臨床試験

ICH E11A「小児用医薬品開発における外挿」案

目次

1 諸言

1.1 ガイドラインの目的

本ガイドラインの目的は、小児用医薬品の開発及び承認を支援するために、小児用医薬品開発における外挿の使用に関する推奨事項を示し、国際的調和を促進することにある。小児用医薬品開発における外挿のアプローチを調和させることで、地域による大きな違いが生じる可能性は低減されるはずである。重要な点は、この調和により、小児集団に対する不要な臨床試験も削減されるはずであり、小児用医薬品がより時宜を得て世界中で使用しやすくなることである。

1.2 背景

小児用医薬品開発における外挿を論じた地域のガイドラインは、これまでに各地域の規制当局により公開されてきた。小児用医薬品開発における外挿は、ICH E11(R1)ガイドラインでは「疾患経過及び期待される医薬品への反応が、小児及び参照集団(成人又は他の小児集団)の間で十分に類似していると推定できる場合に、小児集団における医薬品の有効かつ安全な使用を支持するエビデンスを提供する手段」と定義されている。参照集団と対象集団の疾患及び治療効果に関連する類似性の評価に基づき、小児用医薬品開発における外挿によって、参照集団に関する既知の情報(例:有効性、安全性及び/又は用法・用量)を対象集団にも適用できる。従来、安全性の外挿は一般的に許容できないとされていたが、安全性に関する参照集団と対象集団の類似性及び相違点に関する理解は進んでいる。ICH E11(R1)ガイドラインに記述されているとおり、対象集団で収集するべきデータの適用範囲及び程度を定義するために、参照集団で得られたデータを用いる原則は、安全性データの取得にも適用できる(3.5 節参照)。

本ガイドラインは、小児用医薬品開発の最適化にあたって、小児用医薬品開発における外挿を用いるためのより包括的な枠組みを提供するために、ICH E11(R1)を補完し、拡大することを意図したものである。本ガイドラインでは、小児用医薬品開発における外挿が適用可能な範囲、及び小児集団における安全かつ有効な医薬品の使用を支持する知識の不足に対処するために収集するべき情報について、医薬品開発者及び規制当局を支援するロードマップを提示する。

1.3 適用範囲

本ガイドラインは、小児用医薬品開発を支援するための手段として、外挿を用いるための枠組みを提供するものであり、小児用医薬品開発における外挿を支持する必要がある場合に、入手可能な既存の情報、開発についての情報を得るために必要な情報の不足及び追加情報の取得方法を理解するための反復的なプロセスを包含している。本ガイドラインでは、参照集団と対象となる小児集団における疾患及び治療効果の類似性の判定に影響する因子を評価するアプローチを推奨する。さらに、本ガイドラインでは、疾患、医薬品の薬理学及び治療効果の特性が類似性の判定にどのように影響する可能性があるかについて論じる。

本ガイドラインでは、統計学的及びその他の定量的な方法(例:モデリング&シミュレーション)を使用して、知識の不足を埋めるために活用可能な方法を論じる。本ガイドラインは、小児用医薬品開発において、データの外挿が重要な役割を果たすことができるあらゆる状況を包括的に記載することを意図したものではなく、小児集団における医薬品の安全性及び有効性を裏付けるために、小児用医薬品開発における外挿を実際に適用できる方法について説明する。本ガイドラインでは、その他の種類の「外挿」については論じない。例えば、医薬品承認の根拠として、ある地域の外国臨床データを別の地域の集団に外挿し活用するための「ブリッジング試験」の概念に関しては、ICH E5 ガイドラインを参照すべきである。本ガイドラインにおいて言及又は説明した定量的な方法に基づく戦略もあるが、本ガイドラインは包括的な指示指針を意味するものではない。臨床開発で用いられる定量的アプローチの役割に関しては、ある程度の基本的理解が求められる。

1.4 一般的な概念

小児用医薬品開発における外挿を活用することで、小児における医薬品の使用に関する科学的理解を深める必要がある場合に限り、小児が臨床試験に参加することが保証される。ICH E11(R1)に基づき、小児に対する被験薬への曝露リスクの妥当性を示すためには、臨床的有益性が十分に見込まれることが求められる。成人が主体の医薬品開発の一環として、小児臨床試験が規制当局により求められる場合、求められる根拠により、参照集団と対象集団(この場合は小児)の健康状態における類似性の程度を暗黙的に推測することができる。したがって、成人の健康状態と関連する疾患の小児用プログラムに、小児用医薬品開発における外挿をある程度取り入れることは適切であると考えられる。

ICH E11(R1)の小児用医薬品開発における外挿の定義では、「十分に類似している」ことが、小児用医薬品開発における外挿が規制上の判断として許容されるために超えなければならない閾値と示唆されうる。しかし、疾患経過及び期待される治療効果が対象集団と参照集団において十分に類似していると考えられるかどうかは、単に「はい又はいいえ」で答えられる問題ではない。したがって、本ガイダンスでは、小児用医薬品開発における外挿の異なったアプローチを述べるための個々のカテゴリー(例:完全、部分又はなし)を用いず、既存データの評価に基づき、残る不確実性に対処可能な臨床試験デザインを明らかにすることを優先する。本ガイドラインで論じられているように、外挿の使用は非類似性と類似性が連続して存在している可能性を反映している。対象となる小児集団への外挿を支持するデータに関連する不確実性が存在する場合もある。外挿アプローチによって、これらの不確実性に対処し、許容可能な不確実性に関する忍容可能な程度を確立するために、臨床的な判断を活用すべきである(図 1 参照)。臨床試験デザインに関する選択肢は、解消する必要のある不確実性の程度により異なる。

2 小児用医薬品開発における外挿の枠組み(Pediatric Extrapolation Framework)

外挿の枠組みは、小児用医薬品開発における外挿の概念の構築、小児用医薬品開発における外挿の計画の作成及び実施の 3 つのパートから成る(図 2参照)。

最初に、小児用医薬品開発における外挿の概念を構築する。この概念は、参照集団及び対象集団全体における疾患、医薬品の薬理学及び臨床的な治療効果を定義する因子の範囲に関する既存の情報の包括的かつ詳細な検討によって構築される。参照集団及び対象集団における治療効果に影響する因子を特定すべきである。既存の知識の検討後、小児用医薬品開発における外挿の概念を構築するためにデータを統合すべきである。これらのデータの検討及び統合方法には、統計学的手法及びモデリング&シミュレーションのような定量的アプローチが含まれる。データの統合は、既知のデータの強さを理解し、かつ、必要な場合はどのような追加データが求められるかについての情報が得られるような、知識の重大な不足を特定するために実施すべきである。

小児用医薬品開発における外挿の概念の構築後、小児用医薬品開発における外挿の計画を策定する。この計画には、規制当局の意思決定を目的として、目的及び対象集団における有効性及び安全性を裏付けるために取得する必要のあるデータに関する方法論的アプローチを含めるべきである。なお、新たな臨床及び科学的データに基づき、小児用医薬品開発における外挿の概念が進化する場合もある。以前の概念に基づく小児用医薬品開発における外挿の既存の計画を放棄するのではなく、最新の科学的及び臨床的理解を反映するように計画自体を修正することが可能である。

計画の実施には、設定した仮定をすべて確認するため及び小児用医薬品開発における外挿の概念で特定された不確実性に対処するために、取得したデータの検討も含めるべきである。また、結果の検討内容は、以降の小児用医薬品開発プログラムのための小児用医薬品開発における外挿の計画で、異なるアプローチが考えられるかどうかを特定するためにも使用すべきである。

3 小児用医薬品開発における外挿の概念(Pediatric Extrapolation Concept)

小児用医薬品開発における外挿の概念の構築には、疾患の類似性、医薬品の薬理学及び治療効果、並びに関連するあらゆる集団での医薬品使用の安全性に影響する因子の理解が必要である。

3.1 疾患の類似性

参照集団と対象集団における疾患の類似性及び相違点の評価は、小児用医薬品開発における外挿の概念を構築するうえで重要な因子である。従来、小児用医薬品開発における外挿は、疾患の類似性に関する二択での判定(すなわち、はい又はいいえ)に基づくことが多かったが、参照集団と対象集団における疾患の類似性及び相違点がより細かく理解されるようになってきた(図1参照)。

疾患の類似性の評価は、参照集団と対象集団の疾患が「全く同じ」かどうかではなく、むしろ小児用医薬品開発における外挿が不可能となる程度の差が当該疾患にあるかどうかを判定することを意図している。疾患における相違点がある場合でもなお、小児用医薬品開発における外挿を用いることが可能な程度の類似性が存在する場合もある。

また、集団全体における疾患の類似性が十分でない場合であっても、小児用医薬品開発における外挿の使用を支持するために十分な類似性を有する参照集団及び対象集団の疾患に関連した部分集団が特定される可能性もある。例えば、小児の解剖学的うっ血性心不全は成人の心不全と類似していないが、拡張型心筋症による心不全は成人集団と小児集団で類似しており、拡張型心筋症を有する成人患者から小児患者への外挿は認められる。

集団間における疾患の類似性の理解の信頼性を高めるために、疾患の類似性の評価では知識の不足及び検討したエビデンスに存在する不確実性を判定し、どのようなエビデンスを追加する必要があるかを特定することも試みるべきである。重要な点として、疾患の類似性の評価は、静的に又は「一回限り」実施されるものではない。知識の獲得に応じて、追加された知識を小児用医薬品開発における外挿の概念での疾患の類似性の評価に組み入れるべきである。

3.1.1 疾患の類似性の評価において考慮すべき因子

小児集団と参照集団における疾患の類似性の評価では、以下の因子の検討を含めるべきである。

疾患の病態生理学

参照集団と対象集団における疾患の病態生理学及び病因を評価すべきである。取得する関連情報には、参照集団と対象集団における類似性及び相違点を述べた、生化学的、遺伝的/エピジェネティック、細胞学的、組織学的、臓器系及び疫学的情報が含まれる場合がある。また、評価においては、疾患の臨床所見における相違点が発症年齢、年齢依存的に発現する表現型又はその他の年齢に関連する相違点によるものかの判定も含まれ得る。利用可能であれば、疾患進行を含む、疾患の病態生理学でよく使用されるバイオマーカーの評価は、参照集団と対象となる小児集団における疾患の類似性を構築するうえで有用なことが多い。また、疾患を治療しなかった場合の転帰における類似性についても評価すべきである。

疾患の定義

参照集団と対象集団における疾患の定義及び診断基準を評価すべきである。参照集団と対象集団における類似性及び相違点の評価にあたっては、以下を考慮すべきである。

  • 疾患を定義する徴候又は診断基準はどのようなものか?
  • 参照集団と対象となる小児集団における徴候の類似性の程度は?
  • 徴候の評価方法は?
  • 参照集団と対象となる小児集団における180 疾患の徴候を定義するために使用される類似の評価基準はあるか?
  • 参照集団又は対象集団で発症する疾患のサブタイプ(例:重症度、遺伝学、分子マーカー等に基づく)はあるか?
  • 参照集団と対象集団における疾患のサブタイプの類似性及び相違点はどのようなものか?
  • 疾患の定義に必要な、その他の考慮すべき因子(例:遺伝的/エピジェネティック因子等)があるか?
疾患経過

参照集団と対象集団における疾患経過の類似性及び相違点を評価すべきである。評価にあたっては、以下を考慮すべきである。

  • 参照集団と対象集団における疾患の臨床経過の類似性及び相違点はどのようなものか?疾患の発症年齢等の因子によって疾患経過に相違点はあるか?
  • 参照集団と対象集団の両方で疾患進行の評価に役立つ、利用可能な類似のエンドポイント及び/又はバイオマーカーはあるか?
  • 疾患の短期又は長期転帰が参照集団と対象となる小児集団で類似しているか、また、これらの転帰について類似の評価が行えるか?
  • 参照集団と対象集団の両方で用いられている利用可能な治療があるか?
  • 参照集団及び対象集団における疾患経過において、これらの治療にはどのような効果(例:疾患発症及び患者の年齢に対する治療時期、治療頻度、治療期間)があったか?

参照集団と対象集団における疾患の頻度、重症度又は進行時期が異なる場合であっても、疾患経過にある程度の共通性があれば、小児用医薬品開発における外挿の使用はなお許容される場合がある。例えば、参照集団で疾患経過を変える治療が利用できるようになったものの、対象集団では当該治療が未承認の場合、これを受けて、小児用医薬品開発における外挿の目的において、両集団の疾患経過は現在では異なると結論付けるべきではない。

3.2 医薬品(薬理学)の類似性

参照集団と対象集団における医薬品の薬理学に関する類似性及び相違点の評価の一環として、被験薬の基礎となる吸収、分布、代謝及び排泄(ADME)の特性並びに作用機序(MOA)について判明している点を検討することが重要となる。体格[例:体重、体表面積(BSA)]、年齢、臓器の成熟度、併用薬及び ADME に関するその他の関連のある共変量(例:蛋白結合、代謝酵素、トランスポーター、腎機能)、並びに MOA の特性(例:医薬品の標的の発現量及び感度)の潜在的な影響を考慮すべきである。

ADME の過程における相違点は、薬物動態(PK)パラメータ及びその結果としての薬物曝露量における違いとなる可能性がある。曝露量の概念は広範で、薬剤(未変化体及び/又は代謝物)に対する 1 時点(例:最高濃度又はトラフ濃度)における全身(又はその他の生体コンパートメント)曝露量、ある時間間隔における曝露量(例:AUC0-t又は平均濃度)、又は濃度-時間曲線全体に関する特性(例:クリアランス、分布容積)の評価に及ぶ。さらに、MOA の特性における相違点は、参照集団と対象集団における曝露-反応(E-R)関係の相違点となる可能性がある。発達の成熟度によるこれらの特性における経時的変化を考慮すべきである。

3.3 治療効果の類似性

疾患の類似性と同様に、参照集団と対象集団における治療効果の類似性及び相違点は連続したものとして理解すべきである(図 1 参照)。治療効果の類似性及び相違点を評価するためには、当該医薬品、同薬効分類及びその他の薬効分類の医薬品への反応を含め、参照集団と対象集団の両方で利用可能な知識を徹底的に検討するべきである。同様に、治療効果の類似性又は相違点の評価にあたっては、当該医薬品に関する他の適応症で得られたデータを関連する知識の情報源として扱ってよい。対象となる小児集団と参照集団における曝露反応関係についてのデータの評価は、治療効果の類似性の評価の一部とすべきである。

3.3.1 治療効果の類似性の評価において考慮すべき因子

参照集団と対象集団における治療効果の類似性の程度は、疾患の類似性の程度の差にも影響する可能性があり、逆も同様である。対象となる小児集団と参照集団における治療効果の類似性の評価では、以下の因子についての検討を含めるべきである。

薬物動態及び薬力学(PK/PD)

発達及び成熟上の変化が PK/PD 関係及び臨床反応に及ぼす潜在的な影響を評価すべきである。医薬品の標的及び正常発達におけるその役割に関する理解、疾患の病理、並びに期待される治療効果を評価すべきである。例えば、生後 6 ヵ月までに受容体が存在しない場合、この年齢群では当該受容体のみを標的とした医薬品に対する治療効果は期待されないと考えられる。参照集団と対象集団において異なる可能性のある反応に影響する因子(例:併用薬、併存疾患、臓器機能、遺伝的要因)が、小児用医薬品開発における外挿をどの程度まで適用可能かに影響するかどうかを判定するために評価すべきである。

反応のエンドポイント

反応の類似性の評価にあたっては、以下の質問について考慮すべきである。

  • 参照集団及び対象集団における反応のエンドポイント(例:臨床、バイオ-マーカー、複合等)の評価方法は?
  • 参照集団と対象集団の両方で用いられるエンドポイントに関して、類似の評価方法があるか?
  • 反応のエンドポイント又はそのエンドポイントの評価方法が参照集団と対象集団で異なる場合、エンドポイント間(例:対象集団のバイオマーカーのエンドポイントと参照集団の臨床エンドポイント)にどのような関係があるか?

治療効果の類似性を評価しようとする際、対象集団と参照集団において評価した反応に相違点がみられる可能性のある年齢/成熟度に関連する因子があるかどうかについて、考慮する必要があるかもしれない。小児用医薬品開発プログラムの多くでは、対象となる小児集団における主要エンドポイントは参照集団の主要エンドポイントと異なる。このような場合、異なるエンドポイント間の関係を理解するために、主要エンドポイント及び/又は副次/探索的エンドポイントの1 つ以上の要素の比較を用いてもよい。

3.4 既存データの情報源及び種類

既存データの利用は目的に応じたものとすべきである(すなわち、取得した既存データの背景は利用目的の背景に適っている)。参照集団と対象集団における類似性及び相違点を評価するためのデータについて、量及び質の両方を考慮することが重要である。外挿の概念を構築し、外挿の計画を策定するためには入手可能なあらゆるデータを用いるべきである。このような情報には、進行中の成人又は小児用医薬品開発プログラムのデータ若しくは終了したプログラムの関連データを含めてもよい。評価すべきデータの情報源及び種類の例を表 1 に記載し、本節で詳述する。疾患、薬理学及び治療効果の類似性及び相違点を裏付けるために使用されるデータには相当な重複がみられることから、データの情報源を表 1 に集約する。

表 1:疾患及び治療効果の類似性を評価するためのデータの情報源及び種類の例

データの情報源 データの種類
臨床データ 医薬品又は同薬効分類の医薬品に関する同じ健康状態におけるPK、PK/PD、曝露―反応、及び臨床データ
医薬品又は同薬効分類の医薬品に関するその他の関連する健康状態におけるPK、PK/PD 、曝露―反応、及び臨床データ
医薬品又は異なる薬効分類の医薬品に関する同じ健康状態におけるPK、PK/PD、曝露―反応、及び臨床データ
非臨床データ 動物モデルのADME データ
In silico、in vitro 及びin vivo データ(例:疾患-反応、PK、PK/PD、セミメカニスティック及びメカニスティック)
幼若動物における非臨床毒性データ
リアルワールドデータ 疾患レジストリ(地域、国及び国際)、電子診療録、レセプト情報データベースのデータを含むがこれらに限定されない
その他の情報源 システマティックレビュー又はメタアナリシス(適切なバイオマーカーを評価するために利用可能なものを含む)

専門機関のガイドライン/臨床診療ガイドライン/コンセンサス文書

公開されているモデル/シミュレーション(例:PK/PD、メカニズムに基づくもの)
専門家の意見
標準治療/医療の慣習
臨床データ

同じ健康状態又は関連する健康状態の集団における臨床データ(例:対照試験、前向き観察研究、PK試験、PK/PD試験及び/又はバイオマーカー研究)について、参照集団と対象集団における類似性及び相違点を理解するために評価すべきである。当該医薬品/薬効分類に関して、進行中及び終了した試験、公開又は未公開、結果の可否等、入手可能なあらゆるデータを評価すべきである。

非臨床データ

入手可能な場合は、in vivo、in vitro 及びin silico モデル等の非臨床の情報源からのデータも評価すべきである。また、in silico モデルからのデータには、PK及び/又は PD、セミメカニスティック並びにメカニスティックモデルを含めてよい。一般に、臨床データが入手可能な場合、動物モデルのデータは関連性が低くなると考えられるが、必ずしもそうとは限らない。ある特定の状況、特に臨床データを収集することができない場合(例:炭疽又はペスト)には、疾患の類似性が非臨床データのみによって裏付けられることもありうる。

リアルワールドデータ(RWD)

小児用医薬品開発における外挿の概念及び計画のいずれにおいても、小児用医薬品開発における外挿を支持するために利用可能な RWD の範囲は進展している。したがって、小児用医薬品開発における外挿を支持するために利用可能なRWD の妥当性、関連性及び範囲について、規制当局と協議すべきである。小児用医薬品開発における外挿の概念の構築においては、RWDを情報源とするデータ(電子診療録、請求書のデータベース及びレジストリを含むがこれらに限定されない)を検討することも考えられる。外挿の計画における RWD の利用については後述する(4.3.2節参照)。

その他の情報源

外挿の概念を裏付けるために、専門機関により策定された臨床診療ガイドライン等、専門家の意見を用いることが可能である。専門機関が公開した臨床診療ガイドラインは、専門家による未公開の意見よりも有益な情報と考える。ただし、標準治療の違いによって、公開ガイドライン及び専門家の意見は地域間で異なる場合がある。一般的に、エビデンスの強さを評価せずに専門家の意見又は標準治療に依存することでは不十分である。

上述したデータの情報源及び種類には、それぞれ長所と短所がある。参照集団と対象集団との間の類似性を裏付けるデータの情報源及び種類の信頼性には、各情報源のデータの量及び質、並びにデータが評価されている背景の評価が必要である。外挿の概念を裏付けるエビデンスを用いることの妥当性を示すためには、すべてのデータに関する批判的かつ複合的な評価を実施すべきである。

3.5 外挿の概念における安全性に関する留意事項

安全性データの収集及び有害事象報告に関する全体的な計画の策定における基本的な留意事項は、他のガイダンスで論じている[ICH E2、ICH E6、ICH E11、ICH E11(R1)]。本節では、小児集団に関する安全性評価の全体的な策定の一環として、安全性の外挿に関連する個別の留意事項について記載する。

3.5.1 安全性の外挿

対象集団で収集する必要のある有効性データの適用範囲及び程度を定義するための、参照集団から得られたデータを適切に使用するための原則は、安全性データの取得にも適用できる(1.2 節参照)。安全性データの外挿は、対象となる小児集団に関連する参照集団における既知の及び/又は潜在的な安全性の問題に関する利用可能な知識に基づいて、考慮することができる可能性がある。その他の情報(例:非臨床、メカニズムに基づくもの)も、本分析の一環として考慮すべきである。これらのデータは、特定の小児集団において期待される医薬品の安全性プロファイルに関する確実性の向上、及び小児用医薬品開発プログラムにおいて更なる知識の不足に対処する必要があるかどうかの決定に役立つはずである。外挿の概念及び計画には、その妥当性及び安全性の外挿をどの程度行うかについての評価を含めるべきである。

対象集団に対する安全性データの外挿を支持するための安全性データの情報源及び量は、医薬品開発計画において早期に考慮されるべきである。参照集団には、同一医薬品又は同薬効分類の医薬品に曝露した小児及び/又は成人を含めることができる。また、異なる用法・用量で治療を受けた参照集団、及び/又は、異なる疾患/適応症に対して治療を受けた参照集団におけるデータも活用することができる。成人臨床試験への青少年の組入れ又は並行して試験を行うことにより、青少年集団に対して、より早期の安全性評価が可能になる(5.2 節参照)。青少年の安全性データの収集によって、より年少患者における医薬品の安全な使用を裏付けるうえで重要な情報が得られる可能性もある。

安全性の外挿の検討にあたっては、以下の質問について考慮すべきである。

  • 安全性の外挿の一環として、検討される小児患者の年齢範囲は?
  • 参照集団から入手可能な安全性データの量/質は?
  • 小児における安全性に関連する被験薬の既知のオンターゲット作用又はオフターゲット作用はあるか?
  • 小児集団における年齢特異的な短期及び長期の有害作用は、参照集団を対象とした試験で特定されていない場合もあるが、これらを説明するためのデータが必要か?
  • 参照集団と対象となる小児集団において329 予想される治療期間及び治療効果の大きさを比較する方法は?
  • 参照集団と対象となる小児集団において予想される薬物曝露量を比較する方法は?特定の PD 作用又は臨床反応を標的とするために必要な曝露量によって、対象となる小児集団に特異的な毒性が予測されるか?
  • 対象集団に活用可能な非臨床(メカニズムに基づくもの、in vitro、in vivo 等)の情報源による既知の情報はどのようなものか?
  • 参照集団と対象集団において、安全性の外挿を制限する可能性のあるその他の相違点(例:対象集団で使用されるが参照集団では使用されない、安全性シグナルの発現を助長する可能性のある基礎治療)はあるか?

外挿可能な安全性データの量は、これらの問いに対する回答によって異なる。ある特定の状況下では、有効性の外挿アプローチの一環として既に収集されているデータ以外に安全性データを追加で収集する必要はない。利用可能な安全性データが十分収集されており、かつ関連する安全性の問いに対処しているという信頼性がある場合、小児を対象とした承認前プログラムにおいて追加の安全性データを収集する必要はない[E11(R1)参照]。

3.5.2 安全性に関するその他の留意事項

安全性の外挿の評価が行われた後、既に収集された安全性データ以外に、追加の安全性データの収集が必要となる場合がある。そのような場合とは、対象集団における残存する知識の不足及び/又は年齢特異的な安全性の懸念がある場合(例:骨端成長線が閉鎖していない思春期前の小児における、コルチコステロイドによる成長速度の減少作用)である。したがって、対象となる小児集団で承認後に長期安全性データを収集すべきである可能性がある。

特定の状況下では、小児の安全性データの収集には特別の配慮がなされるべきである。例えば以下のような状況が含まれる。

  • その医薬品が新たな薬効群の新規化合物である場合
  • 既知のオンターゲットの年齢依存性の安全性の懸念がある場合
  • 小児において特に重要な、参照集団においてよく知られた安全性に関する重要な知見がある場合
  • その医薬品の治療域が狭い場合

最終的には、実施すべき試験のデザインは、対象集団における安全性に関して特定された知識の不足によって決定される。さらに、適切な科学的妥当性を伴わない任意の症例数を用いることは推奨されない。規制当局と早期に協議することが推奨される。

3.6 エビデンスの統合及び小児用医薬品開発における外挿の概念の構築

小児用医薬品開発における外挿の概念を構築する目的は、小児用医薬品開発における外挿の使用が許容されるかを判断するだけでなく、設定した仮定を記述し、知識の不足があれば詳述して、利用可能なエビデンスにおける不確実性の影響を評価することにもある。本節では、小児用医薬品開発における外挿の概念に含まれるべき情報の検討、統合及び提示に関する指針を示す。

既存のエビデンスの統合

既存のエビデンスの統合では、参照集団と対象集団における疾患及び治療効果の類似性を評価するために包括的な批評を行う。エビデンスを検討して統合した後、エビデンスの強さを評価し、エビデンスの不足を特定する。エビデンスの統合では、以下の質問に対処すべきである。

  • エビデンスの主要な部分はどのようなものか?また、エビデンスの臨床的意義は?
  • エビデンスの強さ及び限界はどのようなものか?
  • すべてのデータの情報源及び種類から得られた知見はどの程度一貫しているか?
  • データに存在する相違点は?また、これらの相違点は類似性の評価にどのように影響するか?

これら問いに回答することによって、必要な場合、外挿の概念を最終化する前にどのような追加の情報が推奨されるか、及び/又は外挿の計画においてどのような追加のデータを収集すべきかについての情報が得られるであろう。

エビデンスの統合に利用可能な方法論

エビデンスの統合には、既存データの定量的な統合を用いるべきである(4.2 節参照)。データの統合には、メカニズムに基づくアプローチ及び/又は経験的アプローチを用いることを考慮すべきである。集団レベルでのデータ(疫学、診断及び非介入試験のデータ)が入手可能な場合、参照集団のシステム生物学/薬理学データを含めることを考慮すべきである。また、参照集団における有効性データの統合にはメタアナリシスの手法を考慮すべきである。

異なる集団における疾患及び/又は治療効果の類似性を定量的に評価するために利用可能な方法は多岐にわたる。最適な方法は、類似性の評価において評価されるパラメータによって異なる。参照集団と対象集団における反応の類似性を評価するための頻度論的アプローチは、点推定値及びそれらに関連する信頼区間の比較によって得られる。各集団のパラメータを推定する際に一般に利用可能な精度のレベルは異なることから、多くの場合、単に信頼区間が重なることよって類似性を示すことは不適切である。疾患及び/又は反応の類似性を評価するために用いられたモデルの構築及びシミュレーションにおいて、不確実性について定義又は特定されている内容、若しくは定義又は特定されていない内容に関してコミュニケーションを取ることが推奨される。さらに、不確実性の定義又は表現について関連する仮定があれば特定すべきである。

また、類似性の評価のために利用可能なデータに関して、その他の探索的解析を考慮することも可能である。例えば、参照集団で実施された試験が年齢群ごとに組み入れを行った場合、各年齢群における反応の一貫性の評価を考慮することが可能である。部分集団全体における反応の一貫性を評価するために利用可能なアプローチは、他の ICH ガイダンス(ICH E17 2.2.7節)に記載されている。

参照集団と対象集団における疾患及び/又は反応の類似性の評価にあたっては、データにおける固有の不確実性を考慮すると、利用可能なデータからは最終的な結論を導き出すことができない場合がある。したがって、予定しているアプローチの許容性を治験依頼者が規制当局と協議することが推奨される。

知識の不足の特定

利用可能なエビデンスを統合後、知識の不足を特定すべきである。これらの知識の不足は、小児用医薬品開発における外挿の概念が最終化される前に対処すべきと考えられる。しかし、知識の不足によって、必ずしも小児用医薬品開発における外挿の概念を最終化することが不可能となるわけではない。小児用医薬品開発における外挿の計画では、これらの知識の不足を埋めるために収集すべきデータについて対処すべきである。知識の不足の特定では、以下の質問に対処すべきである。

  • どのような知識の不足が特定されたか?
  • これらの知識の不足は、小児用医薬品開発における外挿の概念が最終化される前に、追加のデータ収集を要するものであるか?その場合、これらのデータの収集時期及び方法は?
  • これらの知識の不足が小児用医薬品開発における外挿の概念を最終化することを妨げるものではない場合、小児用医薬品開発における外挿の計画のどの時点でどのようにこれらの知識の不足に対処するか?

3.7 小児用医薬品開発における外挿の概念の提示

小児用医薬品開発における外挿の概念の提示には、参照集団と対象集団における全体的な類似性、その時点での知識の不足及びデータの限界に関する要約を含めるべきである。小児用医薬品開発における外挿の概念の提示には、以下を含めるべきである。

  • 参照集団と対象集団における類似性及び相違点[疾患、医薬品(薬理学)、治療効果]に関するエビデンスの評価(すなわち、全体的な強さ及び弱さ)。これには、エビデンスの量及び質の評価も含めるべきである。
  • 知識の不足に関する評価、並びにそれらが外挿の概念の信頼性及び不確実性にどのような影響を与えるか。なお、要約には知識の不足に対処する時期及び方法を記述すべきである。
  • 入手可能な安全性情報の評価及びこのような安全性情報が外挿の概念にどのような影響を与えるか。

4 小児用医薬品開発における外挿の計画(Pediatric Extrapolation Plan)

小児用医薬品開発における外挿の概念を構築後、関連する試験を外挿の計画に詳述すべきである。外挿の概念で示したように、試験デザインは収集する必要のある情報を反映すべきである。本アプローチは、参照集団における有効かつ安全な曝露量と一致させること(Exposure matching)から、対象集団におけるコントロールされた有効性及び安全性データを取得することまで多岐にわたる。小児用医薬品開発における外挿の計画に含まれる試験のデザイン、実施時期、解析、解釈及び報告には、以下が考えられる。

4.1 投与量の選択

検討すべき適切な投与量の評価及び選択は、目標とする曝露量及び反応を得るために重要である。小児臨床試験の開始前に、医薬品及び/又はその活性代謝物に対して予測される曝露量及び反応に関与する、医薬品の作用機序、医薬品の薬物動態、並びに全ての臓器及び標的の生理学的成熟度の影響に関連する入手可能な科学的情報を評価すべきである(3.2 節参照)。投与量の選択に関する計画の一環として、その他の留意事項(例:安全性、剤形、最終的な用法・用量)も計画に組み入れるべきである。

参照集団で収集したデータから構築した曝露-反応関係は、目標とすべき曝露量の範囲の妥当性についての強固な薬理学的根拠を提供することができる。関連知識及び利用可能なモデルを組み込んだその後のシミュレーションにより、用量選択のための情報を得ることが可能である(4.2節参照)。

参照集団を対象としたプログラムでの安全かつ有効な投与量の特定において、必ずしも曝露―反応曲線が必要ではない又は示されない場合もあることに注意すべきである。そのため、小児における曝露―反応曲線の確立が必ずしも必要とはならない。しかし、参照集団において明らかな曝露―反応関係がないことや参照集団及び対象集団において類似の曝露―反応曲線が認められないことは、小児用医薬品開発における外挿の計画で投与量を選択する際に曝露量を一致させる方法を使用できなくするわけではない。そのような状況下での曝露量の一致に基づく投与量の選択は、合理的かつ実用的であり、目標とする薬物反応で同様の反応が得られる可能性が高いという予想に基づいている。さらに、小児患者を治療域以下の投与量へ無作為割付することは非倫理的であり、利用可能な安全性データが高い投与量/曝露量での評価を支持しない場合もある。

小児の投与量の選択では、小児を対象とした有効性/安全性試験での更なる評価のために、参照集団における安全かつ有効な既知の曝露量と類似する曝露量に照準を合わせることが多い(4.3 節参照)。このような場合、参照集団のデータは対象集団における投与量を予測するのに十分であることが多い。したがって、ある年齢範囲での個別の PK 試験は必ずしも必要ではないと考えられる。小児を対象とした有効性/安全性試験の一貫として、スパースサンプリングにより確認用の PK データを収集してもよい。ただし、ある特定の状況(例:治療域が狭い医薬品、非線形の PK を示す医薬品、及び/又は疾患が当該医薬品の PK に及ぼす影響に参照集団と対象集団において潜在的な相違点がある医薬品)では、個別の PK 試験が必要となる場合もある。最後に、対象疾患を有する成人の参照集団における PK データが入手可能であり、その曝露量が対象疾患とは異なる疾患を有する小児の参照集団で認められた曝露量の範囲内である場合、対象集団における追加の PK 評価は必要とされない場合もあるが、このアプローチは対象疾患が当該医薬品のPKに及ぼす影響の知見に依存する。

4.1.1 用量設定データはいつ収集されるべきか?

小児用医薬品開発における外挿の計画の一環として、用量設定データが必要となる場合がある。そのような状況には、疾患の類似性及び/又は治療効果に不確実性がある場合、標的の発現における年齢に関連した潜在的な相違点がある場合、又は薬物の全身曝露量と治療効果に相関関係が認められない場合(例:局所作用薬)が含まれることがある。曝露―反応の検討は、臨床エンドポイント又はバイオマーカーの反応に依存することがある(4.3 節及び 4.1.2 節参照)。バイオマーカー及び疾患の経時的変化に応じて、異なる程度のバイオマーカー/臨床的反応が認められるような用量設定、又は同一患者で標的としたバイオマーカーに対する効果が得られるまでの用量漸増を考慮してもよい。

4.1.2 バイオマーカーの使用

利用可能な場合、成人及び小児の両方の医薬品開発プログラムを支援するために使用可能であり、また、小児の疾患進行及び/又は治療効果を特異的に追跡するバイオマーカーが望ましい。バイオマーカーの実測値の推移を補足するものとして、治療効果におけるそのようなデータを記述する生理学的及び/又はメカニズムに基づく説明は非常に有益である。生理学的薬物速度論(PBPK)モデリング及び定量的システム薬理学(QSP)モデルのようなモデリング&シミュレーションの手法は、小児を対象としたバイオマーカー戦略及び臨床エンドポイントの選択を裏付けるために有用な場合がある。

バイオマーカーの検証は必要な場合とそうでない場合があるが、検証されたバイオマーカーを使用する場合は妥当性を示す必要性が軽減されると考えられる。また、方法論上の留意事項(例:欠測値の影響、仮定からの逸脱に対する感度分析の結果)も提案されるエンドポイントの評価に含めるべきである[ICH E9(R1)参照]。

対象集団における主要解析として、バイオマーカーの使用が予定されているが参照集団では評価できない場合、変数間の関係性を理解するために、対象集団における関連する臨床転帰を少なくとも評価すべきである。

4.1.3 投与量の選択に関するシナリオ

4.1.3.1 有効性を確立するために PKデータのみが必要とされる場合

1)参照集団と対象集団における疾患の類似性を裏付ける強固なエビデンスがあり、かつ 2)参照集団の曝露量によって、対象集団で類似の反応が得られる強固なエビデンスがある場合(例:感染症、部分てんかん発作)、小児用医薬品開発における外挿の根拠として、参照集団の有効曝露量を目標とすること(すなわち、曝露量を一致させること)は妥当と考えられる。

対象集団の曝露量を一致させることを目的とする試験での初回投与量の選択を支援するために、モデリング&シミュレーションの戦略を適用すべきである(4.2 節参照)。体重に基づくクリアランス及び分布容積の変化を説明するため、並びに様々な年齢/体重群において一貫した曝露量を維持するために、アロメトリックスケーリングを使用することができる。モデルでは、成熟度等、曝露量の変動の一因となる可能性のあるその他の因子も考慮すべきである。さらに、モデルに基づいた投与量の選択には、設定した用法・用量の実施可能性及び実用性の評価を含めるべきである。例えば、配合剤、服用容量の制約及び医薬品と医療機器の組み合わせは用法・用量に影響を及ぼす可能性がある。対象集団の PK データが得られた時点で、添付文書(案)の最終的な用法・用量を選択する前に、提案する用法・用量をシミュレーションの手法によって再評価すべきである。

エンドポイント:目標曝露量の指標

小児用医薬品開発における外挿の戦略が対応する成人の曝露量に依存する場合、目標曝露量の指標、範囲及び許容基準を事前に特定すべきであり、また、疾患、治療レジメン、投与経路及び剤形の状況を定義すべきである。目標曝露量の指標は、治療反応(有効性及び/又は安全性)に関連する曝露量の範囲に基づくべきであり、参照集団における確立された曝露-反応関係又は実測データから導き出せる。目標曝露量の指標は治療反応に関連した指標を選択すべきであり、作用機序及び参照集団の曝露-反応関係において既に確立された指標に基づいて(これらに限定されない)、十分な考察及び妥当性を示すべきである。曝露量に関する複数の指標を提示することが役立つ場合は多い。例えば、AUC0-t 又は Cmin は有効性と相関するが、Cmax は安全性においてより有益な情報を与えるかもしれない。全身曝露量と有効性に相関が認められない場合(例:ほとんどの局所作用薬)、反応に関する追加の評価が必要となる場合がある(4.1.3.2節及び 4.3節参照)。

症例数

小児 PK 試験の症例数は、試験の目的を達成するために十分であり、かつ定量的な方法(モデリング&シミュレーション及び/又は統計手法)に基づくものとすべきである。適切に代表する部分集団(例:体重範囲、年齢範囲)を考慮し、妥当性を示すべきである。目標適応症における症例数の妥当性及びその実現可能性には、以下を含めるべきである。

  • 特定の体重/年齢範囲の患者の組み入れ可能性
  • クリアランス及び分布容積等、重要な PK パラメータの精度を小児集団で実証するための症例数の適切性
  • 事前に規定した目標曝露量の範囲(例:参照集団における PK 指標に関する四分位範囲)に対応させるための症例数の適切性
  • 症例数を決定するために用いる方法論

PK 用検体の採取時期及び回数の妥当性を示すために、至適デザイン及び/又は臨床試験シミュレーション等のモデリング&シミュレーションを実施すべきである。検体の採取時期は、可能な限り臨床診療に合わせるべきである[ICH E11(R1)2.4.1 節参照]。

解析及び報告

対象集団及び参照集団における曝露量データを様々な形で提示して、規制当局が意思決定する情報として利用できるようにすべきである。小児用医薬品開発における外挿の場合、すべての医薬品及び薬効群のための単一の許容限界を設けることは(生物学的同等性試験と比較して)、意義のあるアプローチとならない。AUC 及びCmax等、曝露量の重要な指標における平均値の差に関する信頼区間の評価は、許容可能なアプローチとなりうる。選択した信頼区間の境界値には、小児における特定の適応症に対する医薬品の治療域及び医薬品のリスク-ベネフィットの背景を反映すべきである。

一般に、成人及び小児における曝露量の実測データのみの記述的な比較よりも、モデルに基づく比較(利用可能なあらゆるデータを統合できる)が望ましい。また、曝露量の類似性の確立にあたっては、平均値のみを比較するのではなく、個体間変動も考慮する必要がある。異なる年齢及び/又は体重範囲における、事前に規定した曝露量の範囲内(又は範囲外)にある被験者の割合についてのシミュレーションは、曝露量の類似性に関してより意義のある評価を提供する可能性がある。

一般に、小児患者における PK に影響する最も関連のある共変量は体重である。より年少の患者(例:乳児及び新生児)では、関連する臓器の成熟度を説明するうえで、体重に加えて年齢も重要な共変量である。

事前に定義した曝露量の関連指標は、体重及び/又は年齢に対して連続的尺度で図示すべきである。関連する年齢及び体重範囲は、重要な共変量(例:投与量、年齢、体重)が明確に視覚化できるように図及び表で示すべきである。また、成人集団における参照範囲(例:実測又はシミュレーションによる予測データに関する分布の中央値及び分布の外側のパーセンタイル)も図及び表で示すべきである。

4.1.3.2 有効性を確立するためにバイオマーカーに対する効果が必要な場合

曝露量を一致させるだけでは有効性を確立するのに不十分な場合、外挿の計画の一環としてバイオマーカーを用いることができる。使用する場合は以下のとおりである。

  • 代替エンドポイントとして検証されたバイオマーカーを用いることが推奨されるが、必須ではない。
  • バイオマーカーのエンドポイントの選択は、参照集団及び対象集団で入手可能なデータにより裏付けられ、外挿の計画でその妥当性が示されるべきである。
  • 参照集団の臨床的有効性と相関する因果経路上のバイオマーカーは、多くの場合、受け入れ可能であり、対象集団との関連性に関しても妥当性を示すべきである。
  • バイオマーカーと臨床的有効性における定量的な関係を推定するために、モデルを用いることができる(3.6節参照)。

バイオマーカーに対する効果を達成する投与量/曝露量を用いるためには、参照集団におけるバイオマーカーに対する効果と有効性に関係があることについて、信頼性が得られていることが重要である。モデルを用いることで、選択したバイオマーカーのメカニズムの基礎を検討することができ、バイオマーカーのデータ解析が容易となり、参照集団におけるバイオマーカーと有効性の関係の裏付け及び/又は確認に必要なデータの収集を最適化できる可能性がある(4.2節参照)。

症例数

PK/バイオマーカー及びバイオマーカーのエンドポイントに関する症例数を求めるには、定量的な方法(モデリング&シミュレーション又は統計学的手法)を用いるべきである。試験の症例数は、PK 及び PK/PD 等の主要な決定要因における変動により異なる可能性がある。PK 及びPK/PD に関する被験者ごとのデータ取得の時期及び回数を考慮することによって、適切なサンプリングを決定すべきである。

解析及び報告

解析に用いるデータは、解析の目的、すなわち対象集団と参照集団におけるバイオマーカーに対する効果の比較に関連する重要な要素に着目して記述すべきである。バイオマーカーに対する効果について、参照集団と対象集団における類似性に関する意義のある評価が得られる治療域を事前に定義すべきである。

結果は、適切な図表を用いて、例えば臨床的な解釈に関する例示的なプロットにより、要約すべきである。結果の臨床的意義は、感度分析(4.1.3.1 節 解析及び報告を参照)の影響を含めて考察すべきである。解析及び報告によって、有効な投与量を確立する用量-曝露-反応関係を確認すべきである。

4.1.4 その他の留意事項

本ガイドラインで強調されているように、小児用医薬品開発における外挿は連続したものとして考慮されるべきである。このような連続性のため、策定された外挿の計画の種類において、重複する部分が生じる可能性がある。例えば、外挿の計画には主要目的として対象集団におけるPKの収集のみが求められるシナリオも含まれるが、「PKのみ」のアプローチでの信頼性を高めるために追加で副次的な臨床アウトカムの測定が用いられる可能性もある。単群 PK/PD 試験と、臨床的有効性のエンドポイントに依存する単群非対照試験(4.3.1 節参照)のデザインにおいては重複する部分が生じる可能性がある。最終的には、外挿の計画に用いる個別の試験デザインは、外挿の概念に基づいて妥当性が示されるべきであり、規制当局と協議すべきである。

4.2 モデルに基づくアプローチ

モデリング&シミュレーションによるアプローチは、例えば試験デザインの検討や検討のための情報を得たり、推奨用量を算定したり、感度分析を実施したりするために用いることができる強力な手段である。意義のある関係(例:用量-曝露、曝露-反応)の定量化は、投与量の選択を裏付けるシミュレーションを行うための重要な基礎となる。さらに、関連する PK 又はPK/PD のエンドポイントに関する治療域のシミュレーションを、小児臨床試験の実施前に探索することができる。モデリング&シミュレーションは、小児臨床試験の終了後、小児用医薬品開発における外挿の概念を検証するために用いることができる。シミュレーションが規制当局の意思決定に使用される場合、モデルがシミュレーションの目的に適合していること並びにモデルの仮定及びシミュレーションの設定が明確に報告されていることについての情報を提示することが重要である。通常、この情報は、治験依頼者が内部文書として策定するモデリング&シミュレーション計画の形で提示されるが、規制当局との協議にも適している。

様々なデータの情報源の利用可能性により、部分的に、成人データに依存するよりトップダウンのアプローチ(例:従来のPK/PD、母集団に基づくPK/PD)と物理化学的、in vitro 及び非臨床のin vivo データに依存するボトムアップのアプローチ(例:PBPK、QSP)を含む方法論的アプローチが決定される。ADME を予測するため、注目すべきデータには、医薬品の物理化学的特性、個々のPK 特性を記述するin vitro データ、非臨床のin vivo 試験の PK/PD データ、及び成人のすべてのPK/PDデータが含まれる。

既存のモデル(例:母集団 PK、PBPK、母集団 PK/PD モデル)を用いる場合、関連する体格及び臓器の成熟度等の対象集団に特有の背景を当該モデルに組み込むべきである。利用可能なデータ及びモデリングの目標に応じて、参照集団からの情報を対象集団の解析に組み込むために使用できる手法は複数あり、例えば、参照集団に基づくモデル、併合データセットによる解析又はモデルのパラメータの事前分布を用いたベイズ流のアプローチが使用できる。

モデルに基づく評価を行う場合、モデルの構成要素には、時間依存性とともにモデルの構造でとらえる必要のある複雑な相互関係(例:パラメータ及び/又は仮定の相関)がみられる場合がある。これらの特徴は最初にモデルに組み込んでおくべきである。モデルの構造又はデータセットの基礎となるモデル式及び仮定を明確に示す必要があり、そうすることで、全体的な戦略、モデル予測及び不確実性の要素に対するそれらの関連性を適切に評価できる。すべてのデータ及びモデルの要素が等価というわけではないため、仮定の検証はあらゆる外挿の実施に関して重要な要素であり、解析計画及び報告に組み込まれるべきである。モデルの仮定の適用範囲を考えると、仮定の検証の実施について十分に評価するためには、複数の専門分野からのインプットが必要である。

異なる情報源における不確実性とばらつきを識別することが重要である。例えば、個々人で採取された検体には固有の変動(すなわち被験者間変動)があるが、これは生物学的現象であり、その変動の程度はデータによって直接裏付けられる。また、直接評価することはできないがデータの内容やその欠如によって影響を受ける、モデルパラメータにも不確実性がある。追加データの収集は、これらの推定値の精度を向上させることに役立てることができる。また、選択した値を裏付けるためのデータがより限定的である場合やデータがない場合、及びその選択が本質的に不確実であり、ある程度の任意性がある場合に指定しなければならないパラメータもある。これらはすべて、結果の全体的な不確実性の一因となる可能性があり、これらが有する可能性のある様々な寄与については、検討の過程で対処して妥当性を示すべきである。

639 4.3 有効性試験

小児用医薬品開発における外挿の計画での有効性データを取得するために、臨床試験が必要とされる場合、最も重要なデザイン上の決定事項の一つは対照群の選択である。選択肢には、無作為化同時対照試験、外部対照に対する正式な統計的比較、又は単群試験が考えられる。選択は、小児用医薬品開発における外挿の概念で特定された科学的疑問によって影響される。

4.3.1 有効性に関する単群試験

ある状況では、必要とされるエビデンスを取得するうえで、単群試験が最も適切な方法と考えられるだろう。これは、例えば、参照集団における標準のエビデンスが単群試験である場合に該当するかもしれない。試験デザインにあたっては、有効性の主要目的の評価方法を、事前に規定した閾値を用いて定義すべきである。

閾値に達するようにする、あるいは十分な推定精度が得られるようにするように、例数設計を行うべきである。外部データは、試験結果を説明するために用いることができる可能性がある(例:有効性の外部データとの正式な比較が必要ない場合に、現行の臨床診療と照らして試験結果を理解するために、公表文献を用いる)。

4.3.2 外部対照試験

状況によっては、臨床試験における正式な対照として外部データを用いることが可能かつ適切な場合もある。外部データとして、参照集団の対照群、他の無作為化比較試験(RCT)の関連する対照群、又は対象集団におけるリアルワールドでのエビデンスからの情報源がなりうるかもしれない。これらの情報源以外、例えば、異なる小児集団、異なる疾患又は異なるエンドポイントが使用されている場合の外部データの利用にはより多くの課題があり、その妥当性を示す必要がある。

無作為化同時対照を用いないその他の試験と同様に、因果推論を導き出すことにはより多くの課題がある。データを当該試験外のデータ情報源と直接比較するため、集団間の相違に対処するための適切な統計手法を用いるべきである。これらは非無作為化対照試験ではあるが、依然として対照はあるため、単に閾値と比較する方法とは異なることを考慮することが重要である。

4.3.3 有効性に関する同時対照試験

状況によっては、現在までのデータの取得状況と小児用医薬品開発における外挿の概念次第で、小児用医薬品開発における外挿の計画の一環として、ベネフィットとリスクの結論を得るための有効性に関する無作為化比較試験が必要になることもある。小児用医薬品開発における外挿の概念に基づき、比較対照試験の必要性及び外挿可能性により、試験デザインは参照集団で求められた試験デザインとは異なるものとなる。これにより、当該試験デザインでの偽陽性率、偽陰性率及び症例数の関係は、参照集団におけるそれらの関係と同じではなく異なる。症例数が限定される場合、偽陽性及び偽陰性の結果に関する相対的重要性を慎重に考慮すべきである。

外挿の選択肢は、従来の方法(例:無作為化比較試験から頻度論的方法で得られた p 値が0.05 未満)によるのではなく、データ取得に用いることが可能である様々なデザインの選択肢から成ると考えられる。小児用医薬品開発における外挿を用いると、独立した有効性試験で期待される症例数よりも症例数は少なくなる。もし試験が 0.05 より大きい有意水準により緩められた成功基準に合うように検出力が確保されるのなら、その妥当性は事前に示されるべきである。

実対照試験のもとでの別の方法としては、特に目的がその試験のみで有効性を示すのではなく、外挿の概念に基づく事前の期待に沿った有効性を示すことである場合、慣例的な第一種の過誤確率は保ったままで、成人を対象とした新規医薬品開発において通常用いられる非劣性限界を広げることも考えられる。当該試験で得られた点推定値が参照集団のそれと一貫していることが重要となる。

4.3.4 外部データの統合

小児臨床試験の解析に組み込む情報を特定する際は、事前に規定した選択基準を用いた系統的探索によって、適切なデータを特定すべきである。理想的には、活用する情報源について事前に規制当局と合意しているべきである。ただし、外部データ自体が当該時点で入手できない場合もありうる。例えば、対象集団の試験と並行して参照集団で実施中の試験からデータを取得する、又は同一試験の各年齢群のデータを活用する場合である。

解析に活用できる情報の種類には、個々の患者データ及び/又は他の情報源からの集計データが含まれる。参照集団の個々の患者データを利用することにより、ベースラインの予後因子の分布を対象集団と比較することが可能となる。参照データを収集する試験と対象集団で取得したデータとの潜在的な相違点は、解析において可能な限り補正及び対処することができるかもしれない。

4.3.5 参照データの使用に関する影響の定量化

小児臨床試験の解釈を助ける上で、デザイン及び解析に用いられる利用可能な情報量を事前に把握することは重要である。特に、参照集団で取得されたデータのうち、外挿の実施に用いられているデータの量を知ることが重要だが、参照集団で取得されたデータの対象集団で取得されたデータ量に対する相対的なデータの量を知ることも重要である。利用可能な情報(参照データに基づくもの又はモデリング&シミュレーションによるアウトプットに基づくもの)を統計学的分布として要約する場合、有効サンプルサイズ (effective sample size) は使用されている情報量を記述するのによい方法である。

ベイズ流の方法論を用いる場合、異なる方法で事前情報を用いると (例えば、混合事前分布(mixture prior) あるいはべき乗事前分布 (power prior)) 、モデルで使用されるパラメータの選択にも依り、有効サンプルサイズが異なる。このような方針を採用する場合、これらのパラメータの値が異なる下での有効サンプルサイズを検討する感度分析は、デザインの特性を理解するうえでより有用となる。使用する方法にかかわらず、予定している情報活用の方法は事前に規定すべきであり、活用する情報量の違いが動作特性に及ぼす影響を理解するための感度分析は、デザインの特性を理解するうえでより有用となる。

場合によっては、参照データをそのまま使用することは適切ではなく、対象集団により近づけるようにデータをモデル化すべき場合がある。これは、測定された共変量によって、疾患において存在する既知の相違点(例:重症度)の定量化及び予測が可能で、外挿の概念が依然として適用可能な場合に該当する。その他の状況では、試験デザインにおける既知の相違点は存在する(例:対象集団で測定されるエンドポイントが異なる、又はエンドポイントの測定時点が異なる)が、外挿可能な程度に疾患が類似していると考えられる場合がある。こういった状況での参照データの使用方法は、疾患、薬理学及び治療効果の類似性の程度に応じて、個別に考慮する必要があるだろう。

対象集団の主要エンドポイントが参照集団の主要エンドポイントでない場合であっても、バイオマーカー、代替エンドポイント又は臨床的エンドポイントを対象集団の主要エンドポイントとして用いて、小児用医薬品開発における外挿の計画の論拠とすることが可能な場合もある[ICH E11(R1)5.1.1 節参照]。このシナリオでは、予定しているエンドポイントと参照集団における有効性の主要エンドポイントの相関の安定性を評価すべきである。適切な場合には、小児用医薬品開発プログラムに組み込む前に、成人の医薬品開発プログラム内で想定される小児でのエンドポイントについて評価を開始しておくのが堅実であろう。

4.3.6 小児臨床試験の提示及び妥当性の確認

外挿の計画における、計画された試験デザイン全体を示す図は、特にデザインが複雑な場合に有用である。これは、例えば、アダプティブデザイン又は臨床開発の各段階で様々な側面を評価する複数の段階を有する試験の場合に該当すると考えられる。試験デザインを評価する際、事前に規定した基準に基づいて、どのような想定されうる結果が試験を成功に導くのかを特定することは、試験の成功を宣言するためにはどの程度の治療効果が試験で観測される必要があるかを理解するのに役立つ可能性がある。最も妥当な閾値について不確実性がある場合、様々の重要な閾値に関する表又はプロットを用いることが有益と考えられる。

ベイズ流デザインを用いる場合、完全な動作特性を示すべきである。加えて、試験データ単独の場合の結果も示すべきである。

4.3.7 解析、報告及び解釈

頻度論的デザインを用いる場合、標準的な両側有意水準である 5%以外の閾値を採用するのであれば、事前に合意が得られているべきであり、採用した閾値と比較した頻度論的解析によって、小児用医薬品開発における外挿の概念の妥当性が示される。参照集団のエンドポイントが対象集団と同じである場合、理想的には、参照集団と同じ解析方法を対象集団で用いるべきである。参照データと対象データを併せて正式に解析することが妥当な場合、参照データと対象データを併合する頻度論的方法のメタアナリシスを実施することができるかもしれない。

ベイズ流のデザインを用いる場合、そのことは外部データの活用を明示していることになるが、解析にはより多くの選択肢がある。このような解析は事前に規定すべきであり、データの取得に応じて更新されるべきである。動作特性と、基礎となるパラメータや仮定との関係をよりよく理解するために、視覚化することは有益である。ベイズ流の解析の結果による事後分布をプロットすることで、ベイズ流解析により得られた分布の要約統計量をよりよく説明することができる。試験の外部データを解析に用いる場合、報告書にこれについて明示的に記載し、当該データが最初に取得された方法及び時期、報告された場所を、当該データを用いることが適切であると考えられる理由についての妥当性と合わせて論じるべきである。

理想的には、記述されかつ事前に規制当局の合意が得られている場合に、成功基準が試験の解釈の一助となる。成功基準は、p 値、又は、参照データを明示的に利用する場合はベイズ流の成功基準(例:限界値が信用区間に含まれないこと、又はある治療が他の治療よりも、少なくとも事前に規定した量より優れている確率)が考えられる。2 つ以上の成功基準が適切である場合も考えられる。例えば、使用する非劣性限界が成人で許容される値よりも広い場合、例数や分散に合わせた非劣性を示すために必要な治療効果の点推定値を指定することもありうる。これは、期待される治療効果を追加的に再確認することにより、有効性を示す上で役立つ場合がある。対象データの参照データに対する類似性の程度や類似性を定義する指標の使い方を理解することは重要である。試験で観察されたデータが参照する観察されたデータと類似していない場合、小児用医薬品開発における外挿の概念の適用可能性、及び活用が妥当とみなされるデータが制限されるかもしれない。

ただし、有効性の点推定値において、対象集団のデータが参照集団よりも大幅に優れているが、症例数が少ないために参照集団データの活用なしでは統計学的に有意ではなかった場合、肯定的な結論を出すために当該参照データに与える必要のある重みの程度を理解することが関心事となる場合がある(すなわち、tipping point analysis を用いる)。

統計モデルが複雑になるほど、また仮定を必要とするパラメータが多いほど、適切な感度分析やより広い範囲の感度分析の必要性が高まる[ICH E9(R1)]。これらの感度分析を事前に考察し、これらのパラメータの変化に対する主要解析の解釈の安定性を検討することは有益である。そのような解析は、主要な推定量に課された仮定及びデータについてのその他の限界を検討するために、慎重に選択すべきである。

小児臨床試験の解析における原データの活用法

使用する手法の決定にあたって、バイアス、検出力及び第一種の過誤確率の制御における兼ね合いを最適化する目的から、シミュレーションは解析方針の選択についての情報を得るための有用な手段となりうる。取得したデータがそれらに関する事前信念と類似していない場合に参照データの活用を制限することを目的とした様々な手法が存在する。例えば、多くの手法の中で 1 つを挙げると、頑健事前分布(robust prior)がある。これは 2 つの要素による混合事前分布であり、1 つ目の要素は原データに基づく情報を持つ事前分布、2 つ目の要素には情報源のエビデンスとは無関係の弱情報事前分布を用いる。妥当な情報活用が行われるように、弱情報事前分布は慎重に選択すべきである。混合事前分布において、情報を持つ事前分布への重みは、外挿の概念の妥当性及び許容性に関する事前の信念と考えることができる。重みが 1 に近づくほど事前の信念に対する信頼性は高くなる。上述の重みのパラメータ等、事前に規定するパラメータにおける小さ782 な変化が試験の動作特性における大きな変化につながる場合、選択した手法の安定性は十分でないかもしれない。

Tipping point analysis 等の感度分析は、情報源と対象集団のパラメータの類似性に関する事前の仮定の強さに対する結論の安定性を後ろ向きに評価する有益な手段となりうる。成人を対象とした無作為化比較試験、疫学研究又はレジストリデータ等、原データを複数の異なる情報源から得る場合、様々な情報源のデータの質は異なる可能性があり、新たな小児臨床試験に対するそれらの関連性も異なると考えられる。こういった場合、事前分布自体の構成及びデータを解析に含めるために用いる手法について慎重に考慮すべきである。

5 小児用医薬品開発における外挿の計画のその他の留意事項

5.1 安全性の計画

上述のように、外挿の概念には、安全性の外挿に関する考察及び参照集団から対象集団へ安全性情報を外挿することの妥当性に関する結論を裏付ける十分な根拠を含めるべきである(3.5節参照)。安全性データの収集方法には、回答すべき科学的課題、特定されている知識の不足、及び対象集団における医薬品の安全性を裏付けるために解決すべき不確実性を反映させるべきである。安全性の外挿の妥当性が示された場合であっても、対処する必要のある更なる安全性の問題がある可能性がある。開発中及び市販後の安全性情報収集計画を含む総合的な安全性の計画を外挿の計画に含めるべきである。

5.2 成人臨床試験における青少年の組入れ

成人臨床試験への青少年の組入れは、安全かつ有効な治療を青少年が受けられる時期を早めるだけでなく、必要とされる小児データの収集を加速する可能性がある。従来、小児臨床試験は、成人を対象とした開発の完了後及び/又は成人用医薬品の承認後まで開始されることはなかった。その結果として、小児への適応外使用により小児臨床試験への組入れが進まず、広く小児及び青少年までが有効な治療を受けられるようになるには更なる時間がかかることがある。疾患及び/又は標的に適した成人臨床試験へ青少年を組入れることによって、この問題に対処できる可能性がある。成人における有効性及び/又は安全性をより年少の小児に外挿するための橋渡しとして青少年の結果を用いる場合、より年少の小児と青少年における疾患及び治療効果の類似性、並びにあらゆる不確実性について対処すべきである。

成人(例:18 歳超)臨床試験に小児コホート(例:12~17 歳の青少年の部分集団)を含める決定は、疾患及び治療効果が青少年と成人の患者で十分に類似しているとの仮定に基づく。したがって、1 つの試験に青少年及び成人を含める目的を外挿の概念内で定めるべきである。一般に、青少年と成人の PK が類似しているために、青少年の用法・用量についての情報を得るための追加データは必ずしも必要ではない場合もある。その場合には、低体重の青少年に対する特異的な影響を慎重に考察すべきである。

疾患及び治療効果が十分に類似している場合、青少年及び成人集団を 1 つの有効性解析に併合することができるかもしれない。青少年の部分集団解析に関する目的及び統計手法は、特定された相違点又は不確実性のすべてに対処するために、慎重に考慮する必要がある。このような部分集団解析の解釈は慎重になされるべきであり、部分集団解析のみに基づく有効性(又は有効性がないこと)の外挿の結論の強さは限定的である場合がある[ICH E9]。

成人臨床試験に青少年を含めることに伴う倫理上及び運用上の課題には、以下のようなものが考えられる。

  1. リスクと潜在的ベネフィットの許容バランスの基準の違い、
  2. 青少年をプラセボ対照(成人臨床試験でより多く用いられている)の対象とすべきかどうか、
  3. 青少年のインフォームドアセントに加えて代諾者の許可の必要性、
  4. 青少年集団と成人集団での同一の主要エンドポイントの使用、
  5. 小児に特化した治験実施医療機関の必要性、
  6. 青少年を除外した小児のみを対象とした以降の試験に対する小児科の治験責任医師の参加意欲。

これらの課題に直面した場合、異なる試験デザイン(例:成人臨床試験と並行した、青少年を対象とした臨床試験の実施)を考慮する場合もある。しかし、青少年と成人被験者における疾患及び治療効果が十分に類似している場合、成人臨床試験に青少年を組み入れていない理由又は並行試験で検討していない理由に対する強固な正当性を示すべきである。

参照

「ICH E11A:小児用医薬品開発における外挿(案)」に関する御意見の募集について

-臨床試験

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