こんにちは。E太郎(Evidence太郎)です。今回のテーマは「ホルモン補充療法 と 記述統計 と リアルワールドエビデンス」です。
1966年頃から始まった「ホルモン補充療法」ですが、閉経後女性に対して、更年期症状を軽減する目的で行われることがあります。
そして、観察研究の結果を根拠に、心疾患や、加齢に伴う健康問題を予防するためにホルモン補充療法が推奨されていた時期があります。
その後、観察研究だけでは根拠が弱いということで、心筋梗塞等に焦点を当てたランダム化比較試験(Heart and Estrogen/Progestin Replacement Study, HERS)や、各種のイベントの発生率に着目したランダム化比較試験(Women's Health Initiative, WHI)がされたのですが、いずれの試験でも、心疾患の予防効果を裏付けるような結果は得られませんでした。むしろ、ホルモン補充療法を行っている群の方が、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが高いという結果でした。ホルモン補充療法の作用機序から考えて当然ですが、乳がんリスクも上昇するという結果でした。一方、大腸直腸がんや大腿骨頸部骨折のリスクは下げるということも確かめられたので、プラス面とマイナス面が明らかになったという点で非常に重要な試験だったと言えるでしょう。
なぜ、観察研究とランダム化比較試験で異なる結果になったのでしょうか。考えられる理由はいくつかありますが、主に次の二つが分かりやすいものでしょう。
- ホルモン補充療法を受ける女性は、心血管疾患リスクの少ない健康な女性であることが多いのではないか。
- 健康体操教室に通うような方は、そもそも元気な人や、健康意識が高く食生活にも気を遣っている方が多い傾向にあるのと似ています。喫煙もしない、お酒も控えている、体重も適正な範囲である、という方がホルモン補充療法を積極的に受けている一方で、あまり健康に関心のない方はホルモン補充療法の存在すら知らない、という状況だとすると、背景情報が偏っているので、比較することがそもそもできない集団同士を比べてしまっていた可能性があります。
- ホルモン補充療法を始めてすぐに有害な影響がみられた方は、開始後すぐにホルモン補充療法が中止されており、観察研究の対象から漏れてしまっていたのではないか。
- 観察研究であっても組み入れ段階や、フォローアップ期間で「有害な影響が出て中止した」方々をきちんと追えていれば対応出来るかもしれませんが、観察研究という側面を考えると、あまり厳しい基準を課すこと自体が出来ない場合があります。
いずれも選択バイアスと言えるでしょう。リアルワールドデータは、ありのままが記録されているデータですが、「そもそも記録されない、データ化されていない」ものを見逃すと誤った結論を導き出しかねないので注意が必要です。
それでは、また。