ビジネス全般

重症化防止を目標とした感染症への対応強化とマクロ経済政策運営(2021年9月3日)

我が国のワクチン接種2回完了率はおおむね5割に達し、足下では諸外国と比べても早いスピードで接種が進んでいる。特に、高齢者については、接種完了率が9割近くとなった結果、感染者数は抑制され、感染者に占める重症者の割合も大幅に低下している。10 月から 11 月までの早い時期に、希望するすべての人に接種を完了し、また、新たな治療薬の普及や重症化を防ぐための医療提供体制の強化に重点的に取り組むことで、重症化を相当程度防ぐことができると期待され、こうした対応を迅速かつ着実に進めることが重要。

ワクチンや治療薬の普及状況を踏まえ、感染症対応の主たる目標を重症化防止に移行し、ワクチン接種証明や検査・陰性証明(以下「接種証明等」)の活用等により、感染拡大・重症化の防止と経済社会活動を両立する「新しい国民生活の姿」を実現すべき。年末年始には活発に消費活動ができるようにすることを含め、いつまでに何をするのかをロードマップとして具体的に示し、予見可能性を高めるとともに、万全の財政措置を講ずることを含めて、国民の安心を確保すべき。

同時に、当面の間、感染症が経済を下押しする中で、躊躇ない機動的なマクロ経済政策運営により、影響を受ける事業者や家計を徹底して支援するとともに、自律的な経済成長に向けた重点4分野(グリーン、デジタル、子ども、地方)の投資がしっかりと喚起されるよう、必要な施策を計画的かつ迅速に執行すべき。

1.感染拡大・重症化の防止と経済社会活動の両立~「新しい国民生活の姿」実現~

感染拡大・重症化の防止と経済社会活動を両立する「新しい国民生活の姿」の実現に向けて、国民の予見可能性を高め、安心を確保するためにも、以下を含むロードマップを早急にとりまとめるべき。

(直ちに取り組むべき事項)

  • 10 月から 11 月までの早い時期に、希望するすべての人への接種完了に向け、職域接種再開や都道府県による大規模会場の展開の支援を進めるほか、接種のインセンティブを高める方策を講じるべき。このためにも、接種証明等の活用のガイドラインを早期に示し、外食、旅行、イベントなどで積極的に活用すべき。
    また、若者の接種率向上に向けて、どういう対策が有効か、各種アンケート調査等も活用すべき。あわせて、ワクチン確保の総量及び見通し、ワクチン接種の進展による重症者や死亡者の抑制状況について、日々データで明らかにすべき。
  • 国内外の感染状況、ワクチン接種の状況等を踏まえた上で、感染拡大防止措置の下、諸外国の取組との連携を図りながら、まずは経済活動に関係する者を対象として我が国が承認したワクチン接種者に対する帰国・入国後の隔離措置の制限緩和を行い、段階的に対象者の範囲を拡大していくべき。
  • 重症化の防止に向けて、診療所等の医療関係者の協力の下、臨時の医療施設の設置、宿泊療養施設の医療提供体制の強化や一時的な療養施設の拡充に最大限取り組むべき。また、約70万人とも言われる潜在看護師への支援を強化し、その参画を促すべき。
  • 緊急事態宣言地域において、都道府県は市区町村の協力も得つつ、病床の最大限の確保に取り組むべき。厚労省は、搬送困難者や妊婦・小児への緊急対応、自宅療養者の健康観察等に取り組む墨田区などの取組を他の保健所設置自治体等に展開すべく、これらの自治体に施設整備や必要な機材購入を直接支援すべき。
  • 1床当り最大 1950 万円の緊急支援補助金の活用を促すとともに、コロナ感染症受け入れに割り当てられた病床の活用状況を都道府県毎、医療機関毎に病床数を含めて公表すべき。
  • 重症化を防止する新たな中和抗体薬の投与を全国的に抜本拡大して、医療への負荷を減らすべき。また、中和抗体薬の日々の使用状況を明らかにするとともに、どの医療機関で投与が可能となるかなど、アクセス方法などについてわかりやすく示すべき。
  • 上記の取組を進めつつ、重症化防止を軸として、緊急事態宣言の基準を見直すべき。

(中期的に取り組むべき事項)

  • 国内の新薬開発に向けて、PCR 検査機関やコロナ陽性者に対する治験の案内を行うなど支援を強化すべき。あわせて、ワクチンの治験環境の整備・拡充や薬事承認プロセスの迅速化など「ワクチン開発・生産体制強化戦略」に掲げる取組を着実に推進するべき。
  • 抗原定性検査の拡充に向けて、抗原簡易キットの薬局等での販売許可などの規制緩和や、医療機関(陽性者)や陰性証明(陰性者)への接続を検討すべき。
  • ワクチンによる予防効果の低下が見込まれる者を対象としたブースター接種の推進に向けて、ワクチン確保を着実に推進するべき。
  • 国民の安心確保に向けて、オンラインで健康相談、診療、服薬が行える仕組みの構築など感染症にレジリエントな社会の実現に向けた取組を工程を定めて推進すべき。
  • 骨太方針 2021 に記載した感染症有事に備えるための実効性ある医療提供体制の強化のための対策を講じることができる法的措置を検討し、速やかに結論を得るべき。また、緊急事態宣言の効果を高めるための、また、将来起こり得るより一層厳しい感染症に備えるための法的措置について国民的議論を深め、結論を得るべき。

2.現下の景気動向を踏まえた当面の対応と来年度にかけてのマクロ経済政策運営

日本経済は今年に入り、従前の想定と比較して感染症の拡大に伴う経済への下押し圧力を受けた結果、GDP は 4 月以降足元にかけても概ね横ばいで推移しているとみられる。感染拡大防止最優先で取り組む一方、経済の底割れは決して起こさないとの観点で経済運営に万全を期すべき。併せて、感染症の長期化に伴う諸課題(社会とのつながり、貧困、ストレス等)へのきめ細かな対応・支援が重要。

同時に、諸外国では感染症対策と並行して、グリーン化、デジタル化の推進など新たな成長基盤の構築に向けた取組が活発化し、経済回復が加速している。こうした動きに乗り遅れることなく、民需主導の自律的な経済成長の実現を図るべき。

  • 国民の最後の我慢に寄り添う支援を徹底すべき
    • 低所得の子育て世帯、困窮世帯、雇用保険の対象とならない女性や若者を中心とする非正規雇用者への支援を徹底するべき。
    • 人手不足分野・成長分野への失業なき円滑な労働移動を促進するために、デジタル化、グリーン化に対応したリカレント教育の強化を図るべき。
    • 国民の我慢も長期化している中、もうしばらくの間国民の自粛を促し、その協力に報いるためにも、例えば、消費に直結するデジタル化に対応したマイナポイントの活用などの家計支援も含め、感染拡大が抑制された際に期待される消費の回復・喚起を持続的なものとするよう取り組むべき。
  • グリーン、デジタル、地方、子ども・子育ての重点4分野における投資と成長を支える基盤づくりに向け、規制改革や資金調達の円滑化を含めて、取組を加速すべき。
    • グリーン:再生可能エネルギーの導入加速のための支援と接続制約の緩和、必要な送配電網の整備、EV普及支援、EV充電設備・水素ステーションの整備、住宅・建築物の省エネ対策
    • デジタル:全国共通に使える接種証明や接種券の電子化、及びそれらの機能を付与することによるマイナンバーカードの利便性向上促進、そしてそれらを始めとする行政のデジタル化の推進、5GのPFIを含む施設整備の促進とビヨンド5Gの技術開発、デジタル人材育成の加速、高校における 1 人 1台端末の導入促進、テレワーク導入促進、オンライン診療の加速
    • 地方活性化:最低賃金を含む賃上げしやすい環境の整備に加え、生産性向上や海外展開に取り組む中小企業への大胆な支援、農業ベンチャーの資金調達柔軟化、農業人口減に対応したスマート農業による生産拡大、観光客が戻るまでの時間を活用した観光業や観光地の再生、ウォーカブルな街づくり、移住支援金の拡充
    • 子ども・子育て:保育による支援に加え、NPOや地域独自の事業などを含めた包括的な支援を行うことができる体制づくり
    • 基盤づくり:STEAM教育の抜本的な強化、求職者支援制度等の第2のセーフティネットの強化、孤独・孤立対策や障害者の社会参画支援
  • 国際的なサプライチェーンの強靭化
    • 足下で急増している東南アジアなどにおける感染拡大が国際的なサプライチェーンを毀損することのないよう、途上国へのワクチン支援やサプライチェーンの感染防止策や再構築に向けた支援を行うべき。
    • 経済安全保障の観点から、半導体などの基幹部品の国産化などサプライチェーンの強靭化を図るべき。
  • 経済活動の礎となる国民の安全・安心の確保
    • いつ起こるとも分からない新たな感染症や頻発する甚大な自然災害といった経済・国民生活への脅威に対し、国産治療薬・ワクチンの開発・生産体制の整備や、防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策に基づく取組等を強力に推進すべき。
  • 民需を喚起するワイズスペンディングの徹底に向け、諮問会議の下にある経済・財政一体改革推進委員会において、EBPM 等を通じて必要な改革事項の議論を深めるべき。

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