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はじめに
昨今、センサーやIoTによって現実世界で発生するあらゆる事象がデータ化されるようになった。
デジタル空間(サイバー世界)を流れる膨大なデータを取得し、活用することで、新たな価値を創出することがこれからの社会では必須となる。
利益を生む源泉がデジタル空間へと変わってきているのである。
これに伴い、デジタル技術を活用した新たなビジネスモデルも出現するようになった。
従来のビジネスモデルがデジタルディスラプター(先進的なデジタル活用企業)によって破壊される事例もあり、あらゆる企業が変革を意識するようになった。
経済産業省からの「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」の発表(2018年12月)や、勢いを増すデジタルディスラプターの存在により、国内におけるデジタルトランスフォーメーションへの動きは活発化している。
しかし、目的地や渡り方への理解が不足したまま渡り始めても、対岸には辿り着くのは難しい。
本記事には、デジタルトランスフォーメーションの基本的な考え方や推進方法・留意点をまとめた。
本記事を羅針盤として、デジタルトランスフォーメーションの波を乗り越える準備を整えてほしい。
新型コロナウィルスの世界的感染拡大を受けて
2020年は新型コロナウィルスの世界的な感染拡大により、企業の事業環境が激変した。
特にITシステムやインフラに関する機能不足が表出しており、変化への対応は待ったなしの状況になっている。
これを受け、企業はDXに向けた対応を大幅に前倒しする必要が出てきたと言える。
デジタルビジネス時代の到来
- これまではITで効率化し、生産性を上げるのみだったが、昨今はITを使って新規ビジネスを創造することも可能になった。
- これに伴い、ビジネスで得られるデータは、管理だけではなく戦略策定のためのフィードバックとして利用されるようになった。
- データ、そしてそれを扱うITシステムをビジネスの源泉とする企業=デジタルエンタープライズが出現しつつある。
ビジネス・IT・社会の変遷
これまでITは、ビジネスにおいて人が担っている作業を効率化し、生産性を向上することを目的として利用されてきた。
時代を経るにつれ技術は躍進し、業務効率化のレベルは格段に向上している。更には社会の変化と相まって、昨今では人では担いきれない部分をITで担い、新たなビジネスを創造することが可能になってきている。
デジタルビジネスの出現
スマホの普及やIoT化、それらに伴うパーソナルデータやセンサデータの収集、そして収集した大量データの処理・分析・・・といったテクノロジ要素が次々に出現している。
これらを組み合わせてビジネス上の競争優位性とし、既存ビジネスモデルに融合、ないしは全く新たなモデルとして生み出されているのが現在のビジネスの姿=デジタルビジネスである。
デジタルビジネスの拡大
JUAS会員企業へのアンケートによると多くの企業がデジタルビジネスによる売上高・収入の割合増加を目指している。
技術の進歩と活用の変化
従来のITは、業務の自動化・省力化を中心に適用され、効果を上げていた。
デジタルビジネス時代では、ITの進歩がビジネスの変革を促進させる原動力となっている。
情報技術の進歩
技術の進歩により、通信速度、CPUの処理速度、HDDの記録密度は指数関数的に増加している。
ビジネスとITの関係性の変化
従来は、ビジネス部門がビジネスを創出し、IT部門は要求に応じて業務の省力化・自動化を実現してきた。
デジタルビジネス時代においては、ビジネス部門とIT部門が一体となり、戦略の立案と検証を繰り返しながらビジネスを創出していく。
デジタル化施策は、将来的に「IT部門・事業部門の共同チーム」で推進するのが主流だが、デジタル化推進部門が、デジタル化施策を今後推進していく割合が高まってきている。
一方で、IT部門中心で、デジタル化施策を推進する割合は、少なくなった。
企業が目指すデジタルエンタープライズ
- デジタルエンタープライズとはビジネス戦略およびITシステムの迅速で柔軟な転換を行いながら成長していく企業である。
- 成長にはデータを取得しながら戦略~開発~フィードバックのビジネスサイクルを短いリードタイムで回すことが必須となる。
- システム的な目線では、柔軟な変更を受け入れ機能の拡張性とデータのアクセシビリティを備えた構成になる必要がある。
デジタルトランスフォーメーションの目的地
デジタルトランスフォーメーションによって変革後の企業はデジタルエンタープライズまたはデジタル企業と呼ばれる。
デジタルエンタープライズとは
顧客や市場の変化が速くなるなか、ビジネス戦略とITシステムを迅速かつ柔軟に対応させていく企業=デジタルエンタープライズである。
量・種類ともに増加しているデータを活用し、デジタルビジネスを拡大していくのである。
デジタルエンタープライズにおけるビジネスサイクル
デジタルエンタープライズでは、ビジネス戦略(Strategy)のもと立てられた事業計画(Plan)をすぐさま開発(Develop)に移し、実行と同時に様々なデータから市場の反応(Feedback)を得る。
そして、フィードバックをもとに戦略を再考し、システムに反映するというサイクルを回しながらビジネス領域を拡大していく。
ビジネスサイクルの高速化
テクノロジの進歩によってビジネスに対するフィードバックを高速に得られるようになり、その質と量は従来と比較にならない。
アジャイルマインドを以ってデータを活かした確証の高い施策を短いリードタイムで回すことで、ビジネスの刷新スピードを速くすることが企業の成長に繋がる。
ITと連携した経営
デジタルエンタープライズでは、ビジネス判断にデータを用いる。多種多様なデータのうちどのデータをどうやって収集し、どのように分析して活用するかを含めて戦略を立てる必要がある。
そのため、ビジネスの判断を下す経営者もITの知識やビジョンを持ち、IT部門と密に連携することが重要である。
デジタルエンタープライズにおけるシステムニーズ
デジタルエンタープライズの中心を担うシステムには、これまでの基幹システムが担ってきた役割に加え、市場変化に適応可能なアジリティが求められる。
市場に合わせて変更・拡大していく顧客側のシステム領域に対し、容易な機能拡張、データ連携が可能な構成にする必要がある。
デジタルトランスフォーメーションの目指す先
デジタルトランスフォーメーションのゴールとして、デジタルエンタープライズのイメージは持てただろうか。
目指すべき対岸を定め、いよいよ渡り方(デジタルトランスフォーメーション)の検討に入る。
デジタルトランスフォーメーションに取り組むために
- デジタルエンタープライズになるためのプロセスがデジタルトランスフォーメーションである。
- デジタルトランスフォーメーションは、ビジネスプロセスから製品/サービス、組織体制、ITシステムまで総合的に取り組むことになる。
- ITシステムの刷新においても、IT部門だけでなくビジネス部門も一緒になりASIS把握・TOBE策定を行う。
デジタルトランスフォーメーションとは
デジタルトランスフォーメーションはデジタルエンタープライズになるまでのプロセスのことである。
つまり、デジタルトランスフォーメーションとは河の渡り方であり、河を渡った先の世界そのものではない。
DXは取り組みであって、ゴールではない。ゴールのためのプロセスだ。
DXのゴールは既存企業がデジタルエンタープライズになることだ。デジタルエンタープライズが何かといえば、デジタルプロダクトやデジタルサービスを顧客に提供する企業だ。
従来製品や従来サービスを提供する企業がデジタル企業へと変身を遂げる手段がDXということになる。
したがって、DXのあるべき姿は、「デジタルエンタープライズを実現する上で最適な取り組みになっていること」になる。
国立大学法人 名古屋大学 大学院 情報学研究科 教授 山本 修一郎 博士(工学)
(出典)山本レポート:システム安全性向上ー世界の最前線、9.デジタルトランスフォーメーションの課題
月刊ビジネスコミュニケーション 2019年4月号
デジタルトランスフォーメーションの目的
デジタルトランスフォーメーションの目的は、ビジネスサイクルを素早く回す仕組みづくりを行うことである。
アジャイル開発やDevOpsなどを導入するだけではこの目的は達成されず、組織文化やビジネスプロセス、製品/サービスに至るまで企業全体で取り組む必要がある。
ビジネスビジョンの策定
プロセスとしてのデジタルトランスフォーメーションを推進するために、まず経営者が明らかにし、全社で共有していなければならないのがビジネスにおけるビジョンである。
ITに注目されがちなデジタルトランスフォーメーションであるが、経営者がきちんと将来のビジネスを見据えた上で取り組みの方向性を指し示す必要がある。
ITシステムのデジタルトランスフォーメーションに必要なステップ
ITシステムも、ビジネスビジョンに基づいたゴールの設定が重要となる。
デジタルエンタープライズとしての姿を描き、それを実現するために必要なシステムの転換を行うことがITシステムのデジタルトランスフォーメーションである。
デジタルトランスフォーメーションを成功させるための7要素
オープングループが提供するDPBoK(Digital Practitioner Body of Knowledge)ではデジタルトランスフォーメーション成功の鍵として組織文化、ビジネスプロセス、製品/サービスなど7つの要素を挙げている。
すべての要素において同時に変革を進めていく重要性が述べられており、どの要素も欠かすことはできない。
デジタルトランスフォーメーションの取り組み:DX銘柄
経済産業省は2015年から毎年国内でIT利活用を積極的に進めている企業を評価し、「攻めのIT経営銘柄」として発表してきた。
2020年からは、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業を、「DX銘柄」として選定する形となった。
2020年は図の6つの評価軸に基づく評価に加え、取り組み状況に対する定性評価を行い選定された。
選定企業と評価ポイント
DXグランプリ:株式会社小松製作所
- 業界及び社会課題の解決に着目した「スマートコンストラクション事業」では、コト×モノの2軸を結合することでスマートかつクリーンな現場の実現に取り組んでいる
- フレキシブルな収益構造を実現しつつESG課題の解決に取り組んでおり、高いレベルでこれらを実現している
- 全体最適化された経営を実現すべく、顧客、代理店、パートナー、地域社会、コマツの現場を「ダントツバリュー」を追求した「ダントツ」で繋いでいる
トラスコ中山株式会社
- 様々なソースからデータを集約し、AI等の技術を活用してデータ分析を行うことで、サービスを向上させるサイクルを構築した
- DX施策のKPI化を実現することで、設定したKPIをリアルタイムで経営判断に活かすことを可能とした
- 自社物流センターでは、ビッグデータ、AI、IoT、RPA等のデジタル技術を活用し、持続的な進化に取り組んでいる
- AIを用いたダイナミックプライシングを導入し、生産性向上を実現している
DX銘柄2020選出企業
製造業
食料品
- アサヒグループホールディングス株式会社
- 日清食品ホールディングス株式会社
繊維製品
- 東レ株式会社
化学
- 富士フイルムホールディングス株式会社
- ユニ・チャーム株式会社
医薬品
- 中外製薬株式会社
石油・石炭製品
- ENEOSホールディングス株式会社
ゴム製品
- 株式会社ブリヂストン
ガラス・土石製品
- AGC株式会社
鉄鋼
- JFEホールディングス株式会社
機械
- 株式会社小松製作所
- ダイキン工業株式会社
電気機器
- コニカミノルタ株式会社
- 富士通株式会社
輸送用機器
- ヤマハ発動機株式会社
精密機器
- 株式会社トプコン
その他製品
- 大日本印刷株式会社
建設業
- 鹿島建設株式会社
- ダイダン株式会社
電気・ガス業
- 東京ガス株式会社
運輸業
陸運業
- 東日本旅客鉄道株式会社
情報・通信業
- Zホールディングス株式会社
- 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ
卸売業
- 住友商事株式会社
- トラスコ中山株式会社
小売業
- Hamee株式会社
- 日本瓦斯株式会社
金融業
銀行業
- 株式会社りそなホールディングス
証券、商品先物取引業
- 株式会社大和証券グループ本社
保険業
- SOMPOホールディングス株式会社
その他金融業
- 東京センチュリー株式会社
不動産業
- 株式会社GA technologies
- 三菱地所株式会社
サービス業
- 株式会社ディー・エヌ・エー
- セコム株式会社
“既存”システムの現状と課題
- 長年ビジネスを支えてきた既存システムは、技術的負債を抱えているケースが多い。
- 技術的負債は運用コストの増大やシステムの柔軟性を低下させ、デジタルトランスフォーメーションをはばむ要因となる。
- デジタルトランスフォーメーションにおいては、既存システムの全貌を把握し、見直しを行っていくことが重要である。
ビジョンと既存システムの乖離 ~既存システムの全貌を知っていますか?~
長年ビジネスを支えてきた既存システムは安定稼働しているため、一見すると問題がないように見える。
しかし、技術的負債が隠れており、ビジョン実現を妨げる要因となっているケースが多くある。
技術的負債とは
長年の仕様追加・変更や開発担当の変更などにより、システムが複雑化したり、ブラックボックス化することにより、技術的負債が生まれている。
技術的負債は、運用保守コストの増大や、新機能を追加する際の妨げとなり、デジタルトランスフォーメーションをはばむ要因となる。
DXレポートにおける認識
経済産業省より2018年に発表された「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」において、既存システム(≒レガシーシステム)がDXの足かせになっていることが指摘されている。
ビジョン実現に向けて既存システムを含めてデジタルトランスフォーメーション
デジタルトランスフォーメーションにおいて、既存システムは新規構築するシステムと相互に連携しながら見直し、デジタルエンタープライズの実現を目指す。
デジタルエンタープライズを目指して
デジタルトランスフォーメーションとは
デジタルトランスフォーメーションはデジタル変革の河を渡るプロセスであり、デジタルエンタープライズに至る道筋である。
目指す対岸や河の幅、深さは企業によって変わってくる。それぞれに合った渡り方で取り組む必要がある。
まとめ
デジタルエンタープライズを目指すためには、デジタルトランスフォーメーションを如何に上手く進めるかが肝心となる。