ビジネス全般

EBPMとは

はじめに

  • EBPMとは政策課題を的確に把握した上で、「その政策課題に対する打ち手を検討する際に、有効性を示す情報(エビデンス)を参照する」という行政官が取るべき行動様式を意味します。既に有効性が示されている打ち手を知ることによって、政策手段の妥当性を最大限高めることができるようになるでしょう。
  • もしエビデンスに裏打ちされていない政策介入を採用する場合は、政策実施前に効果検証の方法も併せて検討し、政策を終えた暁には今後参照可能となるエビデンスを産出できるようにしましょう。それによって、自身の政策の見直しはもとより、同様の政策課題に直面した第三者も妥当な政策手段を選択することができるようになります。
  • 政策効果を正確に把握するには、周到に準備された政策対象者・非対象者のデータが必要になります。当面、その実践は容易ではないでしょうから、まずはできることとして政策実施前後のアウトカムデータを収集するというところから始めることを意識してみましょう。

証拠に基づく政策立案

  • 証拠に基づく政策立案(Evidence-Based Policy Making: EBPM)とは政策マネジメントの考え方・実践方法と考えることができます。「EBPMという考え方を持って政策マネジメントを行っていくべきである」、或いは「政策マネジメントはEBPMが提唱する実践方法に沿って行うべきだ」という意見の背後には、EBPMではない政策マネジメントの考え方・実践方法があるということになります。従来型の政策マネジメントver.1.0にEvidence-Basedという考え方が導入されるとVer.2.0にアップデートされるというイメージを持つと、EBPMがもたらす付加価値を理解する際の助けになるでしょう。
  • 一般に、政策マネジメントは「企画立案(Plan)」、「実施(Do)」、「評価(Check)」及び「次の企画立案への反映(Action)」からなる4要素(4段階)によって構成されると考えられています。最後に位置するActionは次の意思決定(Plan)を通じて具体的な実行につながっていくため、政策マネジメントとは本質的にサイクルとして描かれたものであり、これによって政策パフォーマンスが継続的に向上していくことが企図されています。このPDCAサイクルと呼ばれる政策マネジメントの実践方法がVer1.0から2.0にアップデートされるとは、1巡目の企画立案段階で用いる情報にエビデンス(この介入手段は有効なのか?( What works ? )という問いの答え)が明示的に加わることを意味します。
  • 政策の論理構造を見える化したものにロジックモデルと呼ばれる表現方法があります。上記のような理解を持つと、EBPMとは、立案時に構築するロジックモデルをエビデンスによって裏付けられたものとすることで、政策手段に関するアカウンタビリティを高めるための考え方だという捉え方ができるでしょう。

政策マネジメントのヴァージョンアップ

EBPMの考え方が導入される以前の企画立案の方法(政策マネジメントver.1.0 )

  • 教育政策課題を特定し、その課題の発生原因(問題構造)を特定するために、統計データ等を活用してファクトベースの検討を行う。
  • 問題構造を踏まえ、最終アウトカムを引き出すためにはどのような途中アウトカムが発生する必要があるかを論理的に検討し、初期アウトカムを引き出すための活動を考案する。
  • ファクトと論理的思考により、仮説としてのロジックモデルが描かれる。

EBPMの考え方を踏まえた企画立案の方法(政策マネジメントver.2.0 )

  • 問題構造の把握後、エビデンスを参照することで、その課題に対して効果的であることが立証されている打ち手がないかを吟味する。
  • もしくは、打ち手を考案し、その打ち手の有効性を裏付けるエビデンスがないかを確認する。
  • その結果、エビデンスに裏打ちされたロジックモデルが描かれる。

政策マネジメント(PDCAサイクル)

  • EBPMとはエビデンスによって裏付けられたロジックモデルを構築することであると述べました。しかし、有用なエビデンスが見つからないということがあるかもしれません。政策課題は多様であり、また時代とともに状況は大きく変化していくことから、むしろ有用なエビデンスが見つかることの方が稀かもしれません。
  • 有用なエビデンスがないと、描かれるロジックモデルは論理的に十分検討された仮説に過ぎなくなります。これはエビデンスによって裏付けられたロジックモデルではありません。この場合は、仮説的ロジックモデルに基づくPDCAサイクルが一巡した際に、その有効性を判断できる情報(自前のエビデンス)を手にすることができるようにしておくことが望ましいと言えるでしょう。そうすることで2巡目のPlanの段階で、拡大、継続、修正、廃止といったような最適な意思決定を行うことが可能となります。なお、こうしたエビデンスを率先してつくれば、今後他所で同じような政策課題が生じた時に、このエビデンスが参照されることにもなるでしょう。
  • 2巡目のPlanにエビデンスを利用できるようにするには、1巡目のPlan時に効果検証(Check)を行うために必要となる「仕込み」を計画し、その内容に沿って政策介入を行い、必要に応じて1巡目の実施過程を通じてデータを収集していくことが不可欠となります。
  • PDCAサイクルの1巡目のPである政策立案時、ないしは2巡目以降のPである政策見直し時において、政策の有効性を示す情報(What works ?の答え)を参照するということの意味は以上のとおりです。EBPMというと効果検証の方法論や、そのためのデータ収集・整備に目が向きがちです。しかし、EBPMの本質は、これから行う政策手段の妥当性を可能な限り高めていこうという点にあるといえます。これまではロジックを詰めることで手段の妥当性を説明しようとしていました。それに対して、EBPMでは、「論より証拠」という考え方で、その手段を取ったことで問題を解決することができたのか?という実証分析の結果を重視しています。
  • もちろん問題解決のための手段はエビデンスだけによって決まるものではありません。実際には、政治、世論、その他様々な要素を総合的に加味して決定することになるでしょう。しかし、その検討要素の一つに、これまで然程意識されてこなかった「政策の有効性を検証した過去の実証分析の結果」というWhat worksを議論した情報(エビデンス)を加えることが重要です。

エビデンスレベル

EBPMが政策マネジメントにもたらした付加価値について、最後に1点補足をしておきます。エビデンスにはレベルがあるということが認識されています。エビデンスのレベルとは、現在述べられている政策効果の確証度合いを意味します。これから行う効果検証に関しては、得られる結果の確証度合いを意味すると理解して差し支えないでしょう。政策マネジメントにエビデンスという考え方を導入するにあたっては、エビデンスレベルを意識しながら上手にエビデンスと付き合っていくことが肝要です。

エビデンスレベルの高低

高い 今後さらなる研究を実施しても、効果推定への確信性は変わりそうにない。
今後さらなる研究が実施された場合、効果推定への確信性に重要な影響を与える可能性があり、その推定が変わるかもしれない。
低い 今後さらなる研究が実施された場合、効果推定への確信性に重要な影響を与える可能性が非常に高く、その推定が変わる可能性がある。
非常に低い 効果推定が不確実である。
  • あらゆる政策において高いレベルのエビデンスを求めることは現実的ではありません。政策課題の性質に照らして必要となるエビデンスレベルを十分に吟味することが重要になります。その上で、入手できたエビデンスが必要レベルを満たしているのであれば、それ以上のエビデンスを追求する必要はないといえるでしょう。つまり、1巡目の立案時に適切なレベルのエビデンスでロジックモデルの有効性を裏付けることができたのであれば、その後の厳密な効果検証の必要性は乏しく、政策実施に関するモニタリングを適切に行なっておくことで十分であるといえます。
  • 政策課題の状況によってはエビデンスを必要とせず、論理的な検討がなされていれば十分と判断することもあります。
  • 既存エビデンスのレベルが不十分な場合は、PDCAサイクルの1巡目を通じて自前のエビデンスをつくっていくことになりますが、その際も常に過度に高いエビデンスレベルを求める必要はありません。「得られた検証結果が間違っているかもしれない」というリスクをどこまで受け入れるか吟味し、それに応じた適切な効果検証デザインを組み込んでおくことが重要となります。
  • そうはいっても、高いエビデンスレベルの需要に応えることは容易ではないでしょう。当面は、エビデンスレベルは低いものとなりますが、政策介入の事前事後におけるアウトカム比較を行っていくことも一案です。ただし事前事後比較の結果解釈には注意が必要です。
  • これまで制作過程を「企画立案(Plan)」、「実施(Do)」、「評価(Check)」及び「次の企画立案への反映(Action)」という4段階で捉えてきましたが、次のように企画立案の段階を細分化することで、EBPMの考え方を取り入れた場合に具体的にいつ何を検討する必要があるのかをより明確に把握することができるでしょう。
問題の所在を明らかにする 政策によって対処・解決する問題を特定します。そもそも何が問題なのか、どこで発生しているものなのかといったことをファクトに照らして分析していきます。
原因を特定する 特定した問題がなぜ発生しているのか、その原因を特定します。原因の特定にあたっても可能な限りファクトを踏まえた分析が望まれます。
手段を検討する 必要とするエビデンスレベルを設定し、既存エビデンスを吟味して課題解決に資する手段を検討します。もしくは手段が先決している場合は、その有効性を示すエビデンスがないかを確認します。
介入案を考案する 既存エビデンスが不十分だった場合は、介入案を考案しロジックモデルに整理します。そして効果検証デザインを検討します。
効果検証を組み込んで実行する 計画した手段を実行します。この際に、効果検証を行うことを予定していた場合は、必要な仕掛けやデータ収集を組み込んだ形で実行していきます。
効果検証を行う 効果検証を行うことを予定していた場合は、データを分析して、介入の有効性を検証します。

参照

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