令和3年(2021年)12月2日
データ戦略推進ワーキンググループ
プラットフォームにおけるデータ取扱いルールの実装に関するサブワーキンググループ
Table of Contents
1 はじめに
1.1 ガイダンス策定の背景
(1) 包括的データ戦略の基本的な考え方
社会のデジタル化に伴いデータは智恵・価値・競争力の源泉となり、国力、すなわち日本の豊かな社会環境、及び日本の高い価値創造力を強化することで、国民のより豊かな生活と活動しやすい事業環境が実現される。さらには、地球規模の課題から安全保障に至るまで「データの存在/活用」が決定的に重要となっている。
通信容量の増大と関連機器の普及、新たなプラットフォームの登場などを踏まえ、ここ数年間異次元のパラダイムシフトが惹起されている。今日、「データ」は単に存在すればいいということではなく、大量の質の高い信頼できるデータが相互に連携し、「地理空間、ヒトや組織、時間」といった構成要素から成り立つ現実世界をサイバー空間で再現(「デジタルツイン」)するとともに、新たな価値を創出しつつ、サイバー空間上で個人、国家、産業、社会のニーズに応えることが求められている。 図 1は政府が令和3年6月に策定した包括的データ戦略の基本的な考え方である。包括的データ戦略が実現すべき戦略目標はビジョンで示したとおり、データがつながることで「新たな価値を創出」することである。国民にとっての「新たな価値」とは、例えば「データ分析をもとに各人の個性やニーズに基づいて提供されるパーソナライズされた高度なサービス」(例:医療行為)であり、また、行政機関にとっては、「利用者の行動分析を通じた政策の効果測定」や「EBPM・データドリブン行政」であり、また、産業界にとっては「様々なデータを活用した新サービスの創出」(例:MaaS)である。さらに、地域全体にとっては、「人口減少、高齢化等の地域課題の解決や地域の魅力向上」(例︓スマートシティ/スーパーシティ)である。
これらを実現するためには、幅広いデータを集約、分析し、新たな視点や提言を包括的・効率的・一元的に実現できるような「データ利用者視点」のアーキテクチャとインターフェース、そして、それを支えるデータ環境整備と社会実装過程におけるビジネスプロセス・リエンジニアリングが求められる。
(2) プラットフォーム構築の必要性
広く多様なデータを活用して新たな価値を創出するためには、「データ連携」とそれを「利活用したサービスを提供」する基盤(プラットフォーム)の構築が鍵であり、プラットフォーム(以下PFと記載)の構築は包括的データ戦略において重要政策として取りげられている。より具体的には、重点的に取組むべき分野として、健康・医療・介護分野、教育分野、防災分野、農業分野、インフラ分野、スマートシティ分野を指定し、関係省庁はデジタル庁と協力して令和7年(2025年)までにPFの実装を目指すこととしている。また、モビリティ、港湾、電子インボイス、契約・決済の分野においても、関係省庁はデジタル庁と協力することでPFの在り方を検討することとしている。また、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)事業において分野間データ連携基盤の構築を開始し、その運用を行う組織として一般社団法人データ社会推進協議会(DSA:Data Society Alliance)が令和2年(2020年)12月に設立され、データ連携を目指すPFとしてDATA-EXが提供されることとなった。
(3) データ取扱いルールの必要性
図 2はデータからソリューション(価値)が創出されるまでのプロセスと、このプロセスに関与する関与者の役割を図示したものである。観測・測定等によりデータが生まれてから、ソリューションが創出されるまで、多くの関与者が様々な貢献を行う。したがって各関与者の利害・関心に配慮したデータ取引が行われないと、この価値創出プロセスを前に進めソリューションを生み出すことができない。しかし実際には、データ提供者とデータ利用者の間にはデータ流通に対して以下のような懸念・不安感があり、これがデータ流通の阻害要因となっている。
<データ流通の阻害要因>
- 提供先での目的外利用(流用)
- 知見等の競合への横展開
- パーソナルデータの適切な取扱いへの不安
- 提供データについての関係者の利害・関心が不明
- 対価還元機会への関与の難しさ
- 取引の相手方のデータ・ガバナンスへの不安
- 公正な取引市場の不足
- 自身のデータが囲い込まれることによる悪影響
従ってPFを介してデータ流通を促進し新たな価値の創出へとつなげるためには、これらの阻害要因を払拭可能なデータ取扱いルールの実装が必要となる。平成30年(2018年)の不正競争防止法の改正による限定提供データ保護の導入や、信頼できる情報銀行に求められる情報信託機能についての認定指針の策定、AI・データの利用に関する契約ガイドラインの策定等、これまでもデータ流通を促進するための様々な取組がなされてきている。これらの取組を参考にしつつ、データ戦略推進ワーキンググループに設置されたプラットフォームにおけるデータ取扱いルールの実装に関するサブワーキンググループにおいて検討をし、PFにおけるデータ取扱いルールの実装に際して踏まえるべき視点と検討の手順をまとめたのが、本ガイダンスである。
1.2 ガイダンスの狙いと位置づけ
(1) ガイダンスの狙い
本ガイダンスは、1.1(2)に記載の関係省庁とデジタル庁が協力して構築するPF、および分野間データ連携を目指すPFであるDATA-EXを対象としている。従って、読者としては、これらのPFの運営者の他、関係省庁及びデジタル庁のPF担当者を想定している。また、当該PF上でデータ取引を行うPFの参加者も読者として想定をしている。そして、本ガイダンスではこれらの想定読者が、自ら構築もしくは参加しようとしているPFについて、
- データ流通の阻害要因(=リスク)を特定し、これを払拭するためのデータ取扱いルールをPFに実装できるようになる
- 環境変化に応じて新たに顕在化するリスクを適切に評価し、ルールを更新できるようになる
ことを狙いとしている。
(2) ガイダンスの位置づけ
1.1 (3)に記載のデータ流通の阻害要因を払拭するためのデータ取扱いルールの実装には、求められている価値を創出するためにはどのようなデータが必要か、データから価値を創出するためにどのような価値創出プロセス(図 2)が必要かを踏まえた上で、価値創出プロセス(図 2)の関与者をはじめとするステークホルダーの利害・関心を把握することから始める必要がある。これらはPFのアーキテクチャ設計のために必要な検討事項であり、データ取扱いルールはPFのアーキテクチャと共に検討をする必要がある。更にルールの設計段階においても、データ取引プロセスやこれに使うITをPFのアーキテクチャに取り込む必要がある。言い換えると、PFのアーキテクチャが出来上がった後にデータ取扱いルールを実装してもデータ流通の阻害要因を払拭するには不十分である。データ流通の阻害要因を払拭するためには、利用するデータや価値創出プロセスの検討、必要なデータ取引プロセスやITの検討が必要であり、その検討結果をPFにおけるデータ取扱いポリシーやPFの利用規約といったルールの形にしたものがデータ取扱いルールである。したがってデータ取扱いルールはPFのアーキテクチャの一部として検討し、PFのアーキテクチャに一体となって組み込まれるよう運用される必要がある。その意味で、本ガイダンスはPFのアーキテクチャのうち、データ取扱いルールに焦点を当てたものである。
本ガイダンスは、1.1(2)に記載の関係省庁とデジタル庁が協力して構築するPF、および分野間連携基盤であるDATA-EXにおいて、今後PFが備えるべきルールの具体化にあたって、参照されるべきものである。
なお、本ガイダンスは上記以外の民間のPFに関しては何ら拘束力のあるものではないが、記載内容は民間のPFにおいてデータ取扱いルールを実装する際にも参考となる。本ガイダンスの改定の際に参考となるフィードバックを得るためにも、民間のPFにおける積極的な活用が期待される。