ビジネス全般

デジタル社会における多様なサービスの創出に向けた電気通信番号制度の在り方 答申案(令和3年10月6日)第1章および第2章1~2

第1章 はじめに

電気通信番号制度は、令和元年5月に施行された電気通信事業法の改正(電気通信事業法及び国立研究開発法人情報通信研究機構法の一部を改正する法律(平成 30 年法律第 24号))により見直され、新たに、総務大臣が電気通信番号の使用に関する条件等を定めた電気通信番号計画を作成することが法定された。また、電気通信番号を使用して電気通信役務を提供する電気通信事業者については、総務大臣による電気通信番号の指定の有無にかかわらず、電気通信番号使用計画を作成し、それに適合するように電気通信番号を使用しなければならないことなどとされた。

この制度見直しから約2年半が経過したところであるが、電気通信市場や社会環境の変化が進み、多様なサービスが新たに出現してきており、これらに係る電気通信番号のニーズや課題等に対応していく必要が出てきている。

このうち、携帯電話の音声サービスについては、一部の MVNO から、自社設備をホストMNO の設備と接続することにより、能動的に多様な付加価値サービスの創出・提供を実現するため、音声伝送携帯電話番号の指定を自ら受けたいとの要望が寄せられている。また、BWA の音声利用についても、「デジタル変革時代の電波政策懇談会」(令和2年 11 月~令和3年8月)では、それを認める方向で検討することを促している。

そのほか、電話転送サービスについては、新型コロナウイルス感染症の拡大防止や、社会全体のデジタル化の促進等によるテレワーク需要の増大も受けて、その利用ニーズが高まっているところ、クラウド PBX の普及をはじめとする技術の進展もあったことから、固定電話番号に係る制度の見直しを求める意見も寄せられている。

電気通信番号制度に関連するこれらの現状や今後の動向を踏まえ、デジタル社会における多様なサービスの創出を促進する観点から、音声伝送携帯電話番号の指定の在り方等及び固定電話番号を使用した電話転送役務の在り方について検討を行うものである。

第2章 音声伝送携帯電話番号の指定の在り方等について

1.基本的な考え方

1.1 携帯電話の音声サービス巡る現状と今後の動向

(1)背景

携帯電話の契約数は年々増加し、令和3年6月末現在、1億 9,610 万件となっている。こうした数値が示すとおり、携帯電話は社会・経済活動の基盤であり、日常生活に欠かせない通信手段となっている。

現在、携帯電話サービスは、MNO(Mobile Network Operator:提供する携帯電話役務に係る無線局を自ら開設・運用している電気通信事業者)と、MVNO(Mobile Virtual Network Operator:無線局を自ら開設・運用しておらず、MNO が提供する携帯電話役務を利用して又は MNO と接続して携帯電話役務を提供する電気通信事業者)により提供されており、その事業者数は、MNO が4社、MVNO が約 1,500 社という状況にある。

総務省においては、これまでに、モバイル市場における公正な競争環境を整備するための取組を進めてきており、この結果、通信料金の低廉化やサービスの多様化が進みつつある中で、更なる競争の活性化等に向けた政策的検討が行われている。

電気通信番号制度において、MNO は、総務大臣から音声伝送携帯電話番号(070/080/090 番号)の指定を自ら受けることによって携帯電話の音声サービスを提供している一方、MVNO は、MNO から同番号の卸提供を受ける形(SIMの提供も受ける。)で、同サービスを提供している状況にある。

同制度においては、現状、音声伝送携帯電話番号の指定を受けるためには、後述するとおり一定の条件があり、MVNO が自ら同番号の指定を受けることが事実上できない制度となっている。

モバイル通信市場において、MNO と MVNO 間の競争が進む中、一部の MVNO から、MNO とのイコールフッティングの実現や、自社設備をホスト MNO の設備と接続することにより、能動的に多様な付加価値サービスの創出・提供を実現するため、音声伝送携帯電話番号の指定を自ら受けたいとの要望が寄せられている。

また、BWA(Broadband Wireless Access)の音声利用について、総務省が開催した「デジタル変革時代の電波政策懇談会」(令和2年 11 月~令和3年8月)において、BWA が LTE(Long Term Evolution)や5G(第5世代移動通信システム)と技術的差異がなくなり、携帯電話番号を用いた音声利用を行うことも技術的に可能となってきているとの状況を踏まえ、音声利用も認める方向で検討することを促している。こうした電波政策の動向を受けて、地域 BWA を提供する CATV 事業者から、音声伝送携帯電話番号の指定を自ら受けて音声サービスを提供したいとの要望も寄せられている。

このようなモバイル市場における環境の変化、MVNO 等からの要望等を踏まえつつ、今後のデジタル社会において多様なサービスを創出していくため、MNO と MVNO 等間の公正な競争を一層促進しつつ、利用者利益の向上を図っていくことが重要であり、こうした観点から、音声伝送携帯電話番号に係る電気通信番号制度の在り方について検討することが必要である。

(2)音声伝送携帯電話番号の使用に関する条件

音声伝送携帯電話番号の使用に関する条件については、電気通信番号計画(令和元年総務省告示第6号)第3において定められており、その内容は次のとおり。

図表1 音声伝送携帯電話番号の使用に関する条件

1.2 音声伝送携帯電話番号の指定に関する検討事項

MVNO 等への音声伝送携帯電話番号の指定に関する検討に当たっては、以下の①~⑤の論点について、関係者ヒアリングを通じて、整理・検討を行った。

① MVNO 等への音声伝送携帯電話番号の指定の可否(MVNO 等からの要望、諸外国の状況等を踏まえた検討)

② MVNO 等への音声伝送携帯電話番号の指定の条件(既存の条件の適用の可否、MVNO 等に新たに適用となる条件、緊急通報の確保に関し MVNO/MNO に求められる対応について検討)

③ MVNO 等への音声伝送携帯電話番号の指定単位(現状、10 万番号単位で指定しているところ、同様の指定単位の適用の可否の検討)

④ 060 番号の音声伝送携帯電話番号への開放時期(当面の MNO による同番号の使用見込み等を踏まえた検討)

⑤ その他(データ伝送携帯電話番号の指定における携帯電話の基地局の免許等に関する条件の適用等に関する検討や、音声伝送携帯電話番号の識別対象の検討)

2.MVNO 等への音声伝送携帯電話番号の指定の可否

2.1 現状・課題

現行の電気通信番号制度では、電気通信番号を使用する電気通信事業者は、電気通信番号計画において定める「電気通信番号の使用の条件」に従い、電気通信番号を使用することが求められる。また、電気通信番号の使用に関する条件において、自ら指定を受けて電気通信番号を使用する場合の条件についても規定している。

音声伝送携帯電話番号についても、他の電気通信番号と同様に電気通信番号の使用に関する条件を定めつつ、自ら指定を受けて電気通信番号を使用する場合の要件を定めているが、当該条件において、携帯電話に係る基地局の免許等を受けていることが条件の1つとなっているため、現状では MNO 以外の電気通信事業者は、自ら音声伝送携帯電話番号の指定を受けることができない制度となっている。

こうした制度の現状に対し、MVNO から、MNO との間でのイコールフッティングの実現、多様な付加価値サービスの提供等の観点から、自ら音声伝送携帯電話番号の指定を受けることについて要望がある。

また、BWA の音声利用に関する検討が行われ、現状、「主としてデータ伝送のシステム」とされている BWA について、音声利用も技術的に可能であること等を踏まえて、音声利用も認める方向で検討を進めていくと整理された。

このような状況を踏まえて、地域 BWA を提供する CATV 事業者からも、地域ニーズに即した音声サービスを実現する観点から、自ら音声伝送携帯電話番号の指定を受けることについて要望がある。

他方、音声伝送携帯電話番号の MVNO への指定に関し、諸外国の状況をみると、制度的に可能となっている国もみられる。

携帯電話市場における競争の促進、利用者利便の一層の向上等を図る観点から、MVNO等に音声伝送携帯電話番号を指定することの影響や、また、MVNO 等の要望や諸外国の状況等を踏まえ、今後もその指定の対象を MNO に限定し続けることの合理性について検討する必要がある。

2.2 主な意見

電気通信事業政策部会及び電気通信番号政策委員会(以下「委員会等」という。)での検討において、MVNO 等への音声伝送携帯電話番号の指定の可否について委員等から示された主な意見は以下のとおりである。

<委員>
  • MVNO が自ら指定を受けることに関しては、要件が満たされていれば、公平性の観点から適当と考える。また、消費者目線に立っても、公平な競争が生まれ、料金が安くなる可能性があると思う。
  • 電話番号が電話をするためにあるというのはもう過去の話。今はトラスティング番号である点を強調する方向。SIM チップがトラストアンカーになっているため、MVNO にも指定すればよいと考える。
  • 利用者が多様なサービスを享受できるデジタル社会を実現していくことが重要。そのためにはMVNO によるサービス設計の自由度を一層高める必要があり、諸外国の動向も参考にしながら、公正な競争が働き、新しいサービスの創出に資するよう検討を進めるべき。
<MVNO 等>
  • MVNO 等への番号指定が認められると、①音声相互接続の実現、②ローカル4G/5G のさらなる発展の具現化、IMS の活用による多様な付加価値サービスの実現が可能となる。(日本通信)
  • MVNO 等への番号指定が認められることにより、一般的な音声通話に係るニーズのみならず、様々な業界のニーズに対するソリューションが生まれやすくなり、電気通信業界の更なる発展につながる。(HIS Mobile)
  • 地域 BWA は、LTE 互換システムであり、携帯電話用の電話番号を用いた音声利用も可能。地域BWA を活用した地域のニーズに即した音声サービスを実現するため、音声伝送携帯電話番号が必要。(CATV 連盟)
  • MVNO が番号指定を受けられるようになることで、MVNO 自ら設置する音声交換機等で付加価値のあるサービスが提供可能となるため、MVNO におけるビジネス拡大の可能性がある。(MVNO 委員会)

2.3 方向性(考え方)

我が国においては、音声伝送携帯電話番号の指定を受けるためには、携帯電話に係る基地局の免許等を受けていることが条件の1つとなっているなど、現状、MNO にのみ同番号を指定することを想定して同番号の指定条件が設定されているといえる。

他方、諸外国においては、例えば、欧州ではイギリス、フランス、ドイツにおいて、また、アジアでは韓国において、MVNO も音声伝送携帯電話番号の指定を受けることが制度的に可能となっている。

このように、諸外国において、MVNO も番号指定を受けることが可能な国も一定程度存在し、我が国においても MVNO 等からの要望があり、MVNO において MNO と同等のサービスを提供できることが見込まれる場合、携帯電話に係る基地局の免許等の要件を今後も維持し続ける積極的理由に乏しいと考えられる。

また、関係者ヒアリングにおいて、MVNO からは、単に音声伝送携帯電話番号の指定を要望するという趣旨だけでなく、基本的な音声伝送役務に加えて、MNO が行っていない新たなサービスを提供すること等により利用者ニーズに応えつつ、市場の活性化、国際競争力の強化等に寄与していく考えが示されており、これを促進していくことが電気通信の健全な発達に資すると考えられる。

加えて、今般の検討においては、MNO 等からは、音声伝送携帯電話番号の指定の条件の同等性を確保すること、音声接続に関する課題の検討が必要であること等についての意見・指摘はみられたが、「MVNO 等に音声伝送携帯電話番号を指定すること」については、反対する意見はみられなかった。

以上を踏まえると、電波政策的な観点からの BWA の音声利用に関する今後の検討に留意する必要はあるものの、MVNO 等に対しても、一定の要件の下、音声伝送携帯電話番号の指定を行うことに支障はないと考えられ、これを基本として電気通信番号制度その他の関連制度の見直しを行うことが適当である。

参照

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