Table of Contents
ソーシャル・キャピタルとは
公衆衛生や社会福祉の文脈で、ソーシャル・キャピタルという言葉を目にする機会が増えてきました。
日本語では、社会的資本であったり、社会関係資本といった表現に翻訳されています。
ソーシャル・キャピタルの備える重要な要素は、大きく2つです。
- 資本である
- 社会的関係性、または周囲との関係性の中に生まれるものである
資本である
経済学的理論においては、資本は2つの特徴を備えています。
- 将来の利益のために財を消費する必要がある(投資や犠牲が必要である)
- 投資により何らかの面で生産性が向上する
ソーシャル・キャピタルに落とし込んで考えてみましょう。
ソーシャル・キャピタルの典型例として、ボランティア活動があります。
ボランティア活動への参加のためには、その活動に参加しなかったときに使える「自分の時間」が費やされています。
そして、ボランティア活動で例えば地域の清掃活動をした場合、その地域の生活環境の向上に繋がります。
生活環境の悪化による二次被害を未然に防いでいるという面でも、またほかの人が清掃する際に費やされる労力を軽減するという意味でも、「何らかの面で生産性が向上する」ことに繋がります。
「自分の時間やエネルギーを使って、誰か他の人の役に立つことをする」という行為は、総体として資本の投下とみなせます。
社会的関係性、または周囲との関係性の中に生まれるものである
ソーシャル・キャピタルは、その名の通り、ソーシャルな文脈で語られるものです。
人と人、あるいは、人と社会全体との間に築かれる関係性を考えることで、どんな影響がどのように働くかを捉えられます。
次の3つの側面から考えてみましょう。
- どのように広がっていくか
- どのように統制されているか
- どのようにモチベーションが発生し、維持されるか
どのように広がっていくか
人は誰しも、近くにいる人の影響を受けやすい、というものです。俗な表現をするならば「口コミ」です。
育ての親の言葉、同居している家族との会話、親しい友人とのやりとり、仕事を通じた交流など、直接人づてで得た情報は、CMやインターネット検索、書籍からの情報に比べて影響が大きいでしょう。
「こんな食事や運動の習慣を取り入れたら、身体の調子がすこぶる良い」であったり、「○○について困ったことがあったら、△△に行って、□□のサービスを利用するといいよ。私も利用してすごくよかった。」などですね。
そんなおすすめ情報を実際に試してみて、実際に自分も良いと思ったのであれば、機会があれば他の人に勧めることもあるでしょう。
いまはSNSのような手段もありますが、顔が見えているかどうかは大きな違いを生みます。
この情報の広がりは、集団内におけるコミュニケーションの密度にも依存します。
普段から頻繁に交流が生まれているような集団の場合、この情報の広がり、拡散のスピードは速くなります。
ソーシャル・キャピタルが豊かであるというのは、この「普段から頻繁に交流が生まれている状態」を指します。
ソーシャル・キャピタルが豊かな集団では、情報の広がりが速やかに行われる、ということですね。
どのように統制されているか
ソーシャル・キャピタルが豊かな集団では、集団に属する人々が、その集団の地域社会秩序を自らの力で維持しようとします。
秩序の維持というと、やや過激な活動も思い浮かんでくるかもしれませんが、犯罪抑止のための力、という意味合いで理解しておくとよいでしょう。
犯罪以外にも、未成年者の飲酒や喫煙を予防するためにも、地域社会の目は知らず知らずのうちに影響を与えている場合があります。
どのようにモチベーションが発生し、維持されるか
ソーシャル・キャピタルとして自分の時間やエネルギーを費やすにあたり、モチベーションは不可欠です。
そのモチベーションとしては、完全な社会への奉仕活動という場合もあれば、その集団における自分の評判を良くしたい(悪くしたくない)という場合もあります。
自然災害が起きた後の復興支援活動などは、完全に純粋な奉仕活動という面が主だと考えたいところですが、後々の被災地集団からの評判を見越しての投資という側面も全くないとは言えないでしょう。
ソーシャル・キャピタルの良い面・悪い面
ソーシャル・キャピタルの良い面
ソーシャル・キャピタルの良い面としては、すでに上で述べている内容と重複しますが「投資により、何らかの部分での生産性向上に役立てる」という点です。
ソーシャル・キャピタルの悪い面
薄々感じておられる方も少なくないと思いますが、ソーシャル・キャピタルには悪い面、負の側面があります。
この負の側面は、主に4つです。
- 部外者を排除するようになりがち
- 集団構成員に対する要求が過度になりがち
- 集団構成員の行動の自由を制限しがち
- 規範を下方修正させがち(下には下がいる、と安心するのはNG。)
まとめ
ソーシャル・キャピタルという考えは、経済学をはじめ、社会学、政治学などでも1980年代頃から議論され始めた、といった背景があります。