エビデンス全般

DTC遺伝子検査について

2020年7月24日

この記事では、DTC遺伝子検査とリアルワールドエビデンス(RWE)の関係性について取り上げます。DTC遺伝子検査は、消費者が直接遺伝子情報を得るサービスであり、そのデータがRWEの生成にどのように寄与するかを明らかにします。また、日本国内の主要なサービス(GeneLife Genesis2.0、Genequest、MYCODE)の特徴や研究活動についても考察します。

DTC遺伝子検査の概要

DTC遺伝子検査は、インターネットを通じて注文でき、唾液などの検体を送ることで、疾患の罹患リスクや体質、能力などの統計的情報を提供します。これらは医学的診断ではなく、例えば生活習慣病のリスクや肌タイプ、運動能力などの情報が主です。日本では、GeneLife Genesis2.0(ジーンライフ)、Genequest(ジーンクエスト)、MYCODE(マイコード)が一般的に利用可能です。これらのサービスは、インターネットで申込み後、キットが自宅に送られ、検体を返送することで解析が行われます。

  • GeneLife Genesis2.0: 約360項目を解析し、がんや心筋梗塞のリスク、肥満要因、肌タイプなどを提供。ダイエット・スキン・スポーツの結果も含まれる。
  • Genequest: ALLとLITEの2種類があり、350項目以上の健康リスクや体質、祖先ルーツを解析。研究に基づいた信頼性の高いデータを提供。
  • MYCODE: DeNAが提供し、約12万人の会員のうち9割が研究参加に同意。疾患リスクや体質の情報提供。

これらのサービスは、消費者に遺伝子情報を提供するだけでなく、研究目的でデータを活用する側面も持っています。

リアルワールドエビデンスの定義と重要性

RWEは、臨床試験以外の現実世界のデータから得られるエビデンスを指します。具体的には、電子健康記録(EHRs)、保険請求データ、患者レジストリ、ウェアラブルデバイスからのデータなどが含まれます。RWEは、治療の効果や安全性を多様な患者集団で評価し、規制当局の意思決定や医療政策に役立ちます。例えば、FDAはRWEをポストマーケットの安全性監視や規制決定に使用しています(Real-World Evidence | FDA)。

RWEの生成には、大規模で多様なデータが必要です。DTC遺伝子検査は、消費者の遺伝子データと自己報告情報(アンケートなど)を集めることで、この要件を満たす可能性があります。

DTC遺伝子検査とRWEの関連性

DTC遺伝子検査のデータは、顧客の同意を得て研究に使用されることでRWEを生成します。例えば、23andMeは約1500万人の顧客データを持ち、80%以上が研究参加に同意しています。このデータは、Nature GeneticsやPLoS Oneなどの学術誌に掲載される研究論文に利用され、Parkinson病や心不全の遺伝的関連性を明らかにしています(Explore 23andMe's scientific discoveries)。

日本国内でも同様の動きが見られます。Genequestは「ジーンクエストリサーチ」として、研究同意済みの10万人規模のデータを活用し、企業やアカデミアと共同研究を行っています。例えば、新潟大学との共同研究で、ニンジン摂取と低肥満度の関連性を示す遺伝子型を同定しました(ジーンクエストと新潟大学、ニンジンの摂取と低肥満度を結び付ける遺伝子型を同定)。MYCODEも「MYCODE Research」として、東京大学医科学研究所と共同で日本人の疾病リスク予測モデルを構築し、2023年には21件の研究を実施しました(MYCODE Research 2023年研究・事業活動 総括レポート)。

これらの事例から、DTC遺伝子検査のデータは、遺伝子と疾患・体質の関連性を解明するRWEの重要な源泉であることがわかります。特に、日本人データベースの構築は、アジア人口の遺伝的多様性を反映した研究に貢献します。

各サービスの詳細と研究活動

以下に、各サービスの特徴と研究活動をまとめます。

サービス名
解析項目数
研究活動の概要
特記事項
GeneLife Genesis2.0
約360項目
プライバシーポリシーで市場調査や研究にデータ利用可能と記載(詳細不明)
ダイエット・スキン・スポーツの結果も含む
Genequest
350以上
ジーンクエストリサーチで10万人規模のデータ活用、企業・大学との共同研究実施
倫理審査委員会による承認あり
MYCODE
約300項目
MYCODE Researchで約12万人のデータ活用、2023年21件の研究実施、Findings機能で還元
2024年9月30日サービス終了予定
  • GeneLife Genesis2.0: プライバシーポリシーで「市場調査やその他の調査・研究」にデータ利用可能と記載されていますが、具体的な研究成果や公開論文は見つかりませんでした(プライバシーポリシー | GeneLife)。ただし、DTC遺伝子検査の特性上、データ蓄積が進む可能性は高いと考えられます。
  • Genequest: 研究同意済みのデータを活用し、遺伝子多型と体質・疾患の関連性を研究。ニンジン摂取とBMIの関連性を示す研究成果を発表しており、RWE生成に積極的(共同研究 | Genequest)。
  • MYCODE: MYCODE Researchは、インターネットを活用した迅速なデータ収集で知られ、アカデミアや企業との共同研究を通じて健康長寿社会の実現を目指しています。研究成果は会員に還元され、新たな検査項目の提供にもつながっています(MYCODE Research)。

プライバシーと倫理的懸念

DTC遺伝子検査のデータ利用には、プライバシー保護と倫理的配慮が不可欠です。消費者のデータは匿名化され、倫理審査委員会の承認を得て研究に使用されますが、プライバシーポリシーの理解度や同意プロセスの透明性が議論されています。例えば、23andMeでは顧客が個々の研究参加に同意可能ですが、GeneLifeやGenequestでも同様の仕組みがあるものの、消費者の認識度は様々です(Direct-to-Consumer Genetic Testing Data Privacy)。

また、法執行機関によるデータアクセスの懸念も存在します。DTC遺伝子検査企業が警察と協力して犯罪捜査にデータを用いる事例もあり、消費者のプライバシーとセキュリティに対する懸念が高まっています(Direct-to-Consumer Genetic Testing FAQ)。

結論

DTC遺伝子検査は、消費者に遺伝子情報を提供するだけでなく、研究を通じてRWEを生成し、医療科学や個別化医療の発展に寄与する可能性があります。特に、日本国内のGenequestやMYCODEは、顧客データを活用した研究活動を通じて、日本人データベースの構築に貢献しています。しかし、プライバシー保護や倫理的配慮が重要であり、消費者の理解と同意のプロセスが今後の課題となります。


主要引用文献

-エビデンス全般

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