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1.研究事業の目的・目標
【背景】
子どもや子育てを取り巻く環境は、近年の少子化や子育て世帯の孤立といった社会構造の変化や、核家族や共働き世帯の増加といった家族形態の多様化等により大きく変化している。また、低出生体重児の増加や、出生前検査や生殖補助医療などのリプロダクティブヘルス・ライツに関する課題など、時代とともに生じる新たな課題にも直面している。
こうした中で、「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律」(成育基本法)が成立(平成 30年 12 月)、施行(令和元年 12 月)され、次代の社会を担う成育過程にある者の個人としての尊厳が重んぜられ、その心身の健やかな成育が確保されることの重要性が改めて示された。法第十六条では、妊娠、出産及び育児に関する問題、成育過程の各段階において生ずる心身の健康に関する問題等に関する調査及び研究を講ずることとされており、本研究事業の推進は非常に重要である。また、これらの研究成果などを踏まえ、「健やか親子21(第2次)」において提唱されている指標を改善し、より良い成育サイクルへつなげていくことも重要である。
さらに、不妊症及び不育症への支援拡充が推進されているところであり、子供を持ちたいという方々の気持ちに寄り添った支援を実施するための調査及び研究を推進することは非常に重要である。
【事業目標】
生殖・妊娠期、胎児期、新生児期、乳幼児期、学童・思春期、若年成人期、そしてまた生殖・妊娠期へと循環する成育サイクルのステージごとの課題や、各ステージにまたがる課題を明らかにする。これらの課題に対し、ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチの双方からの研究を推進し、成育基本法が目指すところの健やかな成育サイクルの実現を目指す。
また、出生前検査や生殖補助医療などのリプロダクティブヘルス・ライツに関する課題などについて、ELSI の視点も含めた研究を実施することで、医療、保健、教育、福祉などのより幅広い関係分野での取組の推進と支援の充実を目指す。
【研究のスコープ】
母子保健に関する国民運動計画である「健やか親子21(第2次)」で示された以下の領域の研究を推進する。
- 切れ目ない妊産婦・乳幼児への保健対策の充実(基盤 A)
- 学童期・思春期から成人期に向けた保健対策の充実(基盤 B)
- 子どもの健やかな成長を見守り育む地域づくりや環境整備の充実(基盤 C)
- 育てにくさを感じる親に寄り添う支援の充実(重点課題1)
- 妊娠期からの児童虐待防止対策の充実(重点課題2)
【期待されるアウトプット】
- 従来の母子健康手帳の効果・利点等について検証した上で、電子的サービスを活用した母子保健サービスの可能性の模索や多様性に対応する母子保健サービスの体制構築を目指す。
- わが国における父親の産後の心身の健康状態等に関する実態調査等を行い、家事分担や働き方などの社会的観点も含めて、父親支援の必要性を検証し、地域における父親支援の具体的介入策のモデル構築を行う。
- 自治体における特定妊婦に対する支援のための福祉・保健・医療が共通で活用することができるアセスメントツール及び支援プログラムを作成し、特定妊婦に対する支援の均てん化を目指す。
- 出生前検査に関する妊産婦等の意識調査等を通じて、出生前検査に関する妊婦等の不安等に対する適切な支援やフォローアップの方策支援体制構築を目指す。
【期待されるアウトカム】
成育基本法で示された理念のもと、「健やか親子21(第2次)」で提唱されている指標を改善し、その結果として、妊娠、出産、子育ての成育サイクルを通じた切れ目ない支援体制の構築と、成育環境に関わらずすべての子どもが心身ともに健やかに育まれる社会環境の整備を図る。「すこやか親子21(第2次)」の最終評価目標として、令和6年度までに、積極的に育児をしている父親の割合を 55.0%にすること、母子保健分野に携わる関係者の専門性の向上に取り組んでいる地方公共団体の割合を 100%にすることなどを設定している。
2.これまでの研究成果の概要
- 産後の自殺予防に関する医療者向け教育プログラムを完成した<継続中>
- CDR(Child Death Review)都道府県モデル事業の実施に資する自治体への技術的支援を行った。<継続中>
- 乳幼児身体発育調査に向けた課題・手法の検討、わが国の乳幼児の身体発育や健康度を把握するための基礎資料を作成した。<継続中>
- Biopsychosocial(身体的・精神的・社会的)な切れ目ない健康診査等に関するマニュアル「日本版 Bright Futures」を作成し、思春期健診のモデルを実施した。<継続中>
- 出生前診断マニュアルに基づいた講義シリーズのオンライン版を作成した。<継続中>
3.令和4年度に継続課題として優先的に推進するもの
- 「成育基本方針を地域差無く継続的に社会実装するための研究」について、令和3年度に開発したツールなどを用いてモデル地区での実証検証をするため、優先的な配分が必要である。
- 「出生前診断実施時の遺伝カウンセリング普及啓発に関する研究」について、令和2年度に作成した出生前診断検査、遺伝カウンセリングを受けた妊婦に対する調査事項、調査フォーマットを元に、令和4年度に受検者へのアンケート調査を行う計画であるため、優先的な配分が必要である。
- 「母子健康手帳のグローバルな視点を加味した再評価と切れ目のない母子保健サービスに係る研究」について、令和4年度の母子健康手帳に関する検討会の議論を見据え、追加での調査等を行うため優先的な配分が必要である。
4.令和4年度に新規研究課題として優先的に推進するもの
妊娠・出産に係る ELSI の検討のための研究
令和2年度に NIPT(Non Invasive Prenatal genetic Testing)等の出生前検査に関する専門委員会において、出生前検査における ELSI の課題について議論がされたところであるが、今後、ゲノム医療や胎児治療等が進むことが予想される中、妊婦や家族への支援について検討を行う。また、生殖補助医療については令和3年度より不妊治療や不育症への支援拡充がおこなわれ、また、令和2年 12 月、臨時国会において生殖補助医療法が成立し、今後、第三者提供配偶子を用いた生殖補助医療や、代理母等について議論がされる。こうした生殖補助医療に関する取組の中で生じた ELSI の課題について整理し、対応を検討する。
乳幼児の栄養方法等の実態把握等に関する研究
全国の乳幼児の栄養方法や食事の状況などの実態を把握し、授乳・離乳の支援、乳幼児の食生活改善のための基礎資料とするため、1985 年から 10 年ごとに国が乳幼児栄養調査を実施している。結果は、授乳・離乳の支援ガイドの作成に活用されるなど、保健指導・栄養指導においても重要な基礎資料となる。次回の調査は、2025 年に予定されており、前回調査時の課題や、前回調査後の社会状況等の変化を踏まえた、オンライン調査の実施可能性等、調査手法や調査項目等を検討する。
母子保健分野における都道府県型保健所の役割についての研究
不妊治療の保険適用や、NIPT 等出生前検査の情報提供のありかた等、妊娠/出産について新しい課題が出てきている。市町村では高度な知識や技術を伴う課題については対応が十分にできないが、医療機関の連携や福祉機関との連携などは都道府県ができる課題である。一方で、児童福祉相談所における保健師との連携方法などや保健師の役割などを明確にする必要がある。
DV や性被害を受けた者に対する産婦人科等診療及び支援体制の構築に向けた研究
DV による妊娠の中絶に夫の同意がいらないことの通知など行ったところであるが、女性の意思決定を守るための産婦人科医療機関の体制やその他性被害を受けた方(子ども、女性、男性含む)の保健行政における支援方法が対応する者によって差がある。また、男性や男児の性被害、親からの性虐待等、他者に告白することにためらわれるため表面化していない問題を、保健医療行政に関わる者として気づきや対応方法、支援方法などを整理し検討する。
データヘルス時代の母子保健情報の利活用におけるデジタルリテラシーの醸成に向けた研究
データヘルス改革推進本部において「新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プラン」が提示され、PC やスマートフォン等を通じて国民・患者が自身の保健医療情報を閲覧・活用できる仕組みについて、健診・検診データの標準化に速やかに取り組むこととされており、より一層、PHR(Personal Health Record)の推進が図られている。また、民間事業者における PHRサービスも拡大する中、当該サービスの利用にあたり、自治体や利用者が自らデジタルリテラシーの醸成を行うための支援策について検討する。
小児の傷害・死亡疫学に基づく子育て支援のための研究
令和2年度より CDR 都道府県モデル事業を行っており、令和4年度より制度化に向けた検討を行っており、また、令和3年度まで CDR、SIUID(Sudden Unexpected Infant Death)、傷害について研究を実施してきた。これまでに集積された知見を踏まえ、小児の傷害・死亡疫学に基づく子育て支援のための検討を行いつつ、令和4年度から実施される CDR 体制整備事業(仮)について、自治体と連携しながら、子どもの重大な傷害や死亡を予防するための方策を検討する。
5.令和4年度の研究課題(継続及び新規)に期待される研究成果の政策等への活用又は実用化に向けた取組
- 成育基本方針を地域差無く継続的に社会実装するため令和3年度に開発したツールなどを用いてモデル地区での実証検証を行い、継続的な実施・PDCA サイクルの基盤作りに向けた検討を行う。<継続>
- 遺伝カウンセリングに精通した人材の育成、一般の妊婦及びその家族に対する出生前診断に関する適切な説明及び社会啓発方法の検討を行う。<継続>
- 母子健康手帳に関する検討会の議論を踏まえつつ必要な調査等を行い、母子保健サービスの向上に向けた議論のための基礎資料を作成する。<継続>
- 都道府県型の保健所、女性健康相談センター、不妊専門相談センターと市町村との連携方法や新しい課題に対する対応方法、県型保健所の役割について実態や好事例を抽出し、マニュアル等を作成する。<新規>
- 配偶者を含めたDVによる望まない妊娠をした妊婦に対する産婦人科医療機関の対応の実態、人工妊娠中絶方法の実態を明らかし、DV や性虐待を受けた方に寄り添った意思決定支援、保健行政機関や支援団体との連携方法など検討する。また男性や男児の性被害の実態や、親や兄弟からの性虐待等の支援について検討する。<新規>
- データヘルス時代における母子保健情報の利活用に際し、利用者及び自治体のデジタルリテラシーの醸成に向けた支援について検討する。<新規>
- 子どもの重大な傷害や死亡を予防するための方策を検討するとともに、検討された提言策が実装されているかをフォローし、提言策の実効性の担保についても検討する。<新規>