エビデンス全般

臨床研究の流れ(後編)

2020年10月17日

疫学の基礎ーその3「臨床研究の大まかな流れ(前編)」では、クリニカルクエスチョン、リサーチクエスチョン、背景や意義について述べました。

その4「臨床研究の大まかな流れ(後編)」では、PECO、研究デザイン、データ収集方法などのその後のステップについて見ていきます。

臨床研究のステップ

まずは、臨床研究のステップをもう一度列挙します。

  1. 臨床的な疑問(クリニカルクエスチョン)を取り上げる。
  2. 研究のための課題(リサーチクエスチョン)を設定する。
  3. 研究の実施のための背景や意義について文章にする。
  4. PECOを設定する。
  5. 研究デザインを考える。
  6. データの収集方法を設定する。
  7. 研究対象者の基準を設定する。
  8. 研究対象者の人数を設定する。
  9. バイアスや交絡因子の取り扱いを定める。
  10. 研究のクオリティ担保や、実施に当たってのリスクをコントロールするのための対策を定める。
  11. 研究報告書の作成および批判的吟味を行う。
  12. 研究結果を公表する。

1~3のステップ

こちらについては、前編をご覧ください。

いまさら聞けない?疫学の基礎ーその3「臨床研究の大まかな流れ(前編)」

4. PECOを設定する

PECOあるいはPICOというのは、臨床研究を企画する時に、思考を整理するためのフレームワークです。

マーケティングでSWOT分析やPEST分析などが使われていると思いますが、フレームワークという意味では近いものがあります。

PECOはそれぞれ下記の頭文字です。

  • P: Patients (or participants) → どんな人たちを対象とする研究なのか?
  • E: Exposure (or I: Intervention) → 注目している「要因」は何か?
  • C: Comparison → 比較対照の設定をどうするか?
  • O: Outcome → 結果/効果を何で測るか?

結構、このPECOの当てはめの段階で詰まってしまうことがよくあるので、別記事で深掘りしてみたいと思います。

5. 研究デザインを考える

PECOで研究の大まかな方向性や目的が固まったら、その目的達成のためにどんな研究デザインが適しているかを考えます。

対照群を設定する研究であれば、コホート研究、ケースコントロール研究などが主な候補になるでしょう。

研究というと「数値化して…」というイメージが先行しがちかもしれませんが「質的研究」と呼ばれる研究デザインもあり、「数名を対象とするインタビュー調査」「実地調査」といった方法が適する場合もあるでしょう。

全く新しい分野で研究を行おうとする場合には、いきなり「数値化して…」ということがそもそも出来ない場合もあるので(何を測るのが適切なのか、すら情報がない)、状況に応じた研究デザインを再考する必要があります。

(PECOが設定できる時点で、質的研究ではなくなっているはずですが)

6. データの収集方法を設定する

治験では「新薬Aと既存薬Bを、とある疾患の患者さん達に投与して、どちらが効果があるかを見る」という目的のもと、研究のために患者さんを集め(リクルート)、新薬か既存薬(かプラセボ)を投与し、その後の経過についてのデータを集める、という方法がとられています。

これは分かりやすいのですが、明確な理由がない限り、いきなりこの研究デザインを考えることは非効率であり、非倫理的でもあります。

まずは、今すでに存在している情報を使って目的を達成できないかを考えるのが効率的であり、研究参加者への負担も少なく押さえられる(同意取得の部分くらい)ことになります。

もし今ある情報では目的を達成できないのであれば、日常診療で行われる診断や治療で発生する情報を蓄積していく、という方法が考えられます。

日常診療で行われる診断や治療については、医療の現場で必要な情報は当然ながら蓄積されていますが、そうでない場合は情報が蓄積されていなかったり、蓄積されていても「フォーマットが揃っていない」という状況が珍しくありません(血液検査の測定値の単位が施設によって異なる、など)。

フォーマットがそろっていないと、研究で利用する際に小さくないコスト(時間、お金、人手)が必要となり、結果的にコストが理由で研究が進まないということもあり得ます。

7. 研究対象者の基準を設定する

組み入れ基準(インクルージョンクライテリア)、除外基準(エクスクルージョンクライテリア)と呼ばれるものです。

基準の例としては「年齢は20歳から50歳まで」「性別は問わない」「特定の疾患を有する」「喫煙歴を有さない」といったものがあるでしょう。

「研究参加への同意が得られていない」場合は研究対象とならない、というのは除外基準とも言えます。

この基準の設定は、研究結果をどういった集団に当てはめられるのか?という点においても重要な部分のため、あまり厳しすぎる基準を設けると、結果を当てはめられる集団が非常に狭くなってしまいます。

「年齢は20歳から50歳まで」という基準を設けた場合には、結果を当てはめられるのも「20歳から50歳の人たち」に絞られる、ということです。

かといって、あまりに広すぎると、多種多様な人が参加することになるため、参加人数を大きくしないと何を見ているのかよくわからない、ということにもなりかねません。極端な例では、総参加者6人の規模の研究で、小学生1人、高校生1人、大学生1人、40歳台1人、60歳台1人、90歳台1人という内訳だった場合、年齢の影響なのか、運動習慣の影響なのか、食習慣の影響なのか、持病の影響なのか、ストレスの影響なのか、きちんと切り分けて分析できないことになります。運動習慣の影響を見たいのであれば、それ以外の条件がほぼ同じ人同士を比較しないとフェアな比較ができません。

8. 研究対象者の人数を設定する

上の「研究対象者の基準」の設定とも関連しますが、研究対象者の人数の設定というのは、研究の目的達成だけでなく、実務を考える上でもものすごく重要なファクターです。

10人規模の研究と1000人規模の研究では、研究参加者を集めたり、研究が始まった後のフォローアップの負担も桁違いに変わります。

9. バイアスや交絡因子の取り扱いを定める

研究計画が進んでくると、どうしても避けられない「バイアス」や「交絡因子」というものが見えてきます。

そのバイアスや交絡因子についてどう対処するのか、あるいは「研究の限界(リミテーション)」ということで諦めてよいか(許容できるか)を考えます。

交絡因子の調整を行うためには、そのための情報が必要なので、もしその情報を当初は取得するつもりがなかったのであれば、「データ収集項目」に追加する必要があります。

10. 研究のクオリティ担保や、実施に当たってのリスクをコントロールするのための対策を定める

研究のクオリティは、データの信頼性、オペレーションの適切性、などの観点から考える必要があります。

データの信頼性という部分では、治験ではモニタリングという形で実施されており、施設側の情報(電子カルテ等)と研究用に構築されているデータベース内の情報との間に齟齬がないかを定期的に確認する、というようなものです。

オペレーションの適切性としては、作成されたドキュメントがきちんと所定の場所にアーカイブされているか、ドキュメントが更新された場合にバージョンが管理されているか、等が分かりやすいところでしょう。第三者が見たときに「ドキュメント管理がいい加減ではないか」と指摘されると、研究のオペレーション全体の信頼性を損なう恐れもあるため、非常に重要です。

また、研究には数多くかつ多種多様な立場の方々が参加することが常です。患者さんをはじめ、研究に参加する方々とのコミュニケーション上のトラブルも含め、どのようなことが起きる可能性があるか、可能性の高低と、万が一発生した際のインパクトの大小を含めて整理しておき、トラブル発生時に慌てず対応できるような準備を整えておきます。

11. 研究報告書の作成および批判的吟味を行う

研究のゴールはいくつかありますが、「研究報告書」の作成はその主たるものの1つです。研究報告書が作成できれば、それをもとに様々な活動(論文執筆、学会発表など)ができます。

一方で、「研究報告書」に書かれていない内容は、論文に書いたり、学会発表したりはできないため、研究報告書の内容をどうするかはとても大切です。

12. 研究結果を公表する

研究結果の公表は、論文発表や学会発表といった形で行われることが多いでしょう。

中には、政府関連機関への報告が必要なタイプの研究もあります。

まとめ

「臨床研究」と一括りにしても、治験からアンケート調査、データベースを使った研究まで、多岐にわたります。

まずは「クリニカルクエスチョン、リサーチクエスチョン、背景や意義」を固めて、PECOや研究デザイン、その他の具体的なところまである程度全体像を描いてみましょう。

そうすることで、数か月から長いと数年かかる「研究」の道のりが少しずつ見えてくるはずです。

 

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