臨床研究情報ポータルサイト(検索・参照機能)の役割分担を明確にすることを検討するよう求めるものや、患者さんが認識しやすい平易な用語や一般的な疾患名、同意説明文書(ICF)で使われる用語で検索できるようにすること、検索文字を入力する際に予測して候補を表示する機能の導入、患者さんが調べたいと思う順番で検索結果の項目を表示することなどが含まれていました。さらに、ICFをサイト上で閲覧できる機能や、ICFが患者さんの視点からレビューを受けているかどうかのチェック欄を設けること、厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)への届出情報と一般に公開される情報を分けて管理することを検討すること、登録内容を変更した際の不具合を解消すること、そしてシステム改修を検討する場に「創る会」のメンバーが参加できるよう希望することが盛り込まれました(「要望活動報告書」2. jRCT改修に関する具体的提案(2023年7月))。jRCTが専門家向けで、患者さんには紹介しにくいという指摘 4 とも合致する内容ですね。特に、厚生労働省・PMDAへの届出情報と一般公開情報の分離を検討するという提案は、jRCTが規制当局への届出ツールとしての側面と、一般市民への情報提供リソースとしての側面という、時に相反する可能性のある二重の役割を担っていることを示唆しています。この構造的な緊張関係は、その後の要望においても繰り返し浮上するテーマとなっていきます。
利用者負担軽減と体制整備に関する要望(2023年12月)
年末には、当時の武見敬三厚生労働大臣に対し、情報を入力する側と検索する側の双方の負担を軽くするための策や、事業を進めるための体制整備・予算確保に関する要望が提出されました。入力者の負担軽減策としては、短期的な計画(例えば、変更・軽微変更・届出外変更を同時に行えるようにする機能や、実施計画のPDFに変更内容を反映させる機能など)と、中期的な計画(例えば、jRCTへの登録とPMDAへの届出という重複作業を減らす機能など)が提示されました。検索者の負担軽減策では、短期的な計画(例えば、検索条件を入力する画面の表示形式を改善することや、検索結果をダウンロードできる機能など)と、中期的な計画(例えば、疾患名を選択する機能を見直すことや、予測変換機能、データを二次利用するための機能を追加すること、スマートフォンに対応すること、アクセシビリティ機能など)が提案されました。特に、専門家向けと市民向けの検索画面を分けるという提案は、さまざまな利用者のニーズに対応することの重要性を強調するものでした。体制整備としては、委員会形式で検討し多様な視点を取り入れること(「創る会」の参加希望を含む)、短期・中期の要望に迅速かつ着実に対応すること、そして改修に必要な予算を措置することが求められました(「要望活動報告書」3. 入力者・検索者の負担軽減と体制整備に関する要望(2023年12月))。製薬企業からも、被験者を登録できる状況をタイムリーに公開することや、詳細なコホート情報の登録負担に関する懸念が示されており 8、入力者の負担を軽減する必要性は広く認識されていると言えるでしょう。
フィードバック、有識者検討会参画、UMIN統合等を含む要望(2024年5月)
2024年5月には、過去の要望内容がjRCTの改修にどのように反映されたか、また今後の改修の見込みについて「創る会」へフィードバックすること、そして令和6年度のjRCT改修に向けた仕様検討のための有識者検討会へ「創る会」の構成員が参加することが強く求められました。また、患者団体、医療・研究機関、製薬企業など、さまざまな関係者の意見を取り入れた改修を行うこと、ユーザーフレンドリーなjRCTの構築や啓発活動、保守運用に必要な予算を迅速に措置すること、令和6年度以降も「創る会」と継続的に意見交換できる場を設けること、jRCTの使用方法や臨床試験情報に関する積極的な啓発・周知活動を行うこと、そして国内の臨床試験情報を一元化するためにjRCTとUMINを統合し、適切な運用体制を整備することが要望されました(「要望活動報告書」4. フィードバック、有識者検討会参画、UMIN統合などを含む要望(2024年5月))。厚生労働省は実際に「jRCTのあり方検討に係る有識者委員会」を設置し、その委員名簿には「創る会」共同発起人の一人である天野慎介さんが含まれています 9。これは、「創る会」による専門家会議への参加要求(2023年7月、12月、2024年5月)が具体的な成果に結びついたことを示しており、持続的かつ具体的な提言活動の影響力を物語っていますね。
調査結果に基づく追加要望(2024年8月)
夏には、「jRCT改修に向けた要望に関する調査結果」(具体的な調査内容は本文書では不明ですが)を踏まえた改修の実施や、令和7年度の予算確保を含む安定的かつ継続的なjRCT運営のための予算措置、有識者委員会での議論内容や要望事項への対応状況・改修見込みについて「創る会」へフィードバックすること、令和7年度以降も継続的な議論ができる検討会などの場を設けること、そして患者団体などが実施するシンポジウムなどへの協力と支援が要望されました(「要望活動報告書」5. 調査結果に基づく追加要望(2024年8月))。
大規模改修、テストプロセスへの参加を含む要望(2024年12月)
年末に向けては、2023年以降の要望書の内容および「jRCTのあり方検討に係る有識者委員会」の意見を反映した大規模な改修と継続的な保守運営、そしてユーザビリティを確認するためのテストプロセスへ「創る会」が参加し、そのフィードバックを反映させることが求められました。さらに、令和7年度の予算確保と安定的・継続的な運営のための予算措置、有識者委員会での議論内容や要望事項への対応状況・実装見込みについて「創る会」へフィードバックすること、令和7年度以降の継続的な議論の場を設け、関係各所(健康・生活衛生局難病対策課、がん・疾病対策課など)と連携して疾患領域別の二次利用可能な環境の実現に向けた検討を行うこと、そして患者団体などが実施するシンポジウムなどへの協力と支援が要望されました(「要望活動報告書」6. 大規模改修、テストプロセスへの参加を含む要望(2024年12月))。厚生労働省が計画しているjRCTの「大規模改修」6 は、これらの要望と方向性を同じくするものと言えるでしょう。
マニュアル作成、二次利用環境整備支援、人材育成を含む要望(2025年5月)
直近の2025年5月には、これまでの要望を踏襲しつつ、改修後のマニュアルなどに「患者にわかりやすい情報の提供」に関する記載を盛り込むことや、リリース前のテスト環境で「創る会」が確認する機会を設け、そのフィードバックを反映させること、jRCTの基盤整備に加えて、関係各所と連携して疾患領域別の二次利用可能な環境の実現に向けた検討と支援を行うこと、臨床試験へのアクセス向上に向けた医療従事者などの人材育成・体制整備、そして患者団体などが実施するシンポジウムなどへの協力と支援といった、より具体的かつ包括的な内容が要望されました(「要望活動報告書」7. マニュアル作成、二次利用環境整備支援、人材育成を含む要望(2025年5月))。
jRCTの主要な欠陥と提案された解決策:テーマ別分析
「創る会」による一連の要望活動や関連する資料から、jRCTが抱えている主な課題とその解決策が浮かび上がってきます。これらをテーマ別に整理してみましょう。
まず、「検索機能」に関する課題です。具体的には、患者さんが普段使うような平易な用語での検索ができなかったり、専門用語が多く使われていたり、検索結果を絞り込むのが難しかったりといった問題点が指摘されました。これに対して「創る会」は、平易な用語や一般的な疾患名、ICFで使われる用語での検索に対応すること、検索文字を入力した際に候補を予測して表示する機能、患者さんが調べたいと思う順番で検索結果を表示すること、専門家向けと市民向けの検索画面を分けること、疾患名の選択機能を改善すること、検索結果を並べ替えるソート機能などを提案しています。
次に、「データ入力・情報公開」に関する課題です。試験内容を変更する際の入力が煩雑であることや、PMDAへの届出との重複作業があること、患者さんにとって重要な同意説明文書(ICF)へのアクセスが難しいこと、ICFが患者さんの視点でレビューされたかどうかの情報がないこと、さらには競合他社に知られたくない情報を公開することへの懸念などが挙げられました。これに対し、「創る会」は、ICFをサイト上で閲覧できる機能や、ICFが患者レビューを受けているかどうかのチェック欄を設けること、変更・軽微変更・届出外変更を同時に行えるようにする機能、実施計画のPDFに変更内容を反映させる機能、PMDAへの届出との重複作業を減らす機能、厚生労働省・PMDAへの届出情報と一般に公開される情報を分けて管理することを検討することなどを提案しています。
そして、「患者アクセシビリティ・理解容易性」も重要な課題です。患者さんにとって情報が理解しにくく、専門家向けのデザインになっているという点が問題視されました。このため、「創る会」は、患者さん向けの資料を掲載する機能とその表示文言の改善、スマートフォンへの対応、表示を拡大・縮小したり背景色を変更したりといったアクセシビリティ機能の導入、マニュアルなどに「患者にわかりやすい情報の提供」に関する記載を盛り込むことなどを提案しています。
「ガバナンス・運営体制」についても課題が指摘されました。システム改修を検討するプロセスに多様な意見が十分に反映されていなかったり、フィードバックが不足していたりする点です。これに対し、「創る会」は、システム改修を検討する場への「創る会」メンバーの参加、委員会形式での検討と多様な視点の導入、要望内容の反映状況や改修見込みについてのフィードバック、継続的な意見交換の場の設置、ユーザビリティを確認するテストプロセスへの「創る会」の参加などを求めています。
「情報の網羅性・統合」という点では、国内の臨床試験情報が一元化されていないことが課題とされました。この解決策として、「創る会」はjRCTとUMINを統合し、適切な運用体制を整備することを提案しています。
また、「データ二次利用」に関しては、疾患領域別の二次利用環境がまだ整備されていないという課題があります。これに対し、「創る会」は、jRCTを基盤とした疾患領域別の二次利用可能な環境の構想を示し、関係各所と連携してその環境を実現するための検討と支援を求めています。
最後に、「予算・持続可能性」です。改修や運営に必要な安定的な予算が不足しているのではないかという懸念から、「創る会」は、改修・運営・啓発に必要な予算措置や、安定的かつ継続的な予算の確保を提案しています。
(出典:「臨床試験に誰もがアクセスしやすい社会を創る会」提出要望書、関連資料 4 等に基づく)
検索性とユーザーフレンドリー性の向上(患者・専門家双方のために)
jRCTで最も頻繁に指摘される問題点は、検索機能の使いにくさと、特に患者さんにとっての分かりにくさです(「要望活動報告書」2023年6月)。具体的には、普段使うような言葉での検索が難しいこと、専門用語が多く使われていること 4、たくさんの検索結果から目的の情報を絞り込むのが困難であること、検索キーワードによっては適切な情報にたどり着けない場合があること、そして検索画面自体が見つけにくい位置にあって複雑であることなどが挙げられています 4。
これに対し、「創る会」は、患者さんが日常的に使う言葉や一般的な疾患名、ICFで用いられる用語での検索機能、入力時の予測変換機能、患者さんのニーズに合わせた検索結果の表示順序などを提案しています(「要望活動報告書」2023年7月)。さらに、検索インターフェース自体の改善や、検索結果をダウンロードできる機能、専門家向けと市民(患者)向けの検索画面の分離、疾患名を選択する機能の改良、ソート機能の充実、スマートフォンへの対応、文字サイズを変更したり背景色を変更したりといったアクセシビリティ機能の導入も求めているのです(「要望活動報告書」2023年12月)。
特に、患者さんと専門家という、異なるユーザー層のニーズに対応するために、検索画面や情報の表示を分けるという提案(「要望活動報告書」2023年12月)は重要ですね。これは、jRCTのインターフェース設計において、「フリーサイズ」的なアプローチが根本的な欠陥であることを示唆していると言えるでしょう。この問題に対処するには、単に検索フィルターを追加する以上の対応、つまり、利用者ごとに最適化された情報アクセスの経路と表示のレイヤーを構築することが必要になります。初期の一般的なユーザビリティに関する指摘(「要望活動報告書」2023年6月)から、jRCTが「専門家向け」であるという外部からの評価 4 を経て、明確に分離されたインターフェースを求めるに至ったこの要望の変遷は、両者の情報ニーズとリテラシーが根本的に異なるという認識が深まったことを反映しているのかもしれません。
データ入力プロセスと情報完全性の改善(ICFを含む)
臨床試験の情報を登録する側の負担も大きな課題となっています。特に、試験内容を変更する際の手続きの煩雑さや、PMDAへの届出との二重作業などが指摘されています。また、患者さんにとって重要な情報である同意説明文書(ICF)が簡単に見られなかったり、ICFが患者さんの視点からレビューされたかどうかの情報がなかったりする点も問題視されています。さらに、企業側からは、被験者の登録状況をタイムリーに更新することや、競合他社に知られたくない遺伝子変異情報や初期段階の試験における詳細ながん種の情報などを公開することに対するハードルが示されています 8。
「創る会」は、ICFをサイト上で閲覧できる機能や、ICFが患者さんの視点からレビューを受けているかどうかのチェック欄を設けることを提案しています(「要望活動報告書」2023年7月)。入力者の負担を軽くするための策としては、変更・軽微変更・届出外変更を同時に行えるようにする機能、実施計画のPDFに変更内容を自動で反映させる機能、複数の変更申請を一時的に保存できる機能、PMDAへの届出との重複作業を減らす機能、e-Rad番号の表示形式を修正すること、医薬品コホートごとの進捗状況を自由に記載できる欄を追加することなどを挙げています(「要望活動報告書」2023年12月)。
ここには、患者さんにとって包括的で分かりやすい情報(ICFや最新の登録状況など)を求める声と、データを提供する側(特に製薬企業)の事務的な負担や機密情報の保護に関する懸念 8 との間に、ある程度の緊張関係が存在しているように見えますね。「創る会」の提案は患者さん中心の情報開示を進めるものですが、産業界からのフィードバックは実務上の困難さや競争上の不利益を示唆しています。jRCTの改革を成功させるには、この緊張関係を慎重に調整し、例えばアクセス権限を階層化したり、必ず開示しなければならない項目を慎重に定義したりすることなどを通じて、実行可能な解決策を見出す必要があるでしょう。
ガバナンス、透明性、ステークホルダー連携の強化
jRCTの改修プロセスにおける透明性の欠如や、さまざまな関係者の意見が十分に反映されていないという認識も、「創る会」の要望活動の背景にあります。システム改修に関する検討の場への参加や、提案内容に対するフィードバックの要求が繰り返しなされているのです。
「創る会」は、システム改修を検討する場へのメンバー参加(「要望活動報告書」2023年7月)、委員会形式での検討と多様な視点の導入(「創る会」の参加希望を含む)(「要望活動報告書」2023年12月)、過去の要望がjRCTの改修にどのように反映されたかのフィードバックと改修見込みの提示、令和6年度のjRCT改修仕様検討のための有識者検討会への「創る会」構成員の参加、さまざまな関係者からの意見聴取、令和6年度以降の「創る会」との継続的な意見交換の場の設置(「要望活動報告書」2024年5月、8月、12月、2025年5月)、そしてユーザビリティを確認するためのテストプロセスへの参加(「要望活動報告書」2024年12月、2025年5月)を一貫して求めています。
厚生労働省が「jRCTのあり方検討に係る有識者委員会」を設置し、その構成員に「創る会」共同発起人の天野慎介さんらが含まれていること 9 は、これらのガバナンスに関する要望がある程度受け入れられたことを示しています。繰り返し「フィードバック」と「継続的な議論の場」を求めている点は、利用者と開発者の間のコミュニケーションのループに課題があったことを示唆しているのかもしれません。これは、過去の改修が十分な透明性や継続的なユーザーとの関わりなしに進められた可能性を示しており、プロセスの改善の必要性を浮き彫りにしています。
適切な予算措置と持続可能な運営の確保
jRCTを抜本的に改修し、安定的に運用していくためには、継続的な財政的な裏付けが不可欠であるという認識から、「創る会」は繰り返し予算措置を要求しています。
具体的には、改修に必要な予算措置(「要望活動報告書」2023年12月)、ユーザーフレンドリーなjRCTの構築、啓発活動、保守運用・改修に必要な予算の迅速な措置(「要望活動報告書」2024年5月)、令和7年度の予算確保を含む安定的かつ継続的な予算措置(「要望活動報告書」2024年8月)、令和7年度の予算確保と安定的・継続的な運営のための予算措置(「要望活動報告書」2024年12月)、そしてユーザーフレンドリーなjRCT構築に必要な予算確保と安定的・継続的な運営のための予算措置の検討(「要望活動報告書」2025年5月)が求められています。
厚生労働省が令和6年度の補正予算としてjRCTの大規模改修に4.7億円を計上したという情報 9 は、これらの要求が政府の財政計画に反映され始めていることを示しています。しかし、「創る会」が将来にわたる安定的・継続的な予算を強調し続けていることは、過去の予算規模が十分でなかった可能性や、長期的な財政的コミットメントへの懸念を示唆しているのかもしれません。これは、場当たり的な資金提供ではなく、jRCTの持続可能な発展を支える財政モデルへの移行を望む声と言えるでしょう。
日本の臨床試験エコシステムにおける広範な戦略的考察
jRCTとUMIN及びその他データベース統合の必要性
「創る会」は、国内の臨床試験情報を一元化するために、jRCTとUMINを統合し、適切な運用体制を整備することを提案しています(「要望活動報告書」2024年5月)。先ほども触れましたが、日本には複数の臨床試験登録システムが存在し 5、情報が分散してしまっているのが現状です。厚生労働省自身も、国内に複数存在するデータベースを順次jRCTへ統合していく方針を示しています 6。国立がん研究センターは、既にjRCTのデータを自分たちの機関の「がんの臨床試験を探す」というサービスに取り込み、がん領域の臨床試験情報を網羅的に検索できるようにしています 11。
国立がん研究センターによるjRCTデータ統合の成功事例 11 は、データを集約することの技術的な実現可能性と有用性を示す良い例ですね。この実績は、より広範なUMINとの統合を求める「創る会」の主張を後押しするものであり、主な障壁が純粋な技術的な問題よりも、むしろ組織的な問題、財政的な問題、あるいは異なるシステム間でのデータ標準化(これは 4 で示唆されています)に関連する可能性を示唆しています。厚生労働省の大規模改修計画にもjRCTとUMIN-CTRの連携が含まれており 9、この方向での進展が期待されます。
臨床試験データの二次利用促進
「創る会」は、jRCTを疾患の領域ごとに情報を二次的に利用できるような環境の基盤とする構想を示し(「要望活動報告書」2023年6月)、その実現に向けて厚生労働省の難病対策課やがん・疾病対策課などとの連携を提案しています(「要望活動報告書」2024年12月、2025年5月)。
厚生労働省は、全国医療情報プラットフォームや電子カルテ情報など、さまざまな医療健康データの二次利用を積極的に検討しており、匿名化の方法、同意の取得、ガバナンス体制などが論点となっています 12。治験データの二次利用に関する定義も存在します 16。
「創る会」の二次利用に関するビジョンは、医療データを活用しようとする厚生労働省の広範な戦略 14 と方向性を同じくするものと言えるでしょう。しかし、臨床試験データ(しばしば非常に詳細で、個人を特定することに繋がりやすい情報を含みます)の匿名化、同意の取得、データガバナンスには特有の課題が伴います。難病対策課が指摘するように、「利用目的、それに応じた同意取得、審査方法など」が課題となるのです 4。この成功は、研究上の有用性と患者さんのプライバシー保護を両立させる、しっかりとした倫理的・技術的な枠組みを確立できるかどうかにかかっており、他の医療健康データよりも複雑な配慮が求められる可能性があります。
国民への啓発、教育、患者団体支援の役割
jRCTシステムを改善するだけでは十分ではなく、国民の皆さんや医療関係者の方々がその存在と利用方法を理解し、活用できなければ意味がありません。「創る会」は、臨床試験情報に関する国民向けの啓発活動(「要望活動報告書」2023年6月)、厚生労働省によるjRCTの積極的な啓発・周知活動(「要望活動報告書」2024年5月)、患者団体などが実施するシンポジウムなどへの厚生労働省の協力・支援(「要望活動報告書」2024年8月、12月、2025年5月)、そして臨床試験へのアクセス向上に向けた医療従事者などの人材育成・体制整備への支援(「要望活動報告書」2025年5月)を求めています。
臨床研究コーディネーター(CRC)や患者さんに対する治験データベースの普及および使い方に関する教育の必要性も指摘されています 4。厚生労働省も「国民・患者への普及啓発」を計画に含めているんですよ 6。
厚生労働省に対して、患者団体が主催するシンポジウムなどへの協力を繰り返し求めている点は、「創る会」が啓発活動における責任分担を意識していることを示していると言えるでしょう。これは、厚生労働省単独の取り組みではなく、エンドユーザーに近い患者団体と厚生労働省が連携し、それぞれの強み(前者の草の根的な信頼と的確なコミュニケーション、後者の広範なリーチと権威)を活かすパートナーシップモデルを志向していることの表れかもしれませんね。
主要関係機関の視点と役割
jRCTの改革には多くの組織が関わっており、それぞれの立場や役割を理解することが重要になってきます。
まず、厚生労働省(MHLW)です。厚生労働省は「創る会」の要望の主要な宛先であり、jRCTを所管しています(運営は国立保健医療科学院 1 とされていますが、最終的な監督権限は厚生労働省にあります)。jRCTの大規模な改修、データベースの統合、ユーザーフレンドリー化、有識者検討会の設置などを計画・実行しています 6。また、より広範な医療DX(デジタルトランスフォーメーション)やデータ利活用戦略にも取り組んでいます 14。
次に、「臨床試験に誰もがアクセスしやすい社会を創る会」です。この会は、患者さん中心のjRCTの実現を目指して提言活動を行っており、システムの改善、運営体制、予算、対話、そして環境整備全般にわたる要望を出しています(「要望活動報告書」全体)。
国立保健医療科学院(NIPH)も重要な役割を担っています。jRCTの運営主体とされ 1、臨床試験情報ポータルサイトを開発・運営してきました 3。「創る会」の活動にもオブザーバーとして関与しています(「要望活動報告書」2023年6月)。また、国立保健医療科学院自身による研究でjRCTの課題が指摘されているんですよ 4。
国立がん研究センター(NCC)は、「創る会」の共同発起機関の一つです(「要望活動報告書」2023年6月)。jRCTのデータを自分たちの機関の「がんの臨床試験を探す」というサービスに統合し、がん領域の臨床試験情報を包括的に提供しています 11。また、臨床試験に関する患者さん向けの情報提供も行っています 17。
製薬産業界(製薬協など)も関わっています。「創る会」にオブザーバーとして参加し(「要望活動報告書」2023年6月)、その患者団体連携推進委員会は「創る会」の事務局連絡先となっています 7。産業界からは、競合他社に知られたくない情報の開示範囲や、タイムリーな情報更新の負担に関する懸念が表明されています 8。製薬協は臨床試験の最適化に関する議論 19 や臨床研究資金提供の透明性に関するガイドライン策定 20 にも関与しています。
そして、医薬品医療機器総合機構(PMDA)です。PMDAは臨床試験の承認審査を行い、jRCTを通じて届出を受理しています 21。「創る会」は、厚生労働省やPMDAへの届出情報と一般に公開される情報を分けることを提案しています(「要望活動報告書」2023年7月)。
厚生労働省(MHLW)及び医薬品医療機器総合機構(PMDA):規制・監督機能
厚生労働省は、「創る会」からの要望の主要な宛先であり、jRCTを所管しています(運営は国立保健医療科学院 1 とされていますが、最終的な監督権限は厚生労働省にあります)。jRCTの大規模な改修、データベースの統合、ユーザーフレンドリー化、有識者検討会の設置などを計画・実行しています 6。また、より広範な医療DX(デジタルトランスフォーメーション)やデータ利活用戦略にも取り組んでいるんですよ 14。PMDAは臨床試験の承認審査を行い、jRCTを通じて届出を受理しています 21。「創る会」は、厚生労働省やPMDAへの届出情報と一般に公開される情報を分けることを提案しています(「要望活動報告書」2023年7月)。
厚生労働省が推進している「全国医療情報プラットフォーム」構想や、さまざまな医療健康データの二次利用戦略 14 は、jRCT改革のより大きな戦略的な文脈を形作っていると言えるでしょう。jRCTの改善、特にデータ標準化や二次利用機能の強化は、この国家的な医療健康データ戦略の一翼を担うものと位置づけられ、jRCT改革が単独の課題として扱われる場合よりも高い優先度と多くのリソースが割り当てられる可能性があるかもしれませんね。
国立保健医療科学院(NIPH)及び国立がん研究センター(NCC):運営・情報発信機能
国立保健医療科学院はjRCTの運営主体とされており 1、臨床試験情報ポータルサイトを開発・運営してきました 3。「創る会」の活動にもオブザーバーとして関与しています(「要望活動報告書」2023年6月)。また、国立保健医療科学院自身による研究でjRCTの課題が指摘されているんですよ 4。
国立がん研究センターは「創る会」の共同発起機関の一つであり(「要望活動報告書」2023年6月)、jRCTのデータを自分たちの機関の「がんの臨床試験を探す」というサービスに統合し、がん領域の臨床試験情報を包括的に提供しています 11。また、臨床試験に関する患者さん向けの情報提供も行っています 17。
国立保健医療科学院自身の研究 4 によってjRCTの欠点が明らかにされていることは、「創る会」のような外部からの提言に対する信頼性と内部的な妥当性を高める効果があると言えるでしょう。システムを運営する機関自身が、外部からの批判と同じような問題認識を示すことは、所管する省庁である厚生労働省が問題を単なる外部からの苦情として片付けることを難しくし、改革への強力な推進力となり得るのではないでしょうか。
製薬産業界(例:製薬協 - JPMA):貢献と懸念
製薬協は「創る会」にオブザーバーとして参加し(「要望活動報告書」2023年6月)、その患者団体連携推進委員会は「創る会」の事務局連絡先となっています 7。産業界からは、競合他社に知られたくない情報の開示範囲や、タイムリーな情報更新の負担に関する懸念が表明されています 8。製薬協は臨床試験の最適化に関する議論 19 や臨床研究資金提供の透明性に関するガイドライン策定 20 にも関与しているんですよ。
製薬産業界の関与(オブザーバー参加や製薬協の事務局的な役割 7)は不可欠ですが、情報開示に関する懸念 8 は、政策を立案する側にとって重要な調整事項となります。負担が大きすぎる、あるいは企業秘密を損なうリスクのある改革は、抵抗に遭うか、最小限の対応に留まる可能性があるからです。したがって、「創る会」が求める「対話」は、これらの産業界の視点を真摯に受け止め、実行可能な解決策を見出すためのものでなければならないと言えるでしょう。
将来に向けて
「創る会」による一連の要望活動は、jRCTが抱える多面的な課題を浮き彫りにし、具体的な改善策を提示することで、厚生労働省による大規模な改修計画へと繋がる重要なきっかけとなりました。その粘り強い活動は、患者さんの視点を取り入れたシステム設計の重要性を示していると言えるでしょう。
今後のjRCT改革をより実効性のあるものとするためには、いくつかの戦略的な提言が考えられます。
まず第一に、段階的かつ優先順位を明確にした技術的なアップグレードを実施することが重要です。特に、患者さんが直接触れるインターフェースの改善、例えば検索機能の向上や平易な用語での表示、アクセシビリティの向上などを最優先に進めるべきでしょう。
第二に、統合データベースと二次利用に関する明確なデータガバナンスポリシーを策定することも求められます。これには、倫理的な配慮やプライバシー保護(特に匿名化・仮名化の基準)、同意取得のあり方、データへのアクセス権限、審査体制などを具体的に定め、透明性を確保することが含まれます。
第三に、恒久的かつ予算措置を伴う、さまざまな関係者が参加する諮問機関を設置することも有効でしょう。「創る会」が求める「継続的な対話の場」を制度化し、患者代表、医療専門家、研究者、企業、行政が定期的に協議し、jRCTの評価と改善提案を行う仕組みを構築するのです。
第四に、ターゲットを明確にした研修プログラムへの投資も重要です。患者さん・市民の方々、医療従事者、研究者など、異なる利用者層のニーズに合わせた、jRCTの効果的な活用方法に関する研修プログラムを開発し、提供していく必要があります。
そして第五に、産業界の懸念に対処しつつ、透明性の目標を達成するメカニズムを構築することです。情報公開の範囲や時期に関する産業界の正当な懸念 8 に配慮しつつ、患者アクセスの核となる透明性を損なわない、バランスの取れた解決策(例えば、段階的な情報公開や、機微な情報に関する限定的なアクセスなど)を、継続的な対話を通じて模索していくことが求められます。
「創る会」の活動とそれに対する厚生労働省の対応は、日本の医療研究・政策分野における患者・市民参画(Patient and Public Involvement: PPI)の広がりを象徴する事例と捉えることができるのではないでしょうか。jRCT改革の成功は、患者さんの声が日本の医療システムにおける構造的な変革をいかに後押しできるかを示すモデルケース(あるいは反面教師)となり得るでしょう。この経験は、希少疾患対策、がん医療の提供体制、精神保健福祉サービスなど、他の医療分野におけるPPI推進の試金石となるかもしれませんね。
アクセスしやすい臨床試験情報に向けて
「臨床試験に誰もがアクセスしやすい社会を創る会」による2年以上にわたる粘り強い要望活動は、日本の臨床試験情報システムjRCTの透明性とアクセシビリティ向上に向けた重要な一歩を刻みました。その活動は、システム機能の改善提案に始まり、検索性の向上、専門用語の平易化、入力負担の軽減、ICF情報の充実、スマートフォンへの対応、さらにはUMINなど他のデータベースとの統合、データの二次利用環境整備、そしてそれらを支える運営体制、予算確保、継続的な対話の場の設置、啓発活動や人材育成といった、臨床試験情報へのアクセスを取り巻くエコシステム全体の改革へと射程を広げてきました(「要望活動報告書」まとめ)。
厚生労働省によるjRCTの大規模な改修計画や有識者委員会の設置 6 は、これらの声に呼応する形で進んでおり、一定の進展が見られます。しかし、真に価値のある臨床試験情報基盤を構築し、持続させていくためには、今後も引き続き、患者さん・国民の皆さん、医療従事者、研究者、企業といった全ての関係者、とりわけ患者代表との真摯な協働、十分かつ安定的な財政的裏付け、そして何よりもエンドユーザーである皆さんのニーズを最優先に据える姿勢が不可欠です。
jRCT改革への取り組みは、単なる情報システムの改良に留まるものではありません。それは、患者さんが自らの治療選択に主体的に関与し、研究開発が促進され、ひいては日本の医療全体の質的向上に貢献するための重要な布石となるのです。その道のりはまだ半ばですが、関係者一同の継続的な努力によって、臨床試験情報が真に開かれ、活用される社会の実現が期待されます。
引用文献
- jrct.mhlw.go.jp, https://jrct.mhlw.go.jp/pages/manual/CL_202303_jRCT_mikata
- 治験の探し方 - ~jRCTのみかた - 製薬協, https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/message/g75una000000156r-att/CL_202303_jRCT_mikata.pdf
- 我が国の臨床試験(研究)登録 Clinical trial registration database in Japan - 国立保健医療科学院, https://www.niph.go.jp/journal/data/69-3/202069030003.pdf
- 分担研究報告書 臨床研究情報ポータルサイトおよび jRCT に関する有識者ヒアリング調査, https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202106026A-buntan1_0.pdf
- FAQ - UMIN臨床試験登録システム(UMIN-CTR), https://center9.umin.ac.jp/FAQ/UMIN-CTR/
- www.mhlw.go.jp, https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001298507.pdf
- 参考)臨床試験にみんながアクセスしやすい社会を創る会 | 患者団体 ..., https://www.jpma.or.jp/information/patient/tsukurukai/index.html
- www.efpia.jp, https://www.efpia.jp/link/Questionnaire_results_in_disclosure_of_clinical_trial_information_231225.pdf
- www8.cao.go.jp, https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2501_02medical/250306/medical01_06.pdf
- 臨床研究等提出・公開システム, https://jrct.mhlw.go.jp/
- www.ncc.go.jp, https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/0327/20200326.pdf
- 「指定難病患者データベースの現状と利活用の提言」 - 厚生労働省, https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000193064.pdf
- 難病等の特性を踏まえてどう考えるか―難病対策委員会 | GemMed | データが拓く新時代医療, https://gemmed.ghc-j.com/?p=19642
- 医療等情報の二次利用に係る現状について - 厚生労働省, https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001166475.pdf
- 医療等情報の二次利用に係る現状と今後の対応方針について - 厚生労働省, https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/001340998.pdf
- 部会資料 医薬品開発及びデータ二次利用における 個人情報保護に関する留意点 2022 年 4 月 日 - 製薬協, https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/rfcmr000000028kz-att/privacy_points_remember_202204.pdf
- 研究段階の医療(臨床試験、治験など)のQ&A:もっと詳しく - がん情報サービス, https://ganjoho.jp/public/dia_tre/clinical_trial/ct_qa02.html
- がん医療を担う臨床試験・治験~実際の進め方と最新情報 - がん治療.com, https://www.ganchiryo.com/prevention/clinical_trial.php
- 令和6年度 治験エコシステム導入推進事業 成果報告会 - PMDA, https://www.pmda.go.jp/files/000274714.pdf
- 「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」改定について, https://www.jslm.org/committees/coi/20181108coi.pdf
- 臨床研究法に関する報告の制度について - PMDA, https://www.pmda.go.jp/safety/reports/hcp/clinical-trial-act/0001.html