新型コロナウイルスを契機に、改めて治療や予防において医薬品の重要性は広く再認識されたことでしょう。
いっぽう、医薬品は医療に欠かすことのできない存在ですが、適正に使用されなかったら逆の効果をもたらしかねません。
医薬品は、適正使用されることにより、その医薬品の真価が発揮され、多くの人々の健康状態の改善に役立つことが出来ます。
この「適正使用」という表現はどうも業界特有の表現で馴染みの薄い人もいるかも知れませんが、いたって普通のことを述べています。
要するに「説明書通りに使やないと事故が置きかねない」ということですね。
医薬品を正しく使うか、誤って使うかは、使われた患者さんの命を左右しかねません。
副作用、薬剤の取り違え、過量投与、併用禁忌など、医薬品には気を付けなければならないことが山のようにあります。
医薬品を使うことで、患者さんの状態が良くなることもあれば、使いかた次第では状態の悪化を招いたり、命の危機に繋がりかねないこともあり得ます。
適切な患者さんに、適切なタイミングで、適切な薬剤を、適切な量使うというのは、基本中の基本ではありますが、簡単なようで簡単ではないことも珍しくありません。
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薬害とは
医薬品による重大な健康被害が社会問題になるほど拡大した場合、その一連の問題は「薬害」と呼ばれるようになります。
日本においては、様々な薬害が起きています。
その一例を以下に挙げてみましょう。
- サリドマイドによる催奇形性の問題
- キノホルムによるスモンの問題
- ソリブジンとフルオロウラシル系抗がん薬との併用による血液障害の問題
- 製品のウイルス汚染による後天性免疫不全症候群(AIDS)や肝炎の問題
- 製品のプリオン汚染によるクロイツフェルト・ヤコブ病の問題
ここでは、ソリブジン事件について概要をご紹介します。
ソリブジン事件
ソリブジン事件とは、「ソリブジンとフルオロウラシル系抗がん薬との併用による血液障害」による薬害事件です。
帯状疱疹を効能とした薬剤「ソリブジン」の発売後間もなく、フルオロウラシル系抗がん薬との相互作用による死亡例が多数報告されました。
新薬開発のための臨床試験では、得られる情報も限られているので、臨床現場で使われ始めたときのことをすべて予見するのは難しいのは事実です。
ですが、このソリブジン事件では少し状況が異なっていました。
実は、ソリブジンとフルオロウラシル系抗がん薬との併用による副作用の情報は、創薬段階である程度予見されていたのです。
予見されていたにも関わらず、適切な安全対策がとられていなかった点が、ソリブジン「事件」として、薬害と言われる所以です。
また、死亡例が報告された後の「情報伝達」の部分も問題に拍車をかけました。
情報伝達の遅れにより、相互作用による被害が拡大してしまったという側面がありました。
このソリブジン事件は、医薬品の安全性について「持っている情報をもとにしたリスク評価」と「情報伝達のスピード」の重要性を世に知らしめることになりました。
ファーマコビジランス
前述の通り、承認前の臨床試験は限られた被験者を対象としているがゆえに、臨床現場で広く多様な患者さん達に使われた場合のすべてのケースを予見出来てはいません。
そのため、医薬品が使われ始めた後(よく、製造販売後、などと言われます)の情報収集が非常に重要になります。
どんな情報を収集するかは薬剤や疾患ごとに変わりますが、大きくは「健康被害は起きていないか」「想定外の使われ方をしていないか」といった観点から情報収集が行われるのが一般的でしょう。
そして、収集された情報をもとに、「新たに明らかになったリスクを周知」したり、「危険な使い方にならないよう注意喚起」したり、といった取り組みがなされます。
行政からも、医薬品のリスク管理に関する指針として、2012年に「医薬品リスク管理計画指針」が発出されているので、より深く学びたい方は実際の文書を読んでみてください。
なお、少々歴史的な背景にはなりますが、「医薬品リスク管理計画指針」は、2005年の「医薬品安全性監視計画」と「リスク最小化計画」に関する指針を統合したものになります。
医薬品安全性監視は、世界的には「ファーマコビジランス」と呼ばれます。
世界保健機関(WHO)は、ファーマコビジランスを「医薬品の有害な作用または医薬品に関連するその他の問題の検出・評価・理解・予防に関する科学と活動」と定義しており、その重要性は世界的に認識されています。
医薬品は「知の結晶」のような表現をされることがありますが、その「知の結晶」は、世に出たあとに集まる情報によって一層洗練されて行くことになります。
当然ながら、放って置いて勝手に洗練されるわけではなく、多くの関係者の不断の努力により、その「知の結晶」は保たれています。
まとめ
今回は「医薬品の適正使用と薬害」というテーマで、日本で起きた薬害と、適正使用の意義についてご紹介しました。
ここでお示ししたのは極一部に過ぎないので、興味のある方はこのページのキーワードをもとにご自身でも調べてみると様々な発見があるでしょう。