有効性の実質的なエビデンスを提供することを目的としたアダプティブ臨床試験のデザイン、実施、解析は、四つの主要な原則を満たすことが求められます。
- 誤った結論の可能性の制御(誤った結論を導く可能性を適切に制御する)
- 治療効果の推定(治療効果の推定を十分に信頼できるものとする)
- 試験計画(デザインの詳細を完全に事前に規定する)
- 試験の実施と完全性の維持(試験の完全性を適切に維持する)
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誤った結論を導く可能性を適切に制御する
臨床試験は市販前の意思決定において中心的な役割を果たすため、検討中の試験デザインが安全性又は有効性に関する誤った結論、安全性又は有効性が欠如しているという誤った結論、又はベネフィット・リスクの総合的な評価に寄与する推定に誤解を与える可能性を評価することが欠かせません。
例えば、アダプテーションの特徴が試験の第一種の過誤確率を増大させる方法はいくつかあります。最も分かりやすい例は、複数の統計的仮説検定を行う場合です。
計画被験者の 50%が試験を完了した後に、有効性による試験を中止する可能性のある中間の検定を行う、群逐次デザインについて考えてみましょう。試験が早期に中止しない場合、計画された被験者の全例が試験を完了した時点で、最終の検定が行われます。これら 2 回の検定をそれぞれ従来の片側有意水準 0.025 で行い、薬剤が有効でない場合、試験全体での第一種の過誤確率は 2.5%を超えることになります。これはよく知られている問題であり、試験全体の第一種の過誤確率を 2.5%に制御することを保証するとともに、中間及び最終解析の適切な有意水準を決定するためのさまざまな方法があります(Jennison and Turnbull 1999)。
明確な複数の仮説検定だけが、アダプティブデザインが誤った結論を導き得る特徴ではありません。試験集団全体と部分集団のデータを試験途中で検討し、より大きな治療効果を有する集団を継続的に研究する集団として選択する、アダプティブ患者集団選択に対するナイーブなアプローチを考えてみましょう。選択された集団を対象として、有意水準 0.025 で最終解析を行う場合に、患者集団の選択時に用いたデータも含めて解析を行うと、第一種の過誤確率は2.5%を超えます。その他のアダプティブデザインの特徴によって、より繊細な第一種の過誤確率の増大が生じることもありえます。
以上のことから、帰無仮説に対する検定を組み込んだ試験にアダプティブデザインを提案する場合は、第一種の過誤確率の増大の可能性に対処する必要があります。単純な群逐次デザイン等のいくつかの場合では、統計理論を用いて、第一種の過誤確率を目標とする水準に制御することを保証する有意水準を導出することができます。比較を伴わない中間解析結果に基づく症例数再推定等の他の場合では、従来の 0.025 の有意水準で解析しても、第一種の過誤確率に影響がないか、影響が限定的であることを示すことが可能です。多くのベイズ流アダプティブデザイン等の他の場合では、誤った結論を導く可能性を評価するためにシミュレーションを用いることが重要な場合があります。
治療効果の推定を十分に信頼できるものとする
臨床試験では、ベネフィット・リスクの評価を円滑に進め、新薬の適切なラベリングのために、根拠に基づく医療の実践を可能にする、十分に信頼できる治療効果の推定値を算出することがとても大切になってきます。
アダプティブデザインの特徴は、治療効果とそれに関連する量の推定値に統計的バイアスをもたらす可能性があります。例えば、第一種の過誤確率の増大が生じる場合では、推定値にバイアスが生じる恐れがある。具体的には、アダプテーションを考慮しない標本平均のような、試験終了時の治療効果の従来の推定値は、真の集団治療効果を過大評価する傾向にあります。これは、アダプテーションの基礎となる主要評価項目だけでなく、主要評価項目と相関する副次評価項目にも当てはまることです。さらに、主要評価項目と副次評価項目の信頼区間は、真の治療効果の被覆確率が正確でない場合もあります。
一部のアダプティブデザインでは、アダプテーションに関連するバイアスを低減又は除去するために推定値を調整する方法や、平均二乗誤差等の指標の性能を改善する方法が知られている (例:Jennison and Turnbull 1999、Wassmer and Brannath 2016)。このような方法が利用可能である場合、事前に計画し、結果を報告するために用いるとよいでしょう。
とはいえ、アダプティブデザインのバイアスの推定は、現在のところ、第一種の過誤確率の増大よりも十分に研究されていない事象であり、上記のような方法が利用できないデザインがあります。それらのような他のデザインでは、推定値に含まれるバイアスの程度を評価し、治療効果の推定値とその信頼区間を、解釈に関する注意とともに提示する必要があります。
デザインの詳細を完全に事前に規定する
他の臨床試験と同様に、アダプティブデザインの詳細は試験の開始前に完全に規定され、適切に文書化しておくことが望ましいです。
事前計画には、予定される中間解析の回数と時期、アダプテーションのタイプ、用いる統計的推論の方法、及びアダプテーションの決定に適用される特定のアルゴリズムの規定を含めましょう。完全に事前規定することは、さまざまな理由から重要です。
1.誤った結論を導く可能性の制御
多くのタイプのアダプテーションにおいて、アダプテーションに関する意思決定の側面が計画されていない場合、一旦データを収集してしまうと、誤った結論を導く可能性を制御できず、信頼できる推定値を算出するための適切な統計手法を用いることができない恐れがあります。
2.信頼性の向上
完全な事前規定は、アダプテーションの決定が計画外の方法で、蓄積した知識に基づくものでないという信頼性を高める助けとなります。
例えば、アダプテーションに関する意思決定に関与する担当者(例えば、モニタリング委員会)が中間解析に基づく比較結果にアクセスでき、中間の比較を伴わない併合分散の推定値に基づく症例数再推定が計画された試験を考えてみましょう。症例数を変更するための正確な規則を事前規定することにより、アダプテーションが比較結果の知見に影響されたのではないかという懸念が軽減され、中間解析の比較結果に基づく変更を考慮した統計的調整方法を用いずに済むことになります。
3.慎重な計画の動機付け
完全な事前規定は、デザイン段階での慎重な計画を動機付けることができ、中間解析に基づく比較結果への不要な試験依頼者のアクセスを排除することができる。また、DMCがアダプティブデザインの実施に関与している場合、患者の安全と試験の完全性を維持するという主要な責務に効果的に注力することを保証するのに役立ちます。
全く予期しない状況が発生した場合
アダプテーションを決定する規則を事前に規定することが推奨されますが、モニタリング委員会の勧告は、データの総合的な評価に基づいて、想定されるアルゴリズムから逸脱する場合があります。このタイプの柔軟性が望まれる場合、事前規定された計画は、想定されるアルゴリズムからの逸脱の可能性を認め、そのような逸脱につながる可能性のある要因の概要を示し、アルゴリズムの厳密な遵守に依存しない検定及び推定方法を提案する必要がでてきます。全く予期しない状況が発生した場合は、デザイン変更の可能性について、できるだけ早く規制当局や専門家と協議しましょう。
試験の完全性を適切に維持する
アダプティブデザインは、試験実施上の複雑さを生み出す可能性があります。
蓄積されたデータから得た知見は、試験の経過と実施、及び試験依頼者、試験責任医師、参加者の行動に、予測困難で調整不可能な方法で影響を与える可能性があります。したがって、すべての臨床試験(アダプティブ及び非アダプティブ)について、中間解析に基づく比較結果へのアクセスは、試験の実施又は管理を担当する者から独立した、適切な専門知識を持つ個人に制限することが強く求められます。中間解析に基づく比較結果の機密性を保持することは、試験デザインにアダプテーションの特性が含まれる場合、特に困難です。アダプティブ臨床試験で発生する可能性のある問題の例として、以下の 2 つの例が挙げられます。
- 試験責任医師が中間解析の比較結果へのアクセスを不適切に与えられた場合、信頼性の低いデータに基づいて治療効果の推定値が小さい又は好ましくないと知ることが、効果がないという信頼できるエビデンスとして誤って解釈されることがあります。その結果、アドヒアランスの低下及び患者を試験に留める意欲の低下につながり、試験の残りにおける欠測データの量を増加させることになります。
- 比較結果に基づいて症例数再推定を伴うデザインの中間解析の後、目標症例数が追加されたという知見は、試験責任医師及び潜在的な試験参加者により、中間解析時の治療効果は期待よりも低いものとして暗に解釈され、その後の組み入れが遅くなり、試験の成功を危うくする可能性があります。
これらの問題や他の同様の問題は、データが収集された後に調整することが一般に不可能であるため、アダプティブ臨床試験の計画には、可能性のある試験実施上の問題の原因と結果を検討し、これらの問題を回避するための計画を含めるのがよいでしょう。計画には、情報へのアクセスを制御し、試験を通したアクセスを記録するプロセスを記述しておきましょう。
参照
Adaptive Design Clinical Trials for Drugs and Biologics Guidance for Industry