第8インフォームド・コンセントを受ける手続等は、10項目から成ります。
ようやく、最初の「インフォームド・コンセントを受ける手続き等」の部分が終わったので、残りは9項目です。
そう感じても仕方ないですね。
ただ、残りは「インフォームド・コンセントを受ける手続き等」の項目に比べたら各項目の分量はとても少ないので、実はもう折り返し地点は過ぎて終盤というところなのよ。
下の赤字部分が特に押さえておくべきポイントね。
- インフォームド・コンセントを受ける手続等:前回までで終了
- 電磁的方法によるインフォームド・コンセント
- 試料・情報の提供に関する記録
- 研究計画書の変更
- 説明事項
- 研究対象者等に通知し、又は公開すべき事項
- 同意を受ける時点で特定されなかった研究への試料・情報の利用の手続
- 研究対象者に緊急かつ明白な生命の危機が生じている状況における研究の取扱い
- インフォームド・コンセントの手続等の簡略化
- 同意の撤回等
Table of Contents
2 電磁的方法によるインフォームド・コンセント
研究者等は、次に掲げる全ての事項に配慮した上で、1 における文書によるインフォームド・コンセントに代えて、電磁的方法( 電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法) によりインフォームド・コンセントを受けることができる。
① 研究対象者等に対し、本人確認を適切に行うこと。
② 研究対象者等が説明内容に関する質問をする機会を与え、かつ、当該質問に十分に答えること。
③ インフォームド・コンセントを受けた後も5 の規定による説明事項を含めた同意事項を容易に閲覧できるようにし、特に研究対象者等が求める場合には文書を交付すること。
電磁的同意の部分は、今回新しく設けられた事項です。
今までは、「文書同意」か「口頭同意」という分け方で、紙文書か電子文書か、対面での口頭同意か電話などの口頭同意か、というところまで、指針の本体では踏み込まれていませんでした。
今回から、電磁的方法によってもインフォームド・コンセントを受けられる、ということが初めて明文化されることになります。
新型コロナの影響で、ビデオ通話による遠隔医療もどんどん定着しつつあるので、統合指針でもその流れが汲まれているのでしょう。
もちろん、数年前から議論は行われていたようですが、新型コロナによる社会構造の変革に対応するために、導入が後押しされた格好です。
ただ、電磁的方法とはいったい具体的に何なのか、ということについては、ガイダンス内である程度の方向性は示されるようなので、それまで待ちましょう。
3 試料・情報の提供に関する記録
⑴ 試料・情報の提供を行う場合
研究責任者又は試料・情報の提供を行う者は、当該試料・情報の提供に関する記録を作成し、当該記録に係る当該試料・情報の提供を行った日から3年を経過した日までの期間保管しなければならない。
試料・情報の提供元は、「こんな情報を誰々に提供しました」という記録を残して、その記録を提供日から3年が経つまで保管しなければなりません。
その記録について最低限盛り込むべき事項としては下記になるでしょう。これでは不十分ということであれば、より詳細に記録に残す必要があります。
- 関連する研究課題名
- 研究代表者の名前と所属機関
- 当該試料・情報の提供を行った日
- 提供元の機関名、提供元機関の長の名前、提供元機関における責任者
- 提供先の機関名、提供先機関における責任者
- 提供する試料・情報の概要
- 提供する試料・情報がどのように取得されたかの経緯の概要
- 提供する試料・情報についての、同意取得状況
- 提供する試料・情報についての、匿名化の有無
⑵ 試料・情報の提供を受ける場合
他の研究機関から研究に用いられる試料・情報の提供を受ける場合は、研究者等は、当該試料・情報の提供を行う者によって適切な手続がとられていること等を確認するとともに、当該試料・情報の提供に関する記録を作成しなければならない。研究責任者は、研究者等が作成した当該記録を、当該研究の終了について報告された日から5年を経過した日までの期間保管しなければならない。
試料・情報の提供先(受け取る側)は、「こんな情報を誰々から提供されました」という記録を残して、その記録を研究終了報告日から5年が経つまで保管しなければなりません。
その記録について最低限盛り込むべき事項としては下記になるでしょう。これでは不十分ということであれば、より詳細に記録に残す必要があります。
- 関連する研究課題名
- 研究代表者の名前と所属機関
- 当該試料・情報が提供された日
- 提供元の機関名、提供元機関の長の名前、提供元機関における責任者
- 提供先の機関名、提供先機関における責任者
- 提供された試料・情報の概要
- 提供された試料・情報がどのように取得されたかの経緯の概要
- 提供された試料・情報についての、同意取得状況
- 提供された試料・情報についての、匿名化の有無
4 研究計画書の変更
研究者等は、研究計画書を変更して研究を実施しようとする場合には、変更箇所について、原則として改めて1 の規定によるインフォームド・コンセントの手続等を行わなければならない。
ただし、倫理審査委員会の意見を受けて研究機関の長が許可した変更箇所については、この限りでない。
研究計画書を変更する時には、原則として、もう一度インフォームド・コンセントを取得し直す必要がある、という大きな負荷が生じる旨を覚えておかなければなりません。
研究計画書の変更内容によっては、研究対象者への説明も不要とみなされる場合もありますが(例:誤字脱字の修正などの記載整備、人事異動によって責任者以外の研究メンバーが変更になった場合等)、研究計画書の変更はそう簡単には生じないようにすることが何より重要です。
5 説明事項
インフォームド・コンセントを受ける際に研究対象者等に対し説明すべき事項は、原則として以下のとおりとする。ただし、倫理審査委員会の意見を受けて研究機関の長が許可した事項については、この限りでない。
① 研究の名称及び当該研究の実施について研究機関の長の許可を受けている旨
② 研究機関の名称及び研究責任者の氏名( 多機関共同研究を実施する場合には、共同研究機関の名称及び共同研究機関の研究責任者の氏名を含む。)
長期間にわたり、かつ、多機関共同の研究では、異動や転職によって、共同研究機関のうちどこかの機関の研究責任者が変更になる可能性も十分あり得ます。
③ 研究の目的及び意義
できるだけ平易な言葉で表現しましょう。
研究計画書の「背景」の部分をそのまま転記してしまうと、専門用語がちりばめられてしまいがちです。
そのまま提出すると、倫理審査委員会から「分かりにくいので書き直してください」と指摘される可能性大です。
④ 研究の方法( 研究対象者から取得された試料・情報の利用目的及び取扱いを含む。)及び期間
特に、「今回の研究で取得された試料・情報を、将来の研究でも使うことがある」という場合には、丁寧に記載しておきましょう。
また、海外の研究機関に資料・情報を提供する場合には、「あなたの試料・情報がどこどこの国の何々という研究機関に渡りますよ」ということをしっかりと伝えておかなければなりません。
国をまたいだ個人情報の移動については、特に慎重に取り扱わなければなりません。
⑤ 研究対象者として選定された理由
⑥ 研究対象者に生じる負担並びに予測されるリスク及び利益
⑦ 研究が実施又は継続されることに同意した場合であっても随時これを撤回できる旨( 研究対象者等からの撤回の内容に従った措置を講じることが困難となる場合があるときは、その旨及びその理由を含む。)
⑧ 研究が実施又は継続されることに同意しないこと又は同意を撤回することによって研究対象者等が不利益な取扱いを受けない旨
⑨ 研究に関する情報公開の方法
⑩ 研究対象者等の求めに応じて、他の研究対象者等の個人情報等の保護及び当該研究の独創性の確保に支障がない範囲内で研究計画書及び研究の方法に関する資料を入手又は閲覧できる旨並びにその入手又は閲覧の方法
さらっと書いてありますが、なかなかインパクトのある項目です。
研究計画書の内容を研究参加者が閲覧できる場合には、その旨を記載しておくことになります。
独創性の確保に支障があるので、計画書の閲覧は不可であり、⑩の記載は同意説明文書に書きません、という主張も可能ではあります。
⑪ 個人情報等の取扱い( 匿名化する場合にはその方法、匿名加工情報又は非識別加工情報を作成する場合にはその旨を含む。)
多機関共同研究の場合、もし他の機関に資料・情報を提供するのであれば、少なくとも次の内容を明示しておくことが必要です。
- どんな個人情報等を他の機関に提供するのか
- どこの機関に提供するのか(提供先の機関名の名前)
- 個人情報等の利用目的は何か
- 個人情報等の管理責任者は誰か(個人または組織名)
⑫ 試料・情報の保管及び廃棄の方法
⑬ 研究の資金源その他の研究機関の研究に係る利益相反、及び個人の収益その他の研究者等の研究に係る利益相反に関する状況
⑭ 研究により得られた結果等の取扱い
⑮ 研究対象者等及びその関係者からの相談等への対応( 遺伝カウンセリングを含む。)
かっこ内の「遺伝カウンセリングを含む。」の部分が、今回のゲノム指針との統合によって、新しく追加された部分です。
⑯ 研究対象者等に経済的負担又は謝礼がある場合には、その旨及びその内容
⑰ 通常の診療を超える医療行為を伴う研究の場合には、他の治療方法等に関する事項
⑱ 通常の診療を超える医療行為を伴う研究の場合には、研究対象者への研究実施後における医療の提供に関する対応
⑲ 侵襲を伴う研究の場合には、当該研究によって生じた健康被害に対する補償の有無及びその内容
ここで「他の治療方法」について記載するのは、既に確立した治療法が基本です。
なお、積極的な治療以外の選択肢(緩和ケア、経過観察など)も「他の治療方法等」に含まれることもあり得ます。
⑳ 研究対象者から取得された試料・情報について、研究対象者等から同意を受ける時点では特定されない将来の研究のために用いられる可能性又は他の研究機関に提供する可能性がある場合には、その旨と同意を受ける時点において想定される内容
当然ながら、「同意を受ける時点では特定されない将来の研究」というぐらいですから、将来どんな研究に使うか、その研究の目的なども明確ではないでしょう。
ですが、できる限り次の観点から「将来の研究」とはどんなものなのかを説明することが求められています。
- 研究機関名や研究責任者
- 研究の目的および意義
- 研究の方法および期間
- 研究対象者に生じる負担や、予測されるリスクと利益
- 研究の資金源、研究機関の利益相反、研究者の利益相反
㉑侵襲( 軽微な侵襲を除く。) を伴う研究であって介入を行うものの場合には、研究対象者の秘密が保全されることを前提として、モニタリングに従事する者及び監査に従事する者並びに倫理審査委員会が、必要な範囲内において当該研究対象者に関する試料・情報を閲覧する旨
研究対象者の試料や情報をむやみやたらに閲覧することは望ましくありません。
研究対象者の安全を守るために必要なことか?という視点から見て、入れる必要があれば入れましょう。
一律に義務付けられているものではないそうです。