ビジネス全般

移植医療基盤整備研究事業(令和4年度厚生労働科学研究)

目次

1.研究事業の目的・目標

【背景】

移植医療は、患者にとっては疾患の根治を目指すための重要な治療法である。その一方で、第三者であるドナーの善意に基づいた医療でもあり、その意思を最大限尊重する必要がある極めて特殊な医療である。レシピエントやドナーにかかる身体的・心理的、経済的負担を軽減することが、移植医療分野における大きな課題であるとともに、善意であるドナーの安全性を確保しつつ、適切な提供体制を構築することが最大の課題である。

【事業目標】

臓器移植については「臓器の移植に関する法律」、造血幹細胞移植については「移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律」により、ドナー・レシピエント双方にとって安全で公平な医療が求められていることから、各審議会での議論に用いる基礎資料の提供やより良い提供体制構築のための政策提言などを通じて、ドナーの安全性やドナー家族も含めた国民の移植に対する理解を保ちつつ、適切に移植医療を提供するための施策の見直しや制度設計、政策の立案・実行等につなげる成果を目指す。

【研究のスコープ】

臓器・組織移植領域:

  • 幅広い世代における国民の臓器・組織移植に関する理解の推進
  • 臓器提供から臓器移植までのプロセスが一貫して円滑に実施されるための医療体制の構築

造血幹細胞移植領域:

  • ドナーの安全を担保した上で、ドナーの負担がより少ない方法で骨髄・末梢血幹細胞を提供できるような環境の整備
  • 臍帯血の提供の促進、及びより高品質の臍帯血を採取・調整できる体制の構築
  • 造血幹細胞移植、造血幹細胞の提供に関する正しい知識の普及啓発

【期待されるアウトプット】

臓器・組織移植領域では、施設レベルでの各職種間、地域レベルでの施設間等の連携体制が明らかとなり、各施設での状況に応じた適正な人員配置やロジスティックスの確立が可能となる。また連携体制の中での、研究事業で作成したマニュアルやリーフレットの有用な使用法が明らかとなる。

造血幹細胞移植領域では、これまでの普及啓発活動の問題点と改善策が明確になり、若年ドナーを継続的に確保するための効果的な方策が提案できる。また、造血幹細胞の提供に関してドナー家族の理解を得る手段が確立される。さらに、ドナープールに対して、提供の意欲を維持・向上させるような適切な介入方法とその根拠が明らかになる。

【期待されるアウトカム】

臓器・組織移植領域では、脳死下、心停止下の臓器提供時の各施設内での職種間の連携、地域における施設間での効率的な連携体制や小児の臓器提供における特有の問題点が明らかとなることで、研究事業の成果であるマニュアルの有効活用や、選択肢提示を行う際の人員の育成などを、各施設の状況に応じて実施することが可能となり、幅広い施設で臓器提供が行われるようになることが期待される。

造血幹細胞移植領域では、効果的なメッセージを適切な媒体で発信することにより、新規のドナー登録者、特に若年ドナーを増加させることができる。また、ドナー家族への造血幹細胞の提供に関する理解を促進させることで協力が得られ、採取・提供につながりやすくする。ドナープールにオンラインなどを用いて実際に介入することで、採取・提供まで到達するドナーが増加し、移植を必要とする患者に適切なタイミングで造血幹細胞を提供する機会が確保される。

2.これまでの研究成果の概要

【臓器移植分野】

  • 小児からの臓器提供にかかる基盤整備と普及啓発のための研究(平成 30 年度採択課題、令和2年度終了):平成 30 年度は、小児からの臓器提供の経験がある施設へのヒアリングを行い、課題抽出を行い、令和元年度以降、小児からの臓器提供のプロセスをわかりやすく解説した事例集の作成、小児の臓器提供のマニュアルとして、臓器提供ハンドブック(小児版)の作成を行っている。また同時に、臓器移植について、若年時から自分ごととして考えてもらう機会が増えるように、中学校の教員が臓器移植を教育の題材として使用する際のツールとして、指導案、ワークシートの作成を行った。令和2年度は、中学校教員による評価をもとに、ツールのブラッシュアップを行い、幅広く利用できるようにホームページ上で公開した。
  • 5類型施設における効率的な臓器・組織の提供体制構築に資する研究(平成 31 年/令和元年度採択課題、令和3年度継続中):令和2年度においては、ドナー評価・管理マニュアル、術中管理マニュアル、家族サポート体制に関する手引きを作成した。令和3年度以降、マニュアルの運用等を開始し、問題点・課題の抽出を行い、より広く活用するためのマニュアルの検証・改訂を行う。
  • 脳死下、心停止下の臓器・組織提供における効率的な連携体制の構築に資する研究(令和2年度採択課題、令和3年度継続中):令和2年度においては、直接治療に介入しない第3者介入の有用性調査、急性期重症患者対応者養成のための講習会の Web 教材の作成、臓器提供における看護師の役割のアンケート調査、院内コーディネーター研修の実状調査を行った。また、モデル的に静岡県で臓器提供の連携構築のための協議会の立ち上げを行った。令和3年度以降、急性期重症患者対応者の講習会の継続的な実施、臓器および組織提供の現状改善の取組等、効率的な連携体制の構築を行う。

【造血幹細胞移植分野】

  • 骨髄バンクドナーの環境整備による最適な時期での造血幹細胞提供体制の構築に資する研究(平成31年/令和元年度採択課題、令和3年度終了):令和元年度は、40歳以下のドナーを対象とした社会的背景に関するアンケートを実施し、利他性の高い方や骨髄移植について知識がある方、有給休暇が取りやすい環境にいる方が提供に至りやすい傾向があることを明らかにした。令和2年度は、大企業を対象としたアンケートを実施し、ドナー休暇制度の導入阻害になっている要因を評価した。令和3年度は、ドナーコーディネート初期段階への介入試験を行い、採取・提供につながる方策について検討した。
  • 適切な末梢血幹細胞採取法の確立及びその効率的な普及による非血縁者間末梢血幹細胞移植の適切な提供体制構築と、それに伴う移植成績向上に資する研究 (令和2年度採択課題、令和4年度継続中):令和2年度は、末血幹細胞採取の安全性向上と効率化によるドナー負担の軽減を目的として、採取における有害事象を集約してドナー安全研修会の教材を作成し、採取担当医師を対象に安全研修を行った。また、骨髄バンクが発出した緊急安全情報、医療委員会(患者の適応や幹細胞に関する主治医からの相談などを審議する骨髄バンクの委員会)通知などを Web データベースとして一元化し、過去の事例を検索できるシステムのプロトタイプを構築した。令和3年度は、ドナーのデータ及び有害事象を引き続き解析し、ドナー適格性、ドナープールの拡大について検討した。また、患者状態に合わせた至適ドナー選択における末梢血幹細胞移植の位置づけを明らかにした。
  • 効率的な臍帯血採取方法及び最適化した調整保存方法の確立等による、移植に用いる臍帯血ユニット数の増加に資する研究 (令和3年度採択課題、令和4年度継続中):令和3年度は、臍帯血を採取している 97 施設に対してアンケートを行い、採取状況を把握した。また、各臍帯血バンクに臍帯血調整方法に関する実態調査を行った。

3.令和4年度に継続課題として優先的に推進するもの

【臓器移植分野】

脳死下、心停止下の臓器・組織提供における効率的な連携体制の構築に資する研究

臓器・組織提供における院内および地域内の連携体制のモデルを提案し、関連学会および都道府県と連携を行ったうえで、臓器・組織提供における連携体制モデルを構築する。構築された連携体制モデルを関連学会所属施設、都道府県を主体とした地域で実践し、全国へ展開する。また全国展開の中で、現在までの研究事業で作成された臓器提供ハンドブック、マニュアルやリーフレットのより有用な使用法を周知、利活用する。連携体制モデルの全国展開によって、各地での臓器提供体制の充実が強く期待できるため、増額を要求する。

心停止後臓器提供数の減少への効果的な対策に資する研究

心停止後臓器提供数は経時的に減少してきており、新型コロナウイルス感染症流行の影響でさらに著明な減少を認めており、早急に対応を講じる必要がある。海外での取組を導入するためのマニュアル作成や体制整備に資する取組の実施、特に心停止後臓器提供の経験が乏しい施設を中心に幅広く心停止後臓器提供シミュレーションを実施することで、提供事例数の増加が見込まれる。

【造血幹細胞移植分野】

適切な末梢血幹細胞採取法の確立及びその効率的な普及による非血縁者間末梢血幹細胞移植の適切な提供体制構築と、それに伴う移植成績向上に資する研究 (令和2年度採択課題、令和4年度継続中)

ドナー安全研修受講を採取認定基準の採取責任医師、担当医師の要件とするような検討を行う。また、幹細胞採取において問題が生じた際に、移植拠点病院等と連携して対応できる体制を構築する。患者状態に合わせた至適ドナー選択の観点から、末梢血幹細胞移植に適した慢性移植片対宿主病対策を提案する。最終年度の成果の一つとして末梢血幹細胞採取マニュアルの改訂を行い、各地区の治療体制の均てん化を進めることが強く期待できるため、増額を要求する。

4.令和4年度に新規研究課題として優先的に推進するもの

【臓器移植分野】

臓器提供の意思決定・意思表示につながる行動経済学等に基づいた新たな普及啓発に資する研究

臓器移植法が施行されて約 20 年、改正臓器移植法が施行されて約 10 年が経過し、これまで継続的な普及啓発を行ってきた。しかしながら、臓器提供の意思表示率は横ばいであり、現在の普及啓発では、臓器移植医療について「知る」だけで、臓器提供の意思決定および意思表示には結びついておらず、今後はより効果的な新たな普及啓発を行っていく必要がある。本研究課題では、年齢層ごとの科学的根拠に基づいた普及啓発の方法を検討し、全国規模のものだけでなく、都道府県等の単位での新たな普及啓発モデルを幅広く展開することや、小学校、中学校の授業等を活用した普及啓発をさらに展開することを目的とする。

【造血幹細胞移植分野】

造血幹細胞提供体制の強化を目的とした、若年者への効果的な普及啓発とドナープールへの適切な介入に関する研究

骨髄バンクのドナー登録者数は約 53 万人であるが、40-50 代が 6 割弱を占めていることから今後の登録者数減少が予想される。さらに、若年ドナーの方が高齢ドナーと比較して患者の移植成績が良好であるため、特に若年ドナーの継続的な新規確保が求められている。ドナーのコーディネート終了理由として、ドナー理由が 78%、そのうち健康以外の理由が 53%であった。これまで提供につながるドナー確保のための方策として、ドナー休暇制度の必要性を明らかにしてきたが、更なる実効力のある介入方法を解明し造血幹細胞提供体制を強化する。

5.令和4年度の研究課題(継続及び新規)に期待される研究成果の政策等への活用又は実用化に向けた取組

【臓器移植分野】

  • 継続課題を実施することで、提供施設・移植施設双方が現在抱える問題が解消される。提供側施設では、作成されたマニュアルにより救急搬送されたときからドナーとしての全身管理、摘出手術を一元的に管理出来るようになることから満足度が向上し、その結果、より効率的な臓器提供体制を構築することが可能となる。さらには本研究を実施することで、直接的には関与しない移植医の働き方改革を実践することができる。
  • 新規課題により、科学的根拠に基づいた新たな普及啓発を展開することで、意思表示率の上昇、ひいては臓器提供件数の増加につながる。またより効率的な新たな普及啓発を事業として展開することが可能となる。

【造血幹細胞移植分野】

  • 継続課題を実施することで、非血縁者間における造血幹細胞の提供体制について改善が図られ、患者が必要な時に最適な造血幹細胞を提供されることができるような体制を構築できる。また、臍帯血の今後の需要状況が明らかになり、高い品質が担保された、調整・保存に至る臍帯血ユニットを増加させることができる。最適な時期に造血幹細胞移植を行う上での、ドナー選択における骨髄、末梢血幹細胞、臍帯血のそれぞれの位置づけが明確になる。
  • 新規課題については、骨髄バンクと連携して若年ドナーを増加させる取り組み、ドナー家族への造血幹細胞の提供に関する理解を促進させる取り組みにつなげることが期待される。また、採取・提供まで到達するドナーを増加させる目的で骨髄バンクから適切な介入を行い、移植を必要とする患者に最適な時期に造血幹細胞を提供する機会が確保される。

参照

令和4年度厚生労働科学研究の概要

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