エビデンス全般

新型コロナウイルス感染拡大の阻止、デジタル強靱化社会の実現(令和2年7月17日)

2021年11月23日

今般のコロナ禍ともいえる新型コロナウイルス感染症の感染拡大の猛威により、我が国における社会経済活動は激変している。長期化する外出自粛や学校休業要請により、国民一人一人がいわゆる巣籠り状態での活動を余儀なくされ、これに伴い様々な課題が浮き彫りになった。

第一に、新型コロナウイルス感染症対策そのものへのITやデジタル技術の適用が急務である。治療薬やワクチンの開発・普及へのデータの活用、雇用・家計・事業を守るためのデジタルトランスフォーメーション(DX)の取組とともに、日常生活における接触機会削減においてもデジタル化による支援(統計データ等の活用による人流の見える化やクラスター推定、接触確認アプリ等)が有効である。

また、今般の新型コロナウイルス感染症対策において、社会的距離(ソーシャルディスタンス)の確保の取組が必須とされている。この点、デジタル化推進をうたいながらも、従来、対面でのやりとりを明示的あるいは暗黙のうちに前提としていた、仕事や学び、日常生活や行政手続及び経済活動を、いよいよオンライン化を当然のこととして変革を加速しなければならない。

今般の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言(令和2年4月7日発出)は、一面では、働き手・学生・生活者それぞれが、オンライン化を実現できていない現状の不自由さを、分野・地域を問わず身をもって体験する初めての機会であった。この体験を一過性のものとして終わらせることなく、あえて言えばピンチをチャンスに、この機会に、我が国をデジタル技術により強靱化させ、我が国経済を再起動するとの考えの下、ITをユーザーの自律的な判断・行動を支援するツールとし、本格的・抜本的な社会全体のデジタル化を進める必要がある。

具体的には、①直近の取組としての新型コロナウイルス感染症の感染拡大の阻止に向けたITの活用と、②デジタル強靱化による社会構造の変革・社会全体の行動変容の両面を進める必要がある。後者については、直近ですぐに進めるべき施策と、中長期的な取組の双方が求められることは言うまでもない。これらについて、今般の世界最先端デジタル国家創造宣言(以下「IT総合戦略」という。)において、特に重点を置いて取り組むものとする。

目次

1 情報通信技術を活用した新型コロナウイルス感染症対策に係る取組

情報通信技術は、グローバリゼーションが進む中、経済の発展はもとより、生産性向上や日常生活に大きな役割を果たしてきたところであるが、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大し、その対応が長期化する中では、①人と人との接触を肯定的に避けるいわゆるソーシャルディスタンスを実現するための手段、②感染症対策に係る諸施策を効率的に実施するための手段といった新たな役割を求められている。

このうち、①については、行政手続のオンライン化やテレワークの推進、オンライン学習など、これまでも主として国民生活の利便性の向上の観点からICTの利活用の推進が図られてきた施策について、ソーシャルディスタンスへの取組として、喫緊の必要性が求められるものであり、これらの取組を抜本的に加速することで実現を図るべきものである。また、医療の分野においても、国民生活の利便性向上の観点のほか、感染症が拡大する状況下においては、患者と医療従事者双方の安心・安全を確保する観点からも、その実用性や実効性確保、医療安全等に配慮しつつ、遠隔医療を活用することは重要である。

さらには、見えない感染症の拡大により、人の行動の制限やサプライチェーンの分断等が生じる中、情報通信技術を活用してこうした状況を打破しようとする取組が世界各国でみられる。

我が国においても、AIを含めた情報通信技術を積極的に活用し、感染症対策に貢献していくことを目的に官民テックチームを組織し、内閣官房や厚生労働省を中心に、複数の省庁が連携し、民間の知見もいかしながら、以下の観点から新たな取組を実施している。

(1) マクロ的な観点から感染症対策を支援するための技術

新型コロナウイルス感染症が拡大する中、人の流れなど、クラスター対策に資する情報についてマクロ的に把握するため、①携帯電話事業者やプラットフォーム事業者の保有する位置情報等や公共交通機関の改札通過人数等を統計処理したデータの活用、②インターネット関連企業の協力を得て実施した「新型コロナ対策のための全国調査」の結果の活用等に取り組んでいる。

携帯電話事業者・プラットフォーム事業者や公共交通機関の統計データを活用することで、全国の主要都市や駅周辺、繁華街、観光地等での人の流れをマクロ的に把握することが可能となり、政府のみならず、地方公共団体においても住民への外出自粛への協力や要請の効果を把握し、必要に応じて更なる対応を検討するなどの措置を講ずることが可能となっている。

(2) 感染症拡大を踏まえた新たな生活様式を支援するための技術

感染症拡大の防止の観点から、従来の日常生活においてそれほど意識してこなかった、「密」を避けることや、陽性者と接触した可能性がある場合に人との接触を回避することを意識した行動変容が求められている。

こうした人の行動変容を促す観点からは、日常を構成する仕事、学習、生活、各種手続や経済活動等あらゆる分野での人と人との対面のやりとりを遠隔でも可能にする、つまりデジタル技術によるオンライン化を進め、テレワークやリモート教育、オンライン手続、オンライン/キャッシュレス決済を当たり前に使える環境を実現することや、実用性や実効性確保、医療安全等に配慮しつつ遠隔医療を活用していくことが有効であるが、他方で、日常生活においても意識的に人の密集地域を避けたり、陽性者と接触した可能性がある場合に人との接触を極力避けたりするなど、日常生活における行動様式そのものの変更を支援するための取組についても、ITを活用した様々なアイデアが実現されている。具体的には、スマートフォン間の信号(Bluetooth)のやりとりにより接触履歴を記録し、陽性者と接触した可能性について通知するアプリケーションや、特定の店舗や公園での人の動きを画像データ等を用いて分析し、できるだけ密集を避ける行動を支援するといった、行動変容を促す新たな取組について、官民連携による普及や効果的な運用を図っていくことが必要である。また、店舗、公的施設、イベント会場等に掲示したQRコードを通じた来訪者への通知システムや、店舗等の事業者が行う感染症対策の見える化等、地方公共団体による取組を紹介することで横展開を図っていく取組も有用である。

(3) 医療機関や保健所等の支援

新型コロナウイルス感染症に係る医療現場においては、急増する感染者に対応するために受入病床や人的リソースが逼迫するだけでなく、世界的な需要の高まりから、マスクやサージカルエプロンといった医療現場に必要な物資も逼迫している。

こうした医療機関の状況をできる限り迅速に収集できるよう、厚生労働省と内閣官房は、全国約8,000の医療機関を対象とした情報収集システム(新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G-MIS))の構築・運用を本年5月から開始し、新型コロナウイルス感染症対策を担う医療機関を中心に物資の不足状況や人員の求人状況また承認された薬剤の投与状況や大規模な医療機関が新型コロナウイルス感染症以外の患者を受け入れる場合の対応状況等を把握することが可能となった。

また、ICTの活用により効果的・効率的に情報を収集・共有し、保健所や都道府県等の業務負担を軽減しながら、新型コロナウイルス感染症対策により注力できる体制を構築するため、厚生労働省は、感染者情報を一元的に管理するシステム(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS))を構築・導入した。これにより、オンラインで、医師による発生届や患者本人による毎日の健康状態の報告、保健所による感染経路等の情報入力等を行えるようになり、関係者間での迅速な情報共有がなされ、より効果的・効率的な対応が可能となることが期待される。本年5月末から、全国で、準備が整った地方公共団体等から順次利用を開始しており、引き続き、地方公共団体、医療機関等における積極的な利用を促しつつ、関係者の意見を踏まえ、システムの改善が図られるよう検討を進めていくことが重要である。

今後は、感染症対策の長期化や次なる感染症の拡大を見据え、G-MISやHER-SYSの長期的な活用のための方策として、広域災害・救急医療情報システム(EMIS)とのそれぞれの利点・特徴を踏まえ、医療機関側の負担軽減や運用コスト低減等も考慮して、災害時等への活用など、基幹システムとしての役割について検討を進めていくことが必要である。

(4) オープンデータによる情報発信の促進

感染症が拡大する中にあって、国民が少しでも安心・安全な生活を送るためには、目に見えない感染症の状況を迅速に提供することや、各種支援情報を分かりやすく発信することが重要である。

この点、例えば東京都は、陽性患者数や検査実施数等をオープンデータとして発信するWebサイトを開発し、これをオープンソースとして公開しており、このオープンソースを活用することで全国のエンジニア等が相次いで自らの地域のWebサイトを公開している。

国は、東京都の事例のような地方公共団体の先進的な取組事例を発信しているほか、外出自粛等を踏まえた官民における各種支援策について、オープンデータとして公開している。また、上記(2)の取組の中で得られる情報のうち公開可能なものをオープンデータ化し、国や都道府県から医療機関への物資の支援や新型コロナウイルス感染症以外の疾患のある市民が一定規模の医療機関の診療を受ける際に、医療機関の受入状況等を把握することも可能となっている。

このように、感染症が流行する中にあって求められる情報を、受け手にとって分かりやすく利用しやすい形で発信する取組を行っていく必要がある。また、ソーシャルディスタンスを保ちながら経済社会活動を継続するための「新しい生活様式」を実施するために人々に求められる情報の発信を図っていくことも重要である。

2 デジタル強靱化を実現するための基本的な考え方

(1) 社会全体のデジタル化に向けた取組と新型コロナウイルスの感染拡大が突きつけた課題

国は、これまで、データ利活用とデジタル・ガバメントを二本柱として、社会全体のデジタル化に取り組んできた。デジタル化自体は手段であって目的ではなく、国民生活の利便性が向上し、行政機関や民間事業者等の効率化に資するものではなければ意味がないとの認識の下、「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(令和元年6月14 日閣議決定)では、Society 5.0 時代にふさわしいデジタル化の条件として以下の5項目を掲げた。

  1. 国民の利便性を向上させる、デジタル化
    手続のデジタル完結、申請・届出のオンライン・ワンストップ化、民間クラウドを活用したデータ連携など、利便性向上を実感できるものとすべき。
  2. 効率化の追求を目指した、デジタル化
    デジタル化は、労働時間の短縮、事業活動の合理化に繋がる業務・システム改革、行政運営の効率化等をもたらす。
  3. データの資源化と最大活用に繋がる、デジタル化
    書類のデータと、機械判読性(Machine-Readable)と発見可能性(Findable)を確保したデジタルデータとでは、価値が全く異なる。
  4. 安心・安全の追求を前提とした、デジタル化
    ネット接続機器の幾何級数的増加に伴い、サイバー攻撃のリスクが高まる中、安心・安全を大前提に、生産性向上等を支えるセキュリティを目指す。
  5. 人にやさしい、デジタル化
    デジタル化は、安心・安全・豊かさの手段であり、取り残される人があってはならず、デジタル・インクルーシブな環境を作り出す。

これらの条件は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によってソーシャルディスタンスの確保が求められる中で、社会経済活動を維持する観点からも、重要なものである。また、今般の感染拡大へのデジタル対応に見られた課題が、これらの条件を満たすための取組が途上にあったことを際立って認識させた。具体的には、例えば、以下のような課題が指摘されている。

  • 特別定額給付金について、マイナポータルを利用した申請を可能としたことで、これを利用した場合には、前回の定額給付金の交付時(2009 年)に比して、申請の受付が開始されるまでの期間や、申請に要する時間は大幅に短縮された。一方で、申請だけでなく給付に至るまでの手続全体のデジタル化、マイナンバーの活用に係る制度的制約、マイナンバーカードの普及等の課題がある。また、デジタル対応が可能となっているにもかかわらず、実運用するための準備不足や、対面・書面を前提とした行政運営により、デジタルが活用されず、迅速な給付等に支障が出たケースもある。
  • 雇用調整助成金について、内閣情報通信政策監(政府CIO)の下で行われている一元的なプロジェクト管理による対応がなされることなく急遽構築されたオンライン申請システムが、複数のシステム障害があったために運用停止となり、当該システムにより目指されたオンライン化が実現せず、従前のとおり窓口又は郵送での手続のみとなっている。
  • ソーシャルディスタンスの確保を図りつつ、社会経済活動を維持する手段として、テレワークが重要となる一方、手続や契約に係る書面・押印の慣行等に起因して、出社を余儀なくされたケースがあったと言われている。
  • 政府でのWeb 会議環境に関し、各府省庁において縦割りのLAN 環境が構築されていることにより、府省庁間や、民間企業・地方公共団体とのWeb 会議サービスの接続が困難となる状況が発生した。
  • 学校の全国的な臨時休業を受けて、学びを止めないために、オンライン教育が重要なツールとなったが、端末や通信環境等の課題、ノウハウの不足、学校間・地域間の格差等が指摘されている。また、遠隔教育の制度上の扱いについては、今般の事態への対応として、特例的な措置が講じられたが、ポストコロナも含めて必要な制度上の措置の更なる明確化が求められる。
  • データの活用について、民間事業者から提供を受けた人流データの活用により、外出自粛等の状況を可視化し、政策形成に役立てる取組や、官民の各種支援策をオープンデータとして集約・公開する取組など、新型コロナウイルス感染症対策の比較的早期から実施されたものもある。一方で、保健所・医療機関からの陽性者の報告が当初はファックスで行われていたなど、デジタルデータの活用により効率性・利便性を向上させる視点が欠けているケースも多く見られた。
  • 民間事業者が、住民から得られるデータを活用して新型コロナウイルス感染症対策に資するサービスを提供するに当たり、居住地域ごとに異なる個人情報保護ルールに対応するために、多くのコストが費やされたケースが報告された。

今後懸念される感染拡大の「第二波」や、次なる別の感染症の発生を念頭に置けば、今回突きつけられた課題も踏まえ、上記の5条件を満たすための取組を加速していくことが求められる。

また、近年頻発し、激甚化する自然災害を踏まえれば、感染症と自然災害に同時に襲われる状況にも備えておくことが喫緊の課題であり、本戦略策定時点の令和2年7月において既に現実に豪雨等の被害が生じていることから、災害対策にテクノロジーを駆使し、被害の最小化を図っていくことが即時に求められる。

(2) ニュー・ノーマルに対応したデジタル強靱化社会の構築

今般の感染拡大により、デジタル化・オンライン化や、データの積極活用が改めて課題として認識されたほか、今後のニュー・ノーマルに向けた萌芽と言うべき傾向も見られる。

一つは、職(Work)と住(Life)の近接化である。テレワークをはじめとしたリモート対応の普及により、地域及び家庭が、仕事、教育、生活など複合的な役割を担う場として存在感を増すと考えられる。例えば、サテライトオフィス等の地域拠点の需要や、地域コミュニティの重要度が増す可能性がある。

また、グローバル経済の再構築も新たな傾向である。効率性を追求して構築されてきたグローバルなサプライチェーンが今般の感染拡大を受けて分断され、危機時の脆弱性が露わになった。マスク・防護服など医療現場に欠かせない製品や、付加価値の高い部素材の一国への過度な依存リスクを解消する必要性が指摘されている。

これらの新たな傾向を含む、社会・価値観の変容がもたらすニュー・ノーマルの社会では、以下の視点が重要になると考えられる。こうした視点を踏まえ、デジタルを徹底活用することで、ソーシャルディスタンスを確保しながら、経済社会活動を維持し、経済が成長可能となるよう「デジタル強靱化社会」の構築を進める。

① 対面・高密度から「開かれた疎」へ、一極集中から分散へ

テレワークをはじめとするリモート対応が常態化・高度化し、場面に応じて、対面とリモートの最適な組み合わせも模索される。これにより、時間や場所を有効に活用できる新しい働き方が定着し、一極集中の是正、地域の再興、地域からの発信、新しいエンターテインメントの創造が進む。

② 迅速に危機対応できるしなやかな社会へ

ウイルスのパンデミックは、その発生可能性は非常に低いものの、ひとたび感染が拡大した場合の被害・影響が地球規模で甚大なもの(テールリスク)になり得ることが今般実体験された。この経験から、今後は、こうした「テールリスク」が十分に起こり得ることを前提に、その発生に対応できる社会の構築が求められるようになると考えられる。例えば、危機発生時に個々人の状況に応じ、必要な人に必要な支援を迅速に届けることを可能にする仕組みが求められる。また、社会経済環境が激変する場合に、需要の高まる職種に柔軟に労働力をリバランスさせる仕組みも考えられる。

こうしたことを実現するためには、様々なチャレンジの中から臨機応変に解決策が生まれる環境の整備として、オープンイノベーションの推進が重要であり、官民を問わず、データやサービスが有機的に連携し、新たなイノベーションが創発されるようにするため、オープンAPI の推進により、行政機関相互及び行政機関と民間の間でのデータのやりとりがAPI を介して行われる「API ガバメント」や、API の公開によって自社だけでなく他社のサービスも活用して利便性を高めていく「API エコノミー」の発展を図っていくことが求められる。あわせて、新たな課題を解決するビジネスモデルの創出を後押しするため、スタートアップ支援等の環境整備も重要となる。

ニュー・ノーマルな社会、デジタル強靱化社会への移行に当たっては、世界各国の状況を認識しつつ、我が国が世界を先導していくべきである。この点、例えば、本年6月に発表されたスーパーコンピュータの世界ランキングにおいて、我が国のスーパーコンピュータが5部門で第一位を獲得したことも踏まえ、情報通信分野における我が国の潜在力を最大限開放することが求められる。

ニュー・ノーマルに向けた社会・価値観の変容は現在進行中といえる。未来を創るという観点で、これにいち早くキャッチアップし、デジタルを徹底活用して柔軟に対応することで、ポストコロナに見込まれる厳しい国際競争環境の中で我が国の存在感を高めるとともに、国際社会が自由・民主主義・基本的人権・法の支配等の普遍的価値観に立脚したものとして発展していくよう貢献していくことが重要である。

意識・価値観の変容が急激なものであれば、それに対応した社会変革も、漸進主義ではなく不連続なものとなり得る。例えば、IoT の進展によりモノとモノの通信が重要性を増す環境では、無線通信網の整備において、人口カバー率ではなく、都市部・地方部を問わず事業可能性のあるエリアのカバー率で捉えて行くことが、新しいデジタルインフラの在り方として求められ得るものと考えられる。また、急激な変化に当たり、データ活用におけるプライバシーの保護やサイバーセキュリティを確保することで、安心・安全を実現し、不安を作らないことが求められる。さらに、デジタルを徹底活用する社会では、デジタルにアクセスできないことが深刻な格差を生む。誰もが取り残されず、ニュー・ノーマルの社会に参画していくことが可能となるよう、デジタル格差対策やアクセシビリティの確保(デジタル・ミニマム)を図っていくことが不可欠である。

(3) 喫緊に取り組むべき事項

以上を踏まえ、デジタル強靱化社会の実現に向けて取り組むべきは、後述3~8のとおりであるが、喫緊に取り組むべき事項を以下に掲げる。

① 遠隔・分散に対応した制度・慣行の見直し

遠隔・分散型の社会経済活動が当然となる中で、その障壁となる制度・慣行を見直す。書面・押印・対面を求める法令・慣行の全面的な見直しを進める。「隗より始めよ」の考えの下、行政機関等の内部手続についての押印・書面提出等の見直しを進める。

② しなやかなデジタル社会の基盤としてのマイナンバー制度

危機に迅速に対応できる強靱な社会経済構造の一環として、マイナンバーカード・マイナンバーを基盤としたデジタル社会の構築を進める(マイナンバーカードの利便性の抜本的向上、マイナンバーカードの取得促進)。

③ 国と地方を通じたデジタル基盤の構築

危機を含む様々な事態に柔軟に低コストで対応できるようにするため、情報システムの標準化・共通化、クラウド活用の促進等として、以下を進める。

  • 給付金等におけるデジタル手続・事務処理・早期給付の実現
  • 各府省情報システムのネットワーク統合・構築
  • API 利用の促進による民間との相互連携の強化(利用者にとって使い易いサービスの実現)

④ データの基盤整備と積極活用

社会経済活動を円滑に行うため、データ資源を横断的、継続的に活用できる環境を整備することが重要である。社会の基本データをはじめとしたデータの質・量の向上、データ利活用の一般原則としてのデータガバナンスルールの在り方を含むデータ戦略、行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)のためのデータ基盤、研究開発・インフラの整備等から構成されるニュー・ノーマルに向けたデジタル戦略を取りまとめる。

⑤ 防災×テクノロジー

感染症の感染拡大と自然災害が併発する事態において、効果的・効率的に災害に対応することを可能とするため、情報通信技術を駆使した災害対応のための取組を進める。

これらに対応していくため、政府CIO が一層のリーダーシップを発揮することで、政府内の縦割りを打破して横串を通し、全体最適を追求するとともに、利用者視点を徹底する観点からの取組を進めることが求められる。これまでも政府CIO の取組により、政府情報システム運用コスト減や自治体クラウド化が進展したほか、政府情報システムの予算要求から執行の各段階における一元的なプロジェクト管理の強化が進められてきているが、今般の事態を受け、危機を含む多様な事態に柔軟に対応可能なデジタル化を進める観点からも、国・地方を通じた情報システムの標準化・共通化や、クラウド活用の促進等を進めることが求められる。また、データ活用の観点からも、例えば、行政機関による物資等の在庫管理において、QR コード等を活用することで、デジタル空間と実空間の情報をリアルタイムに一致させるシステムとすることが本来望ましい姿であるなど、分野横断的な設計が求められる。政府CIO は、このような行政の情報システム全体のトータルデザインを具現化していく。

この取組を支えるものとして、官民連携による「政府DX 推進委員会(仮称)」を機動的に活用することで、各府省でバラバラに進められてきた行政のデジタル化の一元的な改革を強力に推進する。また、関係法令の改正を含めた高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(平成12 年法律第144 号。以下「IT 基本法」という。)の全面的な見直しを行うことで、今後のデジタル化推進のための新たな基本理念や方針を規定するとともに、政府CIO の機能の強化等を定め、政府全体に横串を刺した社会全体のデジタル化の取組の抜本的強化を図る。

3 働き方改革(テレワーク)

新型コロナウイルス感染症の拡大期において、緊急事態宣言下における外出・通勤の自粛や学校休業の結果、在宅勤務やテレビ会議など、対面によらずに働くことが不可避な状況となった。こうした状況下において、テレワークの一層の活用を促進することが、足下の感染拡大の阻止や、感染拡大の防止と経済社会活動の維持の両立、さらには、今後発生し得る同様の緊急事態にあっても経済社会活動を維持し、成長を可能とするために求められている。また、緊急事態宣言下における国民・住民に対する行政機能の提供を維持する観点からも、企業のみならず国や地方公共団体におけるテレワークの利用環境整備が重要である。

一方で、中小・小規模事業者や地方公共団体において、テレワークに係るノウハウ不足やコスト負担が、テレワークに必要なシステムの導入の障壁となっている。こうした障壁を含め、緊急事態宣言下で急遽テレワークに取り組んだ事業者等における具体的な課題に対応した取組を行っていくことが重要である。

これまでも、「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策 ―第2弾―」(令和2年3月10日新型コロナウイルス感染症対策本部決定)等により、中小企業に対するテレワーク導入経費の補助や、テレワーク導入を図る企業や地方公共団体等に対する専門家(テレワークマネージャー)の無料相談対応等に取り組んできているが、こうした支援策を更に進める必要がある。また、全国各地の中小企業等へのテレワーク普及促進のため、各地域における中小企業支援の担い手となる団体の窓口を「テレワーク・サポートネットワーク」として設定し、これらの窓口に対してテレワーク普及活動に必要なノウハウ等の支援を行うことで、テレワーク導入に係る地域内での相互連携を促進するとともに、サテライトオフィスなどのBCP対策に資するテレワーク環境整備を推進する。さらに、フリーランスや兼業・副業人材等を含めたIT専門家を「中小企業デジタル化応援隊」として選定し、その活動を支援する。

国の行政機関に関しては、テレワークに必要な機器や、ネットワークのキャパシティ等が、テレワークを原則的な働き方とする場面に対応しきれていないという課題があるほか、Web会議環境に関し、各府省庁において縦割りのLAN環境が構築されていることにより、府省庁間や、民間企業・地方公共団体とのWeb会議サービスの接続が困難となる状況が発生した。これらに対応するため、テレワークに必要な機器の増設やネットワークの増強など、各府省庁等におけるテレワーク環境の整備を促進するとともに、各府省、地方公共団体、民間事業者まで参加可能なウェブ会議を容易に開催できる環境を整備することで、大規模、長期間のテレワーク等が必要な場合でも、滞りなく業務を継続できるようにする。

また、感染症等の影響によりテレワークの必要性が高まった際にも国の行政機関等の業務が円滑に進められるよう、国の行政機関における情報システムのITリソースとそのセキュリティを確保するために、情報システム運用継続計画を見直していくことが重要である。

中長期的な対応として、テレワークの業務効率性を向上させる観点から、テレワークを実環境での勤務に近いものとするため、アバターなどの更なるテクノロジーの活用も有効であり、一部の企業や教育現場での活用も始まっているものの、そのテクノロジーの利用料金の高さが導入の障壁となっているとの指摘もあり、官民における導入促進に向けた課題の整理が必要である。

4 学び改革(オンライン教育)

教育ICT化については、これまでも、Society 5.0の新たな時代を担う人材の育成や、特別な支援を必要とするなどの多様な子供たちを誰一人取り残すことなく可能性を広げる、一人一人に応じた個別最適化学習にふさわしい環境の速やかな整備のため、学校における高速大容量のネットワーク環境(校内LAN)の整備を推進するとともに、義務教育段階において、全学年の児童生徒一人一人がそれぞれ端末を持ち、十分に活用できる環境の実現に向けた取組(GIGAスクール構想)が、令和元年度補正予算において措置され、その導入に向けた準備が全国で進められている。

今回、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けた学校の臨時休業等、非常事態における遠隔教育の重要性が再認識され、学校内での活用のみならず、家庭内でのオンライン学習環境の整備が急務となっているが、現時点においては、オンライン教育可能な環境を整備済の地方公共団体や学校と、未整備の地方公共団体や学校との格差が生じている。また、家庭でのオンライン学習における教育コンテンツの充実や、教育者側の適応も早急に解決すべき課題である。引き続き、教育現場のICT環境整備を早急に進めるとともに、ネット環境が整備されていない家庭向けの対策を講ずる必要がある。今後再び同様の事態が発生する場合に備え、今回の経験を通じた遠隔教育など、教育ICT化がもたらす利点や課題を洗い出し、オンライン教育の効果的な活用に取り組むとともに、教育データの利活用や教育現場の働き方改革を含め、ICTの活用による中長期的な教育改革も見据えた対策を講ずる必要がある。あわせて、ICT教育アドバイザーやICT支援員の仕組みを十分に活用し、先進的な学校での取組が各地に展開されるよう促す必要がある。

(1) 児童生徒1人1台端末の整備スケジュールの加速を含むGIGAスクール構想の実現

文部科学省を中心としたGIGAスクール構想を加速させ、令和2年度までに、義務教育段階の児童生徒1人1台端末の実現を目指すとともに、在宅・オンライン学習に必要な通信環境の整備支援やセキュリティを確保した上で学校に整備された端末の家庭への持ち帰りを可能とすることを前提としたガイドラインの策定を行う。また、ICT支援員の配置促進や民間企業、関係団体の協力による専門的人材の配置等、GIGAスクール構想の実現に向けての教育現場の支援体制の充実を図る。さらに、学校を含む地域の光ファイバ整備を早期に進める。

(2) ICTを活用した教育サービスの充実

単なる教育における通信環境・端末整備にとどまることなく、実社会で必要となる知識・技能を習得し、思考力・判断力・表現力等を育成する環境を整備するため、EdTechの学校への導入の推進を図るとともに、グローバルな社会課題を題材にした、産学連携STEAM教育コンテンツのオンライン・ライブラリーの構築を図りつつ、在宅教育にも活用可能なオンライン・コンテンツの開発を進める。また、今般の新型コロナウイルス感染症の拡大を受けた遠隔教育に係る特例措置の実施状況等も踏まえつつ、今後の同様の緊急事態における学びの継続や、遠隔教育の有効な活用を可能とする環境整備の方策について検討する。

(3) 児童生徒の学習データの継続的な活用に向けたデータ基盤の検討

学校内外における児童生徒の学びやプロジェクトの記録を保存する学習ログや健康状態等について、1人1台端末の整備に合わせ、個人情報保護に留意しつつ、転校や進学等にかかわらず継続的にデータ連携や分析を可能にするための標準化や利活用の促進により、校務の効率化を図るとともに、多様な子供たちを誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学びを実現する。また、児童生徒の学習データの継続的な活用と、教育政策へのデータの活用に向けたデータ基盤についても中長期的に検討を行う。

5 くらし改革

従来のIT戦略の目指すところは、国民が安全で安心して暮らせ、豊かさを実感できる社会を実現するためのデジタル社会の構築であり、この点は引き続き取り組む必要があることは言うまでもない。しかしながら、今般の新型コロナウイルス感染症への対応を通じて、例えば、実用性や実効性確保、医療安全等に配慮しつつオンライン診療を活用することによる感染防止や、マイナンバーカードを利用した手続の遠隔実施等に見られるように、対面でのやりとりを必要としないオンラインによるデジタル社会の構築が、国民生活の利便性の向上だけでなく、緊急時への対応の観点からも重要であることが認識された。こうした点も踏まえ、「健康・医療・介護・障害福祉」、「子育て・介護等のワンストップ化」、「経済活動・企業活動」など、くらしの中の様々な仕組みや手続のデジタル化・オンライン化を加速することで、利便性が高く、かつ、様々な危機にも順応性の高い社会構造への転換を進めることが急務である。その際、中小・小規模事業者、障害者や低所得者などを含め、誰一人取り残すことなくデジタルの恩恵を享受できるデジタル・インクルーシブ社会を作り出す視点が必要である。また、令和4年度までにほとんどの住民がマイナンバーカードを保有していることを想定し、マイナンバーカードを様々な手続をデジタルで行うための基盤と位置付けた取組を進めることも重要である。

(1) 健康・医療・介護・障害福祉

新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、医療崩壊の危機にとどまらず、これを防止するための外出自粛等に伴い、高齢者等の孤立化や、運動不足によるフレイル増加の懸念など、国民生活に様々なリスクをもたらしている。このようなリスクを少しでも低減し、安心・安全な国民生活を支えるために、その基礎となる健康・医療・介護分野において、早急にデジタル化を促進し、データを利活用できる仕組みを構築するとともに、国民一人一人の健康状態にあった生活を守り、維持できる質の高いサービスが求められる。こうした点も踏まえ、「Ⅱ.(3)健康・医療・福祉分野のデータに基づくくらし改革と働き方改革」で詳述するとおり、データの活用等による、リスクの早期発見・予防、健康・医療・介護関連サービスの高度化、地域社会における高齢者・障害者等生活支援サービスの実現のための取組を進める。特に、新型コロナウイルスの感染拡大によって、高齢者の生活も大きな打撃を受けており、要介護者の増加や介護施設等の逼迫を加速しかねない状況にある。こうした事態に対応するためにも、医療従事者の判断を助けるためのセンサー技術等テクノロジー面での解決策のほか、高齢者の「通いの場」と、スマートフォン等を活用した介護予防プログラムを通じて、ポストコロナも見据えつつ高齢者の生活を立て直すことも喫緊の課題である。

また、各事業者による障害者割引等における本人確認等について、多くの事業者が障害者手帳(紙製の折り畳み式手帳)の提示を求めていることに対して、障害者手帳の紛失、情報漏洩リスクや、個人情報を事業者へ都度開示することへの心理的負担などの問題があることから、障害者に過度な負担とならないよう、民間による障害者手帳アプリの活用等による簡素化を推進する。

さらに、新型コロナウイルスの感染拡大の中で、院内感染を含む感染防止のため、非常時の対応として、初診を含むオンライン・電話による診療等が可能となった。この時限的な対応について、実用性や実効性確保の観点、医療安全などの観点から改善のための検証を行うとともに、検証結果を踏まえ、医療の現場に定着すべき所要の措置について検討する。

加えて、地域における看護や介護等の担い手の確保などの観点から、ITを活用した有資格者等の掘り起こしについて検討する。

(2) 子育て・介護等のワンストップ化

子育て・介護・障害福祉に関しては、必要なデータが集約・整理されていないことや、煩雑でデジタル化されていない手続により、利用者や支援を受ける者にとって大きな負担となっている。また、煩雑な手続に費やされている地方公共団体等のリソースは、虐待や孤独死等の防止、介護予防の推進など、緊急性・必要性の高い業務に振り向けられるべきと考えられる。

これらの解決を図るため、「デジタル・ガバメント実行計画」(平成30年1月16日eガバメント閣僚会議決定、令和元年12月20日に改定版の閣議決定)等に基づき、子育てや介護などの各分野におけるワンストップ化(関連する行政手続のワンストップ化や、子育て等は民間手続まで含めたワンストップ化)を推進する。

子育てに関しては、妊娠から就学前までの官民の手続及びサービスについて、時間軸に沿って最適なタイミングでプッシュ型の通知が受けられる仕組みの全国展開を目指す。子育てに必要な情報がプッシュ型で届けられることが前提となれば、例えば、地方公共団体において、予防接種等の未受診世帯に積極的なサポートを行うことも期待できる。加えて、生まれてから学校、職場など生涯にわたる健診・検診情報について、マイナポータル等を活用して電子化・標準化された形での提供を進める。

(3) 経済活動・企業活動

請求書・領収書に関連する手続、税・社会保険手続及び官民の各種手続における本人確認等がデジタル化されていないことが、中小・小規模事業者をはじめとする企業や、個人事業主などの生活者の日々の生活に負担となっているため、インボイス制度が導入される令和5年10月も見据え、ビジネスプロセス全体のデジタル化によって負担軽減を図る観点から、請求書・領収書のデジタル化、キャッシュレス化及び税・社会保険手続の電子化・自動化を促進する。

キャッシュレス化推進に関しては、QRコード決済における統一QRであるJPQRの全国展開を実施する。また、地域のあらゆる主体が決済・購買データを幅広く活用できる環境を整備するとともに、API接続の推進により、税務申告や、将来的なインボイス制度への対応等を円滑にするための会計クラウドサービスとの連結や、「JPQR売上管理画面」の機能の充実を図る。

税・社会保険手続の電子化・自動化に関しては、デジタル・ガバメント実行計画に基づき企業が行う従業員の税・社会保険手続のワンストップ化・ワンスオンリー化の推進を図るほか、以下の事項に取り組む。

  • 税・社会保険手続について、電子申告・電子納付をより一層促進するため、税務申告(申請届出)から納税(納付)までの一連の手続をシームレスに行うことを可能とするとともに、横断的なワンスオンリーの徹底について、令和2年度中にニーズや課題等を検討する。
  • 法人の電子納付手段として、ダイレクト納付も含めた口座振替申込のオンライン完結の実現や、個人住民税の特別徴収税額通知書や年金関係をはじめとした行政機関等からの処分通知などの電子送達の在り方について検討を行い、令和2年度中に方向性を得る。
  • 年末調整・所得税の確定申告の電子化・自動化
    • 年末調整・所得税の確定申告手続に関するマイナポータルを活用したデータ連携による各種申告書の入力自動化等について、社会保険料やふるさと納税に関する控除証明書等、控除・収入関係書類の電子化を目指したロードマップを令和2年度中に策定する。
    • 国家公務員の年末調整手続の電子化について、令和2年10月からの手続電子化を踏まえ、国税庁が提供する年末調整控除申告書作成用ソフトウェアの活用等、各府省における一層の環境整備に向けて取り組む。

また、官民の対面での本人確認手続における各種身分証の券面の確認や、書類の記入手続は、手続の実施主体にとって煩雑であるだけでなく、人との密接も求めてしまうものであることから、国・地方公共団体の窓口において「対面でもデジタル」な手続が可能となるよう、マイナンバーカードのICチップを活用することができる環境の整備を促進する。加えて、「8 規制のリデザイン」で後述するとおり、書面主義、押印原則、対面主義に関する官民のこれまでの規制・制度・慣行の見直しに取り組む。

(4) 国の行政機関等における慣習の見直し等(「隗かいより始めよ」)

今般の新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、テレワークなどの遠隔対応が進んでいるが、外的要因によって「使ってみる」ことをきっかけに、その利便性が認識され、社会への定着が進んでいくことも期待される。

遠隔対応だけでなく、書面・押印の見直しやキャッシュレス化など、デジタルの利便性を実体験することで普及が進み、ひいては経済社会活動の効率化が実現されるという視点は重要であると考えられる。このため、まずは国の行政機関等が、「隗より始めよ」のとおり、率先してデジタルの活用を実践することで、職員のICTリテラシーを高めるとともに、少なくとも国の行政機関において完全デジタル化が実現できる環境を整える。具体的には以下の取組を進める。

  • 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(以下「IT総合戦略本部」という。)及び官民データ活用推進戦略会議に関し、会議開催に当たっての外部構成員との事前調整の完全オンライン化や、施策の進捗状況等のフォローアップの完全電子化を進め、政府内での他の会議等への波及を促す。
  • キャッシュレス化推進のため、国の行政機関等が入居する庁舎・ビル内でビジネスを行う店舗等(食堂、コンビニ、弁当の移動販売、置き菓子サービス等)におけるJPQRの導入を促進する。
  • 各府省及び独立行政法人は、会計手続、人事手続その他の内部手続について、書面・押印・対面の見直しを行う。

6 防災×テクノロジーによる災害対応

近年頻発し、激甚化する災害に効果的・効率的に対応するため、情報通信技術や新たなサービスを活用していくことが、強靱な社会基盤の構築のために重要である。そして、今般の新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、感染症と災害に複合的に見舞われる事態が具体的に懸念されるようになったことで、その重要性が一層高まっている。

現在、災害対応業務の効率化・省力化に資する可能性のあるAI、SNS、衛星などの様々な先進技術の研究開発や、各種手続のデジタル化の取組が進められおり、地方公共団体等の現場におけるこれらの活用を促進するため、以下の取組を推進するとともに、活用事例、推奨データ形式等についての横展開を行う。

  • SIP第2期(平成30年度~令和4年度)において、スマートフォン上で機能するAIを活用した防災チャットボットを通じて、一人一人の状況に応じて適切な避難行動を促す情報を提供するとともに、住民等から現地の災害情報を収集する研究開発を進める。
  • 令和3年度から「防災×テクノロジー官民連携プラットフォーム」を設置し、地方公共団体等のニーズと先進技術とのマッチング支援や活用事例等の横展開を行う。
  • SIP第2期(平成30年度~令和4年度)において、衛星データを活用して広域的な被災状況を迅速に把握・共有するための研究開発を進める。
  • 航空写真、衛星等により広域的な被災画像を迅速に収集・共有することで、被災者支援手続の簡略化にも役立てる取組を推進する。
  • マイナンバーを活用した庁内連携や庁外からの情報入手による被災者台帳の作成、被災者台帳システム未整備自治体等が共同利用できるシステム基盤の構築、マイナンバーカードを活用した避難所入退所情報の収集、罹災証明書のマイナポータル等での申請及びコンビニでの受け取りの実現など、被災者支援手続等のデジタル化を図る。令和3年度から「防災×テクノロジー官民連携プラットフォーム」において、モデル地方公共団体を選定し、これらの被災者支援手続等のデジタル化についての効果・課題を実証しつつ、効果的な活用事例を創出し、望ましいシステムの在り方の検討を行う。
  • 病床管理、感染症情報、災害情報等の全国のリアルタイムの情報基盤の整備と公的な数量データのFAX等の利用の見直しを行う。
  • シェアリングエコノミーを活用した避難場所、食料、支援物資等に係る災害支援サービスの提供を実現するため、令和2年度からモデル防災協定の検討及び周知を行う。
  • 令和2年度以降も、防災機関や地方公共団体において、地上の通信インフラが途絶した場合でも、準天頂衛星経由で被害状況や必要な物資に関する情報を被災地から収集する「衛星安否確認サービス」や、津波、土砂災害等の情報を準天頂衛星経由で配信する「災害・危機管理通報サービス」の活用を引き続き推進する。
  • ハザードマップの基礎となる洪水浸水想定区域などの災害リスク情報について、GISデータでのオープンデータ化を進め、令和2年度から順次、洪水浸水想定区域(想定最大規模)のGISデータでの提供を開始する。

7 社会基盤の整備

オンライン化・リモート化による社会構造の変革や、人々の行動変容を図ることにより、デジタル強靱化を進めていくためには、その前提として、デジタル・ガバメント、インフラの整備、デジタル格差対策、データの流通環境の整備及びセキュリティ/トラストの確保等の社会基盤の整備が必要であることを踏まえ、以下に掲げる諸施策を実施するとともに、後述する「II. デジタル技術の社会実装」、「Ⅲ.データ利活用によるインクルーシブな社会の実現」及び「Ⅳ. 社会基盤の整備」について、この観点からも必要な取組を進める。

(1) デジタル・ガバメント

新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、ソーシャルディスタンスの確保が求められる中で社会経済活動を維持する方策など、我が国社会における新たな課題が浮き彫りとなり、地震や台風などの災害発生時も含めた、非常時においても弾力的に対応できる社会への転換が求められている。

さらに、少子高齢化の進行とそれに伴う生産年齢人口の減少、大都市への人口の集中、単身世帯や核家族世帯の増加及び国際化の急速な進展に代表される、我が国の社会構造の変化に伴う社会課題も依然として残されている。

これらを解決するために、急速に進展するデジタル技術を徹底的に活用し、国、地方公共団体、民間事業者、国民その他の者があらゆる活動においてデジタル技術の便益を享受し、安全で安心な暮らしや豊かさを実感できるようにする必要がある。

このため、利用者視点での行政サービス改革の断行を起点として、地方や民間部門のデジタル化を推進し、デジタルを前提とした新たな時代にふさわしい環境整備を進めていかなければならない。

その際には、これまでのデジタル化のように、紙や対面で行っていた手続を単にオンラインでできるようにするなど、従来のやり方をデジタルに置き換えるだけの、いわゆる「Digitization(デジタイゼーション)」ではなく、デジタルを前提とした次の時代の新たな社会基盤を構築するという「Digitalization(デジタライゼーション)」の観点から取り組むことが重要となる。

こうした考えの下、改正後の情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(平成14年法律第151号。以下「デジタル手続法」という。)等に基づき、より実効的に取組を進めていくために、令和元年12月に、デジタル・ガバメント実行計画を改定し、閣議決定した。

デジタル・ガバメント実行計画においては、デジタル技術を活用した行政の推進について、その基本原則、情報システムの整備の在り方、ガバナンス体制の強化及び各行政サービスごとの取組の方向性、地方公共団体における取組の推進、民間との連携並びにデジタル技術の利用のための能力又は利用の機会における格差(デジタルデバイド)の是正等その他のデジタル技術を利用する方法等により、デジタル・ガバメントを実現するために必要となる事項を、誰が、何を、どうやって取り組むかについて定めている。

今後、内閣官房と関係府省が連携しつつ、取組の加速を図り、実現時期を前倒しできるものは前倒しするとともに、非常時においても持続可能な社会を構築するために必要となる新たに積極果断に取り組むべき事項も見定め、年内にデジタル・ガバメント実行計画も見直すこととする。

特に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大への対応を踏まえ、強靱なデジタル社会構築の実現に向けて、以下に取り組む。

① 行政のデジタル化の徹底

書面や対面といった、デジタルによる完結を阻む要件は、感染症の感染拡大の防止の妨げとなるだけでなく、今後の経済の回復局面、さらにはデジタル化による社会変革を進める際の官民双方の生産性向上の妨げにもつながりかねない。

こうした点を踏まえ、各府省は、デジタル手続法及びデジタル・ガバメント実行計画により明確となった「デジタル3原則(①デジタルファースト:個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する、②ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする、③コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する)」の徹底を図るとともに、全ての行政手続を対象として、デジタル化の前倒しなどを早急に検討する。

その際には、各府省は、既にオンライン化を実現している行政手続も含めて、利用者の利便性向上という観点に立ちつつ、現状の把握と分析を行った上で、費用対効果も踏まえ、行政機関間の情報連携等による添付書類の省略などオンライン利用を促進する方策を検討するとともに、事務処理を行う行政機関内のデジタル化に取り組まなければならない。

また、必要となる情報システムの整備に当たっては、迅速かつ柔軟に進めるため、クラウド・バイ・デフォルト原則を徹底し、クラウドサービスの利用を第一候補として検討するとともに、共通的に必要とされる機能は共通部品として共用できるよう、機能ごとに細分化された部品を組み合わせる設計思想に基づいた整備を推進する。

② 政府ネットワーク環境の再構築等

「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策~国民の命と生活を守り抜き、経済再生へ~」(令和2年4月20日閣議決定)において、国家公務員のテレワーク環境の整備を含む、リモート化等による社会全体のデジタル化の加速が求められている。行政のデジタル化の徹底の一環として、行政においてもこうした変革にいち早く対応し、正常時・非常時のいずれにおいても適切に行政サービスを提供できるようにしなければならない。省庁内の会議はもとより、省庁間の会議などにおいても、リモートで実施することが可能となる環境を早急に整備するとともに、行政の情報システム及びネットワークのうち、特に、基盤となるネットワーク環境について、クラウドサービス利用の本格化を踏まえ、行政全体の最適化や利便性とセキュリティの両立を前提に検討を進め、その整理・再構築に向けた実証等を進める。

さらに、今後、こうしたテレワークによるリモート化等が社会に浸透していく際に、行政の業務の在り方が弊害とならぬよう、各府省は、「利用者中心の行政サービスの提供」という行政のデジタル化の目的に立ち返り、書面による提出書類の削減、提出書類に求める事項の再検討、非対面の本人確認による出頭の廃止など、制度そのものや慣習の見直しを進め、あらゆる業務のデジタライゼーションを徹底的に推進する。

③ 地方公共団体のデジタル化

地方公共団体は、今般の新型コロナウイルスの感染拡大を受け、「窓口に並ぶ」ことが密集・密接に繋がらないように、郵送を含め様々な方策を講じているところであるが、住民の利便性の向上、行政の効率化、感染症の拡大防止の観点及びデジタル手続法に規定されたデジタルファースト原則を踏まえれば、地方公共団体の手続のオンライン化を進めることが本筋である。

そのためには、大前提として、全市町村において汎用的に手続のオンライン化を可能とする基盤が必要である。特別定額給付金の支給申請のオンライン化においては、ほぼ全ての市町村がマイナンバーカードに搭載される電子証明書及びマイナポータル・ぴったりサービスを活用しているが、当該給付金だけでなく、マイナンバーカードに搭載される電子証明書は本人確認を必要とする手続に広く活用できること、また、マイナポータル・ぴったりサービスは、市町村に対する手続について汎用的に活用できることから、これをきっかけに、今後も、原則として、全ての市町村において、マイナンバーカード及びマイナポータル・ぴったりサービスを活用してオンライン化を進めることができるよう、早急に整備されるよう取り組む。また、住民が都道府県に対して行う手続にも活用できるように、マイナポータルを整備する。

地方公共団体が優先的にオンライン化に取り組むべき手続については、デジタル・ガバメント実行計画別紙5に記載しているが、これらの手続のうちオンライン化が進んでいない個人が行う手続については、内閣官房、総務省及び内閣府は、関係省庁と連携して、早急に、申請フォームのひな形を作成するとともに、マイナポータル・ぴったりサービスにプリセットするなどにより、効率的かつ迅速にオンライン化できるよう取り組む。

他方、従来の紙を前提とした方法をそのままオンライン化すると、住民にとって利便性の高くない仕組みになり利用されないといった事態や、手続を処理する地方公共団体にとってかえって手間が増えてしまうという事態が生じる。したがって、そのような事態に陥らないように、マイナポータルの使い勝手を向上させていく取組を常時行っていくとともに、申請フォームのひな形をもとに、地方公共団体が自ら利用者視点に立った業務改革(BPR)を必ず行って、エンドツーエンドでデジタル化を進めることを併せて促す。

また、内閣官房及び関係府省は、地方公共団体に対する手続のうち、住民等からの申請の総件数が多いが、オンラインで完結できないものについては、その課題を本年度中に整理し、オンライン完結できるように取り組む。

手続の性質上対面で行う必要がある場合や住民が対面で手続を行うことを希望する場合等、やむを得ず対面で手続を行うときにおいても、予約の仕組みを導入し、窓口において行列が生まれないようにすべきである。また、予約日までの間に地方公共団体が事前に準備ができるようにすることで、窓口での対応時間を極限まで減らす工夫をすべきである。例えば、引越しワンストップサービスにおいて転入手続の予約が検討されているが、転出証明書情報を事前に市町村職員が確認することにより事前準備が可能となるよう、必要な制度を検討する。

事業者が地方公共団体に対して行う手続については、事業者が地方公共団体の区域をまたがる活動を行う特性を有しており、地方公共団体ごとに書式、様式等が異なることが大きな負担となっている。このため、法令所管府省は、地方公共団体ごとに異なる申請項目やデータ等の標準化を行うことを前提に、内閣官房、規制改革推進会議等と連携して、地方公共団体と事業者との手続のオンライン化を抜本的に推し進めるためのプラットフォームを国が統一的に整備することについて検討を進める。

また、総務省は、地方公共団体の業務の自動化を図るため、複数の地方公共団体が共同利用できるクラウドAIサービスの開発実証を行い、当該実証を踏まえた標準仕様や導入手順等を確立することで、全国の地方公共団体におけるクラウドAIサービスの共同利用を促進するほか、地方公共団体の基幹的な業務について、人口規模ごとに複数地方公共団体による検討グループを組み、そのグループ内で業務プロセスの団体間比較を実施することで、AI等を活用した業務プロセスの標準モデルを構築する。

地方公共団体のデジタル化を推進するため、手続のオンライン化だけではなく、業務プロセス・システムの標準化やクラウド化、AIの活用等について、デジタル・ガバメント実行計画に記載された施策を総合的にかつ着実に実行していくべきである。総務省は、市町村のデジタル化を抜本的に進めるための計画を本年中に策定し、内閣官房と協力して、市町村に対してデジタル化の取組及び官民データ活用推進計画の策定を促す。

④ マイナンバーカード及びマイナンバーの活用の促進等

強靭な社会経済構造の一環として、マイナンバーカード・マイナンバーを基盤としたデジタル社会の構築を進めるため、デジタル・ガバメント実行計画で規定した諸施策を工程表に沿って着実に実行するとともに、追加措置として、以下の施策を講ずる。

 関係府省庁は、PHRの拡充を図るため、令和3年に必要な法制上の対応を行い、令和4年を目途に、マイナンバーカードを活用して、生まれてから職場等、生涯にわたる健康データを一覧性をもって提供できるよう取り組むとともに、当該データの医療・介護研究等への活用の在り方について検討する。マイナンバーカードの公的個人認証の活用により障害者割引適用の際に障害者手帳の提示が不要とできるよう、デジタル対応を推進する。また、e-Tax等について、自動入力できる情報(医療費、公金振込口座等)を順次拡大し、マイナンバーカードの利便性を向上させる。

 在留カードとマイナンバーカードとの一体化について検討を進め、令和3年中に結論を得る。また、運転免許証について、海外の事例を踏まえつつ、発行手続やシステム連携の在り方等を含めた検討を開始する。あわせて、自動車検査証及び自動車検査登録手続についても、マイナンバーカードを活用した手続の一層のデジタル化の推進に向けて、検討を開始する。この他、各種免許・国家資格、教育等におけるマイナンバー制度の利活用について検討する。必要に応じて共通機能をクラウド上に構築する。民間技術を更に積極的に活用してマイナポータルの利便性の向上を図る。

 また、国税還付、年金給付、各種給付金(国民向け現金給付等)、緊急小口資金、被災者生活再建支援金、各種奨学金等の公金の受取手続の簡素化・迅速化に向け、マイナポータル等を活用し、公金振込口座設定のための環境整備を進める。様々な災害等の緊急時や相続時にデジタル化のメリットを享受できる仕組みを構築するとともに、公平な全世代型社会保障を実現していくため、公金振込口座の設定を含め預貯金口座へのマイナンバー付番の在り方について検討を進め、本年中に結論を得る。その際、これにより、個人単位での給付が可能となることにも留意する。

 さらに、関係府省庁は、マイナンバー制度及び国地方を通じたデジタル基盤の構築に向け、地方自治体の業務システムの早急な統一・標準化を含め、抜本的な改善を図るため、年内に工程を具体化するとともに、できるものから実行に移していく。

(2) 次世代インフラの整備

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出制限等により、テレワークなど全面的にICTによる遠隔対応に依存せざるを得ない状況が生じた。この外的要因によって進んだ遠隔対応の中には、今般の感染拡大の収束後のニュー・ノーマルな世界においても、不可逆的に社会に根付いていくものも多く含まれると考えられるほか、今後発生し得る同様の緊急事態において社会経済活動を維持可能とする必要があることから、早急に、5GをはじめとするICTインフラが徹底的に使いこなされる環境を実現する必要がある。このため、「Ⅳ.1 5Gを軸とした協業促進によるインフラ再構築」において詳述するように、5G等の早期の面的展開と産業利用・公的利用への拡大を進める。

また、Society 5.0をより高いレベルで実現していくためには、サイバー空間と現実世界(フィジカル空間)をより高度に一体化させる必要があり、それを支える中核的なインフラとしては5Gよりも更に高度なネットワークが求められる。一方、新型コロナウイルスの感染拡大で我々が目の当たりにしているような事態に対応し、また、今後のニュー・ノーマルの世界において社会経済活動を円滑に維持するためには、フィジカル空間で起きている事象をリアルタイム・ビッグデータを活用してサイバー空間に投影し、解決策を見いだす仕組みの実現が求められる。5Gの次の世代のBeyond 5Gは、まさに、これらを実現するための基幹インフラとなるものであり、そのためには、5Gの特徴的機能の更なる高度化(超高速・大容量、超低遅延及び超多数同時接続)に加え、自律性、拡張性、超安全・信頼性、超低消費電力などの機能が具備される必要がある。この認識の下、これらの機能を持つBeyond 5Gの早期かつ円滑な導入と、我が国の国際競争力強化に向けて、産官学が連携して戦略的に取り組める「Beyond 5G推進コンソーシアム(仮称)」を構築し、研究開発戦略、知財・標準化戦略及び展開戦略を強力かつ積極的に推進する。

(3) デジタル格差対策

我が国の総人口は減少局面にあり、令和24年(2042年)には高齢者人口がピークを迎え、生産年齢人口も減少傾向にあることを踏まえると、デジタル技術の利活用により、高齢者や障害者を支援するとともに、男女共同参画や外国人との共生を実現し、年齢、障害の有無、性別、国籍等にかかわらず、皆が支え合う社会を目指すことが必要である。そして、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、教育や医療をはじめとして、格差があってはならない領域も含めて遠隔対応が取り入れられているほか、テクノロジーを駆使して災害に効果的・効率的に対応していくことが重要となっており、緊急時への対応という観点からも、また、今般の感染拡大の収束後のニュー・ノーマルな世界を見据えての対応としても、年齢、障害の有無、地域、所得の多寡等を問わず、あらゆる者がデジタルの恩恵を受けることができる環境の整備が不可欠である。こうした状況を踏まえ、デジタル・インクルーシブ社会の構築に向けて、以下に取り組む。

  • 在宅学習・在宅勤務・オンライン診療等の利用環境に係る地域間格差の解消を図るとともに、どこにいても確実に災害情報を得られるような環境を整備するため、光ファイバ整備を推進する。
  • 災害時に必要となる情報伝達手段を確保するため、令和3年度までに全国の防災拠点等約3万箇所について、公衆無線LAN 環境の整備を推進する。
  • 新型コロナウイルスの感染拡大のような緊急事態にあっても、誰一人とり残すことなく、子供たちの学びを止めない環境を実現するため、全学校での高速大容量の通信ネットワークの整備に加え、1人1台の端末を活用した各家庭で学べるネットワーク環境等の早期整備、学校はもとより校外学習や家庭でも学べるコンテンツ等のプラットフォームの構築、障害のある子供への入出力支援機器の整備、ICT支援人材の学校への配置促進等を行う。
  • ICT機器・サービスの利用方法について、高齢者等が身近な場所で相談や学習を行えるようにする「デジタル活用支援員」に関し、令和2年度中に支援員の活動、実施体制などの基本的枠組みの構築に取り組むとともに、必要となる制度整備について検討を進め、令和3年度以降、民間サービス等との役割分担を踏まえつつ、本格的に実施する。
  • 地域で子供、学生、社会人、障害者、高齢者等がプログラミングなどのICTに関して世代を超えて知識・経験を共有する取組である地域ICTクラブについて、地域の実情に応じて、メンターの育成や学校と連携した活動を行うことを検討する等して、普及促進を図る。
  • 障害者等の状況にきめ細やかに対応可能なICT機器・サービスの開発に当たっては、ニーズに応えていく必要があることから、障害者向けICT機器・サービスの開発に資する情報の収集・共有のための関連情報のデータベースなどプラットフォームの構築を行う。また、企業等が開発するICT機器・サービスが情報アクセシビリティ基準に適合しているかどうか自己評価する仕組みを構築し、アクセシビリティ確保の促進に取り組む。
  • 生活困窮者のデジタル利用等の実態を把握し、好事例の収集等を行うとともに必要な支援策を検討する。
  • 年齢、障害の有無、性別、国籍等に関係なく選定したICT分野における「大いなる可能性がある奇想天外でアンビシャスな技術課題」に対する挑戦を、その地球規模での発信と併せて支援する。
  • 「言葉の壁」を克服するため、2025年大阪・関西万博を一つの目標として、ビジネスや国際会議等でも実用的に活用可能なレベルの多言語同時通訳の研究開発を推進するほか、多言語翻訳の普及を推進する。

(4) データ流通環境の整備、セキュリティ/トラストの確保

「1 情報通信技術を活用した新型コロナウイルス感染症対策に係る取組」で見てきたように、新型コロナウイルス感染症対策や、今後の同様の緊急事態に向けて、官民のデータを活用することで、マクロ的な観点から感染症対策を支援することや、感染症拡大を踏まえた新たな生活様式を支援することが重要となる。

この際、官民の様々な主体が保有するデータの流通を容易とするための環境整備が必要であり、何よりも、データの利活用を進めるためには、個人情報やプライバシーの保護がしっかりと担保されているなど、利用者・国民からの信頼確保が欠かせない。こうした観点から、「Ⅲ. データ利活用によるインクルーシブな社会の実現」において詳述するデータ流通環境の整備を進める。

また、ICTを活用した各種遠隔対応や、各種手続のオンライン化・デジタル化を進め、サイバー空間での自由で安心・安全なデータ流通を可能とするためには、セキュリティ/トラストの確保が前提となる。

一方で、テレワークに関しては、急速にWeb会議サービスの普及が進んでいるが、一部のWeb会議サービスに脆弱性が確認され、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)においてWeb会議サービスを含むテレワークについての注意喚起がなされるなど、セキュリティ上の懸念が生じているといった状況もある。また、データの改ざんや送信元のなりすまし等を防止する仕組み(トラストサービス)は存在するものの、書面主義や押印の制度や慣行等が、遠隔対応の障害になる場面があるとの指摘がある。

テレワークのセキュリティに関しては、テレワークシステムの導入に当たっての具体的な判断に資するセキュリティチェックリストを策定し、テレワークマネージャーやセキュリティ専門家による導入・運用支援、企業での自己チェック、テレワーク・サポートネットワーク等を通じた普及を促進する。また、中小企業等のサイバーセキュリティ対策を強化する。

トラストサービスについては、具体的なニーズと課題が顕在化している以下の取組を進める。あわせて、行政手続における活用や普及の障害となる制度の把握や、その見直しの検討を行う。

・ 電子データがある時刻に存在し、その時刻以降に改ざんされていないことを証明する「タイムスタンプ」について、令和2年度中に国による認定制度を整備するとともに、電子文書の送受信・保存において公的に有効な手段となるよう、必要な取組を行う。

・ これまで紙の書類で使われていた企業の角印に代えて、請求書などの電子データの発行元の組織を簡便に確認することができ、社内業務や企業間取引の効率化が期待される「eシール」について、一定の基準に基づく民間の認定制度の創設に向けて、令和2年度中にユースケースについて幅広く調査するとともに、技術的要件等の整理を行う。

・ 署名者の署名鍵をクラウドのサーバ上で管理し、署名者がリモートで電子署名を行う「リモート署名」について、技術や運用の動向を踏まえた検討を行い、速やかに電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号。以下「電子署名法」という。)上の位置付けを明確化する。

・ サービス提供事業者が利用者の指示を受けて同事業者自身の署名鍵による暗号化等を行うサービスに関して、令和2年度中できるだけ早期に関係省庁においてQ&A等で電子署名法上の位置付けの明確化及びその周知を図る。また、電子署名法第3条の在り方に関して、そのようなサービスについても一定の要件を満たせばその対象となり得ることについて、考え方を明らかにするため、令和2年に検討を開始し、早期に結論を得る。

(5) モビリティシステムのデジタル化

新型コロナウイルス感染症の拡大防止として、人と人との接触を減らすために、不要不急の外出を控える対策が世界各国で採用されてきたが、オンラインにより代替できない外出機会は一定程度残るほか、物流の維持は、国民生活の安定のために不可欠である。

このため、デジタル技術を活用して、安全で効率的な人と物の移動を実現する。例えば、無人自動運転の実現により、車内に運転者が不在となるので、タクシーやバスのドライバーのウイルス感染を防ぐことができる。また、トラックの自動運転が実現すれば、物流の継続による国民生活の維持に繋がる。これらを可能とするような、高度な自動運転技術の早期実用化に向けて、官民連携しての研究開発や実証実験を推進するとともに、必要な制度整備に取り組む。

なお、中長期的に、移動代替手段では満たされない「移動」そのものの価値が改めて見直されることになれば、ハード・ソフト両面のインフラや制度の整備について、改めて課題を整理することが必要となる。

(6) サプライチェーン

今般の新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、サプライチェーンや各種サービスなどの社会基盤の維持、少子高齢化や人口減少に伴う労働力不足への対処、国民の利便性の向上といった従前より存在していた社会的課題を浮き彫りにした。これらの課題への対応は、感染症に対する社会の強靱性を確保するだけではなく、自然災害への対処、さらには今般の新型コロナウイルス感染症の感染拡大が収束した後の我が国経済社会の持続的な回復・発展のための基礎となることから、官民を挙げて優先的に取り組むべきものである。例えば、農林水産業では急激な需給バランスの変化や人手不足に直面しており、農業・食品産業の生産性向上やサプライチェーンの効率化が求められる。また、国民生活や産業活動に不可欠な物流について、担い手の安全を確保しながら、その生産性向上や、機能を維持するための取組が必要である。こうした観点からも、「II. デジタル技術の社会実装」に詳述する、スマート農業及びスマート水産業による品質・生産性向上、農林水産施策のDX、港湾物流のスマート化、スマートフードチェーンの構築によるサプライチェーン全体の効率化や、港湾物流における遠隔・非接触化の推進に取り組む。

(7) 建設分野におけるデジタルトランスフォーメーション

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を契機として、建設工事の現場において非接触・リモート型の働き方に転換する等、感染症リスクに対して強靱な経済構造の構築を加速することが課題となっている。このため、公共事業について、設計・施工から維持管理に至る一連のプロセスやストック活用をデジタルで処理可能とすることや熟練技能のデジタル化を進めること等により、抜本的な生産性向上と非接触・リモート型への転換を進めるDXを推進する。

具体的な取組としては、鉄筋の配置や部材の寸法等の工事に関する様々な情報を、これまでは何十枚もの2次元の図面で表現していたところを、形状や属性情報を付与した3次元モデルとして表現することで、事業全体にわたる関係者間の情報共有を容易にし、一連の建設生産・管理システムの効率化・高度化を図るBIM/CIM(Building / Construction Information Modeling, Management)について、令和5年度までに小規模なものを除く全ての公共工事で活用するように転換していく。また、従来は現場で目視や実測により行っていた施工状況や材料等の確認や監督検査について、映像等のデジタルデータを活用し、遠隔での業務や電子的な自動処理により省力化する等、建設業の新しい働き方への転換に取り組む。

(8) 裁判関連手続のデジタル化

適正迅速な裁判の実現を図るため、「裁判手続等のIT化検討会」において、民事訴訟手続の全面IT化として、e提出(主張証拠のオンライン提出等)、e法廷(ウェブ会議・テレビ会議の導入・拡大等)及びe事件管理(訴訟記録への随時オンラインアクセス等)の「3つのe」を目指すべきことが確認され、内閣官房「民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議」においても、民事裁判手続等のIT化は、可能な限り早期に実現すべき課題であることが、改めて確認された。

「3つのe」は、感染症の感染拡大時において、ソーシャルディスタンスを確保する観点からも有用であり、司法府における自律的判断を尊重しつつ、政府において、その実現に向けて必要な取組を進めていく。

刑事手続についても、そのデジタル化を行うことは、捜査手続に関与する国民の負担軽減につながり、また、感染症の感染拡大時にも円滑・迅速な公判手続を可能とする観点から有用であると考えられ、デジタル化を早期に実現することは、関係者の権利利益の保護に資する。このため、刑事手続において可能な分野における効率化、非対面・遠隔化等を目指すべく、令和2年度中に、司法府における自律的判断を尊重しつつ、政府において、令状請求・発付をはじめとする書類のオンライン受交付、刑事書類の電子データ化、オンラインを活用した公判など、捜査・公判のデジタル化方策の検討を開始する。

8 規制のリデザイン

新型コロナウイルスの感染拡大により、各種遠隔対応をはじめとしたITを活用することの重要性が高まっているが、今般の感染拡大の収束の後も、その利便性等のためにITの活用が不可逆的に進む領域があると考えられるほか、今後の感染症の発生に際して弾力的に対応可能とするために、ITの活用可能性を高めておくべき領域もあると考えられる。このことはすなわち、今般の新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、様々な必要性からデジタルの活用に一定の制限をかけていた各種規制について、その前提となる社会状況が変容したものと言うことができる。

感染症などの危機に対応可能で強靱なデジタル社会の構築のためには、こうした社会状況の変化を反映し、デジタルの活用を前提に、規制を再設計(リデザイン)する必要がある。

医療分野については、「5 くらし改革」で述べたとおり、新型コロナウイルスの院内感染を含む感染防止のため、非常時の対応として、初診を含むオンライン・電話による診療等が可能となっており、この時限的な対応について、実用性や実効性確保の観点、医療安全などの観点から改善のための検証を行うとともに、検証結果を踏まえ、医療の現場に定着すべき所要の措置について検討する。

教育分野については、学校休業が長期化し教育課程の実施に支障が生じる事態を受けて、以下のような特例的措置が執られており、今後、これらの措置の実施状況も踏まえ、今後の同様の緊急事態における学びの継続や、遠隔教育の有効な活用を可能とする環境整備の方策について検討し、オンライン教育の効果的な活用に取り組む。

  • 遠隔授業において、受信側に教師がいることを求める要件の緩和(児童生徒が自宅からICTで行う学びについても、正式な授業参加として認める)
  • 遠隔授業において、同時双方向であることを求める要件の緩和(「同時双方向」ではないオンライン上の教育コンテンツを使用した場合についても、正式な授業参加として認める)
  • 高校や大学における遠隔授業に係る単位数の上限についての柔軟な運用
  • 平成30年に改正された著作権法(昭和45年法律第48号)に基づく授業目的公衆送信補償金制度の早期施行

また、テレワーク等の推進とデジタル時代に向けた規制・制度の見直しの観点から、規制改革推進会議は、IT総合戦略本部と連携し、書面主義、押印原則、対面主義に関する官民のこれまでの規制・制度・慣行の見直しに取り組む。

さらに、行政機関等の内部手続について、制度的な対応が不要な押印・書面提出等は速やかに廃止するとともに、制度的な対応が必要なものについては、官民を通じた業務プロセス全体を見渡した業務見直しの中で令和2年中に検討する。特に、会計について、契約書を除いて押印廃止、契約書については電子的手段の利活用促進を図るなど、契約相手の負担軽減を行う。

参照

-エビデンス全般

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