エビデンス全般

想定以上の少子化進行(2022年)

日本の少子化が想定を上回って進んでいます。

出生数の前年比減少率は2011〜19年は年平均2%台でした。

それが、新型コロナウイルス禍後の20〜22年は3.8%に加速してしまったのです。

22年の出生数は19年より10万人も減りました。

コロナ下で社会・経済活動の正常化が遅れたことで若い世代の将来不安が強まり、「持ちたい子どもの数」も減ってきています。

これらを踏まえると、今回改めて顕在化した少子化の影響は、長期化する恐れがあるでしょう。

団塊ジュニア高齢化とコロナ禍のダブルパンチ

もともと日本では比較的人口が多い「団塊ジュニア」世代の一部が50代になり、出産適齢期を過ぎたという背景があります。

すなわち、若年世代のボリュームが相対的に小さく、出生率が横ばいであったとしても出生数は減る構造要因があるわけです。

そこにコロナ禍が重なったことで、予想以上の少子化進行に繋がりました。

22年もオミクロン型による流行が相次ぎ、多人数での飲食などを控える動きが続いたのは周知の通りです。

リモートワークも広がり、出会いの機会が減り、マッチングアプリなどのサービスの浸透も進みました。

しかし、それでも結婚数はコロナ前水準に戻っていないのが事実です(2022年時点)。

コロナ禍後も戻らない顧客

宿泊など対面サービス業を中心に顧客が戻らず、長期の休業や失業に追い込まれた人もいました。

20〜40代の男性は働いている人の割合がコロナ禍前より低いというデータがあります。

22年には物価高に伴う賃金の目減りもあり、結婚や妊娠・出産に安心して臨みにくい経済環境が続きました。

妊娠の見送りや希望する子どもの数の減少

影響は妊娠の先送りや理想の子ども数の減少として表れています。

筑波大の松島みどり准教授らがアンケート調査を基に分析したところ、子どもがほしいと希望している既婚女性の2割が、コロナ禍を理由に妊娠を先延ばしした。

家計に不安のある女性は不安のない人より妊娠延期が約3倍多かった、とのことです。

フルタイムの女性に比べてパートタイムや無職の方が2倍程度多いことも分かりました。

国立社会保障・人口問題研究所の21年の調査では未婚者が希望する子ども数が男性で1.82、女性でも1.79と過去最低になっています。

夫婦の平均理想子ども数も2.25と最低でした。

強力な後押しがなければ、今後の少子化はさらに底割れする恐れがあります。

自民党の小渕優子氏は27日の衆院予算委員会で「家事、育児は女性だけが担うものではない」と指摘しました。

「勤務時間や働く場所など働き方の柔軟性を高め、正社員でも無理なく働けるようになれば選択肢が広がる」とも語っています。

岸田文雄首相は「子育て政策を進める上でも重要な課題だ」と答えました。

子どもを産み育てやすい社会へ

中央大の山田昌弘教授は「少子化対策は(考え得る政策を)全部投入しなければならない。大学進学時などの親の負担軽減なども効果があるだろう」と指摘しています。

子どもを産み育てやすい社会に作り変えていくことも大切です。

年功序列ではなく仕事や能力に応じた賃金制度になれば、若いうちから収入を増やしやすくなります。

在宅勤務などの働き方改革で、女性に偏りがちな負担を分かち合うことも必要です。

少子化対策が効果をあげても、経済や社会保障の支え手がすぐに増えるわけではありません。

リスキリング(学び直し)や人工知能(AI)の活用などで、経済の生産性を底上げする取り組みも欠かせないでしょう。

想定よりも11年早い

厚生労働省は28日、2022年の出生数が外国人を含む速報値で前年比5.1%減の79万9728人だったと発表しました。

80万人割れは比較可能な1899年以降で初めて。国の推計より11年早い数値です。

出産期にあたる世代の減少に加え、新型コロナウイルスの感染拡大で結婚や妊娠・出産をためらう人が増えました。

若い世代の経済不安を和らげ、出産に前向きになれる社会に変える必要があります。

出生数は7年連続で過去最少を更新しました。

22年の出生数は19年の89.9万人より10万人少ない数字です。

出生数が最も多かった1949年の269.6万人に比べると、22年は3割に満たないものです。

コロナ禍における結婚減少

急速な出生減の主因はコロナ禍での結婚の減少でしょう。

19年に60万組を超えていた婚姻数が20年に53.7万組、21年に51.4万組に減り、22年も51万9823組にとどまりました。

日本では結婚数がその後の出生数に直結する傾向があり、影響が色濃く出たと考えられます。

コロナ下の経済の混乱も妊娠・出産をためらう要因となったことでしょう。

行動制限などは和らいだものの出生数が反転する兆しは見えていません。

22年の出生数を月ごとに見ると12月は前年同月に比べて6.8%減りました。

減少率は4カ月続けて拡大しています。

年間の減少率も22年は5.1%で、21年の3.4%減より大きい数字です。

経済成長力や社会保障持続性への影響

人口の動きは日本経済の成長力や社会保障の持続性を左右しかねません。

国立社会保障・人口問題研究所が17年に公表した最新の推計では、基本的なシナリオとされる出生中位の場合に出生数が80万人を下回るのは33年でした。

ところが、実際には11年も前倒しとなったのが現実です。

低位では21年に77万人となって80万人を割る想定で、現状は最も悪いシナリオに近いものとなります。

また、人口減も加速しています。

死亡数は8.9%増の158万2033人で過去最多を更新しました。

新型コロナによる死亡が影響した可能性があります。

出生から死亡を引いた自然減も78万2305人と過去最大です。

減少幅は21年より17万人ほど広がった計算になります。

今回の速報値は外国人による出産や死亡などを含んでいます。

一方で、日本人のみの出生数や合計特殊出生率は6月に公表予定です。

減少ペースをもとに、加藤勝信厚労相は2月に「77万人前後になるのではないか」との見方を示しています。

日本の社会保障制度は持続可能性を問われます。

高齢者自身の負担に加えて、現役世代が果たす役割が大きいためです。

実は、年金や医療、介護など約130兆円の給付費の財源のうち、現役が多くを拠出する保険料は全体の半分以上を占めています。

出生が減れば、高齢者を支える将来世代が減るのは周知のところです。

そして、もしそうなると、保険料の引き上げなど一段の負担増が避けられなくなります。

欧米各国での出生数回復

欧米の多くの国はコロナ禍による出生減からすでに回復しました。

ドイツやフランス、ベルギーなど少子化対策が手厚い国は回復が早い傾向があります。

ドイツは21年の出生数が二十数年ぶりの高水準になりました。

ドイツでは、男性の育児参加など子育てしやすい環境作りに取り組んでいます。

フランスは多子世帯の税優遇や育児休業中の賃金保障などで支援します。

岸田文雄首相は政権の最重要課題として次元の異なる少子化対策を掲げ、3月末をメドに具体策をまとめる見通しです。

短期的には出産・育児への支援充実が欠かせません。

厚労省の調査によると、妻が35歳未満で理想の数の子どもを持たない夫婦の77.8%が「お金がかかりすぎる」ことを理由に挙げています。

京都大の柴田悠准教授は2月20日の政府会議で児童手当の増額や学費の軽減、保育の定員拡大などが必要と訴えました。

即時に必要な政策に25年ごろまでに年間6.1兆円規模を投じる必要があるといいます。

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