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次世代CAR細胞。CAR-NK細胞が拓くoff-the-shelf(既製品)の道

2025年7月23日

がん治療の歴史において、一つの大きな転換点となった技術があります。それが、CD19という特定の目印を持つがん細胞を標的とする、キメラ抗原受容体導入T細胞、すなわちCAR-T細胞療法です。この治療法は、患者さん自身の免疫細胞であるT細胞を取り出し、遺伝子改変技術によってがん細胞を見つけ出して攻撃する能力を付与し、再び体内に戻すという「生きた薬」です。特に、治療が困難であった再発または難治性の急性リンパ性白血病やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫といった血液がんの患者さんにとって、この治療法の登場はまさに革命的でした 1

これまでの臨床研究では、他の治療法が尽きた患者さんにおいて、70パーセントから90パーセントという確率でがんが寛解、つまり見かけ上消滅する状態に至ることが報告されています 1。この効果は、遺伝子改変した免疫細胞が持つ治療ポテンシャルの大きさを世界に示しました。しかし、この輝かしい成功の影で、個別化医療であるがゆえの課題も次々と明らかになってきました。高い費用、複雑な製造・輸送プロセス、そして重篤な副作用といった問題は、この画期的な治療法を誰もが受けられるものにする上で、大きな壁として立ちはだかっています。

科学者や医師たちは、これらの課題を乗り越えるため、次なる一歩を踏み出しました。それが、より普遍的で、いつでも誰にでも使える「既製品」、すなわち同種細胞を用いた治療法の開発です。本稿では、まず自家CAR-T細胞療法が直面した課題を詳しく解説し、それを解決するための新たな希望として登場した同種CAR細胞療法、特にその中でも大きな期待が寄せられているCAR-NK細胞療法を中心に、その現状と未来への展望を、皆さんと一緒に見ていきたいと思います。

個別化医療が直面する壁:自家CAR-T細胞療法の課題

CAR-T細胞療法は、個別化医療の典型例とも言える治療法ですが、その個別化という性質そのものが、普及を妨げるいくつかの大きな課題を生み出しています。ここでは、その代表的な4つの課題について、一つひとつ詳しく見ていきましょう。

個人向け治療の費用

自家CAR-T細胞療法の最も大きな障壁の一つは、その費用です。日本に限らず、米国など他国でもその価格についてメディア等で取り上げられてきました。

治療全体として、T細胞を採取するためのアフェレーシスという処置、治療期間中の入院費用、専門的な知識を持つ医療スタッフの育成、そして後述する重篤な副作用が発生した場合の集中治療など、治療薬に加えて様々な付随的コストが発生します 11。これらの費用は、患者さんやそのご家族にとってもアクセスを困難にする要因となっています 12

「vein-to-vein」の長い道のり:複雑なロジスティクス

自家CAR-T細胞療法のプロセスは、非常に複雑で時間がかかります 15。この一連の流れは、患者さんの血管(vein)から細胞を採取し、再び血管に戻すまでを指して「vein-to-vein」タイムと呼ばれています。まず、認定された医療機関で患者さんからアフェレーシスによってT細胞を採取します。次に、採取された細胞は凍結保存され、厳格な管理のもとで専門の細胞製造施設へ輸送されます。施設では、数週間かけてT細胞にCAR遺伝子を導入し、治療に必要な数まで増殖させます。そして最後に、完成したCAR-T細胞製剤が再び医療機関へ輸送され、患者さんに投与されるのです。

この製造にかかる数週間の待機期間は、患者さんにとって非常に危険な時間となり得ます。その間に病状が進行してしまう可能性があるため、多くの場合、病気の進行を抑えるための「ブリッジング化学療法」と呼ばれる追加の治療が必要になります 12。さらに、この治療法は社会的な負担も大きいのが実情です。治療期間中、患者さんには常に付き添う介護者が不可欠とされており、地方に住んでいる患者さんや社会的な支援が限られている方にとっては、専門の治療センターの近くに長期間滞在すること自体が大きな困難となります 12

生きた薬を製造する際の不確実性

自家CAR-T細胞療法に特有の課題として、「製造失敗」のリスクが挙げられます 17。これは、患者さん自身の細胞を原料とするために起こる問題です。臨床試験の報告によると、製造失敗の割合は数パーセントから、リンパ腫の研究では14パーセント、あるいは25パーセントに達することもあります 18

この製造失敗の主な原因は、原料となるT細胞の品質にあります。多くの患者さんは、CAR-T細胞療法を受ける前に、何度も強力な化学療法を受けています。これらの先行治療は、がん細胞だけでなく、正常な免疫細胞であるT細胞にもダメージを与えてしまいます。その結果、採取されたT細胞が疲弊しており、製造工程で十分に増殖しなかったり、最終的な製品の品質基準を満たせなかったりするのです 18

この点は、単なる技術的な問題にとどまりません。実は、製造の成否は、その後の治療効果を占う重要な指標にもなり得るのです。ある研究では、最初の細胞採取で製造に失敗し、二度目の採取が必要となった患者さんは、一度で成功した患者さんと比較して、その後の無増悪生存期間や全生存期間が有意に短いことが示されました 22。これは、製造が失敗するという事実そのものが、患者さんのT細胞が著しく弱っていること、つまり、それだけ病状が進行し、多くの治療を受けてきたことの現れであることを示唆します。最も治療を必要としている重症の患者さんほど、質の高い治療薬を製造することが難しくなるという、この治療法が抱える根本的なジレンマがここにあります。このことから、患者さん自身の健康状態に左右されない、健康なドナー由来の細胞源の必要性が示唆されるのです。

免疫関連の副作用

CAR-T細胞療法は、その効果と引き換えに、時に副作用を引き起こす可能性があります。その代表的なものが「サイトカイン放出症候群(CRS)」と「免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)」です。

サイトカイン放出症候群は、体内に投与されたCAR-T細胞ががん細胞を攻撃する際に、大量のサイトカインという情報伝達物質を放出することで引き起こされる、過剰な免疫反応です。高熱、血圧低下、呼吸困難、臓器不全などを引き起こすことがあります 1

一方、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群は、脳に影響を及ぼす副作用で、錯乱、失語症、けいれんなどを引き起こし、稀に脳浮腫によって死に至るケースも報告されています 1。これらの副作用は、専門施設での迅速な対応や治療薬の投与によって管理可能であることが多いですが、そのリスクがあるために厳重な入院管理が必要となり、治療全体のコストと複雑性を増大させる一因となっています 12。新しい世代のCAR-T細胞製剤では安全性が向上しているものの、依然として大きな懸念事項であることに変わりはありません 4

「既製品」という解決策:同種CAR細胞療法の登場

自家CAR-T細胞療法が抱える数々の課題は、科学者たちに新たな発想を促しました。それが、患者さん自身の細胞ではなく、健康なドナーから提供された細胞を用いる「同種」細胞療法です。このアプローチは、あらかじめ製造して冷凍保存しておくことで、必要な時にすぐに使える「off-the-shelf(既製品)」の治療薬を実現する可能性を秘めています 16

この「既製品」という視点は、自家CAR-T細胞療法の根本的な問題点を解決する可能性を持っています。まず、費用については、一人の健康なドナーから提供された細胞を元に、一度の製造プロセスで多数の患者さんを治療できる量の細胞製剤を作ることが可能になります。これにより、スケールメリットが働き、患者さん一人当たりのコストを大幅に削減できると期待されています 16

次に、ロジスティクスの問題です。治療薬がすでに製造・保管されていれば、患者さんが診断された後、数週間にわたる製造の待ち時間がなくなり、直ちに治療を開始できます。これにより、病状が進行するリスクや、その間のブリッジング化学療法の必要性もなくなります 16

製造上の課題も解決されます。若く健康なドナーから採取したT細胞は、質が高く均一で、増殖能力も旺盛です。これを原料とすることで、患者さんの健康状態に左右されることなく、安定した品質の治療薬を製造でき、製造失敗のリスクを劇的に減らすことができます 28。そして、製品の標準化が可能になることで、治療効果や安全性の予測がつきやすくなり、治療全体の信頼性が向上します 16

しかし、この同種細胞療法を実現するためには、新たな免疫学的な壁を乗り越える必要がありました。一つは、ドナー由来の免疫細胞が患者さんの体を「異物」と認識して攻撃してしまう「移植片対宿主病(GvHD)」です。もう一つは、逆に患者さんの免疫システムが、投与された治療用の細胞を「異物」として排除してしまう「宿主による拒絶反応」です 27

次は、これらの大きな課題を克服するために開発された技術について見ていきます。

普遍性を実現する技術:同種CAR-T細胞における主要なアプローチ

同種CAR-T細胞療法を安全かつ効果的に行うためには、GvHDと拒絶反応という二つの免疫学的な壁を乗り越える必要があります。そのために、最先端の科学技術を駆使した様々なアプローチが開発されています。

拒絶反応を乗り越える:TCRノックアウトCAR-T細胞

GvHDがなぜ起こるのか、そのメカニズムから見ていきましょう。T細胞の表面には、T細胞受容体(TCR)と呼ばれるセンサーが存在します。ドナー由来のT細胞に存在するこのTCRが、患者さんの細胞表面にあるHLA(ヒト白血球抗原)という「自己」を証明する目印を「非自己(異物)」と認識してしまうことで、攻撃が開始されます。これがGvHDの正体です 29

この問題を解決するために開発されたのが、遺伝子編集技術を用いてTCRを無力化するという画期的な方法です。TALENやCRISPR-Cas9といった「遺伝子のはさみ」と呼ばれるツールを使い、TCRを作り出す設計図であるTRACやTRBCといった遺伝子を正確に切断・破壊(ノックアウト)します 29。これにより、ドナーのT細胞はTCRを失い、患者さんの細胞を異物として認識する能力をなくします。いわば、攻撃命令を出すセンサーをオフにするようなものです。このTCRノックアウト技術を用いた同種CAR-T細胞の臨床試験では、実際にGvHDがほとんど、あるいは全く発生しないという非常に良好な安全性が報告されており、同種移植における大きなブレークスルーとなっています 29

無限の供給源を求めて:iPS細胞由来CAR-T細胞

もう一つの革新的なアプローチが、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を細胞源として利用する方法です 33。iPS細胞は、私たちの皮膚や血液などの体細胞から作ることができ、二つの能力を持っています。一つは、ほぼ無限に分裂して増え続ける能力(自己複製能)、もう一つは、T細胞を含む体のあらゆる細胞に変化する能力(多分化能)です。

このiPS細胞を用いた治療薬の製造プロセスは、これまでの細胞療法とは一線を画します。まず、一人の健康なドナーから採取した細胞で、高品質なiPS細胞株(マスターセルバンク)を一度だけ樹立します。そして、このiPS細胞の段階で、CAR遺伝子の導入や、必要であれば前述のTCRノックアウトなどの遺伝子改変をすべて済ませてしまうのです 37

この製造モデルは、細胞療法を従来の「個別医療サービス」から「医薬品」へと進化させる可能性を秘めています。

自家CAR-T療法は、患者さん一人ひとりに合わせたオーダーメイドの医療サービスです。健康なドナーの細胞を用いる同種療法でさえ、小ロット生産に近い形です。しかし、iPS細胞を用いることで、品質が完全に均一で、厳密な規格管理がなされたマスターセルバンクを確立できます 37。このマスターセルバンクは、再生可能な出発物質として機能し、工業的なスケールで完全に同一の製品を大量生産することを可能にします。このプロセスは、まさに従来の医薬品製造と同様のものであり、コスト、品質の安定性、そして世界中への供給という、細胞療法が抱える課題を解決するための鍵となります 33

こうして確立されたマスターセルバンクから、必要な時に必要なだけ、完全に均一なCAR-T細胞を分化誘導して製造することができます。これにより、すべての患者さんに、品質が保証された「off-the-shelf」の治療薬を安定的に供給するという、究極の目標が現実のものとなるのです 33

自然免疫の力を活用:CAR-NK細胞療法

これまで同種CAR-T細胞について見てきましたが、ここからは、もう一つの有望な選択肢、「CAR-NK細胞」について解説していきます。NK細胞は、T細胞とは異なる特性を持つ免疫細胞であり、その性質が同種細胞療法において大きな利点をもたらします。

ナチュラルキラー(NK)細胞が持つ固有の利点

NK細胞は、生まれつき体に備わっている免疫システム、すなわち「自然免疫」を担う主要なリンパ球の一種です 38。その名前が示す通り、がん細胞やウイルスに感染した細胞を「生まれながらにして殺す(Natural Killer)」能力を持っています。

このNK細胞が同種細胞療法において特に注目される理由は、主に二つあります。第一に、NK細胞はT細胞とは異なり、がん細胞を認識するのに事前の感作(学習)や、相手のHLA型が一致している必要がありません 39。そして第二に、これが最も重要な点ですが、NK細胞は原則としてGvHDを引き起こさないと考えられています 40。これは、ドナーから患者さんへNK細胞を移植しても、TCRノックアウトのような複雑な遺伝子編集を施す必要がないことを意味します。これにより、製造プロセスが簡略化され、治療全体の安全性も飛躍的に向上するのです。

治療用NK細胞の供給源とその特徴

CAR-NK細胞を製造するためには、いくつかの供給源が考えられます。それぞれの供給源には、利点と課題があります 44

一つ目は、健康なドナーの「末梢血(PB)」です。血液中からNK細胞を分離して使用します。これらの細胞は成熟しており、元々の攻撃能力が高いという利点がありますが、血液中に含まれるNK細胞の割合が低いため、十分な数を確保することが難しく、また体外での増殖や遺伝子導入が比較的困難であるという課題があります 38

二つ目は、「臍帯血(UCB)」です。出産時に得られるへその緒の血液には、NK細胞が豊富に含まれています。これらのNK細胞は末梢血由来のものよりも未熟ですが、非常に高い増殖能力を持っています。また、T細胞の含有量が少ないため、GvHDのリスクがさらに低いという利点もあります 39

三つ目は、「NK細胞株(例:NK-92)」です。これは、研究室で無限に増殖できるように樹立された細胞株です。安定して大量の細胞を供給できるという大きな利点がありますが、元々がん細胞由来の株であるため、患者さんの体内で増殖しないように、投与前に放射線を照射して増殖能力を止める必要があります。この処置により、体内での持続性が制限され、長期的な効果が弱まる可能性があります 45

そして四つ目が、「iPS細胞」です。CAR-T細胞の場合と同様に、iPS細胞はCAR-NK細胞の製造においても理想的な供給源と考えられています。均一で、品質が管理され、遺伝子改変も容易なiPS細胞から、CAR-NK細胞を大規模かつ安定的に製造する技術は、他の供給源が持つ課題の多くを克服できると期待されています 46

ここで重要なのは、「off-the-shelf」だからといって、どの製品も同じというわけではないという点です。ある臨床試験の追跡調査では、驚くべき結果が報告されました。使用された臍帯血の品質によって、治療成績に差が出たのです 48。採取後24時間以内に迅速に凍結保存され、不純物の少ない高品質な臍帯血から作られたCAR-NK細胞を投与された患者さんの1年後の無増悪生存率は69パーセントであったのに対し、そうでない臍帯血を用いた場合の生存率はわずか5パーセントでした。この事実は、同種細胞療法において、出発物質となる細胞の品質管理や供給プロセスの最適化が、CARの設計そのものと同じくらい、あるいはそれ以上に治療の成否を左右する重要な要素であることを示しています。

CAR-NK細胞製造における技術的課題の克服

これまでNK細胞は、T細胞と比較して体外での増殖が難しく、またCAR遺伝子を導入するためのウイルスベクターに対する抵抗性が高いため、遺伝子導入効率が低いという技術的な課題がありました 49。これが、CAR-NK細胞療法の開発がCAR-T細胞に比べて遅れた一因です。

しかし、近年の研究開発により、これらの課題は着実に克服されつつあります。培養技術の面では、フィーダー細胞と呼ばれる支持細胞や、IL-2、IL-15といったサイトカインを適切に組み合わせることで、NK細胞を臨床応用可能なレベルまで大量に増殖させるプロトコルが確立されてきました。また、遺伝子導入に関しても、より効率の高いウイルスベクターの開発や、エレクトロポレーション(電気穿孔法)といったウイルスを用いない新しい技術の導入により、CAR遺伝子の導入効率は大幅に改善されています 49

臨床現場におけるCAR-NK細胞:最新の治療成績

こうした技術的進歩を背景に、CD19を標的とするCAR-NK細胞の臨床試験が次々と行われ、有望な結果が報告されています 48

ある初期の臨床試験では、再発・難治性のB細胞性血液がんの患者さん11人に対し、臍帯血由来のCAR-NK細胞を投与したところ、8人、つまり73パーセントという高い割合で治療への反応が見られ、そのうち7人は完全寛解に至りました 53。別の試験では、高用量を投与された患者群において、70パーセントが完全寛解を達成したと報告されています 54

しかし、これらの結果の中で最も注目すべきは、その安全性です。自家CAR-T療法で問題となる重篤な副作用、すなわちサイトカイン放出症候群(CRS)や神経毒性(ICANS)、そして同種移植で懸念されるGvHDが、これまでのCAR-NK細胞の臨床試験では、重症例として報告されていないのです 48

この安全性は、単なる治療成績の改善以上の意味を持っています。CAR-T療法が抱える副作用のリスクは、専門的な設備と人員が整った大病院での入院管理を必須とします。これが、治療費に反映され、アクセスを制限する最大の要因の一つでした 12

CAR-NK細胞療法が持つ安全性プロファイルは、この構造を変える可能性を秘めています。実際に、ある試験では、安全性の高さから外来での治療が可能であったと報告されています 53。これは、治療にかかる総費用を削減し、患者さんが自宅の近くの一般的ながん治療施設で高度な細胞療法を受けられるようになる未来を示唆しています。つまり、CAR-NK細胞の安全性こそが、細胞免疫療法を一部の専門施設から、より多くの患者さんの元へ届けるための鍵となるのです。

この結果を受け、CAR-NK細胞療法のプラットフォームは、現在、急性骨髄性白血病や固形がんなど、他のがん種を対象とした治療法へと応用範囲を広げており、世界中で複数の臨床試験が進行中です 56

まとめ:同種細胞療法のこれから

本稿では、がん免疫療法の世界に革命をもたらした自家CAR-T細胞療法から、その課題を克服すべく登場した同種細胞療法、特にCAR-NK細胞に焦点を当てて解説してきました。自家CAR-T療法が個別化医療の大きな一歩であったことは間違いありません。しかし、その実用上の限界が、次世代の「off-the-shelf」治療法の開発を加速させました。

現在、私たちの手元には、同種細胞療法を実現するための多様な選択肢があります。TCRをノックアウトしたCAR-T細胞、iPS細胞から作製されるCAR-T細胞、そしてCAR-NK細胞。これらは互いに競合するものではなく、それぞれに長所と短所を持つ、いわば多様な「ツールキット」と考えるべきでしょう。

このツールキットの中での選択は、治療効果、安全性、そして技術的な成熟度の間のトレードオフを考慮することになります。TCRノックアウトCAR-T細胞は、T細胞が持つ強力な殺傷能力と体内での持続性という実績ある利点を活用できますが、GvHDを防ぐための高度な遺伝子編集が不可欠です 21

一方、CAR-NK細胞は、GvHDのリスクがなく、CRSなどの副作用も極めて少ないという、本質的に優れた安全性を提供しますが、T細胞とは異なる生物学的特性を持つため、その体内動態や長期的な効果については、さらなるデータの蓄積が待たれます 43

そして、iPS細胞を用いたプラットフォームは、T細胞、NK細胞のどちらにも応用可能であり、製造面における究極の解決策を提供しますが、最も新しい技術であるため、長期的な安全性など、まだ解明すべき点も残されています 37

将来的には、がんの種類、患者さんの状態、そして求める治療効果と安全性のバランスに応じて、最適なプラットフォームが選択される時代が来るのかもしれません。

これらの同種アプローチ、とりわけ安全性と有効性のバランスが期待されるCAR-NK細胞療法は、細胞免疫療法を、標準化され、適切な価格で、そして世界中のどこでも利用可能な治療法へと変えていく大きな可能性を秘めています。それは、この医療革命がもたらした希望を、一部の患者さんだけでなく、それを必要とするすべての人々へと届けるための、新たな未来を切り拓くものとなるでしょう。

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  48. CD19-targeted CAR NK cell therapy achieves promising one-year results in patients with B-cell malignancies | MD Anderson Cancer Center, https://www.mdanderson.org/newsroom/cd19-targeted-car-nk-cell-therapy-achieves-promising-one-year-results-patients-B-cell-malignancies.h00-159694389.html
  49. Application and prospects of genetic engineering in CAR-NK cell therapy - Frontiers, https://www.frontiersin.org/journals/immunology/articles/10.3389/fimmu.2025.1600411/epub
  50. Optimized expansion and transduction protocol for primary human CAR-NK cell manufacturing - ASTCT, https://www.astct.org/Nucleus/Article/optimized-expansion-and-transduction-protocol-for-primary-human-car-nk-cell-manufacturing
  51. CAR-NK細胞療法研究が急速発展を遂げている理由 | Community>Newsletters - サイヤジェン, https://www.cyagen.jp/community/newsletters/car-nk-cell-research.html
  52. 他家CAR-NK細胞療法の現状と課題 - J-Stage, https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinketsu/65/7/65_668/_article/-char/ja/
  53. CD19 CAR NK-cell therapy achieves 73% response rate in patients with leukemia and lymphoma | MD Anderson Cancer Center, https://www.mdanderson.org/newsroom/cd19-car-nk-cell-therapy-achieves-73-percent-response-rate-in-patients-with-leukemia-and-lymphoma.h00-159379578.html
  54. Nkarta Announces Updated Clinical Data on Anti-CD19 Allogeneic CAR-NK Cell Therapy NKX019 for Patients with Relapsed or Refractory Non-Hodgkin Lymphoma, https://ir.nkartatx.com/news-releases/news-release-details/nkarta-announces-updated-clinical-data-anti-cd19-allogeneic-car/
  55. B細胞性悪性腫瘍のCD19標的CAR-NK細胞療法で1年後の予後は良好, https://www.cancerit.jp/gann-kiji-itiran/ketueki-syuyou/post-26924.html
  56. Study Details | NKG2D CAR-NK Cell Therapy in Patients With Relapsed or Refractory Acute Myeloid Leukemia | ClinicalTrials.gov, https://clinicaltrials.gov/study/NCT05247957?term=CAR-NK&rank=4
  57. NKX101, Intravenous Allogeneic CAR NK Cells, in Adults With AML or MDS | ClinicalTrials.gov, https://clinicaltrials.gov/study/NCT04623944
  58. Study Details | Clinical Trial of CD5-targeted CAR-NK Therapy for Relapse/Refractory T-Cell Hematologic Malignancies | ClinicalTrials.gov, https://clinicaltrials.gov/study/NCT06909474?term=CAR-NK&rank=1

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