ビジネス全般

がん政策研究事業(令和4年度厚生労働科学研究)

目次

1.研究事業の目的・目標

【背景】

がん研究については「がん対策推進基本計画」(以下、基本計画)に基づく新たながん研究戦略として文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3大臣確認のもと、平成 26 年3月に「がん研究 10 か年戦略」が策定された。

【事業目標】

「がん研究 10 か年戦略」を踏まえ、がんの根治・予防・共生の観点に立ち、患者・社会と協働するがん研究を念頭において推進することとし、本研究事業では、がん対策に関するさまざまな政策的課題を解決する。

【研究のスコープ】

がん研究 10 か年戦略のうち下記項目を対象とする。

  • 充実したサバイバーシップを実現する社会の構築をめざした研究およびがん対策の効果的な推進と評価に関する研究

がん患者をはじめ、家族、医療者、一般市民を含む国民全体を対象として、社会的要因も踏まえ、精神心理的苦痛を含めた様々な問題を解決する。また、再発予防、合併症予防を含めたがん患者の健康増進を目指す。

また、患者や家族、医療従事者等のニーズと行政的ニーズの両者を適切に把握するとともに、基本計画で求められている施策を推進するための方策を立案、実施し、評価していくことで、より効果的ながん対策につなげる。

【期待されるアウトプット】

適切な情報発信の体制に関する研究や相談支援に関する研究を実施し、がん検診の適切な把握法及び費用対効果、有効性評価に関する研究等、より適切ながん検診の提案を成果として得る。また地域包括ケアにおけるがん診療提供体制の構築、がん患者の就労継続及び職場復帰に資する研究等を実施し、思春期・若年成人(AYA)世代のがん患者の社会的な問題を解決する提案等の成果を得る。

【期待されるアウトカム】

AMED の「革新的がん医療実用化研究事業」から得られる成果とあわせ、がん対策推進協議会等において報告し、政策に反映させるなど、平成 30 年3月に閣議決定された第3期がん対策推進基本計画において3つの柱とされている「がん予防」、「がん医療の充実」、「がんとの共生」の実現を目指す。

2.これまでの研究成果の概要

乳がん検診の適切な情報提供に関する研究

高濃度乳房についてのアンケート調査を行い、その結果をもとに QA 集を作成した。

小児・AYA 世代がん患者の妊孕性温存治療の現状を踏まえて全国的に均てん化するためのがん治療施設、生殖医療施設、凍結保存施設の生殖医療ネットワークの適切な体制等の提案

がん治療成績や妊娠予後を明らかにして、公的助成金制度を実施するためのエビデンスを評価した。また、全国の約半数の自治体が妊孕性温存に係る費用に関する助成金制度を構築していることから、さらにがん・生殖医療を取り巻く環境の変化から現状における 1 年間の妊孕性温存療法の対象となる推定患者数と総額費用の試算を行った。

進行がん患者に対する効果的かつ効率的な意思決定支援に向けた研究

患者の年齢や病状に応じた意思決定支援を促進する医療従事者に対する質問促進リストを作成した。また、根治不能進行・再発大腸がん患者を対象に行った探索的無作為化比較試験の結果、抗がん剤治療中の早い段階から、医療従事者が質問促進リストを用いて医師への質問行動を促進支援することで、医師の望ましいコミュニケーション行動(質問促進リストで予め整理し患者が望んだ情報を提供する、共感を示すなど)が増加した。

がんリハビリテーションの均てん化に資する効果的な研修プログラムの策定のための研究

がん患者の社会復帰や社会協働という観点を踏まえ、がんのリハビリテーション研修の学習目標を設定、研修プログラム見直し、e-learning システムを開発し、研修マニュアルも作成した。

3.令和4年度に継続課題として優先的に推進するもの

がん検診の費用対効果の検証に関する研究

これまで、各がん検診(乳がん、子宮頸がん、大腸がん、肺がん、胃がん)について、国内外において実施された費用対効果分析の研究をレビューした。今後は、日本における保健・医療分野の費用対効果評価の分析ガイドラインを調査し、内容の比較検討を行った上で、がん検診の費用対効果評価を行う上での、分析ガイドライン案を作成していく。また、この分析ガイドライン案に沿って、各がん検診の費用対効果の評価を行っていく。

小児がん拠点病院等及び成人診療科との連携による長期フォローアップ体制の構築のための研究

小児がん拠点病院等の診療の質を評価する新たな小児がん QI 指標を検討するために、多職種からなるワーキンググループを構成し、連携病院の評価に最適な QI 指標を策定することを計画している。同時に従来から運用を開始している小児がん拠点病院 QI 指標の改訂と測定を行っている。今後は、新たに策定された連携病院 QI 指標に関して、拠点病院を中心に、各ブロック内の連携病院に所属する診療録管理士による算定ワーキンググループをブロックごとに形成し、適切な算定が行われるようにする。それにより、各病院における診療録管理士の役割を明確にすることができると共に、各連携病院間の QI 測定のばらつきを少なくすることができ、連携病院の医療の質の評価を適切なものとすることができる。

がん患者の個々のニーズに応じた質の高い相談支援の提供に資する研究

全国のがん診療連携拠点病院等の「相談記入シート」の活用や諸問題について検討するため、小児を含む全拠点病院に対して実施した「相談記入シート」の利用状況に関するアンケートや、都道府県拠点病院のヒアリング結果を用いて、相談記録を収集するプロトコールを作成中である。また、コロナ禍の状況でも対応可能なオンラインでのグループワークを伴う集合研修(online collaborative learning)の実施方法について、「相談対応の質評価研修」を素材として、事前準備、実施、評価方法について検討を行った。今後はオンライン・グループワーク実施方法のマニュアルを作成するとともに、研究成果として資料の提供とワークショップを通じて、特に地域の相談員研修を実施する必要のある都道府県がん診療連携拠点病院の関係者に広く周知していく。

4.令和4年度に新規研究課題として優先的に推進するもの

がん対策推進基本計画におけるがん予防に資する研究

がんの1次予防、がんの早期発見・がん検診(2次予防)等、第3期がん対策推進基本計画における課題を抽出し、その解決策を提案する。具体的には、①子宮頸がん検診における HPV検査については、「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」において HPV 単独法も推奨グレード A とされたが、実装に向けて統一されたアルゴリズムが必要とされている。そのため、子宮頸がん検診に HPV 検査を導入するための、具体的な方法・留意点などをまとめ、自治体において HPV 検査を導入するためのマニュアルを作成するためにわが国の子宮頸がん検診における HPV 検査の実現に資する研究、②職域でのがん検診において「職域におけるがん検診に関するマニュアル」を公表しているが、職域の実態に即した精度管理指標を設定する必要性等が指摘されており、マニュアルの見直しを行う必要があることから、職域におけるがん検診の実態調査や研究成果を踏まえ、マニュアルの改訂すべき項目等を明らかにするとともに、マニュアルの普及のための効果的な方法について検討する研究等を支援する。

がん対策推進基本計画におけるがん医療の充実に資する研究

がんゲノム医療、支持療法、希少がんや難治性がん、小児・AYA 世代のがん患者への取り組み等、第3期がん対策推進基本計画における課題を抽出し、その解決策を提案する。具体的には、①最新の知見も踏まえた、ゲノム医療に携わる医師等の教育、育成が課題となっていることから、がんゲノム医療に携わる医師等が備えるべき知識や資質について最新の知見も踏まえて検討し、そのような知識や資質等を身につけるための方策を検討の上、がんゲノム医療に携わる医師等の育成に資する研究、②患者申し出療養制度を利用して、適応外医薬品の対象となる患者を把握するとともに、それらの患者が有するバイオマーカーの種類や頻度を把握し、適応外医薬品を投与した際の有効性、安全性を収集する研究、③我が国の小児・若年がん患者の妊孕性温存治療は未だ均てん化されておらず、全国のサバイバーおよび医療従事者からも適切な情報とアクセス可能な医療サービスが求められていることから、地域のがん・生殖医療ネットワークにおけるがん診療施設関与の実態等を把握し、がん診療施設における妊孕性温存療法認知度向上のための普及啓発に関する研究等を支援する。

がん対策推進基本計画におけるがんとの共生に資する研究

緩和ケア、相談支援、就労を含めた社会的な問題等、第3期がん対策推進基本計画における課題を抽出し、その解決策を提案する。具体的には、小児・AYA 世代のがん患者の支援体制は必ずしも十分ではなく、特に、高校教育の段階においては、取組が遅れていることが指摘されていることから、AYA 世代のがん患者に求められる精神心理的支援や教育プログラムを実装するための研究等を支援する。

5.令和4年度の研究課題(継続及び新規)に期待される研究成果の政策等への活用又は実用化に向けた取組

がん検診の費用対効果の検証に関する研究

本研究では、分析ガイドラインを作成し、これに沿って各種がん検診の費用対効果の評価を行う。その成果については、今後のがん検診のあり方の検討に活用され、施策の方針を決める一助とする。

小児がん拠点病院等及び成人診療科との連携による長期フォローアップ体制の構築のための研究

本研究により、1病院あたりの小児がん診療実績が、拠点病院よりも少ない小児がん連携病院において、拠点病院と同等の診療機能および支援体制を構築するために、新たな評価指標を構築することができる。また、各ブロックに QI 算定ワーキングを構成することによって、診療情報管理士を中心とした QI 測定を定着させ、小児がん統計の精度を向上させることも期待される。

小児がん拠点病院・連携病院が自施設の QI を継時的に測定することを通して、それぞれの病院が目的意識を持って、PDCA サイクルを回すことができれば、小児がん医療全体の底上げに繋がることが期待される。また、拠点病院事業および小児がん医療の課題を抽出し、次期がん対策推進基本計画に利活用される。

がん患者の個々のニーズに応じた質の高い相談支援の提供に資する研究

本研究は、がん対策推進基本計画の「相談支援の質の担保と格差の解消」や「効率的・効果的な相談支援体制の構築」の個別目標に直接寄与できる。また、「相談記入シート」は、小児がん拠点病院においても整合性がとれるよう作られている。これにより全拠点病院への展開が可能であり、本研究終了後も相談内容を広く蓄積できる環境の基盤整備につながる。

定期的かつ継続的な相談内容の収集の体制整備ができれば、患者らが必要とする情報の迅速な作成、相談員に必要な知識やスキルの定期的な分析と教育研修等への活用が可能となる。また相談ニーズを反映した施策立案に活用できる。

参照

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