臨床試験

ICH-E3 治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドライン

2021年6月5日

治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドラインについて

平成8年5月1日 薬審第335号
各都道府県衛生主管部(局)長あて 厚生省薬務局審査課長通知

近年,優れた新医薬品の地球的規模での研究開発の促進と患者への迅速な提供を図るため,承認審査資料の国際的ハーモナイゼーション推進の必要性が指摘されている。

このような要請に応えるため,日・米・EU 三極医薬品承認審査ハーモナイゼーション国際会議(ICH)が組織され,品質,安全性及び有効性の3分野でハーモナイゼーションの促進を図るための活動が行われている。

治験の総括報告書については,「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」(平成元年10月2日薬発第874号薬務局長通知)により,各治験実施計画書ごとに作成することとされているが,本ガイドラインは,ICH における三極の合意事項に基づき,その作成のための標準的と思われる方法を示したものである。

貴管下関係業者に対し周知方よろしく御配慮願いたい。

治験の統括報告書の構成と内容に関するガイドライン

Table of Contents

序文

本ガイドラインは,治験の総括報告書の作成に当たっての,その構成と内容に関する指針を示すものである。本ガイドラインは,ICH ガイドライン“Structure and Content of Clinical Study Report”に基づいて作成されたものであり,本ガイドラインに基づいて作成された総括報告書の中核部分は,ICH 参加地域の全ての審査当局に共通に受け入れ可能となる。個々の審査当局が特別に必要とする資料は,要求に応じてこの中核部分に添付する付録として構成される。

本ガイドラインに記載された治験の総括報告書は,患者を対象として実施された治療薬,予防薬又は診断薬(以下,薬剤又は治療と略す)の個々の治験についての臨床及び統計上の記述,提示及び分析内容を一つの報告書に統合した「統合された」詳細報告書である。報告書には,表及び図を報告書本文中か本文の末尾に含め,付録には,治験実施計画書,症例記録用紙の見本,治験責任医師(治験実施施設において治験の実施に関して責任を有する医師又は歯科医師)等に関する情報,治験薬(被験薬又は対照薬として用いられる有効成分を含む製剤又はプラセボ)に関する情報,技術的統計的文書,関連する刊行物,患者データの一覧表,並びに計算式の導出,コンピュータ処理,分析及びコンピュータ出力などの技術的統計的な詳細に関する事項を含めること。別々の臨床及び統計報告書を単に合わせたものをもって,治験の統合された詳細報告書とすべきではない。本ガイドラインは,有効性及び安全性の評価を目的とした治験を主な対象としているが,ここに述べる基本的原則及び構成は,例えば臨床薬理試験のような他の種類の治験にも適用が可能である。試験の性質と重要性によっては,簡略化された報告書が適切であることもある。

本ガイドラインは,完備していて,不明瞭な点がなく,きちんと整理され,かつ審査が容易な報告書の作成のために,治験依頼者を支援することを目的としている。報告書には,治験の主要なデザイン上の特徴がどのように選択されたかを明確に説明し,さらに治験の計画,方法及び実施について十分な情報を含めること。それにより,治験の実施方法に関する不明瞭な点がなくなる。報告書には,付録を含めて,人口統計学的データ及び基準値を含む十分な個別患者データ並びに解析方法の詳細を提示すること。それにより,審査当局が望むときには,特に重要な解析をやり直すことも可能になる。さらに,全ての解析,表及び図に関しては,それらがどの患者集団をもとに作られたかが明確に同定できる情報を本文中又は図表の一部分に含むことが重要である。

例えば対照を置かない試験又は有効性を立証できるようにデザインされていない試験(しかし安全性に関する比較対照試験については完全な報告書を作成すること),重大な不備のある若しくは中断された試験,又は申請効能となる病態とは明らかに無関係な病態に対する比較対照試験などの場合には,要約したデータを用いたり,いくつかの章を削除した簡略化された報告書が受け入れ可能であろう。しかし,このような場合でも,安全性の側面については詳細な記述を含めること。簡略化された報告書を提出する場合には,デザイン及び結果についての詳細を十分に示すことにより,審査当局が詳細な報告書が必要かどうかを判断できるようにすること。詳細な報告書が必要かどうかについて疑問があれば,審査当局に相談することが役立つであろう。

治験の実施方法の詳細な説明としては,最初の治験実施計画書の記述を単に繰り返し述べることでよい場合もある。しかしながら,別の文書でより簡潔に試験方法を示すことが可能であることが多い。治験のデザイン及び実施について記述しているそれぞれの章では,治験実施計画書には十分に記述されていない試験の特徴を明らかにしたり,実際に実施された方法のうちどこが治験実施計画書と異なっていたかを明確にすることや,計画された治験実施計画書からの逸脱を吟味するために用いた統計手法や分析について考察することが特に重要である。個々の治験の十分に統合された総括報告書には,個々の有害事象や臨床検査値異常に関する最も詳細な考察を含めること。しかし,通常これらは,どのような申請書類においても,利用可能な全てのデータを対象とする総括的な安全性の分析のなかで再吟味されるべきである。

報告書には,治験対象集団の人口統計学的特性(demographic characteristics)及びその他の予後に影響し得る因子を記述すること。さらに,治験が十分に大規模であって可能な場合には,人口統計学的な(例えば,年齢,性,人種,体重の)部分集団や,その他(例えば,腎機能や肝機能)の部分集団に関するデータを示すこと。それにより,有効性又は安全性に存在し得る差異を明確にすることができる。しかしながら,通常は,総括的な分析に用いられるさらに大きなデータベースにおいて,部分集団の反応は吟味されるべきである。

報告書の一部として要求されるデータ一覧表(通常は付録に含まれる)は,主要な解析の裏付けに必要なものである。報告書の一部としてのデータ一覧表は,審査官がすぐに使用可能なものとすること。したがって,限られた大きさの一つの表に多くの変数を含めることが望ましい場合もあるが,そのために明瞭さを犠牲にしないこと。データが多いからといって,単語又は理解しやすい略号の代わりに記号を過剰に用いたり,表示を細かくし過ぎたりしないこと。このような場合には,複数の一覧表を作ることが望ましい。

報告書においては,データを様々な程度の詳細さで提示することが要求される。重要な人口統計学的変数,有効性及び安全性の変数に関して全体的に要約した図表は,重要な点を示すために本文中に含めてもよい。その他の人口統計学的変数,有効性及び安全性の変数に関する要約された図表及び一覧表は,本文末尾の14章に提示すること。特定の患者群の個人データは,一覧表として付録16.2に添付すること。

いかなる図表やデータ一覧表においても,推定値又は計算により求めた値が使われたならば,それと分かるように明示すること。どのような方法でその値を推定又は計算したか,またどんな仮定に基づいているのかについて詳細な説明を示すこと。

以下に示した指針は詳細なものであり,申請後のデータの説明や解析の追加要求を可能な限り少なくできるように,通常提出されるべき情報が何であるかを申請者に示すことを目的としている。しかしながら,データの提示及び(又は)解析に関する個々の要求事項は,時代,薬効群,地域等の状況に左右される場合があり,一般的な形式には記述できない。それ故,可能な限り個別の臨床ガイドラインを参照したり,データの提示及び解析について審査当局と協議することが重要である。

どの報告書においても,ここに記載された全ての事項を(明らかに無関係でない限り)考慮すること。ある特定の治験において,別の方法がより論理的な場合には,事項の個々の順序や章分けを変えてもよい。

非常に大規模な治験の場合には,本ガイドラインの規定のいくつかが実際的でなかったり不適切であるかもしれない。そのような治験の計画時や報告時には,審査当局と連絡を取り,適切な報告書の書式について協議することが奨励される。

本ガイドラインの規定は,他の ICH のガイドラインと関連づけて使用されたい。

治験の総括報告書の構成と内容

1.標題ページ

標題ページには下記の情報を含めること。

  • 治験の標題
  • 被験薬名
  • 対象とした適応
  • 標題から明らかでない場合,デザイン(並行群間比較,クロスオーバー,盲検化,無作為化),比較(プラセボ,実薬,用量-反応),期間,用量及び患者母集団についての簡潔な(1,2行の)記述
  • 治験依頼者名
  • 治験実施計画書の識別コード(又は番号)
  • 開発のフェーズ
  • 治験開始日(最初の患者を組み入れた日又は照合可能な他の定義による日付)
  • 早期中止した治験であればその日付
  • 治験終了日(最終の患者が完了した日)
  • 治験総括(調整)医師又は治験依頼者の医学責任者の氏名と所属
  • 治験依頼者側の署名者の氏名(治験依頼者の総括報告書の責任者。審査中に総括報告書について発生する質問の窓口となる治験依頼者の担当者の氏名,電話番号,ファックス番号をこのページ又は申請書に示すこと。)
  • 必須文書の保管も含め,医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)に従って治験が実施されたことを示す陳述
  • 報告書の日付(標題と日付により,同一治験のそれ以前のいかなる報告書とも区別する。)

2.概要

治験を要約する簡潔な概要(通常3ページ以内)を示すこと(欧州で用いられている概要様式の例として,本ガイドライン別添Ⅰを参照)。概要には,単に文章や p 値だけでなく,結果を説明するための数値データも含めること。

3.目次

目次には下記の項目を含めること。

  • 要約表,図及びグラフを含む各章のページ番号や位置を示す他の情報
  • 提示した付録,表及び症例記録の一覧とそれぞれの位置

4.略号及び用語の定義一覧

報告書の中で用いられる略号一覧表及び専門用語,一般的でない用語又は測定の単位の一覧表及び定義を示すこと。さらに,省略された用語が初めて用いられる箇所では,その省略していない表現を記載し,括弧内に略号を示すこと。

5.倫理

5.1 治験審査委員会(IRB)

治験実施計画及びその修正が,治験審査委員会により審査されたことを確認し,記載すること。審議を依頼した治験審査委員会の一覧(確認が行われた年月日,並びに委員の氏名及び職名)を付録16.1.3に添付すること。

5.2 治験の倫理的実施

治験がヘルシンキ宣言に基づいた倫理原則に従って実施されたことを確認し,記載すること。

5.3 患者への情報及び同意

インフォームド・コンセントが,患者の登録(例えば,割付け時,事前のスクリーニング時)との関係において,いつどのように得られたかを記載すること。

患者への説明文書や同意書の見本を付録16.1.3に添付すること。

6.治験責任医師等及び治験管理組織

治験の管理組織(例えば,治験総括(調整)医師,運営委員会,管理・モニタリング・評価委員会,研究機関,統計担当者,臨床検査等の中央測定施設,開発業務受託機関(CRO),治験資材の管理)を簡潔に本文中で説明すること。

治験責任医師等の氏名,所属,治験における役割及び資格(履歴書又はそれに準じるもの)の一覧表を付録16.1.4に添付すること。治験実施に実質的な影響を及ぼした他の参加者についての同様の一覧表もまた16.1.4に添付すること。多数の治験責任医師が参加する大規模試験の場合には,治験における役割によっては,この一覧表は以下のように省略してもよい。すなわち,各治験責任医師や他の参加者の氏名,学位及び研究機関内での所属のみからなる一般的な資格並びに治験における役割の記述にとどめてもよい。

一覧表には下記の記述を含めること。

  1. 治験責任医師
  2. 看護婦,医師補助員,臨床心理学者,臨床薬剤師,病院勤務医などのうち,効果に関する主要な又は重要な変数の観察を行った全ての人々。ただし,副作用に対する処置をした当直医や,上記のいずれかの人の臨時の代理など,一時的な役割を果たしただけの人については,この一覧表に記載する必要はない。
  3. 報告書の著者(生物統計担当責任者を含む)

治験総括(調整)医師又は治験依頼者の医学責任者の署名を付録16.1.5(書式見本は別添Ⅱを参照)に添付すること。

7.緒言

緒言には,被験薬の開発における当該治験の位置づけ及びその開発に関連する当該治験の特に重要な特徴(例えば,実施の根拠と目的,対象母集団,治療法,期間,主要評価項目)についての簡潔な記述(最高1ページ)を含めること。治験実施計画書の作成の基となったガイドライン,又は当該試験に関して治験依頼者と審査当局との間に交わされた合意事項・会合について,明示又は記述すること。

8.治験の目的

治験の全般的な目的を記述すること。

9.治験の計画

9.1 治験の全般的デザイン及び計画-記述

全体的な治験の計画とデザイン(構成:例えば,並行群間比較,クロスオーバー)について,必要に応じ図やダイアグラムを用いて,簡潔かつ明瞭に記述すること。他の治験が非常に類似した治験実施計画書を用いていた場合,その旨を記載するとともに,重要な相違点を全て記述することが有用であろう。実際の計画書及びその改訂を付録16.1.1に,症例記録用紙の見本(内容の異なるページのみを含める。つまり評価や来院時期が異なっても同じ書式であれば含める必要はない。)を付録16.1.2に添付すること。この章の記載事項で治験実施計画書に含まれないものは,その内容と情報源を明確にすること。

下記の項目を含めること。

  • 検討した治療法(特定の薬剤,用量及び用法)
  • 検討した患者母集団及び計画された症例数
  • 盲検化の水準と手法(例えば,非盲検,二重盲検,単盲検,又は評価者については盲検であるが患者及び(又は)治験責任医師等については非盲検など)
  • 対照の種類(例えば,プラセボ,無治療,実薬,用量-反応,既存対照)及び試験の構成(並行群間比較,クロスオーバー)
  • 治療への割付け手法(無作為化,層別化)
  • 無作為化前及び治療終了後の期間,治療中断の期間,並びに単盲検下又は二重盲検下での治療期間を含む,全ての治験期間の順序と長さ。いつ患者が無作為割付けされたかを特定すること。評価の時期を含むフローチャートを用いて,治験のデザインを図で表示することが一般に役立つ(例として別添 IIIa 及び IIIb を参照)。
  • 安全性委員会,データモニタリング委員会又は特別な運営・評価委員会
  • 中間解析

9.2 対照群の選択を含む治験デザインについての考察

選択された特定の対照や用いた治験デザインについて,必要に応じ考察すること。考察する価値のあるデザイン上の論点の例を以下に示す。

一般に知られている対照(比較)群は,プラセボ同時対照,無治療同時対照,実薬同時対照,用量比較同時対照,既存対照である。対照の取り方以外に考察を必要とする重要なデザイン上の特徴は,クロスオーバー法の使用や,特定の薬剤又はある薬効群の薬剤に反応する・しないといった特殊な既往を有する患者の選択である。無作為化を用いなかった場合には,系統的な選択の偏りを防ぐためにどのように他の方法を用いたのか(もし用いたなら)を説明することが重要である。

採用した治験デザインや対照群に関して知られているか提起される可能性のある問題点については,治験対象となる特定の疾患や治療法に照らして考察すること。例えばクロスオーバー法については,とりわけ治験中に疾患が自然変動する可能性及び治療の持越し効果の可能性を考慮すること。

同等性を示すこと,つまり確立した治療との比較において,新しい治療がある一定の値以上は劣らないことを示すことにより有効性を検証しようとしたのであれば,そのような治験デザインに関する問題点を述べること。特に,その治験で有効な治療を無効な治療と区別でき得るとみなす根拠を述べること。デザイン上の重要な特徴(患者の選択,治験のエンドポイント,期間,実対照薬の用量,併用療法など)が当該治験に類似しており,当該実対照薬がプラセボより優れているという結果を一貫して示す過去の試験成績を分析することで,裏付けが得られることもあろう。当該治験が,有効な治療と無効な治療とを区別する能力を持つことをどのように示せるのかについても考察すること。例えば,治療集団と無治療群を明確に区別する治療上の反応の大きさを(過去の試験成績に基づき)定めることができるかもしれない。このような反応は,基準値からの測定値の変化,又は治癒率若しくは生存率のような特定の転帰である場合もある。このような反応が達成されたならば,当該治験が活性を有しない薬剤と活性を有する薬剤とを識別し得たとの期待が支持されよう。その治験で,治療法が一定以上に劣らないことを示そうとした治療効果の差(しばしばデルタ値と言われる)についても考察すること。

既存対照の限界はよく知られており(治療群の比較可能性の保証の困難さ,治療法に関して治験責任医師等に盲検化ができないこと,治療法や疾患の変化,プラセボ効果による差など),特別な注意が必要である。

ウォッシュアウト期間の有無及び治療期間の長さを含む,デザインのその他の特徴についても考察する価値があろう。特に慢性疾患の場合にはその価値がある。もし,用量及び投与間隔を選択した理由が明白でないならば,それを合理的に説明すること。例えば,消失半減期の短い薬剤であって,作用が血中濃度の時間的推移に密接に関係している場合は,通常その薬剤を1日1回投与することでは有効性は示されない。もし,治験デザインがそういった投与法を用いているのであれば,例えば,血中濃度に比較して作用が持続するという薬力学的証拠を示すことによって説明すること。次の投与の直前には薬剤の作用が「消失している」という証拠を探索するために用いた手順,例えば投与直前の作用の測定のような手順を記述すること。同様に,並行デザインによる用量-反応試験においては,それらの用量が選択された理由を説明すること。

9.3 治験対象母集団の選択

9.3.1 組み入れ基準

患者母集団及び患者を治験に組み入れるために用いた選択基準を記述し,治験の目的に照らしてその母集団が適切であることを考察すること。用いられた特定の診断基準及び疾患に要求される特定の事項(例えば,特定の重症度又は罹病期間,特定の検査,評価尺度若しくは身体的検査の結果,前治療が有効とか無効というような特定の病歴上の特徴,又は予後因子である可能性のある他の因子及び年齢,性別若しくは人種的因子)を提示すること。

スクリーニングの基準及び無作為化時又は治験薬による治療への組み入れ時に判断するための追加基準について記述すること。治験実施計画書では定義されていない付加的な組み入れ基準があったと考えられる理由がある場合には,それらの意味合いについて考察すること。例えば,治験責任医師によっては,特定の病態又は特定の初期状態を有する患者を除外したり,他の試験に組み入れたりしたかもしれない。

9.3.2 除外基準

治験への組み入れ時点での除外基準を特定し,その根拠(例えば,安全性への配慮,管理上の理由又は治験対象としての適切性の不足)を示すこと。試験結果を一般化する際の除外の影響について,報告書13章又は安全性及び有効性の総括的な分析のなかで考察すること。

9.3.3 患者の治療又は評価の打ち切り

患者の治療又は評価観察を打ち切る理由があらかじめ定められていれば記述し,さらにそれらの患者についての追跡観察の種類と期間が計画されていれば記述すること。

9.4 治療法

9.4.1 治療法

治験の各群において,さらに治験の各期間において用いられる治療又は診断薬について,投与経路,投与方法,用量及び投与スケジュールを詳細に記述すること。

9.4.2 治験薬の同定

総括報告書の本文中に,治験薬(剤型,含量,ロット番号)の簡単な記述を行うこと。複数のロットの薬剤が用いられた場合には,付録16.1.6にそれぞれのロットが投与された患者を特定し,記述すること。

プラセボ及び実対照薬の入手先を示すこと。実対照薬について,市販されている通常の状態から変更された場合には,全ての変更内容を示し,生物学的利用能が変わらないことを保証するためにとられた手順を記述すること。

有効期間が限られていたり,又は安定性データが不完備である治験薬を用いた長期投与試験については,治験薬の再交付の手段について記述すること。有効期限の過ぎた治験薬が使用された場合には,どのような場合でもその旨を記載し,投与された患者を明確にすること。もし,保管上特に必要な事項があるなら,それらも記述すること。

9.4.3 治療群への患者の割付け方法

患者を治療群に割り付けるために用いた特定の方法,例えば,中央割付け,施設内割付け,適応的割付け(つまりそれ以前の割付け又は結果を基にした割付け)について,層別化又はブロック化の手順も含めて報告書の本文中に記述すること。一般的ではない特徴について全て説明すること。

無作為化の方法に関する詳細な記述を,実際にどのように実行されたかを含めて付録16.1.7に添付し,必要ならば引用文献を付けること。無作為割付けコード,患者識別コード及び割り付けた治療法を示した表も付録に添付すること。多施設共同治験の場合には,施設別に情報を示すこと。乱数を発生させた方法について説明すること。

既存対照を用いた試験においては,その特定の対照の選択方法,また,それ以外の過去の成績に関する調査事項,調査した場合にはその結果と採用した対照の成績との比較についても述べることが重要である。

9.4.4 治験における用量の選択

全ての治療に対し,治験で用いられた用量又は用量範囲を示し,その用量選択の根拠(例えば,人での過去の成績,動物データ)を記述すること。

9.4.5 各患者の用量の選択及び投与時期

各患者に用いられた被験薬と実対照薬の用量を選択する手順について記述すること。それらの手順には,単に固定した薬剤・用量を無作為に割付ける方法から,特定の閾用量決定法や不耐容になるまで又は特定のエンドポイントが達成されるまで間隔をおいて用量を上げるといった患者の反応に応じて用量を選択するより手の込んだ手順まで,幅広い方法がある。もし,戻り方向の閾用量決定法(漸減法)を用いたのであればそれも記述すること。

投与の時期(一日の中の時刻,投与間隔)及び食事と投与との関係を記述し,それを特定していないならばその旨を記すこと。

患者に対して薬剤服用の時刻又は方法について何らかの特定の指示を出した場合には,それについて記述すること。

9.4.6 盲検化

特定の患者又は全ての患者について,例えば重篤な有害事象の発現など,どのような状況で開鍵することとしたか,その際に従う手順及び誰が患者コードを参照できたかも含め,盲検化を行うために用いた特定の手順を示すこと(例えば,容器のラベルの貼り方,盲検を破ったことが判るようなラベル,封印された割付コード表又は封筒,ダブルダミー法など)。その治験において幾人かの治験責任医師等に対し非盲検のままであることが許された場合には(例えば,それらの人に薬物治療法の調整を許すために),他の治験責任医師等に対して盲検性を守るために用いた方法を説明すること。被験薬と対照薬が識別不能であったことを保証するための方法及び識別不能であったことの証明について記述し,さらにそれらの外観,形状,臭い及び味を記述すること。臨床検査値により盲検性が破られる可能性がある場合,それを防ぐ手段を講じたのであれば記述すること。盲検化されていないデータを知り得る立場にあるデータモニタリング委員会が設置されている場合には,治験全体の盲検性が維持されていることを保証する手順を記述すること。中間解析を実施する際の盲検性を維持するための手順も説明すること。

いくつかの又は全ての観測項目について,偏りを減らすための盲検化が不必要と考えられる場合には,その理由を説明すること。例えば,自動血圧計を使えば,血圧を読むときに観測者によって偏りが生じる可能性を除去できるし,ホルター心電図を記録したテープはしばしば自動装置で読まれるので,おそらく観測者による偏りが生じない思われる。盲検化が望ましいが実行不可能であった場合には,その理由及び意味合いを考察すること。

ときに,盲検化が試みられたにもかかわらず,少なくとも何人かの患者については明白な薬剤の作用(口渇,徐脈,発熱,注射部位の反応,臨床検査値の変化等)がみられたために,盲検性が不完全になることがある。盲検性に関する問題点又は可能性のある問題点を明らかにし,その問題の大きさを評価又は制御しようと試みた(例えば,あるエンドポイントの検査については,治療の割付けがわかるような情報を知らされていない人によって測定された)のであれば,それらを記述すること。

9.4.7 前治療及び併用療法

治験開始前及び治験期間中に使用が認められた薬剤と使用方法,それらの使用が記録されたか否か及びその記録方法,並びに許容又は禁止された併用療法に関する取り決め及び手順を記述すること。許容された併用療法が,相互作用又は直接作用により,治験のエンドポイントにどのような影響を及ぼしたかについて考察すること。さらに,併用療法及び治験における治療のそれぞれの作用をどのように区別したかについて説明すること。

9.4.8 治療方法の遵守

治療方法の遵守の確認及び記録のためにとられた手段,例えば薬剤量の記録,患者日誌,血中,尿中若しくは他の体液中の薬物濃度の測定,又は投薬状況のモニタリングについて記述すること。

9.5 有効性及び安全性の項目

9.5.1 有効性及び安全性の評価項目及びフローチャート

評価される特定の有効性及び安全性の項目,実施される臨床検査,それらのスケジュール(評価日,評価時刻,食事との関係及び重要な項目の治験薬の投与との関連における測定時期:例えば次の投与直前,投与2時間後など),測定方法及び測定の責任者を記述すること。重要な測定を実施する担当者が交代した場合には,それらを報告すること。

通常,有効性及び安全性に関する測定の頻度及び時期をフローチャート(本ガイドライン別添Ⅲa 及びⅢb を参照)の形式で図を用いて表示することが役立つ。来院回数及び時期を示すか,その代わりに時期のみを用いてもよい(来院回数のみでは解釈がかなり難しい)。患者に対する特定の指示(例えば,手引書又は日誌の使用)についても全て記すこと。

転帰を記述するために用いられる定義(例えば,急性心筋梗塞の発症を認定するための基準,梗塞部位の判定,脳卒中発作が血栓性であるか出血性であるかの区別,一過性脳虚血発作と脳卒中発作の鑑別,死因の認定)について詳しく説明すること。臨床検査又は他の臨床的な測定(例えば,心電図,胸部 X 線)の結果を標準化又は比較するために用いられた方法について記述すること。これは多施設共同治験において特に重要である。

もし,治験責任医師以外の者が臨床的な結果の評価に責任を持つ場合には(例えば,X 線写真若しくは心電図を判定するため,又はその患者が脳卒中発作,急性心筋梗塞若しくは突然死であったかどうかを決定するための治験依頼者若しくは外部の委員会),その担当者又はグループを明らかにすること。盲検性を維持する方法を含む評価の手順及び判定や測定を中央で行う手順を詳細に記述すること。

有害事象データを収集する方法を記述すること(自発報告,チェックリスト又は質問)。また,有害事象について用いられた特定の評価尺度及びその追跡のために特別に計画した手順又は確認のための再投与の計画についても記述すること。

治験責任医師,治験依頼者又は外部グループによる有害事象の評価尺度(例えば,重症度によるランク分け,薬剤との因果関係)について記述すること。そのような評価に対する基準がある場合には示し,その評価に対する責任者を明示すること。有効性又は安全性が順序分類尺度や数値得点などで評価される場合には,得点付与のための基準(例えば,得点の定義)を示すこと。他施設共同治験については,どのように評価方法を標準化したかを示すこと。

9.5.2 測定項目の適切性

有効性又は安全性の評価法が標準的なものでなかった場合,すなわち広く用いられ,かつ信頼でき正確で適切である(有効な薬剤と無効な薬剤の識別ができる)と一般的に認められているものでない場合には,その信頼性,正確性及び適切性について記述すること。検討したが使用しなかった他の評価尺度についても記述することが有用であることもある。

代用エンドポイント(臨床上のベネフィットの直接の指標ではない臨床検査項目,身体測定項目又は兆候)が治験のエンドポイントとして用いられた場合には,例えば,臨床データの公表文献,ガイドライン又は過去の審査事例を引用し,その正当性を説明すること。

9.5.3 有効性の主要評価項目

有効性を判定するために用いた主たる測定項目及びエンドポイントを明確に規定すること。

主要な有効性の測定項目が何であるか自明に思えるかもしれないが,複数の項目がある場合又は繰り返し測定されている場合は,治験実施計画書に主要な項目を明示し,それらがなぜ選択されたのか説明すること。

あるいは,有効性を裏付けると判断されるような意味のある所見の組み合わせパターンを明示するか,又は情報を統合する他の方法を明示すること。

もし,治験実施計画書に主要な項目が明示されていない場合は,総括報告書にはどのようにして主要な項目が選ばれたかを(例えば,公表文献,ガイドライン又は審査事例を引用し)説明すること。

そして,それらがいつ主要な項目と決定されたか(治験が完了する前か後か,盲検が解除される前か後か)を説明すること。有効と判断するための境界値が治験実施計画書で定義されていた場合は,それを記述すること。

9.5.4 薬物濃度の測定

測定された薬物濃度及び試料採取の回数と間隔を,薬剤投与のタイミングと関係づけて記述すること。

薬剤投与及び試料採取と,食物の摂取,患者の体位及び併用薬剤・アルコール・カフェイン・ニコチンによる影響の可能性が考えられる場合には,それらとの関係についても示すこと。

測定された生体試料,その取扱い方法及び用いられた測定方法について記述すること。

なお,測定方法の詳細については,公表された又は内部の分析の妥当性に関する文書を引用すること。

他の因子(例えば,血中遊離受容体,腎機能又は肝機能)が薬物動態の評価にとって重要であると考えられる場合には,これらの因子を測定するタイミングと計画について明らかにすること。

9.6 データの品質保証

データの品質を保証するために実行された品質保証及び品質管理の方法について簡潔に記述すること。もし,それらが行われなかった場合は,その旨を記すこと。臨床検査に関して,施設間の標準化及び品質保証を行ったのであれば,その方法と手順について付録16.1.10に示すこと。

標準的な用語を使用し,正確性,一致性,完備性及び信頼性のあるデータが集められることを保証するために,治験実施施設又は中央でとられた全ての手順,例えば訓練のための研修,治験依頼者による治験責任医師等に対するモニタリング,教育マニュアル,データの照合,クロスチェック,特定の検査についての中央検査センターの利用,心電図の中央判定又はデータの監査等について記述すること。治験責任医師等の訓練及び作業の標準化のために,治験責任医師等の会合又はその他の手段が講じられたか否か述べること。

治験依頼者が,独立した内部又は外部の監査手順を用いた場合は,ここに述べるとともに,付録16.1.8に記載すること。また,可能な場合には,監査証明書を同じ付録に添付すること。

9.7 治験実施計画書で計画された統計手法及び症例数の決定

9.7.1 統計及び解析計画

治験実施計画書で計画された統計解析及び結果を得る前になされた全ての変更について記述すること。ここで強調すべきことは,どのような解析,比較及び検定が計画されていたかであり,実際にどのような手法を用いたかではない。もし主要な項目が複数回測定されたならば,被験薬と対照との比較に用いるために計画された特定の測定値(例えば,試験全体を通じての数回の測定値の平均,特定の時点の値,治験完了例のみの値,治療中の最終の値)を明らかにすること。同様に,基準値からの変化,傾きの解析,生命表解析といった複数の解析手法が妥当とみなせる場合には,計画された手法を明確にすること。また,主たる解析中に共変量による調整を含めるかどうかについても明らかにすること。

利用できるデータのある患者であっても解析から除外する旨の計画された理由がある場合には,その理由を記述すること。別個に結果を吟味するような部分集団があれば,それらを明確にすること。分類尺度による反応(概括尺度,重症度得点,特定の大きさの反応)を解析に用いる予定であったならば,それらを明確に定義すること。治験の結果に関するモニタリングが計画されていれば記述すること。データモニタリング委員会が開催された場合には,治験依頼者の管理下であるか否かを問わず,その構成及び実施手順を記述し,試験の盲検性を維持するための手順を示すこと。計画された中間解析の頻度及び性格,治験の終了に結びつく特定の条件並びに中間解析のためになされた統計的な調整について全て記述すること。

9.7.2 症例数の決定

計画された症例数及びその設定根拠,例えば統計的な考察又は実施上の制約を提示すること。症例数の算出方法をその算出式又は出典とともに示すこと。算出に用いられた推定値を示し,その推定値がどのようにして得られたかを説明すること。治療間の差を見いだすことを意図する治験においては,その試験デザインによって検出したい差を明らかにすること。新治療が少なくとも標準治療と同等の有効性を有することを検証しようとする実薬対照試験においては,症例数の決定にあたって,これ以上大きいと許容できないと考えられる治療間の差,すなわちその試験デザインによって棄却しようとしている差を明らかにすること。

9.8 治験の実施又は計画された解析に関する変更

治験開始後に行われた治験の実施又は計画された解析に関する変更(例えば,ある治療群の打ち切り,組み入れ基準又は薬剤の用法・用量の変更,症例数の調整など)を全て記述すること。また,変更が正式な治験実施計画書の改訂版として文書化されていたかどうかにかかわらず,変更の時期と理由,変更を決定するために用いた手順,変更の責任者となる人物又はグループ,及び変更がなされたときに利用可能であったデータの種類と内容(及び利用できた人物)を記述すること(人事異動は変更に含める必要はない)。試験結果の解釈に対するこれらの変更の意味合いについて,ここでは簡潔に,さらに報告書の他の適切な章ではより詳細に考察すること。

報告書の各章において,治験実施計画書で計画された条件(手順)と,改訂又は追加との違いをはっきり区別すること。一般に,盲検解除の前に解析計画を変更しても,治験の解釈に大きな影響を及ぼさない。従って,特に盲検解除や結果の得られた時期と変更時期との関係を十分に説明することが重要である。

10.治験対象患者

10.1 患者の内訳

報告書の本文中に,図又は表を用いて,治験に組み入れた全ての患者の内訳を明確にしておくこと。無作為割り付けした患者数,組み入れた患者数,及び治験の各スケジュール(又は治験の各週・月)を完了した患者数を示すこと。同様に,無作為割り付け後の全ての中止の理由を治療群及び主な理由(追跡不能,有害事象,服薬遵守の不良など)ごとにグループ化して示すこと。実際の薬剤使用に対する適切な患者母集団を明確にすることに役立つのであれば,治験に組み入れるためにスクリーニングした患者数及びスクリーニング中に患者を除外した理由の内訳を示すことが適切である場合もある。フローチャート(例えば,本ガイドライン別添Ⅳa 及びⅣb を参照)が役立つことも多い。投薬を中止した場合でも,所定の期間中患者を追跡するか否かを明らかにすること。

付録16.2.1に,組み入れ後に治験を中止した全ての症例の一覧表を施設及び治療群ごとに作成し,患者識別コード,個別の中止理由,治療(薬剤及び用量),累積用量(適切であれば)及び中止までの治療期間の長さを示すこと。治験中止となったときに患者に対する盲検性が破られていたかどうか記すこと。重要な人口統計学的データ(例えば,年齢,性,人種),併用療法及び終了時の主要な項目の値等の他の情報を含めることもまた有益であろう。このような表の見本として別添 V を参照すること。

10.2 治験実験計画書からの逸脱

治験の組み入れ又は除外基準,治験の実施方法,患者の管理又は患者の評価に関する重要な逸脱について全て記述すること。

本文中で,施設ごとに治験実施計画書からの逸脱について適切に要約し,下記のような分類にまとめること。

  • 組み入れ基準を満たしていないにもかかわらず,治験に組み入れられた患者
  • 治験期間中に中止基準に該当するようになったが,中止されなかった患者
  • 治療方法や用量が不適切であった患者
  • 禁止されている併用療法を受けた患者

付録16.2.2に,これらの治験実施計画書から逸脱した個々の患者の一覧表を添付し,多施設共同治験においては施設ごとに内訳を示すこと。

11.有効性の評価

11.1 解析したデータセット

有効性の各解析に採用した患者を正確に定義すること。例えば,治験薬を投与された全ての患者,有効性に関する何らかの観察が行われたか又は一定の最小限の数の観察が行われた全ての患者,治験を完了した患者のみ,特定の時間範囲内に観察が行われた全ての患者,規定された程度に服薬遵守した患者のみなど。治験実施計画書に定義がない場合は,解析したデータの採用・除外基準が,いつ(開鍵との関連において),どのようにして設けられたのかを明らかにすること。申請者の提案した主たる解析が,たとえデータのそろった患者に限定した部分集団に基づいたものであったとしても,有効性の検証を意図した治験においては,原則として無作為化した(又は組み入れた)全患者の中で何らかの治療中のデータのある全ての患者を対象とした解析を行い,それを追加すること。

有効性の解析から除外した全ての患者,来院時点及び観察データを付録16.2.3の中で一覧表にすること(例として,本ガイドライン別添Ⅵを参照)。また,全ての治療群の全期間にわたって,除外理由も分析すること(例として,本ガイドライン別添Ⅶを参照)。

11.2 人口統計学的及び他の基準値の特性

患者の特に重要な人口統計学的及び基準値の特性について,群別のデータを提示すること。同様に,治験期間中に発生した反応に影響を与えた可能性のある他の因子についてもこの節で提示すること。さらに,全ての関連する特性についての治療群間の比較可能性を表又は図を用いて14.1節に記述すること。「データのある全ての患者」の解析に用いた患者標本についてのデータを最初に示すこと。次に,例えば治験実施計画書に基づいた解析,その他の主たる解析に用いられた,例えば遵守状況,合併症・併用療法又は人口統計学的・基準値の特性により限定される他の患者群についてのデータを示すこと。このような患者群を用いるときは,補足的に除外された患者群のデータも示すこと。多施設共同治験においては,適切であれば,比較可能性を施設ごとに検討し,施設間で比較すること。

患者標本全体と他の全ての解析対象群との関係を表すダイアグラムを示すこと。

疾患の特性及び治験実施計画書にもよるが,特に重要な変数には,通常,下記疾患の項目が含まれる。

  • 人口統計学的変数
    • 年齢
    • 人種
  • 疾患因子
    • 疾患ごとの組み入れ基準(一定でない場合),罹病期間,疾患の病期と重症度,並びに通常用いられるか又は予後因子として知られている他の臨床上の分類及び部分集団
    • 治験中に測定されるか又は予後や治療に対する反応の重要な指標とされている,特に重要な測定項目の基準値
    • 治験開始時の腎疾患,糖尿病,心不全などの合併症
    • 関連する過去の疾患
    • 当該治験で治療する疾患に関連する前治療
    • 経口避妊薬,ホルモン補充療法を含む治験期間中に継続された併用療法(用量が変更されたものも含む);治験期間へ入る際に中断された(又は治験開始時に変更された)治療
  • 治療に対する反応に影響する可能性のある他の因子(例えば,体重,レニン系の状態,抗体水準,代謝系の状態)
  • =他の関連すると考えられる因子(例えば,喫煙,アルコール摂取,特殊な食事)並びに女性に対しては,治験に関係する場合には月経状態及び閉経時期

これらの基準変数に関する各群のデータを表及び図を用いて提示すること。さらに,臨床検査値を含む個別の患者の人口統計学的データ及び基準値,並びに無作為化された全ての患者に対する全ての併用療法(多施設共同治験では治療ごと及び施設ごとの内訳)を患者ごとの一覧表にして付録16.2.4に添付すること。

11.3 治療の遵守状況の測定

各患者の治験中の治療方法の遵守状況及び体液中の薬物濃度の測定結果を要約し,治療群及び時間間隔ごとに分析し,さらに付録16.2.5として一覧表を添付すること。

11.4 有効性に関する成績及び個別患者データ一覧表

11.4.1 有効性の解析

主要な有効性の測定値全て(主たるエンドポイント及び副次的エンドポイント;調査された全ての薬力学的エンドポイント)について治療群間で比較すること。同様に,各患者におけるリスク・ベネフィットの評価が行われていれば,それらについても比較すること。一般に,有効性の検証を目的とした試験では,治験実施計画書で計画した解析の結果及び治験中のデータのある患者を全て含めた解析の結果を示すこと。その解析では,治療間の差の大きさ(点推定)及びそれに伴う信頼区間を示すこと。また,仮説検定を実施したならば,その結果も示すこと。

連続変数(例えば,平均血圧,抑うつ尺度評点)に基づく解析も,反応による分類(例えば,感染症の治癒)に基づく解析も,ともに妥当であり得る。両方ともに計画されており,実施されたならば,両方とも提示すること。もし,(統計解析計画にはない)新しい分類を作った場合には,それらの根拠について説明すること。たとえ一つの変数(例えば,血圧試験における×週目の臥位血圧)に主たる関心があるとしても,他の適切な測定値(例えば,立位血圧や他の特定の時点での血圧)についても少なくとも簡潔に評価すること。さらに,可能な限り反応の時間的経過を記述すること。多施設共同治験においては,適切であれば特に症例数の多い施設に関して,重要な変数についての施設ごとのデータの表示と解析を含めることにより,個々の施設の結果を正確に描写すること。

有効性又は安全性の転帰について,主要な測定又は評価が複数のグループでなされた場合には(例えば,ある患者が急性心筋梗塞であったかどうかについて,治験責任医師と専門家委員会の双方から意見が出されるような場合),それらの評価間の全体的な差を示し,個々のどの患者が異なった評価を受けたかを明らかにすること。

全ての解析においてどの評価を用いたかを明らかにすること。

多くの場合,有効性と安全性のエンドポイントを区別する(例えば,致死性の疾患の治験における死亡など)ことは難しい。以下に示した原則の多くを主要な安全性の評価項目においても適用すること。

11.4.2 統計・解析上の論点

臨床及び統計の審査官用に,報告書の本文中に用いた統計解析方法を記述し,統計手法の詳細な文書(別添Ⅷを参照)を付録16.1.9として添えること。用いた解析方法,人口統計学的測定値若しくは基準値,又は併用療法についてなされた調整,脱落や欠測値の取扱い,多重比較に対する調整,多施設共同治験に対する特別な解析及び中間解析に対する調整を含む,解析の重要な側面について考察すること。盲検解除後になされた解析上の全ての変更点を明確にすること。

一般的な考察に加えて,下記の個々の論点を(該当するものについて)述べること。

11.4.2.1 共変量による調整

人口統計学的測定値若しくは基準値,併用療法,又はその他の共変量若しくは予後因子の選択及びそれらによる調整を報告書中に説明し,調整の方法,解析結果及びそれらを裏付ける情報(例えば,共分散分析又は Cox回帰の出力結果)を統計手法に関する詳細な文書中に含めること。これらの解析に用いられた共変量又は方法が治験実施計画書で計画されたものと違っていた場合には,それらの違いについて説明し,可能であり適切な場合には,計画された解析の結果も提示すること。個々の総括報告書の問題ではなく,複数の治験成績を総合するときの問題であるが,共変量及び予後因子を考慮にいれた治験間をまたがる解析は,臨床的有効性データの総括において情報をもたらす解析となり得る。

11.4.2.2 脱落又は欠測値の取扱い

脱落率に影響を及ぼす可能性のある種々の因子がある。これらには,治験期間の長さ,疾患の性質,治験薬の有効性及び毒性並びに治療と関連しない他の因子が含まれる。治験から脱落した患者を無視し,治験を完了した患者のみから結果を導くことは誤った評価を与える可能性がある。しかしながら大量の脱落は,たとえそれらを解析に含めたとしても偏りが生じる可能性があり,一方の治療群に多くの早期脱落があった場合,又は脱落の理由が治療若しくは結果に関連している場合は,特にその可能性が高い。早期脱落の影響の程度だけでなく,時には偏りがどちらの方向に作用するかということでさえ判断が困難なことがあるが,可能性がある影響はできる限り十分に検索すること。観察された症例を各種の時点について検討すること,あるいは脱落が高頻度であった場合には,多数の患者がまだ観察されており,なおかつ薬剤の作用が十分に発現しているような時点の解析に注目することが役立つこともある。このような不完備なデータを評価するためのモデル化の方法を吟味することも役立つこともあろう。

治験の結果は,治験を完了した患者という部分集団についてのみでなく,無作為化された全ての患者集団,又は少なくとも治験中の測定値のある全ての患者についても評価すること。脱落の影響を分析する際には,脱落理由,脱落時期,及び各種の時点における各治療群の脱落例の割合などの種々の因子を考慮し,治療群間の比較をする必要がある。

欠測値の取扱いの手順,例えば推定値又は計算によって求めた値の利用を記述すること。そのような推定又は計算がどのようになされたか,そしてどのような仮定をおいたかを詳細に説明すること。

11.4.2.3 中間解析及びデータモニタリング

治験において蓄積途中のデータを解析することにより,それが公式なものか非公式なものかに関わらず,偏りの発生や第一種の過誤の増加が起こり得る。したがって,たとえ治療群が明らかにされていなくとも,公式なものであるか否か,事前に計画されていたか否かを問わず,治験参加者,治験依頼者側の担当者又はデータモニタリンググループにより実施された全ての中間解析を詳細に記述すること。そのような中間解析に対応させるための統計学的調整の必要性を記すこと。そのような中間解析に用いられた実施上の指示又は手順について記述すること。データモニタリンググループの会合の議事録,及びそのような会合で審議されたデータの報告,特に治験実施計画書の変更又は治験を早期終了へ導いた会合の議事録は有益であり,付録16.1.9に添付すること。盲検の解除をしないデータモニタリングであり,第一種の過誤を増加させないと考えられていても,それについて記述すること。

11.4.2.4 多施設共同治験

多施設共同治験とは,多くの施設(例えば,診療所,開業医,病院)において,共通の治験実施計画書を基に実施される単一の試験であり,集められたデータは全体として解析されるものである(これは,別々の試験から得られたデータ又は結果を事後的に統合することとは異なる)。しかしながら,例えば施設ごとに意味のある解析を行うに足る十分な症例数があるなど,適切な場合には,量的又は質的な治療-施設間交互作用の可能性を検討すること。施設間で極端な又は正反対の結果がみられたならば全て記載し,治験の実施,患者特性又は医療設備などが異なる可能性を考慮した上で論じること。治療の比較には,反応に関する施設間差を考慮した解析を含めること。全体としての解析が主たるものであるとしても,人口統計学的データ,基準値及びその後の測定データは,有効性のデータと同様に施設ごとに提示すること。

11.4.2.5 多重比較・多重性

実施される有意性検定の回数(比較回数)の増加に伴い,言い過ぎの誤りの確率が増す。主たるエンドポイント(結果の指標)が複数あった場合,特定のエンドポイントに対して複数の解析を行った場合,多くの治療群があった場合,又は患者集団のうちのいくつかの部分集団について検討した場合には,多重性の問題を認識していることを統計解析に反映すべきであり,第一種の過誤の水準に対して用いた統計学的調整を説明するか,又はそれらを不必要と考えた理由を述べること。

11.4.2.6 患者の「有効性評価の部分集団」の使用

服薬遵守の不良,来院しないこと,不適格であること又は他の理由により,利用可能なデータを持った患者を解析から除外することの影響について特別の注意を払うこと。先に述べたごとく,たとえ申請者が主たる解析として提案したものでないにしても,有効性の検証を意図した試験においては常に,利用可能な全データを用いた解析を実施すること。一般に,解析に対する患者集団の選択方法によらず試験の主要な結論が変わらないことを示すことは有益である。解析に用いる患者集団の違いによる結果の大きな差について,明確に考察すること。

11.4.2.7 同等性を示すことを意図した実対照薬を用いた試験

実対照薬を用いた試験が,被験薬と実対照薬の間の同等性(あらかじめ設定された大きさ以上には差がないこと)を示すことを意図している場合は,主要なエンドポイントについて二つの薬剤を比較するために信頼区間を示し,これ以上劣っていては許容できないと予め設定した大きさと,その区間との関係を解析して示すこと。(実対照薬を用いた同等性デザインを使用するときに考慮すべき重要な点として9.2節を参照すること。)

11.4.2.8 部分集団の検討

もし試験の症例数が十分に多いならば,重要な人口統計学的測定値又は基準値で定義される部分集団について,異常に大きな又は小さな反応があるかどうか及び得られた結果について検討すること。例えば年齢,性若しくは人種別,重症度別若しくは予後因子による分類別,又は同一薬効群の薬剤による前治療歴別に効果を比較すること。これらの解析が,試験の規模が小さすぎるという理由で実施されなかったならば,その旨を記すこと。これらの解析は,部分集団についての検討を行わなければ効能が裏付けられないような試験の「救済」を意図するものではなく,他の試験で検討する価値のある仮説を示唆する,又は表示情報の充実,患者の選択,用量の選択などに役立つ可能性のあるものである。特定の部分集団における特定の効果についての仮説があらかじめある場合,その仮説とその評価は計画された統計解析に含まれるべきである。

11.4.3 個別反応データの作表

群の特性を示す表及び図に加えて,個別反応データ及び他の重要な治験に関する情報を表で示すこと。報告書の中に何を含めるべきかは,試験によって,また薬効群によって異なる。申請者は,可能であれば審査当局に相談してから,何を総括報告書の付録に含めるかを決めなければならない。何が報告書の付録に含まれているか,そして審査当局から要求された場合,何が要求に応じて利用可能であるかを報告書の中で示すこと。

主要な有効性の測定又は評価(例えば,血液や尿の培養,肺機能検査,不整脈の頻度,全般的評価)が間隔をおいて繰り返される比較対照試験においては,報告書に添付されるデータ一覧表中に,個々の患者ごとに,患者の識別コード,基準値を含む主要な項目の全ての測定値又は観察値を含めること。これには,それらがいつ測定されたか(例えば,適切なら,治療開始後の日数及びその日の時刻),その時の薬剤・用量(役立つなら mg/kgで表す),遵守状況の評価,及び測定若しくは評価時又はその近辺での併用療法も含めること。繰返し評価とは別に,反応例か非反応例かについての何らかの全般的評価(細菌学的に治癒か無効かなど)が含まれているなら,それも表に含めること。主要測定値に加えて,表には,患者が有効性評価に採用されているかどうか(もし複数あるなら,どの評価に含まれるか)及び患者の服薬遵守に関する情報(収集した場合)を提示し,報告書に含まれている症例記録があるならば,その所在を明示すること。年齢,性,体重,治療された疾患(対象疾患が複数の試験の場合),及び疾患の病期又は重症度などの主要な基準値情報も有用である。主要な測定項目の基準値は,通常,それぞれの有効性測定の初期値として含まれる。

より広範囲の症例一覧表よりはむしろ,ここで述べる一覧表を総括報告書の付録16.2.6に含めること。なぜならば,この一覧表は統合された要約を裏付ける有効性のデータを示すからである。そのような詳細な表は審査の目的のためにはかさばる傾向があるが,より的を絞り込んだ表示の工夫が期待される。例えば,報告された測定値が多数あるなら,それぞれの患者の最も重要な測定値(例えば,ある来院時点の血圧値が他の値より重要なことがあるかもしれない)の一覧表として,1行か数行で要約した各々の患者の反応を示すことにより,治験における個々の患者の結果が概観できる。

11.4.4 薬剤の用量,薬物濃度及びそれらと反応との関係

各患者により用量が異なる場合は,患者ごとの実際に投与された用量を示し,個々の患者の用量を一覧表にすること。用量-反応試験としてデザインされていない試験では,得られる用量-反応情報に限度があるかもしれないが,入手可能なデータからどのような情報が得られるかについて検討すること。用量-反応関係を検討する際,体重あたりの用量(mg/kg)又は体表面積あたりの用量(mg/m2)を計算することが役立つこともある。

薬物濃度情報が利用できるならば,それらを一覧表にし(付録16.2.5),可能であれば薬物動態学的観点から分析し,反応と関連づけること。

用量-反応又は濃度-反応を探索する試験のデザイン及び分析の手引きとして,ICH ガイドライン「新医薬品の承認に必要な用量-反応関係の検討のための指針」も参照することができる。

11.4.5 薬物-薬物及び薬物-疾患の相互作用

反応と併用療法,並びに反応と既往歴及び(又は)合併症との間に関連が認められた場合には,全て記述すること。

11.4.6 患者ごとの表示

個々の患者データを一覧表の中で表示することが通常可能であるが,時には図形式の表示などで個々の患者プロフィールを示すことが役立つ。例えば,特定のパラメータの時間的推移,その期間内の投薬量及び特定の事象(例えば,有害事象又は併用療法の変更)の時期を示してもよい。群の平均データが主たる解析結果である場合,このような「症例報告の抜き出し情報」にはあまり利点がないかもしれない。しかしながら,個々の反応の全般的評価が解析の主要な部分であるならば,役立つであろう。

11.4.7 有効性の結論

有効性に関する重要な結論を簡潔に記述すること。その際,主たるエンドポイント,副次的なエンドポイント,あらかじめ特定した統計手法及びそれ以外の統計手法,並びに探索的解析の結果を考察すること。

12.安全性の評価

安全性に関するデータの分析は三段階に分けて考えることができる。まず,治験からどの程度まで安全性を評価し得るのかを確認するために,投与量・期間・患者数を検討すること。次に,比較的よく見られる有害事象,臨床検査値の変化などを明確にし,妥当な方法で分類し,治療群間で比較を行い,さらに時間依存性,人口統計学的特性との関係,用量又は薬物濃度との関係など,副作用又は有害事象の頻度に影響する可能性のある因子について適切に分析すること。最後に,重篤な有害事象及び他の重要な有害事象を明確にすること。これは,通常,薬剤との関連が明確であるかどうかにかかわらず,有害事象のために試験完了前に脱落又は死亡した患者を十分に調べることにより検討される。

「治験中に得られる安全性情報の取扱いについて」に関する ICH ガイドラインでは,重篤な有害事象が次のように定義されている。重篤な有害事象又は副作用とは,医薬品が投与された(投与量にかかわらない)際に生じたあらゆる好ましくない医療上のできごとのうち,死に至るもの,生命を脅かすもの,治療のため入院又は入院期間の延長が必要となるもの,永続的又は顕著な障害・機能不全に陥るもの,先天異常を来すものである。

このガイドラインの意図するところでは,「その他の重要な有害事象」には,著しい血液学的異常や他の臨床検査値異常,及び薬剤治療の中止や減量又は重要な併用療法の追加などの治療方法の変更に至った全ての医学上の事象が含まれる。

後述の節では,三種類の分析及び表示が求められる。つまり,

  1. 報告書の本文中にしばしば表や図を用いて示すことができる要約したデータ
  2. 個々の患者データの一覧表
  3. 特に関心のある事象についての文章による記述

である。

全ての一覧表及び分析において,被験薬と対照治療のいずれかに関連している事象を表示すること。

12.1 治験薬が投与された症例数,期間及び用量

治験薬(実対照薬及びプラセボを含む)が投与された症例数,期間及び用量を調査すること。期間: 各種の用量における投与期間を中央値又は平均値で表すことができるが,1日以内,2日以上1週間以内,1週間以上1ヶ月以内,1ヶ月以上6ヶ月以内など特定の期間について投与された患者数を記述することも役立つ。また,様々な期間投与された人数の内訳を年齢,性及び人種の部分集団,並びに疾患(もし複数あるなら),疾患の重症度,合併症のような適切な部分集団別に示すこと。

用量: 用いられた用量の平均値又は中央値及び特定の1日用量水準で投与された患者数を示すこと。1日用量水準として各患者の最高用量,各患者の最も長く投与された用量又は平均1日用量を用いることも可能である。最もよく用いられた用量,最高用量,最大推奨用量などをある一定の期間(例えば,少なくとも1ヵ月)投与された人数といった,用量-期間に関する複合情報を示すことが役立つことが多い。時には累積用量が適切であることもある。投与量は,実際の1日用量,又は妥当であれば mg/kg 又は mg/m2単位で示すことができる。様々な用量で投与された患者数について,年齢,性及び人種別の部分集団,並びに他の適切な部分集団ごとに内訳を示すこと。

薬物濃度: 薬物濃度のデータ(例えば,事象発現時の濃度,最高血漿中濃度,曲線下面積(AUC)など)が利用可能であれば,個々の患者において有害事象又は臨床検査値の変化との相互関係を検討するのに役立つこともある。

治療に組み入れられ,少なくとも1回は治療を受けた全ての患者が,安全性の分析に含まれることが前提となる。そうでない場合には,説明が必要である。

12.2 有害事象

12.2.1 有害事象の簡潔な要約

治験中に発現した全ての有害事象の経験を叙述形式で簡潔に述べ,後述のより詳細な一覧表及び分析によって補足すること。これらの一覧表及び分析において,被験薬と対照治療のいずれに関連している事象も表示すること。

12.2.2 有害事象の表示

試験治療の開始後に発現した全ての有害事象(審査当局との間で,あらかじめ特定の事象は疾患に関連するものとして取り扱うとの合意に達していないならば,基礎疾患に関連していそうな,又は合併症を表していそうな事象を含む)を要約表(14.3.1項)に表示すること。表には,重篤な有害事象又は他の重要な有害事象と考えられたバイタルサインの変化及び臨床検査値の変化を含めること。

ほとんどの場合,このような表に「治療により発現した兆候及び症状」(TESS;治療前には見られなかった事象及び治療前からあったが治療中に悪化した事象)を記述することが役立つ。

その表には,個々の有害事象の名称,各治療群においてその事象が発現した患者数及び発現率を示すこと。例えば,癌化学療法のように治療が周期的に行われる場合には,各周期ごとに結果を分けて表示することが有用なこともある。有害事象は器官別にグループ化すること。もし重症度尺度(例えば,軽度,中等度,高度)が定義されているなら,各事象をその尺度で分類してもよい。またこの表では,有害事象を薬剤の使用と少なくとも関連があるかもしれないと考えられる事象と,関連なしと考えられる事象に分類してもよいし,他の適当な因果関係分類(例えば,関連なし,関連があるかもしれない,おそらく関連あり,明らかに関連あり)を用いてもよい。

このような因果関係の評価を用いた場合でも,関連性の有無の評価に関係なく,併発症と考えられる事象も含む全ての有害事象を表に含めること。当該治験又は安全性に関するデータベース全体をさらに分析することは,有害事象が薬剤に起因するか否かを明らかにすることの助けになることもある。これらの表のデータの分析及び評価を可能とするために,個々のどの患者にどの有害事象が発現したかがわかるように示すことが重要である。このような表形式の提示の例を以下に示す。

14.3.1項に示されるこれらの完全な表に加えて,比較的頻度の高い(例えは,治療群の少なくとも1%に見られる)有害事象について,患者の識別番号を用いずに,被験薬群と対照群を比較した要約表を報告書の本文中に追加すること。

有害事象の提示にあたっては,治験責任医師が用いたとおりの用語で提示することも,関連する事象(つまり,おそらく同一の現象を表す事象)をグループ化しようとすることも,ともに重要である。グループ化することによって真の発現率があいまいでなくなる。このための一つの方法は,標準的な副作用・有害事象用語辞書を用いることである。

12.2.3 有害事象の分析

報告書12.2.2項(14.3.1項)の有害事象の発現率の基本的な表示に基づき,被験薬群と対照群における事象発現率を比較すること。この分析では,治療群間の左右比較ができるように,事象の重症度分類及び因果関係類をひとまとめにするのがよい。さらに,通常は総括的な安全性の分析において実施するのがよいが,治験の規模及びデザインによって可能ならば,治験薬に関連すると思われる比較的よく見られる有害事象について,投与量及び mg/kg 若しくは mg/m2用量,投与法,治療期間,総投与量,年齢・性別・人種のような人口統計学的特性,腎機能などその他の治療前の特性,有効性の結果並びに薬物濃度との関係を調べることが役立つ。また,有害事象の発現時期及び持続期間を調べることも役立つこともある。治験の結果又は治験薬の薬理的特性によって,さらに様々な追加分析を実施すべきことが示唆される場合もある。

あらゆる有害事象について,厳密な統計的評価を行うことを意図しているのではない。単にデータを表示し詳しく見るだけで,人口統計学的特性やその他の基準値の特性に意味のある関連性がないことが明白になることもある。治験が小規模で,事象が比較的少なければ,被験薬と対照との比較に限った分析でも十分であろう。

ある状況下では,単なる有害事象の発現率の報告よりも,生命表又は類似の分析の方がより多くの情報をもたらす。例えば,癌化学療法のように治療が周期的に行われる場合には,各周期ごとに結果を分けて表示することが有用であることもある。

12.2.4 患者ごとの有害事象の一覧表

各患者ごとの全ての有害事象を,同一事象であっても発現ごとに,用語集に基づく用語と治験責任医師が用いたままの用語との双方を使って一覧表にし,付録16.2.7に添付すること。この一覧表は,治験責任医師及び治療群ごとに示し,以下のものを含めること:

  • 患者識別コード
  • 年齢,人種,性別,体重(適切であれば,身長)
  • 症例記録の所在(添付している場合)
  • 有害事象(用語集に基づく用語,報告書に用いられている用語)
  • 有害事象の持続期間
  • 重症度(例えば,軽度,中等度,高度)
  • 重篤度(重篤/重篤でない)
  • 処置(なし,用量減量,治療中止,特殊な治療の開始など)
  • 転帰(例えば,CIOMS 様式)
  • 因果関係の評価(例えば,関連性あり/関連性なし)。それがどのように決定されたかを表中又は他のどこかに記述すること。
  • 発現日,又は事象が発見された来院日
  • 治験薬の最終投与との関係における有害事象発現のタイミング(適切であれば)
  • 事象発現時に行われていた治験治療又は直前の試験治療
  • 事象発現時の治験薬の絶対量,mg/kg 又は mg/m用量
  • 薬物濃度(わかっている場合)
  • 治験薬による治療の期間
  • 治験中の併用療法

全ての略号や記号は,その一覧表の冒頭に,又はできれば各ページに説明すること。

12.3 死亡,その他の重篤な有害事象及び他の重要な有害事象

死亡,他の重篤な有害事象及び他の重要な有害事象については特別な注意が必要である。

12.3.1 死亡,その他の重篤な有害事象及び他の重要な有害事象の一覧表

以下の事象について,上述の12.2.4項で要求された情報と同じものを含む一覧表を作成すること。

12.3.1.1 死亡

治療後の追跡期間も含め治験中に発生した死亡,及び治験中に始まった変化の結果として生じた死亡の全てについて,14.3.2項で患者ごとに一覧表示すること。

12.3.1.2 その他の重篤な有害事象

全ての重篤の有害事象(死亡ではないが,時間的に死亡に関連する又は死亡に先行する重篤な有害事象を含む)を14.3.2項で一覧表示すること。この一覧表には,重篤な有害事象と思われた臨床検査値異常,異常なバイタルサイン及び異常な身体的観察項目を含めること。

12.3.1.3 他の重要な有害事象

重篤な有害事象として報告されているもの以外で,著しい血液学的異常や他の臨床検査値異常(重篤という定義を満たすもの以外)及びそれにより治験薬治療の中止,減量,又は重要な併用療法の追加を含む処置をせざるを得なかった全ての事象を14.3.2項で一覧表示すること。

12.3.2 死亡,その他の重篤な有害事象及び他のいくつかの重要な有害事象の叙述

個々の死亡,個々のその他の重篤な有害事象,及び臨床上の重要性から特に注目すべきであると判断された他の重要な有害事象について,簡潔な叙述が必要である。この叙述は,事象の発現ごとに,報告書の本文又は14.3.3項に記載すること。治験薬とは明らかに無関係である事象は,省略するか又は簡潔に記述してもよい。一般的には,叙述に以下のものを記載すること。

  • 事象の種類と強さ,事象発現までの臨床経過,治験薬の投与に関連する発現時期;関連する臨床検査値,投薬が中止されたかどうか及び中止の時期;対策としてとられた処置,死後所見,因果関係についての治験責任医師の意見及び適切であれば因果関係についての治験依頼者の意見

さらに,以下の情報も含めること。

  • 患者識別コード
  • 患者の年齢及び性別;適切であれば患者の全身の臨床的状態
  • 治療がなされている疾患(全ての患者が同じ疾患であれば必要ない)及び罹病期間(現在のエピソードの期間)
  • 関連する合併症・既往症及びその発症・罹病期間の詳細
  • 関連する併用薬・前治療薬及びその用量の詳細
  • 投与された治験薬名,患者間で薬剤の用量が一定でなければその用量及び投与期間
12.3.3 死亡,その他の重篤な有害事象及び他の重要な有害事象の分析及び考察

死亡,その他の重篤な有害事象及び投与中止,用量減量,又は併用療法の開始を招いた他の重要な有害事象の重要性を治験薬の安全性の観点から評価すること。これらの事象のいずれについても,当該治験薬に関しては以前には疑われていなかった重要な副作用であるか否かについて特に注意を払わなければならない。特に重要と思われる重篤な有害事象については,生命表又は類似の分析を用い,治験薬の投与時間との関係を示し,経時的に危険性を評価することが役立つこともある。

12.4 臨床検査値の評価

12.4.1 患者ごとの個々の臨床検査異常値の一覧表(14.3.4)

安全性に関連する全ての臨床検査の成績については,報告書に添付する必要はないが,以下の表に近い一覧表を必要に応じ利用可能としておくこと。以下の表では,各行が臨床検査の行われた来院日を表し,(治験責任医師が二人以上ならば)治験責任医師ごと,さらに治療群ごとに患者をグループ化している。そして,重要な人口統計学的データ,薬剤用量データ及び臨床検査の結果を各例に示している。ひとつの表に全ての検査項目は表示できないので,論理的にグループ化すること(血液学的検査,肝機能検査,電解質検査,尿検査など)。異常値は,例えば下線を引いたり,括弧に入れるなどして,明確に示すこと。

上述の様式を使って,全ての臨床検査異常値を14.3.4項に患者ごとに一覧表示すること。特別な関心のある臨床検査値異常(臨床上重要であると思われる臨床検査異常値)については,異常値前後の正常値及び関連する臨床検査値などの追加データを示すことが役立つ。場合によっては,特定の異常値をその後の分析から除外することが望ましいこともある。例えば,ある種の検査項目(例えば,尿酸又は電解質)の一回だけで再現性のない小さな異常,又はある種の検査項目(例えば,トランスアミナーゼ,ALP,BUN など)で時折見られる低値は,おそらく臨床的に重要でないと定義し除外することが可能である。しかしながら,このような決定については,全て明確に説明すること。

12.4.2 各臨床検査項目の評価

臨床検査値に対する必要な評価の一部は,結果の値そのものから行うことができるが,一般的には次の分析を行うこと。それぞれの項目の分析で,(内容上)適切であり治験の規模からみて比較が可能であれば,被験薬群と対照群の比較を行うこと。さらに,臨床検査の正常範囲もそれぞれの項目の分析において提示すること。

12.4.2.1 治験期間を通しての臨床検査値

治験期間中の各時点(例えば,各来院時)における各値については,以下のものを記述すること:群の平均値又は中央値,値の範囲及び異常値を示した患者数又は特定の範囲(例えば,正常値範囲の上限の2倍,上限の5倍など;その選択について説明すること)の異常値を示した患者数。図を用いてもよい。

12.4.2.2 個々の患者の変化

治療群ごとの個々の患者の変化の分析を示すこと。以下のような多様な方法を用いてもよい。

  1. 「シフトテーブル」-これは,治療前及び以降の選択された間隔の観察時点において,低値,正常値又は高値を示した患者数を示すものである。
  2. 選択された間隔の観察時点において,検査値に事前に決めた大きさの変化のあった患者数又は患者の割合を示す表。例えば,BUN については10mg/dl 以上の変化を示すことと決めることもできよう。通常は,治療前の BUN 値(正常又は高値)によって患者をグループ化し,この検査項目について,その大きさ未満又はその大きさ以上の変化を示した患者数を一つ又は複数の来院時点について示すことができる。通常のシフトテーブルに比べてこの表示の方が優れる点は,たとえ最終値が異常でなくてもある範囲の変化が示されることである。
  3. 初期値を横軸に,その後の値を縦軸に配置することにより,各患者について初期値及び治療中の臨床検査値を比較した図。もし変化がなければ,各患者を表す点は45°の線上に位置する。全般的に値が高い方に変化する場合は,点が45°の線の上側に見られる。この表示は,一つの治療法について一つの時点を示すのみであるので,解釈のためには被験薬群と対照群の両方について,これらのプロットを時系列的に反復する必要がある。別の表示方法は,基準値と治療中の最も極端な値を示すことである。この種の表示により,容易に外れ値を見出すことができる(外れ値に患者識別コードをつけることは有益である)。
12.4.2.3 個々の臨床的に重要な異常

臨床的に重要な変化(申請者により定義された)について考察すること。重篤な有害事象とみなされた臨床検査値異常,及び場合によっては,他の重要な有害事象とみなされた患者に関する叙述を12.3.2項又は14.3.3項に示すこと。毒性の重症度分類(例えば,WHO,NCI)を用いた場合は高度と評価された変化について,重篤であるかどうかに関係なく論ずること。臨床的に重要な変化の分析は,臨床検査値による中止例の要約とともに,各検査値ごとに示すこと。これらの変化の重要性と治療との関連の可能性を,例えば用量との関係,薬物濃度との関係,継続治療で消失,投与中止で消失,再投与で再発,併用療法の性質のような特徴を分析することにより評価すること。

12.5 バイタルサイン,身体的所見及び安全性に関連する他の観察項目

バイタルサイン,他の身体的所見及び安全性に関連する他の観察項目を分析し,臨床検査値と同様の方法で提示すること。治験薬が影響を及ぼしている証拠がある場合,用量-反応若しくは薬物濃度-反応関係,又は患者の特性(例えば,疾患,人口統計学的特性,併用療法)との関係を明らかにし,この所見の臨床上の妥当性について記述すること。有効性の項目として評価されない変化及び有害事象とみなされる変化に特別の注意を払うこと。

12.6 安全性の結論

治験薬の全般的な安全性評価は,用量変更や併用療法を必要とした事象,重篤な有害事象,投与中止に至らしめた事象及び死亡に特別の注意を払いながら,概説すること。リスクの高い患者又は患者グループを明らかにし,人数は少ないかもしれないが,影響を受ける可能性の高い患者に特別の注意を払うこと。これらの患者には,例えば小児,妊婦,高齢者,薬物代謝又は排泄に著しい異常のある患者などが含まれる。予想される使用方法に対する被験薬の安全性評価の意味合いを記述すること。

13.考察と全般的結論

有効性と安全性の結果及びリスク・ベネフィットとの関係を必要に応じて表,図及びこれまでの章で述べてきたことを引用して簡潔に要約し,考察すること。その要約は,単に結果の記述を繰り返したり,新しい結果を紹介するものであってはならない。

考察及び結論では,全ての新しい又は予想外の所見を明確にし,その意義について説明すること。さらに,関連する測定値間の不一致など,可能性のある全ての問題について論じること。また,他の既存のデータを考慮し,結果の臨床的適切性及び重要性についても論じること。個々の患者又はリスクグループに対する個別の有益性又は特に必要とされる注意事項,及び今後の治験実施のためのあらゆる意味合いを明らかにすること。あるいはそのような考察は,申請資料全体を参照している安全性,有効性の要約(integrated summaries)に示してもよい。

14.本文中には含めないが,引用する表,図及びグラフ

重要な結果を視覚的に要約したり,又は表からは容易に理解できない結果を明示するために,図を用いること。重要な人口統計学的特性,有効性及び安全性のデータを報告書の本文中に要約した図表として提示すること。しかし,大きさ又は数の点で膨大になるのであれば,裏付け若しくは追加の図表,又は一覧表とともに,本文と相互参照しながら本章に提示すること。

以下の情報は,総括報告書の本章に含めることもできる。

14.1 人口統計学的データ

要約した図表

14.2 有効性データ

要約した図表

14.3 安全性データ

要約した図表

14.3.1 有害事象の表示
14.3.2 死亡,その他の重篤な有害事象及び他の重要な有害事象の一覧表
14.3.3 死亡,その他の重篤な有害事象及び他の特に重要な有害事象の叙述
14.3.4 患者ごとの個々の臨床検査異常値の一覧表

15.引用文献の一覧表

治験の評価に関連する文献一覧表を提出すること。付録(16.1.11及び16.1.12)に重要な公表文献の写しを添付すること。引用文献は,「生物医学雑誌に投稿する原稿についての統一した要求事項」についての1979年のバンクーバー規約で国際的に認められている基準,又は「Chemical Abstracts」に使われている方式に従って示すこと。

16.付録

この章の冒頭には,総括報告書において利用可能な全ての付録の完全な一覧表をつけること。

16.1 治験に関する情報

16.1.1 治験実施計画書及びその改訂
16.1.2 症例記録用紙の見本(内容の異なるページのみ)
16.1.3 治験審査委員会の一覧(確認が行われた年月日,並びに委員の氏名及び職名),患者への説明文書及び同意書の見本
16.1.4 治験責任医師及び他の重要な治験参加者の一覧表及び説明(簡潔な(1ぺージ)履歴書又は治験の実施に関連する訓練や経験についての履歴書と同等の要約を含む)
16.1.5 治験総括(調整)医師又は治験依頼者の医学責任者の署名
16.1.6 複数ロットが用いられた場合には,治験に用いられたロットごとの薬剤を投与された患者一覧表
16.1.7 無作為化の方法及びコード(患者の識別及び割り付けられた治療)
16.1.8 監査手順に関する資料,監査証明書(可能であれば)
16.1.9 統計手法に関する文書
16.1.10 臨床検査に関して施設間の標準化及び品質保証を行ったのであればその方法と手順に関する文書
16.1.11 治験に基づく公表文献
16.1.12 総括報告書で引用された重要な公表文献

16.2 患者データ一覧表

16.2.1 中止症例
16.2.2 治験実施計画から逸脱した症例
16.2.3 有効性の解析から除外された症例
16.2.4 人口統計学的データ
16.2.5 服薬遵守及び(又は)薬物濃度データ(可能であれば)
16.2.6 個々の有効性反応データ
16.2.7 患者ごとの有害事象一覧表

16.3 症例記録

16.3.1 死亡,その他の重篤な有害事象発現例及び有害事象による投与中止例の症例記録
16.3.2 提出された他の症例記録

治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドライン Q&A

本ガイドラインの役割

Q1:治験における本ガイドラインの役割についてお示し願いたい。

A1:本ガイドラインは,治験の総括報告書の書き方のガイドラインであるが,結果の記載のみではなく,他に,治験の目的,計画,実施,解析,評価及び十分な個々の患者データなどの広範な内容が含まれる。

例えば,本ガイドラインの「治験の計画」の章には,治験デザインについての論点や,計画作成に当たり説明が必要となる事項が述べられており,本ガイドラインに則った総括報告書を作成するためには,治験計画作成時から,そのための注意が払われなければならない。また,本ガイドラインではデータの品質管理及び品質保証の方法の記載が求められており,そのためには,治験の実施にあたって品質管理および品質保証の実施が求められる。

治験の総括報告書の位置付け

Q2:治験の総括報告書の国際間での相互利用について伺いたい。

A2:本ガイドラインは,日,米,欧3極で相互に受入れ可能な治験の総括報告書の構成及び内容について定めたものである。これは文書としての要件を定めたもので,これに従って報告書を作成すれば,そのままその治験データが相互に受入れ可能であることを意味する訳ではない。外国で実施された臨床試験データの取扱いについては,ICH の場において検討がなされているところである。

また,外国語で作成された報告書を用いて,我が国で承認申請を行う場合は,従来の外国語で書かれた資料の取扱いと同様に,日本語訳を提出する必要がある。

Q3:承認申請における治験の総括報告書の位置付けをご説明願いたい。

A3:我が国においては,本ガイドラインで定める総括報告書を添付資料として提出することは,申請のための必要条件とはなっていない。また,申請資料のうち主要な部分は,専門の学会での公表又は学会誌等への掲載を求めているところである。しかし,総括報告書には治験に関するほとんどの情報が含まれるので,公表論文等に添えてこれを提出することによって,厚生省からの臨床試験の成績に関する質問や調査会指示事項等が減少することが期待できる。

なお,添付資料としない場合でも,すべての臨床試験について総括報告書を作成しなければならないのは,GCP に規定されているとおりである。

本ガイドラインが適用される治験の範囲

Q4:本ガイドラインは,どのような相の治験に適用されるのか。

A4:本ガイドラインは主として臨床第2相及び第3相試験を想定して記載されている。序文に「本ガイドラインは,有効性及び安全性の評価を目的とした治験を主な対象としているが,ここに述べる基本的原則及び構成は,例えば臨床薬理試験のような他の種類の治験にも適用が可能である」とあるように,これ以外の治験についても,総括報告書の作成に当たっては,本ガイドラインを参考とすることが推奨される。

治験の総括報告書の著者

Q5:治験の総括報告書の著者は誰がなるのか。

A5:総括報告書の著者,報告書に署名すべき者等は,GCP の規定による。

治験実施組織および構成メンバー

Q6:治験を実施する組織及びその構成メンバーの役割は何か。

A6:治験を実施する国により,あるいは治験の目的や性格付けによって,多様な組織及び役割分担で治験を実施することが可能と考えられ,また,できる限り適切な治験組織及び役割分担を工夫して実施すべきである。
それゆえ,治験総括報告書では誰が治験組織に参加し,どのような役割や機能を分担したのかを具体的に記すこととされている。

例えば,安全性委員会やデータモニタリング委員会を設置したのであれば,それらの委員会を構成する委員及び委員会の役割,機能を報告書に記載していただきたい。

Q7:データモニタリング委員会とは何か。

A7:データモニタリング委員会とは,治験の進行や,安全性情報,有効性に関する主要エンドポイントについて,治験途中で予め定めた手順に従って評価し,治験依頼者に治験の継続,変更,中止等を提言することを目的として設置される委員会である。名称は必ずしもこの名前である必要はなく,例えば抗悪性腫瘍薬ガイドラインにある「効果・安全性評価委員会」がこの機能を果たすことも考えられる。

治験の経時的経緯の考慮

Q8:治験総括報告書を作成するにあたって,特に留意すべきことは何か。

A8:それぞれの事項を記載するにあたって特に留意すべきことは,経時的な経緯すなわち,

  1. 当初,どのように計画し,
  2. それに従ってどのように実施し(計画書の変更,計画書からの逸脱を含め),
  3. その結果,どのような成績が得られたか

を意識し,区別して報告書に記載することである。

計画書の変更や計画書からの逸脱については,その経緯・内容を明らかにするとともに,それが結果に及ぼした影響の評価を記載することが必要である。

解析の内容については,治験計画書に記載された当初の計画内容と,それ以後に追加された内容とを区別して記載するとともに,追加された解析については,さらに追加時期が盲検の開鍵の前であるか,あるいは後であるかの区別も明示していただきたい。その治験において検証しようとする仮説については,解析の内容を予め計画書により詳細に記述する必要があろう。

治験計画の項の記述

Q9:治験の計画の項の記述は,計画書を転載すればよいのか。

A9:計画書そのものは総括報告書の付録として添付される(付録16.1.1)。総括報告書には,治験計画を要約して記載するとともに,計画書に記載がない事項についても必要に応じ記載されたい。この際,計画したこと及び実施したことを区別して,実際の経過に沿って明確に記す必要がある。

例えば,解析対象患者の条件として,症例検討会の結果のみを記載するのではなく,当初の計画書の規定と,症例検討会の結果定まった規定とを区別して記載すること。

人口統計学的特性

Q10:治験対象集団の人口統計学的特性とは,具体的に何を指すのか。

A10:人口統計学的特性とは,疾患の状態を直接には特定しないような治験対象集団の一般的な特性であって,人口統計の基礎的情報となるような因子を指す。本ガイドラインの序文には具体的に,「人口統計学的な(例えば,年齢,性,人種,体重の)部分集団や,その他(例えば,腎機能や肝機能)の部分集団に関するデータ」との表現がある。

解析したデータセット

Q11:11.1解析したデータセットの記述について留意すべきことを伺いたい。

A11:すべての解析において,その解析がどのデータセットを対象としてなされたかを報告書に明示することが重要である。また,データの一部を解析から除外した場合には,そのようなデータの選別がいつどのような手順で行われたかを説明する必要がある。

また,有効性の検証を意図した治験の検証対象となる事項の解析において,データの一部を解析から除外した場合には,例えば,服薬したすべての対象における解析や,使用可能なすべてのデータを用いた解析を追加して記載することが求められている。

統計的推定の重視

Q12:11.4.1有効性の解析において信頼区間の記述が求められているが?

A12:統計的検定だけではなく,推定に重点がおかれていることが本ガイドラインの特徴の一つである。ガイドライン本文に「主要な有効性の測定値全てについて治療群間で比較すること」とあるが,その際は,点推定値(例えば,有効率,平均値など)とその信頼区間を示し,さらに検定を実施した場合には,検定結果(p 値等)も併せて示していただきたい。すなわち,検定の結果としての p 値だけではなく,要約統計量や基礎的な統計量の記述を要求していることが重要である。

多施設共同治験

Q13:多施設共同治験における施設間の成績の差異の検討の記載について伺いたい。

A13:施設と治療成績の間の交互作用についての考察を記載することが必要である。特に,施設ごとに意味のある統計解析を行うに足る十分な患者数がある場合,例えば1施設1群あたり10名を超えるような場合には,治療-施設間交互作用についての統計的検討結果を記載すること。

部分集団における検討

Q14:11.4.2.8部分集団の検討において留意すべきことは何か。

A14:特定の部分集団における特定の効果について仮説を予めたてた場合は,その仮説及び解析を計画書の統計解析の項に含めることが必要である。一般に,その際は統計的な多重性の考察が必要になるであろう。

これに対し,事後的に実施した部分集団の検討結果は,その薬剤の申請上特徴の主張のために利用することはできない。例えば,特定の部分集団における用量調節情報とか,使用上の注意など,その薬剤の適正使用のために使用する情報であると解釈すべきであると考える。

安全性評価

Q15:安全性評価の項では,死亡例の表,他の重篤な有害事象発現例の表,他の重要な有害事象発現例の一覧表などが必要であるが,一部の症例については複数の表に重複して含まれるのか。

A15:ガイドラインでは,有害事象の重大さについて,死亡,重篤な有害事象及び重要な有害事象を区別している。概念としては,重篤な有害事象には死亡が含まれ,重要な有害事象には重篤な有害事象が含まれるという入れ子構造になっている。

ガイドライン本文においては,死亡例ではない重篤な有害事象発現例の一覧表や,重篤な有害事象ではない重要な有害事象発現例の一覧表を要求しているから,一つの有害事象については同一症例が重複して含まれることはないはずである。一症例に複数の有害事象が発現し,それらの重大さが異なるのであれば,当然複数の表に含まれることになる。

ここで重要なことは,報告書の読者すなわち審査官が,それぞれの重大さごとに整理された有害事象の発現例の明示を要求していることである。それ故,もし対象となる有害事象発現例を少ないのであれば,3つの表を作る代わりに重要な有害事象発現例の一覧表のみを作成して,その中で死亡例と重篤な有害事象発現例とを区別し明示するということでもよい。

Q16:症例一覧表には2つの形式があるという理解でよいか。

A16:一つの症例の情報をコンパクトに集めた形式(いわば症例記録の要約)と,複数の症例の情報を作表した形式(例えば,項目を横に,症例を縦に並べた表)の2通りの表があり,どの一覧表にどの形式を用いるべきかはガイドライン本文に示されている。

Q17:12.2.3有害事象の分析に,「通常は総括的な安全性分析において実施するのがよいが,治験の規模及びデザインによって可能ならば,・・・」として,詳細な安全性の分析を要求しているが,これらの分析はどのような治験について記載すべきか。

A17:治験の規模及び有害事象の発現率による。詳細な分析が可能なほどの症例数の治験であり,かつ分析すべき有害事象が発現したのであれは,個々の治験においても分析することが必要になる。通常は,すべての治験の安全性データの分析において,詳細な安全性の分析を実施すれば十分であると思われる。

例示の表

Q18:ガイドライン本文中に2つの表があり,また別添に多数の表があるが,これらはこの形式でなけれはならないのか。

A18:これらは単なる例示であり,示された形式にこだわる必要はまったくない。むしろ,より理解しやすいよい表を作るべく,作成者が大いに工夫することが推奨される。

技術的統計的文書

Q19:本ガイドラインの序文に述べられている「技術的統計的文書」は,解析報告書に相当するものか,あるいは16.1.9の「統計解析に関する文書」か。

A19:後者の統計解析に関する文書のことである。11.4.2統計・解析上の論点を参照されたい。

参照

https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0025.html

 


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