リスクに基づくモニタリング、という考え方があります。
リスクベーストモニタリング、RBM (Risk-Based Monitoring) といった表現もなされます。
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リスクに基づくモニタリングに関する基本的考え方について(薬生薬審発0705第7号 令和元年7月5日)
医薬品の治験等の実施の基準に適合した治験等の円滑な実施に当たって参考となるガイダンス(以下「GCPガイダンス」という。)については、「「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」のガイダンスについて」(平成 24 年 12 月 28 日付け薬食審査発 1228 第7号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)の別添として示しており、治験等の実施におけるリスクに基づくモニタリングについては、「リスクに基づくモニタリングに関する基本的考え方について」(平成 25 年7月1日付け厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課事務連絡。以下「平成 25 年事務連絡」という。)等により、基本的な考え方を示しているところです。
今般、医薬品規制調和国際会議(以下「ICH」という。)の合意に基づき、ICH-E6(R2)ガイドラインが取りまとめられ、品質管理及び品質保証を包括する概念である「品質マネジメント」や、リスクに基づくモニタリングに係る記載が盛り込まれたこと等に伴い、GCPガイダンスを改正しました(令和元年7月5日付け薬生薬審発 0705 第3号厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)。
これに併せ、リスクに基づくモニタリングに関する基本的考え方について、別添のとおり改めて取りまとめましたので、御了知の上、貴管下関係業者、医療機関等に対して周知いただきますよう御配慮願います。
なお、本通知に伴い、平成 25 年事務連絡は廃止します。
リスクに基づくモニタリングに関する基本的考え方
1.背景
治験の実施に当たっては、モニタリングに要する業務量や費用が多く、治験の活性化に向けて更なる効率化が必要であることが指摘されている。「臨床研究・治験活性化5か年計画 2012」(平成 24 年3月 30 日文部科学省・厚生労働省)においても、治験手続の効率化における短期的目標に「サンプリングSDV(Source Document Verification)の在り方の検討を含め、モニタリング業務(直接閲覧を含む)を効率化する」ことが挙げられており、「臨床研究・治験の推進に関する今後の方向性について(2019 年版)中間とりまとめ」(平成 31 年3月 29 日厚生科学審議会臨床研究部会)においても、「AMEDや日本医師会における人材育成やリスクベースドモニタリングの導入などの業務の効率化に関する活動については引き続き積極的に推進」することとされている。
適切かつ効率的なモニタリング手法の導入は、企業主導治験の効率化はもちろん、人的及び経済的資源に制約が多い医師主導治験において、治験の円滑な実施につながることが期待される。
2.リスクに基づくモニタリング
近年、治験の多様化が進んだこと、EDC(Electronic Data Capture)の普及に伴い治験に関するデータを迅速に中央で一括管理することが可能となってきたこと等から、治験の目的に照らしたデータの重要性や被験者の安全確保の観点で、当該治験の品質に及ぼす影響を評価し、それらのリスクに基づいてモニタリングを実施する手法についても検討されるようになってきた。
平成 25 年 11 月に欧州医薬品庁(EMA)及び平成 25 年8月に米国食品医薬品局(FDA)において、それぞれリスクに基づくモニタリング又は品質管理に関するガイダンスが発出され、本邦においても、平成 25 年7月にリスクに基づくモニタリングに関する基本的考え方がとりまとめられた。いずれのガイダンス及び基本的考え方においても、臨床試験の品質管理の重要性を指摘しつつ、リスクに基づくモニタリング手法を適切に適用し、モニタリング業務の効率化を図ることが推奨されている。
なお、リスクに基づくモニタリングは、品質マネジメントの一環として実施されるものであり、品質マネジメントの考え方は「治験における品質マネジメントに関する基本的考え方について」(令和元年7月5日付け薬生薬審発 0705 第5号厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)の別添で示している。
医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成9年厚生省令第 28 号。以下「GCP省令」という。)においても、被験者の安全性の確保及び治験の科学的な信頼性を確保できるのであれば、モニタリングを実地でのSDVを主体とする手法以外で実施することは可能とされている。また、GCP省令第 21 条第1項及び第 26 条の7第1項に係るGCPガイダンス(平成 24 年12 月 28 日付け薬食審査発 1228 第7号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知の別添)において、治験のモニタリング実施に当たり、体系的で優先順位を考慮したリスクに基づく取組の実施を推奨している。当該ガイダンスでは、オンサイトモニタリング、オンサイトモニタリング及び中央モニタリングの組み合わせ、又は、正当な場合には、中央モニタリングを選択することができることを示している。
なお、オンサイトモニタリングは実施医療機関等の実地において行われる。
中央モニタリングは、集積するデータの時宜にかなった遠隔的な評価であり、適切な資格を有し、教育を受けた者(データマネージャー、生物統計学者等)による補助も可能である。中央モニタリングプロセスは付加的なモニタリング能力を提供し、オンサイトモニタリングを補完し、その範囲及び(又は)頻度の削減を可能とするとともに、信頼性のあるデータと信頼性が無い可能性のあるデータを区別するのに役立つ。中央モニタリングによる集積するデータの評価(統計的解析を含む)は、以下のとおり利用することができる。
- データの欠測、不整合及び外れ値、事前に予測されていたデータのばらつきがないこと並びに治験実施計画書からの逸脱の特定
- 実施医療機関内及び施設間におけるデータの範囲、一貫性及び変動等、データの傾向の検討
- 実施医療機関内又は施設間におけるデータ収集及び報告の体系的又は重大な過誤、データ操作の疑い若しくはデータの完全性の問題を示す可能性の評価
- 実施医療機関の特性及び性能指標の分析
- オンサイトモニタリング実施対象の実施医療機関及び(又は)プロセスの選択
3.リスクに基づくSDV手法
モニタリングにおいてSDVを実施する際、リスクに基づくSDV手法を活用することが可能である。リスクに基づくSDV手法とは、治験の目的に照らしたデータの重要性や被験者の安全確保の観点から、当該治験の品質に及ぼす影響を考慮し、評価項目の種類・特性、対象症例の複雑さ、医師や実施医療機関に関する要因、来院時期等を踏まえて適切に定められた方法に従って抽出したデータを対象としてSDVを行う方法をいう。
なお、実施医療機関及び治験の実施に係るその他の施設において、治験の品質保証が適切に履行できる場合にあっては、必ずしも全ての治験データ等について原資料との照合等の実施を求めるものではないこととする。
4.リスクに基づくモニタリング及びSDV手法の適用に際しての基本的考え方
以上のような状況を踏まえ、治験の実施に当たってリスクに基づくモニタリング及びSDV手法を活用する際の現時点における基本的考え方を以下に示す。
- モニタリング戦略、モニタリングにおける全ての関係者の責務、使用する様々なモニタリング手法及びその使用根拠は、モニタリング計画書において明確化すべきである。なお、日常的な診療業務で実施しない事項や、追加的なトレーニングを要する事項については、特別な注意を払う必要がある。
- モニタリング手法の多様化に伴い、SDVによらないモニタリングが実施されることを考慮し、実施医療機関は、速やかにデータを提出するよう努める必要がある。
- リスクに基づくモニタリング及びSDV手法を活用する際には、治験の品質確保のため、治験責任医師、治験分担医師、治験協力者等の関係者が、本手法の目的及び手続について十分に理解していることが必要である。その上で、当該関係者は、実施医療機関において正確な症例報告書を作成すること等の責務が自らにあることを自覚して行動することが求められる。
- 実施医療機関においては、治験のプロセス管理に重点を置いて、正確な症例報告書が作成されるための適切な方策を実施することが必要である。たとえば、治験に関連して実施医療機関で収集されるデータを適切に管理するため、通常でも診療録に記録が残される事項(情報)と治験のために特別に記録を残すべき事項を明確に区別し、双方を適切に記録に残すためのルールと体制を確立すること等が考えられる。
- 治験依頼者(又は自ら治験を実施する者)においては、当該治験の目的を達成するために必要な事項に絞ってデータ収集を行う等、試験のデザイン(治験実施計画書や症例報告書の様式等)を簡潔明瞭なものにすることが重要である。
- リスクに基づくモニタリング及びSDVの具体的な手法を検討する際には、治験の目的、試験デザイン、エンドポイント、試験対象集団、治験責任医師及び実施医療機関等の経験、治験の実施体制等が考慮されるべきである。