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1 序
(1)検討の経緯、政策討議の趣旨等
- 井上信治内閣府科学技術政策特命担当大臣(当時。以下、「井上大臣」という。)は、日本学術会議の改革に関し、「国民に期待される役割をしっかり果たすという観点から、日本学術会議とコミュニケーションを取りながら未来志向で検討を進めてきており、検討を今後さらに進めるためには、学術会議内で議論を閉じてしまうのではなく、産業界や学識経験者など様々な外部の視点を取り入れることが重要である」との認識を示し、その一環として、総合科学技術・イノベーション会議(以下、「CSTI」という。) 有識者議員に対し、日本学術会議の在り方についてCSTI有識者議員懇談会の場で議論を行うよう要請した。
- その際、井上大臣からは、CSTI有識者議員は、それぞれが経済界やアカデミアを代表するのみならず、CSTI有識者議員懇談会での様々な議論を通じて我が国の科学技術政策を取り巻く最新の状況や様々な政策ニーズについても熟知しており、幅広い観点からの議論への期待が示されるとともに、日本学術会議の在り方を考えることは、科学技術・イノベーション政策とアカデミアの在り方を考えることに他ならないのではないか、との考え方が示された。
- この要請を受け、「日本学術会議の在り方に関する政策討議」(以下、「政策討議」という。)を令和3年5月からほぼ月1回程度開催し、9回にわたり議論した。
- CSTIと日本学術会議は、CSTIの前身である総合科学技術会議の時代から、「車の両輪」として、我が国の科学技術・イノベーションを推進しており、科学技術・イノベーション基本計画(令和3年3月26日閣議決定)においても、CSTIと日本学術会議は「日本学術会議に求められる役割等に応じた新たな連携関係を構築する」と記述されている。CSTIとしては、科学者の意見を広く集約し、科学者の視点から中立的に政策提言を行う役割を担う日本学術会議が、自ら改革課題と考える諸点について進める取組の成果を期待しつつ、我が国全体の科学技術を俯瞰し、科学技術に関する政策形成を直接行う役割を担う立場から、日本学術会議からの説明や意見交換も参考にしながら、本政策討議において議論を行った。
- なお、本政策討議を開始するに当たって、以下の3点を確認した。(1)政策討議は日本学術会議の在り方に関する討議を行うものであることから、日本学術会議の任命問題は議論の対象としない。(2) 井上大臣は政治的判断をなすためにCSTI以外にも産業界やアカデミアの構成員などからヒアリングを行う。(3) 率直な意見交換を行うため、CSTI有識者議員のディスカッション部分は非公開とするとともに、議事内容の公表に当たっては、発言者名の部分は伏せて公表する。
(2)検討の必要性、とりまとめの視点
- 欧米諸国等多くの先進国には国を代表するアカデミーが存在し、政府等からの独立性を保ちながらも、その諮問を受けて、科学的な見地からの社会課題の捉え方や社会課題の解決に取り組む際の効果的なアプローチなどを提示している。我が国においては、「わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的」として設置された日本学術会議にも同様の役割が期待されている。
- 日本学術会議は、科学こそ真に日本を再建し世界人類の福祉に貢献するとの信念の下、昭和24年に設立され、南極地域観測事業の開始や共同利用研究所・研究機関の設立など我が国の科学技術の発展に貢献してきた。また、日本学術会議の会員が国際コミュニティに参加してネットワークを構築することを支援し、そのネットワークを通して我が国が世界の潮流を把握し、国際事業へ参画するとともに、世界の学術の発展や日本の学術の国際的プレゼンスへの貢献などに力を尽くしてきた。
- 気候変動や生物多様性の劣化、COVID-19の拡大とさらなるパンデミックのリスク、地政学的変化と世界秩序の再編など、世界全体が様々な問題に直面する中で、各国のアカデミーに求められるこのような使命は、近年ますます広範かつ複雑化している。国内に目を転じれば、少子高齢化、地域間格差の拡大、エネルギー問題への対処など社会課題が山積しつつある。各国のアカデミーには、SDGsの17の目標にも典型的にみられるように、現代社会が直面するこれらの諸問題に対し、政策立案者や社会に対する総合的、俯瞰的な学術的知見の提示が求められているのである。
- 日本学術会議の在り方については、これまで、昭和58年の法改正、中央省庁等改革基本法の規定に基づき、総合科学技術会議のもとに設けられた「日本学術会議の在り方に関する専門調査会」において審議が行われ、平成15年2月26日付総合科学技術会議の意見具申がなされた。平成16年の法改正はそれに基づいたものである。しかしながらそれは、会員の選考方法や会議の構成を改正するにとどまり、日本学術会議の果たすべき役割・機能について、とりわけ上記のような問題意識を明確に持って深く議論したものではなかったと言わざるをえない。
- 今般、本政策討議では、日本学術会議の在り方について、日本学術会議が設置された目的、趣旨などを十分踏まえつつ、日本学術会議に求められる役割・機能は何か、どのような部分をどのように改善・強化していくべきか、日本学術会議が本来発揮すべき役割・機能を果たし、国民に理解され信頼される存在で在り続けるためにリソースの制約や組織形態が支障となっていないか等の観点から議論と検討を行い、本とりまとめを行った。
- なお、井上大臣から要請を受けた際、「学術会議が国民に期待され、その役割をしっかり果たしていくための改革について議論が深まることを期待」するとともに、「それらを踏まえて最終的には政府としての方針を責任をもってしっかり示して」いくという政府のスタンスが表明された。
2 日本学術会議の科学的助言機能
(1) 必要性
- 主要国のアカデミーでは、気候変動、生物多様性等のグローバル社会が直面している地球規模の課題、AIやゲノム編集等の新興技術と社会との関係に関する課題といった、科学だけでは解決できない現代的な課題、科学や科学システム自体をどのように進展させるかといった大きな視点に立った課題、コロナ対応等の緊急に対応すべき課題等への学術界からの学術的知見とエビデンスに基づいた政策提言が頻繁になされている。
- 日本学術会議においても、気候変動、生物多様性、AI、ゲノム編集に関する提言はなされているものの、過去の日本学術会議の改革に係る意見具申等において、「日本学術会議は我が国の科学者コミュニティを代表する組織として、社会とのコミュニケーションを図りつつ、科学者の知見を集約し、長期的、総合的、国際的観点から行政や社会への提言を行うことが求められている。」、「提言に当たって、緊急的課題や、従来の学問領域を越えた新たな課題に機動的に対応し、時宜を得た提言がなされる必要がある」と記載されている事実を鑑みた時、日本学術会議にも同様の科学的助言機能の強化が強く求められるものと考える。
- この点、日本学術会議が令和3年4月にとりまとめた「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」(以下、「日学報告」という。)においても、「近年は、委員会・分科会での審議に基づく提言と報告が政府や広く社会の各方面に向けて数多く発出され、日本学術会議の活動の中核をなしています。」「日本学術会議の取り組む広義の科学的助言活動がそれにふさわしいものとなるためには、課題選定が適切に行われるとともに、委員会・分科会等での審議と執筆・査読・発出に至る過程で多様な視点や俯瞰的な視野が備わっているかどうかを検証する仕組みの導入が必要です。学術の独立性を確保しつつ政府並びに広く社会や人々との対話を通じて課題選定及び内容の妥当性を高めるための試みを強化するなど、ガバナンスの強化に取り組みます。」としている。
(2) 現状
- 日本学術会議の政策的提言の現状について、近年は、部会、委員会等による提言の数は増加しているものの、意思の表出可能な350委員会等(第24期)のうち、第24期中に意思の表出を行ったのは116委員会等と約三分の一に留まる。また、第24期中の提言は85件であったが、そのうち、フォローアップとしてインパクトレポートを既に提出したものは、委員会等の活動実績(第24期)として資料が本政策討議に提出された時点では、45件と約半分に留まっていたのが実情である。
(3) 課題
- 日学報告においては、「独立した立場からより広い視野に立った社会課題の発見や、中長期的に未来社会を展望した対応のあり方の提案が期待されています。」と記されている。
- また、改革の具体的な取組として、日本学術会議内部での意思形成の仕組みの改革、外部との意見交換の多様化、中長期的な科学的助言の在り方について打ち出すとともに、令和3年12月2日、3日に開催された日本学術会議総会(以下単に「総会」という。)において、分野横断的な観点から、中長期的視点、俯瞰的視野に立ち、説得力ある科学的助言を行うため、課題設定から査読・公表まで科学的助言活動の全体を把握する「科学的助言等対応委員会」の設置や課題設定や科学的助言の作成過程における意見交換の実施などの機能の見直しが承認された。また、国際戦略として、国際学術団体における主要なプロジェクトの議論への積極的な参画なども打ち出されているところである。
- 本政策討議でも、アカデミーに求められる役割・機能は、科学技術の発展や経済社会の変化に伴い、中長期的、俯瞰的分野横断的な課題に関する政策立案者等への時宜を得た科学的助言や社会からの要請への対応へ移行しているとする指摘が相次ぎ、日本学術会議に対して、同様の役割を担うべきだとの強い期待が寄せられた。その場合、関係するステークホルダーが多岐にわたり、時にそれぞれの利害が背反する場合も想定しなければならない。したがって、政策立案者、産業界、報道機関、市民等の実際に科学的助言を活用するステークホルダーと十分な意見交換を行い、実態の把握と分析を行いつつ、中長期的、俯瞰的分野横断的な課題を設定し、具体的に何を検討するかあらかじめ明確化することが必要となると考えられる。
- 事実、たとえば全米科学アカデミーにおける助言活動検討プロセスでは、検討事項の明確化として、スポンサーと協働して「問い」の内容を特定し、公式の“Statement of Task”を検討し、ガバニングボード運営委員会で承認するというプロセスを経て政策提案を行なっている。ドイツ国立科学アカデミー・レオポルディーナにおいても、テーマ選択に当たっては、政策立案者(国会議員、関係省庁)、研究機関、職業団体、財団や宗教団体などの市民社会団体との活発な議論が行われている。
- 日学報告においても、「学協会、政策立案者(立法府、各府省、地方行政関係者等)、専門職団体、産業界、NGO・NPOその他多方面の当事者等との意見交換・情報共有等を図る仕組みの構築が求められる」とされており、総会においては課題設定や科学的助言の作成過程における意見交換の実施(学協会、政策関係者、産業界、NGO・NPO等)を見直し内容に含む科学的助言機能の見直し、会則改正が承認された。このことは、日本学術会議においても同様の認識を持っていることを示している。本政策討議では、政策立案者等への時宜を得た科学的助言や社会からの要請への対応という観点から、日本学術会議の外のステークホルダーとのコミュニケーションがより日常的になされるべきではないかという指摘が多くなされ、これまでの日本学術会議の対応が十分なものではなかったという認識が示されたのである。
(4) 対応
- 中長期的、俯瞰的分野横断的な課題に関する科学的助言については、テーマが中長期の未来社会に対する広範かつ複雑なものであり、さらに、実現可能性、助言の反映、優先度等があいまいになるおそれがあることから、関係者と協働して、実現に向けた働きかけを行う必要(注)があり、同時に、当該科学的助言が政策立案者や社会にどのような影響を与えたかというフォローアップも実施されるべきであると考える。
(注)シンポジウム、イベント、説明会等を有効に活用し、適時適切に社会との双方向コミュニケーションを行い、科学、学術、アカデミーに対する理解・認知を促進することも重要 - このような認識のもと、これまでの政策討議の議論の中で、日本学術会議が取組を進める中長期的、俯瞰的分野横断的な課題を一例として取り上げ、テーマ設定やタイムフレームのセットから、とりまとめ、発出、関係者への働きかけ、フォローアップまでの一連のプロセスにおいて、例えば数か月程度など、一定の期間ごとに活動状況を確認し意見交換を行う場を設けることにより、日本学術会議自身が改革を進めるに当たってのあい路の発見・解消や必要なサポートを共に考えていくことを提案した。
CSTI有識者議員からは、日本学術会議に期待されることは、課題の持つ緊急性や求められる解決策の時間軸に合わせて、迅速に対応すべき事項とその時間軸を対外的に示しつつ、政策立案者等への時宜を得た科学的助言や社会からの要請への対応を行うことである、あるいは、それに至らないまでも検討の進捗状況を一定の期間で対外的に示していくことが重要であるとの指摘もあった。 - この点については、日本学術会議からは、日本学術会議は論点がまとまらぬまま論文をまとめることはできないという研究者の集団であり、会員の集団が納得できるような審議の結果としての提言を短い期間で発出することはできず、政策決定や企業経営における意思決定と同様の時間軸での対応を一律に求められるのは困難であるとの意見が示された。CSTI有識者議員からは、それぞれの研究者の専門的知識に基づきながらもその専門性を越えて科学的助言を行うのは日本学術会議でなければできない活動であり、短期間で提言等を発出するのは難しいものがあるが、テーマによってはやはりタイムリーに発出する必要があるのではないか、という意見もあった。
3 科学者間のネットワーク構築と会員選考等
(1) 必要性
- 科学的知見といっても分野ごとに様々な論点が考えられる現在、上記のような、中長期的・俯瞰的視野、分野横断的視点に立った課題を検討するためには、数多くの学術分野のバランスをとり、検討に際しては、幅広い分野から若手研究者を含む科学者を招へいする必要があるばかりか、アカデミアとしてもできる限りのエビデンスを収集することが必要である。また、グローバル課題への言及が求められることを鑑みるに、諸外国のアカデミーと協働して実質的な共同作業と共同研究を行いながら、提言発出を担わねばならないであろう。そのためには極めて広範囲かつ持続的な国際的な連携も必要不可欠である。
(2) 現状
- 日学報告において、選考方針に「社会の動向を的確に把握し異なる専門分野間をつなぐとともに、社会と対話する能力などを重視すること」を明文化するとともに、「次期に重点的に取り組む事項を想定し、それにふさわしい分野からの候補選定を行う」方針や、選考方針検討に当たって第三者意見の聴取、会員候補に関する情報提供依頼先の拡大、選考理由等の公表、部を超えた選考枠の拡大等の方針を示し、総会において会員選考プロセスの見直しを議論している。
(3) 課題
- 日本学術会議法の定めるところによれば、会員は「優れた研究又は業績がある科学者のうちから」選考されることとされている。しかしながら、優れた研究や業績について、どのような基準で会員を選定すべきかについては必ずしも示されていない。研究の特性に応じて各分野の研究評価基準は異なっているし、重視される事項も異なる。研究者の評価についても、社会的インパクトの結果だけでなく経過も評価に含むことや、インターネットを介した新しい成果発信方法などにも十分配慮することが求められている現在、会員に求められる優れた研究、業績とは何かについて、慎重にもう一度検討する必要があるのではないかと思われる。
- 科学者としての自らの専門知識を背景としつつも、その専門性を超えたトランスディシプナリーな科学的助言を行うことができる科学者を会員として選考するべきではないか、求められる議論の広がりに対応して単に会員や連携会員を拡大するのは限界があるのではないか、若手研究者の活用が必要ではないか、グローバルな視点を取り入れるために外国人が審議に参画する仕組みが必要ではないか、会員・連携会員等を支え、調査・分析や課題設定、科学的助言の作成の支援を行う事務局機能の強化が必要ではないか、などの指摘がCSTI有識者議員からなされたのである。
(4) 方針
- 上記のような政策討議を経て、日本学術会議に対しては、自らの専門性を背景としつつも、中長期的、俯瞰的分野横断的な視点から活動できるような科学者から、学際分野・新分野も含めてバランスよく会員が選考されることはもちろん、科学者間ネットワークを活用し、日本学術会議内外の専門家が課題に応じて参画するような柔軟、流動的な仕組みを構築することが必要ではないか、との提案がなされた。また、若手研究者の活用の提案や、グローバルな視点を取り入れるため、外国人の更なる活用を考えてはどうかとの提案もなされた。
- 加えて、大きなテーマでの提言を作り上げるためには、調査・分析や課題設定、提言等の作成過程には産学官の幅広い人材、学位保持者からなる強力な事務局体制が不可欠であり、日本学術会議はその構築に一層の努力を払うことが必要ではないかという提案も行った。
4 日本学術会議の財務及び組織形態等
(1) 必要性
- 本政策討議が日本学術会議に求めた中長期的、俯瞰的分野横断的な課題に関する政策立案者等への時宜を得た科学的助言や社会からの要請への対応を効果的かつ効率的に行うための調査・分析機能と事務局機能が日本学術会議に付与されるべきであり、日本学術会議に求められる機能・役割を踏まえ、現在の日本学術会議のリソースや組織体制が支障となっていないかかどうかについて検討する必要があると考える。
(2) 現状
- 日本学術会議からは、会員全員が非常勤であり、常勤の研究者も事務局にはおらず、常に課題をウオッチして迅速に対応する体制にはないという説明があった。
- 日学報告において、「現在の国の機関としての形態は、日本学術会議がその役割を果たすのにふさわしいものであり、それを変更する積極的理由を見出すことは困難です」としつつ、「もしも仮に国の機関以外の設置形態を採用するとすれば、個別の法律を制定して5要件(注)すべてを満たす特殊法人を考える余地がないわけではありません」としている。「ナショナルアカデミーの5要件」については、各国アカデミーの多様な在り方の中で共通する理念を日本学術会議として表現したものであり、現状の組織体制がそれを満たすものだとの説明があった。
(注)公的認証(➀代表機関、②公的資格)、➂財政基盤、④活動の独立性、⑤会員選考の自主性・独立性 - 日本学術会議の組織体制については、総合科学技術会議「日本学術会議の在り方について」(平成15年2月26日)において、「日本学術会議が政策提言を政府に対しても制約なく行いうるなど中立性・独立性を確保したり、諸課題に機動的に対応して柔軟に組織や財務上の運営を行っていくためには、理念的には、国の行政組織の一部であるよりも、国から独立した法人格を有する組織であることがよりふさわしいのではないか」との意見具申がなされている。
- 一方、日本学術会議の新たな展望を考える有識者会議「日本学術会議の今後の展望について」(平成27年3月20日)において、「国の機関でありつつ法律上独立性が担保されており、かつ、政府に対して勧告を行う権限を有している現在の制度は、日本学術会議に期待される機能に照らして相応しいものであり、これを変える積極的な理由は見出しにくい」と報告されている。
- 本政策討議では、上記二つの報告書を比較検討し、それぞれの議論の経緯を踏まえても、緊急的課題や中長期的、俯瞰的分野横断的な課題に関する政策立案者等への時宜を得た科学的助言や社会からの要請への対応という観点からは、現在の組織形態が最適なものであるという確証は得られていない。
(3) 方針
- 政策討議が日本学術会議に求めている科学的助言機能の充実化を考えた時、最終的な組織形態とは切り離しても、所要の事務局機能、財政基盤等の再構築は不可欠であると考える。また、日本学術会議が国民から理解され信頼される組織で在り続けるためには、必要な改革が一定の時間軸の下で迅速に活動に反映されていくことも必要であると考える。CSTI有識者議員からは、機動的、弾力的にできることから迅速に取り組むことが必要であるとの意見もあった。
- これに加えて、政策討議の中では、仮に日本学術会議の現状のリソースや体制で十分な改革を行い得ないとすれば、組織体制の見直しも視野に入れたより抜本的・構造的な改革が必要との意見もあった。さらには、日本学術会議において、各国アカデミーの財政構造に鑑み、国からの科学的助言に係る審議依頼に伴う資金受託や民間からの寄附の獲得について検討してはどうか、また、新しい時代に合致した科学的助言機能をより一層発揮するためには、日本学術会議において、従来の組織形態以外の組織形態と従来の組織形態を前提とした改善を検討・比較して、どちらが財政面や常勤スタッフや研究機能などのリソースをよりふさわしい形で配置できるのか検討してみてはどうか、さらには、中長期的な視点で改革案を議論すべきではないか、との意見もあった。
- これに関して、日本学術会議からは、日学報告は、第25期に責任を負う現執行部が中心となって基本的には期中の3年間で取り組む改革について記載したものであり、国際活動に関する戦略のような議論では長期的な視点が必要との認識は持ちつつも、現在は政策討議が求めるような、政策担当府省からの関わりや研究人材の流動性が大きく変わることを前提とした諸外国のアカデミーにみられる財政構造まで視野に入れて将来的な組織の在り方に係る中長期の方針を組織として示すことはできないとの説明があった。
5 結論
- 本政策討議としては、我が国の科学技術・イノベーションを「車の両輪」として担う日本学術会議の改革については、日本学術会議に自ら主体的に考えていただくことが何よりも重要であるという認識の下、日本学術会議の自己改革の円滑な進展を強く期待する。
- 科学的助言については、社会の重要な諸問題に関する中長期的、俯瞰的分野横断的な観点からの学術的知見の提示に対するニーズが高まる中、テーマ設定から発出後のフォローアップまで、ステークホルダーと十分に意見交換を重ねていくことが強く求められている。
- 国際活動については、他国アカデミーや国際学術団体との連携の強化は、我が国の科学者の内外に対する代表機関である日本学術会議の重要な活動の1つであり、これらに貢献しつつ、日本のプレゼンスを高めるための取組の強化が期待される。
- さらに、日本学術会議が国民に理解され信頼される存在で在り続けるためには、日本学術会議側からの単なる情報発信ではなく、科学的助言活動におけるステークホルダーとの双方向のコミュニケーションはもちろん、国民の思いやニーズ・関心を把握するための双方向のコミュニケーションが重要である。このため、産業界、NPO、NGO、一般の人々との意見交換・情報共有の場の整備などの活動の強化も求められる。
- また、本政策討議としては、我が国全体の科学技術を俯瞰し、科学技術に関する政策形成を直接担う立場から、「車の両輪」である日本学術会議と対話を継続していくというスタンスを確認する。
たとえば、科学的助言機能の強化について、日本学術会議が取組を進める中長期的、俯瞰的分野横断的な課題を一例として取り上げ、テーマ設定やタイムフレームのセットから、とりまとめ、発出、関係者への働きかけ、フォローアップまでの一連のプロセスにおいて、例えば数か月程度など、一定の期間ごとに活動状況を確認し意見交換を行う場を設けることにより、日本学術会議自身が改革を進めるに当たってのあい路の発見・解消や必要なサポートを共に考えていくことを改めて提案する。 - 一方、本政策討議においては、日本学術会議の在り方についての議論を求められたことを踏まえ、制度設計に関する日本学術会議からの前向きな提案も期待しつつ、既存のリソースや組織体制を前提とせずにあるべき姿の議論を試みた。科学技術の発展や経済社会の変化に伴い、中長期的・俯瞰的分野横断的な課題への対応が重要性を増しつつあること、そのためには、そのような視点から活動できるような会員がバランスよく選考されることが重要であることなど、日本学術会議の役割・機能の方向性については基本的には大きな相違はなかったのではないかと考えられる。しかしながら、改革のフレームや時間軸についての考え方や具体的な進め方などについては、必ずしも一致を見ていないことが認識された。
- また、現在の日本学術会議の組織形態が、我が国の政治体制・法体系の中で一定の合理性を有してきたのだとしても、本政策討議では、これまでの改革の際の議論等を踏まえても、緊急的課題や中長期的、俯瞰的分野横断的な課題に関する政策立案者等への時宜を得た科学的助言や社会からの要請への対応という観点からは、現在の組織形態が最適なものであるという確証は得られていない。
- 今後、政府において、日本学術会議の在り方についての方針を示していくに当たっては、日本学術会議が本来発揮すべき役割を果たし、国民に理解され信頼される存在で在り続けるようにという観点から、本とりまとめを含む政策討議などの一連の議論、日学報告及びこれに基づく自己改革の進捗状況等を踏まえ、意思決定や活動の機動性・弾力性、財政基盤、事務局機能など議論の過程で取り上げられた論点、組織形態に関して考えられる選択肢などについて、各国アカデミーの制度や運用状況も十分に参考にしつつ、総合的な検討が行われることを希望する。
組織形態についても、既存のリソースや組織体制を前提とするのではなく、日本学術会議が国民から求められる役割・機能は何か、それを最大限に発揮するためにはどのような在り方が最適かという観点から、他の論点とともに検討が深められることを希望する。 - 今回の見直しにおいては改革を先送りすることなく、日本学術会議がより良い役割を果たすことができるような日本学術会議の在り方が実現されることを期待する。
- 日本学術会議が、広い視野に立った社会課題の発見、中長期的に未来社会を展望した対応の在り方の提案など本来発揮すべき役割・機能を適切に果たすことは多くの国民が望むところであり、より良い役割・機能の発揮に向けて、政府と日本学術会議が、引き続きコミュニケーションを図りながら、未来志向で取り組んでいくことを期待する。本政策討議としても、今後の進捗をフォローしていきたい。