報告書
~ポストコロナを見据えた新たな時代におけるデジタル活用に向けて~
令和3年6 月
「ポストコロナ」時代におけるデジタル活用に関する懇談会
Table of Contents
はじめに
2020(令和 年初頭以降 、 世界規模での新型コロナウイルス感染症COVID 19 )の拡大に伴い人々の行動が制約される中、テレワーク、オンライン学習 、オンライン診療等、 非接触・非対面 での生活様式を可能とするデジタル活用の重要性が一層増大している。 2021 (令和 年 6 月時点においても感染症の拡大は続いており、引き続き対策を講じることが急務であるとともに、今後も類似の感染症や大規模災害等の不測の事態が発生することに備えて、デジタル活用を推進することが我が国における優先課題となっている。
一方、我が国は光ファイバや携帯電話等の通信 インフラについては世界最高水準にあるものの、 企業 や 行政 等におけるデジタル活用の面では欧米やアジアの諸外国に比べて大きく遅れを取り、企業等の生産性が低位に とど まる 一因とされてきた。今後はリモート化の進展により 便利で 効率的な生活を実現するとともに、様々 なデータの集積・活用を通じた デジタルトランスフォ ー メーション( DX により 多様な価値を生み出し、 国民一人ひとりの幸福な生活の実現や経済回復の原動力に資することが重要である。
また
、 新型コロナウイルス感染症の影響下 の経済において、 非接触・非対面型のサービスを提供するデジタル企業の存在感はさらに高まっている。 特に近年では、 IoT 、ビッグデータ、 AI 等の技術の高度化とデータの多様化・大容量化による DX の進展 により 、 GAFA をはじめとする 海外の デジタル企業がグローバル市場における存在感を高めている 。 一方 、我が国のデジタル企業はハード・ソフト両面においてグローバル市場でのプレゼンスが低下し、国際競争力の後退が顕著となってきている。 また 、様々な領域における経済安全保障が重要な 課題となる中、デジタル機器・サービスのサプライチェーンリスクに対応する観点からも、我が国のデジタル企業の競争力回復が求められる。
以上の状況を踏まえ、今後の我が国のデジタル活用に関し、新たな日常の確立と経済再生・地域活性化の実現の観点から、中長期的な展望を視野に入れつつ 検討 を行うため、 2020 (令和 年 10 月 から 「「ポストコロナ」時代に おけるデジタル活用に関する懇談会」を 開催し た 。 検討に当たっては、 日常生活やビジネスシーンにおけるデジタルサービスの活用に係る問題点・原因・改善策等 について提案募集を行うとともに、 行政 、事業者・事業者団体、一般消費者団体や有識者から幅広くヒアリングを行い、議論を深めてきた。 その結果、 4回にわたる本懇談会及び 10 回にわたる本懇談会ワーキンググループを踏まえ、今般、報告書を 取り まとめた ところである 。
本報告書では、第1 章で、 新型コロナウイルス感染症拡大の影響による社会の変化とデジタル活用のニーズの高まりや、その影響を踏まえたデジタル政策の方向性について整理・考察した。また、 第 2 章では、 関係する主体( 一般利用者 、 企業 や 行政 等のデジタル技術・サービスのユーザ、 デジタル企業 )が実施するべき取組 に着目した今後 の デジタル政策の 方向性 を提示した。
本報告書の内容を踏まえ、関係事業者・団体及び総務省において、適切な取組が迅速に行われることを期待する。
第1章 検討の背景と現状
1.1 新型コロナウイルス感染症拡大の影響による社会の変化と デジタル活用
2020
(令和 年初頭以降の世界規模での新型コロナウイルス感染症 (以下「コロナ」という。) の拡大 に 伴い、感染症対策として他人との身体的接触や不要不急の外出を控えることが推奨されるなど人々の行動が制約される中、 非接触・非対面 での生活様式を可能とするデジタルサービスの利用が様々な分野で急速に 拡大している。 例えば、多くの事業者が国の要請に応じてテレワークを導入したことや、多くの学校がオンラインでの授業を提供したことから、 コロナを契機にこれらの デジタル サービスを利用し始めたユーザが多いことが判明している。
一方、ウェブ 会議ツールやキャッシュレス決済など従前から存在していた デジタル サービスが広く普及 するだけではなく 、企業が能動的にビジネスモデルを変化させることで利用が拡大したサービスもある。産業でみると、医療、ヘルスケア、 学習 、人材、 エンターテイメント 、コミュニケーション、小売り分野 等でそのような事例が確認され、また、分野横断的にみると、プラットフォームを利用して迅速にデジタル化や新規の販路開拓を実現したり、事業者が相互に連携してサプライチェーンを効率化したり、コミュニケーションツールを活用してユーザ 体験 を向上したりするようなデジタルサービスが広がりつつある。
今後、コロナ の影響が長引き 、また、人々のデジタル活用による行動変容が不可逆的なものとの見方もある中、 これらの デジタルサービス が 持続的 に活用されるためには、 利用者のリテラシーの向上、デジタルサービス自体の利便性の向上、 デジタル サービスを 支える情報通信インフラの充実 など が必要となる。
以上の状況を踏まえ、コロナ を機に広まったデジタル活用を三密の解消のためだけに とど め ることなく、今後のデジタル活用により目指すべき社会像に向けての検討を深めるため、本懇談会においては、一般利用者を代表する団体や、デジタル技術 ・サービス を 開発・提供する 事業者やそのユーザ企業などに対しヒアリングを実施し、デジタル活用に関する一般利用者の意見、地域や企業における DX に関する意見及び インフラ などの 情報通信環境 に関する意見などを聴取した。以下、次節において、ヒアリング及び議論を通じて浮き彫りとなった我が国のデジタル活用における問題を踏まえ、今後のデジタル政策の基本的な方向性を整理する。
1.2 新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえたデジタル政策の方向性
2020(令和2)年秋からの「デジタル社会形成基本法」制定に向けた検討では、デジタル化を「目的」ではなく「手段」として位置づけ、デジタル化によって多様な国民がニーズに合ったサービスを選択でき、国民一人ひとりの幸福に資する「誰一人取り残さない」、「人に優しいデジタル化」を進めることとされている。
本懇談会においては、デジタル社会形成に向けた目的を共有しつつ、手段たるデジタル化についての現状の課題を認識した上で、今後の政策の方向性として、デジタル社会の構成員である主体を、① 企業や 行政等からデジタルサービスを受け る一般利用者、②デジタル技術を導入・活用する 企業 や 行政 等の組織、③高度・安全なデジタル技術・インフラを開発・提供・維持するデジタル企業 の3つに大別した上で、それぞれが取り組むべき方向性を検討してきた。本懇談会におけるヒアリング及び議論を踏まえた、今後のデジタル政策の基本的な方向性は、以下のとおりである。
(1)若年層から高齢者まで全ての国民利用者によるデジタル活用(受容面)
デジタル社会の実現は、全ての国民利用者がその利益を享受できることが前提となる。そのためには、年齢、障 害 の有無、所得の多寡、居住地域、デジタル機器・サービスに対する習熟度や親しみの程度など、国民の多様性を十分に理解し、その多様性から生じる課題に対応することが必要である。
一方で、コロナ の拡大に伴い、非接触・非対面での生活を実現するために半ば強制的にデジタルサービスの活用が求められる状況で、例えば高齢者にとってはデジタル端末の操作が分からない、利用に不安がある、用語が難しいといった問題が、ビジネス利用者や学生にとってはオンラインでのコミュニケーションが困難、オン・オフの意識の切替えが困難、デジタルサービスは使いこなせるが自宅がリモートでの仕 事・学習環境に適していないといった様々な問題が生じており、デジタル技術・サービスが国民の多様性に対応できていないという課題が顕在化した。
今後、誰もが参画でき、個々の能力を発揮できる包摂性・多様性のあるデジタル社会を形成するためには、信頼性が高く有用な情報が流通する安心・安全な情報環境や利用者自身による情報リテラシーの向上、全ての国民利用者が必要に応じたデジタル技術・サービスを活用できるための支援の仕組みの構築などを通じて、若年層から高齢 者 まで全ての国民利用者によるデジタル活用の浸透を実現することが必要である。
(2)企業 ・行政 等におけるデジタル技術の導入(需要面)
全ての国民利用者によるデジタル活用を進めるためには、各利用者がその恩恵を感じて能動的にサービスを利用するようになる必要がある。そのためには、サービスを提供する側の企業 や行政 等においても、利用者のニーズに対応したデジタル活用を進める必要がある。 また、その際には、利用者に デジタルに対する 抵抗感を 抱かせ ないインターフェイスが望ましい。
一方で、我が国企業のデジタル活用は、米国や中国などのDX をリードする海外企業に比べて遅れを取っていることや、その目的が効率化に偏重していることなどが課題として指摘されている。また、 行政 においても、オンライン行政サービスの利用方法が複雑であることや、利用できるサービスの種類が少ないことなどが指摘されており、多様なニーズに対応するサービスの提供が課題となっている。
こうした課題に対応するには、企業や行政等においても、 データの単なるデジタル化や、業務プロセスのデジタル化 により効率化を追求するだけではなく、 利用者に対して新たな価値を提供する という目標を設定してDX を進める必要がある。そのためには、 組織の目標とデジタル活用の関係を理解した上で 新たな 価値 の 創出 に向けて、そ の源泉となる 企業や 行政自身が保有するリアルデータの活用や、組織を超えたデータの連携・活用、デジタル活用による課題解決を可能とするような「デジタルコンピテンシー」を有する人材の確保、これらを実現するための組織能力の向上等が必要である。
(3)デジタル活用を支える情報通信基盤の充実と国際競争力の強化 (供給面)
コロナの影響により、 オンライン での活動が増加している ことから、 サイバー空間とフィジカル空間をつなぐ役割を果たす ための インターネットに接続する環境 の重要性は、以前にも増して高まっている。
一方で 、 情報通信基盤としての光ファイバの整備は全国的な普及 が進んで いるものの、利用者の少ない 地方部で の インフラの 維持 や、 IoT 等の活用による 産業利用 の可能性がある場所へのエリア展開、 通信トラヒックの混雑緩和 など の 課題が 未だ 残っている。また、 様々な領域における経済安全保障 や海外の巨大デジタル企業への富の集中 が重要な課題となる中、サプライチェーンリスクへの対応や我が国のデジタル企業の競争力強化が急務となっている。
これらの 課題に対応するため 、 デジタル 企業や 関係する 研究機関 等 は 、全ての利用者や組織の デジタル活用を支える とともに 、 新たな需要を作り出し、 我が国の経済再生 や 国際競争力 の 強化に努める ことが 必要である 。
以上のように、デジタル活用による社会課題の解決と経済再生の実現を図るためには、受容面・需要面・供給面に着目しつつ、①国民へのデジタル活用浸透に向けた支援強化、② 企業・行政等 のデジタル変革の推進、③安心・安全で信頼できるサイバー空間の確保、④高度かつ強靱な情報通信環境の構築、⑤最先端デジタル技術への戦略的投資の推進とグローバル連携の強化に一体的に取り組み、社会全体の DX を進めることが重要である (図 。次章においては、これらをより具体化し、今後講ずべき取組 を 整理する。
第2章 今後講ずべき取組
2.1 国民へのデジタル活用浸透に向けた支援強化
(1)課題・背景
我が国の国民・社会全体がデジタルの恩恵を受けるためには、企業や 行政等 がデジタル技術・サービスを提供するだけでは不十分であり、利用者自身のリテラシーを向上させることや、ユーザフレンドリーなデジタル環境を整備することによって、社会全体のデジタル活用をより一層促進していくことが重要である。
そのためには、特にデジタル活用に不安のある高齢者や障害 者などへの対応について、 企業 や 行政 等と連携し、携帯ショップや郵便局など既存のリソースを効果的に活用しつつ、助言・相談の場を求める利用者に十分な支援が届けられるような社会全体での取組が求められる。その際、 利用者に必要な支援に係るデジタルスキルについて適切な評価方法を確立することや、 個人の属性にのみ着目するのではなく、誰もが年齢を重ねることを考慮し、ライフステージのそれぞれの段階において必要な支援が行われること など が重要である。
また、年齢や障害 によるデジタル・ディバイドが解消され、誰もがデジタル の恩恵を享受できる情報バリアフリー環境 が 実現 するには、高齢者等だけではなく若年層に対しても、デジタル技術を使いこなし新たな価値を創出していくため 、 地域活動や学校教育と連動したデジタルリテラシー教育の機会を確保していく ことが必要である。その際、若年層のデジタル能力を向上させることが、高齢者等 に対する デジタル支援の担い手や 企業・行政 等に必要となるデジタル人材の輩出にも資することに留意するべきである。
さらに、あらゆる層の 国民 がデジタルリテラシーを身につけ る過程で 、利用者 として の要望を 企業や行政等に対し 的確に伝えること ができれば 、多様な利用者 の 視点 ・ニーズに合わせたサービス の提供が可能となる。また、 デジタルサービスを評価・選別する 利用者の 能力が向上すれば、 サービスを提供する側の競争も活性化され、更に質の高いサービス等が提供されるという 好 循環も構築しうる。
加えて、デジタル活用の進展に伴い、インターネット上の違法・有害情報に接する機会が増大して いることから 、信頼性が高く有用な情報が流通する安心・安全な情報環境を整備するため、 偽情報等への対応も 進めることが適切である。
(2)取組の方向性
包括的なデジタル活用支援推進事業への取組
デジタル活用支援推進事業の全体構想と事業の実施計画を策定した上で、携帯ショップのスマホ教室や郵便局の空きスペースなど既存のリソースを効果的に活用しつつ、助言・相談の場を求める方々に十分な支援が届けられるよう周知・広報、標準教材等の作成、デジタル活用支援を実施する側の人材を確保するための人材育成、デジタル活用支援の実施ガイドラインの作成、 行政 との連携など、包括的な取組を進める ことが求められる 。
若年層向けリテラシー施策のオンライン化・情報共有
eネットキャラバンや地域 ICT クラブなど の 若年層向けデジタルリテラシー施策について、オンラインでの実施を可能にし、かつ、地域横断的にノウハウの共有やニーズ・シーズのマッチングを行うための環境整備を行う ことが 求められる 。
若年層から高齢者 へのデジタルリテラシー共有の仕組み構築
若年層向けリテラシー施策によって学んだ利用者が 、 地域の高齢者に対して デジタル活用について教える機会 を創設したり取組意欲を喚起したりすること が求められる。これにより 、学んだ内容の定着や実践を促進するとともに、地域におけるデジタル活用支援の担い手として育成する ことが可能となる 。
偽情報・誤情報に騙されないためのリテラシー向上支援
偽情報・誤情報については、メディアや NPO などによる ファクトチェックの取組 の推進 と合わせ、情報の受信者である利用者がそれらの情報に騙されないためのリテラシーを身につけるための対策が求められる 。
2.2 企業・行政等 のデジタル変革の推進
(1)課題・背景
デジタル活用が進展するためには、各利用者がその恩恵を感じて積極的に利用するようなサービス や多様 な利用者のリテラシー に 配慮したユーザフレンドリーな サービス を、 企業 や 行政 等が提供することが重要である。そのためには、これらの組織が、デジタル化による生産性向上を追求するのみならず、 あらゆる分野において デジタル技術を活用して新たな価値を創出する DX を推進する必要がある 。
新たな価値を創出するDX の源泉となるのは、それぞれの組織の活動に伴い取得・蓄積されるデータであり、各組織内や組織間での連携によりイノベーションを起こすことができる環境作りが必要である。 行政組織においても、 政府の各府省 や自治体 など が 組織の壁を 超 えて 相互に 連携し 、我が国のデジタル改革を 先導的に 進めることが求められる。
一方、我が国ではDX を進めるに当たっての人材が ベンダー等の デジタル企業に偏在していることもあり、 企業や行政等 の多くは自らの DX 推進をデジタル企業に依存する傾向があるとの指摘もある。理想的には各 企業や行政組織 が 高度な デジタル人材を確保することが望ましいが、 現実的には中小企業や自治体まで そのような 人材が行き渡らない側面もある 。 そのため、 現場を持つ組織 では、働く人全てが各々の仕事やレベルに応じてデジタル活用 による課題解決を可能とする ような 「デジタルコンピテンシー」を 身につける 方策 など を講ずる とともに、高度なデジタル人材を有するデジタル企業と連携し、効果的かつ円滑にデジタル技術を実装・活用するための仕組みを構築する ことが必要となる。
また、来たるべき5 G 時代には、 超高速・多数同時接続・超低遅延といった 特性 を最大限活用 したソリューションが可能となることを見据え、 ユーザである 企業や行政等 とデジタル企業が連携して ベストプラクティス の共有を行うことができる仕組みを構築することも重要である。
さらに、様々な企業や行政等 において DX が進展すると、デジタル空間における各種データの流通が活性化することを見据え、 デジタル空間での安心・安全を保証する仕組みを それぞれの 組織 において 構築することが重要となる。そのため、データ連携や様々な取引を活性化させるために必要となる、セキュリティと利便性のバランスの取れた身元確認の普及促進方策も求められる。
加えて、企業や行政等 においても コロナ下 でテレワークが急速に普及しているが、今後とも多様な働き方を実現するためには、 それぞれの組織 による自発的なテレワーク継続のための「導入」を 超 えた「定着」に向けての息の長い取組が必要である。
(2)取組の方向性
データ連携を促進する取組
各組織が保有するデータの流通を促進し、新たな価値を創出するため分野横断的なデータ流通に取り組む必要があることから、例えば、パーソナルデータの流通・活用について、本人関与の下でデータ利活用を促進する仕組みとして、情報銀行や PHR (パーソナル・ヘルス・レコード)などのデータ連携を促進する取組の検討を深める ことが 必要で ある 。
企業・行政等におけるデジタル人材の確保
企業や行政等におけるデジタル人材の確保策、例えば求められる人材の専門的スキルを証明するための認定スキームや当該スキルの獲得・維持に必要な研修制度等の仕組み、必要な専門性を満たす人材をマッチングできる仕組み、 それぞれの組織 におけるデジタル人材の活用・位置付けの在り方等のベストプラクティスの共有などについて、具体的方策を検討するための場 が 必要である 。
ローカル 5Gの普及展開
様々な分野・場面におけるローカル5G の導入を推進していく観点から、官民間 の 行政情報の交換・連携や、全国的な普及啓発活動に加え、 制度に関する検討 など の普 及展開に向けた取組を行う ことが求められる 。
5Gソリューションの共有の仕組み構築
5G時代における企業DX の推進のため、ローカル5G等の開発実証を進めつつ、その成果等を含むソリューションを、企業や行政等が利用しやすい仕組みを構築することが求められる。
eKYC の安全・信頼性の確保及び eKYC 活用のユースケースの拡大
デジタル空間での安心・ 安全な民間の取引等において必要となる本人確認について、公的個人認証サービス( JPKI )の利用に加え、 本人確認手法の一つである eKYC(electronic Know Your Customer)を提供する事業者の安全・信頼性の確保の在り方等について、具体的方策を検討するための場 が必要である。また 、 eKYC を活用したユースケースについて金融及び携帯電話サービス以外の分野等への拡大を図ることが求められる 。
良質なテレワーク定着に向け ての 施策の見直し と新たな 取組 の 推進
主として出勤抑制の手段として一時的に普及したテレワークについては、既存のデジタルツールを積極的に活用することにより様々な課題を解決できることや、生産性の向上や DX の推進、有能な人材の確保など、企業等の経営層に とっても様々な効果をもたらし得ることなどが期待できることから、「「ポストコロナ」時代におけるテレワークの在り方検討タスクフォース」の場で、 良質なテレワークの定着に向けて施策を見直した上で、新たな取組を推進する 。
2.3 安心・安全で信頼できるサイバー空間の確保
(1)課題・背景
デジタル活用の増加に伴い、不正アクセスやフィッシング、テレワーク環境を狙ったサイバー攻撃が複雑化・巧妙化しつつ増加しており、実際にサイバー攻撃を受けた民間企業等において情報漏えい等の被害が発生するなど、サイバー空間におけるリスクは高まっている。こうした中、送信元のなりすましやデータ改ざん等を防止し、利用者が安心・安全で信頼できるサイバー空間を活用することができるよう、サイバーセキュリティの確保が引き続き重要となっている。
また、社会全体のデジタル化が進展する中 、 サイバー攻撃 が電力や水道などの社会インフラや、 重要な個人情報を有する医療機関や教育機関 などのあらゆる分野に対して行われている。特に、 国民生活や経済活動に必要な多くのやりとりが電気通信事業者 の 設置しているネットワークを通じて行われる中、 これら のネットワークに対して大規模なサイバー攻撃が 行われると 、大規模な被害や社会的な影響 が生じる リスクが高まっている。こうした状況に対応するため、サイバーセキュリティの確保に必要な人材を確保することも急務となっている。
(2)取組の方向性
各種のセキュリティガイドライン等の普及促進
テレワークやクラウド活用の増加、IoT の普及等に対応した総合的なセキュリティ確保の取組 が 求められる 。特にテレワークの急速な普及を踏まえて、 テレワーク時のセキュリティに関するガイドラインの普及を促進する べきである 。
サイバーセキュリティ情報の収集基盤及び人材育成基盤の構築
サイバーセキュリティ対処能力を向上させるため、サイバーセキュリティに係る情報を国内で収集・蓄積・分析・提供するための基盤や、それを活用したサイバーセキュリティ人材の育成基盤を構築し、産学の結節点として開放する とともに 、そうした人材を訓練する 場やプログラムを構築する こと が 求められる 。
ネットワークの安全・信頼性確保のための電気通信事業者による積極的なセキュリティ対策の推進
電気通信事業者におけるサイバーセキュリティ対策及びデータの取扱いに係るガバナンスの強化など、 電気通信事業者のネットワークへのサイバー攻撃のリスクや脆弱性に対して適切かつ積極的な対策を講じることにより、ネットワークの安全・信頼性を確保し、ユーザが安心してデジタル サービス を利用 できる環境を確保することが求められる 。
2.4 高度かつ強靱な情報通信環境の構築
(1)課題・背景
デジタル活用の増加に伴い、インターネットにつながる環境の重要性が増す中、光ファイバ網や5G 等のネットワークは、 国民生活や 経済社会を支える極めて重要な 基幹 インフラ となっている 。 国民、企業、行政等あらゆるユーザのデジタル活用を促進するためには、 いかなる状況・場所でも、誰もが必要なときにインターネットを利用できる環境を構築することが必要 となる 。
一方で、ブロードバンドの 整備 状況 の地域格差やインターネットの混雑、トラヒックの都市部への集中等のコネクティビティの確保に係る課題 が、コロナ下 におけるデジタル活用の増加に伴い顕在化している。今後はブロードバンドインフラを維持・更新する仕組みや、インターネットを安定した品質・速度で使えるためのボトルネックの解消 に向けた 取組 が必要となる 。また、デジタル社会の実現のためには、その中枢基盤として、サイバー空間とフィジカル空間を繋ぐ神経網である通信サービス・ネットワークが安心・安全で信頼され、継続的・安定的かつ確実・円滑に提供されることが不可欠であり、 大規模災害等の発生やサイバーセキュリティ上のリスク等に備えた強靱な情報通信環境の構築も求められる 。 さらに 、 我が国を取り巻く国際的な状況にも着目し、サプライチェーンリスクへの対応や 、海底ケーブル・データセンター等を含めた安全で信頼性のあるデジタルインフラの整備、我が国のデジタル企業の国際競争力強化にも留意する必要がある。
また、経済活動の維持・発展に必要な社会全体のデジタル変革が今後一層進展するにつれて、5 G や ローカル5 G 、 IoT 等の更なる活用や、新たな電波利用システムの出現が見込まれる。 DX 時代に向けて電波利用分野や電波関連産業の規模は拡大を続けており、それに伴う周波数ニーズに対応する必要がある。
これらに加え、 5G等の新たなインフラが、新しい需要を生み出す側面にも留意し、デジタル企業は情報通信基盤に継続して投資を行い、新たな価値需要を喚起することも重要である。その際、新たな情報通信インフラの整備・開発については、デジタル企業のみならず、ユーザである企業や行政等も含めて産学官一体で取り組む視点が重要である。また 、地域の自由な発想に基づく事業に対し、ローカル5Gの柔軟な利用が可能となる環境整備や実証等が重要であるとの意見もあることから、デジタル企業はユーザである企業や行政等と連携してローカル5Gの普及促進にも取り組むことが求められる 。
(2)取組の方向性
ブロードバンドの整備・維持
希望する全ての地域でデジタル社会の最重要基盤となるブロードバンドが利用できるよう、早期の全国展開に向けた取組を進めるとともに、ブロードバンドの ユニバーサルサービス化に向けた 検討の 取りまとめを行い、所要の措置を講ずる ことが求められる 。 また、ブロードバンド基盤の担い手に関して「公」から「民」への移行の推進に取り組むこと も 求められる。
通信トラヒックの混雑緩和
「新たな日常」の定着により急増するインターネットトラヒックに対応するため、大規模なイベントトラヒックに関する配信情報を事業者間で事前共有する仕組みの構築等、 通信事業者とコンテンツ 事業者間の連携強化に取り組む ことが 求められる 。
IXの地域分散・データセンターの最適配置
インターネットのネットワーク構造の非効率の解消や都市部の災害時を想定した耐災害性強化のため、東京・大阪に集中する IX (トラヒックの交換拠点)の地域分散を図るとともに、地政学の視点を踏まえたデータセンターの国内立地・最適配置を促進する ことが求められる 。
安心・安全で信頼できる通信サービス・ネットワークの確保
自然災害やサイバー攻撃等のリスクの深刻化、情報通信ネットワークの産業・社会基盤化及びその構築・管理運用の高度化・マルチステークホルダー化の進展等を踏まえ、通信事故の調査機能の強化等、事故報告・検証制度の見直し や、電気通信事業者におけるサイバーセキュリティ対策及びデータの取扱いに係るガバナンスの強化 に取り組むことが求められる 。
DX 時代の周波数帯域の確保
有限希少な電波の有効利用に向けて、国際的な動向やニーズも踏まえながら、高周波数帯の開拓やダイ ナミック周波数共用の推進等を通じて必要な周波数帯域の確保に取り組むことが求められる。
新たな需要を喚起する5Gの国内整備の推進
超高速・多数同時接続・超低遅延を実現する5Gが新たな需要を喚起することを見据え、5 G 投資促進税制等により 安心 ・ 安全 でオープンな5 G の国内整備を推進する ことが求められる 。
2.5 最先端デジタル技術への戦略的投資の推進とグローバル連携の強化
(1)課題・背景
今般のコロナのまん延に限らず、今後もグローバル規模での感染症や自然災害、サプライチェーンリスクなど予測困難な事象が発生し、国民生活への悪影響や経済停滞等が発生するおそれがあることから、これらに備えた取組を行う必要 が ある。そのためには、非常時でも平常時と変わらずに生活を送ることができるような、非接触・遠隔・超臨場感のような三密を回避しつつ社会経済活動を持続できる様々な手法を開発 する 必要がある。
また、今後ともデジタル活用が進展するとともに、それを支える5G 等の高度かつ複雑なインフラが普及すると、通信トラヒック の増大やそれに伴う消費電力が増大するとともに、デジタル空間での取引等の機微な情報通信が増加することも予想される。こうした将来を見据えて、最先端のデジタル技術に対して戦略的に投資を行うことが重要である。その際、限られたリソースを最大限活用するため、グローバル連携を推進することも重要である。
一方、我が国の社会経済活動を成長軌道に乗せるためには、我が国のデジタル企業の国際競争力を高め、特に成長率の高いアジア圏を中心に、技術やサービスの海外展開を推進することが重要である。また、世界的なデータ流通を促進していくため には、誰もがそれを自由に使いこなし、信頼できる形で行われることが求められるため、グローバルなルール形成や安全で信頼性の高いデジタルインフラネットワーク構築のための連携強化が求められている。
(2)取組の方向性
基盤技術等の研究開発・投資及び戦略的な標準化・知的財産権の取得
大量の通信トラヒックやインターネット上での取引等の機微な情報通信を支える光ネットワークの高速・大容量化に関する研究開発、Beyond 5G 実現に向けたハード・ソフト含む多様な技術、その研究開発に必要となるテストベッド、より安全なサイバー空間を実現する基盤技術等の研究開発・投資とともに、それらの戦略的な標準化や知的財産権の取得等の取組を行う ことが求められる 。
また、仮想化、ソフトウェア化の進展に伴い複雑化する通信ネットワーク環境において、障害発生時に原因特定を容易にする監視技術や障害を自動復旧する技術の研究開発等の取組を行う ことも求められる 。
最先端デジタル技術の開発・展開
Society5.0の実現に向けて Beyond 5G を中心とした情 報通信ネットワーク基盤の構築 の ため、 Beyon d 5 G推進戦略を踏まえ、国際共同研究を拡充するなど国際連携のもとで産学官が一体となった総合的な取組を推進する ことが 求められる 。
5Gインフラ整備 の成果を活用した 国際展開
5G投資促進税制等により整備された 安心 ・ 安全 でオープンな5Gの成果を 、 オープン化や仮想化に係る国際的な動向や関係国間の連携を踏まえつつ、我が国企業の5 G 設備の国際展開の取組に活用していく ことが求められる 。
デジタルインフラ・ソリューションの海外展開
官民の連携体制や官民ファンドなどデジタル技術の海外展開を推進する 枠組みを 活用し、5 G 、光海底ケーブルを含む安全で信頼性の高いデジタルインフラや、医療 ICT 、農業 ICT といったデジタルソリューションの海外展開に向け た 取組 が 求められる 。
グローバル連携を通じたデジタル環境整備
日米首脳共同声明を踏まえ、第三国を含むデジタル分野の日米協力を前提とした、パートナーシップを 確立し 、安全な連結性及び活力あるデジタル経済の促進に向け た 取組 が 求められる 。また、グローバルな情報流通の基盤となる海底ケーブルについて、我が国の国際的なデータ流通のハブとしての機 能の維持・強化の観点から、経済安全保障上の懸念を把握・共有するための枠組み・体制の検討及び構築を推進する こと も 求められる 。
データ流通に関する 国際的議論のリード
「自由で開かれたひとつのインターネット空間」を維持するため、有志国を中心とした国際連携の強化及びインターネット・ガバナンスの強化に関する国際的検討 への 取組 が 求められる 。また、「 DFFT (信頼性のある自由なデータ流通)」の考えに基づき、データ流通、電子商取引を中心とした、デジタル経済に関する国際的なルール作りを、国際機関や産業界等、多様なステークホルダーを交え、加速させていくこと も 求められる。
おわりに
新型コロナウイルス感染症を契機として、なかなか進まなかった社会全体のデジタル活用は、グローバル規模で一気に数年分加速したと言われている。これからの社会課題の解決と経済再生の実現に向けて、デジタル活用の流れを止めないためには、国民利用者、 企業・ 行政等、デジタル企業のそれぞれが、現状の課題を把握し、各主体がそれぞれの目的に応じた取組を推進していく必要がある。
また、デジタル活用 が あらゆる分野で、 単独の省庁の所掌を超え て 分野横断的 に も 進展する中で 、 2021 (令和 年 9 月には内閣に新たにデジタル庁が設置される予定であり、デジタル変革 に対する行政へ の期待は高まっている。総務省には、情報通信を所掌する立場としてデジタル庁をはじめとする関係府省とも連携しつつ、従来の縦割りを排し、政府一体となって我が国のデジタル活用の浸透に向けて取組を進め て行く とともに、地 方行政を所掌する立場としても自治体と相互に連携しつつ、デジタル改革を主導していくことが望まれる。その際、第 2 章でまとめた今後講ずべき取組について、迅速かつ継続的に検討を深めていくことを強く求めたい。