ビジネス全般

長寿科学政策研究事業(令和4年度厚生労働科学研究)

2021年8月23日

1.研究事業の目的・目標

【背景】

わが国は、2040 年を見据え、増加し続ける高齢者人口とともに労働生産人口が急減する局面を迎えている。今後も続く「高齢化の進展」に対し、地域包括ケアシステムの深化・推進に取り組みつつ、2025 年以降の「現役世代人口の急減」という新たな重要課題への対応を求められている。労働力の制約が強まる中での医療・介護サービスの確保は喫緊の課題であり、かつ介護保険制度の持続可能性を高めるため、科学的根拠に基づいた政策的な取組は必須である。また、令和2年度からは国民健康保険法及び高齢者の医療の確保に関する法律並びに介護保険法改正による高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に加え、医療保険及び介護保険レセプトの被保険者番号による連結データ提供を開始している。本研究事業は、「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告」に示された今後の課題において、特に①地域包括ケアシステムの推進 及び②自立支援・重度化防止の取組の推進のため、令和3年度介護報酬改定の影響を把握し、令和6年度介護報酬改定に向けたエビデンスの創出のために研究を推進していく。

【事業目標】

  1. 高齢者に特有の疾患、病態(フレイル、サルコペニア等)に着目し高齢者の生活の質を維持・向上、ひいては健康寿命延伸にも寄与する研究成果を創出する。
  2. 介護予防や重度化防止に貢献する標準的手法や限られた資源の中で効果的・効率的にサービス提供できる体制・手法等を開発する。
  3. 高齢者に提供される質の高い医療・介護サービスが担保されるよう研究を継続するとともに、介護報酬改定の検討資料として活用する。

【研究のスコープ】

  • 介護予防
    市町村による効果的・効率的な地域支援事業(介護予防・日常生活支援総合事業、包括的支援事業、任意事業)の実施支援のための科学的根拠の創出及び実効性のある方法論の提案(歯科、栄養、リハビリテーション等を含む)。
  • 在宅医療・介護連携
    地域支援事業の一つである包括的支援事業において、地域包括ケアを維持・深化させるための医療・介護分野の実効性のある連携方策の提案及び実施主体である自治体事業の評価指標の開発。
  • 高齢者に対する質の高い医療・介護サービスの確保
    高齢者の生活の質の維持・向上のため、介護保険制度下の各サービス(各専門職種が提供する訪問系サービスや介護保険施設でのケア等)における科学的根拠の創出。

【期待されるアウトプット】

科学的根拠に立脚した高齢者の医療・介護のための都道府県・市町村・介護事業所・従事者が活用可能な介護予防や重度化防止に係るガイドラインやマニュアルといった成果のほか、介護保険制度改正及び令和6年度介護報酬改定等の検討材料に資する事業所単位あるいは利用者単位での有効なケアの在り方等のエビデンスを創出する。

【期待されるアウトカム】

「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告」に示された今後の課題のうち、改定検証等で検証予定である「感染症や災害への対応力強化」、「介護人材の確保・介護現場の革新」、「制度の安定性・持続可能性の確保、その他」以外の①地域包括ケアシステムの推進②自立支援・重度化防止の取組の推進が図られる。

2.これまでの研究成果の概要

  • 質の高い医療・介護サービスを切れ目なく提供できるよう自治体が取り組む医療介護連携推進事業の支援のため、在宅医療・介護連携推進事業の事業展開の方法や効果について、全国一律で評価が行えるよう評価指標の開発し(令和元年度終了)、医療介護連携推進事業の制度改正の基礎資料として活用した。
  • 安全なサービス提供体制の確保へ向け、昨今の自然災害等による介護保険施設等の被災状況を鑑み、被害状況が早期に把握できる情報収集システムの構築を進め(平成 30 年度終了)、実運用へ向けた研究(令和2年度終了)により運用上の諸課題を解決した ICT システムを開発した。
  • 市町村が、科学的根拠に基づき効果的・効率的に介護予防事業を実施できるよう支援するため、住民を主体とした介護予防システムの構築(平成 30 年度終了)を図り、当該研究成果を介護予防マニュアル改訂版(令和2年度終了)に活用した。

3.令和4年度に継続課題として優先的に推進するもの

なし

4.令和4年度に新規研究課題として優先的に推進するもの

① 地域包括ケアシステムの推進

NDB・介護 DB 連結データを活用した介護領域のエビデンスの創出のための研究

令和2年度より、NDB・介護 DB 連結データの第三者提供が可能となり、連結データを活用した公益性の高い研究が増えることを期待している。医療・介護連結データを活用した先行研究を検索、検証し、全国データである NDB・介護 DB 連結データで行うべき研究を実施し、NDB・介護 DB 連結データを活用したエビデンスの創出を行う。

老年病の観点からのマルチモビディティを抱える高齢者に対する包括的支援体制構築のための研究

高齢者は多疾患併存(マルチモビディティ)を抱えるため、老年病の観点からの包括的な支援体制が必要となる。地域におけるマルチモビディティを有する高齢者の実態と医療介護ニーズを把握する。これに基づいてモデル事業の実施(医療介護連携、介護予防等の先進的取組)を実施し、最適と考えられる支援体制の提言を行う。

在宅医療・介護連携の推進のための研究

令和3年4月から始まる第8期介護保健事業計画において在宅医療・介護連携推進事業の推進の観点から市町村や都道府県の果たすべき役割等が明確化された。医療レセプト及び介護レセプトを活用し、介護保険及び医療保険がともに請求されているレセプトを抽出し、在宅医療・介護連携に資する評価項目の算定状況を分析する。さらに在宅医療・介護連携推進事業のアンケート結果等と比較検証を行い、事業の取組状況と分析結果との関係を検証するとともに、広域連携に影響を与える要素等についても検討する。

② 自立支援・重度化防止の取組の推進

LIFE を用いた介護領域における新たな研究デザインの創出のための研究

科学的介護情報システム(LIFE)が令和3年度より稼働し、高齢者の状態や介入等に係る大規模なデータベースが構築され、令和4年度からは本データの第三者提供が開始される。先行研究の結果との比較・考察を行い、LIFE データの活用可能性を検討することに加えて、LIFEを用いてエビデンスを創出するための新たな研究デザインを明らかにする。

リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の協働に係る科学的エビデンスに基づくマニュアル整備に係る研究

令和3年度介護報酬改定においてはリハビリテーション・機能訓練、栄養、口腔の取組を一体的に運用し、自立支援・重度化防止を効果的にすすめる観点からの見直しが実施されている。生活期リハビリテーション分野におけるリハビリテーション、栄養管理、口腔管理の協働に係わるシステマティックレビュー及びメタ解析を実施し、ガイドライン及び介護従事者でも活用可能な平易なマニュアルを作成する。

地域リハビリテーションの効果的な提供に資する指標開発研究

地域リハビリテーション支援体制の整備状況には地域差が大きい現状がある。地域住民の介護予防等の取組に効率的・効果的に貢献する地域リハビリテーション支援体制についての指標及び指標に基づく情報公表システムの構築と検証が必要である。効率的・効果的な地域リハビリテーション支援体制を検証するともに、アンケート調査・ヒアリング調査による検証結果をもとに指標及び情報公表システムを構築する。

薬物療法の適正化と薬学的視点を踏まえた自立支援・重度化防止推進のための研究

ポリファーマシー対策を行う際には多剤服用や重複投与、服薬アドヒアランス低下等への介入のみならず、薬物有害事象や過少医療の回避等含めた薬物療法の適正化が重要である。国内外の既存研究及び先進事例の収集し、関係職種へのアンケート調査及びヒアリング調査を行うことで、訪問薬剤管理指導において、薬剤師が医師、ケアマネジャー及びその他関連職種に情報提供を行う際の様式案の作成(又は仕組みの提案)及び様式案(又は仕組み)に基づき介入研究を実施し効果検証を行う。

口腔機能の維持・向上のための介入方策の確立に向けた研究

歯科疾患が原因となっている摂食機能障害等に対する歯科治療については、一定程度治療方針が整理されてきているが、介護予防事業対象者のような軽度な場合、歯の形態回復等の補綴治療ではなく、舌・口唇・咽頭等の機能回復の効果検証が不十分なプログラムも提供されている。このため、対象者の摂食・嚥下機能の状態に合わせた効果的な介入方法を検証し、「口腔機能向上マニュアル」や「口腔機能低下症の基本的考え方」の補足を行う。耳鼻科と歯科の共同で研究を行うことにより、情報共有を行うとともに互いの領域の指針の見直しを適宜行う。

5.令和4年度の研究課題(継続及び新規)に期待される研究成果の政策等への活用又は実用化に向けた取組

「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告」に示された今後の課題において、特に

  • ①地域包括ケアシステムの推進
  • ②自立支援・重度化防止の取組の推進

の実現を目指し、

①について、令和2年度より第三者提供が実施可能となった NDB・介護 DB 連結解析を実施しつつ、医療介護連携やマルチモビヒティを有する高齢者に対して効率的なサービス提供についての調査結果・モデル事業及び提言を、地域包括ケアシステムの深化のための制度改正や介護報酬改定の議論の材料とする。

②について、科学的根拠に立脚した高齢医療・介護におけるガイドラインやマニュアルを創出し、高まる介護ニーズに対し質の高いサービス提供として応えられるよう横展開に活用していく。具体的には科学的介護に係るエビデンスの創出のため LIFE を用いた研究デザイン創出、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の協働のためのガイドライン作成、地域リハビリテーション支援体制構築のための指標と情報公表システムの作成、薬剤管理に係わる様式案の見直し、口腔管理に係わるマニュアルの見直し等を制度改正及び介護報酬改定の議論の材料とする。さらに、データベースに基づく科学的介護の実践のエビデンスを構築し、介護保険における各種制度や介護報酬の要件等の見直しや緩和に向けた検討材料として活用し、2025 年、2040年を見据えた介護サービス提供の基盤整備を行っていく。

参照

令和4年度厚生労働科学研究の概要

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