ビジネス全般 公衆衛生学

ワクチン開発・生産体制強化戦略(案)

ワクチン開発・生産体制強化戦略(案)

はじめに

新型コロナウイルス感染症は、2019 年末に世界で最初の患者が報告されて以降世界中にパンデミックが広がった。我が国は世界的な感染状況から見れば、罹患者数は比較的抑えられているものの、個人の生活を含め、社会経済活動に大きな影響を及ぼしている。

パンデミック制御に有効な新型コロナウイルスワクチンは、欧米諸外国では、既に複数社のワクチンが開発・配備され、接種が進んでいる。ワクチンの開発には、基礎研究から応用研究、更には大規模検証試験や生産体制の整備等を要するため、従来は複数年単位の時間を要するとの考えが一般的であったが、今回のワクチン開発に際しては、感染症以外の目的で研究が進んでいた新たな技術(以下「モダリティ」という。)を感染症のワクチンに応用することで、開発後1年以内という早さで複数のワクチンが使用されるに至っている。

有効で安全なワクチンの迅速な供給を国民は待ち望んでいる。外国からの輸入、外国製品の国内生産、日本国内における開発・生産の全ての手段を通じて、ワクチンを国民の手に早く届けることが重要である。

今回は、早期開発に成功した外国ワクチンの輸入に関し、薬事承認のための国内治験が必要であったために、提供が遅くなったなどの指摘がある。外国からの輸入ワクチンも含め、迅速な治験・薬事承認の在り方を検討する必要がある。

日本国内における開発・生産は、他国の事情に左右されることなく国民に対して着実にワクチンを供給することを確保する上で、また、国内における新たな変異株に対応したワクチンを迅速に開発・供給する上でも、特に重要であると考えられる。しかしながら、我が国においては、累次の緊急対策により研究開発支援を行ってきているものの、未だ実用化されていない。

我が国は公衆衛生の向上とそれに伴う感染症への関心の低下を始めとし、様々な要因から、長らくワクチン開発・生産に必要な課題に十分に取り組んでこなかった。

また、パンデミックによる非常時の対応が想定されていなかった。ワクチンを国内で開発・生産できる力を持つことは、国民の健康保持への寄与はもとより、外交や安全保障の観点からも極めて重要である。

今回のパンデミックを契機に、我が国においてワクチン開発・生産を滞らせた全ての要因を明らかにし、解決に向けて国を挙げて取り組む必要がある。

このため、このワクチン開発・生産体制強化戦略は、政府が一体となって必要な体制を再構築し、長期継続的に取り組む国家戦略を取りまとめたものである。

1. 背景と要因

かつての我が国は、感染症研究が盛んであったが、公衆衛生の向上に伴い感染症研究の相対的重要性が低下し、関心も薄れていった。近年の SARS 等の新興感染症が流行した地域と比較しても、国内での感染症は落ち着いており、感染症研究は産官学いずれにおいても先細りしていた。国においてもワクチンのような一見すると経済合理性の乏しい分野への投資や政策立案が欠如していた。

ワクチンに関しては、1990 年代前後の三種混合ワクチンによる健康被害を契機として、集団接種から個別接種へ、義務接種から努力義務へ変更となる中、いわゆるワクチン忌避なども根強く残っている状況であった。

2009 年の新型インフルエンザを契機にワクチン接種が見直され、多くの新規ワクチンが承認され、定期接種に位置付けられることなどにより、いわゆるワクチンギャップのうち、薬事承認面は解消に近づいているものの、実態として接種までのギャップはなおも存在しており、企業等が投資するための事業化予測が難しい状況は解決されていない。また、これまでに、ワクチン品質やコンプライアンス面によって供給体制に支障を来した事案も発生したが、旧来のワクチン生産体制に若干の調整がなされたのみであった。

なお、ワクチンの国内市場規模は医薬品が約 10 兆円であるのに比して約3%程度のおよそ 3,200 億円(2019 年)であり、世界のワクチン市場の総額約4兆円のうち約8%を占めるのみである。また、ワクチンの世界市場は欧米4社の寡占市場となっている。

上記背景のもと、今般の新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが発生したが、当初国内の感染例がさほど多くなかったこともあり、ウイルスや検体のデータ共有もままならず、発表される研究論文も数少ない状況であった。また、ワクチン開発や生産体制の構築等の対応は、非常時の想定の無いまま、平時の体制の域を超えることなく、他の先進諸外国と比して不十分な状況となっていた。これらワクチンの研究開発・生産体制等における課題、内在する要因として以下が指摘される。

  • 最新のワクチン開発が可能な研究機関の機能、人材、産学連携の不足
  • ワクチン開発への戦略的な研究費配分の不足
  • 輸入ワクチンを含め迅速で予見可能性を高める薬事承認の在り方等
  • 特に第Ⅲ相試験をめぐる治験実施の困難性
  • ワクチン製造設備投資のリスク
  • シーズ開発やそれを実用化に結び付けるベンチャー企業、リスクマネー供給主体の不足
  • ワクチン開発・生産を担う国内産業の脆弱性
  • 企業による研究開発投資の回収見通しの困難性

2. ワクチンの迅速な開発・供給を可能にする体制の構築のために必要な政策

安全で有効なワクチンの迅速な供給のためには輸入ワクチンを含めた速やかな薬事承認、生産のための基盤整備、開発のための環境整備が必要である。

特に感染症ワクチン開発は、研究力の維持・向上という観点のみならず、危機管理の観点からも強化が必要であり、緊急時の迅速な開発を念頭においた、平時からの研究開発・生産体制を強化する必要がある。

ワクチン開発のためには、旧来の感染症研究、ウイルス研究の枠を越えた対応が必要となっており、そのための課題と必要な対応を以下に示す。

2.1 世界トップレベルの研究開発拠点形成【文◎、厚】

―平時から継続的な研究を実現する場の確保

近年、我が国の感染症研究の相対的低下も一因として、ワクチン研究開発、特に新たなモダリティを含めた最先端の研究への取組が欧米諸外国に比して不十分な状況にあったことが、今般のパンデミック発生に際し、研究開発の遅れの要因の一つとなったと考えられる。こうした状況を改め、平時から、今や対感染症のみではないワクチン等の最先端の研究開発を長期継続的に行う研究開発拠点を設け、世界に先駆けたシーズの開発から実用化を実現する必要がある。

具体的には、国策としての迅速なワクチン開発のためにも、独立性・自律性を確保した柔軟な運用を実現し、世界の研究者を惹きつける、これまでにない世界トップレベルの研究開発のフラッグシップ拠点を形成し、BSL4施設などシナジー効果が期待できる特徴的な拠点及び当該フラッグシップ拠点の研究基盤を活用・強化・維持するとともに、必要な非臨床試験が実施可能な施設を整備することにより、効果的な体制を構築する。その際、これら拠点間の人材の流動性を高め相互連携を促進する。また、当該フラッグシップ拠点を始め、いずれにおいても、後述の臨床研究中核病院等のワクチン治験への重点的な体制強化を行った臨床との連携及び産業界との連携を要件化することが不可欠である。

当該フラッグシップ拠点を中心に、平時から、ヒト免疫、ゲノム、AI 等との融合による感染症に留まらない先端的アプローチを通じて、感染症・がん・自己免疫疾患・難病等について対象疾患の縦割りを排した分野横断的な研究や、がんワクチンや遺伝子治療、核酸医薬等への新規モダリティの活用を行うことで、感染症対策と相互に転用可能なワクチンや医薬品の多様なモダリティを育成、保持し、緊急時に迅速なワクチン開発を可能とする体制を構築する。

こうした拠点を中心として感染症対策の研究を平時においても継続するため、長期的・安定的な研究費を確保する必要があることは言うまでもない。

2.2 戦略性を持った研究費のファンディング機能の強化【内◎、文、厚、経】

―政府が AMED を活用してワクチン開発を先導する仕組みの構築

平時も含めた長期的・安定的な研究の支援の必要性に加えて、緊急時には、今回米国国立衛生研究所(NIH)や米国生物学医学先端研究開発機構(BARDA)等において行われたように、ワクチン開発に有効と考えられるシーズ、モダリティを早い段階で見つけ、開発の進んだ研究機関、企業等を選定し、まとまった研究費を迅速かつ機動的にファンディングする機能が必要である。従来の日本医療研究開発機構(AMED)による支援は、低分子薬開発モデルの域を出ず、提供する研究費の規模が小さく公募による個別研究の域を出ていなかった。また、収集された情報の質や量も少なく、政府が必要とする情報収集には貢献できず、政府と一体となった戦略的なワクチン開発を牽引できなかった。

この反省に立ち、緊急時においては国策としてワクチン開発を迅速に推進するために、政府は AMED 内に、平時からの研究開発を主導する体制を新設(先進的研究開発戦略センター「SCARDA(スカーダ)」(仮称))し、健康・医療戦略推進事務局主導のもと、各省の縦割りを排した一体的かつ機動的な予算の配分を通じ、新規モダリティの育成、感染症ワクチンへの応用(製造技術の検討、特殊製剤化技術(製剤の安定化、DDS等)の研究開発を含む)等を実施する。

SCARDA には、臨床現場にも精通し、平時・緊急時を通じたマネジメント、全体調整を行うセンター長に加え、実用化目線で産業界の研究開発状況、国内外における新規モダリティの動向にも通じた「プロボスト」、研究開発のフラッグシップ拠点長、健康・医療戦略推進事務局長を SCARDA の意思決定に関与するボードメンバーとして配置し、緊急時においては厚生労働省医務技監もその意思決定に加わり、ファンディング先の決定や進捗管理、Go/No-Go 判断等を実施する。

特にプロボストは、企業におけるワクチン開発・生産を平時から後押しする役割を担うことから、国内外の企業の実情に精通した人材が不可欠であり、実用化に向けて関係各省と密に連携することが必要である。

なお、平時・緊急時を通じて戦略的資源配分を行うためには、平時にも長期・安定的な研究費を確保するとともに、緊急時には迅速に大胆な研究費配分が行えるようにするため基金を創設するなどの必要がある。

また、今般の新型コロナウイルス感染症対応の際に、厚生労働省が実施した第Ⅲ相試験の治験費用や、製造設備費用への支援は、後述するようにワクチン開発企業の開発投資リスクを下げ、研究開発投資の判断におけるバリアを実質的かつ心理的にも取り払うものとして、引き続き継続する必要がある。

2.3 治験環境の整備・拡充【厚◎、外】

感染症ワクチンの第Ⅲ相試験においては、多くの健常者に接種し、そのうち感染症に罹患した者が何人いたかを治験薬接種者とプラセボ接種者で比較する。このため数百~千人程度の患者を対象とした治療薬の治験と異なり、ワクチンの場合には数万人単位での被験者の確保が必要となる。感染症の罹患率が低い国では更に多くの被験者が必要である。しかしながら、我が国においてこうした大規模なワクチン治験の経験はいまだかつてない。

こうしたことから、平時においてもワクチン開発を振興するとともに、これまで行ってきた臨床研究・治験を行う拠点整備を更に進め、緊急時に際しても平時のリソースを速やかに切り替え、迅速な臨床試験実施を可能とする体制を構築する。

国内の環境整備としては、大学、ベンチャー等のシーズの速やかな臨床試験への導出ができるよう、臨床試験の計画策定及び結果解析を担う人材(生物統計家、データサイエンティスト等)の育成及び雇用促進による臨床研究中核病院等のワクチン臨床開発拠点における体制整備、臨床研究中核病院における緊急時の治験実施協力の要件化と治験病床等の平時からの確保、臨床研究中核病院等における日本発の国際共同治験の実施・支援能力の拡充(国際対応人材の常駐)を行う。

海外の環境整備として、アジア地域における臨床研究・治験ネットワークを充実させるとともに、平時から、海外で流行する感染症に対するワクチンの治験実施促進などに取り組み、併せて、治験後の相手国での製品の導入に向け政府間ネットワーク構築の取組を包括的に実施する。

具体的には、日本発の国際共同治験が迅速に実施可能となるよう、アジア地域の拠点医療機関において国際標準(ICH-GCP)の治験実施基盤を整備し、各拠点における治験支援人材の育成(治験担当医師、クリニカルリサーチコーディネーター(CRC)等)、手順書等の整備、ODA 等も活用した拠点への治験実施に必要な機材(血液サンプル保存の冷蔵庫、遺伝子解析機材等)整備、PMDA アジア医薬品・医療機器トレーニングセンター等を通じた薬事規制の理解促進を加速させる。

併せて、我が国が先発のワクチンにおいて実施される国際共同治験に当初から参加できるよう、上記の治験環境の整備等に係る支援に加え、開発早期から企業の相談に応じるなどの対応を行う。

2.4 薬事承認プロセスの迅速化と基準整備【厚◎】

―国際的な合意形成による合理的な枠組みの検討

我が国にはこれまで、ワクチンの数万人規模の第 III 相試験の経験が無く、緊急時に迅速に大規模試験を実施可能とするべく、平時から備えておく必要がある。一方で、今回のパンデミックに際し、米国では、一定の安全性、有効性を確認することで、承認前から販売許可をする緊急使用許可(EUA)という方法で、ファイザーやモデルナを始めとした新たなワクチンが使用されることとなった。また、ワクチンは治療薬と異なり、健常者を対象としていることから、後発のワクチン開発企業にとっては、既に先発のワクチンが使用されている中で第Ⅲ相試験の二重盲検試験のために数万件の被験者を確保することは困難であり、多額の治験費用がかかることもあわせて開発を妨げているとの指摘がある。

したがって、安全性、有効性の確保を前提とした上で、実現可能な合理的承認基準を検討する必要がある。

具体的には、新たな感染症の発生時に治療薬・ワクチンに係る迅速な臨床試験が実施できるよう、国際的な合意形成に則った形で、あらかじめ緊急時における臨床試験の枠組みに関するプロトコル(ドラフト)を作成し、薬事承認に資する試験実施時の留意点とともに取りまとめる。

また、緊急時に必要な科学的評価の考え方を迅速に示すためには、平時から最新の技術モダリティも含めた、様々な技術に関する評価法の開発・指針(ガイダンス)の発出を行っていく必要があるため、そのための部門・体制整備を行う。

併せて、承認審査における海外での治験データの更なる活用の在り方について、科学的妥当性の確保を前提としつつ検討する。

さらに、発動の要件、運用の基準、補償、免責など緊急事態における特別に使用を認めるための制度の在り方について、今後、新型コロナウイルスの感染拡大の収拾にめどが立ち、政府全体における緊急事態の対処にかかる議論が行われる中で、本年中に方向性について結論を出す。

2.5 ワクチン製造拠点の整備【厚、経◎】

―新規モダリティに対応したバイオ製品製造拠点

今般のパンデミックに対応して欧米諸外国で早期に開発されたワクチンの多くは新たなモダリティを用いたものであり、製造工程も不活化ワクチンなど従来型のワクチン製造と異なった、いわゆるバイオ医薬品である。

こうしたバイオ医薬品の製造工場は我が国では限られており、大規模な生産には難がある。しかしながら、バイオ医薬品の工場は多額の設備投資を必要とし、ワクチン製造のために投資をしたが感染症が収束した場合には余剰設備となってしまうということでは、企業の投資は期待できない。こうした企業のリスクを軽減するためには、平時にはワクチン以外のバイオ医薬品の生産が可能な両用性のあるいわゆるデュアルユースの設備とすることが考えられる。

具体的には、これまでに措置した大規模なワクチン製造設備の平時における臨機応変な活用と、そのために必要な施設改修の支援を実施する。その上で、有事におけるワクチン供給能力の確保に必要な範囲で、新設するバイオ医薬品製造設備については、有事にワクチン製造に転用するデュアルユース設備を構築し、平常時からの技術・人材等の確保を行う。

その際、大規模製造施設だけではなく、臨床試験用薬剤から初期製造規模の製造、製剤化(LNP製剤化、凍結乾燥粉末製剤化技術等)、医薬品製造に必要な部素材(培地、培養バッグ等)の研究開発や製造設備支援、国内基準作成を含め、国内自給が可能となるバリューチェーンの改善を目指し対応を行う。

2.6 創薬ベンチャーの育成【厚、経◎】

―ワクチンをはじめとした新薬創出のエコシステム

米国等では、大学やベンチャー企業が創出したシーズを製薬企業が買って実用化につなげるというエコシステムが確立しており、近年の新薬の多くはベンチャー発となっている。今回のパンデミックに際していち早くワクチン開発に成功したドイツのビオンテック社も、米国のモデルナもベンチャー企業である。翻って、我が国においては創薬ベンチャー企業が十分には育っていない。大学等の優れた研究成果や創薬シーズを実用化につなげるため、創薬ベンチャーへの長期的な育成・支援が必要であるが、疾患や対象市場によっては期待される収益率が低く、また、投資の回収までに長期間を要する創薬分野に持続的な投資を呼び込むためには、これまでベンチャーキャピタル(VC)出資の増大に効果のあったベンチャー支援策を参考にしつつ支援を行っていくべきである。

具体的には、特にリスクの大きな第Ⅱ相試験までの実用化開発支援や官民ファンドの活用等も含むリスクマネー供給の強化を通じて、VC 等の目利き力を活かした優良ベンチャーの発掘・育成、VC等の投資能力・規模の拡大、リターンの向上、連続起業家(シリアルアントレプレナー)の育成を含め、我が国における創薬ベンチャーエコシステム全体の底上げを図る。また、創薬ベンチャーを含めた医療系ベンチャーからの相談対応や事業戦略の策定等による支援事業(MEDISO)の更なる拡充及び継続的な支援を通じて、創薬ベンチャーのより一層の振興を図る。

2.7 ワクチン開発・製造産業の育成・振興【厚◎、外】

ワクチン開発は企業にとってリスクの高い事業である。がん、高血圧、糖尿病など高齢化社会に伴う安定的な収益が見込める医薬品事業に対し、いつ、どれだけの規模で発生するかわからない感染症のために、平時から、ワクチン開発に企業が積極的に取り組むことに経済的合理性はない。このため、政府が開発を主導することが不可欠となる。また、市場性の低いワクチンの開発を支援するGHITCEPIといった国際的な枠組みを通じて企業の開発を後押しすることも重要である。さらに、ワクチンを開発した企業が、投資が回収できる見込みが立つように仕組みを作ることが、企業の継続的な研究開発投資、生産の判断に不可欠である。

このため、企業にとって予見可能性を高めるためには実用化後の出口が重要である。例えば、新たな感染症の発生時における接種に向けた国によるワクチンの買上など国内でのワクチン供給が円滑に進むよう検討するとともに、日本国内のみでは市場規模が限られることから、世界市場の開拓のためにも、企業は国外にも市場を広げていく戦略を持つべきである。また、開発に成功したワクチンについて、WHO の事前認証取得を後押しするなどの必要な対応を行い、Gaviなどの国際的な枠組を通じて世界的に供給することや途上国の支援ニーズ等に応じた ODA の活用等の検討を行う。

また、国民の健康を守るために必要なワクチンを国内で開発・生産・供給する、という観点が必ずしも政策に強く反映されてこなかったことについては、厚生労働省の体制にもその一因があると考えられ、平時から企業支援を行うためには、厚生労働省の体制強化及び関連部局間の積極的な人事により多様な経験を積むことも必要である。

このため、厚生労働省内に、今後のパンデミックに備えるべき重点感染症を決定し、ワクチン開発の経験を重ねる観点からも、それに対するワクチンや治療薬等の企業開発支援を行うとともに、前述の SCARDA への助言、ワクチンや治療薬等の原材料・資材の国内自給による安定供給を目指した国産化の促進や、必要な場合には備蓄を検討したり、緊急時にはワクチンや治療薬等を確保するための企業との交渉も行ったりする体制を構築する。なお、医薬品の安全性、有効性を監督する立場の規制部門は別の部署とする。

2.8 国際協調の推進【厚◎、外】

これまでの国際協力では、例えば COVAX ファシリティ の設立にも関与し、資金面でも貢献してきたが、今後は、ワクチン開発やワクチンそのものの供給を含めた貢献、薬事承認の国際的な規制調和の合意形成に先導的な役割を果たす等更なる貢献を目指す。

具体的には、CEPI やワクチン 開発・生産に優れた国との連携を通じたワクチンの研究開発への貢献や WHO、Gavi、COVAX ファシリティ、GHIT 等の国際的な枠組みに積極的に参画していく。また、国際保健分野の重要性に鑑み、開発に成功したワクチンの供与につき、途上国の支援ニーズ等に応じた ODA の活用等の検討を行う。

2.9 ワクチン開発の前提としてのモニタリング体制の拡充【文、厚◎】

ワクチンの研究開発を迅速に進めるためには、国内外の新興・再興感染症の最新の発生状況、ウイルスの感染力やゲノム情報、症状など臨床情報を迅速に収集し、分析することが重要である。また、変異株の発生等も踏まえ、接種後のワクチンの効果を評価し、新たなワクチン研究開発につなげることも不可欠である。このため、国立感染症研究所国立国際医療研究センターを中心に、大学・研究機関、地方公共団体、民間等が海外からの情報も入手の上、産官学連携を強化することが重要である。そうした関係者の協力の下、厚生労働省において国際的に脅威となりうる感染症について、国内外における流行状況を把握し、我が国においてワクチン等の確保・研究開発が必要な感染症を特定する必要がある。

また今回、他国が先行した事例を踏まえ、前述の SCARDA 等も活用しつつ、分野や地域を問わない新規モダリティの開発状況や国内外の企業やベンチャーの動向等について、前述の AMED に新設する先進的研究開発戦略センターSCARDA 等も活用しつつ把握できる幅広いインテリジェンスの集約体制を構築する。

以上の研究開発・生産体制強化策は、その多くは厚生労働省がメインプレーヤーとはいえ、内閣府、外務省、文部科学省、経済産業省など各府省にまたがる対応が必要である。ワクチンの国内開発・生産は国家の安全保障にも関わる問題であり防衛省含め、緊急時の迅速な対応とともに、平時においても緊急時を念頭に置いた継続的な研究開発が行われるよう関係部門の調整及び指示系統を明確にしておくことが重要であり、研究開発の調整を超えた薬事規制や国際協調、安全保障の観点までを見据えた総合的な政策を立案する司令塔機能や関係閣僚での議論の場を構築すべきである。

3. 喫緊の新型コロナウイルス感染症への対応

喫緊の新型コロナウイルス感染症への対応に関しては、既存のワクチンにおいても複数回接種が必要であり、効果持続期間の観点からも更なるワクチンの確保が必要となる可能性があること、さらに、変異株の発生により、今後既存のワクチンの効果が低減することも考えられること、仮に日本国内で変異が発生した場合に、外国企業による迅速なワクチン開発が期待できるとは限らないことからも、国内での生産・製造能力の向上とともに国産ワクチンの研究開発を急ぐ必要がある。国内生産体制の確保や緊急時の治験実施の支援、承認要件の在り方等、表出している様々な課題について、以下の取組が必要である。

3.1 薬事承認プロセスについて【厚◎】

ワクチンの大規模な第 III 相試験を迅速に実施可能とするべく、海外諸国との連携含め、国際共同試験の推進など、多様な側面において政府が出来る限りの支援をすべきである。

一方で今回のパンデミックに際し、米国では、一定の安全性、有効性を確認することで、承認前から販売許可をする緊急使用許可(EUA)という方法で、ファイザーやモデルナを始めとした新たなワクチンが使用されることとなった。EUA に際しても、最終臨床試験では、数万件規模の被験者に対して実施し、短期の安全性、有効性が確認されている。後発のワクチン開発企業にとっては、すでに先発のワクチンが使用されている中で第Ⅲ相試験の二重盲検試験のために数万件の被験者を確保することは困難であり、多額の治験費用がかかることもあわせて開発を妨げているとの指摘がある。そのため、ICMRA(薬事規制当局国際連携組織)においては、ワクチン接種後の血中中和抗体価の上昇など、ワクチンの有効性評価のための補完的指標の活用について、議論が開始されており、その議論の状況を踏まえ、最終的なコンセンサスが得られる前から、そのコンセンサスの方針を先取りして、国内企業での検証試験を開始し、速やかに完了できるよう、既定の予算措置ともあわせて政府として強力に支援する。

3.2 ワクチン開発に係る治験環境の整備・拡充について【厚◎】

ワクチンのこれまでの大規模な第Ⅲ相試験に代わる検証試験の推進のため、開発企業(及び委託を受けた CRO)のニーズを踏まえたサポートを実施する。具体的には、国内の対応として、臨床研究中核病院及びその関連医療機関への治験参加の要請をするとともに、健常人を対象とした臨床試験の経験に長けた臨床試験受託機関への積極的な治験参加を働きかける。ワクチンについては、被験者が健常人であり、被験者募集について、患者が対象となる治療薬の開発と異なることから、臨床研究中核病院における被験者募集の枠組みに加え、臨床試験受託機関等が保有する被験者パネルも活用して、被験者の募集を促進する。

また、海外における対応として、即戦力となる国際 CRO 等の活用による迅速かつ効率的な第Ⅲ相試験の実施を支援する。さらに、CEPI や GHIT といった国際的な枠組みを活用し、ワクチンに関する企業の国際的な治験や国際展開を後押ししていく。

最後に

新興感染症はいつ発生するか予測困難であることから、発生に際して、適時適切にワクチンを研究開発、生産するためには、常に最新の技術動向を把握し、速やかに最適なモダリティを活用するための財源や体制が必要である。そのため、平時からの長期継続的な取組が重要であり、さらに、緊急時には迅速な対応がその成否を分けると考えられる。ワクチン開発・生産体制の強化を長期継続的な国家戦略として、政府が一体となって実施するためには、ワクチンのような一見すると経済合理性の乏しい分野への投資が決定的に欠如していた反省を踏まえ、緊急時の機動的かつ迅速な資金の提供や、平時における継続的安定的な資金の観点からは、機動的な資金配分方法の検討とともに、研究開発費、設備整備費、買上等の必要な取組の財源を基金等も活用しつつ、安定的に確保することが適当である。

また、ワクチンは健康な者の発症を未然に予防できる反面、副反応のリスクは避けては通れない。そのようなワクチンが内在する特徴を踏まえ、リスクがあることを前提にベネフィットと比較し、ワクチンへの理解促進のため、国民への丁寧な説明やワクチンに対する平時からの教育、マスメディアとの連携を通じた適切な情報発信等も重要である。

参照

健康・医療戦略推進本部(第三十四回)議事次第

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/suisin/suisin_dai34/gijisidai.html

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