ビジネス全般

難治性疾患政策研究事業(令和4年度厚生労働科学研究)

2021年8月20日

1.研究事業の目的・目標

【背景】

難病対策については、平成 26 年に難病の患者に対する医療等に関する法律(平成 26 年法律第 50 号。以下「難病法」という。)及び児童福祉法の一部を改正する法律(平成 26 年法律第47 号。以下「児童福祉法改正法」という。)が成立し、共に平成 27 年1月に施行された。難病法においては、「国は、難病の患者に対する良質かつ適切な医療の確保を図るための基盤となる難病の発病の機構、診断及び治療方法に関する調査及び研究を推進する」とされ、児童福祉法改正法においては、「国は、小児慢性特定疾病の治療方法その他小児慢性特定疾病その他の疾病にかかっていることにより長期にわたり療養を必要とする児童等の健全な育成に資する調査及び研究を推進する」とされている。難病及び小児慢性特定疾病対策を推進するため、平成 29 年度までに、本事業の研究班により、全ての指定難病(令和3年4月現在、333 疾病)を研究対象とする研究体制が構築され、平成 30 年度からは、難病の医療提供体制として、難病診療連携拠点病院を中心とした難病医療支援ネットワークが稼働した。平成 31 年度(令和元年度)から令和2年度には、難病法及び児童福祉法改正法施行の5年後の見直し議論が行われた。

また、令和元年 12 月に策定された全ゲノム解析等実行計画(第1版)では、難病の全ゲノム解析等のこれまでの取組と課題、必要性・目的、具体的な進め方が示された。健康・医療戦略は令和2年度から第2期に入り、疾患領域に関連した研究開発の中で、難病の特性を踏まえ、厚生労働科学研究から AMED における研究まで切れ目なく実臨床につながる研究開発を実施することとされた。

なお、難病法では、難病を「発病の機構が明らかでなく、治療方法が確立していない、希少な疾病であって、長期の療養を必要とする疾病」と定義し、幅広い疾病を対象として調査研究・患者支援等を推進している。児童福祉法では、小児慢性特定疾病を「児童等が当該疾病にかかっていることにより、長期にわたり療養を必要とし、及びその生命に危険が及ぶおそれがあるものであって、療養のために多額の費用を要するもの」としている。

【事業目標】

全ての難病及び小児慢性特定疾病の患者が受ける医療水準の向上、また、QOL 向上に貢献することを目的とし、難病医療支援ネットワークの推進や難病の全ゲノム解析等拠点病院(仮称)の整備等の診療体制の向上、難病施策の普及啓発、全国的な疫学調査、診断基準・重症度の策定、診療ガイドライン等の作成・向上、小児成人期移行医療の推進、指定難病患者データベースを含めた各種データベースの活用、AMED 研究を含めた関連研究との連携を目標とする。

【研究のスコープ】

  • 疾患別基盤研究分野:広義の難病だが指定難病ではない疾患について、診断基準・重症度分類の確立等を行う。
  • 領域別基盤研究分野:指定難病及び一定の疾病領域内の複数の類縁疾病等について、疾病対策に資するエビデンスを確立する。
  • 横断的政策研究分野:種々の疾病領域にまたがる疾患群や、疾病によらず難病等の患者を広く対象とした研究を行う。

【期待されるアウトプット】

  • 客観的な診断基準・重症度分類の策定や診療ガイドライン等の作成・向上
  • 難病の指定に向けた情報整理
  • 指定難病患者データベース等の各種データベースの構築
  • 関連学会、医療従事者、患者及び国民への普及・啓発
  • 早期診断や適切な施設での診療等を目指す診療提供体制の構築
  • 適切な移行期医療体制の構築
  • AMED 実用化研究との連携
  • 複数の疾病領域に共通の課題に対するガイドラインや手引きの作成
  • 複数の領域別基盤研究分野の研究班の連携体制の構築。

【期待されるアウトカム】

本研究事業の成果を踏まえ、難病法の5年後見直しにおけるフォローアップ、次の5年後見直しへ向けた課題抽出を行うことによって、難病・小児慢性特定疾病患者に対し、良質な医療提供が可能となり、難病の医療水準の向上や患者のQOL 向上等につながる。

2.これまでの研究成果の概要

  • 令和元年に追加された指定難病2疾患(膠様滴状角膜ジストロフィー、ハッチンソン・ギルフォード症候群)の診断基準等の作成に資する知見を提供した。また、令和元年に追加された小児慢性特定疾病6疾患(巨脳症-毛細血管奇形症候群、脳動静脈奇形、海綿状血管腫(脳脊髄)、非特異性多発性小腸潰瘍症、MECP2 重複症候群、武内・小崎症候群)のうち、非特異性多発性小腸潰瘍症の診断基準等の作成に資する知見を提供した。
  • 指定難病に関する診療ガイドラインの策定(乾癬性関節炎診療ガイドライン 2019、結合組織病に伴う肺動脈性肺高血圧症診療ガイドライン(令和元年度)等多数)
  • 診断基準や重症度分類を作成する際の詳細なフォーマットやチェックリストを作成し、また、指定難病の重症度分類の疾患間の整合性、公平性について検討することで、円滑な指定難病追加の準備を行った。
  • 難病患者の支援ニーズ等の生活実態を把握するため、医療受給者証所持者に対するアンケート調査を平成 29、30 年度の2か年行い、難病施策の方向性の検討に資する資料とした。
  • 「小児慢性特定疾病児童成人移行期医療支援モデル事業」の成果から、疾患の特異性を超えた共通の問題点を踏まえた「成人移行支援コアガイド」を作成した(令和元年度)。

3.令和4年度に継続課題として優先的に推進するもの

  • 「疾患別基盤研究分野における難病の医療水準の向上や患者の QOL 向上に資する研究」については、難病法・改正児童福祉法の法改正に係る審議会において、小児慢性特定疾病であるが指定難病ではない疾患について、指定難病への指定を目指す研究を積極的に実施するよう指摘されていることから、本分野で客観的な診断基準が確立していない疾患及び、疾患概念が確立していない疾患を研究対象とする課題を採択し、情報の整理を行うため優先的に推進する。
  • 「領域別基盤研究分野における難病の医療水準の向上や患者の QOL 向上に資する研究」については、診療から得られる検体や臨床情報を用い病態解明に資する研究を行う。都道府県の難病診療連携拠点病院を中心とした、難病医療支援ネットワークが稼働しており、各指定難病に対する全国的な調査、研究を継続する。また、令和元年度から開始している指定難病患者データベースおよび小児慢性特定疾病患者データベースの各研究班での利活用をより一層推進する必要がある。さらに、指定難病の追加等、難病対策委員会、指定難病検討委員会等からの要望を踏まえて、研究項目の追加を要請する必要があるため、優先的に推進する。
  • 「横断的政策研究分野における難病の医療水準の向上や患者の QOL 向上に資する研究」については、疾患横断的な難病対策の推進として、視覚あるいは視覚聴覚二重障害といった感覚器障害を共通とした疾患群に対する研究や中枢性感作症候群等の疾患横断的な研究、また、複数の疾病領域に共通の課題である遺伝カウンセリングに関する研究等、広く難病患者を対象とする研究等も対象とし、国会、指定難病検討委員会、難病対策委員会、小慢専門委員会等で指摘された事項に関する調査研究についても幅広く対応する。難病法・改正児童福祉法の法改正に係る審議会において指摘をされている小慢自立支援事業や移行期医療の充実に向けて、優先的に推進する。
  • 「難病の克服に向けた研究推進と医療向上を図るための戦略的統括研究」では、疾病追加の公平性や診断基準・重症度分類の精査及び指定医の診断精度向上等を通じた指定難病間の公平性に関する研究、希少疾病に対する国内外の研究開発支援制度の調査等により指定難病のフォローアップを行うため優先的に推進する。

4.令和4年度に新規研究課題として優先的に推進するもの

  • 「領域別基盤研究分野における難病の医療水準の向上や患者の QOL 向上に資する研究」については、診断基準・診療ガイドライン等のフォローアップ調査研究、診療から得られる検体や臨床情報を用いた病態解明に資する研究、適切な医療提供体制の構築に資する研究、当該疾病の国民への普及啓発等に資する研究、難病医療支援ネットワーク及び関連学会と連携した疾患レジストリ研究、指定難病患者データベース及び小児慢性特定疾病児童等登録データベース等を用いた研究を行う。
  • 「小児慢性特定疾病対策の推進に寄与する実践的基盤提供にむけた研究」については、難病法・改正児童福祉法の法改正に係る審議会において議論がされた自立支援事業及び移行期医療支援に関する課題に対応する。
  • 「難病に関するゲノム医療推進にあたっての統合研究」については、全ゲノム解析等実行計画に基づく令和2年度からの解析の開始を踏まえ、体制整備、課題抽出を行い、さらなる解析の加速に向けた対応を行う。
  • 「指定難病患者データベースの活用に向けた統合研究」では、難病と小児慢性特定疾病の連結データベースの活用事例の調査、データベースを用いた患者状態の分析法の研究、他の公的データベース等と連結した場合の新たなユースケースの検討、オープンデータの公表を含め研究者のデータベース利活用のための基盤構築に向けた研究を行う。

5.令和4年度の研究課題(継続及び新規)に期待される研究成果の政策等への活用又は実用化に向けた取組

  • 「疾患別基盤研究分野における難病の医療水準の向上や患者の QOL 向上に資する研究」(継続及び新規)の結果、指定難病へ疾病追加されることにより、治療研究の推進、難病患者への経済的負担の軽減、難病患者への適切な医療提供の確保が可能となる。
  • 「領域別基盤研究分野における難病の医療水準の向上や患者の QOL 向上に資する研究」(継続及び新規)では、難病患者への医療提供体制の維持・向上を図り、また、AMED 実用化研究事業につながる成果が期待される。
  • 「横断的政策研究分野における難病の医療水準の向上や患者の QOL 向上に資する研究」(継続及び新規)については、疾患横断的な難病対策の推進及び、広く難病患者を対象としているため、国会、指定難病検討委員会、難病対策委員会、小慢専門委員会等で指摘された事項への対応に活用する。
  • 「難病の克服に向けた研究推進と医療向上を図るための戦略的統括研究」(継続)については、広く国民の理解が得られる公平かつ安定的な仕組みとして難病の医療費助成制度の運営・指定難病の公平化の維持、指定難病の範囲の適正化に活用する。
  • 「小児慢性特定疾病対策の推進に寄与する実践的基盤提供にむけた研究」(新規)については、適切な医療費助成の実施、都道府県における自立支援事業、日常生活用具給付事業の円滑な運用、移行期支援医療の質の向上と全国への普及に活用する。
  • 「難病に関するゲノム医療の推進にあたっての統合研究」(新規)については、全ゲノム解析等実行計画(第1版)に基づく先行解析が着実に進み、本格解析に円滑に移行するための体制構築に活用する。
  • 「指定難病患者データベースの活用に向けた統合研究」(新規)については、公的データベースの連結と連結データの活用が促進されること、医療経済的観点介護指標の観点での分析を行い政策検討の際のエビデンスとして用いられること、広く国民や研究者に活用できる基礎資料を公開し、消費税財源を活用する難病の医療費助成制度について理解の促進を図り、研究の基礎資料となる情報が提供されること、などが期待される。

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