相互関税の枠組み、その背景と批判、世界経済および医薬品業界への影響、日米間の具体的な論点、そして最新の動向と今後の展望について全体的にまとめました。
2025年4月、ドナルド・トランプ米大統領政権は、「相互関税」と称する新たな関税措置を導入し、世界経済に大きな衝撃を与えました。本措置は、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、米国の持続的な貿易赤字と外国の非相互的な貿易慣行を是正することを公式な目的として掲げています。具体的には、ほぼ全ての輸入品に対して10%の基本関税率を課し(4月5日発動)、さらに米国の貿易赤字が大きい特定の国・地域に対しては、より高い国別関税率(11%~50%)を上乗せする(4月9日発動)という二段階構造を持っています。日本には24%、中国には34%、欧州連合(EU)には20%といった高い追加関税が課されることとなりました。
しかし、この関税率の算出根拠は、二国間物品貿易赤字に基づくとされていますが、実際の貿易障壁とは乖離しており、経済学的な合理性にも乏しいとの批判が強いです。特に、関税の正当化に用いられた米国通商代表部(USTR)の「外国貿易障壁報告書(NTEレポート)」は、他国の正当な国内政策までも「障壁」として列挙しているとの指摘があります。
世界経済への影響は甚大であり、IMFなどの国際機関は、関税導入により2025年の世界経済成長率が大幅に下方修正されると予測しています。特に米国自身の経済成長率低下、インフレ圧力の高まり、サプライチェーンの混乱、そして世界的な景気後退リスクの増大が懸念されます。市場は発表直後に大きく動揺し、不確実性が経済活動の重石となっています。
医薬品・医療機器分野は、当初の相互関税の対象からは除外されました。しかし、トランプ大統領は将来的に同分野への個別関税導入を示唆しており、特にアイルランド等への生産拠点集中を問題視しています。業界は依然として警戒を解いていません。さらに、日本の医薬品・医療機器関連政策(薬価制度、薬事規制)がNTEレポートで非関税障壁として指摘され、日本への24%関税の根拠の一部とされたことは、間接的ながら大きな影響を及ぼしています。
日本政府は、24%の関税(現在は交渉のため10%に一時停止中)による経済的打撃を回避するため、米国との交渉を通じて関税率の引き下げを目指しています。その交渉において、米国側が問題視する薬価制度の透明性向上などが譲歩案として浮上する可能性があり、日本の医療政策決定に新たな圧力が加わっています。
Table of Contents
I. 2025年米国相互関税の枠組み:メカニズムと根拠
A. 相互関税の導入
2025年4月2日、ドナルド・トランプ米大統領は、「大規模かつ持続的な年間米国物品貿易赤字に寄与する貿易慣行を是正するための相互関税による輸入規制」と題する大統領令(EO 14257)を発令しました 1。この措置は、米国の貿易政策における大きな転換点を示すものであり、その根拠として国際緊急経済権限法(IEEPA)が援用されました 1。政権は、貿易赤字と外国による非相互的な貿易慣行が米国の国家安全保障および経済に対する異常かつ重大な脅威を構成すると宣言し、これを国家緊急事態と位置づけました 1。この措置は、2025年1月20日および2月13日の大統領覚書に基づくものであり、これらの覚書では、貿易赤字の原因調査と非相互的な貿易慣行の見直しが指示されていました 1。
B. 関税構造と税率
相互関税は二段階の構造を持ちます。
- 基本関税(Baseline Tariff): 2025年4月5日午前12時1分(米国東部時間)より、ほぼ全ての米国への輸入品に対して、一律10%の追加関税(ad valorem)が課されます 1。この基本関税は、既存の関税に追加される形で適用されますが、後述する国別相互関税が適用される場合は、そちらが優先されます。
- 国別相互関税(Country-Specific Reciprocal Tariffs): 2025年4月9日午前12時1分(米国東部時間)より、大統領令の附属書I(Annex I)にリストアップされた57の国・地域からの輸入品に対して、10%の基本関税に代わり、11%から50%の範囲で個別に設定された、より高い関税率が適用されます 1。これらの国・地域は、トランプ政権によって非相互的または差別的な貿易慣行を行っていると判断されました。
附属書Iに記載された主な国・地域の税率は以下の通りです(User Query, 3):
- 中国:34%
- 台湾:32%
- 韓国:25%
- 日本:24%
- ベトナム:46%
- 欧州連合(EU):20%
- インド:26% (または27%)
- マレーシア:24%
注記:一部の国については、情報源によってわずかな税率の差異が見られます(例:インド 26% 10 vs 27% 3)。本レポートでは、可能な限り公式文書である附属書I 10 の数値を優先します。
C. 適用範囲とルール
相互関税(基本関税および国別関税)は、輸入品の価額全体ではなく、その製品に含まれる非米国原産部分の価額に対して適用されます。ただし、これは輸入品の価額のうち、米国原産部分(米国で生産または実質的に変更されたもの)が少なくとも20%を占める場合に限られます。米国原産部分が20%未満の場合は、関税は輸入品の価額全体に適用されます 1。また、関税の発効日前に最終輸送手段に積み込まれ、輸送中の物品については、これらの関税は適用されません 6。
D. 主な適用除外
相互関税には、いくつかの重要な適用除外品目・対象国が存在します。
- 附属書II(Annex II)記載品目: 大統領令の附属書IIにリストされた品目は、基本関税および国別相互関税の両方から除外されます。これには、医薬品、半導体、銅製品、木材製品、特定の重要鉱物、エネルギーおよびエネルギー関連製品が含まれます 1。注記:後に、特定の電子製品(スマートフォン、ラップトップ等)についても、セクター別措置が検討されるまでの間、一時的に除外されることが明確化されました 15。
- セクション232対象品目: 既存の通商拡大法232条(Section 232)に基づき関税が課されている鉄鋼製品、アルミニウム製品、および2025年4月3日から適用された自動車・自動車部品は、今回の相互関税の対象外となります 1。当初、鉄鋼・アルミ派生製品への適用については不明確な点がありました 1。
- USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)対象国: USMCAの原産地規則を満たし、特恵関税待遇を受ける物品は、相互関税から除外されます。USMCAの資格を満たさないカナダ・メキシコからの輸入品については、以前のIEEPAに基づく関税(多くは25%、一部エネルギー製品等は10%)が引き続き適用されます。これらの先行するIEEPA命令が終了した場合、USMCA非適格品には12%の相互関税が適用される可能性があります 3。
- 関税率表カラム2対象国: ベラルーシ、キューバ、北朝鮮、ロシアからの輸入品は、相互関税の対象外ですが、既存のより高い関税率(カラム2税率)が適用されます 3。
- デミニミス(少額輸入免税): 当初、800米ドル以下の少額輸入品は免税扱いでしたが、中国および香港からの輸入品については、2025年5月2日よりこの免税措置が撤廃されました 1。
E. 公式な目的と背景
トランプ政権が掲げる相互関税の公式な目的は、以下の通りです。
- 大規模かつ持続的な米国の物品貿易赤字をもたらす貿易慣行の是正 1。
- 二国間貿易関係における相互主義の欠如、不均衡な関税率、および貿易相手国による非関税障壁への対応 1。
- 国内の賃金と消費を抑制するような外国の経済政策への対抗 2。
- 米国内への生産回帰(リショアリング)の促進(特に製造業、医薬品が言及されています) 5。
- 外国の貿易障壁撤廃に向けた交渉におけるレバレッジ(交渉力)の確保 3。
表1:2025年米国相互関税の概要
関税の種類 | 税率 | 発効日(米国東部時間) | 適用範囲・ルール | 主な適用除外・備考 |
基本関税 | 10% (Ad Valorem) | 2025年4月5日 | ほぼ全ての輸入品。既存関税に追加。国別税率が適用される場合はそちらが優先。 | Annex II品目(医薬品、半導体等)、Sec. 232対象品目(鉄鋼、アルミ、自動車)、USMCA適格品、カラム2国。$800超の輸入品に適用(中国・香港除く)。 |
国別相互関税 (Annex I) | 11% - 50% (国別に設定) | 2025年4月9日 | Annex I記載の57ヶ国・地域からの輸入品。基本関税に代わって適用。 | 同上。 (2025年4月10日より90日間(7月9日まで)、中国・香港・マカオを除くAnnex I国の国別税率は一時停止され、10%の基本関税が適用) 15。 |
例: | ||||
中国 | 34% → 84% (4/9) → 125% (4/10) | 4月9日/4月10日 | 中国・香港・マカオ原産品。既存の20%関税等に追加され、実効税率は145%に 15。 | Annex II品目、Sec. 232対象品目。 |
日本 | 24% (現在は10%に一時停止) | 4月9日 | 日本原産品。 | 同上。 |
EU | 20% (現在は10%に一時停止) | 4月9日 | EU加盟国原産品。 | 同上。 |
ベトナム | 46% (現在は10%に一時停止) | 4月9日 | ベトナム原産品。 | 同上。 |
セクション232関税 | 25% | 鉄鋼・アルミ:3月12日<br>自動車・部品:4月3日 | 全ての国からの鉄鋼・アルミ・自動車・自動車部品輸入。 | 相互関税(基本・国別)は適用されない。 |
USMCA | 0% (適格品)<br>10%/25% (非適格品) | - | カナダ・メキシコからの輸入品。非適格品は先行するIEEPA関税対象。 | 相互関税(基本・国別)は適用されない。 |
デミニミス (中国・香港) | 免税撤廃 | 2025年5月2日 | $800以下の中国・香港原産品。複雑な代替関税(例:価額の90% or $75/個、6/1から$150/個に増額)が適用 16。 | - |
適用ルール (共通) | - | - | 輸入価額に占める米国原産部分が20%以上の場合、非米国原産部分にのみ課税。20%未満なら全価額に課税 1。 | - |
出典: 1
この関税枠組みは、その多層的な構造(基本税率、国別上乗せ、多数の適用除外、既存関税との関係、そして発動後の修正)により、極めて複雑なものとなっています。企業が自社の関税負担やコンプライアンス要件を正確に把握することは困難であり、これが導入当初から大きな不確実性を生む一因となりました。
また、IEEPAという、通常は安全保障上の直接的な脅威(テロ、大量破壊兵器拡散、特定国への制裁など)に対処するために用いられる法律を、持続的な貿易赤字という経済問題に対応するために発動した点は注目に値します。貿易赤字を国家緊急事態と位置づけることで、議会の通常の貿易立法プロセスや、セクション301調査のような既存の貿易救済措置を迂回し、大統領権限で迅速かつ広範な関税措置を可能にしました。このIEEPAの適用拡大は、経済的な理由を国家安全保障上の脅威と結びつけることで、将来的に同様の措置が取られる可能性を示唆しており、貿易政策における行政府の権限行使のあり方について議論を呼んでいます 1。
II. 算出根拠、非関税障壁、および批判
A. USTRによる関税率算出方法
米国通商代表部(USTR)は、相互関税率の算出根拠について、「二国間の貿易赤字をゼロにするために必要な関税率」として計算されたと説明しています 18。この計算は、持続的な貿易赤字が、貿易の均衡を妨げる関税および非関税要因の組み合わせによって生じているという前提に基づいています。関税は輸入を直接削減することで機能するとされています 18。
具体的な計算アプローチとして、USTRは以下の式を示唆しています。国iに対する関税率の変化を∆τi、輸入価格に対する輸入弾力性をε(ε<0)、関税から輸入価格への転嫁率(パススルー)をφ(φ>0)、国iからの総輸入額をmi(mi>0)、国iへの総輸出額をxi(xi>0)とすると、二国間貿易収支をゼロにする相互関税は、以下の関係を満たすものとして計算されます(為替レートや一般均衡効果は無視できるほど小さいと仮定):
∆τi×ε×φ×mi=xi−mi 18
この計算において、USTRは(輸入需要の価格弾力性)、(関税の輸入価格への転嫁率)というパラメータ値を用いたとしています 18。弾力性の値(-4)は、近年の研究(-2程度)よりも高い値が採用されており、USTRはこれを保守的な(=より低い関税率を導きやすい)選択だとしていますが、転嫁率(0.25)は近年の米中関税の経験から低い値が設定されています 18。
一方で、シンクタンクのTax Foundationなどの外部機関による分析では、ホワイトハウスが実際に適用した国別税率(附属書I)の算出プロセスについて、異なる解釈が示されています。それによると、各国に課される「米国に対する関税相当額」は、(a) 10%、または (b) その国との2024年の米国物品貿易赤字額を、その国からの米国総輸入額で割った値、のいずれか大きい方として計算され、米国が課す実際の相互関税率は、この「関税相当額」の概ね半分程度(端数切り上げの場合あり)に設定されているように見える、と指摘されています 26。
この二つの説明(USTRの赤字解消関税計算と、Tax Foundationによる赤字比率ベースの計算と半減)の間には若干の齟齬が見られます。USTRの説明は理論的な枠組みを示すものである一方、Tax Foundationの分析は実際の税率リストから逆算した経験的な観察に基づいている可能性があります。いずれにせよ、根底にあるのは二国間の物品貿易赤字を主要な変数としている点です。
B. 算出方法への批判
この相互関税の算出方法に対しては、複数の深刻な批判が寄せられています。
- 恣意的かつ実際の政策と無関係: Tax Foundationなどは、この計算式が相手国の実際の関税、税制、非関税障壁、為替政策などを完全に無視し、二国間の物品貿易収支という集計データのみに依存している点を強く批判しています 26。例えば、貿易政策が大きく異なるシンガポール(比較的自由貿易志向)とブラジル(保護主義的)が、米国との物品貿易収支の結果だけで共に最低税率の10%に分類される一方、米国との政策協調を図ってきたベトナムが高い税率を課されるなど、実際の政策努力が反映されていません 26。また、最低税率である10%という数値自体にも明確な根拠がなく、恣意的であると指摘されています 26。
- 二国間赤字の指標としての不適切さ: 二国間の物品貿易赤字は、不公正な貿易慣行の証拠とはならず、関税適用の指標として不適切であるとされています 26。グローバルサプライチェーンが複雑化する現代において、二国間貿易統計は最終消費国と生産国の関係を正確に反映しないことが多いです。また、サービス貿易(米国にとっては黒字要因)が計算から除外されている点も問題視されています 26。比較優位やマクロ経済要因(貯蓄・投資バランスなど)によって自然に生じる貿易不均衡を、全て相手国の不公正な政策のせいにするのは論理的な飛躍があります。
- 経済合理性の欠如: 二国間貿易が必ずしも均衡すべきであるという前提や、関税によって貿易赤字を意図通りに操作できるという考え方は、主流派経済学では広く疑問視されています 26。関税は輸入品の価格を引き上げるだけでなく、自国通貨の上昇や相手国の報復関税を通じて自国の輸出も減少させる傾向があり、結果として貿易全体の縮小を招き、関税を課した国自身の経済にも悪影響を与える可能性が高いです 26。USTR自身も計算の複雑さを認めつつ、二国間赤字を全ての障壁の代理変数(proxy)として扱うアプローチを取っていますが 18、この代理変数の妥当性が根本的に問われています。
- 「ナンセンス」な計算: Tax Foundationは、この算出方法全体を「ナンセンス」と断じ、結果として得られた税率は、米国の貿易赤字削減という目標を達成できず、経済に深刻な損害を与えるだけの「並外れた政策エラー」であると結論付けています 26。
これらの批判は、相互関税の「相互主義」という名称とは裏腹に、その算出根拠が客観的な貿易障壁の評価に基づかず、主に二国間物品貿易赤字という結果指標に依存しているという根本的な問題を浮き彫りにしています。これは、「相互主義」の実現という公式な目的と、実際の算出方法との間に大きな乖離があることを示唆しています。貿易赤字という集計データが、相手国の多様な関税・非関税障壁全ての代理指標として機能するというUSTRの前提 18 は、多くの専門家からその妥当性を疑問視されています。
C. 国家通商評価(NTE)レポートの役割
相互関税の正当化において中心的な役割を果たしたのが、米国通商代表部(USTR)が毎年発表する「外国貿易障壁に関する国家通商評価報告書(National Trade Estimate Report on Foreign Trade Barriers、以下NTEレポート)」です。2025年版NTEレポートは、相互関税発表の前日である2025年3月31日に公表され 27、トランプ大統領自身も関税発表時にこのレポートに言及しました 28。このレポートは、相互関税の対象国とその税率を決定する上で、相手国の関税および非関税障壁を特定・評価するための基礎資料として用いられました 2。
NTEレポートは、1974年通商法第181条に基づき、毎年議会と大統領に提出されることが義務付けられており、米国の輸出、投資、電子商取引に対する重大な外国貿易障壁をリストアップするものです 27。USTRは、他の政府機関や在外公館と協力し、民間からの意見公募(Federal Register Notice)を経てレポートを作成します 27。
しかし、2025年版NTEレポートは、その内容と作成方針を巡って大きな議論を呼びました。トランプ政権下で作成されたこのレポートは、バイデン政権下の2024年版と比較して、より広範な外国の政策や規制を「貿易障壁」として指摘する傾向が顕著でした 28。特に、デジタル貿易に関する規制(データローカライゼーション、プライバシー保護、巨大テック企業への競争促進策など)や、環境保護、公衆衛生といった公共政策目的の規制までもが、米企業の利益を損なう「障壁」としてリストアップされたことが批判されました 28。これは、NTEレポートが伝統的に担ってきた、貿易協定違反や差別的な措置を指摘するという役割を超え、他国の正当な主権的政策決定に干渉し、特定の業界(特にビッグテック)の意向を反映した「企業による攻撃リスト」になっているとの懸念を生じさせました 28。
対照的に、バイデン政権下の2024年版NTEレポートは、一部の産業界から、従来指摘されてきた障壁を削除したとして批判されていました 31。USTR(バイデン政権下)は当時、レポートを法律の趣旨に立ち返らせ、主権的な政策権限の正当な行使と見なされる措置は障壁として扱わない方針を示しましたが、これが「障壁を意図的に無視している」との反発を招きました 31。
このように、NTEレポートの内容や編集方針が政権によって大きく変動することは、同レポートが客観的な障壁評価というよりも、その時々の政権の通商政策アジェンダ(例えば、相互関税の導入)を正当化するための政治的なツールとして利用される可能性を示唆しています。2025年版レポートが広範な「障壁」をリストアップしたことは、まさに相互関税を発動するための「弾薬」を提供する意図があったと見ることができます 28。
D. NTEレポートで指摘された非関税障壁の例(一般的)
2025年版NTEレポートや関連資料で指摘されている非関税障壁(NTB)の一般的なカテゴリーには、以下のようなものが含まれます。
- 輸入障壁・ライセンス制限 2
- 税関手続きの障壁・貿易円滑化の欠如 2
- 貿易に対する技術的障害(TBT):不必要に貿易制限的な基準、適合性評価手続き、技術規則 2
- 衛生的植物検疫(SPS)措置:科学的根拠に乏しい、または不必要に貿易制限的な措置 2
- デジタル貿易障壁:データローカライゼーション要求、越境データ移転制限、デジタル製品への差別的扱い、インターネットサービス提供制限、サイバーセキュリティ規制 28
- 投資障壁:外資比率制限、政府資金による研究開発へのアクセス制限、ローカルコンテント要求、技術移転要求、輸出履行要求、利益・資本等の送金制限 29
- 知的財産権(IP)の問題:保護・執行の不備、特許承認の遅延 29
- 政府調達:国内産業への優遇措置、透明性の欠如 30
- 補助金、国有企業の優遇 29
- 規制承認の遅延(バイオテクノロジー、医薬品など) 29
- 価格統制(医薬品など) 29
- 反競争的慣行:政府が容認する反競争的行為、競争法の濫用 32
これらの多様なNTBが、相互関税の対象国選定と税率設定の根拠として挙げられていますが、前述の通り、実際の税率算出がこれらの障壁の定量的評価に基づいているかは極めて疑わしいです。むしろ、全体的な貿易赤字がこれらの障壁の総体的な影響を示すという、論争の多い前提に立脚していると考えられます。
さらに、相互関税の枠組み全体(算出方法、NTEレポートによる正当化)は、主流派経済学が指摘する貿易赤字の主要因、すなわちマクロ経済的な要因(国内の貯蓄と投資のバランス、財政政策、為替レートなど)を意図的に無視しているように見えます。政策の焦点を相手国の障壁のみに当てることで 2、貿易赤字という「症状」に対して、その根本原因に対処する可能性の低い「対症療法」(関税)を適用しており、結果として意図したマクロ経済目標を達成することなく、経済的な損害をもたらすリスクを高めています 26。
III. 世界経済への影響
A. 世界経済成長予測への影響
相互関税の発表は、世界経済の成長見通しに即座に暗い影を落としました。主要な国際機関や経済研究機関は、軒並み2025年および2026年の成長率予測を下方修正しました。
- 国際通貨基金(IMF): 関税発表(2月1日から4月4日まで)とその報復措置を考慮した基準予測において、2025年の世界経済成長率を2.8%(1月時点の予測から累計で0.8%ポイント下方修正)、2026年を3.0%と予測しました 40。特に米国自身の成長率予測は2025年に1.8%へと大幅に引き下げられ(1月比-0.9%ポイント)、関税措置がそのうち0.4%ポイントを占めると分析されました 40。中国の成長率も4.0%(同-0.6%ポイント)に下方修正されました 40。先進国全体の成長率は2025年に1.4%(同-0.5%ポイント)、新興国・途上国全体では3.7%(同-0.5%ポイント)へと減速が見込まれました 19。
- カンファレンス・ボード: 相互関税により、米国の2025年の成長率が1.2%押し下げられる可能性があると試算しました 4。
- BNPパリバ: 民間エコノミストの間では、2025年の米国経済はほぼゼロ成長か、軽度のリセッション(景気後退)に陥るというのがコンセンサスシナリオであると報告しました 19。初期の試算では、米国のGDPが約1%、ユーロ圏のGDPが0.4~0.8%押し下げられる可能性が示唆されました 20。
これらの予測は、関税が世界貿易を縮小させ、生産性を低下させ、企業や消費者の信頼感を損なうことを反映しています。
B. インフレ圧力と価格上昇
関税は輸入品に対する税金であり、輸入価格の上昇を通じて最終的には消費者物価を押し上げる効果を持ちます 26。
- カンファレンス・ボード: 米国の個人消費支出(PCE)インフレ率が、2025年に1%ポイント上昇する可能性があると予測しました 4。
- IMF: 米国の2025年のインフレ率予測を約1%ポイント引き上げ、3%としました 40。
- 市場参加者も、関税導入によりインフレが高進し、経済成長が鈍化するとの見方を強めました 20。
ただし、関税がどの程度最終価格に転嫁されるか(パススルー)については不確実性があります。輸出企業がコストの一部を吸収する可能性、為替レートの変動が影響を緩和する可能性などが指摘されています 20。USTRの計算モデルでは低い転嫁率(φ=0.25)が仮定されていますが 18、これが現実的かどうかは議論があります。また、為替レートについては、通常、関税導入は自国通貨高をもたらす(輸入品減少によるドル需要増)とされますが、今回のケースでは政策の不安定さや米国への投資魅力低下といった要因が相殺し、単純なドル高には繋がらない可能性も指摘されています 45。
C. サプライチェーンの混乱と貿易フロー
相互関税は、長年にわたり構築されてきたグローバルサプライチェーンに深刻な混乱をもたらすと予想されました 4。
- IMF: 世界の貿易量の伸び率が2025年に1.7%へと大幅に鈍化し、産出量の伸びを下回ると予測しました。これは、企業が貿易フローを迂回させることが、以前よりも困難になる可能性を反映しています 40。
- 具体的な影響として、中国製品への関税率引き上げ後、ロサンゼルス港に到着予定のコンテナ船の数が2週間で約36%減少したとの報告もあります 44。
- 企業は代替調達先の模索やサプライチェーンの再編を迫られますが、特に医薬品のような規制の厳しい産業では、生産拠点の移転は時間とコストを要する複雑なプロセスです 21。
D. 景気後退リスク(米国および世界)
関税導入は、米国および世界経済が景気後退に陥るリスクを高めると広く認識されました 19。
- ゴールドマン・サックスは、関税発表直後に米国の景気後退確率を45%と評価しました 47。
- IMFも、米国の景気後退リスクが高まったと言及しました 42。
- ただし、民間予測のコンセンサスとしては、米国経済の減速は避けられないものの、深刻な景気後退がベースラインシナリオとまでは見なされていないとの見方もありました 19。
E. 市場の反応
金融市場は、相互関税の発表、特に4月2日と4月9日の措置に対して、極めて否定的に反応しました。
- 世界中の株式市場が急落し、歴史的な下げ幅を記録しました 8。わずか2日間で米国株の時価総額が5.4兆ドル消失したとの報道もあります 47。
- 安全資産とされる国債が買われ、利回りは当初急上昇した後、成長懸念から低下に転じました 41。
- 米ドルは、通常のリスクオフ局面(ドル高)とは異なり、当初下落しました。これは、市場が米国経済自身への打撃を最も懸念したことを示唆しています 48。
- 市場は依然として政策の不確実性を強く意識しており、不安定な状況が続いています 40。
これらの経済的影響に関する分析は、一つの重要なパターンを示唆しています。それは、米国自身の利益のために導入されたはずの関税が、実際には米国経済に最も大きな打撃を与える可能性が高いという点です。複数の独立した分析機関が、米国の成長率低下やインフレ加速を予測しており 4、関税発表後のドル安反応 48 も市場が同様の見方をしていたことを裏付けています。これは、国内経済強化という政権の主張 5 とは対照的であり、政策が意図せざる自己破壊的な結果を招くリスクをはらんでいることを示しています。
さらに、関税の直接的なコスト以上に、その適用、期間、エスカレーションの可能性、交渉の行方、将来のセクター別関税の追加といった点に関する「不確実性」が、それ自体として世界的な投資、貿易、経済活動に対する大きな抑制要因となっています。IMFが「認識論的な不確実性と政策の予測不可能性」を主要な推進力として指摘しているように 40、企業は先行き不透明な状況下で重要な意思決定を延期する傾向があります 48。後に導入された90日間の国別関税率の一時停止措置 15 も、次の一手を巡る短期的な不確実性をさらに増幅させました。このような投資や計画に対する冷え込み効果は、たとえ一部の関税が最終的に引き下げられたとしても、経済成長を阻害し続ける可能性があります。
加えて、関税措置は、影響を受ける国々の中でも、特に輸出依存度の高い貧しい途上国に最も深刻な打撃を与える可能性が高いです。附属書Iにはアジアやアフリカの多くの途上国が含まれており 3、アナリストは最貧国が最も打撃を受ける可能性を指摘しています 47。これは、世界の開発目標を損なうだけでなく、これらの国々を中国のような代替的なパートナーへと接近させ、結果的に米国のグローバル・サウスにおける影響力を低下させる恐れがあります 44。
IV. 医薬品・医療機器セクターへの影響
A. 現状の適用除外
当初、医薬品および医療機器セクターは、相互関税の直接的な影響を免れました。4月2日の大統領令附属書IIにおいて、医薬品(pharmaceuticals)は、半導体、銅、木材などと共に、10%の基本関税およびより高い国別相互関税の両方から明確に除外されました 1。この除外措置は、業界にとってひとまず安堵材料となりました 8。
B. 将来的なセクター別関税導入の可能性
しかし、この安堵は一時的なものに過ぎない可能性が高いです。トランプ大統領は、関税発表後も繰り返し、医薬品分野に対して将来的に関税を課す意向を強く示唆しています。「そう遠くない将来に(in the not too distant future)」、「ある時点で(at some point)」といった表現を用い、医薬品関税の導入を示唆しました 8。
その主な理由として挙げられているのは、米国内での医薬品生産の必要性と、海外(特に中国やアイルランド)への生産依存の解消です 8。トランプ大統領は、医薬品産業を「米国に轟音とともに呼び戻す(come roaring back)」必要性を強調し、国内で必要な医薬品(特に抗生物質)が十分に生産されていない現状を問題視しました 8。
特に、アイルランドは繰り返し名指しで批判されました。アイルランドが低い法人税率によって米国の製薬企業の本社機能や製造拠点を誘致したことが、「不公正な税制」であり、米国の富と雇用を奪ったと主張されました 14。トランプ大統領は、アイルランドを「非常に賢い(very smart)」と皮肉りつつ、「我々はその富を取り戻す」と述べ、将来的な医薬品関税がアイルランドのような国への対抗措置であることを示唆しました 14。ハワード・ルトニック商務長官もアイルランドを「税金詐欺(tax scam)」と表現したと報じられています 14。
将来的な関税の具体的な内容(タイミング、税率(25%以上との示唆あり 22)、対象範囲(原薬(API)を含むか、完成品のみか))については、依然として不透明なままです 12。
C. 米国内製造とリショアリングに関する懸念
トランプ政権の明確な目標は、関税をテコにして医薬品製造を米国内に回帰させる(リショアリング)ことです 21。政権は、イーライリリーやジョンソン・エンド・ジョンソンによる近年の大規模な国内投資計画を引き合いに出し、関税がこの動きを加速させると主張しています 8。
しかし、業界の現実を見ると、医薬品製造拠点の移転は容易ではありません。新しい製造施設の建設には通常3年から5年を要し、数十億ドル規模の投資が必要となります 21。さらに、各地域の規制当局からの許認可取得や、厳格な品質管理基準(GMP)の遵守など、複雑な規制プロセスが伴います 21。既存の鉄鋼・アルミニウム関税が建設コストを押し上げる可能性も指摘されています 21。
アイルランドへの集中批判についても、単純に関税をかければ生産が米国に戻るという見方には疑問があります。アイルランドはEU市場へのアクセス拠点としての機能も担っており、サプライチェーンは複雑に絡み合っています 24。関税は、アイルランドで事業を展開する米国企業自身にも損害を与える可能性があります 46。特にジェネリック医薬品については、関税がない状態でも米国内での製造コストが高いため、関税が課されても大規模なリショアリングには繋がらず、コスト上昇分が価格に転嫁されるか、企業が採算の取れない市場から撤退するだけかもしれないとの分析もあります 12。企業はコストを吸収するか、消費者に転嫁するか、あるいは米国以外の第三国へ生産を移す可能性も考えられます 24。
D. サプライチェーンと医薬品コストへの影響
世界の医薬品サプライチェーンは、特定の地域に大きく依存しています。完成品やバイオ医薬品の多くは欧州(アイルランド、ドイツ、スイス)から、原薬(API)やジェネリック医薬品は中国やインドから供給されているのが現状です 8。
もし将来的に医薬品に関税が課されれば、米国の医薬品コストが大幅に上昇することは避けられないと予想されます 12。アーンスト・アンド・ヤング(EY)が業界団体の委託で行った分析によると、25%の関税が課された場合、米国の年間医薬品コストは約510億ドル増加し、価格が最大12.9%上昇する可能性があると試算されています 51。
また、特に利益率の低いジェネリック医薬品を中心に、医薬品不足が悪化する懸念もあります 23。サプライチェーンの複雑さを考えると、最終的な製剤化工程が米国内で行われる医薬品であっても、原薬や中間体に対する関税が生産全体に影響を及ぼす可能性があります 46。アイルランドからの医薬品輸出の約80%は完成品ではなく、米国内でのさらなる加工が必要であり、そこでの雇用や税収にも影響が出かねないとの指摘もあります 46。
E. 業界の反応とロビー活動
製薬業界団体(PhRMA、BIO、AAMなど)は、潜在的な医薬品関税に対して強い懸念を表明しています。関税が患者のアクセスを損ない、価格を上昇させ、医薬品不足を悪化させるリスクを強調しています 12。
個々の企業は、関税リスクに備えて緊急時対応計画を策定し、製造拠点の見直しなどを検討していますが、前述の通り多くの課題に直面しています 12。PhRMAは、会員企業がトランプ政権第一期の税制改革なども背景に、既に米国内での生産拠点を拡大している点をアピールしています 12。
医薬品セクターに関する現状を分析すると、いくつかの重要な点が浮かび上がります。まず、現在の適用除外は、医薬品価格上昇に対する政治的な反発の大きさやサプライチェーンの複雑さを考慮した、一時的な猶予措置である可能性が高いです。トランプ大統領によるアイルランド等を名指しした上での度重なる関税導入示唆 8 は、政権の基本的な方針が変わっていないことを示しています。業界は依然として高い警戒レベルを維持する必要があります 14。
次に、関税によって大規模な医薬品製造のリショアリングが自動的に実現するという政権の見方は、政策の効果を過大評価し、移転に伴う構造的、規制的、コスト的な障壁を過小評価している可能性があります。専門家の指摘 21 やジェネリック医薬品の経済性 12 を考慮すると、関税だけでは不十分であり、意図した産業構造の転換ではなく、価格上昇や供給途絶といった望ましくない結果を招くリスクがあります。
最後に、アイルランドへの強い言及 14 は、貿易政策(関税)と法人税政策に対する不満が混同されていることを示しています。アイルランドの税制上の競争力を理由に関税で「罰する」というアプローチは、国際的な税の問題に対処する上で異例であり、逆効果になる可能性があります。アイルランドで活動する米国企業に損害を与え 46、重要な医薬品サプライチェーンを混乱させる一方で、根本的な税競争の問題解決には繋がらないかもしれません。
V. 日本のヘルスケア市場に関する米国の懸念(非関税障壁)
A. 24%関税の根拠としてのNTEレポート
日本に対して課された24%という高い相互関税率 3 は、2025年版USTR NTEレポートで指摘された日本の貿易障壁に直接関連付けられています 2。NTEレポートは、米国の輸出企業や投資家が日本のヘルスケア市場で直面していると米国政府が認識している障壁を公式にリストアップした文書であり、今回の関税措置の正当化の根拠とされました 27。
B. 2025年NTEレポートにおける日本の指摘事項(医薬品・医療機器)
公表されている2025年版NTEレポートのPDF本文 55 には、日本の医薬品・医療機器に関する詳細な記述が不足している可能性が指摘されています 55。しかし、米国の製薬業界団体であるPhRMAが2025年NTEレポート作成のために提出した詳細な意見書 56 や、過去のNTEレポートの内容 38 などから、米国側が問題視している具体的な障壁の内容を推測することは可能です。これらの業界からのインプットが、関税決定の根拠となったUSTR内部の分析に反映されていると考えられます。一般的にNTEレポートでは、規制承認の遅延、価格設定・償還問題、透明性の欠如、技術的障壁などが指摘されることが多いです 29。
C. 具体的に指摘された非関税障壁(PhRMA意見書およびUser Queryに基づく)
米国側が日本のヘルスケア市場における非関税障壁として具体的に問題視していると考えられる点は以下の通りです。
- 薬価制度(薬価算定・償還):
- 新薬創出・適応外薬解消等促進加算(PMP)制度の縮小: 革新的と認められ加算対象となる医薬品が減少し、イノベーションへのインセンティブが損なわれています。制度の見直しが急務と指摘されています 56。2018年度改革での対象品目減少がUser Queryで言及されています。
- 薬価の毎年改定: 2年に1度だった薬価改定が、一定以上の薬価差(市場実勢価格と薬価の乖離)が生じた品目を対象に毎年行われるようになったこと(2021年度から本格導入、2023年度から適用範囲拡大)。イノベーションの価値を不当に低く評価し、予測可能性を損なうと批判されています。対象範囲拡大が事前の業界協議なしに行われた点も問題視されています 56。
- 再算定ルールの乱用: 「市場拡大再算定(巨大市場創出者ルール)」(2016年導入)など、既存薬の薬価を大幅に引き下げる再算定ルールが強化・頻用されていること。一部ルールが四半期ごとに適用されるようになったこと(2018年以降)も予測可能性を低下させると指摘されています 56。
- 透明性・予見可能性・適正手続きの欠如: 厚生労働省(MHLW)による薬価・償還制度の変更が、イノベーションや市場の予見可能性への長期的影響を十分に考慮せず、透明性や適正な手続き(十分な意見聴取機会など)を欠いた形で行われているとの懸念があります 56。中医協(中央社会保険医療協議会)などの意思決定プロセスへの業界の対等な参加を要求しています 56。2025年度の中間年改定がパブリックコメントなしに発表されたことがUser Queryで具体例として挙げられています。
- 薬事規制:
- 臨床試験要件: 国際共同治験に参加する前に、特定の薬剤について日本人での第一相(Phase 1)試験を依然として要求していること。MHLWは2023年12月に原則不要とする通知を出しましたが、副作用の強い薬剤等には例外が残っており、これが障壁と見なされています(User QueryがUSTR 2025 NTEの指摘として言及)。
- 承認後の製造・品質管理プロセス変更: グローバルなベストプラクティスとの整合性を求める継続的な提言があります 56。
- 医薬品リスク管理計画(RMP): グローバルな標準化の重要性を強調しています 56。
- 早期承認制度(先駆け審査指定制度など): 制度自体は歓迎するものの、指定要件の柔軟な運用により、対象品目数を増やすべきだと指摘しています。現状では他地域に比べて承認数が少ないです 56。
- 特許権の有効な執行: MHLWが、特許庁(JPO)が有効と判断した特許が存在するにも関わらず、後発医薬品を承認したり、特許期間延長(PTR)中の先発品の適応症に対して後発品を承認したりする事例があり、これが先発品の特許権の実効性を損ない、PMP剥奪や薬価引き下げに繋がっていると批判しています。MHLWに対し、2009年のガイダンス(先発品の特許期間尊重)の遵守を要求しています 56。
- 医療機器の市場アクセス:
- 過去のNTEレポートでも、米国の医療機器メーカーに不利な償還価格設定制度が指摘されていました 38。これらの懸念が2025年版でも継続または詳細化されている可能性が高いです。
D. PhRMAの懸念事項(56要約)
PhRMAは、日本市場における主要な障壁として、政府による価格統制(毎年改定、PMP縮小、再算定乱用)、MHLWの政策決定における透明性・予見可能性の欠如、そして特許権執行の問題を挙げており、これらが米国のイノベーションを過小評価し、新薬へのアクセスを妨げていると主張しています 54。
表2:米国の対日ヘルスケア非関税障壁に関する懸念事項(USTR NTEレポートおよびPhRMA意見書に基づく)
障壁カテゴリー | 具体的な問題・懸念事項 | 出典・文脈 |
薬価・償還制度 | 新薬創出加算(PMP)の基準厳格化・対象品目減 | PhRMA 2025 Comments 56, User Query (2018年度改革) |
薬価の毎年改定(適用範囲拡大、予測可能性低下) | PhRMA 2025 Comments 56, User Query | |
再算定ルール(市場拡大再算定等)の強化・頻用 | PhRMA 2025 Comments 56 | |
政策決定の透明性・予見可能性・適正手続きの欠如(中医協への業界参加不足、パブコメなしの決定等) | PhRMA 2025 Comments 56, User Query (2025年度中間年改定) | |
薬事規制 | 日本人での第一相(Phase 1)試験要求(一部薬剤) | USTR 2025 NTE (User Queryより引用) |
早期承認制度(先駆け等)の活用低迷 | PhRMA 2025 Comments 56 | |
承認後の製造・品質管理プロセス変更(国際整合性) | PhRMA 2025 Comments 56 | |
知的財産権 | MHLWによる特許権の実効性を損なう後発品承認 | PhRMA 2025 Comments 56 |
医療機器 | 償還価格設定制度の問題(米国企業に不利) | Past NTE Reports (e.g., 2019 38), Assumed persistence |
これらの米国側からの指摘事項を分析すると、いくつかの特徴が見えてきます。第一に、薬価の毎年改定やPMPの問題など、2025年の関税の根拠とされた懸念の多くは、近年になって顕在化したものではなく、長年にわたる日米間の貿易摩擦の火種であった点です 38。これは、今回の相互関税が、単に新たな障壁への対応というよりも、積年の課題について日本の譲歩を引き出すための強力な圧力手段として用いられたことを示唆しています。
第二に、米国が「非関税障壁」として問題視する日本の薬価制度や薬事規制は、日本国内では社会保障財源の確保や国民の安全確保といった正当な政策目的(レギュラトリーサイエンス)に基づいて決定されているという認識が強いです (User Query)。この「国内政策の必要性」対「貿易障壁」という根本的な認識のずれが、交渉を困難にしています。米国側が譲歩を求める内容は、日本の国内政策の根幹に関わる可能性があり、単純な貿易問題として解決することが難しい構造になっています。2025年NTEレポート自体が「主権的政策権限の正当な行使」を尊重するとしつつ、実際にはそうした政策を障壁として攻撃するという矛盾した姿勢 31 も、この問題を複雑にしています。
第三に、一部の指摘、例えば特定の薬剤に対するPhase 1試験要求(User QueryがUSTRの指摘として引用)を、経済全体に影響する24%関税の根拠となるほどの「非関税障壁」と見なすことの妥当性には疑問符が付きます。規制上のハードルが差別的であったり、過度に煩雑であったりすればNTBとなり得ますが 32、安全性を考慮した限定的な臨床試験要求までをも重大な障壁として扱うことは、定義を拡大解釈している可能性があります。これは、他のより実質的な障壁に関する米国の主張の正当性をも、かえって弱めかねません。
VI. 日本の対応と交渉ポジション
A. 24%関税の経済的影響
日本に課された24%の相互関税(現在は交渉のため10%に一時停止中)は、発動されれば日本経済に深刻な打撃を与えると予想されました。あるアナリストの試算では、この関税だけで日本の実質GDPが1年間で0.59%押し下げられるとされました 11。特に、別途25%の関税が課された自動車産業への影響は甚大ですが、広範な品目を対象とする相互関税は、他の多くの産業にも追加的な圧力をかけることになります 11。
B. 日本政府の初期対応
日本政府は、24%という高い税率と対象国リストへの掲載に対し、驚きと強い懸念を表明しました 11。林芳正官房長官(当時)は、措置がWTO協定や日米貿易協定との整合性に疑義があるとし、二国間関係および世界経済全体への悪影響を警告しました 11。
経済産業省(METI)は、関税発表翌日の4月3日に「米国関税に関するタスクフォース」を設置しました 11。このタスクフォースは、影響を受ける国内産業(当初は特に自動車産業に焦点)への支援策(相談窓口設置、資金繰り支援など)を講じるとともに、米国との交渉を進め、関税措置からの除外または税率引き下げを目指すことを目的としました 11。政府は、「国益を勘案しつつ、あらゆる選択肢を検討する」とし、報復措置も視野に入れつつも、慎重かつ冷静な対応を取る方針を示しました 11。
C. 交渉の課題と戦略
日本政府は、関税による経済的打撃を回避するか、あるいは米国がNTEレポートで指摘した非関税障壁(特に薬価制度などの国内政策)について譲歩するかの難しい選択を迫られています (User Query)。
関税発表とその後の市場の混乱を受け、米国が国別関税率の一時停止(90日間)を発表したことで、日本は交渉の機会を得ました 59。日本の交渉戦略としては、米国側の懸念に対処するための「パッケージ」提案(例えば、米国からの輸入拡大、対米投資の促進など、台湾が示したアプローチ 60 に類似)を行うことで、関税率の恒久的な引き下げや除外を目指すことが考えられます。特にヘルスケア分野では、薬価決定プロセスの透明性向上など、制度の根幹には触れずに手続き面での改善を提案することで、譲歩点を探る可能性があります。
ただし、交渉にはリスクも伴います。日本が関税引き下げの「対価」として、貿易問題を超えた分野(為替政策、防衛費負担など)での一方的な譲歩を求められる可能性があるとの指摘もあります 59。また、中国が日本に対して米国への共同対応を呼びかける動き 44 もあり、地政学的な要素も絡んできます。
D. 交渉におけるヘルスケア非関税障壁の位置づけ
米国側の要求は、第V節で詳述したUSTRやPhRMAが指摘する懸念事項、すなわち薬価制度改革(透明性・予見可能性の向上、毎年改定の見直し等)、PMP制度、薬事規制(Phase 1試験、特許執行等)に集中すると考えられます。
もし日本が交渉の結果、薬価改定プロセスの透明性や予見可能性を高める政策変更に合意した場合、それは米国企業だけでなく、日本で活動する全ての製薬企業にとって恩恵となる可能性があります (User Query)。しかし、薬価水準そのものや改定頻度といった、日本の医療財政に直結する部分での譲歩は、国内的な反発も予想され、交渉は難航する可能性があります。
E. 日米協議の現状(2025年5月上旬時点)
2025年4月10日より、中国・香港・マカオを除く附属書I対象国(日本を含む)への国別相互関税率は、90日間(7月9日まで)一時停止され、その間は10%の基本関税率が適用されています 15。この一時停止は、二国間交渉を進めるための期間と位置付けられています 25。
日本は、この交渉において優先的な対象国の一つとされています 59。交渉の具体的な進展状況は不明ですが、7月9日の期限までにトランプ政権が「十分」と見なす譲歩案を日本側が提示できるかどうかに、今後の関税率の行方がかかっています 50。
交渉の力学を見ると、日本は大きな圧力に晒されている一方で、一定の交渉力を持ち得ると考えられます。関税発表後の市場の混乱と、それに伴う一時停止措置は、米国側にも交渉を通じて「成果」(=関税率の引き下げ合意)を示す必要性を生じさせている可能性があります 50。優先交渉相手である日本は 59、この状況を利用し、全ての要求に応じることなく、例えば薬価制度の「透明性向上」といったプロセス面での譲歩を中心に、当初の24%より低い税率での決着を目指せるかもしれません。
しかし、米国からの要求は、日本の国内政策における深刻なジレンマを引き起こしています。薬価制度や薬事規制は、国内の医療費抑制や安全確保という重要な目的を持ちます(User Query、第V節)。米国の要求(第V節)に全面的に応じれば、これらの国内目標が損なわれる恐れがあります。一方で、要求を完全に拒否すれば、高い関税が再発動されるリスクがあります。このトレードオフは、経済産業省、厚生労働省、外務省など、関係省庁間での難しい調整を必要とします 11。
さらに、このハイステークスな交渉においては、要求される譲歩が当初のヘルスケア分野のNTBを超え、為替政策、農産物市場アクセス、防衛費負担といった他の長年の懸案事項にまで波及するリスクも存在します 59。トランプ政権の取引的な交渉スタイルを考えると、関税という強力なカードを利用して、関連性の薄い分野での譲歩を引き出そうとする可能性は否定できません。
VII. 戦略的インプリケーション
A. 日米二国間関係への短期的・長期的影響
短期的には、安全保障上の同盟関係は維持されつつも、経済面での摩擦と緊張が高まることは避けられません。同盟国である日本に対して高い関税を課し、「友人(同盟国)は敵よりも悪い」とまで言及されたこと 11 は、関係に影を落とします。
長期的には、関税が継続されたり、交渉が強圧的と受け止められたりした場合、二国間の信頼関係が損なわれる可能性があります。日本が経済的なパートナーシップを多様化させる動き(例えば、RCEPの重視、特定分野での中国との連携模索 44)を加速させるかもしれません。一方で、安全保障面での米国のコミットメントを再確認しようとする動きが強まる可能性もありますが 61、経済的な摩擦が支配的になれば、同盟関係全体に影響が及ぶリスクもあります。
この状況は、トランプ政権が重要な地政学的同盟関係を危険に晒してでも、取引的な経済目標を優先する姿勢を示していると解釈できます。安全保障上の要である日本に対し 61、議論の多い算出根拠に基づく高関税 10 を課し、国内政策の核心部分への変更を要求すること [第V節] は、同盟国としての米国の信頼性を揺るがしかねません。日本のような同盟国は、経済的な側面における二国間関係を再評価せざるを得なくなるでしょう 13。
B. 日本の国内ヘルスケア政策と産業への影響
米国からの圧力により、薬価制度(特に透明性・予見可能性)の改革が加速する可能性があります。これは、国内の医療財政の運営方法に変化をもたらすかもしれません (User Query)。また、薬価や償還ルールが大幅に変更された場合、日本の製薬企業の国内市場環境にも影響が及びます。さらに、臨床試験要件などで譲歩すれば、薬事規制の国際調和に向けた動きが促進される可能性もあります。
C. グローバル製薬企業の戦略への影響
主要市場である日本における市場アクセスや価格安定性に関する不確実性が高まります。将来的に医薬品に関税が課されたり、日本が大幅な政策変更を行ったりした場合、企業は投資やサプライチェーン戦略の調整を迫られる可能性があります 12。地政学リスク管理の重要性が、グローバルな事業運営において一層高まるでしょう。
D. 世界の貿易力学とアライアンスへの潜在的変化
相互関税措置は、WTO協定との整合性が疑問視されており 11、多角的貿易体制をさらに弱体化させる可能性があります。地域的な経済連携(RCEPなど)の重要性が増したり、米国を迂回する二国間協定が模索されたりするかもしれません 59。各国は、米中対立の狭間で複雑な舵取りを強いられることになります 44。報復関税の連鎖と貿易戦争のリスクも依然として存在します 43。
NTEレポートによる「障壁」の広範な解釈を根拠とした相互関税は、貿易政策が単なる関税紛争を超えて、国内の規制制度を標的にし、より広範な地政学的・産業政策的な目的を達成するための手段として「武器化」されている現状を象徴しています。これは、貿易を戦略的競争とグローバル経済構造の再編のためのツールと見なす視点と一致します 36。
皮肉なことに、日本のような特定の国に圧力をかけることを目的とした関税措置と、それが引き起こす世界的な経済減速は、影響を比較的受けにくい国や、不確実性を巧みに利用できる国(例えば、米国の同盟国との関係強化を図る中国 44)に、意図せずして機会を与えてしまう可能性もあります。政策の不確実性 [第III節] は、より予測可能と見なされるアクターや代替的な経済モデルを提供するアクターを利するかもしれず、競争相手を孤立させるという米国の目標を損なう可能性すらあります。
VIII. 最近の動向と今後の展望(2025年4月9日以降)
A. 関税の修正と一時停止
- 国別関税の一時停止: 2025年4月10日から7月9日までの90日間、中国・香港・マカオを除く附属書I対象国への国別相互関税率(11%~50%)の適用が一時停止され、その間は10%の基本関税率が適用されることになりました。これは二国間交渉を促進するためとされています 15。
- 対中関税のエスカレーション: 中国が報復関税を発表したことを受け、米国は中国・香港・マカオに対する相互関税率を当初の34%から4月9日に84%へ、さらに4月10日には125%へと段階的に引き上げました。既存の20%関税等と合わせ、実効的な追加関税率は145%に達しました 15。
- デミニミス免税の撤廃(中国・香港): 800ドル以下の少額輸入免税措置が、中国・香港原産品に対して2025年5月2日より撤廃されました。代替として、価額の90%または1個あたり75ドル(6月1日からは150ドル)といった複雑な関税が課されることになりました 1。
- 電子製品の一時除外: スマートフォンやラップトップなどの一部の電子製品が、セクター別の措置が決定されるまでの間、相互関税から一時的に除外されました 15。
この中国に対する劇的なエスカレーションと、他の同盟国・パートナー国に対する一時停止という対照的な動きは、米国が同盟国等とは選択的に緊張緩和を図りつつ、中国との対決姿勢を先鋭化させるという戦略的な転換を示唆している可能性があります。関税引き下げと引き換えに、同盟国等に対して対中政策での連携を迫る狙いがあるのかもしれません 13。
B. 交渉の状況
90日間の停止期間中、米国と多くの貿易相手国との間で交渉が行われています 19。日本は優先的に交渉が進められている国の一つです 59。しかし、米国が恒久的な関税率引き下げの条件として、相手国にどのような譲歩を求めているのか、その具体的な内容は依然として不透明です 19。米中間の交渉については、公には停滞しているか、行われていないように見えます 44。
C. 報復措置と対抗策
米国の関税措置に対し、各国は報復措置で応じています。
- 中国は迅速かつ強力に反撃し、米国製品に対して125%の報復関税を課しました 15。
- EUは、2018年に導入し一時停止していた対米報復関税(バーボン、繊維製品など対象)を再発動させ、さらに大規模な追加関税リストの準備を進めました 6。
- カナダは、米国製自動車に対して25%の報復関税を導入しました 16。
今後、交渉が決裂したり、米国がさらなる関税措置(特にセクター別関税)を発動したりした場合、報復の連鎖がさらに拡大するリスクがあります 3。
D. 今後の見通しとシナリオ
7月9日の交渉期限が迫る中、今後の展開は依然として不透明です。
- シナリオ1(部分的合意): 日本など一部の国との間で合意が成立し、これらの国に対しては恒久的に低い関税率が適用される一方、中国など合意に至らない国には高い関税が維持される。
- シナリオ2(交渉決裂): 交渉が不調に終わり、7月9日以降、一時停止されていた高い国別関税率(Annex I)が再発動される。これにより、さらなる報復措置や市場の混乱が引き起こされる。
- シナリオ3(一時停止延長): 期限までに合意に至らず、一時停止措置が延長される。これにより、不確実な状況がさらに長期化する。
いずれのシナリオにおいても、医薬品、銅、木材など、まだ関税が課されていない分野へのセクター別関税導入の可能性が、引き続き大きなリスク要因として残ります 1。
7月9日という明確な期限 25 は、「崖っぷち(cliff edge)」シナリオを生み出しています。これは、合意に向けた圧力を高める一方で、交渉が決裂した場合のリスクを著しく増大させます。期限までに合意できなければ、高い関税率が自動的に再発動される可能性があり 17、市場が当初示したパニック的な反応 47 や経済への悪影響が再燃しかねません。
また、中国・香港に対するデミニミス免税の撤廃 15 は、この少額貨物貿易円滑化措置が米中貿易摩擦の新たな主戦場として浮上したことを示しています。これは電子商取引に直接的な影響を与え、他の国に対しても同様の措置が取られる前例となる可能性があります。
今後の動向を注視するには、経済指標、市場心理、そして関係国政府の公式声明や交渉の進展に関する報道を継続的にモニターすることが不可欠です。
まとめ
2025年の米国相互関税措置は、その複雑な構造、論争の多い算出根拠、そして広範な適用除外とそれに続く修正措置によって、極めて不確実性の高い貿易環境を生み出しました。IEEPAに基づく国家緊急事態宣言という異例の手段を用いて導入されたこれらの関税は、米国の持続的な貿易赤字と非相互的な貿易慣行の是正を公式な目的とする一方で、その経済合理性や国際ルールとの整合性について深刻な疑問が呈されています。
世界経済への影響は明白であり、主要な国際機関は軒並み成長予測を下方修正し、インフレ圧力の高まりや景気後退リスクの増大を警告しています。金融市場は大きく動揺し、政策の予測不可能性が企業活動や投資判断の重石となっています。特に、関税措置が米国自身の経済に与える負の影響が大きいとの分析が多く、政策の意図と結果の乖離が懸念されます。
医薬品・医療機器セクターは、現時点では関税の直接適用を免れているものの、トランプ政権による将来的なセクター別関税導入の強い示唆(特にアイルランド等を念頭に置いたリショアリング政策の一環として)により、依然として不安定な状況下に置かれています。関税が実際に課されれば、医薬品コストの上昇やサプライチェーンの混乱は避けられず、患者アクセスへの影響も懸念されます。
日米関係においては、相互関税は新たな緊張要因となっています。日本に課された24%(一時停止中)という高い関税率は、長年にわたる米国の対日要求(特に薬価制度や薬事規制に関する非関税障壁)を、関税という強力な手段を用いて解決しようとする試みと見ることができます。日本政府は、経済的打撃を回避するために難しい交渉を強いられており、国内の医療政策決定にも外部からの圧力がかかる状況となっています。
今後の焦点は、7月9日の交渉期限までに、米国と主要貿易相手国(特に日本やEU)との間で、関税率の恒久的な引き下げに繋がる合意が形成されるかどうかです。交渉の行方、セクター別関税の追加導入の有無、そして報復措置の連鎖の可能性など、多くの不確定要素が残されており、世界経済、各産業、そして国際関係の先行きは依然として見通しにくいです。これらの動向は、グローバルな貿易ガバナンス、サプライチェーンの構造、そして地政学的な力学に長期的な変化をもたらす可能性を秘めています。
参照情報
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- Regulating Imports with a Reciprocal Tariff to Rectify Trade Practices that Contribute to Large and Persistent Annual United States Goods Trade Deficits - The White House, https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/04/regulating-imports-with-a-reciprocal-tariff-to-rectify-trade-practices-that-contribute-to-large-and-persistent-annual-united-states-goods-trade-deficits/
- President Trump Announces "Reciprocal" Tariffs Beginning 5 April 2025 | HUB - K&L Gates, https://www.klgates.com/President-Trump-Announces-Reciprocal-Tariffs-Beginning-5-April-2025-4-2-2025
- Reciprocal Tariffs Will Weaken US and Global Economies - The Conference Board, https://www.conference-board.org/research/global-economy-briefs/reciprocal-tariffs-will-weaken-us-global-economies
- Fact Sheet: President Donald J. Trump Declares National Emergency to Increase our Competitive Edge, Protect our Sovereignty, and Strengthen our National and Economic Security - The White House, https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/04/fact-sheet-president-donald-j-trump-declares-national-emergency-to-increase-our-competitive-edge-protect-our-sovereignty-and-strengthen-our-national-and-economic-security/
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- METI Holds Second Task Force for U.S. Tariffs, https://www.meti.go.jp/english/press/2025/0411_002.html
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