デジタルヘルス

Society 5.0時代のヘルスケアⅡ ~DXによるCOVID-19対応とその先の未来~

Ⅰ.はじめに

人生100年時代の到来がいわれるように、個人の寿命が伸びるなか、一人ひとりが、いかに健康な身体を維持し、最後までやりがいや生きがいを見出すかが、ますます重要になる。これまで、日本の保健医療システムは、世界最高水準の寿命、個々人の健康の実現に貢献してきた。

そうしたなか、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が発生した。その感染拡大は、日本の保健医療システムの脆弱性、ヘルスケア分野のデジタルトランスフォーメーション(ヘルスケアのDX)の遅れを浮き彫りにした。諸外国ではデジタル技術を活用したCOVID-19対策が効果を上げる反面、日本の保健医療介護の現場はアナログな手法に頼らざるを得ず、過度な負担が生じている。さらなる感染拡大を防ぎつつCOVID-19と共に生きる「Withコロナの時代」が一定程度続くことを念頭に、ヘルスケアDXを通じた対応が急務である。

ヘルスケアDXの方向性は、2018年3月にSociety 5.0時代のヘルスケアに示した内容である。COVID-19収束後の「Postコロナの時代」も見据え、COVID-19を契機に進みつつあるヘルスケアDXの流れを加速することで、保健医療システムを刷新し、超高齢化、大規模災害、次なる感染症等の様々な課題に耐えうる持続可能な保健医療システムを構築しなければならない。

そうした問題意識の下、本提言では、2章で提言「Society 5.0時代のヘルスケア」、3章でCOVID-19が浮き彫りにした課題に触れつつ、4章において、withコロナ下で早急に取り組むべきアクション、postコロナを見据え継続的に取り組むべき、長期的なアクションを示した。

Ⅱ.Society 5.0時代のヘルスケア

2018 年 3 月に Society 5.0 時代のヘルスケアのコンセプトを示した。データプラットフォームの構築等、データ活用のための環境整備は着実に進んでいるが、個人を 起点にした ライフコースデータ 活用の観点からは道半ば。

経団連は2018年3月にSociety 5.0時代のヘルスケアのコンセプトを示した。そのコンセプトは、

  1. 疾患になる前に予防できる
  2. 一人ひとりの身体・健康状態にあわせた治療やサービスが受けられる
  3. 個人が主体的に関与する

の3つの柱で構成される。その実現は、病気の予防や早期治療を可能とし、健康寿命の延伸や医療費の適正化、医療の成長産業化に貢献する。

政府においては、厚生労働省、経済産業省、内閣官房健康・医療戦略室等を中心に、同様のビジョン5を掲げながら、様々な取り組みが進められている。前回の提言で強く主張した政府データプラットフォームの構築等、データ活用のための環境整備は、少しずつながらも、着実に進んできた。

具体的には、2020年10月より、NDBや介護DBのデータの連携分析に関して、これまで対象外だった民間企業の利用が可能になる。また、2018年5月に施行された次世代医療基盤法の下、認定匿名認定加工医療情報作成事業者に一般社団法人ライフデータイニシアティブ(認定医療情報等取扱受託事業者:NTTデータ)、一般財団法人日本医師会医療情報管理機構(認定医療情報等取扱受託事業者:ICI、日鉄ソリューションズ)が認定され、活動に向けた準備が進んでいる。

併せて、個人単位化される被保険者番号を活用した医療等分野の情報の連結の仕組みも開始された。個人のライフコースデータをつなぐID の整備に向けた第一歩である。

一方、個人を起点としたライフコースデータを管理・活用するための取り組みは緒に就いたばかりである。個人の健康に対する意識の醸成はもとより、管理・活用するための仕組み、様々な主体が所有するデータを連携する方策が十分に整備されていない。様々な取り組みを、スピード感をもって進める必要がある。

Ⅲ.新型コロナウイルス感染症

COVID 19 パンデミック が、個人を軸とした ライフコースデータ の管理・活用と医療 介護 提供体制の DX の必要性を 浮き彫りに。

COVID-19は、SARS関連コロナウイルス(SARSr-CoV)に属し、人体への感染が確認されている7つ目のコロナウイルスによる感染症である。2019年11月に中国武漢で発生が確認されて以降、世界中に感染が広がり、パンデミックになった。日本国内においても2020年1月に初めて確認され、感染が拡大した。

そのなかで、国民の自発的な感染予防や活動自粛に加え、医療従事者の懸命な対応、WHOから高い評価を受けた日本独自のクラスター対策等を通じて、難局を乗り越えてきた。一方、COVID-19が日本の保健医療システムの課題を浮き彫りにしている。

例えば、個人と保健所や医療機関、医療機関同士の連携が、電話等のアナログな手法で行われ、緊急時にも手間と時間がかかっていることである。個人を起点にしてライフコースデータを管理し、各組織と連携することの必要性が改めて顕在化している。

また、COVID-19は、症状には個人差がある上、重症化が急速に進むケースが多い。医療従事者の視点からも、症状の把握・管理や重症化の予測に、個人の既往歴や基礎疾患等の医療データの連携が役立つといえる。

さらに、感染力が強いウイルスであるため、急速な蔓延の把握や対応には、個人と医療機関、保健所や自治体の緊密かつ迅速な連携が重要である。個人と医療機関がより緊密かつ迅速に連携できるよう、オンライン診療をはじめとしたデジタル技術の活用による医療介護提供体制のDXも不可欠である。それによって、保健所や医療機関にかかる過度な負荷を軽減する。

併せて、ワクチンや新たな治療法の開発を加速するためのデータ基盤を整備するとともに、個人情報保護のあり方の検討等、医療・公衆衛生の向上に向けて、データをさらに活用する環境を整えることの必要性も叫ばれている。

(海外の取り組み)シンガポール

  • 2014年に開始した「シンガポール・スマート・ネーション・イニシアチブ」の成果を基盤として、デジタル技術を活用した感染抑え込み策を実施。
  • COVID-19感染者とその接触者を特定するため、現金の引き出しやカード支払い等の「デジタル署名」を活用。
  • オンラインツールを使用した公衆衛生の改善も実施。政府が生産したサージカルマスクの配布場所、呼吸器疾患に強い医療施設を紹介。
  • COVID-19の感染者の追跡に向けて、政府が独自のウェアラブルデバイスを開発し配布。

Ⅳ.必要な3つのアクション

Society 5.0 時代のヘルスケア実現に 向けた課題 、 with/ post コロナ の時代に向けて必要な取り組みを 3 つに整理。

これまでの章で述べたように、感染拡大を防ぎつつCOVID-19と共に生活するwithコロナの時代や、COVID-19収束後のpostコロナの時代を見据えると、

① 個人を起点としたライフコースデータを管理・活用するための取り組みを進める「個人起点のヘルスケアのDX」

② データ・デジタル技術の活用によって、個人と医療機関、保健所や自治体の緊密かつ迅速な連携を進める「医療介護提供体制のDX」

③ データ基盤の整備、データ利活用に係る法律や制度改正等を通じた「DXに向けた環境・関係法制度の整備」

が必要と考えている。

これら3つのアクションはCOVID-19対応に限らず、将来の新興感染症や大規模災害対策にも役立つ。また、postコロナの時代に個人が最後までやりがいや生きがいを追求するために、健康を維持する基盤になる。ここからは、3つのアクションを進めるため、企業、政府、医療界が進めるべき取り組みを示す。

なお、経済界は、withコロナの時代においても、政府や医療界とも連携の下、「新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」に準じた感染予防策を講じつつ、経済活動を通じた国民生活への貢献を行っていく所存である。

Withコロナとpostコロナの整理

  • Withコロナは感染拡大期から COVID-19収束、あるいはワクチン開発までの間、早急に着手・実現すべき内容を記載。
  • Postコロナは、 COVID-19収束後を見据え継続的に取り組むべき、長期的な課題を記載。
  • これらは、誰がいつまでにやるかを明確にして進めることが重要。
withコロナ postコロナ
  • 緊急事態宣言下の感染拡大期から、ワクチン開発、あるいは収束までの「新たな生活様式」下を想定
  • 対COVID-19の観点からも、早急に着手・実現すべき内容を記載
  • COVID-19終息後を想定
  • ヘルスケア分野のDXをさらに進め、Society 5.0 時代のヘルスケアを実現
  • COVID-19収束後を見据え継続的に取り組むべき、長期的な課題も記載

1. 個人起点のヘルスケアのDX

個人起点のヘルスケアのDXを進めるための鍵は、個人のライフコースデータを蓄積し、個人による閲覧や、医療機関との共有を可能とする仕組みのパーソナルヘルスレコード(PHR)である。個人がPHRを活用することで自身の健康をデザインできるようになる。個人のライフコースデータをもとに開発する健康管理アプリや治療アプリを用いたデジタル療法の進展も期待される。

一方、現在、個人におけるライフコースデータの管理や活用は、一部の健康に対する意識が高い層が行っているのみである。管理できるデータの種類も歩数や心拍数等、少ない場合が多く、医療データの管理は一部のクリニックと連携するアプリ等に限定されている。

政府も同様の問題意識を持ち、今夏を目途にPHR開発の工程表をとりまとめる。また、マイナポータルを活用し、個人のライフコースデータを蓄積・活用する仕組みの構築を進めている。
個人起点のヘルスケアのDXを進めるため、そうした取り組みを加速しつつ、産学官医連携の下、以下の提言内容を実施することを求めたい。

With コロナ

(1)民間PHRの開発と普及、PHRへのデータ連携拡大

PHRは、個人起点の健康管理・予防・未病対策を行い、データによって個人が健康をデザインできるようになる仕組みである。また、災害、救急時の医療機関等との情報連携も容易になる。自分の健康は自分で守るために不可欠な、Society 5.0時代のヘルスケアを実現する基盤といえる。

COVID-19対策の観点からは、個人と医療介護従事者をつなぐために有効である。健康診断等で取得されPHRに蓄積されたデータを医療介護従事者が閲覧し、事前の重症化リスクの判断に活用できる。重症化が急速に進んだ場合等、入院治療の迅速な判断が必要な際には、PHRにリアルタイムで蓄積されるバイタルデータを医療従事者が活用できる。

経団連は、民間事業者が中心となって構築するPHRの普及が進むことで、個人が自由に様々な種類のPHRの中から自身の嗜好にあったものを選択できるようになることが望ましいと考えている。その実現のためにも、産学官医連携の下、民間PHRと各種ライフコースデータとの連携を進めることが重要である。

①民間PHRの開発と普及

PHRを提供する事業者は、個人のライフコースデータを蓄積するPHRの開発と普及を進める。産学官医の連携の下、PHRに蓄積したライフコースデータを活用したサービスの開発や個人が得られるメリットの向上を通じて、普及率を高めることが重要である。

②医療データとの連携

個人がPHRを通じて電子カルテ等の医療データにアクセスできるようになれば、個人を介した医療機関間の情報連携ができるようになり、個人がより適切な医療サービスが受けられるようになるとともに、医療機関の負担軽減にもつながる。

そうした仕組みの構築に向けて、医療機関においては、医療データの個人への提供を積極的に進めることが求められる。企業においては、個人情報の保護に十分に配慮しつつ、医療側が患者ケアや研究目的でPHRのデータセットへアクセスすることを認めるなど、医療データを医療機関からPHRへ連携するよう働きかけることが必要である。政府においては、医療データのマイナポータルへの蓄積とともに、医療機関から個人への医療データの電磁的形式での提供の義務化を推進すべきである。

③事業主健診データとの連携

医療従事者関与の下、定期健診等の経時的なデータを活用し、疾病発症の予兆を早期に捉えることも可能になる。また、個人が管理することによって、転職等によって保険者が変更になった際のデータ連携もできる。その実現のため、企業から保険者への事業主健診データの提供、さらには保険者によるマイナポータルへの蓄積を進め、本人同意の下で、医療機関が事業主健診データにアクセスできる仕組み作りを進めるべきである。

さらに、企業とPHR事業者が連携し、社員本人の同意の下で事業主健診データを活用する取り組みも始まっている。企業において、一層の推進が必要である。

④マイナポータルとの連携

現在政府が進めるマイナポータルとライフコースデータ連携の取り組みも、個人を起点としたヘルスケアデータ連携・活用の第一歩として評価できる。政府には、API連携によってマイナポータルと民間PHRとの連携を進め、本人同意の下、マイナポータルに蓄積される医療データ、事業主健診データ等のデータを、民間PHRを通じて活用できる仕組みを早急に整備することが求められる。

さらに、蓄積データの種類を拡大しつつ、公衆衛生の向上に役立つデータに関しては、マイナポータルへの保存期間の延長、あるいは全期間の保存を行うことも政府において検討すべきである。

⑤地域の医療看護介護体制との連携

COVID-19に関してPCR検査陰性後も再陽性が起こるケースが報告されるなか、特に高齢者や乳幼児、慢性疾患を有する患者等の退院後の体調管理が重要である。企業と医療界、自治体の連携の下、PHRのライフコースデータと地域の医療看護介護体制をマッチングできる仕組みの構築が重要である。

(産学官医の取り組み)医療情報を活用した情報銀行の取り組み
  • 大阪大学 医学部附属病院、三井住友銀行 、日本総合研究所 が連携し、情報銀行に係る実証を実施 (総務省 情報信託機能活用促進事業) 。阪大病院にかかっている妊婦さんを対象に、 妊婦健診等のデータを情報銀行の口座に連携。また、 新生児の口座を開設し、生まれた瞬間から子供の 医療 データを情報銀行に蓄積し 、データを参照したり医療従事者と連携したりする 仕組みを 検討。その際、 成人するまでは親が管理(ペアレンタルコントロール)するシナリオも盛り込む。
  • 母子によるメリットの実感、他の診療科等への展開、他の医療機関等への展開等を通じた患者目線での普及展開を目指す。将来的には、データの種類拡充、活用レベルの拡大を視野に入れる。
(2)アプリによるCOVID-19対応サポートの推進

自治体主導によるメッセージアプリのチャットボットを用いた症状の把握、発症の「疑い」を通知する取り組みは、発熱や息苦しさ等の自覚症状がある個人の判断の手助けとなり重要である。自治体では、集められた症状、位置情報等を統計処理し、全国規模の感染状況の予測にも活用している。政府にはこうした支援アプリとの積極的な連携や開発支援の実施が求められる。

他方、現状では、すべての個人に対して、サポート内容、問診内容は、ほぼ同一の基準で行われている。「(1)民間PHRの開発と普及、PHRへのデータ連携拡大」に記載したように個人のライフコースデータが蓄積され、活用できるようになれば、個別化された精緻なサポートが可能になる。併せて、政府と医療界において、安全性や検査値の正確性を担保した上で、デバイスを用いた家庭内検査を推進することも一つの方向である。

また、SNSやインターネットでは、大量のCOVID-19に関する真偽不明の情報も氾濫し、いたずらに不安をあおるケースも発生している。間違った予防法や治療法は、健康状態を悪化させる可能性もある。産学官医が連携し、政府を中心にCOVID-19に関する正しい理解を促進する広報活動を行うことで「インフォデミック」を防止することが重要である。

実現する姿
  • PHRに蓄積された既往歴、健康診断結果等を活用することで、生活習慣病予防、喫煙・体重管理に関して、より自分に合ったCOVID-19の重症化リスクを低減する行動が提案される。
  • 個人の発熱等のバイタルデータ、自覚症状等のリアルタイムデータと、PHRに蓄積された既往歴、健康診断結果等のライフコースデータを合わせて解析することで、発症の疑いが今よりも高い精度で検出される。
  • 個人のライフコースデータを医療機関と共有することで、医師の指導の下、より正確に重症化リスクが把握できる。COVID-19であればパルスオキシメータで計測される血中酸素飽和度等、病気の症状にあわせたライフコースデータによって重症化の兆候をとらえ、タイムリーな入院の提案を受けることができる。

Post コロナ

(1)PHRを通じたあらゆるデータの紐づけ

PHRが提供するサービスの特徴にあわせて、生活データ、購買データ、移動データといった個人のライフログ等の幅広いデータとPHRをつなげ活用することで、さまざまな恩恵が受けられるようになる。産学官医連携の下、PHRの連携範囲をさらに広げることはpostコロナを見据えた次のステップとなる。

また、がんゲノム医療等のほか、唾液等をもとに個人のゲノムデータを安価に解析するサービスも広がるなど、ゲノムデータの幅広い活用が始まっている。個人起点の活用を進めるためにも、ゲノムデータの活用とともにゲノム情報に基づく差別等の問題を規制する法制度の整備状況も踏まえつつ、ゲノムデータのPHRへの連携を進めることも重要である。

企業は、安心・安全を確保の上、これらのPHRに蓄積された多種多様なデータを本人の意思に基づき2次利用し、新たなサービスや医薬品の開発に取り組むことで、社会に新たな価値を提供していく。そのなかでは、国民が安心安全にデータを活用できるよう、セキュリティやプライバシーの確保には最大限の配慮を行うことも重要である。

(海外の取り組み)中国杭州の健康コード
  • 中国杭州で、市民の病歴や生活習慣を点数化し、「健康スコア」としてスマートフォン上の QR コードで表示するシステムの導入が検討。
  • 健康スコアは個人の病歴や健康診断結果、生活習慣のデータに基づいて算出される。 0 から 100 までのスコアが赤から緑のグラデーションで色付け。
  • 1 日に歩いた距離が 15000 歩に達したら 5 点、睡眠時間が 7.5 時間あれば 1点が追加。減点の例としては、蒸留酒の「白酒」 200 ミリリットルでマイナス 1.5 点、たばこ 5 本でマイナス 3 点等。プライバシーの侵害との指摘も。
(2)個人主体で活用する新たなサービスの開発

デジタル技術の進歩、人の身体や病気のメカニズムの解明に伴い、個人のライフコースデータを活用し、個々人に適した健康管理や疾患予防、治療を可能とするアプリの開発が進められている。こうした新たな医療サービスを迅速に開発し、その価値を個人が主体的に活用するためには、デジタル技術の特徴にあわせた制度設計が必要である。

①予防・未病対応アプリ(非医療アプリ)の推進

予防や未病対応に活用されている非医療アプリは、玉石混交のアプリが氾濫しており、規制も効果の基準もないため、個人が各製品の品質や有効性を判断し、適切な製品を選択することは容易ではない。トクホや機能性表示食品の仕組みを参考にしながら、実臨床での試験において予防や未病対応効果が認められたアプリに関して、政府が認証する制度の新設を求めたい。新設にあたっては、経済界としても全面的に協力する。

②デジタル療法(医療アプリ)の推進

デジタル療法を行う医療アプリに関しては、マネタイズしにくい領域である上、医療機器としての承認基準も企業視点では不明確であり、事業予測が立てにくい。またデジタル技術の進歩のスピードに制度が追い付いておらず、機会損失が発生している。医療機器としての承認基準を明確にするとともに、技術のスピードと製品価値に見合う医療アプリの早期承認制度の新設を求めたい。

また、医療アプリはデザインやデータの利用の仕方で、利用者に与える効果等の医療的価値が変わるため、デジタル療法推進の観点から、診療報酬制度における位置づけの検討も必要である。

(経済界の取り組み) 製薬デジタルヘルス研究会 SDK
  • 製薬有志を中心に、 デジタルヘルスによる国民の健康増進と産業育成への貢献を目指し、 予防・未病対応アプリや医療アプリの推進 に向けた環境整備に関する議論 を開始。
  • 今後は業種を問わず賛同企業を募り活動を拡大予定。
(3)個人のヘルスケアに対する理解向上、行動変容の促進

個人起点のヘルスケアのDXを進めるためには、個人が健康に対する意識を高め、まずはPHRやアプリ等の新たなサービスを使ってみることが不可欠である。個人の行動変容を促すためにも、経済界では、便利な健康維持や治療に役立つ新たなサービスの展開とともに、医療界、福祉界とも連携しながら、様々なチャネルを通じて、多様な価値観やライフスタイルを考慮した個人の健康意識を高める啓発活動を実施していく。

政府においては、様々な施策において、個人が健康のために科学的に正しい行動変容を促すためのナッジの導入を求めたい。

(経済界の取り組み)啓発活動の実施
  • 経済広報センター等と連携して 、 Society 5.0 時代のヘルスケアのコンセプトや必要な取り組みに関して、 一般市民向けの講演会を実施 。
  • 啓発アニメを作成し、 講演会や会員企業向けのセミナーとともに、 会員企業のオフィス等で上映。

https://www.youtube.com/watch?v=bc6FIdhniig&t=4s

実現する姿
  • ゲノムデータも含むPHRに蓄積したデータによって個人が自分の健康をデザインする。ライフログとも組み合わせることで、自分の状態や体質に合わせた食事や生活のリコメンドが受けられる。
  • 個人のライフコースデータを医療機関と共有し、アプリを通じて生活習慣病、薬物依存症等の重症化予防、治療が受けられる。重症化する前の適切な時期に、アプリから通院治療が示唆される。
  • PHRに蓄積したデータとウェアラブルデバイスで取得したバイタルデータによって、急性心筋梗塞等の異常が検知され、一刻を争う事態において、緊急対応が受けられる。

2. 医療介護提供体制のDX

医療介護従事者が、オンライン診療やAI診断支援等のデジタル技術を活用するとともに、医療介護施設のデジタル化を進めることで、個人と医療機関、介護事業所のインタラクティブな連携が可能になる。それによって、治療効果を維持・向上させつつ、医療介護従事者の負荷を減らし、レジリエント(強靭)、かつ持続的な医療介護提供体制が実現する。

今般のCOVID-19対応において、日本の医療介護提供体制の優れた点も明らかになった一方、医療介護施設のデジタル化の遅れ、データ収集・連携の課題等、これまで遅れていたDXに係る課題も浮き彫りになった。また、保健所業務に関しては、アナログなやり方から生じたマンパワーの限界によって、不都合も起きている。

そうしたことも踏まえ、政府においては、これまでも進めていた保健医療分野のAI活用推進とともに、オンライン診療のさらなる推進等の取り組みを進めていただきたい。

With コロナ

(1)初診を含むオンライン診療・服薬指導の普及促進

COVID-19の感染拡大防止策として、オンライン診療、オンライン服薬指導、薬剤の配送に関して、初診対面原則の時限的緩和、診療報酬上の取扱いの見直しが行われた。本対応の期間は、感染が収束するまでの間とし、原則として3か月ごとに、感染拡大の状況、実効性確保の観点等から検証・見直しを行うとされる。

他方、医療機関側の設備の不足等からオンライン診療・服薬指導が実施できる医療機関の数は限られており、地域間の導入格差も大きい。院内感染を含む感染防止、医療従事者、患者双方の安全確保の観点から、また将来の感染症対策のためにも、政府においては、機器導入への補助や診療報酬の見直し等、オンライン診療の更なる普及促進策を打ち出すべきである。

(2)保健所業務のデジタル化、保健所・病院のデータ連携

感染経路のヒアリング、濃厚接触者の割り出し、電話相談、帰国者や軽症者のフォローアップ、PCR検査の検体回収等、感染症の拡大時における保健所の業務負担が課題になった。保健所の体制強化とともに、個人、保健所、病院の間のデータ連携基盤の構築が急務である。

現在、厚生労働省では、全国の医療機関を対象に、病院の稼働状況、病床や医療スタッフの状況、医療機器や医療資材の確保状況等を一元的に把握できるシステムを開発し、導入を進めている。併せて、保健所、自治体、医療機関等の関係者の間でのデータ連携システムの構築も進めている。COVID-19の今後の感染拡大や、将来の新たな感染症対策への活用を期待する。

(3)介護事業所のデジタル化、高齢者の遠隔支援の実施

COVID-19の影響によって、通所介護事業所の休業や利用控えが発生し、自宅に孤立する高齢者が増加している。政府においては、そうした高齢者に対して、デジタルを活用した見守りや生活支援を実施できる体制整備を進めるべきである。

実現する姿
  • パンデミック時において、オンライン診療・服薬指導を活用することで、医療の質を確保した上で、院内感染のリスクを低減させ、医療従事者、患者双方の安心・安全が確保される。
  • 個人、保健所、医療機関、介護施設等の関係機関間において感染者データを即時に共有することで、関係者の負担軽減とともに、感染者が適切な機関から最適なサポートを受けられる。自治体や政府による感染状況把握、クラスター把握・対策の精緻化・迅速化にもつながる。
  • デジタル技術を活用することでタイムリーな状態把握が可能となり、パンデミックにより孤立した独居高齢者が、状況に即した介護支援や生活支援が受けられる。

Post コロナ

(1)オンライン診療のさらなる推進

患者個人にとって望ましい姿は、多くの「かかりつけ医」がオンライン診療と対面診療の双方のオプションを持ち、その時々の患者の状況に応じて、医師とも相談した上で、診療の手段を選択できるようになることと考える。

①初診を含むオンライン診療・服薬指導の恒久化

政府において、オンライン診療の診療報酬額の見直しや、COVID-19収束後の早い段階で初診を含むオンライン診療・服薬指導の恒久化を行うべきである。医療機関のインセンティブになるため、オンライン診療のさらなる普及が期待され、次なる感染症への対応も可能になる。

また、オンライン診療の受診開始から服薬指導や薬剤処方までをオンラインと郵送で完結するシステムを構築することが望ましい。併せて、離島やへき地におけるドローン等を使用した薬剤配送についても検討を進めるべきである。

②オンライン診療範囲の見直し

今回の時限的な対応下において、これまでオンライン診療の対象外とされてきた病気についても、医師と患者双方からオンライン診療とすることのニーズがあることが分かってきた。オンライン診療の範囲に関して、重篤化が懸念される一部の病気や症状を例外としたうえで原則オンライン診療を可能とし、病気の性質や患者との関係性を踏まえ、医師の判断でオンライン診療とするか対面診療とするかを決定できるようにすべきである。

(2)医療従事者によるデジタル技術活用の加速

現状、地域のクリニックに、多くの患者が押し寄せ、さらには電子カルテの記入等の医療行為以外の業務の負荷が大きいなど、医療従事者が一人ひとりの患者に対して十分な診療時間をとれないケースが多い。医療従事者は、AI等のデジタル技術の活用をさらに進め、診療治療効果を維持・向上しつつ、平日は病院に行けない人も含め様々な個人が、より適切なタイミングで最適な医療が受けられるようにすることが必要である。併せて、かかりつけ医は、AI等のデジタル技術活用に対する患者の不安を解消する役割も担うことが大切である。

政府においては、医療機器、医療行為におけるAI活用の位置づけについて、安全性は十分に確保しつつ、制度や実際の活用が技術進歩に対して遅れることのないよう、保健医療分野AI開発加速コンソーシアム等での検討とともに、検討にあわせてスピード感をもった環境整備を行っていただきたい。

(3)病院のデジタル化

医療従事者がAI等のデジタル技術を障害なく活用できるよう、病院のデジタル化も不可欠である。AIによる問診や診断支援のシステムの導入、電子カルテの入力支援等の導入等による関連する業務の効率化とともに、データ連携や様々な外部サービスとの容易な連携のため、病院の情報システムのクラウド化を進めることも重要である。まずは、大学病院等の中核病院において導入を進め、全国の中小病院、クリニック等への展開も期待したい。

併せて、今後、高齢化が進展する東南アジア等に対してシステム輸出を行うことで、現地の医療を改善するとともに、日本とアジアを結ぶ医療のデータプラットフォームの構築を目指すことも重要である。

(産学官医の取り組み) AIホスピタルによる高度診断・治療システム
  • 内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のプロジェクトとして開発が進む。2018年度から2022年度にかけて実施されるプロジェクト。
  • 「セキュリティの高い医療情報データベースの構築とそれらを利用した医療有用情報の抽出、解析技術等の開発」「AIを用いた診療時記録の自動文書化、インフォームドコンセント時のAIによる双方向のコミュニケーションシステムの開発」等を実行する。
  • 社会実装に関して、日本医師会、日本IBM、日本ユニシス、日立製作所、ソフトバンク、三井物産が参加し、ゲノム診断支援、問診支援、画像診断支援等のサービスを提供する医療AIプラットフォームの構築を目指す。
(4)介護事業所、高齢者の自宅のデジタル化

超高齢化社会を迎え介護需要は急増する一方、介護人材の不足が課題となっている。介護施設において、バイタルデータの自動取得と遠隔での効率的な安否確認が可能となる見守りシステム等のデジタルテクノロジー導入を推進すべきである。
また、独居の高齢者に対する遠隔での見守りや服薬管理、買い物代行等の生活支援を進めるため、介護事業者だけでなく、高齢者の自宅への機器導入を含めたデジタル化と普及を支援すべきである。

実現する姿
  • かかりつけ医や専門医が対面診療とともにオンライン診療を実施することで、様々な場所から幅広い症状に対する医師の診断を仰ぐことが可能になるなど、患者中心の医療、患者が選択する医療へ変化する。
  • AIによる問診・診断サポート、業務デジタル化により医療従事者の過重労働が是正され、人手不足解消に向けた生産性向上につながる。
  • バイタルデータ等をタイムリーに介護施設と連携することで質の高い見守りや遠隔支援が可能となり、人材不足が深刻な介護業界の生産性向上と品質向上につながる。

3.DXに向けた環境・関係法制度の整備

個人と産学官医が一体となって、医療・公衆衛生の向上に向けてデータを収集・連携・活用し、ヘルスケアのDXを進められるよう、環境・関係法制度の整備を進めることが重要である。それによって、新たなサービス、治療薬の開発が加速され、患者アクセスが改善できる。

パンデミック時においては、医療機関間における感染者の既往歴等の医療データの連携が不可欠だが、データの取り扱いについては整備されていない状況である。また、早期の経済復帰には、診断法・治療法の確立が不可欠であるが、そのためのデータの2次利用についても整備が不十分である。

現在、政府データプラットフォームの構築等、データ活用のための環境整備は、少しずつながらも、着実に進んでいる。ヘルスケア分野であっても、DX推進の中心を担うのは企業である。企業の活用範囲を拡大とともに、以下提言内容の実施が必要である。

With コロナ

(1)パンデミック時における公衆衛生確保と個人情報保護のあり方の検討

パンデミック時において、プライバシーに配慮した感染状況の把握や個人の意思に基づいた行動制限・情報連携が行われる。一方、SNS上で感染者が特定され個人攻撃を受ける事例や、感染者や疑いのある者が自由に出歩くことで感染拡大をもたらすなど公衆衛生の維持が危ぶまれる事例も発生している。政府において、パンデミック時の公衆衛生向上や国民安全の確保と個人情報保護や私権制限のあり方について、次のパンデミックに備えて検討すべきである。

例えば、感染者の把握に関して現状のアナログな手法に依らず、接触確認アプリ等のデジタル技術を活用することで、公衆衛生の確保と個人情報保護の一定程度の両立が可能になる。接触確認アプリは、幅広く国民理解を必要とし、十分な効果発揮には国民のある程度の利用が必要である。政府においては、プレインストールのオプトアウト型にするなど、アプリのさらなる普及を進めるとともに、陽性情報の入力等に関して、実効性が高く公衆衛生の向上に資する仕組みにすべきある。また、新型インフルエンザ等対策特別措置法において、対象となる患者や期間を明確にし、同意なく医療機関間の感染者情報の共有を可能にするなどの法律上の措置を行うことも一案である。

(2)個人情報保護法制2000個問題の解決

医療機関、研究機関が、国、自治体、国立大学法人等、いずれの管轄かによって遵守しなければならない法律・条例が異なることが、医療機関間における医療データの円滑な連携の妨げとなってきた。
今般のCOVID-19拡大下においても、自治体によるチャットボットを活用した感染調査について、自治体の「個人情報保護条例」が別々に定められ、自治体毎に要配慮個人情報の規定や個人情報保護審査会の審査のやり方が異なるため、都道府県を超えた横展開が困難であった。東日本大震災時の医療機関間の情報連携時にも問題となっている。政府、自治体による早急な解決が望まれる。

実現する姿
  • 症状データ等から感染拡大傾向の即時分析や個人に合った予防策・警告の迅速な公表や連絡が可能となり、プライバシーを保護しつつ、国民の安全確保に向けたデータドリブンのパンデミック対策が実施できる。
  • 自治体をまたいだ医療機関間のデータ共有や自治体アプリの迅速な横展開により、地域間格差なくどこにいても同じサービスが受けられる。

Post コロナ

(1)ライフコースデータ収集・連携のための環境整備
①個人のライフコースデータをつなぐIDの整備

個人のライフコースデータをつなぐIDとして、個人単位化された被保険者番号が活用される予定である。一方、連結されるデータが限定され、IDを扱うことができるのも支払基金等の一部の機関である。今後、政府においては、自治体・企業が保有する幅広いライフコースデータとの連携を検討すべきである。併せて、IDを個別の病院や民間企業で活用することも視野に入れた整備を進めることも重要である。

②データの相互運用性の確保(データ標準化、変換技術の整備)

ライフコースデータについて、それぞれが別のフォーマットで保存されており、つなげて活用できる状態になっていない。電子カルテをはじめ、ベンダー毎に異なる形式のことも多い。

取り組みが先行する電子カルテを中心に、政府主導、医療界連携の下、短期的には変換技術を開発・導入するなどして、つないで活用できるように、長期的にはデータの標準化を進めていただきたい。その際、例えば米国のように、データ標準化を積極的に進める主体にはインセンティブ、標準化を行わない主体にはディスインセンティブを与える仕組みも一案である。

(産医連携の取り組み) 東京総合医療ネットワーク
  • 東京都医師会主導の下、 IHE 規格(Integrating the Healthcare Enterprise)を導入することで、異なるベンダーの電子カルテ を相互に閲覧することが可能に。
  • 今後は、 対応ベンダーの拡大、対応病院の拡大、中小病院・診療所への拡大、連携可能データの拡大を検討中。
(2)ライフコースデータ活用促進に向けた法制度整備
①次世代医療基盤法の法改正・運用改善

次世代医療基盤法の下、認定事業者にライフコースデータを蓄積し、新たな産業、サービスの創出に向けたデータ活用を推進すべきである。

認定事業者におけるデータ活用を進めるためにも、政府は、丁寧なオプトアウト要件に対する条件の緩和(黙示の同意相当への引き下げ)、認定事業者間のデータ標準化、次世代医療基盤法に基づく事業参加への義務化を進めるべきである。また、データ蓄積スピードを加速するためにも、医療機関から認定事業者へのデータ提供に基づく診療報酬加算等のインセンティブ提供が必要である。併せて、全国網羅性を担保するための施策・制度の推進、死者データの取扱いを個人情報保護法と同様「個人情報ではない」扱いとすること等も重要である。

(産学官医の取り組み)ライフデータイニシアティブ/NTTデータの取り組み
  • 次世代医療基盤法に基づき、ライフデータイニシアティブが認定匿名加工医療情報作成事業者、NTTデータが認定医療情報等取扱受託事業者として認定。医療情報を収集・蓄積・加工・提供することで、健康・医療に関する先端的研究開発および新産業創出を促進。
  • 生活者のライフケアステージで発生する医療情報の一気通貫での収集を目指す。事業開始当初は、レセプトデータ・DPC調査データおよび電子カルテデータを収集。
  • 開始時は「学術支援」サービスの提供を予定。さらに、将来的な「製造販売後調査支援」「匿名加工情報提供」「高度分析活用支援」「フルサポートサービス」の提供準備を進める。
②リアルワールドデータの活用指針・基準の策定

現状、ウェアラブルデバイスのデータや認定事業者が収集するレセプト、電子カルテデータ等の、リアルワールドデータについて、医薬品や医療機器における臨床試験や安全性報告業務に用いるための活用指針・基準がないため、活用できていないケースも多い。また、リアルワールドデータ活用は、COVID-19ならびに今後発生し得る新興感染症の事前探索および早期察知、公衆衛生の向上にも寄与する。今後蓄積される多量のデータの効果的な活用を見据え、政府において、活用指針や基準を策定することが必要である。

③政府データベースの整備

保健医療データプラットフォームに関して、政府には、連結されるデータを難病・小児DB等へ拡大することを求めたい。併せて、現状のオンサイトセンターではなく、クラウドで利活用できる仕組みも整備いただきたい。また、民間利用の拡大を通じ、一定程度のマネタイズを行うことによる持続性担保も重要である。

CHASE(介護DB)の拡充に向けては、政府によるインセンティブ提供によってデータ蓄積スピードの加速を行うことが求められる。将来的には、事業者のデータ提出を任意ではなく、義務化することが必要である。データのエビデンスに基づく科学的介護を進めるには、介護報酬において高齢者の状態改善に対するアウトカム評価を拡大し、幅広いサービスへの展開を進めるべきである。

併せて、収集されたデータの分析をもとに、2009年以降改定されていない要介護認定制度や、介護報酬の見直しを検討すべきである。

様々な活用用途が期待されるゲノムデータに関しては、その収集、臨床情報との連結、産業利用の早期実施を進めるべきである。同時に、ゲノムデータの活用とともにゲノム情報に基づく差別等の問題を規制するゲノム法の検討も進めるべきである。

④公益目的のための個人情報の取り扱いに関する検討

個人情報保護法において、公衆衛生の向上等を目的とし本人の同意を得ることが困難な場合においては、利用や第三者提供の例外規定があるものの、解釈基準が明確ではないために、企業が個人情報を十分に活用できていない場合が多い。例外規定に関して、個人情報保護法見直し大綱に記載されたように事例の充実を図ることが重要である。経済界としても、次なる感染症に対する予防策、ワクチン、治療法等の開発の迅速化等に係る具体的なニーズの提示を行い、事例の充実に協力する。

また国際的には、WEF(World Economic Forum)が、合意された特定の公共目的のため、医療情報等のデータを流通、活用するAPPA(Authorized Public Purpose Access)というコンセプトを提案している。必ずしも個人の明示的な同意によることなく、個人情報の保護を別の形で保障した上でのデータの流通や活用を可能とするもので、パンデミック対策、災害対策、学術研究の推進に重要である。複数国間のデータ共有によって、グローバルの感染状況が即時に把握され、迅速な感染拡大予防策の実施が可能になるなど、国際防疫体制の構築にもつながる。

現在、APPAは、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター(C4IRJ)が中心となって検討が進められている。この取り組みに代表されるように、国際的なコンセプトやルール形成に関して、WEF等の枠組みも活用しながら、日本が議論を主導することは重要である。

実現する姿
  • ライフコースデータの活用により、病気の理解が進み、それをもとにした治療満足度の高い個人に適したヘルスケアサービスの開発が加速される。
  • データに基づく効率的で効果的な科学的介護が促進される。介護現場の負担軽減につながるとともに、質の高い介護が提供される。

Ⅴ.おわりに

Withコロナを乗り越え、postコロナにSociety 5.0時代のヘルスケアを実現するためには、保健医療システムを、DXを通じ刷新する勇気、実行が必要である。そのためには、医療界や福祉界だけでなく、学術界、政府機関、経済界、個人といったヘルスケアに係る全ての主体がこのことを理解し、それぞれの主体がいつまでに何をすべきかを意識しながら連携することが不可欠である。

そうした連携を進めるための鍵は、一人ひとりのデータにある。個人は、自分のライフコースデータを収集し、積極的に活用していく必要がある。医療介護関係者にはデータや先端技術のさらなる活用が求められる。企業はそうしたデータを軸に、一人ひとりの健康を改善し、病気の治癒、介護予防、要介護度の改善等に貢献するサービスを開発していく。政府は、スピード感を持ち、積極的にこれらの取り組みを後押ししていくことが不可欠である。

一人ひとりのデータは、ヘルスケアを変え、あなた自身、大切な人、そして次世代の人を助けることにつながる。経済界は、個人が安心、安全に自分のデータを活用することを助け、一人ひとりが、健康な身体を維持し最後までやりがい・生きがいを見出せる社会の創造に貢献していく所存である。

参照

経団連トップ > Policy(提言・報告書) > 科学技術、情報通信、知財政策 > Society 5.0時代のヘルスケアⅡ

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