疫学

いまさら聞けない?疫学の基礎ーその12「因果関係の検討に有用な9つの側面」

疫学に限ったことではありませんが「因果関係」や「因果推論」というものは、研究において重要な概念の1つです。

因果関係について検討するための基準に「Hill's criteria(ブラッドフォードヒル基準)」があります。その基準は次の9つの側面から構成されています。

  1. 時系列
  2. 関係性の強さ
  3. 一致性
  4. 用量反応の関係性
  5. 生物学的なもっともらしさ
  6. 実験等に基づく証拠
  7. 特異性
  8. 一貫性
  9. 類推性

時系列

曝露因子が結果の原因となるためには、時系列でみた時に、曝露因子に曝露されたタイミングが、結果が起こるよりも前である、という条件が欠かせません。

時系列が逆転している場合、つまり、結果の方が昔に起きていて、曝露因子に曝露したのはその後、ということならば、その曝露因子は原因にはなり得ません。

横断研究(cross-sectional study)が、縦断研究(longitudinal study)よりもエビデンスレベルが低いとされるのは、この「時系列」の情報がすっぽり抜けているためです。

臨床研究に関わったことがある方にとっては何度も聞いていて飽きているとは思いますが、「横断研究では因果関係を述べることはできない」点はぜひ覚えておいてください。ここ、テストに出ます。

関係性の強さ

関連性の強さというのは、例えば、リスク比やオッズ比の値が大きい状態を指します。

一致性

ある曝露因子と、ある結果(アウトカム)の因果関係に着目した研究が10件、実施されているとします。

10件の研究は、全く同じ集団を対象としているわけではなく、時期も地域も少しずつ違います(ある研究はA町、別の研究は隣のB町で実施されている、等)。

ですが、「全く違う集団で、見比べる意味がない。見比べるのは不適切だ。」というものではない、としましょう。

それら10件の結果を見比べた時に、曝露因子と結果(アウトカム)の関連性に一致性が見られた場合、因果関係をあることを支持することになります。

用量反応の関係性

ある曝露因子と、ある結果(アウトカム)の間に因果関係があるならば、「曝露因子に触れる回数を増やす」「曝露因子に触れる量を増やす」ことで、結果(アウトカム)が起きやすくなることが考えられます。

具体例で考えてみましょう。

  • 曝露因子:お酒
  • 結果(アウトカム):肝障害の発症

この場合、次のようになります。肝障害を起こしやすくなりそうですよね。

  • 曝露因子に触れる回数を増やす:1週間あたりの飲酒回数を、1週間に2日から、1週間に5日に増やす
  • 曝露因子に触れる量を増やす:1週間あたりに飲酒量を、7合から14合に増やす

生物学的なもっともらしさ

生物学的なもっともらしさは、「原因が結果を起こす仕組みを説明できるか」という点です。

アルコールが肝障害を起こすメカニズムは分かっているので、「アルコールを飲んだら肝障害になりやすくなる(絶対になるわけではないし、絶対にならないわけでもない)」という説明は、生物学的な仕組みを考えてももっともらしく聞こえます。

注意しなければならないのは、現状の科学ではわかっていない、発見されていない知見がある、という点です。

ホットな話題でいうならば、5Gの電波が心身に及ぼす影響でしょう。新しい技術であり、人類全体で経験が浅い分野では「きっと●●だろう」と決めつける事無く、俯瞰的にみておくことが大切です。

実験等に基づく証拠

「実験」的な環境下でのエビデンスは、因果関係を吟味する際に強力な助けになります。

ヘルスケアの領域でいうならば、「治験」はまさにその典型例です。

現在、Randomized Controlled Trial として実施されることが多い治験ですが、ランダム割り付けを行うことで、被験薬群と対照群にそれぞれ割り付けられる人たちのバックグラウンドを無作為にすることで「選択バイアスや、未測定の交絡因子も無視してよい」状態を作り出します。

被験薬群と対照群に割り付ける際に、人の意志が入ってしまうと、純粋に「薬の効果をみる」ことが困難になります。

特異性

ある曝露因子から、とある結果(アウトカム)が起こるけれども、他の因子からは起こり得ない、という状態がある場合は、因果関係の判定をする際に役立ちます。

ただ、狂犬病ウイルスと狂犬病、鉛と鉛中毒のように、かなり限定的な場面に絞られるので、「特異性」が因果関係の判定に用いられることは実際には多くないでしょう。

一貫性

過去の研究や、広く知られている事実との一貫性があると、因果関係の判定に有用です。

「一致性」と似ていますね。分かりにくい。

類推性

これも、一貫性との区別が難しいのですが、「いま調べている曝露因子と結果(アウトカム)の関連」と似たような事例がほかにもあり、その「似た事例」から類推することができる、というものです。

辛いカレーを食べると胃が荒れる、という事例から、辛いうどんを食べると胃が荒れる、という結果が類推できるのと似た感じでしょうか。

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