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1.研究事業の目的・目標
【背景】
「今後の腎疾患対策のあり方について」(平成 20 年 3 月 腎疾患対策検討会)に基づく 10年間の対策(普及啓発、人材育成、医療連携体制の構築、診療水準の向上、研究の推進)により、年齢調整後の新規透析導入患者数の減少を達成するなど、着実な成果を上げているが、平成 28 年末における慢性透析患者数は約 33 万人と未だ減少傾向には転じておらず、今後も高齢化の進行に伴い慢性腎臓病(CKD)患者の増加も予想されることから、腎疾患対策の更なる推進が必要である。
平成 30 年 7 月に新たな腎疾患対策検討会報告書(以下、新報告書とする。)が取りまとめられ、「CKD 重症化予防の徹底とともに、CKD 患者の QOL の維持向上を図る」等を全体目標とし、地域における CKD 診療体制の充実や 2028 年までに年間新規透析導入患者数を 35,000 人以下(平成 28 年比で約 10%減少)とする等の KPI、さらに、個別対策を進捗管理するための評価指標等が設定されている。
本事業では、新報告書に基づく対策の均てん化による KPI の達成に向けて、地域における対策の進捗状況や先行事例・好事例等について、各都道府県に担当の研究者を配置することで、オールジャパン体制で実態調査・情報公開を行うとともに、地方公共団体や関連学会・関連団体等への助言や連携を適宜行いながら地域モデルを構築するなど、KPI の早期達成のためにより効率的・効果的な対策を策定する研究を実施する。さらには、関連学会等と連携して構築したデータベース等を活用し、疾病の原因、予防法の検討、及び疾病の治療法・診断法の標準化、QOL の維持向上、高齢患者への対応に資する研究、国際展開を見据えた研究等を実施する。
【事業目標】
- ①2028 年までに年間新規透析導入患者数を 35,000 人以下(平成 28 年比で約 10%減少)とする等の、新報告書に基づく対策の KPI 達成に寄与する。
- ②データベースの利活用等で得られたエビデンスを、効果的に普及することで、腎疾患患者の予後の改善等の医療の向上につなげる。
【研究のスコープ】
- 新報告書に基づく対策の進捗管理や KPI の達成に向けて、地域における対策の進捗状況や対策の均てん化を進める観点からの実態調査研究
- エビデンスのある技術・介入の最適化を目指すための実証型研究
- CKD を早期に発見・診断し、良質で適切な治療が可能な、CKD 診療体制の均てん化、定着化を図るための普及・実装研究
【期待されるアウトプット】
- 新報告書にもとづく評価指標等を用いて、地域における個別対策の進捗管理や好事例の横展開をオールジャパン体制で実施し、情報をホームページ等で公開、各種対策の地域モデルの構築、充実化等を図る。
- KPI の早期達成のために行政-医療者、かかりつけ医-腎増専門医療機関等の連携を推進する。
【期待されるアウトカム】
上記の様な事業成果の導出により、我が国の腎疾患対策を強力に推進し、国民の QOL の維持・向上や、医療費削減に貢献し、具体的には 2028 年までに年間新規透析導入患者数を 35,000人以下(平成 28 年比で約 10%減少)とする。
2.これまでの研究成果の概要
- 日本糖尿病学会および日本医師会と連携して、「かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準」を作成し、両学会ホームページおよび日本医師会雑誌にて公開した。(平成29 年度)
- 腎疾患対策検討会での新報告書作成に資する情報を収集した。(平成 30 年度)
- 診療連携体制の先行事例や好事例を収集しとりまとめた。(平成 31 年度)
- 県・政令指定都市・中核市の腎疾患担当者と医療者が一度に介する CKD 対策ブロック会議を開始し、対策の進捗や問題点を話し合い、地域の実情に即した診療連携体制構築推進に向け課題の抽出を行った。(平成 31 年度)
3.令和4年度に継続課題として優先的に推進するもの
「慢性腎臓病(CKD)患者に特有の健康課題に適合した多職種連携による生活・食事指導等の実証研究」
CKD の予防・重症化予防・治療には、CKD 特有の健康課題に適合した生活・食事指導が必要であり、医師のみならず、保健師、看護師、管理栄養士、薬剤師等の多職種連携による介入が求められている。多職種連携による CKD 特有の生活・食事指導の実態調査、エビデンス構築、課題解決への提言を行う。
「慢性腎臓病患者(透析患者等を含む)に特有の健康課題に適合した災害時診療体制の確保に資する研究」
昨今、頻発する災害において、日本透析医会災害時情報ネットワーク等により透析医療の確保を図っているが、災害時の断水、停電、施設破壊、交通遮断等における効率的、分野横断的な情報共有・対応のさらなる推進が必要である。透析医療機関・地方公共団体・患者等の視点より、過去に発生した地震・豪雨等の様々な災害における診療体制の確保等において、上記ネットワーク及び、診療体制等の実態調査、課題抽出、課題解決への提言等を行う。
4.令和4年度に新規研究課題として優先的に推進するもの
「腎疾患対策検討会報告書に基づく対策の進捗管理および新たな対策の提言に資するエビデンス構築研究」(令和4年度~6年度)
腎臓病診療に関するオールジャパン体制を構築し、関連団体、行政等との連携を図り、腎疾患対策検討会報告書(平成 30 年)に基づく対策(1)普及啓発(2)診療連携体制の構築(3)診療水準の向上(4)人材育成(5)研究開発の推進について進捗管理を行う。また、データベース等を活用し事業の進捗の評価指標を検討し導入する。さらに、地域での診療連携体制構築を目指す研究班や地域における透析導入数減少目標を設定した自治体と連携して、地域別対策モデルを立案・実行した上で全国的な横展開を行う。
「腎疾患対策検討会報告書に基づく慢性腎臓病(CKD)に対する地域における診療連携体制構築の推進に資する研究」(令和4年度~6年度)
CKD の重症度による紹介基準等を活用した、かかりつけ医と腎臓専門医間の連携等の好事例は存在するが、医療従事者と行政間の連携不足等で好事例の横展開が進まないことが課題となっている。本研究では地域毎の実態調査、エビデンス構築、課題解決への提言を行い、対策の全国展開へつなげる。都道府県から市町村への横展開を見据えて、都道府県および市町村の担当者と連携した研究体制を構築する(会議体の設置、研修会等の実施等)。特に透析導入数について独自に減少目標を定めている自治体と連携し、対策を立案・実行する。
「慢性腎臓病におけるデータベース等を活用した標準治療の均てん化研究」(令和4年度~6年度)
今後高齢化が進む中で、生活習慣病に由来する腎疾患患者数の増加が続くと予想され、このような状況への対応として、自覚症状に乏しい慢性腎臓病(CKD)の早期発見・診断、良質で適切な治療の早期からの実施・継続が必要であり、そのために日本における慢性腎臓病の実態を様々な観点から分析し基礎データを構築する必要がある。
「ライフスタイルに着目した慢性腎臓病(CKD)対策及び次世代型患者支援」(令和4年度~6年度)
勤労世代における CKD 重症化や透析導入は、患者本人に加えて家族の生活、また社会の労働生産性にも影響を及ぼす重大な問題である。CKD の予防・重症化予防・治療は患者個人に対するに留まらず、社会問題として認識され取り組まれる必要があり、特に労働に及ぼす影響について着目し、多職種連携や、二人主治医制(腎疾患対策検討会報告書(平成 30 年)で提唱する、かかりつけ医等と腎臓専門医療機関等の担当医間の連携診療体制)の下、デジタルデバイス等の活用も視野に入れた患者が主体的に継続できる効果的な CKD 対策を立案・実装する。
5.令和4年度の研究課題(継続及び新規)に期待される研究成果の政策等への活用又は実用化に向けた取組
- 「腎疾患対策検討会報告書に基づく対策の進捗管理および新たな対策の提言に資するエビデンス構築研究」(新規)
新報告書で定められる KPI や評価指標について、オールジャパン体制で進捗管理をおこなう。また KPI の達成が困難と判断された場合に、対策の強化や新たな対策の検討を適宜おこなうことも重要な役割となる。 - 「腎疾患対策検討会報告書に基づく、地域における慢性腎臓病(CKD)診療連携体制構築の推進に資する研究」(新規)
対策の実装(各対策の地域モデルの構築や好事例の横展開、地域ごとに対策を実践する際の助言等も含む)と情報公開も担い、KPI の達成に貢献する。 - 「慢性腎臓病におけるデータベース等を活用した標準治療の均霑化研究」(新規)
データベース等を活用し標準治療の均霑化を進める。 - 「ライフスタイルに着目した慢性腎臓病(CKD)対策及び次世代型患者支援」(新規)
ライフスタイルに着目した対策により患者の主体的な治療継続を支援する。 - 「慢性腎臓病(CKD)患者に特有の健康課題に適合した多職種連携による生活・食事指導等の実証研究」(継続)
CKD 患者に対し多職種連携による有効な生活・食事指導体制整備に活用していく。 - 「慢性腎臓病患者(透析患者等を含む)に特有の健康課題に適合した災害時診療体制の確保に資する研究」(継続)
災害時の CKD 診療体制構築に活用していく。