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はじめに
近年、医療分野においては、デジタル技術が益々重要な役割を果たしています。その中でも、医療機器分野においては、Software as a Medical Device(SaMD)の重要性が高まっています。このような中、米国FDAでは、新たな規制枠組みの構築が進められています。一方、日本でも、医療機器の更新頻度に合わせたレギュレーションの整備が進んでいます。本記事では、日本とアメリカのSaMDに対する新たな規制枠組み構築動向について、詳しく解説していきます。
Software as a Medical Device(SaMD)とは何か?
SaMDとは、医療用途で用いられるソフトウェアのことを指します。例えば、患者の健康状態を測定したり、病気の診断を支援したり、治療計画を提供するなどの用途に使用されます。
SaMDの特徴としては、ソフトウェアであるため、ハードウェアに比べて開発や改良が容易であることが挙げられます。また、データの蓄積や分析が可能であるため、患者の健康状態のモニタリングや、臨床研究の支援にも役立てられます。さらに、SaMDは機能が多様であり、患者や医療従事者が利用することで医療の質を向上させることが期待されます。
近年、高齢化や慢性疾患患者の増加などの社会的背景から、SaMDの需要は増加傾向にあります。さらに、COVID-19のパンデミックによって、リモートヘルスケアの需要が高まったことも、SaMDの需要を促進する要因の一つとなりました。
今後も、患者や医療従事者のニーズに合わせたSaMDが開発され、医療分野において重要な役割を担うことが期待されます。
アメリカにおける新たなSaMDの規制枠組み
アメリカでは、2017年にFDAにより「Digital Health Innovation Action Plan」が発表され、その中でSaMDの規制改革に取り組むことが発表されました。その後、2018年に「SaMD: Clinical Evaluation」ガイドラインが公開され、更に2020年には「SaMD: Deciding When to Submit a 510(k) for a Software Change to an Existing Device」が公開されるなど、新たな規制枠組みが構築されています。
その中でも注目されるのが、Pre-CertプログラムとTotal Product Lifecycle Approach(TPLC)です。Pre-Certプログラムは、開発企業自身の品質管理システムや開発プロセスの評価を基に、FDAが企業全体を審査することで、製品の安全性や有効性を保証するプログラムです。TPLCは、製品に対する審査と開発企業に対する審査を並走し、上市後も有効性や安全性をモニターしていくアプローチです。
また、PEAR THERAPEUTICSが慢性不眠症患者の治療に用いるSOMRYST™について、FDAによるPre-Certでのレビューを経た初めてのSaMDとして認可を得たとしています。Pre-Certには企業の要件を満たすハードルが高いといった批判もありますが、現行の510(k)やDeNovoより迅速な審査方法が構築されることへの期待があります。
FDAは、2020年9月にPre-Certプログラムの進捗を更改しており、今後についてプログラムのテストを拡大し、試行的なパイロットから移行していくことを目指すとしています。今後も、アメリカにおけるSaMDの規制改革に注目が集まります。
日本における新たな医療機器の承認制度
近年、医療機器の多様性と絶え間ない改善を踏まえたレギュレーション整備が進められています。その一環として、2019年には日本でも医療機器の先駆的開発に関わる法改正が行われ、先駆審査指定制度や条件付き早期承認制度の法制化に加えて、新たな承認制度として「医療機器等の変更計画の確認及び計画に従った変更に係る事前届出制度」が導入されました。この制度は、改良が見込まれている医療機器について、変更計画を審査の過程で確認し、計画された範囲内での迅速な承認事項の一部変更を認めることにより、継続した改良を可能とする承認審査制度です。この制度は通称「IDATEN(Improvement Design within Approval for Timely Evaluation and Notice)」と呼ばれています。
IDATEN制度では、人工知能やリアルワールドデータを利用した医療機器の改良やオプション部品の追加などに対して、承認事項を迅速に行うことができます。市販後に性能が変化することが予想される医療機器についても、変更計画の作成や実施に関する手順を記載することが義務付けられています。これにより、性能にバラツキが生じないよう、製造販売業者等による管理が重要とされています。IDATEN制度は、日本において医療機器の改良がより迅速に進むことを促し、患者によりよい医療を提供することを目的としています。
課題と今後の展望
SaMDやDigital Health分野においては、製品の開発や販売に関する規制が整備されつつあるものの、まだまだ課題が残されています。例えば、個人情報の適切な管理や、品質、有効性、安全性を確保するためのプロセスの構築、規制当局とのコミュニケーションの改善などが挙げられます。また、人工知能などの技術を活用する場合には、それらの適切な管理や、偏りのないデータの収集が課題となっています。
しかしながら、SaMDやDigital Health分野には今後の発展が期待されています。例えば、医療現場においては、遠隔医療や自己管理支援システムなどが重要視されており、これらの分野においてはデジタル技術がますます注目を集めています。また、デジタル技術を用いた新たなビジネスモデルや、患者と医療従事者の関係性を改善するソリューションなど、さまざまな可能性があることが期待されています。
さらに、Beyond-The-Pill分野においても、製薬企業が医療以外の分野に参入し、新たなビジネスモデルを模索する動きが見られます。例えば、医療機器の販売に留まらず、それらを活用したサービスの提供や、患者が治療を受ける上での支援サービスなどが考えられています。
今後、SaMDやDigital Health分野においては、技術の進歩に伴って新たな課題が生じることが予想されます。こうした課題に対応するためには、製品の開発や販売に関する規制の整備が求められると同時に、関係者が協力し、よりよいソリューションの提供に向けて取り組んでいくことが重要です。
まとめ
今回は、日本とアメリカにおけるSoftware as a Medical Device(SaMD)について、それぞれの国での規制枠組みの動向について解説してきました。
アメリカでは、FDAが新たなSaMD規制枠組みとして、Pre-CertプログラムやTPLCを導入し、PEAR THERAPEUTICSのような事例も認可されています。一方、日本でもIDATENが施行され、市販後に性能等が変化する医療機器の承認事項をより迅速に行う仕組みが導入されました。
しかしながら、Digital Health分野においては、品質、有効性、安全性を確保しつつ、頻繁なアップデートとの両立が求められ、課題が残っています。今後も、この分野における規制や取り組みの動向を注視しながら、ヘルスケア分野における新たな価値の創造に貢献していく必要があるでしょう。