ビジネス全般

医薬品産業ビジョン2021(令和3年9月13日)

2021年9月15日

目次

はじめに ~医療と経済の発展を両立させ、安全安心な暮らしを実現する医薬品産業政策へ~

我々は、常に疾病の脅威にさらされている。疾病との対峙において、予防、症状の緩和、治療など医薬品が登場する場面は非常に多く、我々の健康・生命を守る上で非常に重要な役割を持つ

「疾病」と一括りにしても、その実は、がん、脳卒中、生活習慣病、認知症、難病、感染症など多岐にわたる。疾病の原因が違えば別の医薬品が必要となり、多種多様な医薬品需要が存在する。それに応えてきたのが医薬品産業である。我が国は、欧米諸国に並ぶ数少ない創薬国である。絶え間ない研究・開発の蓄積により、我が国で使用される医薬品の品目は保険収載されているものだけでも約1万4千にものぼる。これだけの医薬品による効能・効果を、国民皆保険・フリーアクセスを誇る我が国の医療保険制度の下で享受できることは、国民の安全安心な生活に大きく貢献し、経済活動を支えている。また、こうした貢献は、景気変動に左右されにくい医薬品産業の高い担税力・安定した雇用につながり、多方面から経済を支えている。

一方、難病・希少疾患等の疾病に対する治療薬の開発などいわゆるアンメット・メディカル・ニーズはいまだ存在する。また、今般の新型コロナウイルス感染症の流行により、安全安心な生活の喪失は、個人の暮らしだけでなく、経済にも多大な影響を及ぼすことが明らかになったことから、医薬品の存在意義と創薬力の重要性が社会的に認知されている。

医薬品産業は知識・技術集約型産業である。イノベーションの激しい潮流は世界に有機的な広がりを見せており、一度流れに乗り遅れてしまうとキャッチアップは困難である。我が国が引き続き世界有数の創薬国であり続け、まだ見ぬ感染症対応も含めたアンメット・メディカル・ニーズに応えられるだけの創薬力を維持・強化することと革新的医薬品を含めたあらゆる医薬品を国民に安定的に供給し続けることを通じて健康・生命が守られた安全安心な暮らしを実現するため、我が国の医療の維持・向上と経済発展が両立できる医薬品産業政策を展開することが重要である。

このため、厚生労働省として、2013 年に「医薬品産業ビジョン2013」を策定し、2015 年には「医薬品産業強化総合戦略」を策定、2017 年にはその改定を行うとともに、2019 年には「日本創薬力強化プラン」を取りまとめた。しかしながら、この間の大きな状況変化等を踏まえ、改めて医薬品産業政策の方向性の確認と共有が必要との認識に至ったことから、ここに「医薬品産業ビジョン2021」を策定する。本ビジョンを通じて、医薬品産業界及び各社が今後の事業計画の展望に役立てるとともに、厚生労働省を含めた国においても、継続的な対応を検討・実施することが期待される。

Ⅰ、医薬品産業政策が目指すビジョンと基本的方向性

(医薬品産業政策の意義)

  • 医薬品は医療の根幹を構成する重要な要素であり、疾病の脅威から我々の健康・生命を守る手段である。
  • がん、脳卒中、生活習慣病に加え、認知症など要介護状態に関わる疾病、難病・希少疾患、新興感染症など、いまだ人類には克服すべき疾患や病態が多数ある。こうしたアンメット・メディカル・ニーズへチャレンジする一つの手段が医薬品である。加えて、医薬品は、一般的に普及性に優れ、その効果を多くの国民に届けることができる。
  • 我が国は世界で有数の創薬国であり、その背景には、医学、薬学等のライフサイエンス分野の研究基盤と高度な製造技術、これらを支える高度な教育と研究・技術人材が存在する。医薬品産業は、研究開発はもとより、製造・販売等も含め、知識・技術集約型産業であり、その発展には絶え間ない投資とチャレンジによる科学技術の向上とイノベーションの実現が不可欠である。医薬品は生命の安全の確保に直結する生活必需物資でもあり、その確保方策について、有事を想定し平時から備えておくことは、医療分野に係る経済安全保障における戦略的自律性の観点からもその重みを増している。サプライチェーンに関わるすべての事業者の努力により、我々は、医療保険制度の下、常に安心して医療を受け、医薬品を入手できる。
  • 革新的な医薬品の開発と普及は、医療の高度化を通じて国民の健康寿命の延伸をもたらし、国民を健康危機から守ることで、患者本人や家族の日常生活だけでなく、消費活動、労働参加など経済活動も支えている
  • また、医薬品産業は、景気変動に左右されにくいビジネスであり、高く安定した担税力と安定した雇用により日本経済に貢献してきた。併せて、国内の研究所は優秀な研究者に活躍の場を提供し、我が国のライフサイエンス分野における研究開発力をはじめとした技術力の維持・発展に寄与するとともに、技術者や従業員の雇用確保にもつながっている。
  • 医薬品産業の健全な維持・発展は我が国の医療水準を向上させるとともに経済全体を支えることにもつながり、そのための医薬品産業政策は医療政策・経済政策の一環としても推進が必要である。

(医薬品産業政策が目指すビジョン)

  • 以上を踏まえ、医薬品産業ビジョン2021 では、国民の健康と生命を守り、我が国の経済成長を支えるという観点から、今後5年から10 年を視野に入れ、以下の2点の実現を目指して、内外資の別を問わず医薬品産業政策を推進していくことを目指す。
    (1)世界有数の創薬先進国として、革新的創薬により我が国の健康寿命の延伸に寄与するとともに、医学研究や産業技術力の向上を通じ、産業・経済の発展に寄与すること
    (2)医薬品の品質確保・安定供給を通じて、国民が安心して良質な医療を受けられる社会を次世代へと引き継いでいくこと
  • これらのビジョンの実現のためには、医薬品の研究・開発・製造・流通が、民間企業によって担われていることを踏まえ、投資に見合った適切な対価の回収の見込みが重要である。すなわち、研究開発に長期的スパンを要する医薬品の特性上、新たな研究開発への投資への期待を持つことができるようにすることや、製造・流通に関して、設備投資等も含め、品質確保と安定供給のために必要となる費用を、適切に確保できるようにすることが必要である。

(医薬品産業をめぐる環境の変化)

  • こうした認識のもと、医薬品産業の課題と方向性を示すべく、2013 年に「医薬品産業ビジョン2013」を策定した。しかしながら、その後、我が国の医薬品産業をめぐる環境には、(1)創薬環境、(2)供給環境、(3)制度・社会的背景において、大きな変化が生じている。
(1)創薬環境

ブロックバスターの主体はバイオ医薬品などの高分子に移行し、さらに中分子、再生医療、遺伝子治療など、モダリティがより多様化・複雑化するとともに、医療の個別化が進み、開発の難易度がより高まっている。また、新型コロナウイルスワクチンをはじめ、アカデミアやベンチャーの有するシーズ等を開発に繋げ成功した例が増加しているなど、同業他社も含めた多業種連携による創薬、エコシステムが一般化してきている。また、IT を活用して、創薬候補や実験・試験データの解析、ゲノムなどのオミックス情報、実診療情報(リアルワールドデータ)の収集・利活用など、効率的かつ迅速に研究開発等を進める必要がある。

デジタル技術を活用したプログラム医療機器(SaMD)と連携した服薬管理や投薬はもとより、デジタルトランスフォーメーションにより従来の医薬品概念に留まらない治療手段(モダリティ)の開発も模索されている。

さらに、疾病の予防や進行の抑制、治療後の再発防止や予後の向上などについても、医薬品産業の知見やネットワークを活かした貢献が期待される。狭い意味での治療に限定せず、患者を中心に据え、患者のライフサイクルに生涯寄り添う考え方に立った研究・開発、解決策の提供などが求められている。

(2)供給環境

効率性の追求の下、グローバルなサプライチェーンが拡がっていくなかで、2019 年にセファゾリンナトリウム注射薬が長期間にわたり欠品となるなど、安定供給という観点から懸念される事態が生じた。さらに、新型コロナウイルス感染症パンデミック時に生じたグローバルな生産・流通網の停滞・断絶、自国第一主義の顕在化により、サプライチェーンの問題は、経済安全保障にも直結する課題であることが認識された。医薬品は、国際的にも、半導体やレアアースなどと並ぶ重要物資として注目を集めている。

後発医薬品は、国民に広く浸透し医療上の必要性が高まっているなかで、2020 年末以降、複数のメーカーの不正製造による行政処分に起因し、多数の品目で長期的な供給不足が起きており、改めて品質確保と安定供給の問題に向き合う必要が生じている。成熟期に入っている国内市場に比べ、アジア、アフリカなどの開発途上国における医療水準の向上とそれに伴う医薬品市場の拡大が引き続き見込まれており、海外進出がビジネス上の大きな課題となっている。

災害時やメーカー側の事情での欠品も含め、医薬品の需給がひっ迫した際に、国民皆保険・フリーアクセスを支え、維持していく重要な存在である医薬品卸について、独占禁止法違反事案等を受けてコンプライアンスと経営の強化に取り組む必要がある。

(3)制度的・社会的背景

こうした環境変化に対応すべく、政府においても、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の設立と健康・医療戦略の策定による創薬を意識した研究・開発の助成・支援、研究開発税制による研究・開発支援、ゲノム解析の加速化と実行計画の策定、医療情報の標準化の推進、2019 年の薬機法改正による薬事規制の合理化・迅速化、薬価制度抜本改革によるイノベーションの評価と国民皆保険の持続性の両立確保などに取り組んできた。一方で、近年の医薬品市場の市場規模の伸長率が諸外国と比べて高くないことから、日本市場の相対的な魅力に懸念を示す声もあるが、日本市場は、国民皆保険制度による安定・確実な販売見通しと予見性が比較的高い薬価制度がその特長であり、引き続き、国民皆保険制度の持続性と企業としての投資回収の見込みを両立させ、グローバルでみても日本の医薬品市場の魅力を維持することが重要な課題である。

国民皆保険の持続可能性を考慮すると、革新的創薬の推進と同時に、国民自らによる健康維持・増進の取組を進めることや、我々が日常的によくり患する疾病に対処するための医薬品についての薬剤費の効率化を図っていくことも重要な課題であり、セルフケアの推進を図りつつ、後発医薬品への置換えの推進や、一般用医薬品(OTC 医薬品)を適切に活用したセルフメディケーションの実施の必要性が高まっている。

2020 年に始まる新型コロナウイルス感染症禍をきっかけとして治療薬やワクチンの開発・生産が社会的にも大きな関心を集めている。しかし、新興感染症は、新型コロナウイルス感染症だけに留まらない。たとえば、地球温暖化により我が国で流行していなかった熱帯地域の感染症が流行することも考えられる。

ワクチンに限らず、薬剤耐性(AMR)対策などの感染症治療薬を含めた医療用医薬品全般について、医薬品の研究開発・製造・確保は国民の生命・安全に直結し、経済安全保障の戦略的自律性という観点で重要であり、有事を想定し平時からの備えが重要であること、こうした医薬品を他国に先んじて研究・開発することや国内製造拠点を有することは、戦略的不可欠性としても、外交上の重要な手段となり得ることが認識された。こうした経済安全保障や医薬品の安定供給の確保は、制度的な対応も含めて、今後その重要性を増していくと考えられる。

(医薬品産業政策の基本的方向性)

  • 従来は、製薬企業であれば、すべからく産業政策の対象としてきたが、国として産業政策に割くことができるリソースには限りがあることから、政策ターゲットを明確に設定して産業政策を展開していく必要がある。今後は、「医薬品産業政策が目指すビジョン」の実現を図るため、「革新的創薬」「後発医薬品」「医薬品流通」の3点に焦点を当てて、「経済安全保障」の視点を加えつつ、医薬品産業政策を展開していく。
  • まず第1に「革新的創薬」である。アンメット・メディカル・ニーズは、現在も数多く存在し、今回の新型コロナウイルス感染症のように突然に現出することもある。こうした健康・生命が脅かされる事態から我々を守り続けるには、絶え間ないイノベーションにより創薬力の強化を継続しなければならない。そのためには、アカデミア・ベンチャーのシーズを積極的に導入していくことも重要である。
  • 第2に「後発医薬品」である。その経済性に加えて飲みやすさの改良等の努力も重なり、ここ10 年ほどで使用割合は約2倍となり、国民が服用している医薬品の多くが後発医薬品となっている。また、特許期間を満了した医薬品が後発医薬品に切り替わることは、医薬品ライフサイクルの加速に貢献する側面もある。一方で、一部の企業において、その製造管理体制が不十分との課題が顕在化し、品質と安定供給の確保をこれまで以上に強化する必要がある。
  • また、第3に、「医薬品流通」についてもフォーカスする必要がある。どのような状況下であっても、末端の医療機関、薬局等まで医薬品流通が滞りなく機能し、必要な時に必要な医薬品にアクセスできることで、初めて医薬品の効果が全国民に行き渡ることになる。また、医療用医薬品の公定価格である薬価は、市場で取引される実勢価格をもとに改定されることから、卸売業者と医療機関等との適正な価格形成は政策的にも重要な位置づけとなっている。
  • さらに、近年の様々な供給不安事例を踏まえると、「経済安全保障」の視点も必要である。新型コロナウイルス感染症などの新興感染症や大規模災害の発生等の緊急事態下において、「革新的創薬」、「後発医薬品」、「医薬品流通」の3分野を中心に、国民の健康と生命を守るための医薬品の研究・開発・製造・供給をいかに迅速かつ安定的に行うかも重要であり、医療政策と経済安全保障政策の両面から医薬品産業政策に取り組むことが求められる。

Ⅱ、各政策領域における基本的な認識と課題

ⅰ 革新的創薬

(投資リスクの増大と公的支援の重要性)

  • 先進的な医療領域は遺伝子レベルの研究や高分子化など複雑性と研究開発の難易度が高まっていることから、企業側から見れば研究開発の成功確率が低く、投資リスクが増大している。製薬企業は、こうした投資環境に耐え、革新的な医薬品の研究開発への探求を続けることが必要である。一方で、予算・税制・その他環境整備等の公的支援や外部資金、共同研究開発もより必要となっている。
  • 製薬企業において投資リスクが増大しているのと同様、外部資金を投入する投資機関から見ても、製薬企業への投資リスクは高く、外部資金を含めた研究開発投資促進のためにも、公的支援の重要性が増している。
  • 特に、感染症分野を始め、経済安全保障の確保や公衆衛生のために必要となる医薬品は、平時は需要が高くなく、研究・開発に伴う収益や投資回収が見込みづらいものであるが、緊急時に迅速・的確に対応するためには、平時から国内で研究開発と生産体制等を維持・継続しておくことが重要である。そのためには、国内における研究人材や生産技術者の確保・育成も必要となる。

(研究開発等を支えるデータ基盤の整備)

  • 遺伝子レベルの研究に基づく個別化医療が今後の革新的医薬品の主戦場となるが、その研究開発を進め、がんや難病患者等により良い医療を提供するためにはゲノム情報の収集・解析が必要である。全ゲノム解析については、既に、英国、米国など主要国における政府主導の大規模プロジェクトが先行しているが、我が国においても、全国民に均質かつ高度な医療を提供する国民皆保険制度の優位性も踏まえて、臨床情報の収集・利活用を行っていくことで世界をリードすることが期待される。
  • また、難病治療薬など十分な症例数の確保が難しい場合が想定されるが、こうしたゲノム・オミックス・データや電子カルテ情報、医薬品の投薬・接種関連情報等のリアルワールドデータといった医療情報は、研究・開発のシーズ探索等に当たっての基礎的データとなることや、治験の比較対照群として利用すること、市販後の安全性・有効性の判断の効率性や確実性を向上させることなどが期待され、現に、データ利活用創薬は世界的にも加速している。
  • 我が国の高い治験コストなどの研究開発のハードルを軽減し、より良い医療の実現や製薬業界におけるグローバル市場での競争力強化のためにも、全ゲノム解析等実行計画」をはじめとしてこれらデータ基盤の整備・利活用促進を、国主導で効率的かつ迅速に行う必要がある。

(エコシステム実現によるアカデミア・ベンチャーからのシーズの導出)

  • 研究開発の複雑性・難易度が向上し、専門性も増していく一方で研究開発スピードは速くなっており、特定領域に特化した技術を有する企業やアカデミアの存在感が増し、世界的にも水平分業が進んでいる。アカデミア・ベンチャーとの連携確保はこれからの革新薬開発の必須条件とも言える。製薬企業の強みは、薬事・薬価・知的財産などの制度に精通していること、製造・流通を含めた品質管理体制を構築していることにある一方、ベンチャー企業はそれらの知見や体制が不足していることから、両者が連携することで効率的な研究開発が進んでいくことが期待される。一般に「エコシステム」と呼ばれる協業によるイノベーションの創出の取組みを一層進めていくことが必要である。
  • 元々小さい企業規模も相まって、日本企業の研究開発費は伸び悩んでおり、米国企業を下回っている現状から日本企業の研究開発力の低下が懸念されている。その点でも、水平分業やアカデミア・ベンチャーも含めたネットワーク構築をグローバルに進め、企業や国籍、業態の枠を超えて、エコシステムの構築を進めていくことが必要となる。たとえば、実際のシーズ獲得や国際展開に当たっては、ベンチャー企業や現地企業への投資やM&A なども有効な手段の一つである。
  • また、相対的に小さい規模の製薬企業自らによる投資額を補うためにも、外部資金を投入する機関が重要である。研究開発の初期段階も担うアカデミア・ベンチャーは投資回収が見込みづらいため、外部資金の獲得が困難な場合が多い。したがって、そうした際の資金投入者であるベンチャーキャピタル(VC)等の存在意義が増している。
  • 「死の谷」を克服し、特に、国内発・世界初の研究成果が我が国における医薬品上市に結びつくよう、こうしたアカデミア・ベンチャー、VC、製薬企業の間で、国境を超えたグローバルなネットワークが構築され、人材交流等による資金・知・情報の循環がより深まり、促進されていくことが重要である。双方の弱点を補い、強みを最大限に活かすことが必要となる。特に、より早期段階からの製薬企業の関与や助言・指導がアカデミア・ベンチャーで発見されたシーズを実用化する上では必要である。また、国においても、新型コロナウイルス感染症対応も踏まえ、今後の感染症対応にも備える観点から、どのようにしてこうしたシーズを早期に実用化できるのか、研究し対応することが求められている。
  • 加えて、特定の医薬品分野では、日本法人や国内管理人を持たない新興バイオ医薬品企業(EBP)が研究開発を担っていることを一因として、国内未承認薬が増加しているとの指摘もある。こうした海外企業が我が国での研究開発を行いやすい環境整備の視点も必要である。
  • 我が国においてもベンチャー企業やアカデミア由来の医薬品の研究開発が進んでいるが、海外と比較するとその割合は高いとは言えない。製薬企業とマッチングして成果を出せるベンチャー企業やアカデミアが必要であり、エコシステムの形成により、アカデミア・ベンチャーの底上げを図る必要がある。

(ヘルスケア分野全般への関与)

  • 製薬企業各社がそれぞれ特に重点的に取り組む疾患領域については、Key Opinion Leader を含めた医療界へのネットワークと医療関係者・患者が必要とする医療のマーケティング能力も製薬企業の強みになり得る。
  • その際、各医薬品が、他の医薬品や治療法等と比べたときに、実際にどのような価値を患者、医療者及び社会に追加的に提供するのか等についても関心が高まっており、製薬企業はこのような視点に立った開発にも取り組み、その価値について患者や医療従事者等に情報提供し、患者中心の医療を実現していく必要がある。
  • また、前述のとおり、製薬企業は薬事・薬価等への精通も強みである。薬事制度上、科学的なエビデンスは重要であり、今後もエビデンス構築に向けて疾病や病態の研究を続けることが必要である。現行の医療保険制度にとらわれず、予防・未病対策等も含めた患者としての一連の行動(ペイシェントジャーニー)を踏まえて研究開発に取り組み、治療手段を突き詰めていくと、予防や再発防止などのいわゆるヘルスケア分野への進出につながると考えられる。これは、国民のQOL 向上等にも資するものである。
  • また、従来の医薬品というモダリティや医療機関における処方に限定せず、パーソナルヘルスレコード(PHR)の活用やプログラム医療機器をはじめとしたIT の活用など、患者目線での多様なアプローチが想定され、水平分業の流れのなかで異分野の企業と連携することも重要となってくる。

ⅱ 後発医薬品

(後発医薬品等の品質確保と安定供給)

  • 後発医薬品がここ10 年ほどで使用割合は約2倍となり、現在、国民が服用している医薬品の多くが後発医薬品となっている。つまり、後発医薬品は国民に対する医療を支える重要なファクターの1つとなっており、後発医薬品企業は改めて、その品質担保に関する責任の重さを改めて認識するとともに、医療上の必要性に鑑み、医療現場に継続して安定的に供給することの重要性を再認識すべきである。
  • ビジネスモデルについてみると、これまでは、国の使用促進策もあり、後発医薬品市場全体として、先発品からの置き換え効果による量的市場拡大が見込まれ、それを原資として価格競争を行っても一定量の売上を確保できることから一定の質を保つことができた。使用割合が約8割となっている今、少なくとも国内市場では大きな量的拡充が期待できないなかで、医薬品に対して当然求められる品質の確保と安定供給が十分には達成されていないことが大きな課題となっている。
  • 医薬品のライフサイクルという観点からは、特許期間を満了した先発医薬品について、品質が確保された後発医薬品を低価格で安定的に供給することは、極めて重要な役目を担っている。一方で、上記のような現状を踏まえると、たとえば、価格だけではなく、品質確保・安定供給の取組・担保状況の評価なども踏まえて、医療現場・患者に信頼され選択されるといったビジネスモデルを確立していく必要がある。

(医薬品の情報提供の促進)

  • 医薬品は、国民の健康に関する商品である以上、その価値は価格だけではなく、今後は患者や医療現場に信頼され選ばれるという視点がより一層重要となる。そのため、品質や安定供給の信頼性等を具体的に評価できる情報を医療現場に届け、医薬品の価値を形作っていくことが必要である。特に後発医薬品は、同一の有効成分、効能効果を有する医薬品が多数存在しているが、品質面では製剤工夫による服薬アドヒアランスの向上や識別性・安定性の向上、安定供給面では原薬の複数ソース化や工場の生産体制の工夫も行われている。しかし、こうした価格以外の価値は、医療現場等でも十分には認知されていない。今後は、後発医薬品企業において品質面・安定供給面の取組がさらに進められるとともに、価格以外の医薬品の価値に関わる情報が医療現場等に対して十分に提供され、それに基づき評価がされる環境を整備していくことが必要である。

(後発医薬品製造販売業者等の在り方)

  • 一部の後発医薬品企業のGQP・GMP 違反と行政処分、その結果の製品の供給不安によって、後発医薬品全体についての不信感が高まっている。改めて品質と安定供給に対する信頼性を回復することが、業界としても政策としても大きな課題となっている。
  • 製造販売業者は、品質確保と安定供給について最終責任を負う主体であり、他社であっても製造所の実態を把握し、適切なGQP で製品が製造されているかを管理監督できるもののみが製造販売業者となるべきである。そして、当該製造販売業者の管理監督の下、GMP を遵守できる企業が製造業者として製造管理・品質管理に努めるべきである。
  • また、後発医薬品は少量多品種の生産が多いため、スケールメリットが少なく、製造費用等の増大につながりやすいことに加え、医薬品に求められる品質の高度化や安定的な供給に対応するための設備更新等が求められる。前述のとおり、国内市場では大きな量的拡充が期待できないなかにおいて、こうした投資回収が安定的に行われる仕組みを再構築する必要がある。そのためには、後発医薬品企業がそれぞれの特色を活かして、自らの事業展開を考えていく必要がある。
  • 品質確保と安定供給の体制が整えられ、情報の開示・提供を行うことができ、海外市場展開や新たな領域への挑戦、製造業への特化など自社に合った事業戦略を立てられる事業者が後発医薬品企業の中核を担うことが期待される。

(後発医薬品の海外展開等)

  • 後発医薬品はその経済性故に、品質が確保された製品を安定的に提供し続け事業継続するためには、一定の販売量が必要となる。
  • 従来、日本の製造業は良質な雇用を背景に、「ジャパンブランド」として世界中にその品質が認知されており、医薬品に関しても前述の各種基準の遵守などを通じて一定の品質を確保してきた。「ジャパンブランド」を訴求した後発医薬品の海外普及もビジネス展開の選択肢の一つであり、世界各国の医療水準の向上と健康長寿の実現につながる取組みともなるため、国としても支援を図っていく。
  • 併せて、製造販売事業者の特長を活かして、まだ国内での後発医薬品への置き換えが進んでいない疾患領域や製剤技術などに踏み込むことで、量的拡充に依存しないビジネスモデルを確立していくことも考えられる。

(バイオシミラー産業の育成)

  • バイオ医薬品は、世界的に品目数が大幅に増加しており、医薬品分野のなかでも成長領域として見込まれている。医薬品のライフサイクルという観点からは、近年のブロックバスターの主流も担うバイオ医薬品の後続品であるバイオシミラーの普及が次なる課題となっている。
  • 残念ながら、バイオ医薬品全般について国内の開発・製造の拠点整備や技術開発は、米国などの先進諸国やバイオ医薬品製造の振興を進めてきた韓国等に後れをとっていることは否めず、そのことも新型コロナウイルスワクチンの国産開発や製造の遅れの一因との指摘もある。こうしたことを背景に、現在のバイオシミラーの殆どが海外製造品の導入品となっている。バイオシミラーの国内普及を進めるに当たっては、国内においてバイオシミラーを含むバイオ医薬品の製造技術や開発手法を担う人材の育成、品質と安定供給が確保された国内での開発・製造品を増やすことも重要な課題である。サプライチェーン上のリスクを踏まえ、特に経済安全保障上重要な医薬品については、バイオ医薬品・バイオシミラーの安定的な供給を確保することが重要となる。そのため、国としても、国内のバイオ医薬品製造技術の普及や製造拠点の整備などを進めていくことも、バイオ及びバイオシミラー産業の育成のために必要な政策である。
  • また、バイオシミラーについては、その効果等について先発品との違いがあるのではないかなど切替え上の不安もある。医療従事者や患者の不安を取り除くことも必要である。

ⅲ 医薬品流通

(医薬品卸売業の存在意義)

  • 我が国の医療提供体制の下で、約1 万4千品目を超える医療用医薬品を、全国の約18 万の病院・診療所、約6万の薬局を対象に、個別のニーズにきめ細かく対応しつつ、安定的かつ効率的に供給することができるのは、医薬品卸という日本特有の事業者がいるからこそである。医薬品卸は、いわば製造販売事業者や販売事業者に成り代わり、取引先のすべての医療機関等に対して、医薬品に関する適切な情報を提供し、取引条件等を踏まえつつ価格を交渉して契約と債権管理を行い、日々必要となる医薬品を需要に応じて適切な頻度と管理の下で配送を行い、医薬品の商流と物流の両面において、都市部から山間へき地・離島に至るまでの医療機関等に毛細血管状に網の目のネットワークを形成し、医薬品の安定供給を担っている。医薬品卸は、一般の物流業者とは異なり、単に物流事業を受託して実施しているのではなく、製薬企業から医薬品を購入し、災害時物流拠点も含めて自らの投資により流通網を形成し、いわば各医療機関等のバックヤードとして、製薬企業と医療機関等のバッファー的意義を果たしている。このように、医薬品卸事業者については、1)商流機能2)物流機能3)情報提供機能4)債権管理機能の4つの機能を基本的機能として担っており、我が国の医療提供体制におけるその存在意義について、改めて認識されるべきである。
  • 一方で、卸売業者においても、様々な技術革新なども踏まえながら、商流機能・物流機能の改善をはじめ、基本的な4つの機能の見直し・強化を図ることなどを通じて、メーカーと医療機関等の双方に信頼され、医療提供体制の一翼を担う存在としてその価値を認められるようにしていくことが重要である。

(医薬品卸売業の商流機能の改善)

  • 一方で、医薬品卸については、長年の商慣行により、特に商流機能・物流機能の効率化・適正化が十分に進んでいない点があり、その改善を図る必要がある。
  • 商流機能については、従来は医療保険から医療機関等に支払われる薬価と、卸売事業者が医療機関等に納入する納入価との差額(いわゆる薬価差)が大きいなかで、薬価差の総額ありきで、個別品目ごとの納入価は後付で合意する総価交渉が一般的であった。
  • しかしながら、納入価格は薬価(公定価格)を決定する重要な位置づけのものであり、単なる民間契約を超えた社会的・制度的位置づけを有するものである。まず、このことについて、流通に携わる全関係者で改めて共通認識を持つことが必要である。2021 年度以降は毎年行われることとなる薬価改定の際に、既に上市されているすべての品目の納入価格の市場実勢価格を薬価調査で把握される。従って、銘柄別に薬価が決まっている我が国の医療保険制度の下では、総価交渉に基づく市場実勢価改定は相容れず、銘柄ごとの医薬品の価値を、適切な競争環境のもとで合意形成していくことが必要である。
  • このため、交渉段階から個々の医薬品の価値を踏まえた納入価交渉を行う単品単価交渉をさらに促進することが必要である。また、流通コストも含めて、納入価の根拠と妥当性を医療機関等に説明し、協議を尽くすことも重要である。医薬品販売現場における上記の卸売業者の存在意義を踏まえた流通コストの明確化を行うとともに、個々の医薬品の有する医療上の価値と薬価上の評価を理解したうえで、医療機関等への納入価格の提示と価格交渉を行うべきである。具体的には、製薬企業から卸売業者に対する販売価格である仕切価をもとに、安定供給に必要なコストを含めた価格設定を行い、医療機関等に対してその必要性と根拠を説明する取組みを積み重ねていく必要がある。
  • 同時に、購入する医療機関等においても、個々の医薬品の価値を踏まえた納入価の設定を理解し、例えば、取引条件等を考慮せずにベンチマークを用いた値引き交渉を慎むという姿勢も重要である。
  • 一方で、製薬企業から卸業者に対して販売される医薬品の価格である仕切価等が適正な水準に設定されることが、医薬品卸の事業の継続性の確保の観点から重要な要素であり、その価格交渉についても、その根拠の明示など当事者間の公平な協議を確立していくことが重要である。
  • 納入価交渉をめぐっては、2016 年及び2018 年に地域医療機能推進機構(JCHO)が行った入札において、大手卸4社が独占禁止法に定める入札談合(不当な取引制限)を行ったとして2021 年6 月に3社及び3社の社員に有罪判決が下った。入札方法等に課題はあったと言われるものの、違法行為を行うことは流通改善以前の問題であり、該当社はもちろん、他社も含め業界をあげて再発防止に取り組み、一人ひとりの社員にまでコンプライアンスを徹底する必要がある。国民の信頼を取り戻すには日々の業務を着実にこなし、医薬品卸の社会的価値への認識を高めることも重要である。

(医薬品卸売業の物流機能の改善)

  • 物流機能については、先述のとおり、医療用医薬品を全国の医療機関等に安定供給することにより、国民皆保険の下でのフリーアクセスを可能としていることの重要性、意義について、関係者を含めて改めて強く認識することが重要である。
  • 近年は、医薬品の開発促進や後発医薬品の普及により、医療用医薬品の品目数や製造販売業者数が増加しているなかで、様々な理由により、製品の供給停止や出荷調整、回収などの事例は増加している。こうした事例が生じた際の代替薬への変更等の連絡・調整業務、引取りや代替薬の配送、管理等の業務を卸が担っているが、こうしたイレギュラーな業務は増大の一途をたどっている。
  • 加えて、医薬品卸は、災害時において被災地に対して必要な医薬品を供給できるよう、災害対応物流拠点の整備や非常時発電等の備えなどを含めた事業継続計画(BCP)対応を行っている。
  • このように、いついかなる場合でも必要な医療を提供することができるよう、物流機能を整備することは医薬品卸の重要な役割であるが、今後は、国による情報の一元的な把握や供給調整業務など、国と連携をして緊急時を見据えたサプライチェーンの効率化・強靱化に取り組むことが必要となってくる。

(地域における医薬品卸の在り方)

  • 卸売業者は、山間へき地や離島を含めた地域医療を実現させるための重要な機能を担っているが、こうした地域における経営はますます厳しさを増しており、地域においても事業が適切に継続できるような対応を考えていくことが重要である。
  • 卸売業者は、医薬品に関する情報提供機能として、製薬企業からの情報等をもとに、その有効性や安全性に係る情報を地域の医療機関等に伝達する役割を果たしてきた。ときには、製薬企業と連携して、疾患や治療についての啓発活動なども展開してきている。このように、単に医薬品を運んで売るだけでなく、個々の医薬品の有する医療的な価値を理解して医療関係者や地域住民に伝達できる機能をどのように活用していくかについて、社会全体で考えていくことも必要である。
  • また、卸売業者は、これまで地域で活動することにより培ってきた人的ネットワークを活用し、医療機関等へのきめ細かな情報提供、薬局等と連携した在宅患者や地域住民への支援やサービス、地域包括ケアシステムの一員として行政・医療機関等のつなぎ役となるなど、従来の医薬品卸の4機能(商流・物流・情報提供・債権管理)を基礎として、それをさらに活用していくことで、新たな事業展開が可能となり、地域の医療・介護の重要な担い手として存在価値を高められるという視点も必要である。

ⅳ 経済安全保障

(緊急時の医薬品の安定供給)

  • 医薬品は、疾病の脅威から健康・生命を守る手段である。安定した品質の医薬品の存在は国民の日々の安心感の醸成につながっており、その欠品は社会全体の不安を招くとともに、実際に健康面の被害が想定される。その供給の断絶はすなわち国民の危険を意味し、医薬品の安定供給は重要な視点である。
  • その際、平時の安定供給は当然のことではあるが、緊急時も含めてその供給に不安が起きないように平時からの備えが必要となる。
  • 医薬品は一般的な工業製品に比べ、製造工程自体はあまり多くはないものの、原薬・原材料や製品を特定国に依存している場合が多い。このサプライチェーンの構造上のリスクによって、前述のような国際的な需要増加等による欠品が現実に発生しており、特に医療上必要な医薬品については、供給不安リスクを低減させる必要がある。

(ワクチン・感染症治療薬産業の育成)

  • 国民の健康水準の維持・向上と安心できる生活の維持による経済成長が医薬品の価値であることを踏まえると、新興感染症やAMR への対応は、まさに医薬品がその役割を発揮するべき場面である。ワクチンや感染症治療薬が戦略的自律性・戦略的不可欠性の両面から重要な医薬品であることも踏まえれば、安全保障上の観点から国内におけるその開発・生産体制は重要である。
  • 今回の新型コロナウイルス感染症対応において、新型コロナウイルス感染症のワクチンや治療薬の開発が遅れることとなってしまっており、その一因としてワクチンや治療薬の収益や投資回収が見込みづらいことが挙げられる。
  • ワクチンについては、過去の予防接種禍等を受けた国民のワクチン忌避の傾向から市場形成が難しいほか、①開発及び定期接種化までに時間がかかること、②国家検定が見直されていない、③ワクチン特有の商慣習などの課題がある。
  • 感染症の危機管理に資する治療薬については、平時においては需要が乏しいことが課題であるほか、AMR 対策で必要な抗微生物薬については、さらなるAMR の出現を防ぐためにも適正使用が必要であり、使用頻度が低い薬剤であるなど事業性の低さを抱えている
  • 国際的にも感染症対応は注目されており、たとえば、2015 年のG7 保健大臣会合では、2014 年のエボラウイルスの流行の経験を踏まえて、AMR だけでなく、感染症流行に備えて迅速に臨床試験に移ることができることの必要性が確認されている。今年の保健大臣宣言でも臨床試験の迅速な実施のための国際協力強化の必要性に触れられている。
  • 次のパンデミックにおいて、日本のワクチンや治療薬の開発が迅速に行われるためには、従来からのこれらの課題に対処し、解決に向けて取り組む必要がある。

Ⅲ、フェーズに応じた具体的な施策の在り方

  • Ⅱの主要テーマごとの課題と方向性を踏まえ、「研究開発」から「薬事承認・保険収載」「製造」「流通」「国際展開」といった医薬品のライフサイクルに応じたフェーズごとの施策として、以下のようなものが必要と考えられる。

ⅰ 研究開発

  • 創薬技術の高度化、臨床試験の成功率の低下などから医薬品の研究開発費用は上昇する一方で、その成功確率は低下している。こうした状況から、限られたリソースを効率的に投入し、最大限のパフォーマンスをあげることができる環境を作り出すことが求められている。

(重点領域の設定と伴走支援)

  • 医薬品の高度化・多様化の現状や疾病構造・アンメット・メディカル・ニーズの変化に鑑みると、単に「創薬支援」と銘打つだけでなく、我が国の医療政策上重要な疾患領域や、革新的な技術として世界を牽引しうると考えられる領域に対して重点的な支援を行うことが必要である。
  • 既に、AMED において、政府の健康・医療戦略に即した医療分野研究開発推進計画に基づき、医薬品プロジェクトや再生・細胞医療・遺伝子治療プロジェクトが進められている。しかし、これらはあくまで研究者や開発者からの自発的な申請をベースとした研究開発支援を基本としている。
  • 政策的優先度の高い領域や分野、たとえば、新たな感染症の発生時におけるワクチンやAMR 対策の抗菌薬を含めた感染症治療薬や難病・希少疾患の治療薬等については、入口である研究段階から上市後の出口までを見据えた伴走支援を行っていく
  • 具体的な枠組みについて、研究開発に関しては健康・医療戦略に基づく医薬品開発協議会における議論を踏まえつつ、内閣府等と検討を行うが、イノベーションシーズの担い手であるベンチャー企業やアカデミアは重要な支援対象である。たとえば、ベンチャー企業は、大企業では手を付けることが難しい領域において早いスピード感でイノベーションを生み出すことがある一方で、調達資金が小規模で組織体制や運営ノウハウの蓄積は十分でないため、上市後も見据えた実効性のある適切な支援が必要である。

(オープンイノベーションコミュニティづくりを中心とした研究開発環境の整備)

  • 創薬技術の高度化によりアカデミアのシーズ研究やベンチャー企業等のシーズに起源を持つ医薬品が増加している。また、ベンチャー企業・アカデミアの迅速な研究開発と製薬企業の薬事・流通のノウハウを活かした協働も世界的に進んできている。そのため、我が国においても、従来の企業内創薬からオープンイノベーション(OI)への転換が求められる。OI を実現するためには、異業種も含めた多様な主体が交流する場としてOI コミュニティが物理的なものないしネットワークとして機能し、存在することが必要であり、各社がそれぞれ整備するのではなく、産官学が協働してOIコミュニティ(ないしその機能)を整備することが必要である。
  • OI コミュニティとは、単に、産官学等の物理的距離の短縮を目的とするものではなく、いわゆるエコシステムを形成し、海外からの参入も含め有機的にイノベーションが促進されていく環境である。
  • 既に海外のOI 拠点(ボストン、シリコンバレー等)は高い実績を誇っており、このままでは、国内の優秀な人材が流出し、我が国の研究開発が空洞化し国際的な競争力を失うおそれがある。従って、多種多様なステークホルダーを呼び込むことができ、海外のエコシステムとも協働できるようなコミュニティを我が国に整備しつつ、個々のコミュニティのつながりによる相乗効果を視野に入れる必要がある。それぞれのコミュニティを地域で主体的に支援する地方自治体などとも連携を図り、国としても、迅速かつ効率的に、魅力あるOI コミュニティづくりを進める必要がある。
  • また、世界のイノベーションの潮流を捉えて製品の実用化を進めていくためには、国内ベンチャー企業に加え、高い技術を有するが、日本に拠点を持たない海外の創薬ベンチャー・バイオテック企業などが、日本での研究開発に参入しやすくなるよう、承認プロセスの周知や行政とのコミュニケーション、投資回収の予見性向上をはじめとした環境整備を行っていく必要がある。

(人材による研究開発力強化)

  • 創薬現場におけるデータ利活用の価値が向上し、製薬企業においても統計分析の重要性が増している。そのため、ビッグデータの扱いに長けた人材、特に、研究開発への利用が期待される遺伝子情報などの扱いを専門とするバイオインフォマティシャンが求められている。
  • 日本においてこれらの専門家を輩出する環境は不十分な状況である。そのため、生物統計等に関する教育の充実に加えて卒後教育も含めた拡充等、アカデミア・産業界・行政3者の連携による人材育成に係る基盤整備が求められる。
  • 一方で、こうした人材は製薬分野以外にも多数の魅力ある就業先がある「売手市場」のため、製薬企業からの強力かつ継続的な採用活動と魅力発信などが必要であり、業界挙げて取り組むことが有効と考えられる。たとえば、大学等の教育機関と連携し、教育プログラムの提供や業界の魅力、成功モデルの発信を通じた人材育成の支援や製薬企業への就職ルートの確立が求められる。こうした取組は、統計分析人材だけでなく、研究人材獲得にも資するものである。
  • 併せて、アカデミアから医薬品の研究開発につながるような事業志向の研究に多くの研究者が取り組み、成果が出されるよう、アカデミアにおける研究者の評価について、論文以外の評価軸を持った多角的な研究評価方法も求められる。

(リスクマネー供給・マッチング支援)

  • 近年のイノベーションを担ってきたアカデミアやベンチャー企業等においては、臨床研究なども含めた研究開発費用の獲得などの入口戦略と研究成果の出口戦略が課題である。
  • 研究開発費用について、我が国は米国に比べて創薬ベンチャー企業の成長可能性が低く、成功も小さいという現状のなかで、国内の創薬ベンチャーに対するVC 等からの投資を呼び込んでいくためには、諸外国の例も参考にしつつ、必要資金額が1桁上がる実用化開発の支援を強化していくことが必要である。国ですべてを見るか見ないかという従来型の考えを脱し、官民でシーズを育てていくためにも、伴走支援のなかで政府サイドからの資金提供を行い、それを呼び水として民間資金の流入の活性化を図る
  • また、研究成果については、国内外からスムーズにアクセスし、マッチングにつなげるプラットフォームを構築することで、株式公開による資金調達や適正価格での速やかな売却など円滑な出口戦略の実現につなげる。

(研究開発データ基盤等の整備)

  • ゲノム・オミックス・データやリアルワールドデータの活用により企業における研究・開発のシーズ探索や市販後の安全性・有効性の確認を容易にすること、治験の比較対照群として利用することなどが期待される。一方で、一企業ですべてを賄うことは難しく、国による環境研究・整備が必要である。
  • まずは、「全ゲノム解析等実行計画」を着実に推進し、がん、難病患者のゲノムデータの収集等を実施し、産学で連携しながらデータ利活用推進を図るよう体制整備を進める。加えて、さらなるゲノム情報の整備として、多くの国民が罹患する一般的な疾患や健常人に係る情報の収集も重要である。研究開発に当たっては様々なデータが使用されるが、それぞれ個々の内容に乖離があり、研究開発に使用しやすくする観点から、その項目や記載内容についての標準化を図る
  • また、個人単位化される医療保険の被保険者番号の使用などにより各データ基盤の連結を行いその有用性をさらに高めることを検討する。
  • 併せて、創薬における医療情報の利活用を進める一方で、その収集についての国民の理解を得ることが、有用なデータを幅広く集積することに繋がる。こうした視点も踏まえて、医療情報の利活用に関するガイドラインの活用・作成を進めるとともに、その保護と利活用に関する法制度の在り方を検討する。
  • それに加えて、データ基盤を整備する国、活用する製薬企業は、収集した個人情報がどのような配慮のうえで蓄積・活用されるのか、またその利活用の目的と期待される成果等について、国民へ説明を尽くすようにする必要がある。
  • なお、個人の検診や服薬履歴等を本人や家族が一元的に把握し、日常生活改善や必要に応じた受診、医療現場での正確なコミュニケーションに役立てるため、PHR の基盤整備を進めることとしているが、こうした情報を活用して効果的な保健医療サービスをどのように実現するかも今後の課題となってくる。
  • グローバルで加速するイノベーションに日本企業が取り残されることのないよう、企業における新薬候補物質選定の際の蓄積データを集約し、AI により最適化を行う仕組みの研究開発を進める。
  • また、先端モダリティ等の開発に重要な、タンパク質構造解析のためのクライオ電子顕微鏡や超高磁場NMR などの高額研究設備に関しては、既に公的資金により大学等に共用研究設備の整備が行われている例もあり、そうした取組を通じて、創薬の基礎研究の効率化につなげる。

(知財戦略策定支援)

  • 近年、先端モダリティとしてバイオ医薬品の研究開発が進められている。物質特許・用途特許だけでなく製造過程そのものや製造用細胞等の原材料も知財となるバイオ医薬品は、知的財産戦略に基づいて、革新的な技術等の特許取得タイミングを最適化することで、研究開発だけでなく製造・流通も含め、我が国のバイオ医薬品産業の振興と国民への革新的バイオ医薬品の提供や安定供給に資すると考えられる。我が国は、製造も含めたバイオ医薬品の特許を豊富に抱えているとは言い難く、官民で協力し、技術高度化に伴う知財戦略策定に向けた研究を進める。

(研究開発投資の充実)

  • 近年、医薬品開発の高度化に伴い、研究開発費の上昇や成功確率の低下などが見られ、イノベーションの起源は、企業内研究だけでなく、アカデミアやベンチャー由来のものが増加している。そのため、製薬企業には内資外資を問わず、
    • 多少のリスクを厭わない、大胆な研究開発への投資
    • アカデミアやベンチャーとの国際的な人的ネットワークと情報収集網
    • 研究開発の見通しをある程度の確からしさで見通せる目利き能力
      が求められている。
  • 投資には当然資本が必要となるが、海外メガファーマに比べて、日本企業の規模は小さく、対売上高研究開発投資比率も横ばいで、大胆な投資に踏み切ることが難しいことも事実である。
  • こうした現状を踏まえて、
    • 政府主導で日本におけるOI コミュニティの整備を進めるなど、研究開発に関わるステークホルダーが集い情報交換を行う場を形成する
    • 日本企業の海外とのアライアンス強化の動きを把握し、必要に応じて支援する
    • 日本企業の研究開発投資を促進していくため、研究開発税制において、OI 型の充実等を検討する
      など、研究開発投資の充実を支援する。

ⅱ 薬事承認・保険収載

(レギュラトリーサイエンスの確立)

  • 重点領域を設定し、ライフサイクル上の一貫した支援を行っていく前提として、新規モダリティ等の研究・開発・承認等を行うに当たっての基本的な考え方となるレギュラトリーサイエンスを、研究者や開発企業等の意見を聴きながら、早期に確立していくことが、関係者の予見性を向上させ、より効率的な研究開発を行うためにも有効である。その際には、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展やIT の活用により生まれる医薬品等の存在にも留意が必要である。
  • なお、日本がレギュラトリーサイエンスに基づいて国際的な評価方法等の策定のためのグローバルな議論をリードしていくことは、製品の研究開発環境の整備や国際展開にも資するものである。

(治験環境の整備)

  • 海外では保険制度未加入者が先端治療を受けるために治験に応募することなどがあるが、我が国の国民皆保険制度の下では、そうしたインセンティブが薄く、諸外国に比べ被験者獲得や治験実施に係るコストなど製薬企業の治験費用が高いことが指摘されている。
  • 被験者や国民へのわかりやすい治験情報の提供を促進することにより治験への参画を促進する。治験を含めた国内の研究開発をさらに推進するために、国際水準の臨床研究や医師主導治験の中心的な役割を担う病院である臨床研究中核病院等の拠点整備に取り組む。さらに、臨床研究コーディネーター、生物統計家等様々な分野の専門家の育成や連携促進に資する取組を推進する。併せて、被験者自身の負担軽減の観点から、分散化臨床試験による治験実施医療機関への来院回数の減少を図る。
  • また、市場拡大が見込まれるアジア市場への展開をスムーズにする観点から、アジアにおける日本主導の共同開発を推進していく。具体的には、国際共同治験を進める観点から、「アジア医薬品・医療機器規制調和グランドデザイン」(令和元年6月20日健康・医療戦略推進本部決定)及び同実行戦略(令和2年7月14 日同本部決定)に基づき、薬事規制調和の推進、治験のネットワーク構築など基盤整備を行い、アジア治験の活性化等につなげていく。こうした国による支援を踏まえて、企業においても投資を含めて国際共同治験を積極的にリードし、ノウハウを蓄積していく姿勢が求められる。
  • なお、前述のとおり、研究開発データ基盤の利活用による医療情報の活用により企業における市販後の安全性・有効性の確認を容易にすること、治験の比較対照群として利用することの他、レギュラトリーサイエンスの面で日本がグローバルな議論をリードしていくことが期待されている。

(緊急時の薬事承認プロセスの迅速化と基準整備)

  • AMR も含め、新興・再興感染症の発生時に、治療薬・ワクチンのより効率的かつ迅速な研究開発・実用化が図られるよう、安全性、有効性の確保を前提とした上で、実現可能な合理的承認基準を検討する。
  • 具体的には、ワクチン開発・生産体制強化戦略に基づき、国際的な合意形成に則った緊急時の臨床試験の枠組みに関するプロトコル(ドラフト)の作成、承認審査時の海外治験データの更なる活用の在り方や緊急事態における特別に使用を認めるための制度の在り方の検討を着実に実施する。
  • 国立感染症研究所を高度の専門性を有する組織として特化するためにも、必ずしも世界最先端の知見を必要としない国家検定について、ワクチン産業の負担軽減、競争力向上等にも資するよう、感染研から医薬品医療機器総合機構(PMDA)へ移管し、国際的な規制調和を図りつつ、動物実験(異常毒性否定試験等)の廃止も含めた手続の迅速化及び簡素化を図るよう、検討を進める。

(薬価制度等における透明性・予見性の確保)

  • 医薬品市場は、薬価制度による公定価格を前提として運営されている一方で、創薬技術の進歩により医薬品の研究開発費用は増大の一途をたどっている。上市までに非常に長い期間が必要ななかで、製薬企業における新薬の研究開発への投資を促し、我が国における医療に新薬が早期に確実に導入されるようにするためには、投資の回収の見込みが重要である。
  • 薬価制度では、かつては、2 年に1度の改定のたびに制度改正が行われていた。特に、2016 年度の市場拡大再算定特例の導入と薬価制度抜本改革の基本方針の決定以降は、比較的厳しい内容の制度改正が重なり、これらは、国民負担の軽減という観点で、医療保険の持続可能性を確保されるために必要な改革であったが、製薬企業にとっては、研究開発段階では想定されなかったものであり、日本市場の魅力と予見性が損なわれるのではないかとの指摘がある。
  • 特許期間中は一定の条件の下、薬価が維持される又は大きく下がらない「新薬創出等加算」は、2010 年の導入以後、日本市場の魅力を高めるのに役立ってきたとされるが、2018 年度以降、その対象範囲について、個別の製品や企業の内容を考慮する形で厳格化されてきているなか、イノベーションの推進をどう保持していくのかが課題であるとの指摘もある。
  • 度重なるルール変更や薬価改定が日本市場の魅力を減らし、新たなドラッグラグを生ずるのではないかとも言われているが、経済財政運営と改革の基本方針2021(令和3年6月18 日閣議決定)においては、「革新的な医薬品におけるイノベーションの評価の観点(中略)から薬価算定基準の見直しを透明性・予見性の確保にも留意しつつ図る」とされている。
  • 革新的医薬品を創薬し日本市場に上市するための研究・開発や、我が国への質の確保された医薬品の安定的な製造・輸入・流通を実現するためには、それぞれの医薬品に応じた投資の回収の見込みが重要であることも踏まえながら、検討を進めていく必要がある
  • 薬価設定は、基本的に類似薬と比較して行われ、類似薬が存在しない場合には、原材料費や臨床試験に係る研究開発費等の原価を積み上げることで行われるが、公費も投入される薬価の性質に鑑み、製薬企業は原価の算定根拠等を厚生労働省に示し、算定の透明性に協力する責務がある。一方で、医薬品の研究開発・製造のグローバル化が進んだなかでは、他企業が海外で製造した新薬について、国内の自社製造と同水準の原価内容の開示を求めることは、基準や考え方の違い等から理解が得がたい場合があることに留意しなければならない。さらに、医薬品は、基本的な研究開発成果の発現は成功し製品化に至った製品のみであり、研究開発には、製品化に至らなかったものも含めた十数年にわたる研究開発期間を支える資金、製品上市後の安全性リスクに対する経営資金の確保、そして、今後の新たな革新的創薬のための投資費用なども必要となることにも留意が必要である。
  • 個別の新薬の薬価算定について、ルールが複雑となっていること、革新性・有用性の評価等については、治験デザインや審査段階からの対応がポイントとなることから、できるだけ早期からの相談対応が、薬価設定段階での官民の認識の乖離を防ぎ、予見性と納得性を高めるためにも重要である。このため、厚生労働省において現在概ね薬事承認後に行っている薬価等相談の早期化とその体制の充実・強化が求められる。
  • 加えて、ワクチンについて、開発着手から定期接種化までの期間が非常に長く予見性が低いことや、感染症の終息による市場の消失リスクがあること、抗微生物薬は新たなAMR の出現を防ぐため適正な使用が必要であることなど、医薬品の中でも、ワクチン・感染症治療薬は採算性が低い。
  • こうした性質に鑑みて、出口支援の一貫も兼ねて定期接種化プロセスの効率化の実施や緊急時の国による買い上げ制度・諸外国において導入が予定されているプル型インセンティブの導入などを検討する。

(後発医薬品企業の安定供給に関する責任強化)

  • 前述のとおり、後発医薬品の品質確保・安定供給が求められている。現在、直近の事案からも、一部の後発医薬品企業において、法令遵守意識の欠如による品質確保のための体制整備の不十分さが浮き彫りになっている。その対策としては、製造管理体制が十分なことは当然ながら、開発段階から医薬品の品質や管理体制を自社としてどのように担保しているのか、責任を持った対応を行うことが求められる。
  • 後発医薬品の製造体制の特性として、多品種製造が挙げられる。多品種製造を実現するためには、製造品目に応じた製造ラインの適切な切替え、洗浄などのコンタミ防止など、同一品を大量に製造することに比べて手間がかかる面がある。このため、製造管理体制に関しては、原薬管理を含めた現在のGMP に基づく製造管理・品質管理の徹底を図るだけではなく、製造品目数・製造量等に見合った管理体制が確保されているかを承認段階及び定期的なGMP 適合性調査で確認する。
  • 開発段階に関しては、共同開発の際に、提出データの省略を認める現在の承認制度について、まずは、運用上、それぞれの後発医薬品企業にデータの説明責任を持たせる。また、当該規制緩和策の在り方については、規格揃えの在り方と併せて見直し検討を行う。加えて、供給不安等が生じた場合には当該企業の収載見送り等の対応を行う。
  • また、薬価には、将来の整備投資も含めた製造の品質と安定供給に必要な流通経費等が含まれているが、これらを考慮しない相当に低廉な価格で販売し、一定の資金回収が実現できると製造販売から撤退するような事案は、他事業者の波及影響も含め、安定供給上の懸念がある。このため、流通改善ガイドライン等に基づき、こうした行動を厳に慎むよう求めるとともに、保険収載時に確認している少なくとも5年間の安定供給などの事項について、その趣旨も含めて改めて徹底する。
  • さらに、安定供給は企業の法的義務とはなっておらず、企業の任意の協力に委ねられている。こうした医療用医薬品の安定供給の責務について、供給予定数量の報告のあり方等も含め、法的な位置づけも含めてさらなる徹底を検討する。
  • 多くの欧米諸国では、医薬品規制当局又は規制当局から委託を受けた者が、医薬品の供給不足について一元的に情報を得ることができるウェブサイトを開設している。供給不足に関する報告が法的に義務付けられていることがその基礎となっている。我が国は、供給不足情報を個別企業からの直接の情報提供に頼っており、効率的な情報収集と適切な情報公表の仕組みについて検討する。

ⅲ 製造

(安全保障的観点からのサプライチェーン強靱化)

  • 医療上必要不可欠であり、幅広く使用され、安定確保について特に配慮が必要である医薬品を「安定確保医薬品」とし、優先度に応じたカテゴリ分けを行っている。こうした安定確保医薬品のうち優先度の高いものについては、関係各社の協力を得ながら、また、必要に応じて米国などとの連携を図りつつ、そのサプライチェーン等を早急に把握し、具体的な構造的リスクや戦略的不可欠性を洗い出す
  • 近年の供給不安事例などから、一般的には、特定国への原薬・原材料の依存や国内生産量の低さなどが構造的要因となることがわかっており、定期的な自己点検・供給不安情報の事前報告の他、在庫の積み増しや複数ソース化、サプライチェーンの国際展開等を企業に対して求めていく必要がある。
  • 併せて、企業努力だけでは実現が不可能な場合など支援が必要な事例と支援内容についても検討を行っていく。支援措置としては、国内製造支援・備蓄制度や現行の基礎的医薬品との関係も含めた継続的安定供給のためのコストが賄える薬価制度上の対応やいわゆるプル型インセンティブの検討等が必要である。具体的には、欧米で現在検討されている、緊急時に医薬品を確保できるようにする仕組みを設けたり、増産可能となるような体制を整えておくような制度の導入についてわが国でも検討する必要がある。

(バイオ医薬品・再生医療等製品の製造拠点整備)

  • バイオ医薬品や再生医療等製品は微生物や細胞等を使って製造するため、製造過程が複雑化し、従来の化成品に比べて製造費用が高い傾向にあり、製造設備等への初期投資も膨大である。また、製品化するためには、大量生産可能な体制を整える必要がある。そうした背景もあり、国際的には、バイオ医薬品の医薬品受託製造企業(CMO)・医薬品受託開発製造企業(CDMO)の市場は成長を続けている。近隣国では韓国が国を挙げてバイオ医薬品産業を振興し成功を収めているが、我が国は遅れを取っているのが現状で、今回の新型コロナウイルスワクチン製造の遅れにつながった可能性もある。
  • 現在、バイオ医薬品の大部分を占める抗体医薬品や、今後の市場拡大が見込まれる核酸医薬品、遺伝子治療などについては、緊急時の安定供給の観点からも、国内における製造企業の存在は重要である。さらに、再生医療等製品や新規モダリティのバイオ医薬品に関しては、製造技術の海外依存を脱却することも重要な要素であるが、そもそも国内での開発事例が少なく、商用スケールでの製造実績や製造経験が不足しているため、CMO・CDMO も十分には存在しておらず、企業の現場で製造段階を担う人材も不足している。世界市場における日本市場のシェアが必ずしも十分に大きくない現状を踏まえると、国際展開を念頭に、国際規格に対応し得る製造技術の確立、原料細胞も含めた原材料・資材の安定供給体制の整備などグローバル品質の生産体制の構築を進めることが必要である。また、産官学で連携して、生産技術や品質評価なども含めた企業の現場で必要なバイオ人材育成の取組を進める必要がある。
  • 特にワクチン製造に関しては、多額の設備投資を要する一方で、平時の需要が見込まれないものもある。こうした企業リスクの軽減のため、ワクチン開発・生産体制強化戦略に基づき、これまで措置したワクチン製造設備の施設改修支援や、平時はバイオ医薬品の製造を行いつつ有事にはワクチン製造に転用できるデュアルユース設備のような柔軟な製造拠点の整備、技術・人材等の確保等を着実に実施する。その際には、低温管理が必要なバイオ医薬品の性質を踏まえて、国際物流としてのハブ機能を持ち、国際展開を容易とする物流上の視点を念頭に進める必要がある。
  • また、安定供給の観点からは、バイオ医薬品の生産体制だけでなく、その製造に使用する培地、シングルユース製品、カラム、フィルターなどの資材や、分析器等の設備・装置類が安定的に生産・確保されることも重要である。このため、部素材、装置類についても、世界市場への展開やデファクトスタンダード化も念頭に置きつつ、国内での生産開発を強化する必要がある。

(後発医薬品の製造管理体制の監視と透明性の向上)

  • 承認段階の確認を行ったとしても、上市後も責任ある製造管理体制が維持されている必要があるため、現在も行っている都道府県によるGMP 立入検査について、立入検査手法の質の向上などを図ることで監視機能を強化する。
  • 製造販売企業が製造企業に製造委託することが可能であるが、企業間での製造受託関係を表示する等、外部的に明確にすることは求められておらず、現に、製造業者がどこか分からない物も存在する。そのため、表面上は問題が発生した企業とは別の企業の製品ではあるが、製造元は同一である場合があり、近年の供給不安事例において、2次的に影響が拡大したことが確認されている。
  • まずは、安定供給の確保も含めて、製造販売承認を有している製造販売企業が一義的に当該医薬品の責任を有していることを改めて認識し、GQP に基づき品質の管理を徹底すべきである。
  • これまでは、後発医薬品などの同種・同効能医薬品の採用においては、価格のみが判断根拠とされ、製薬企業も卸売企業もそうした情報のみを提供してきた。上記のような事例も踏まえると、医薬品採用に当たり、各社の安定供給や品質確保の取組・担保状況がわかるような情報に基づき判断ができるように、これらの情報の開示を求めていく必要がある。結果として、信頼性の確保に資するとともに、購買側の選択を促す環境作りによる適正な市場形成効果も期待される。
  • 併せて、市場流通段階においても、品質が損なわれていないかを確認する収去調査を強化する。具体的には、不適格品が見つかった場合に無通告検査を行い、さらに監視機能を強化する。

ⅳ 流通

(卸売業者の交渉支援)

  • 薬価改定は市場実勢価格と調整幅を基本として決定されている。これは、医薬品の価値や安定供給のための費用を見込んだ上での価格設定である。こうした視点を欠いた過度な値引き交渉は、薬価制度の趣旨と相容れないものであるとともに、薬価改定を重ねるにつれて、やがては卸の事業継続が困難となり、安定供給ができなくなる。
  • 同様に、頻繁な価格交渉も、医薬品卸の使命である安定供給に支障を来しかねない。年間契約等のより長期の契約を基本とし、当年度内は妥結価格の変更を原則行わないようにする等、卸売企業が安定供給などの本来業務に注力できるようにすべきである。
  • メーカー、卸、医療機関等の間の契約自体は民民の取引による市場メカニズムにより形成されているが、最終的な償還価格は薬価という公定価格制度に基づき決定され、社会的影響も大きい。医薬品卸は、メーカーと医療機関等の仲立ちを務めてきたが、本質的な医薬品の価値に基づく価格形成力があったとは言い難く、商慣行の改善に向けた支援が必要である。特に、令和3年度からは毎年薬価改定が行われる状況となり、取引環境に大きな変化が生じてきていることも踏まえ、引き続き、国においても流通改善ガイドライン等の改善と現場への指導・徹底や制度の見直し等を通じて、適切な価格交渉など流通改善の実現に向けた支援を行う

(供給不安情報の早期把握と対応策)

  • 供給不安は、製造販売企業・製造企業の不祥事だけでなく、国際的な需要の高まりなどによっても発生する。その場合、一国の努力だけでは解決が困難なことがある。そうした事例を事前に把握する観点から、海外規制当局との情報交換を行う。
  • 安定確保医薬品のうち特に優先度の高いものについては、欠品情報の把握のための流通在庫や医療機関等への出荷状況などを収集する緊急時の仕組みを官民で検討する。また、供給不安が予測される場合には、優先度に応じた使用や代替薬への変更を呼びかけることで国内需要を調整するとともに、海外からの緊急輸入や日本薬局方の柔軟な取扱などで供給の増加を図る。こうした対応を行っても需給がひっ迫する場合には、最後は国で流通を管理することも考えられ、その法的位置づけも含め、具体的な方策について検討を開始する。
  • なお、日本薬局方については、平時から国際調和を図ることで、医薬品上市の円滑化の効果も期待される。
  • ワクチン、輸液、血液製剤、生薬・漢方製剤、外用製剤などいわゆる「ベーシックドラッグ」には安定確保医薬品に含まれていないものもあるが、安定供給が必要である医薬品や薬価上の基礎的医薬品、また、不採算品再算定の対象となった品目が多く含まれる。これらの医薬品については、供給不安が生じないよう、流通上の配慮も必要であることから、具体的な品目名を公表して対応できるようにする。
  • また、実際に供給不安が発生した際の情報提供の在り方について検討する。
  • こうした供給不安に関する対応については、予めマニュアル化した上で、産業界とも内容を共有しておく必要がある。

(緊急時の協働を見据えた平時からの備え)

  • ○ 今回の新型コロナウイルスワクチンや治療薬の配送のように、民間商流では市場ニーズを満たすことができず社会的に大きな混乱が予想される場合などは、国の指示に従い特定の医薬品を全国に計画的に配送する必要がある。緊急時になって仕組みを考案し、各企業に対応を求めるのでは遅く、平時からの備えが重要である。
  • ○ 具体的には、国として需要(注文)の把握方法、生産量や在庫などの物流状況の把握方法、配送業者の選定方法、配送業者間の能力や特性に応じた役割分担、国から配送業者・配送先への指示・伝達方法、医療機関や接種会場等への納入方法、物流・商流システムの構築(既存システムの活用や連携を含む)、費用負担の方法などの諸課題について、今回の新型コロナウイルスワクチンや治療薬の配送の仕組みの経験を踏まえたうえで、今後、同様の事態が生じた際に迅速・円滑に体制が整備されるよう、事前に仕組みを検討する。その際、平時に医薬品を取り扱う卸業者の知見や資産が活用されることとともに、有事においても継続される通常の医療用医薬品の供給業務に極力支障が生じないようなBCP 策定も併せて検討することが必要である。

ⅴ 国際展開

(市場拡大地域への展開支援)

  • 我が国は、少子高齢化が進展しており、医薬品の最大需要も減少が見込まれる。研究開発のための投資回収が必要な医薬品産業の性質に鑑みると、海外市場の開拓はビジネスモデルの継続上重要な視点である。
  • 欧米市場では、既に一定の規模が形成され、日本企業も進出している。しかし、成熟社会である以上、市場の拡大には限界があり、日本企業のさらなる進展のためには、今後の市場発展が見込まれる地域への進出が欠かせない。
  • たとえば、アジア諸国は急速な人口成長と経済発展により医薬品市場が拡大している地域である。さらに、高齢化により健康意識の高まりも見られ、今後さらなる医薬品市場の拡大が想定される地域である。一方、医療制度の整備や透明性の確保が十分に進んでいないことから市場の予見性が低く、アジア諸国における医薬品展開の課題となっている。
  • こうしたアジア地域をはじめとする高成長が見込まれる地域に我が国の製薬企業がより一層進出する基盤として、政府やPMDA、国立国際医療研究センター等の関連機関による支援を強化するとともに、引き続きアジア地域において我が国との薬事規制の調和や臨床研究・治験ネットワーク構築、UHC の推進等による医薬品アクセス向上への貢献を進める。また、各国に所在する我が国の大使館等の在外公館との連携強化に加え、JETRO やJICA といった海外における我が国の企業活動の振興組織や開発協力組織、各国の規制当局といった関連機関の現地支部との連携も強化し、規制や制度変更の予見性の向上等の現地の事業環境改善の働きかけも含め、企業のアジア地域等への進出を官民一体となり支援する。
  • 各国の保健当局や現地のKey Opinion Leader となる医療従事者等に対して、日本の医療制度や技術等を基にした人材育成を展開することも医薬品アクセスの向上に繋がる。
  • 医薬品資源が限られている国々における医薬品アクセスを可能とし、公衆衛生の向上や医療のために、UNICEF などの国連関係機関や国際的な基金などは、多額の医療物資を直接的・間接的に購入している。これらの国際公共調達市場へ参入する場合には、WHO によるプレクオリフィケーションの取得が必要とされる製品もあり、価格の設定も含め参入には通常の手法と異なるノウハウが必要となる。
  • 国際公共調達は有用な医薬品を新興国・途上国に届ける手段となるとともに、新興国・途上国市場の開拓につながる可能性があるため、欧米先進国やアジア新興国等は戦略的にこの分野を活用している。特に、ワクチン・感染症治療薬開発においては重要な出口戦略の一つとなり得る。国際公共調達市場への展開をチャレンジしたい場合に可能となるよう、国際機関との連携を強化し、これらに関する情報提供や支援を実施することも必要である。
  • 併せて、知的財産保護の支援として法務支援や訴訟リスク対策提供の支援などを継続する。

ⅵ その他

(バイオシミラーも含めた後発医薬品の使用促進)

  • 後発医薬品は、特許期間を満了した先発品と比べて、低価格で広く使用できるようにし医薬品のライフサイクルを加速する役目を担っており、限られた医療保険財源をより効率的に使用できる経済性を発揮する。
  • 化成品全体としては、ここ10 年程度で急激に使用割合が伸びたが、注射剤や小児科領域や精神科領域など後発医薬品の浸透が進んでいない領域はいまだ存在している。
  • また、成長領域としてその重要性を増すバイオ医薬品の分野では、先行バイオ医薬品と同等・同質で経済的優位性もあるバイオ後続品(バイオシミラー)のさらなる使用促進が重要である。現状、包括評価の中で使用されるバイオシミラーの使用は進展が見られるとともに、普及促進策として在宅自己注射が可能な皮下注射剤に係る「バイオ後続品導入初期加算」が新設された。しかし、置き換えについては製剤ごとにばらつきがあり化成品ほどは使用が進んでいないのが現状である。医師や患者からのバイオシミラーへの信頼向上、医療機関や患者に対するインセンティブなどを通じて、さらなる使用促進を図る必要がある。
  • このため、フォーミュラリの活用、バイオシミラー処方時の診療報酬上の評価、バイオシミラーの特性を踏まえた新たな目標の設定やバイオシミラーは先行バイオ医薬品と有効性・安全性が同等であること等の周知・広報などを行う。

(一般用医薬品等を通じた国民の健康水準の維持・向上)

  • 国民が自発的に健康管理や疾病予防の取組を進めることは健康水準の維持・向上のためにも重要であり、国としても、こうしたセルフケアを推進する。
  • 国民が安心感を持ってセルフケアを進め、適切にOTC 医薬品の服薬等による自己対処(セルフメディケーション)を行うには、一人ひとりのヘルスリテラシーの向上と、必要に応じて医師・薬剤師などの専門的知識を有する者が適切に関わることが重要である。このため、かかりつけ医やかかりつけ薬剤師等による健康相談、薬局の健康サポート機能の強化等を通じて、国民のヘルスリテラシーの向上を図る
  • また、OTC 医薬品も治療や症状改善の選択肢となり得ると考えられることから、OTC 医薬品の服薬等、すなわちセルフメディケーションを活用した場合に、OTC 医薬品の購入費用の一部を税制上控除できる「セルフメディケーション税制」の普及定着を図るとともに、医療費適正化効果も検証しつつ、その対象品目を検討する。
  • 併せて、安全性・有効性を担保しつつOTC 化を推進し、国民の選択肢の多様化を図る。

おわりに ~医薬品産業政策推進のための体制整備と国民理解の重要性~

知識・技術集約型である医薬品産業に対する政策の方向性を示す本ビジョンに記載した内容は一朝一夕では成らない。グローバルの創薬環境は、常に革新を続けていることから、その状況を正確にキャッチアップし、必要な軌道修正を行いながら取組を継続していく必要がある。そのため、官民で、KPIの設定・把握を行いながら、医薬品産業の現状や展望、求められる改革や支援などについて実務的に確認・議論していくことが重要であり、厚生労働省として官民対話の実務者WG を継続的に開催する。

また、そうした体制の中で、国には、平時・緊急時を問わず柔軟かつ大胆な政策立案が求められる。本ビジョンに基づき、必要な医薬品産業政策を迅速かつ着実に推進していく観点から、医薬品業界を所管し、研究開発・保険収載・薬事承認・国際展開・個別疾病対策など様々な面からアプローチをしている厚生労働省において医薬品関係の組織体制の強化を図っていく必要がある。加えて、医薬品産業政策には研究開発や経済安全保障的な側面もあることから、政府全体で総合的な対策を実施していくため、政府における司令塔機能の確立が必要であるとの指摘もあり、厚生労働省の体制の強化も踏まえ、厚生労働省と関係省庁で引き続き議論を行っていく

こうした体制整備の下、医薬品産業政策を推進していくが、その真の原動力となるのは国民の理解である。国民の健康・生命が守られた安全安心な暮らしを実現し、我が国の医療の維持・向上と経済発展を両立する医薬品産業政策は、単なる一業界の振興政策ではない。ワクチン等を含めた医薬品の価値・性質やそれを生み出す医薬品産業の社会的役割、品質の確保された安全な医薬品の安定確保は、普通のこととして考えられているが、新薬の研究開発、製剤化など製品化に関する検討、原材料の選定や確保、医薬品製造プロセスにおける品質確保、流通過程における安定供給の確保、医薬品関係者による適正使用のための情報提供や安全性情報の収集など、多くの医薬品関係者の努力の結果である。より多くの国民が、限られた財源のもと、国民皆保険制度を維持しつつ、革新的な医薬品の効果を享受すること、医薬品の品質・安定供給を確保することの重要性・困難性など、公的な性格を有する医薬品産業について理解を深められるよう、官民挙げて、医薬品産業の情報発信に取り組む必要がある。本ビジョンがその一助となり、ひいては、医薬品産業の健全な維持・発展に繋がることを期待して、ビジョンの後書きとしたい。

参照

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