第1部 第2章 偽情報への対応に関する現状と課題
近年、インターネット上での偽情報の流通の問題が顕在化している。偽情報に関しては、インターネット上に限った問題ではなく、真偽が不明で信頼性の低い情報(例えばデマや流言飛語など)が人々の間の口コミ等で拡散される事例はこれまでも存在したが、SNS 等のプラットフォームサービスの特性がインターネット上において偽情報を顕在化させる一因になっていると考えられる。
プラットフォーム上において多くの不確かな情報や悪意のある情報が容易に流通・拡散することは、利用者が多様な情報をもとに物事を正確に理解して適切な判断を下すことを困難にし、結果として、利用者が安心・信頼してプラットフォームサービスを利用することができなくなる、また、利用者に直接的な損害を与え得るなど、利用者にとって様々な不利益が生じるおそれがある。さらに、偽情報の流通により社会の分断が生じ、結果として民主主義社会の危機につながるおそれがあるとの指摘もある。
SNS を始めとするプラットフォームサービスは、経済活動や国民生活などの社会基盤になりつつあり、情報流通の基盤にもなっていること、また、プラットフォームサービスの特性が偽情報の生成・拡散を容易にし、偽情報を顕在化させる一因となっていると考えられることから、特にこのようなプラットフォーム上の偽情報への適切な対応が求められる。
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1 現状と課題
(1) これまでの対策の方向性
近年、米国や欧州において偽情報が社会問題になっていることから、我が国においても近い将来同様の問題が生じ得ることを念頭に、今後の対策を検討すべく、本研究会では、我が国における偽情報への対応の在り方について記載した本研究会の報告書を2020 年2月に策定・公表した。
この報告書に基づき、偽情報への対応の在り方について、多様なステークホルダーによる協力関係の構築、プラットフォーム事業者による適切な対応及び透明性・アカウンタビリティの確保、ファクトチェックの推進、ICT リテラシー向上の推進など、10 の方向性について、産学官民で連携を行い、取組を進めてきた。
(2) 偽情報の流通状況
① 偽情報に関する流通状況調査(アンケート調査)の結果
2021 年3月の調査結果によると、直近1か月での偽情報への接触率は75%であり、3割程度の人は、偽情報に週1回以上接触している。偽情報を見かけることが多いジャンルは、新型コロナウイルス及びスポーツ・芸能系関連となっている。特に、直近1ヶ月の間での新型コロナウイルス関連の偽情報に接触した層は半数程度であり、拡散経験層は3割弱程度となっている。
新型コロナウイルス及び米国大統領選挙に関して間違った情報や誤解を招く情報と判断された個別の18 個の情報について、それらを信じた場合や真偽不明だと思った際、4割の回答者は情報を共有・拡散していた。2020 年6月の過去調査と比較し、共有・拡散割合は減少傾向(5%減)となっている。
共有・拡散した理由は、「情報が正しいものだと信じ、他人に役立つ情報だと思った」(37%)、「真偽不明だが、他人に役立つ情報だと思った」(34%)、「真偽不明だが、情報が興味深かった」(30%)、「他人への注意喚起」(29%)の順に多い。
Twitter(53%)、YouTube(30%)の利用者は、当該サービスにおいて、それらの情報があたかも真実又は真偽不明として投稿されているのを見かけることが多い。過去調査と比較すると、各主要メディア毎に割合は減少傾向にあるが、YouTube は増加(8%増)している。
他方、Twitter(40%)、民間放送(21%)の利用者は、当該サービスにおいて、それらの情報が真実ではない・誤解を招くといった注意喚起を見かけることが多い。過去調査と比較すると、各主要メディア毎に割合は減少傾向となっている(特に民間放送:17%減)。
新型コロナウイルス関連の各プラットフォーム事業者のインフォデミック対策の認知度は全体的に低く、1割程度となっている。
② 偽情報に関する流通状況及び接触状況調査の結果
上記①とは別の調査結果によると、2020 年には、年間2,615 件(1日平均7.2 件)の疑義言説が拡散しており、主に新型コロナウイルス関連・米国大統領選挙関連の偽情報が拡散している。
新型コロナウイルス関連10 件・国内政治関連10 件の実際の偽情報に関する調査の結果、特に新型コロナウイルス関連の偽情報接触率が高い(45.2%)。10 代の接触率が最も高いが、あらゆる年代層で接触しており、全体で51.7%の人は1 つ以上の偽情報に接触している。
偽情報と気づいた割合は、新型コロナウイルス関連が58.9%だが、国内政治関連は18.8%と、ファクトチェック済みの偽情報でも多くの人が偽情報と気付けていない。情報リテラシー(読解力・国語力)が高い人は偽情報に騙されにくい。他方、ソーシャルメディアやメールへの信頼度が高いと偽情報に騙されやすい。また、マスメディアへの不満や自分の生活への不満が高いと偽情報に騙されやすい(特に、国内政治関連の偽情報)。
偽情報の種類によって有効な行動は大きく異なる。新型コロナウイルス関連では「1 次ソースを調べる」「情報発信者の姿勢やトーン、感情を考える」が有効、国内政治関連では「情報の発信主体を確認する」「情報が発信された目的を考える」が有効となっている。また、「ネットで他の情報源を探し、確認する」も全体的に有効となっている。
拡散手段として最も多いのは 「家族・友人・知り合いに直接話した」が10.3%。次いでメッセージアプリが多く、身近な人への拡散が多い。Twitter は3 位の4.3%となっている。
大量の人に拡散した「スーパースプレッダー」は全体で1%以下しかいないが、拡散数では約95%を占めるなど、ごく一部の拡散者が偽情報拡散の大部分を広めていた。一方、スーパースプレッダーはソーシャルメディアからの訂正情報で考えを変えやすい傾向にある。
③ 偽情報に関するニュースの生態系に関する分析結果
有識者による偽情報に関するニュースの生態系に関する分析結果によると、偽情報は、マスメディアも含めたインターネットにおけるニュースの生態系(生成・拡散の構造)の問題であり、インターネットのニュースでは、ミドルメディアが話題や議論の流れに影響を与えているとの指摘がある。
偽情報は、ミドルメディアを中心に、メディア間の相互作用で成長する例が見られ、具体的には、①ソーシャルメディアでの話題をニュースサイト・まとめサイトなどのミドルメディアが編集し、それをマスメディアが取り上げる、②ミドルメディアが、マスメディアの話題とソーシャルメディアの反応を組み合わせてソーシャルメディアに拡散する、③記事配信を通して大きな影響力を持つポータルサイトに到達し、ポータルサイトから、ミドルメディアやソーシャルメディアに拡散する(フェイクニュース・パイプライン)、といった流れの存在が指摘されている。また、ミドルメディアの典型的な記事の作り方として、「こたつ記事(取材が不十分な、こたつでも書ける低品質な記事)」の問題があり、ネットの反応は多くの場合情報源やデータが提示されておらず、話題の捏造が可能であるとの指摘がある。
この点、コンテンツの内容が間違っていてもページビューを稼げば広告収入で儲かる仕組みにより、正確な記事を書くインセンティブがないため、偽情報の方が「得」な状況となってしまっているとの指摘や、ミドルメディアの多くについて、運営元がウェブサイトに表示されておらず正体不明であり、運営元を表示しなくても検索結果に表示され、広告収入が得られるとの指摘もある。
さらに、記事の配信や検索表示によりアクセスが流入し、広告収入がミドルメディアの活動を支えており、偽情報を拡散する特定のウェブサイトやソーシャルメディアのアカウントへの対応が不十分で生成・拡散を助長している点や、対策が不十分なことで、既存メディアの記事や映像は偽情報に使われ、間違ったり、歪んだりした内容が拡散してしまっているといった指摘もある。
④ SNS における偽情報の拡散状況や人間の認知に関する分析結果
偽情報の拡散要因として、①メディアによる拡散、②人間の非合理性が指摘されている。
具体的な偽情報に関してtwitter 上の拡散状況を分析すると、似たよ
うな発信・拡散を行う人々の集まり・ネットワーク(クラスター)が複
数存在しており、主に陰謀論を発信するクラスター、偽情報を否定する
クラスター、面白おかしく反応するクラスターなどが存在している。ま
た、それぞれのクラスターにおいて、政権支持・政権批判を行う人々が
積極的に拡散しているケースがみられる。偽情報に触れて積極的に拡散
しているのは偏った一部の人々である可能性が指摘されている。
また、以下のとおり、人間の非合理性が、偽情報の拡散に寄与するとの指摘がある。
- 確証バイアス:先入観の影響により、自らに都合のいい情報に触れると真実だと信じてしまう。
- 認知的均衡理論:人間には、好きと嫌いとの均衡状態を維持したいという心理があり、自分が好きな人が好きなものを好きなことは安定状態、その逆が不安定な状態となる。偽情報に触れた際、真実性よりも認知的均衡を保つために、自分が好きな人の発言が偽情報であってもそれを信じてしまうことがある。
- ソーシャルポルノ仮説:コンテンツを消費して快感を得ることが目的であり、ニュース等を見るときに、情報を得ようという観点よりも楽しもうという観点を重視する態度。この観点により、偽情報が消費・拡散されることがある。
⑤ ディープフェイクの拡散状況
「ディープフェイク」は、「ディープラーニング」と「フェイク」を組み合わせた造語である。現在では人工知能を用いて、実際には存在しないリアルで高精細な人物の映像・動画を制作する行為や、それらで制作された映像・動画について指すことが多い。対義語として「チープフェイク」が存在する。
ディープフェイクは、海外の事案が多いが、我が国の事例としては、2020 年10 月にディープフェイクポルノ動画をアップロードしていた2人が逮捕された。また、2021 年4月には、加藤官房長官が福島県及び宮城県を襲った地震に関する記者会見で笑みを浮かべる画像がTwitterに掲載された。
ディープフェイクで作成された動画は増加傾向であり、オランダの情報セキュリティ調査会社によると、2020 年12 月には8.5 万件の動画が検出された。2018 年以降、6 か月ごとに約2 倍のペースで検出数が増加している。国別にみると、米国が42%と最も高いが、日本は5番目の5.6%。分野別に見ると、「エンタテイメント」55.9%、「ファッション」23.9%、「政治」4.6%となっている。
(3) 各ステークホルダーの取組状況
① 多様なステークホルダーによる協力関係の構築
偽情報の問題に対しては、多様なステークホルダーによる多面的な議論が行われ、プラットフォーム事業者、ファクトチェック機関、メディアなど関係者間の協力が進められることが必要である。
この点、産学官民が連携した取組として、偽情報流通の実態を正確に把握し、その対応について多面的に検討すべく、産学官民の多様なステークホルダーによる協力関係の構築を図り、対話の枠組みを設けることを目的として、2020 年6月に「Disinformation 対策フォーラム」が設立された。
「Disinformation 対策フォーラム」における議論のスコープについては、インターネット上のSNS 等で個人のユーザが発信する「デマ」の類を対象とし、①フェイクニュースを巡る実態・最新の研究成果、②事業者における取組、③関連団体における取組、④今後の取組の方向性を内容とする中間とりまとめが2021 年3月に公表された。
中間とりまとめの今後の取組の方向性として、①ファクトチェックの取組に関する今後の取組、②リテラシー向上の取組に関する今後の取組、③シンポジウム等の公開のイベントを開催検討する旨が示され、2021 年6月に「Disinformation 対策フォーラム シンポジウム」が開催された。
② ファクトチェックの推進
偽情報の問題に対しては、プラットフォーム事業者の取組だけでなく、ファクトチェックの活性化のための環境整備が進められることが必要である。
この点、ファクトチェックの普及活動を行う非営利団体である「ファクトチェックイニシアティブ(FIJ)」において、我が国におけるファクトチェック普及活動が進められている。
2020 年2月に、FIJ の新型コロナウイルス特設ウェブサイトが設置され、日本で流通する新型コロナウイルスに関連する言説・情報のうち、これまでにメディアやファクトチェック機関によってファクトチェックや検証が行われた情報の一覧を表示している。加えて、国外における新型コロナウイルスに関する国外のファクトチェック情報を掲載している。これらの情報は、Yahoo!ニュース、LINE ニュース、グノシー、gooニュースに掲出されている。
また、2020 年4 月に、新型コロナウイルスをめぐる日本関連のファクトチェック情報を海外向けに発信するため、FIJ が英語版特設ウェブサイトを開設した(COVID-19 Japan-related Fact-checks)。日本に関連するファクトチェック情報を英語で公開し、国際ファクトチェック・ネットワークのメンバーに情報提供。海外の団体への調査協力や、日本国内のメディアパートナーのファクトチェック活動に対する支援を強化している。
さらに、FIJ において、メディアパートナーによるファクトチェックの容易化及びファクトチェックの質・量の向上を目的とし、疑義言説集約システム(FCC)、疑義言説データベース(Claim Monitor)、ウェブアプリ(FactCheckNavi)等のファクトチェック支援システムを運用している。
Claim Monitor では2020 年に合計2615 件の疑義言説を捕捉した。FIJメディアパートナー(毎日新聞・InFact・BuzzFeed 等)のファクトチェック記事数は、2019 年の計34 本から2020 年には計164 本に増加した。
③ 情報発信者側における信頼性確保方策の検討
偽情報の問題に対しては、インターネット上におけるメディア全体の情報の信頼性の確保方策について、メディアやプラットフォーム事業者等の関係者間で検討が進められることが望ましい。
この点、「Disinformation 対策フォーラム」において、一般社団法人日本新聞協会・日本放送協会・一般社団法人日本民間放送連盟がオブザーバ参加し、プラットフォーム事業者・メディア関係団体・有識者との対話や情報共有が進められている。
フォーラムで共有されたメディア関連団体の取組は以下のとおり。
- 新聞社の取組:
全国に取材網や取材拠点を有し、発信前に社内で何重にもチェックするほか、不確かな情報に対する取材や検証、デマを打ち消す記事の発信とともに、誤った情報によって引き起こされた差別や偏見に対しても、対応する記事を発信している。教育界と協力し、NIE(Newspaper in Education)という、教育現場で新聞を活用して情報リテラシーの向上を推進する取組を実施している。 - 放送事業者の取組:
放送法の規律に加え自律的な取組を行っており、日本民間放送連盟は放送倫理基本綱領(日本放送協会と共同作成)、放送基準、報道指針等を定めるほか、SNS 上の情報については、投稿者のプロフィールの確認や投稿者へのコンタクト等を通じて、事実か否か確認の上での報道を行う等の対応を実施している。日本放送協会はSoLT(Social Listening Team)というチームを立ち上げ、SNS の情報をリアルタイムで観察し、事件事故の最新の状況や変化をいち早く捉え、キャッチした⼀次情報を報道に繋げている。また、「フェイク・バスターズ」という番組の放送により、積極的にファクトチェック情報を発信し、これら取組の方針は、「NHK 放送ガイドライン2020(インターネットガイドライン統合版)」において公表している。
④ ICT リテラシー向上の推進
偽情報の問題に対しては、政府や各ステークホルダーはICT リテラシー向上の推進に向けた活動を行い、また、既存のICT リテラシー向上の取組に係る整理や様々な主体の連携促進が行われることが重要である。この点、総務省では、偽情報に対抗するICT リテラシーの向上のための様々な啓発活動を実施している。
具体的には、「インターネットトラブル事例集(2021 年版)」において、エコーチェンバー・フィルターバブル等のSNS の仕組みや、情報を鵜呑みにしないための確認方法を記載し、関係省庁・関係団体と連携して全国の学校等やSNS ユーザ等へ周知するなど、様々なチャネルを活用して周知を実施している。
また、総務省HP において「上手にネットと付き合おう!~安心・安全なインターネット利用ガイド~」を公開し、ネットの時代における偽情報に関する特集ページに、情報を鵜呑みにしないための確認方法や我が国における偽情報の実態などを周知している。
さらに、「e-ネットキャラバン」の講座内容に、偽情報への対応を追加した。
他方で、既存のICT リテラシー向上の取組に係る整理や様々な主体の連携促進については、前述の「Disinformation 対策フォーラム」における中間とりまとめにおいて、今後の取組の方向性として、ICT リテラシー向上の取組に関する今後の取組について言及があるものの、現時点では具体的な取組は進められていない。
⑤ 研究開発の推進
偽情報の問題に対して、プラットフォーム事業者は、コンテンツモデレーションに関して、AI を活用した技術について研究開発を推進していくことが望ましく、また、ディープフェイクなどの新たな技術による偽情報に対抗する技術に関する研究が進められることが望ましい。
この点、諸外国では、ディープフェイクで作成された動画を検出する技術・ツールの開発が進められている。マカフィーはAI を活用しディープフェイクの検出を行う「ディープフェイクラボ」を2020 年10 月に設立した。また、Facebook、Microsoft、米国の大学等が設立したディープフェイク検出技術の公募コンテスト「deepfake detection challenge」が2019 年12 月~2020 年5 月に開催された。
我が国では、2020 年に科学技術振興機構(JST)の戦略目標「信頼されるAI」のもとで、「インフォデミックを克服するソーシャル情報基盤技術」が採択された。同研究は、「AI により生成されたフェイク映像、フェイク音声、フェイク文書などの多様なモダリティによるフェイクメディア(FM)を用いた高度な攻撃を検出・防御する一方で、信頼性の高い多様なメディアを積極的に取り込むことで人間の意思決定や合意形成を促し、サイバー空間における人間の免疫力を高めるソーシャル情報基盤技術を確立する。」ことを目的としている。
⑥ 国際的な対話の深化
偽情報の問題に対して、国際的な対話を深めていくことが望ましい。この点、前述のとおり、総務省では、偽情報も含めたインターネット上の違法・有害情報対策に関する国際的な制度枠組みや対応状況を注視し、対応方針について国際的な調和(ハーモナイゼーション)を図るため、国際的な対話を実施している。
具体的には、2021 年2月~6月に、第26 回日EU・ICT 政策対話、第11 回日EU・ICT 戦略ワークショップ、第5回日独ICT 政策対話、第21回日仏ICT 政策協議を実施した。日本側からは、「インターネット上の誹謗中傷(Online Harassment)」及び「フェイクニュース(“Fake news” & disinformation)」に関する政策動向等を紹介した。
また、2021 年4月に、G7デジタル・技術大臣会合が開催され、「Internet Safety Principles」に関する合意文書を含む大臣宣言が採択された。「Internet Safety Principles」の中で、特に、事業者の違法・有害情報への対応措置に関する透明性・アカウンタビリティを世界・国・地域のレベルにおいて果たすことが求められるとされた。
2 プラットフォーム事業者等による対応のモニタリング結果
(1) モニタリングの概要
主要なプラットフォーム事業者における偽情報への対策状況について、2020 年2月の本研究会の報告書に記載の項目に沿って、ヒアリングシートに基づく回答を求め、モニタリングを行った。
本年については、このヒアリングシートに基づき、本研究会において以下のとおりモニタリングを行った。詳細のヒアリングシートの内容については、参考4の通りである。
- 2021 年3月30 日 本研究会(第25 回)
ヤフー、Facebook、Google、Twitter、SIA - 2021 年5月13 日 本研究会(第27 回)
LINE
(2) モニタリング結果
① 総論
モニタリングの結果、全体的な傾向として、プラットフォーム事業者の偽情報への対応及び透明性・アカウンタビリティ確保の取組の進捗は限定的であった。
他方、多様なステークホルダーによる協力関係の構築、ファクトチェック推進、ICT リテラシー向上に関しては、まだ十分とは言えないものの、我が国においても取組が進められつつある。
② 各論
主な評価項目に関する各事業者の状況は以下のとおり。
また、モニタリングの質問項目について、事業者が「回答を控えた理由」及び「今後の対応方針」は以下のとおり。
「我が国における実態の把握」関係(2.関係)
我が国において適切に実態把握を行ってその結果を分析・公開しているプラットフォーム事業者は見られなかった。総務省等によるユーザへのアンケート調査や研究者によるサービス上の情報流通についての調査によると、我が国において偽情報の問題が顕在化しているにもかかわらず、モニタリング結果によると、プラットフォーム事業者は自らのサービス上の偽情報の流通状況についてそもそも実態把握ができていない場合や、「偽情報の問題は生じていない」旨の回答があったため、プラットフォーム事業者の認識や実態把握と調査結果とのギャップが生じている。
実態把握に資する取組として、Twitter は研究者に向けて無償の学術研究用データ提供を実施している。
「多様なステークホルダーによる協力関係の構築」関係(3.関係)
- SIA は「Disinformation 対策フォーラム」を主催し、Facebook、Google、ヤフー、Twitter が当該フォーラムに参加している。
- Z ホールディングスは「デジタル時代における民主主義を考える有識者会議」を開催している。
- Google は、ジャーナリズム支援や、国際大学GLOCOM の研究プロジェクト「Innovation Nippon」の支援などを実施している。
「プラットフォーム事業者による適切な対応及び透明性・アカウンタビリティの確保」関係(4.関係)
いずれの事業者も、我が国におけるプラットフォーム事業者による偽情報への対応及び透明性・アカウンタビリティ確保の取組の進捗は限定的であった。
各社の具体的な取組状況は以下のとおり。
- ヤフーは、ヤフーニュースには掲載情報の正確性・信頼性確保を目的とするポリシーは存在するが、一般ユーザが投稿するCGM サービスでは偽情報を直接禁止するポリシーが存在しないため、偽情報という切り口からの削除件数等は示していない(関連する他のポリシーでの対応)。
- Facebook は、新型コロナウイルス関係や選挙・政治関係等に関して、グローバルのポリシーを具体的に設けており、削除・警告表示・表示順位抑制等の対応を行っている。他方で、偽情報に関する削除件数等については、我が国の件数も、グローバルの件数も示していない。
- Google は、新型コロナウイルス関係の偽情報に関するグローバルなポリシーを具体的に設けており、削除等の対応を行っている(新型コロナウイルス関係以外は関連する他のポリシーでの対応)。グローバルな対応件数を公開しており、それに加えて、構成員限りとして日本での数値を公開している。
- LINE は、利用規約において偽情報の意図的な流布行為を包括的に禁止している(ただし、偽情報に特化したポリシーは存在しない)。新型コロナウイルス関連として、食料品等の買い占めを煽るものについて臨時的に対応した件数についてのみ公開している。
- Twitter は、新型コロナウイルス関係・選挙関連・ディープフェイク等に関して、グローバルのポリシーを具体的に設けており、削除やラベルの付与を実施している。グローバルの削除件数も具体的に公開しているが、我が国の件数は公開されていない。
「利用者情報を活用した情報配信への対応」関係(5.関係)
- 広告表示先(配信先)の制限:
いずれの事業者においても、一定の禁止規定や特定の基準に満たない媒体・ウェブサイトへの広告配信を制限する規定が設けられている。 - 広告の出稿内容に関する制限:
いずれの事業者においても、偽情報を内容とする広告について、一定の禁止規定が設けられている。 - 政治広告に関する制限:
LINE 及びTwitter では政治広告が禁止されている。Google では、日本において一般的な政治広告は許可されているが、選挙広告は禁止されている。 - ターゲティング技術の適用に関する規定:
上記の「広告の出稿内容に関する制限」に該当する偽情報の広告や政治広告はそもそも配信が禁止されているためターゲティング技術の対象とならない旨を説明している事業者が多い。なお、ヒアリング結果からは、(出稿が許されている)政治広告について、どのようなターゲティング技術に関する対応が行われているかについては明確になっていない(ヤフーは政治広告に関するターゲティング技術の適用に関する規定を設けるべきか検討中)。 - 出稿者の情報や資金源の公開、透明性レポートの公開等:
すべての事業者において、広告に関する何らかの透明性確保方策が行われている。
各社の具体的な取組は以下のとおり。
- ヤフーは、広告出稿者の情報の明示を広告サイト内に明示することを広告掲載基準に規定している。政治広告の資金源公開については、今後必要に応じて検討予定。また、広告審査等に関する透明性レポートを公開している。
- Facebook は、「広告ライブラリ」において、出資者・金額・リーチした利用者層などの情報を7年間保存し検索可能である。
- Google は、広告主や所在を公開する広告主認証プログラムを導入し、2021 年5月に日本でも導入済み。米国等では選挙に関する透明性レポートを公開している(日本では選挙広告は禁止のため未提供)。
- LINE は、ターゲティング広告に使用される「みなし属性」について、推定のためのアルゴリズムに影響する要素(友だち登録した公式アカウント、購入したスタンプ等)に関する説明をプライバシーポリシー等において明記している。
- Twitter は、現在政治広告について全面禁止しているが、以前配信されていた政治広告や論点広告について、広告透明性センターにおけるアーカイブ情報を提供している。
「ファクトチェックの推進」関係(6.関係)
ヤフーやGoogle は、我が国におけるファクトチェック推進団体やファクトチェッカーとの連携等が進められている。
Facebook・LINE では、我が国における具体的な取組は行われていないが、諸外国では取組が行われている。
各社の具体的な取組は以下のとおり。
- ヤフーは、ヤフーニュースにおいて、FIJ と情報共有連携を行い、メディアや専門家の記事を掲載するほか、2020 年度に引き続き、2021 年度も情報連携及び資金面での支援を実施している。UGC サービスでは、ファクトチェッカーとの連携は行われていない。
- Facebook は、グローバルな取組として、独立したファクトチェッカーがコンテンツを審査し、ラベル付けを行っている。ラベル付けされたコンテンツをシェアしようとする利用者や過去にシェアした利用者に通知している。ファクトチェッカーが偽情報と評価したコンテンツは、表示順位低下などの表示抑制を実施している。偽情報を繰り返し配信する違反者に対して、配信数抑制や収益化や広告機能停止など措置を実施している。国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)に認定された独立した第三者ファクトチェッカーと提携を行っているが、我が国では、IFCN 認定ファクトチェッカーが存在しないため実施していない。
- Google では、Google 検索及びGoogle ニュースにおいて、一定の基準を満たす第三者ファクトチェッカーにより作成されたファクトチェックのラベルが表示される。グローバルな取組に加えて、我が国においては、FIJ、InFact 及びBuzzFeed Japan 等に対し、Fact Check Tools の利用方法に関するワークショップを実施している。この結果、2021 年3 月、Buzz Feed Japan がGoogle Fact Check Tools の使用を開始した。
- Twitter は、特段の取組を行っていない。
- LINE は、LINE Taiwan では、偽情報等を抑制するための官民パートナーシップを2019 年に締結し、台湾行政院および4 つのファクトチェック機関と協力し、ニュース配信プラットフォームであるLINE TODAY 上に偽情報等のファクトチェック検証の結果を表示する取組を実施している。ユーザ自らが疑わしい投稿等をLINE から送信し、検証結果を得ることができるチャットボットを提供している。なお、我が国ではファクトチェッカーとの連携は行われていない。
「情報発信者側における信頼性確保方策の検討」関係(9.関係)
「Disinformation 対策フォーラム」において、既存メディアや有識者との情報共有や協議が進められている。
また、いずれの事業者も、新型コロナウイルス感染症関係の政府(内閣官房や厚生労働省等)など、公共性の高い情報をサービス内で優先表示させる仕組み等を積極的に実施している。ただし、前述の調査結果によると、取組の認知度は1割程度となっている。
各ニュースサービスでは、提携媒体の選定基準策定やテクノロジーの活用等により信頼性の高い情報を掲載している。
その他、Google では、質の高いジャーナリズムの支援として、2019 年に、新型コロナウイルス感染症の拡大に対応し報道機関を支援するため、ジャーナリズム緊急救援基金を通じ、日本の28 の報道機関に助成金を提供している。Google ニュースラボはジャーナリスト及び大学生に対し、偽情報を認識するスキル等のジャーナリズムにおけるデジタル技術提供及び活用ワークショップを提供しており、2015 年以来、1万人以上がトレーニングに参加している。今後、FIJ とのファクトチェックスキルや経済的支援などのさらなる提携を検討している。
「ICT リテラシー向上の推進」関係(7.関係)
Facebook・Google・LINE は、我が国において偽情報の問題に対応したリテラシー教育に関する取組が行われている。ただし、Twitter の取組は、偽情報対策に資する内容となっているか不透明となっている。ヤフーは、今後実施予定。
各社の具体的な取組は以下のとおり。
- ヤフーは、2021 年度において教育現場(大学)において情報リテラシー教育を実施予定。こうしたリテラシー教育の授業・研究を通じて、啓蒙コンテンツを作成しヤフーを中心にグループで活用する予定。
- Facebook は、アジア太平洋地域の専門家と協力して、「みんなのデジタル教室」を立ち上げた。日本の中学生・高校生を対象に、偽情報が発信される動機や、情報を受け取る側の視点を考え、偽情報を見分けるための様々なポイントについて、アクティビティを通じて学ぶ授業を展開している。
- Google は、「Google News Initiative」を筆頭に、数多くのメディア・リテラシープログラムを立ち上げている。我が国において、ファクトチェックを含む主要なオンラインリテラシーのトピックを扱うオンライン・リテラシー・カリキュラムをこれまでに 10 万人以上の中学生・高校生に提供している。その他、「Grow with Google」「ウェブレンジャー」等のプロジェクトを実施している。
- LINE は、ワークショップ授業・講演活動等を2012 年より累計で約10,000回以上実施している。LINE みらい財団では、教育工学や授業デザインを専門とする研究者と共同で、独自の情報モラル教育教材の開発を行い、ウェブサイトで公開している。
- Twitter は、公式アカウントやヘルプセンターページでの情報提供を実施している。
「研究開発の推進」関係(9.関係)
Facebook・Google・Twitter はそれぞれグローバルな取組としてディープフェイク対策のための研究開発が行われている。他方、ヤフー・LINE ではディープフェイク対策の研究開発は行われていない。
各社の具体的な取組は以下のとおり。
- Facebook は、2019 年9 月に100 万ドルの助成金により「Deep Fake Detection Challenge」を立ち上げ、ディープフェイクを検出するための研究やオープンソースツール開発を支援している。
- Google は、2019 年、高性能なフェイクオーディオ検出器を開発するための国際的な取組を支援するため、合成された音声に関するデータセットの公開を発表した。また、Jigsaw と共同で、Google が作成したビジュアルディープフェイクの大規模なデータセットを発表した。
- Twitter は、Adobe、ニューヨークタイムズと協力し、ディープフェイク対策に関して、デジタルコンテンツの信頼性確保を目的とした業界標準開発のためのイニシアティブを発表した。
3 海外動向
(1) 欧州連合(EU)
欧州委員会は、EU 全域でより強靭な民主主義を構築することを目的に、2020 年12 月に欧州民主主義行動計画(EDAP)を公表した。EDAP の内容は、①自由で公正な選挙の促進、②メディアの自由の強化、③偽情報への対抗措置の3つの柱により構成される。
偽情報への対抗措置に関しては、
- 偽情報の発信者に対するコストを科すための取組
- プラットフォーム事業者が署名した「the Code of Practice on Disinformation(偽情報に関する行動規範)」の見直し、co-regulatory framework(共同規制)化
- 上記に伴い、オンラインプラットフォーマーに向けて、「行動規範を強化するためのガイダンス(guidance to enhance the Code of Practice)」を発行(2021 年春)。その後、EU は新たな行動規範の実施状況をモニタリング
- EU 内外の偽情報へのメディア・リテラシー向上プロジェクトへ支援と資金提供
等の取組について記載されている。
プラットフォームの偽情報への取組は、自主的な取組である「偽情報に関する行動規範」に加え、前述のDigital Services Act(DSA)が加わり、2 段構造となる。EDAP はDSA を補完するものであり、DSA に示された措置をEDAP において具体化したものとされている。
EDAP の3 つの柱のうち、「自由で公正な選挙の促進」、「偽情報への対抗措置」がDSA と関連している。広告に関して、DSA ではすべての広告についての透明性規律等が規定されているが、EDAP では、政治広告について、政治的文脈におけるスポンサー付コンテンツの分野における透明性の向上を確保するための法律について提案されている。