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HPVワクチンに関するこれまでの経緯と課題
【子宮頸がんについて】
○ 日本で年間約1.1万人が罹患、約2,800人が死亡。
○ 40歳までの女性でがん死亡の第2位。
○ ほとんどの子宮頸がんはHPV(ヒトパピローマウイルス)への感染が原因。
【HPVワクチンについて】
○ HPVワクチンは、HPVへの感染を防ぐことで、子宮頸がんの罹患を予防。
○ HPVワクチンは、子宮頸がんの原因の50~70%を占める2つのタイプ(HPV16型と18型)のウイルスの感染を防ぐ。
※ 子宮頸がんの予防に当たっては、併せてがん検診を受診することが重要。
【海外の状況】
○ 世界保健機関(WHO)が接種を推奨。
○ 米、英、独、仏等の先進各国において公的接種として位置づけられている。
平成22年11月26日~ 平成25年3月31日 |
平成22、23年度補正予算により、子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業(基金)を実施 |
平成25年4月1日 | 予防接種法の一部を改正する法律が施行され、HPVワクチンの定期接種が開始された |
⇒ 以降、疼痛又は運動障害を中心とした多様な症状が報告され、マスコミ等で多く報道された | |
平成25年6月14日 | 厚生労働省の審議会※で、「ワクチンとの因果関係を否定できない持続的な疼痛の発生頻度等がより 明らかになり、国民に適切な情報提供ができるまでの間、定期接種を積極的に勧奨すべきではない」とさ れ、積極的勧奨差し控え(厚生労働省健康局長通知) ※ 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会と薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同開催 |
⇒ 以降、
①HPVワクチンのリスク(安全性)とベネフィット(有効性)を整理 審議会において検討 |
HPVワクチンに関する課題
課題① HPVワクチンのリスク(安全性)とベネフィット(有効性)の整理
HPVワクチンの安全性・有効性び整理に関するこれまでの対応
平成25年12月 | 審議会で、国内外におけるリスク(安全性)とベネフィット(有効性)に関する情報を整理 |
平成26年1月・7月 | 審議会で、HPVワクチン接種後に生じた「多様な症状」の病態と、因果関係について評価
→病態について「機能性身体症状※」と定義 ※ 慢性的な疼痛等の身体症状はあるが、医学的検査で症状に見合う異常が認められない病態 |
審議会で、継続的に副反応疑い報告の発生状況をモニタリング | |
平成28年12月・平成29年4月 | 厚生労働科学研究祖父江班による全国疫学調査を実施し、その結果を審議会に報告
全国の医療機関からサンプリングした18,302診療科に対し「多様な症状」を有する患者の有無を調査、患者ありと回答した508診療科に対して個人表を送付し臨床疫学像(ワクチン接種歴を含む)について調査 →HPVワクチン接種歴のない者においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の「多様な症状」を有する者が、一定数存在 |
平成29年11月 | 審議会で、国内外におけるリスク(安全性)とベネフィット(有効性)に関するエビデンスを改めて整理し、評価
|
HPVワクチンの安全性についての報告
(米国におけるHPVワクチンと体位性頻脈症候群(POTS)の検討(2006-2015))
- HPVワクチン接種後のPOTSは約650万回の接種に1件と稀であり、HPVワクチンとPOTSを関連付ける安全性シグナルは検出されなかった。
出典:Jorge Arana et al. J Adolescent Health.2017; 61: 577-582
(米国におけるHPVワクチン市販後安全性評価(2009-2015))
- 新たな又は予期せぬ安全性上の懸念や、4価HPVワクチンと臨床的に重要な有害事象の報告パターンは認められず、4価HPVワクチンの安全性プロファイルはこれまでに得られた臨床試験及び市販後のデータと一貫していた。
出典:Jorge E. Arana et al. Vaccine.2018; 36: 1781-1788
(オランダにおける2価HPVワクチンと長期疲労の検討(2007-2014))
- ワクチン接種導入前後の比較において、慢性疲労症候群(CFS)や長期間持続する疲労についての罹患率に統計学的な有意差は認められなかった。
出典:T.M.Schurink-van’t Klooster et al. Vaccine.2018; 36: 6796-6802
(フランスにおけるHPVワクチンと自己免疫性疾患のリスクの検討(2008-2014))
- HPVワクチン接種と自己免疫性疾患のリスク増加との関連は見られなかった。
出典:L Grimaldi-Bensouda et al. J Autoimmunity. 2017; 79: 84-90
(フィンランドにおける38の自己免疫性疾患および症候群と2価HPVワクチンとの関連性の検討)
- HPVワクチン接種後の女児の対象疾患の罹患リスクについて、明らかな増加は認められなかった。
出典:J Skufca et al. Vaccine.2018; 36: 5926-5933
(日本における若年女性のHPVワクチン接種後症状の検討(名古屋市調査))
- 非接種群と比較して、24の症状のいずれの発症率も接種群で有意な上昇は認められなかった。
出典:S Suzuki, A hosono. Papillomavirus Reseach. 2018; 5: 96-103
(韓国における若年女性のHPVワクチンと重篤な副反応の関連性の検討)
- HPVワクチン接種後と重篤な副反応との関連性を示唆するエビデンスは示されなかった。
出典:Dongwon Yoon, Ji-Ho Lee, et al. BMJ 2021;372:m4931
(HPVワクチンと自己免疫性疾患の関連性の検討システマティックレビューとメタアナリシス)
- HPVワクチン接種と自己免疫性疾患との関連性を示唆するエビデンスは認められなかった。
出典:Hai-yin Jiang, Yu-dan Shi, et al. Vaccine 37 (2019) 3031–3039
(HPVワクチン接種と自己免疫性疾患発症との関連性の検討)
- HPVワクチン接種と自己免疫性疾患発症には、関連は示されなかった。
出典:C Genovese et al. J Prev Med Hyg.2018; 59: E194-E199
HPVワクチンの安全性・有効性に関する最新のエビデンスについて(まとめ)
HPVワクチンの安全性について
HPVワクチン接種後に生じた疾患・症状(慢性疲労、体位性頻脈症候群、自己免疫性疾患など)とHPVワクチンとの関連について国内外でこれまで調査が行われているが、ワクチン接種との関連性は明らかになっていない。
HPVワクチンの有効性について
国内外の研究において、HPVワクチン接種による、HPVの感染や子宮頸部の高度異形成の予防効果が示され、ワクチンの有効性は10年以上の長期間持続することを示唆する結果が示されている。さらに近年、海外の大規模調査において、子宮頸がんの予防効果も示されてきている。
HPVワクチンの集団免疫効果について
HPVワクチン未接種の女性や男性においても、HPV感染とそれによる子宮頸部異形成や肛門性器疣贅に対する集団免疫効果が報告されている。
<参考>子宮頸がんの発生とヒトパピローマウイルス(HPV)感染について
- 子宮頸がんについては、HPVが持続的に感染することで異形成を生じた後、浸潤がん(扁平上皮がん)に至るという自然史が明らかになっている。
- HPVに感染した個人に着目した場合、多くの感染者で数年以内にウイルスが自然に消失し、子宮頸がん自体は早期に発見されれば予後の悪いがんではないものの、HPVは広くまん延しているウイルスであり、公衆衛生的観点からは、国内で年間約11,000人の子宮頸がん患者とそれによる約2,800人の死亡者等を来す重大な疾患となっている。
課題② HPVワクチン接種後に生じた症状に苦しんでいる方に寄り添った支援
HPVワクチン接種後に生じた症状に苦しんでいる方に寄り添った支援の状況について
(1) 救済に係る速やかな審査
我が国の従来からの救済制度の基本的考え方「厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も対象とする」に則って、速やかに救済に係る審査を実施。
- 予防接種法に基づく救済
: 審査した計57人中、30人を認定 - 独立行政法人医薬品医療機器総合機器法(PMDA法)に基づく救済
: 審査した計526人中、317人を認定
(2) 救済制度間の整合性の確保
- 基金事業において接種した方で、生じた症状とワクチンとの因果関係が否定できないと認定されたが「入院相当でない通院」の場合においても、予防接種法に基づく接種と同等の医療費・医療手当の範囲となるよう国庫予算で補填。(平成27年12月1日事務連絡発出)
申請された231人中、231人に支払い済
(3) 医療的な支援の充実
- 身近な地域で適切な診療を提供するため協力医療機関(47都道府県、84医療機関)を整備。
(実績)平成26年11月22日~平成29年3月の間に、協力医療機関を受診した患者:715人※
※ホームページ上に公表している窓口を経由して受診した者を計上。複数施設受診者は重複して報告している可能性がある。 - 協力医療機関の医師向けの研修会を年1回程度開催。
- 診療情報を収集するための受診者フォローアップ研究を実施中。
(4) 生活面での支援の強化
- 平成27年11月16日各都道府県等の衛生部門及び教育部門に相談窓口を設置・公表
- 衛生部門88自治体(都道府県47、政令指定都市14、中核市26、保健所設置市1)
- 教育部門70自治体(都道府県47、政令指定都市10、中核市13、保健所設置市0)
(実績)平成27年11月~令和3年7月の相談件数:衛生部門2,093件、教育部門166件 - 窓口において、相談者の個別の状況を聴取し、関係機関と連絡をとり支援につなげる。
(衛生部門の例)
-
- 個々の症状や居住地等に応じた受診医療機関(協力医療機関等)を紹介。
- 救済の申請について、必要書類や相談先を紹介。
(教育部門の例)
-
- 出席日数が不足している場合に、レポート提出や補習受講により単位取得できるような配慮。
- 校内で車椅子を利用する場合に、教室移動が少なくて済むような時間割の調整
(5) 調査研究の推進
- 平成27年11月27日の審議会において、疫学調査の実施方法について議論。
- 平成28年12月26日の審議会において、研究班から、疫学調査の結果(HPVワクチン接種歴のない者においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の「多様な症状」を呈する者が、一定数存在したことなど)が報告された。
(参考)ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に生じた症状の診療に係る協力医療機関
<目的>
ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に広範な疼痛又は運動障害を中心とする多様な症状を呈する患者(以下「患者」という。)に対して、より身近な地域において適切な診療を提供するため、都道府県単位で協力医療機関を選定し、協力医療機関を中心とした診療体制の整備を図ることを目的とすること。
<協力医療機関の要件>
(1) 患者の診療に関して、窓口となる診療科のみでなく、関係する全ての診療科の医師等が、当該医療機関が地域における中核的な役割を担う施設であることについて理解していること。
(2) 医学的に必要な鑑別診断を実施し、かつ、器質的・機能的両方の観点から診療を提供するための体制(初診の診療科の別に関わらず必要な検査等が実施可能であること、関係する診療科において患者情報を共有し症例検討等が実施可能であること、常時相談可能な専門の医師等が確保されていること等)が整っていること。(以下略)
(3) 厚生労働科学研究事業研究班からの助言を受けながら、その方針に沿った適切な診療を提供できること。
<協力医療機関の役割>
(1) ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後の広範な疼痛又は運動障害を中心とする多様な症状に対する診療に関して、地域の医療機関及び厚生労働科学研究事業研究班の所属医療機関等と連携し、地域における中核的な役割を担う医療機関として診療を行うこと。
(2) 地域の他の医療機関から紹介された患者を受け入れるとともに、患者に対して関係する診療科間で情報共有し適切な診療を実施すること。
(3) 診療の結果、より専門性の高い医療が必要と判断した場合、厚生労働科学研究事業研究班の所属医療機関の医師に相談の上、必要に応じ当該医療機関を紹介すること。
(4) 協力医療機関においては、診療に従事する医師等が、別に通知する「ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に生じた症状の診療に係る研修」を可能な限り受講できるよう配慮すること。なお、窓口となる診療科のみではなく、関係する診療科の医師等の受講についても十分配慮することが望ましいこと。
課題③ HPVワクチンの安全性・有効性等に関する情報提供
HPVワクチンに関する情報提供について
1.厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会での議論
- 平成29年12月
これまでの審議会での議論の整理が行われ、HPVワクチン接種後に生じた症状に苦しんでおられる方に対しては、引き続き
寄り添った支援を行うべきとされ、また、HPVワクチンについて、安全性や有効性の両方をよく理解していただくことが必要であ
り、そのために国民に対する情報提供を充実すべきであるとされた。また、情報提供については、科学コミュニケーションもしく
はベネフィットリスクコミュニケーションが成立したと判断できる状態になることが必要であるが、情報提供しただけでなく理解さ
れたかどうか評価することが必要、との意見があった。
2.情報提供について
- 平成30年1月
審議会における議論を経て、H30年版リーフレットを厚生労働省ホームページに公表し、H30年版による情報提供を開始。
<情報提供の方法> 情報を求めている方に対して市町村から情報提供/ 接種を希望する方に対して、接種を受ける際に医師から情報提供 - 平成30年7月
審議会において、情報提供の評価の視点や評価方法について議論。この評価方法に基づき、自治体・国民への調査を実施。 - 令和元年8月
審議会において、平成30年度に実施したHPVワクチンの情報提供の評価についての調査結果を報告。 - 令和元年11月~令和2年7月
情報提供の在り方について、リスクコミュニケーションや広報等の有識者からヒアリングを行い、審議会において、情報提供の目的・方法を整理し、情報提供の具体的な内容について検討を実施。 - 令和2年9月・10月
審議会において、情報提供資材等を接種対象者等に個別送付する方針およびリーフレットの改訂
内容が了承され、令和2年版リーフレットを公表し、自治体に対して通知(10月9日発出)。
情報提供の目的
公費で接種できるワクチンの一つにHPVワクチンがあることを知っていただくとともに、接種について検討・判断するための有効性・安全性に関する情報や、接種を希望した際に接種に必要な情報を接種対象者等に届ける。
情報提供の方法
接種対象者等が情報に接する機会を確保し、接種について検討・判断できるよう、自治体からリーフレット又は同様の趣旨の情報提供資材の個別送付を行う。
HPVワクチンにかかる情報提供の実施状況調査について(最終報告)
【目的】市町村における情報提供の実績を把握する
【方法】アンケート調査
【調査対象】全1,737市町村(回収率100%)
【調査期間】2021年3月22日~
【調査項目及び結果】
問1①令和2年におけるリーフレット等を用いた個別送付による情報提供の実施の有無
- 送付:1,068市町村(61.5%)、送付なし:669市町村(38.5%)
問1② 令和2年度送付対象
- 高校1年相当:826市町村、中学3年:529市町村、中学2年:472市町村、中学1年:570市町村、小学6年:356市町村、その他:44市町村
問2①令和3年度における個別送付による情報提供の実施予定の有無について
- 送付する:1,327市町村(76.4%)、送付しない:103市町村(5.9%)、未定:307市町村(17.7%)
問2② 令和3年度送付予定対象
- 高校1年相当:763市町村、中学3年:548市町村、中学2年:500市町村、中学1年:800市町村、小学6年:581市町村、その他:48市町村
HPVワクチンの接種状況について
HPVワクチンの接種状況の推移
- HPVワクチンは、積極的勧奨の差し控え以降、接種数が低い状態が続いていたが、過去2~3年の間に徐々に接種数が増加してきている。
HPVワクチンの副反応疑い報告の推移
- 過去2~3年の間、副反応疑い報告の割合は0.50%未満で、概ね横ばいであった。
論点
HPVワクチンの積極的勧奨の取扱いについての課題と論点
(HPVワクチンの安全性・有効性に関する最新のエビデンスについて)
- HPVワクチン接種後に生じた疾患・症状(慢性疲労、体位性頻脈症候群、自己免疫性疾患など)とHPVワクチンとの関連について国内外でこれまで調査が行われているが、ワクチン接種との関連性は明らかになっていない。
- 国内外の研究において、HPVワクチン接種による、HPVの感染や子宮頸部異形成の予防効果が示され、ワクチンの有効性は10年以上の長期間持続することを示唆する結果が示されている。さらに近年、海外の大規模調査において、子宮頸がんの予防効果も確認されてきている。
- HPVワクチン未接種の女性や男性においても、HPV感染とそれによる子宮頸部異形成や肛門性器疣贅に対する集団免疫効果が報告されている。
(HPVワクチン接種後に生じた症状に苦しんでいる方に寄り添った支援について)
- ①救済に係る速やかな審査、②定期接種化前の基金事業で行われたワクチン接種による通院について、予防接種法と同等の医療費・医療手当となるよう予算事業により措置、③医師向けの研修の実施等を通じた医療的な支援の充実、④各都道府県等への相談窓口の設置など生活面での支援の強化、⑤疫学的観点からの研究の実施など調査研究の推進、などの支援策が継続して行われている。
(HPVワクチンに関する情報提供について)
- 接種対象者等が情報に接する機会を確保し、接種について検討・判断できるよう、自治体からの情報提供資材(リーフレット等)の個別送付が広がってきている。
(HPVワクチンの接種状況について)
- 過去2~3年の間、HPVワクチンの接種数は増加傾向にある一方、副反応疑い報告の割合は概ね横ばいであった。
論点
HPVワクチンの安全性・有効性に関するエビデンスが集まり、HPVワクチン接種後に生じた症状に苦しんでいる方に寄り添った支援策が継続され、HPVワクチンに関する情報提供が進んでいる。こうした点を踏まえ、現在HPVワクチンの定期接種の積極的な勧奨が差し控えられていることについて、どのように考えるか。