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1.デジタル社会実現におけるデータセンターの位置づけ
・データセンターの役割
データセンターは、サーバーやネットワーク機器を設置・運営することに特化した施設であり、データの収集・伝送・接続・蓄積・処理・発信のうち、データの「蓄積・処理」の役割を担っている。
我が国のデータセンターは、1960年代以降、金融機関等によるメインフレームの普及を受け、大型のコンピュータの設置場所として専用の電算センターを建設したことを起源としている。その後、1990年代のインターネットの普及、2010年代のクラウドサービスの拡大などを経て、その規模を拡大してきたが、これまでデータセンターは、「デジタル産業事業者が自らのビジネスを行うための施設」という位置づけであった。
一方で、デジタル化の進展に伴い、政府機関・事業者等が保有する個人情報・機微情報がデータセンターに格納されるようになるとともに、交通・医療・教育等の社会活動もデータに依存するようになっている。さらに、5G に代表される通信の高度化により、将来的には、自動運転や遠隔医療、遠隔教育、無人工場、無人農業等、人に依存しない通信が増加することが見込まれており、これまで以上にデータの蓄積・処理を行うデータセンターの役割が安全保障の観点からも重要になると見込まれる。
こうした社会のデジタル化によるデータの重要性の高まりを受け、データセンターを含め、5G 網、光ファイバ網、インターネットエクスチェンジ、海底ケーブル(陸揚局を含む)等について、単なる「デジタル産業のビジネスのための施設」から「社会生活を支えるデジタルインフラ」として位置づけを変更し、他のインフラと同様に、その安定的な運営に政府としても責任を持つ必要がある。
・データの量的・質的な変化
上記のデータセンターの重要性の高まりの裏付けとして、通信ネットワークの利用によるデータ量の変化が挙げられる。インターネット上のデータ流通量は、例年、年率2割程度で推移していたところ、新型コロナウイルス感染症の拡大による在宅時間の増加等を受け、足元の固定通信で2019年から2021年にかけて、約2倍に拡大している。また、同様に、移動通信についても約1.3倍の増加を見せている。
さらに、将来的なデータ量の増加を試算すると、今後10年間でデータ流通量が30倍に増加する。これまでのデータの流通は、主にデータの流通を人が指示・管理しているのに対し、今後は、自動運転の際に、自動車が衝突・渋滞回避のためにカメラ・GPS 等で収集したデータのやり取りを行ったり、自動工場において、産業用ロボットがコンベアで流れてくる製品の組立・溶接等を行うためにカメラ等で収集したデータを通信したりするなど、データ流通の主体が人以外にも広がっていくことが理由として考えられる。
また、量的な増加と共に、データの質的な重要性も高まっている。「データは21世紀の石油」とも言われるように、ビッグデータの収集とAI による分析により、将来予測など、現実世界において新たな価値創造が可能となっており、データの利活用が国の発展に大きな影響を与えることとなる。こうしたAIによるビッグデータの処理には高度なデータ処理機能が必要となり、例として、人間一人一人のDNA の違いをAI に学習・処理機能するには、数十万台分規模の家庭用PC が必要になるとの試算も存在し、データの処理を担うデータセンターの役割が重要になっている。
・データを巡る各国政府の対応
データの重要性の高まりを受け、各国がデータへの政府アクセスや自国内で発生するデータの保管義務の規律を強める動きが見られている。例として、中国では、データセキュリティ法等において、民間事業者の中国国内でのデータ保管義務・越境移転規制等が規定されている他、政府による民間事業者へのデータアクセスのリスクも懸念されている。また、フィリピンでは公的セクターに関するデータを自国内に留める旨の規制が行われるなど、分野を限定したデータ管理の動きもみられている。
我が国は、信頼によってデータの自由な流通を促進するDFFT(Data Free Flow with Trust)を推進しており、政府による民間事業者のデータの扱いについて、法的規制は行っていないものの、こうした海外政府のデータ管理の動きに対し、政府や自治体、事業者が保有する機微情報・個人情報を国内で適切に管理可能となるだけのデータセンターの量的な確保は必須であると言える。
・世界・日本のデータセンターの投資・立地状況
データ量の増大に伴い、世界的にデータセンターの投資は進んでおり、大規模データセンターの数は、2013年から約3倍に増加している。国別に見ると、米国が40%と最大で、次いで中国が10%、日本が7%となっている。特に、増加要因として顕著なのは、クラウドサービスの増加であり、クラウドサービスの世界的な支出は2009年時点では、ほぼゼロであったのに対し、2019年には、1000億ドルに達している。
また、立地状況に着目すると、米国はアッシュバーンに世界の7割のトラフィックが通っていると言われているが、100MW 級のデータセンターが存在する都市が10以上存在する状況となっている。また、中国では、北京・上海・深セン等にデータセンターが集積しているが、チベット自治区や貴州省等の郊外部に大規模データセンターの建設を進める動きも見られる。
我が国では、データセンターの6割超が東京近郊(神奈川・千葉・埼玉を含む)に存在している。さらに、上記のとおり、活発なデータセンター投資の流れを受け、投資額1000億円超のデータセンター新設計画が、報道ベースでも数件存在するものの、いずれも東京近郊が中心となっている。また、投資案件の半数以上が外資のハイパースケーラー向けものとなっている。
・データセンターの一極集中の問題点
上記のとおり、我が国は、米国・中国と比べても、データセンターの一極集中が顕著である。これによる弊害は、主に、①災害時のレジリエンス、②再生可能エネルギー等の利用の非効率、③通信ネットワークの非効率の3点の問題があると考えられる。
まず、データセンターが東京圏に集中していることにより、広範囲で被災した際の被害が重篤となる。データの処理を行うデータセンターが東京に集中していることから、被災した東京だけでなく、地方のデータ処理も滞る可能性が高く、我が国全体の通信が困難になるリスクや、金融、医療、交通、政府・行政サービス等の重要インフラが正常に機能しなくなるリスクが存在する。このように、通信の安定の重要性が高まる中、災害時のレジリエンス強化のためにも、データセンターの分散が必要となると考えられる。
次に、データセンターは、電力消費の大きな施設であり、すでに我が国全体の電力の1~2%程度をデータセンターで消費していると言われている。今後、データセンターの更なる増加が見込まれる中、データセンター自体の省エネを進めるとともに、地方で生まれる再生可能エネルギー等を十分に活用し、国全体としてエネルギーを効率的に利用することが必要となる。
最後に、通信ネットワークの非効率の問題が存在する。上記のとおり、平時においても、地方で生まれるデータは、地方内で処理が完結せず、東京圏・大阪圏のデータセンター集積地でデータ処理し、その結果が地方に戻っていく場合が多い。こうした通信ネットワークの非効率を解消するために、地方で生まれたデータを地方で処理できるよう、データセンターの分散を図る必要がある。
・データセンターと海底ケーブル、インターネットエクスチェンジの関係
海底ケーブルは、海底に敷設される通信用の光ファイバケーブルで、特に海外からのデータ流通の99%以上を行っている。また、インターネットエクスチェンジは、インターネットサービスプロバイダの相互接続点である。データの蓄積・処理を担うデータセンターとともに、それぞれデータの伝送・ネットワークの接続を担い、デジタルインフラとして重要性を増している。
データセンターと海底ケーブル・インターネットエクスチェンジの機能はデジタルインフラとして一体的に機能することから、データセンターとともに、我が国の海底ケーブルの陸揚げ局、インターネットエクスチェンジも東京圏に集中している。また、グローバルプレーヤーは、日本のみのビジネスを志向しているのではなく、日本のデータセンターをアジア圏の一部としてとらえていることから、データセンターの最適配置を考える際には、海外接続する海底ケーブル・インターネットエクスチェンジの立地についても、併せて考慮する必要がある。
2.地方のデータセンター拠点設置の論点
・地方データセンターの特徴
2010 年代に、地方においてデータセンター立地を設置・誘致したものの経営難となった事例が存在する。その要因を分析すると、①地元自治体・事業者からのデータを需要として見込んでいたものの、クラウドサービスの普及により、利用が伸び悩んだ、②当初想定していた利用者が不況となった等、想定していた程の需要が生じなかったことが要因と考えられる。
一方、地方に設置したデータセンターであっても成功している事例は存在し、それらの特徴として、自らクラウドサービス等のデータセンターを活用する事業者がデータセンターを運営しており、需要が確保されていることが挙げられる。
こうした過去の事例を教訓とし、地方データセンターの拠点整備を検討する必要がある。
・東京郊外の大規模データセンター集積地の特徴
現在、「データセンター銀座」として国内外からの投資が進む印西は、1990 年代後半から都市銀行や企業のデータセンターが設置され、電力・通信インフラが整っており、2011 年にColt(英)がインフラに着眼してデータセンターを相次ぎ設置。これがさらに呼び水となり、2019 年以降のデータセンターの建設ラッシュにおいて集積する要因になっている。同様に、三鷹市、多摩市・府中市等も以前から金融系・通信系のデータセンターが存在し、電力・通信インフラが整備されていたことが、データセンターが集積する要因となっている。
上記の事例を鑑みれば、データセンター最適立地の最終目標を達成するためには、まずは拠点の「核」となるデータセンターとともに、巨額な費用と時間を要する電力・通信インフラの整備が不可欠であると考えられる。
・運営コスト
データセンターの運営コストを見ると、電気料が25%、減価償却費・修繕費・外注・委託費等の設備関係コストが50%と大きな割合を占めており、安価な電力は、地方にデータセンターを設置する大きなインセンティブになると考えられる。また、長期の収益を見込んで投資決定を行っていることから、初期コストの低下を行うことは事業者にとってメリットが大きい。
・データセンターと街作り
データセンターは、常駐する職員は少人数であるものの、メンテナンス等で頻繁に人の往来が発生することから、交通の利便性の良い場所に設置することが望ましい。このため、データセンターの設置にあたり、地域住民の理解を得ることが重要である。
事業者においても、データセンターと住環境の整備や、データセンターと物流拠点の併設、また地域住民との交流の機会を設ける等の工夫を行っている。また、地方自治体においても、寒冷地において地域の特色を生かしたデータセンターの設置やデータセンターと大学・研究機関・工業団地とのコラボレーションなどを行っている事例が存在する。
今後、データセンターの拠点整備に当たっては、地域に対するメリットや地域の特性を生かした取組についても一定の配慮を行うことが適当と考えられる。
3.拠点データセンター整備に当たって重視する事項
拠点データセンターの設置に当たっては、事業者の目線では、岩盤の強さ(災害の強さ)、電源の確保、都心(データ需要地)からの距離、ネットワーク(海底ケーブル・光ファイバ)の充実等が候補地選定の要件となっている。国際的にデータセンターへの投資が活況となっており、日本への投資意欲を示す海外企業も多数存在する現状を踏まえれば、データセンターの拠点設置に当たっては、こうした企業の投資を取り込むことが重要であり、企業の選好を十分に勘案する必要がある。
一方で、国全体の最適配置を考えた場合には、事業者が考える要件と共に、上記の「一極化による問題点」を解消することを目標とすることが適当と考えられる。すなわち、①災害時のレジリエンス強化(災害時でも我が国全体の通信の途絶が最小限に抑えられること)、②地方の再生可能エネルギー等を効率的に利用可能であること、③地方で生まれるデータを「地産地消」で処理できるよう通信ネットワーク等が効率化されていること、の3点を満たすことを、我が国のデータセンターの最適配置を実現する拠点に求める要件とすることとして、以下、各項目について検討を行う。
・レジリエンス強化
多くの場合、データセンターは、顧客からのデータを預かるビジネスモデルであり、災害等によるデータ消失のリスクがないよう、地盤の強固な場所に設置されることが多く、また、建物自身も堅牢な構造となっている。実際、東日本大震災においても、データセンターは、内部のラックの転倒等が数件確認されたのみとなっている。逆に、燃料供給事業者との間で「災害時優先供給契約」を締結していたにも関わらず、燃料確保が困難であったと言った指摘が存在した。
このように、データセンター自身に被害がなくとも、電力網・通信網の断絶などにより、データセンターの機能が損なわれるリスクが存在することから、データセンターを分散化させることは重要である。具体的にどの程度の距離を設けることが適当かについて、科学的な検証に基づく明確な指標は存在しないが、広域災害時において「共倒れ」とならないだけの距離を設けることが望ましいと考えられる。
また、拠点データセンターについては、東京で行っているデータ処理の一部を担うことにより我が国全体のレジリエンス強化に資する程度の規模であることが望ましい。近年の大規模データセンターの投資状況を見ると、1つの地点に、複数の事業者が共同で出資を行い、10ha 程度の面積を占めるケースがみられることから、将来的な拡張可能性も含めて、10ha(一の土地、または一の集積エリア(概ね数km 四方))の面積を占めることを目安として、拠点の規模を求めることとする。
・再生可能エネルギー等の効率的活用
上記のとおり、データセンターは電力消費の大きな設備である。半導体の効率化やオール光ネットワーク等、データセンターのエネルギー利用の効率化に向けた研究開発は進展しているが、データ処理量の増加により、全体としてエネルギー消費量の増加が見込まれる。なお、業務用アプリケーションを各組織が所有するオンプレミス型から、クラウド型に移行することにより、約77%のエネルギー消費量を削減できたとの調査結果も存在する。また、世界のハイパースケーラーはカーボンフリーエネルギーの活用に関心を高めており、「アジアのデータセンターハブ」として、グローバルプレーヤーを呼び込む上でも、再生可能エネルギーの活用を進めることは重要である。
再生可能エネルギーの利用にあたって、まず考えられることは、再生可能エネルギーが大量に生産される地域にデータセンターを設置することである。現在、需給バランス制約による再生可能エネルギーの出力制御は、九州エリアのみで行われているが、将来的な出力制御の可能性も含めると、北海道や東北等も有力な候補となりえる。こうしたエリアでは出力制御の低減に向けた取り組みが進められていることから、電力消費の大きなデータセンターを設置することは、データセンターの再生可能エネルギー利用拡大だけでなく、我が国のエネルギーの効率的な利用にも資すると考えられる。ただ、24時間、365日の安定的な運営が求められるデータセンターにおいて、太陽光・風力発電等の自然変動電源により供給される電力を、より安定的に最大限活用する観点から、蓄電池の導入などについても併せて検討を行う必要がある。
また、特定の需要家の需要を満たすために発電事業者等が設置した発電所で発電した電気の供給を受ける契約方式を活用した電気の利用も考えられる。再生可能エネルギーを求める需要家と再エネ発電事業者が、小売電気事業者を介して、長期に受電する契約を締結し、当該再エネ発電所が生み出す電気を直接調達するビジネスモデルの事例が拡大しつつあり、データセンターにおいても追加性のある再生可能エネルギーの調達の拡大が期待される。
・通信ネットワーク等の効率化
現在は地方で生まれ、その地方で利用されるデータでも、データセンター、インターネットエクスチェンジの集積する東京で処理される場合が多い。これは、集積による効率向上を受けた市場原理に基づくものであるが、災害時のリスクが大きく、改善が必要な状況と考えられる。
具体的は、①地方で生まれるデータが地方で処理されるよう規模の大きなデータセンター等が立地して大きな「拠点」となること、②インターネットサービスプロバイダの相互接続点であるインターネットエクスチェンジが地方に立地し、そこに接続するインターネットサービスプロバイダやコンテンツプロバイダが複数存在すること、③地方の通信網の強靭化を図ること、の3点が必要と考えられる。データセンターのみが存在しても、通信網が無ければ、「ただの箱」になってしまう一方で、接続・通信するデータが無ければ、インターネットエクスチェンジや通信網も無用であることから、①と②・③は同じエリアに整備することが必要になる。
民間のビジネスベースでこれら3点を同時に満たすことは困難と考えられるため、政府としても必要な財政措置を行いつつ、事業者の投資活動を促進していく。
・まとめ
以上の論点をまとめると、拠点データセンター整備に当たって重視する事項は以下の通
り。
- 広域災害時において「共倒れ」とならないだけの距離を設けること
- 将来的な拡張可能性も含め、1つの地点に、単独又は複数の事業者が共同で出資を行い、10ha 程度(一の土地、または一の集積エリア(概ね数km 四方))の面積を占めること
- 再生可能エネルギーが大量に生産される地域へのデータセンター設置や、自家消費型や長期契約による調達など追加性のある再生可能エネルギーの活用を行うこと
- 地方で生まれるデータが地方で処理されるよう、規模の大きなデータセンターや国内・国際海底ケーブル等が地方に立地して「拠点」となること
- インターネットサービスプロバイダの相互接続点であるインターネットエクスチェンジの設置及びそこに接続するインターネットプロバイダやコンテンツプロバイダが複数存在すること
- 上記に加え、岩盤の強さ(災害の強さ)、電源の確保、データ需要地からの距離、ネットワーク(海底ケーブル・光ファイバ)の充実等、民間事業者の選好を勘案し、ビジネスベースで運営が可能であること
4.デジタルインフラ整備の青写真
・行政と民間の役割分担
データセンターは、「社会生活を支えるデジタルインフラ」として重要性が高まっているものの、基本的には、民間事業者によるビジネスとして運営されるべき施設であり、設置主体はあくまで民間事業者であるべきと考える。その上で、政府として、国全体のレジリエンス強化、エネルギー利用の効率化、通信ネットワーク等の効率化等の観点で、地方のデータセンター拠点を促すためには、通常の経営判断として、採算が合わない部分について、財政的な支援を行うとともに、制度的な不備について不断の見直しを行うことが適当である。さらに、現在、国・地方のデータのクラウド活用の検討が進められているところ、当該クラウドサービスについて、地方のデータセンターの活用も検討する。
また、地方公共団体は、データセンター設置に当たって、各種許認可を行う主体であるとともに、地域住民にデータセンターの意義を理解していただく上でハブとなる存在である。現在、複数の地方公共団体がデータセンターの誘致を表明するなど、前向きな姿勢を示しているが、データセンターが長期にわたって地元に根差すよう、継続的な対応が求められる。また、政府からも地方公共団体に対して、データセンター設置・運営の意義を説明する必要があるとともに、データセンターの立地にあたっては地方公共団体による街づくりとの連携を図ることも重要である。
・拠点データセンターと分散型データセンター(モバイルエッジコンピューティング)今後、爆発的に増加するデータを蓄積・処理するためには、巨大なデータ処理・蓄積を可能とする大型データセンター等の立地によることが効率的であり、現在、建設の主流になっているのは、大型データセンターとなっている。データセンターの最適配置を考えると、こうした大型データセンターによる「拠点」を東京圏・大阪圏とともに新たな拠点を設置することが重要である。
一方で、5G によって実現が期待される自動走行、遠隔医療、無人工場・無人農業、e スポーツ等といった技術には、データの発生からデータの処理・応答までを10~100ミリ秒程度で行うことが必要であるものの、仮に東京で発生するデータを大阪のデータセンターで処理した場合、通信だけで50ミリ秒もの時間を要してしまう。そのため、データの発生地点(端末)の近くにサーバーを分散配置する、モバイルエッジコンピューティング(MEC)が必要であり、「分散型」のデータセンターの設置が必要である。
・デジタルインフラ整備に係る青写真
上記の拠点データセンターと分散型データセンターは、それぞれの異なる役割を担っており、自動走行などのサービスを実現するためには、自動走行等によって生じる大量のデータを蓄積し高度な処理を行う拠点データセンターが必要であるとともに、データの発生からの応答速度を短縮するための分散型データセンターの双方が必要となる。
一方で、整備に要する時間を考えると、拠点データセンターの整備は、大量のデータを処理するための電力網・通信網といったインフラを整備するだけで数年程度の期間を要するが、分散型データセンターは、処理するデータ量自体はそれほど大きくないため、既存のビルを用いて比較的短期間に設置が可能であると考えられ、分散型データセンターを必要とする自動走行等のサービスの展開状況を踏まえつつ、実装していくことが適当である。
また、自動走行等のサービスを実現するためのカギとなるのは5G 通信である。我が国においては、5G のサービス自体は、2020年から始まっているものの、当初は、5G の「高速大容量・超低遅延・多数同時接続」の3つの特性のうち、高速大容量のサービスが先行している状況である。自動走行等を実現するためには、残り2つの超低遅延・多数同時接続が社会実装されることが必要である。この超低遅延・多数同時接続を最大限発揮するための「コアネットワーク」の導入は、各携帯キャリアは、2021年後半から2022年に開始すると発表しているが、全国に普及するには少なくとも2-3年程度はかかることが見込まれる。また、自動運転や遠隔医療のように高い安全性能が求められるサービスは、5G技術だけでなく、他の技術も含めて実証等も必要になることから、実際に自動運転等が普及するのは2025年以降となると考えられる。
そのため、データセンターの整備を必要となる時間軸とともに考えた場合、まずは拠点データセンターの整備を先行し、分散型データセンターは、それを必要となるサービスの実装に合わせて整備していくことが適当と考えられる。
5.今後のアクション
・拠点データセンター整備
データセンターは大量に電力を消費する施設であり、また、大量のデータのやり取りするネットワークを必要とする。実際、東京郊外のデータセンター集積の事例を見ると、電力・通信インフラが整備されていたことが、新たなデータセンターの設置につながっている。逆に、地方に新規にデータセンターの拠点を設置する場合、電力・通信インフラ整備として、東京圏等の既存の集積地に増設する場合と比すると、特別高圧の引込み等にかかる費用として、数十~数百億円もののコストが追加的に発生する。こうした費用について、一定程度、財政支援を行うことが適当と考えられる。
また、拠点データセンターの新規設置に、各種許認可や地方住民への理解等において、地方自治体の役割は重要であり、事業者がビジネスベースで運営可能であることが前提であることを踏まえつつ、データセンターの拠点に前向きな自治体を募集・意見交換を行い、拠点立地の考え方をとりまとめた上で、データセンターを設置する事業者を募り、新規拠点の整備を行うこととする。
また、長期の収益を見込んで投資決定を行っているため、初期投資の負担が大きくなることから、東京圏以外の既整備エリアのデータセンターの設置に当たっては、データ需要を勘案しつつ、初期投資の支援を行うことで、速やかに増強を図る。
さらに、データセンターはそれ自体では「ただの箱」であり、インターネットサービスプロバイダによるデータを相互接続するインターネットエクスチェンジや、データを伝送する海底ケーブルと連携して機能するため、これらと併せて整備する必要がある。これらの整備を事業者のみに負担させることは地方へのデータセンター設置の大きな障害であり、一定の負担軽減措置を実施する。
・国内・国際海底ケーブルの敷設
データの保存処理等を行うデータセンターの拠点を、日本を周回する国内海底ケーブルや日本に接続する国際海底ケーブルでつなぐため、現在敷設されていない日本海側の国内海底ケーブルなど、補完性の高い海底ケーブル網を整備するとともに、国際海底ケーブルの陸揚げポイントの適切な地方立地を推進する。
これにより、東京圏以外のデータセンターやインターネットエクスチェンジの地方立地も相まって、①データ・トラヒック急増への対応のために必要な基幹通信網を増強、②陸上伝送路と合わせて冗長性等を向上し、他経路の障害発生時にも「途切れない」通信環境の推進、③地方データセンター拠点の新設、既整備エリアへのデータセンター等立地促進と連動した地方のデジタル実装の加速を実現する。
・国・地方のクラウド利用における地方データセンター活用
今後、国・地方含め、データのクラウド利用を進めていくところ、当該クラウドを格納するデータセンターが災害等によって機能が損なわれた場合、行政機能の停滞を招く恐れがある。行政機能のレジリエンス強化の観点から、また、国・地方のクラウド利用における地方データセンターの活用は、国・地方のクラウド利用におけるデータセンターの運営に不可欠なデータ需要の創出の観点からも有効であり、クラウド利用の際に、物理的なセキュリティにも考慮しつつ、地方データセンターの活用について、政府内で検討を行う。
6.今後検討すべき事項
データセンターの設置に当たり、許認可等で時間を要すると、その期間は操業した場合と比してコストとなる。これは、「アジアのデータセンターのハブ」として海外事業者のデータセンターの誘致を行う上で大きなデメリットであり、各規制の目的等を勘案しつつ、可能なものについては、規制の改正、運用の見直しを行う必要がある。
また、データセンター拠点の地方立地支援を行うことは、デジタルインフラ整備に一定の意義があるものの、データセンターは設置後、20-30年に渡って利用される施設であり、ビジネスベースで運営が進むことを前提としつつ、政府・自治体としても、データセンターをはじめとするデジタルインフラの整備について、一過性でなく、継続的な取組が必要である。
また、4.で示したデジタルインフラの整備に向けた時間軸(青写真)について、国がデジタルインフラの整備を計画的に行っていくことを、分かりやすく提示する観点から、新サービスの導入に向けた技術開発・機器配備の進展・規制の見直し等の不確定要素を踏まえつつ、将来予測の詳細化・具体化を図っていく。
参照
総務省トップ > 広報・報道 > 報道資料一覧 > 「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合中間とりまとめ」の公表