国際共同治験の計画及びデザインに関する一般原則
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1. 緒言
1.1. ガイドラインの目的
医薬品開発のグローバル化の進展と共に、国際共同治験で得られたデータが、医薬品の製造販売承認を得る主たる根拠として、各地域及び各国の規制当局に受け入れられることが重要となってきている。本ガイドラインの目的は、世界各地域での承認申請において国際共同治験の受け入れ可能性を高めるため、国際共同治験の計画及びデザインの一般原則を示すことである。本ガイドラインでは、戦略上の課題に加えて、検証的国際共同治験の計画及びデザイン上の課題を取り上げるが、E5、E6、E8、E9、E10 及び E18 など他の ICH ガイドラインと併せて活用すべきである。
1.2. 背景
医薬品開発のグローバル化の時代において、各規制当局から異なる要件、ときに相反する要件が求められることもあり、医薬品のグローバル開発が困難となる場合がある。同時に、各規制当局は、医薬品の承認審査において国際共同治験成績を評価する際に、ますます多くの課題に直面している。国際共同治験成績は、しばしばその医薬品開発プログラムにおいて事前に一致した規制当局の見解を得ることなく、複数の規制当局に提出されている。ある地域から別の地域への試験結果の外挿に関する課題については、ICH E5 ガイドラインで示されているが、現在、国際共同治験の計画及びデザインを取り上げた ICH ガイドラインはない。
本ガイドラインに準じて実施される国際共同治験では、全体集団において、安全性評価を含む医薬品の治療効果を評価することが可能となるだけでなく、内因性及び外因性民族的要因(ICH E5 ガイドラインに記載されている民族的要因)が治療効果に及ぼす潜在的な影響を検討することも可能となる。本ガイドラインに準じて適切にデザインされ実施される国際共同治験は、より効率的な医薬品開発を促進し、異なる地域の複数の規制当局に対して、製造販売承認申請を同時に実施する可能性を高めうるだろう。その結果、世界中で新医薬品へのより早期のアクセスが可能となるかもしれない。さらに本ガイドラインに準じて国際共同治験を実施することにより、医薬品の治療効果が地域間や集団間でどの程度変動するか、またこの変動が内因性・外因性民族的要因によってどの程度説明できるかに関し、単一の治験実施計画書の下で検討した科学的な知見がより多く集積すると考えられる。
1.3. ガイドラインの適用範囲
本ガイドラインでは、国際共同治験を、単一の治験実施計画書の下、複数の地域で実施される臨床試験と定義する。ここでいう地域とは、地理的な地域、国又は規制上の地域を指す(「3.用語集」の項参照)。本ガイドラインでは、医薬品の承認申請(効能・効果の追加、新剤形及び用法・用量の追加の承認申請を含む)又は製造販売後の要件の充足を目的として、複数の規制当局に提出予定の国際共同治験に主に焦点をあてる。本ガイドラインで取り上げたいくつかの課題は、臨床開発の初期段階、又は後期段階で行われる試験においても関連する場合がある。また、本ガイドラインは、主に生物学的製剤を含む医薬品を対象とするが、いくつかの項については、全ての開発プログラムには適用できないかもしれない(例えば、感染症予防ワクチンの用量設定には薬物動態(PK)は使用されない)。
1.4. 基本的原則
国際共同治験をデザインするための基本的原則を以下に述べる。後の項にてこれらの原則についてより詳細な説明を行う。
- 医薬品開発プログラムにおいて、本ガイドラインに準じて適切にデザインされ、実施される国際共同治験を戦略的に利用することにより、医薬品開発の効率を高めることが可能となる。国際共同治験は、複数の地域において同時期に製造販売承認申請を行うことを可能にし、これらの地域の規制当局による意思決定を支援し、その結果、世界中で新医薬品へのより早期のアクセスを可能にする場合がある。国際共同治験は、複数地域での承認申請が予定されている新医薬品の評価を行う際に、一般的に推奨される選択肢となりうるが、地域間差が試験結果の解釈に影響を及ぼす可能性について注意深く検討すべきである。
- 医薬品開発プログラムにおいて重要な内因性・外因性民族的要因は早期に特定されるべきである。検証的国際共同治験をデザインするより前の探索的な相において、これらの要因の潜在的な影響が検討可能であろう。これらの要因に関する情報は、治療効果への影響を評価できるように、検証的国際共同治験においても収集されるべきである。
- 国際共同治験は、治療効果が対象となる集団全体、具体的に当該試験に参加した地域に適用されるという仮定に基づき計画される。各地域への症例数配分を計画的に行うことにより、この仮定がどの程度正しかったかを評価できるようになる。
- 類似性に関する既知の知見に基づき事前に規定された、地域や属性別集団の併合は、各地域への症例数配分に柔軟性を持たせる一助となり、地域間の治療効果の一貫性評価の促進、そして、規制当局の意思決定を助けることにつながるかもしれない。
- 全体集団の治療効果に対する仮説検定や推定については、全ての関係する規制当局に受け入れられるよう、単一の主要な解析方法が計画されるべきである。地域間、属性別集団間の治療効果の一貫性を検討するための体系的な探索が計画されるべきである。
- 地域ごとに多様な試験実施上の慣例が存在することを踏まえると、全ての地域がICH E6 ガイドラインに従い、試験デザインと試験実施の質の高さを確保することは、試験結果を解釈可能とするために極めて重要である。治験計画立案段階から試験の質に細心の注意を払い、治験担当医師の訓練、治験モニタリングを行うことにより、国際共同治験を成功させるために必要な高い試験の質が一貫して維持されるであろう。
- 試験デザインに対する世界的なアプローチが、異なる規制上の地域を超えて受け入れ可能となるために、国際共同治験の計画段階において治験依頼者と各規制当局間の効率的な協議が推奨される。
2. 国際共同治験の計画及びデザインにおける一般的な推奨事項
2.1 開発戦略に関連する課題
2.1.1 医薬品開発における国際共同治験の意義
従来、医薬品開発は、特定の規制上の地域を念頭においた薬事戦略に焦点を当てて行われてきた。そのような状況において、国際共同治験は希少疾病(例えば、酵素欠損症)、特殊な集団(例えば、高齢者、小児)あるいは極めて多数の被験者が必要な場合(例えば、心血管系のアウトカム試験、ワクチン効果に関する試験)に、妥当な開発期間内で予定被験者数を組み入れるという観点で効率的な方法と考えられてきた。近年では、世界中の患者が医薬品をより早く利用できるように、世界規模での薬事戦略が臨床試験の効率的な計画及び実施を目的として活用されている。
国際共同治験により、多様な集団に対する治療の適用可能性を検討することが可能となる。単一の治験実施計画書を用いて様々な地域から得られたデータに基づき、医薬品に対する反応に影響すると考えられている内因性・外因性民族的要因を詳細に評価することができる。例えば、薬物の代謝酵素又はある薬物の標的分子における、遺伝的差異あるいは遺伝子多型の分布の違いによる治療効果への影響については、異なる内因性民族的要因を有する被験者が複数の地域から参加する、探索的あるいは検証的国際共同治験で検討することが可能となる。内因性・外因性民族的要因が及ぼす影響に関する知見を蓄積し、様々な地域の経験を全世界で共有することにより、新たな地域の国際共同治験への参加が促進されるかもしれない。
国際共同治験を実施する主たる理由は、全ての地域の被験者から得られたデータに基づき全体集団での治療効果を評価することである。しかしながら、内因性・外因性民族的要因が被験者の医薬品に対する反応に及ぼす影響について地域間で異なると予想される場合もあり、この点は、国際共同治験計画時に考慮されるべきである。治療効果に大きな違いが予想される場合、利用可能なデータを用いて、国際共同治験を実施することが適切かつ実現可能かどうかを検討すべきである。重要な治療効果の差が予想される場合であっても、慎重に検討した上で、ある地域あるいは地域の中の特定の部分集団を除外することにより国際共同治験が実施可能な場合もあるかもしれない。さらに、除外された地域において、疾患あるいは医薬品をさらに検討するための追加の戦略を考慮すべきである(ICH E5 ガイドライン参照)。国際共同治験が ICH E5ガイドラインに基づくブリッジング戦略におけるデータ源である場合、試験結果の外挿に際して、単一地域での試験に比べ、国際共同治験はより頑健な根拠を提供することができる場合がある。罹患率がある地域に偏っている疾患の治療あるいは予防のための医薬品を評価する場合などいくつかのケースにおいては、単一地域での試験が適切かもしれない(例えば、抗マラリア薬、局地的な流行に特化した感染症予防ワクチン又は地域特異的な分離菌株に対する抗生物質)。
国際共同治験は、医薬品の世界同時開発を促進し、また各地域で別々に実施される臨床試験の数を減らすことができ、このことが試験の不必要な重複を避けることにつながる。国際共同治験は、計画立案段階での十分な調整が必要であり、準備期間が長くなる可能性があるが、国際共同治験の活用は、複数の地域においてより早期の製造販売承認を促進することで、世界中での新医薬品のより早期のアクセスを可能とする道筋を提供し、その結果いくつかの地域では新医薬品導入の著しい遅延を避けることにつながる可能性がある。
図1に示したように、各地域で独立して実施される臨床試験と比べて、国際共同治験を利用することで、異なる地域での医薬品の同時開発が可能となる。図1はまた、検証段階のみならず、可能な場合、探索段階での一つの選択肢として、医薬品開発プログラムの全体的なデザインの中での国際共同治験の利用を例示している。関連する内因性・外因性民族的要因の早期の特定により、検証的国際共同治験の計画のための良い基盤を作ることができるであろう。
承認申請を支持する唯一の主要な試験を国際共同治験とすることが、妥当で効率的な場合がある。そのような場合には、承認を支持するために十分で頑健な根拠が国際共同治験より得られるようデザインすべきである。
要約すると、本ガイドラインに準じて適切にデザインされ、実施される国際共同治験を戦略的に利用することにより、医薬品開発の効率が高められ、多様な集団での治療効果の探索が可能になり、複数の地域における同時期の製造販売承認申請及びこれらの地域の規制当局による意思決定を実現できるであろう。したがって、国際共同治験は、複数地域での承認申請が予定されている新医薬品の評価を行う際に、一般的に推奨される選択肢となりうる。
2.1.2 GCP の要求事項と国際共同治験
国際共同治験に参加する全ての施設は、品質、倫理及び規制上適用される基準に適合しなければならない。具体的には、国際共同治験は、全ての地域及び施設で ICH E6 ガイドラインで述べられている GCP 基準を遵守して行わなければならず、これには実施施設が規制当局による GCP 査察に応じることができるようにすることも含まれる。モニタリング計画及びその他の品質確認手順は、被験者の権利、安全性及び健康、並びに試験結果の信頼性に対する潜在的リスクに対処するよう、予め規定され、実行されるべきである。例えば被験者の保持や有害事象報告といった試験中に発生する地域間差を監視し、その差の影響を軽減するために、国際共同治験では中央モニタリングやリスクに基づくモニタリングが特に有用であろう(ICH E6 ガイドライン)。適時かつ正確な情報伝達が、治験依頼者、治験管理チーム及び治験参加施設間で行われるべきである。
2.1.3 規制当局との相談
国際共同治験の治験依頼者は、関連する規制当局と科学的な側面について相談することが奨励される。この相談は国際共同治験の計画立案段階で行われるべきもので、開発計画全般に関する規制要件や製造販売承認を得るための国際共同治験データの受け入れ可能性を協議する。国際共同治験の計画立案段階の早期にこのような相談を実施することにより、複数の規制当局の意見を考慮することが可能となる。治験依頼者は、治験実施計画書及びその他の関連文書を準備しなければならないが、その際にどの規制当局からどのような助言を得たか、またその助言をどのように考慮に入れたかなどの情報を含めて相談資料を準備することが有用であろう。規制当局との相談は、治験実施計画書作成の様々な段階で必要となるかもしれない。試験計画に関する要求事項の国際調和を目的として、規制当局間でも科学的な議論を行うことが期待される。
2.2 臨床試験のデザイン及び治験実施計画に関連する課題
2.2.1 有効性及び安全性の地域間のばらつきとその影響に関する事前検討事項
国際共同治験の計画立案の段階において、その医薬品開発戦略における国際共同治験が果たす役割を決定する際には、地域間のばらつき、そのばらつきが内因性・外因性民族的要因によりどの程度説明できるか、及びそのばらつきが試験結果へ影響を及ぼす可能性を慎重に検討すべきである。内因性・外因性民族的要因について地域間差の考慮を容易にするため、国際共同治験を計画立案する際には、参加地域を代表する治験担当医師と専門家に相談することが推奨される。
地域間のばらつきを生じさせる潜在的な原因を理解するために、最新かつ適切なデータが用いられるべきである(例えば、開発早期の試験、同種同効薬の既存の情報)。過去のデータを用いる際は、これらのデータが現在でも科学的かつ方法論的に妥当であるか、また現在の治療環境上、適切であるかを考慮すべきである。このような地域間のばらつきの大きさは、検証的国際共同治験を計画立案する前に探索的試験で検討できるであろう。
医薬品開発プログラムにおいて重要な内因性・外因性民族的要因は、国際共同治験の計画時に特定されるべきであり、これらの要因に関する情報は、治療効果への影響を後に評価できるように、検証的国際共同治験においても収集されるべきである。ICH E5 ガイドラインでは、治療効果に影響する内因性・外因性民族的要因について述べられているが、国際共同治験という状況下では、試験全体の結果とは異なる治療効果を示す疑いがある地域を特定するために、以下に挙げる要因は特に重要であり、考慮されるべきである。
- 疾患の定義、診断法、及び特定のエンドポイントに対する理解が、地域間で異なる場合がある。このような差異は、選択・除外基準及び試験手順を詳細に定義することにより軽減できることがある。
- 医療習慣及び治療法は地域間で異なる場合があり、このような差異が試験結果や結果解釈に影響を及ぼす可能性がある。治験実施計画書を標準化し、各地域で治験を開始する前にその地域の治験担当医師と試験関係者に標準化された訓練を行うことにより、この地域間のばらつきによる影響はいくぶんか軽減されるかもしれない。
- 食事、環境要因、文化的又は社会経済的要因(例えば、避妊薬の使用、特定の投与経路への嗜好性)及び医療へのアクセスの差異が、試験結果に影響を及ぼす場合がある。それらは、被験者の組み入れ、様々な規則への遵守、被験者の治験への参加継続にも影響する可能性があり、適切な軽減策を検討する上で重要な情報となるだろう。
- 被験者の医薬品に対する反応は程度の差はあるが内因性民族的要因の影響を受けることがあり、このことが地域間のばらつきの原因となる場合がある。例えば、薬物代謝や受容体感受性の遺伝子多型(ICH E5 ガイドライン補遺 D に記載)、体重及び年齢が医薬品の PK-PD、並びに有効性及び安全性に影響する可能性がある。これは治験薬だけでなく、対照薬や併用薬にも当てはまることがあり、国際共同治験を計画する際には考慮すべきである。
治療効果における内因性・外因性民族的要因による影響の受けやすさが地域によって異なる場合があるが、これを理由に国際共同治験の実施断念を判断すべきではない。上記の要因による地域間のばらつきは、国際共同治験を適切に立案し、適切に実施することにより軽減できる場合もしばしばあるからである。必要に応じて、地域間のばらつきを軽減させるため、特定の地域に対する追加の措置(例えば、治験実施上、設備あるいは検査室の支援)や他の軽減措置を検討し、講じるべきである。しかし、地域間のばらつきの軽減の程度が試験結果の一般化可能性に影響を及ぼしうるかどうかを考慮することも重要である。
以上のような措置を講じても、依然として地域間差が存在する場合があるが、このような差は通常、潜在的な内因性・外因性民族的要因によって生じるものである。この意味で、地域は、治療効果の地域間差を引き起こす他の要因の指標であり、それらの要因はしばしば未知の(あるいは予期せぬ)ものである。このため、国際共同治験は通常、地域により層別化される(2.2.5 項参照)。図 2 は、疾患の重症度(図 2a)又は民族(図 2b)のような内因性・外因性民族的要因の分布が治療効果の地域間差として現れる様子を図示したものである。これらの要因によって、地域間で認められた見かけの差異を説明できる場合がある。図 2a は、治療効果が疾患の重症度に伴い増加し、疾患の重症度が地域によって異なる場合を示している。このシナリオでは、観測された治療効果の地域間差は地域間での潜在要因(疾患の重症度)の分布の差異により説明可能である。図 2b も同様で、この場合、治療効果の地域間差は地域ごとの民族分布の差異により説明できる。このような検討が行えるかどうかは、層別化や各地域への症例数配分が適切に行われているか否かに依存する(2.2.5 項参照)
2.2.2 被験者の選択
国際共同治験における被験者の選択は、地域間のばらつきの要因とその試験結果に及ぼす影響をよく理解し、可能な限り軽減するよう、慎重に検討されるべきである。全ての参加地域に受け入れられ、適用可能な、明確かつ具体的な選択基準及び除外基準を治験実施計画書に記載すべきである。
地域間で被験者の選択が調和できるように、関連する疾患ガイドライン等を利用して、疾患診断又はリスク集団の定義について統一的な分類及び基準を適用すべきである。被験者の選択に診断手法(例えば、生化学的検査、遺伝子検査)が必要とされる場合には、各地域において妥当性が確認されたツールや適格な検査施設がどの程度利用できるかも含めて、明確に規定すべきである。特に被験者の選択が主観的な基準(例えば、関節リウマチにおける症状尺度の利用)に基づく場合には、同一の手法(例えば、適切な言語により妥当性が確認された症状尺度あるいはスコア)を、全ての地域で共通して使用すべきである。このような措置を講じても、症状の報告は地域ごとに異なり、試験に参加する被験者背景に地域間差が生じる場合がある。このような地域の影響を軽減するために、訓練や他の方法を実行する必要があり、計画立案段階で地域間差について考慮すべきである。
妥当性が確認された画像診断機器やバイオマーカーの測定方法のような推奨されている方法は、それが被験者の選択のために用いられる場合には、全ての地域で利用可能であるべき、あるいは利用可能とすべきである。検体採取、取り扱い及び保存方法と同様に、画像診断方法も明確に定義され、必要とされる程度まで地域間で標準化されるべきである。
2.2.3 検証的国際共同治験で使用する投与量の選択
投与量の選択に影響を及ぼす可能性がある地域間差を特定するために、適切に計画された早期の開発プログラムを実行することが重要であり、そのプログラムには利用可能なパラメータを用いた PK 試験や PK-PD 試験が含まれる。PK や PK-PD への民族差の影響を理解するためのデータは、複数の地域でそれぞれ実施される単一地域の試験や、一つの地域で実施される多民族を対象とした試験から得られる場合がある。別の方法として、そのようなデータを効率よく収集し、PK-PD の地域間差をよりよく理解するために、開発早期での国際共同治験の実施も考えられるであろう。
十分に理解されていない民族差が想定される場合には(ICH E5 ガイドライン参照)、国際共同治験に組み入れる予定の主要な民族の集団で PK 試験を実施すべきである。PKの差異との関連が知られている要因に基づき定義される属性別集団間の PK を適切に比較することにより、異なる地域や異なる属性別集団で薬力学試験や用量-反応試験を実施する必要があるかを決定できるであろう。
PK 及び PD に対する遺伝的要因の影響を検討するために、開発早期の試験に組み入れられる被験者から遺伝情報(例えば、薬物代謝酵素の遺伝子型)を収集することが奨励される。このような早期のデータは、特定の遺伝子型を有する被験者が属性別集団として定義されるかもしれない将来の試験において、用法・用量を決定する際に有用な情報となりうるであろう。
母集団薬物動態解析やモデルに基づく手法(例えば、曝露-反応モデル)などを用いた用量選択のための戦略は、異なる集団における医薬品の反応に影響を及ぼす重要な要因を明らかにしたり、後に続く用量-反応試験における用量範囲を設定するために有用であろう。用量-反応試験は、幅広い範囲の投与量を検討対象とすべきであり、通常、検証的国際共同治験に組み入れる予定の集団を含めるべきである。しかしながら、PK-PD 及
び用量-反応に重要な地域間差が予測されないのであれば(例えば、その医薬品の反応が内因性・外因性民族的要因の影響を受けやすいとは考えにくい場合)、検証的国際共同治験に組み入れる予定の全ての地域の被験者から PK や PD 又は用量-反応データを収集する必要は必ずしもないかもしれない(ICH E5 ガイドライン補遺 D 参照)。
このような用量選択に関する戦略の受け入れ可能性は、予め関連する規制当局と協議されるべきである。一方で、大きな地域間差が予測される場合(例えば、その医薬品の反応が内因性・外因性民族的要因による影響を受けやすい場合)は、さらなる検討が必要となるかもしれない。このような検討には、特定の民族集団で実施される PK-PD 試験や用量-反応試験、あるいは用量反応性に対する内因性・外因性民族的要因の影響を詳細に評価できるような、より幅広い集団を対象に実施される試験が含まれるであろう。
(上述の試験から得られたデータに基づき設定される)検証的国際共同治験における用法・用量は、原則として参加する全ての民族集団で同一であるべきである。しかしながら、開発早期の試験データにより、ある民族集団で用量-反応や曝露-反応関係が明らかに異なることが示されている場合には、異なる用法・用量を用いることが適切な場合もある。この場合、その用法・用量が許容できる安全域内で、同様の治療効果をもたらすことが期待されることが前提であり、その用法・用量を用いることが治験実施計画書で科学的に妥当であるとされていることが必要である。また、異なる用量を用いる場合にどのように評価するかについては、個々の事例ごとに事前に慎重に計画し、解析計画に明記すべきである。
2.2.4 評価項目の選択
評価項目の選択及び定義には ICH E9 ガイドラインに規定される一般的原則が適用されるが、特に国際共同治験に重要な項目をここに記載する。
主要評価項目
主要評価項目はその治療の対象となる集団にとって適切なものでなければならない。国際共同治験では、試験に参加する全ての地域において適切であるかを、それらの地域の様々な医薬品、疾病及び集団の特性を勘案した上で、検討する必要がある(2.2.1 項参照)。臨床試験における理想的な評価項目は、臨床的意義があり、(例えば、規制当局の指針又は専門学会のガイドラインにより)実際の医療で受け入れられ、その治療の予
想される効果を検出する十分な感度及び特異度を有するものである。国際共同治験の場合、主要評価項目は、有効性あるいは安全性において、その国際共同治験が成功あるいは失敗したという解釈が地域間及び規制当局間で確実に一致するように、上記の基準を満たし、さらに関連する全ての規制当局によって受け入れ可能なものでなければならない。
主要評価項目を規制当局間で一致させることにより、単一の(主要)評価項目を評価するための試験全体の症例数と検出力を全体集団に基づいて決定できるようになり、またこれらについて規制当局の合意も得ることができる。十分に正当化された科学的又は規制上の理由により合意できない場合は、複数の規制当局による異なる要件を満たすように、該当する評価項目の項で対応を記載した上で単一の治験実施計画書を作成すべきである。この場合、規制当局ごとに異なる主要評価項目に基づき試験の成功が判断されるため、規制上の意思決定のために複数の評価項目について多重性の調整を行う必要はない。
国際共同治験では、主要評価項目の定義に関してさらなる考慮が必要となる場合がある。死亡率や他の直接測定可能な結果などの評価項目は明白な評価項目であるが、その他の評価項目については明確かつ統一された定義が必要である(例えば、無増悪生存期間)。国際共同治験で特に懸念されるのは、地域間で異なる理解や評価がされうる評価項目である。例えば、入院、精神症状尺度、生活の質の評価及び疼痛尺度などが挙げられる。このような尺度が正しく解釈されることを保証するために、国際共同治験開始前にこのような尺度の妥当性を確認し、関連する全ての地域に適用可能であることを十分に示すべきである。
国際共同治験の主要評価項目は、参加地域での使用経験が既にある項目とすべきである。国際共同治験に参加する一地域あるいは地域の一部でしか使用経験のない評価項目を主要評価項目に設定する場合、これから実施する試験でその評価項目の臨床的妥当性に関する更なる情報が得られるということを念頭に置き、主要評価項目としての受け入れ可能性に関し、科学的根拠に基づいて規制当局と協議・合意する必要があるだろう。評価項目の選択及び定義の他に、主要評価項目の評価時期及び評価方法についても規制当局の合意を得ておくべきである。
副次評価項目
試験の実施可能性を維持しつつ、試験実施の質を高めるために、可能であれば副次評価項目も一致させることが推奨される。しかし、場合によっては個々の規制当局がその関心及び経験に基づき異なる副次評価項目を提案する場合もある。このような場合でも、特定の地域の利害関係者(例えば、規制当局)のためだけに選択された評価項目も含めて、全ての副次評価項目を治験実施計画書に記載すべきである。複数の評価項目について多重性の調整を行う必要性(及び多重性の調整がもたらす影響)を減少させ、結果として、目的とした効果を示す可能性を高めるため、国際共同治験の計画立案段階において副次評価項目を可能な限り正確に記述し、被験薬の具体的な利点を示そうとすることは治験依頼者にとって有益である。
その他の留意点
評価項目によっては、正式なバリデーションの確認が必要とされない場合もあるが、異なる文化的状況で利用する際に、わずかな理解の違いにより影響を受ける場合もある。例えば、ある種の有害事象は、ある地域では他の地域よりもより鋭敏(例えば、より高頻度又は低頻度)に報告されるが、別の地域ではそうではない場合もあり、真の発現率の差ではなく文化的な違いによって異なる報告パターンが生じることもありうる。このような変数を国際共同治験の評価項目として利用する場合は注意深い計画立案が必要である。国際共同治験の治験実施計画書には、このような違いがデータ収集及び試験結果の解釈に及ぼす影響を最小限に留める方法を記載し、その方法の妥当性を説明すべきである。
ある地域又は少数の地域にとってのみ関心がある評価項目についても、国際共同治験の中で追加的に検討することは可能かもしれない。しかし、一部の地域のみで設定される評価項目の確認が国際共同治験全体の実施の妨げとならないように留意する必要がある。特に、被験者や治験関係者の追加負担やその他の評価項目に関する報告バイアスが誘発される可能性を検討し、一部の地域のみで実施可能か、又は別の独立した試験が必要かを決定しなければならない。
2.2.5 症例数設定
一般的な留意点
症例数設定において重要な留意点は、治療効果が対象となる集団全体、具体的に当該試験に参加した地域に適用されるという仮定に基づき、全体集団の治療効果を評価できるよう十分な症例数を確保することである。国際共同治験は、この仮定がどの程度成り立つかを評価するための貴重な機会となる。国際共同治験では通常、ランダム化と統計解析の双方において、地域による層別化が行われる。地域間の治療効果の一貫性を評価した上で、臨床的に重要な差異が観察された場合には、その差異が内因性・外因性民族的要因の違いに起因するかどうかを見極めるために、さらなる探索が行われるべきである(2.2.7項参照)。これらの留意点に関する検討結果は、国際共同治験の全体的なデザインに反映されるべきであり、症例数設定や各地域への配分に影響することになるだろう。
試験全体の症例数
一般に、国際共同治験の主要な目的は、国際共同治験の全参加地域における全被験者の治療効果の平均を評価(推定及び検定)することである。試験全体の症例数は、この目的を達成できるよう設定される。臨床試験で一般的に用いられ、また国際共同治験においても用いられる治療効果の例として、罹患率や死亡率のハザード比、(ベースライン値で調整された)平均血圧の群間差、好ましいあるいは好ましくない事象の相対リスクなどがある。
ICH E9 ガイドラインで述べられている臨床試験の症例数を決定するための一般的な原則は国際共同治験にも同様に適用される。これらの原則に加え、国際共同治験においては次の二つの要因が特に重要である。つまり、(i)国際共同治験に参加する全ての地域において臨床的に重要であると考えられる治療効果の大きさ、(ii)全ての地域の併合データにおいて予想される地域間の主要評価変数のばらつきである。これらの要因を考慮することによって、国際共同治験の症例数は、単一地域での試験に比べて増加することもある。
増加の程度は、特定の疾患や治験薬の作用機序、内因性・外因性民族的要因やその要因が各地域において被験薬の反応にどの程度影響を及ぼすかによって異なる。治験薬の開発早期の探索的試験において得られた、評価対象となる集団のデータは、症例数設定において重要な情報となるだろう。
各地域への症例数配分
国際共同治験は、地域間の治療効果の一貫性を評価できるよう計画されるべきである。ここで言う一貫性は、臨床的に重要な差異がないことと定義される。もし、臨床的に重要な差異が地域間で観察されている場合にも、国際共同治験は、この差異の原因となる因子についてさらなる検討を行うための貴重な機会となる。地域への症例数配分は(恣意的に定められた目標値ではなく)科学的根拠に基づいて行われるべきであり、一貫性評価を支持し、規制当局の意思決定に役立つ情報を提供できるよう計画されるべきである。
各地域への症例数配分は、地域ごとの有病率の違い、各地域の患者数及び予想される被験者の集積率、治療効果に影響を及ぼすことが既知である(あるいは仮定される)内因性・外因性民族的要因、各地域におけるこれらの民族的要因の分布、被験者の集積に影響を及ぼすと考えられるその他の試験実施上の留意点を考慮に入れて行われるべきである。これらの留意点をバランスよく考慮して地域への症例数配分を計画することにより、被験者の組み入れを適時に完了させ、国際共同治験の目的を達成することが可能となる。
国際共同治験における各地域への症例数配分について、一律に受け入れ可能あるいは最適な方法は存在しない。現在用いられている方法には以下のようなものがある。
- 比例配分:各地域の患者数や有病率に比例した症例数配分
- 均等配分:各地域への均等な症例数配分
- 効果の確保:全体集団の治療効果に対して特定の割合の治療効果が一つあるいは複数の地域で確保されるような症例数配分
- 地域の統計的有意性:各地域で統計学的に有意な結果が得られるような症例数配分
- 既定の最低症例数:ある地域への既定の最低症例数配分
1.の比例配分では、最も患者数の多い地域へ症例数配分が行われるので、被験者の組み入れが容易となり、他に障害がなければ、一般に被験者の集積が完了するまでの時間を最小限に抑えるであろう。この方法の欠点は、結果的にいくつかの地域では症例数が非常に少ない、あるいは、症例が全く組み入れられないという状況が生じ、他の症例数が多い地域の結果が試験結果を左右してしまう可能性があることである。2.の均等配分には、設定された試験全体の症例数の下で、治療効果の地域間差の検出力を最大化できるという利点がある。この方法の欠点は、特に国際共同治験の参加地域間で有病率や被験者組み入れの容易さが著しく異なる場合は、受け入れられないほど被験者の組み入れが遅延する可能性があることである。被験者組み入れを実施可能かつ適時に完了可能にし、各地域における薬効評価を行うための十分な情報を得ることができるように、比例配分と均等配分のバランスをとることが推奨される。
3.の全体集団の治療効果に対して特定の割合の治療効果を確保する方法は、国際共同治験に参加する多くの地域がこのような要求を行う場合には現実的ではない。4.の地域での統計学的有意な治療効果の確保を目指した症例数配分も現実的ではない。なぜならば、実施を困難にするほど症例数が増大する可能性があるし、国際共同治験を実施する意義自体に疑問を投げかけることになるからである。5.の各地域で既定の最低症例数を設定するという方法も、科学的な妥当性がないのであれば勧められない。
実際には、各地域への症例数配分は、科学的な留意点と実施上の留意点の双方を熟慮して行うことになるであろう。例えば、まず始めに対象疾患を有する患者集団を見出し、地域ごとの有病率や患者数を考慮に入れて地域への症例数配分を行う場合が考えられる。
この第一段階の症例数配分では、試験全体の目標症例数の組み入れが達成できるよう計画すべきである。つづいて、地域間の症例数に大きな不均衡が生じないように、また、地域間の治療効果の一貫性評価を支持するように、症例数配分が調整されるであろう。この調整では、各地域への症例数配分に柔軟性を持たせることができるように、いくつかの地域の併合(後述「併合された地域と併合された属性別集団」の項参照)が必要となる場合もある。この調整時に、科学的に妥当な各地域の目標最低症例数も考慮されうる。十分な正確性と精度を伴う意義のある記述的要約結果(例えば、フォレスト・プロット)が得られるように最低症例数を規定することも一案である。
また別の方法として、第一段階として各地域への均等配分を行い、第二段階として地域ごとの患者数、有病率及び試験実施上の留意点をうまく反映して配分割合の調整を行う方法も考えられる。いずれの方法においても、極端に被験者の集積が多い地域を作らないこと、試験結果が特定の地域の結果に左右されるような状況にならないよう、注意すべきである。
なお、各地域への症例数配分の方法は、上述の 5 つの方法に限らない。将来、国際共同治験における各地域への症例数配分に関する新しい方法が考案される可能性もあり、この分野でのさらなる進展が期待される。
併合された地域と併合された属性別集団
事前規定された地域や属性別集団の併合は、各地域への症例数配分に柔軟性を持たせる一助となり、地域間の治療効果の一貫性評価の促進、そして、規制当局の意思決定を助けることにつながるかもしれない。併合された地域と併合された属性別集団の定義については、第3項 用語集を参照すること。併合戦略は、治療効果や対象疾患に影響を及ぼすことが知られている内因性・外因性民族的要因の分布、これらの民族的要因の地域間の類似性に基づいて、正当化されるべきである。例えば、カナダと米国を北米地域として併合することは、医療実態や併用薬が類似しているため、しばしば正当化される。併合戦略を計画する場合は、治験実施計画書及び統計解析計画書に明記すべきである。
前述のとおり、地域は、しばしば潜在的な内因性・外因性民族的要因の代替としての役割を果たしており、それらの要因は地域や集団を互いに特徴づけるものである。試験計画立案時に、これらの要因に関する十分な知見が蓄積されているならば、地域に加えて、これらの要因に基づき属性別集団を定義し、新たに定義された属性別集団を層別化や解析に反映させることができるかもしれない。正式には、併合された属性別集団とは、当該医薬品の開発プログラムにおいて重要な一つあるいは複数の内因性・外因性民族的要因が、ある地域の被験者の部分集団と他の地域の被験者の部分集団で類似している場合に、これらを併合した部分集団をいう。
民族性は通常、地域の境界を超えて存在し、疾患あるいは治療効果に関連する重要なリスク因子となる可能性がある(2.2.1 項の図 2b に例示されている)。国際共同治験において、民族性に基づき地域をまたいで属性別集団を併合した場合、治療効果に対する民族性の影響を評価する一つの機会となる。北米や南米在住のヒスパニック、欧州や北米在住の白人などがその例である。他の内因性・外因性民族的要因(例えば、遺伝子型な
ど)に基づき地域の境界をまたいで属性別集団を併合する場合も考えられるであろう。
症例数配分においては、併合された属性別集団間での治療効果の差異に関する解析計画を考慮すべきであり、上述の各地域への症例数配分と同様の原則を併合された属性別集団に適用することも考えられる。なお、被験者の組み入れ状況を監視できるよう、また、地域や属性別集団を適切に代表する被験者が確実に組み入れられるよう、併合戦略を定義するために用いられる外因性・内因性民族的要因に関する情報は、国際共同治験に組み入れられる被験者から収集されるべきである。
症例数に関するその他の留意点
全体集団の症例数や症例数配分に影響を及ぼす要因については、国際共同治験に参加する地域を所管するそれぞれの規制当局と事前に合意しておくべきである。非劣性試験や同等性試験においては、これらの評価に関連するマージンについても、規制当局との合意が必要である。規制当局間での合意形成のために十分な努力を行っても、適切に説明された科学的な根拠があり、それぞれの規制当局からの異なる要求が依然として残る場合には、最も厳しいマージンに基づき症例数設定を行うべきである。
上述の症例数配分の枠組みに当てはまらず、より柔軟な対応が求められる場合もある。例えば、希少疾病を対象とした試験や、感染症の急激な流行に対処するための試験では、有病率が地域間で大きく異なり、治験を実施可能とするため、一つあるいは複数の地域が治験の症例組み入れの大半を占めることを許容せざるを得ない場合もある。そのような場合には、計画段階で規制当局とその被験者の組み入れ計画について協議すべきである。
要約すると、単独の地域で実施される試験に必要な症例数と比べて、国際共同治験において全体の症例数が増加する可能性があるとすれば、それは複数の地域から被験者が組み入れられることによるばらつきの増大が主な原因であるべきで、過度に厳しい、あるいは恣意的に要求される地域の症例数によるべきではない。慎重に検討された症例数配分の計画とともに、十分に妥当性が説明され、事前規定された地域や属性別集団の併合戦略は、国際共同治験の目的を達成するために役立てることができる。
2.2.6 有効性及び安全性情報の収集及び取り扱い
ICH E6 ガイドラインに記載されているとおり、GCP 遵守はいかなる治験にとってもその目的を達成させる上で欠かせないものであり、様々な地理的な地域で治験を実施するために協調が必要となる国際共同治験では特に重要である。有効性及び安全性情報の収集及び取り扱いの方法は、参加地域全体で標準化しておくべきである。治験実施計画書の標準化された実行により、試験目的を達成できるよう、各地域で治験を開始する前にその地域の治験担当医師と治験関係者に標準化された訓練を行うこともまた重要である。
安全性報告は ICH E2 ガイドラインを遵守して行うべきである。各地域の規則によって緊急報告の期限や基準など様々な要件が規定されている場合は、各地域でそれらの規則にも従うべきである。治験実施計画書に安全性報告の特定の期限を記載し、治験担当医師は ICH E6 や他の関連ガイドラインに準じた適切な訓練を受けるべきである。国際共同治験の場合、各地域の規則及び ICH E2A ガイドラインのいずれも遵守して重要な安全性情報を取り扱うべきである。重要な安全性情報は、治験関係者(例えば、治験担当医師、倫理委員会)に常に遅滞なく提供されるべきである。
長期間に及ぶ国際共同治験で、特別な懸念事項(例えば、重篤な有害事象)が確認されている場合や実施地域が極めて広い場合(通常、第Ⅲ相検証的試験)は、実施中の試験の信頼性を維持しつつ、国際共同治験で得られた有効性・安全性の蓄積情報をモニターできるように、中央の独立したデータモニタリング委員会(試験の状況を適切に評価するために参加地域から代表者が出席)の設置を検討すべきである。評価項目・イベントの判定が計画されている場合、単一の判定委員会による一元的な評価を行うことを検討すべきである。
臨床検査や画像評価に基づく評価項目については、一般的に中央測定施設や中央一括画像判定の使用が推奨される。複数の検査施設を使用する場合は、臨床検体の検査前に施設間の分析法のクロスバリデーションを適切に実施すべきである。
国際共同治験では、地域全体で遅れのない適切な試験の実施、終了及び結果報告がなされるよう、各施設での治験開始を協調して行うことが特に重要である。ICH E6 ガイドラインに記載されている品質マネジメントに適合するために、治験依頼者は、国際共同治験のデザイン、実施、監督、記録、評価、報告及び資料保管を通じて品質マネジメントシステムを実装すべきである。こうした面から、国際共同治験での中央モニタリングやリスクに基づくモニタリングは、治験実施計画書の遵守(例えば、フォローアップ、試験治療の遵守、有害事象報告や欠測値の程度の違い)について、地域や施設間でのばらつきを識別するためにとりわけ有用である。このようなばらつきの軽減措置は地域ごとの違いを考慮に入れる必要がある。全ての地域から、標準化された方法で遅滞なく情報及びデータ(関連する内因性・外因性民族的要因を含む)を集めるために、電子データの収集及び報告システムの利用についても検討できるであろう。治験関連文書(例えば、症例報告書)を現地の言語に翻訳する場合は、言語間で文書の一貫性を確保すべきである(例えば、逆翻訳)。上述のとおり、治験計画立案段階から試験の質に細心の注意を払い、治験担当医師の訓練、治験モニタリングを行うことにより、国際共同治験を成功させるために必要な高い試験の質を一貫して達成することにつながるであろう。
2.2.7 統計解析計画
ICH E9 ガイドラインでは、ランダム化臨床試験の統計解析に関する計画と実施の一般的な統計的原則が述べられている。以下では、特に国際共同治験で重要な解析計画について述べる。解析計画は、国際共同治験に参加する複数の地域や重要な属性別集団における定性的又は定量的なベネフィット・リスク評価(ICH M4E(R2)ガイドライン参照)が可能となるよう設計すべきである。
統計解析計画に関する規制当局との合意
国際共同治験に参加する地域の規制当局と早期に議論し、提案する解析計画に関して合意を得ることが推奨される。治験開始前に各規制当局の合意を得て、治験実施計画書の統計解析の項に、単一の主要な解析方法を記述することが標準となる。国際共同治験において、十分に正当化された科学的又は規制上の理由により主要な解析計画に対する規制要件が規制当局間で異なる場合は、その異なる要件を満たすように計画された解析手法を治験実施計画書に記述すべきである。さらに、複数の規制当局より治験実施計画書とは別に統計解析計画書が要求された場合も、各規制当局の要求を満たした単一の統計解析計画を作成すべきである。国際共同治験の解析計画は、治験の信頼性を確保するために、盲検試験の場合は治療の割り付け内容が明らかになる時点より前に最終化する必要がある。
主要な解析
国際共同治験を計画する際には、(1)対象となる集団、(2)最も関心のある評価項目・変数、(3)複数の地域、複数の属性別集団の評価において重要な内因性・外因性民族的要因、(4)治療効果を記述するために必要な集団としての要約結果、について慎重に検討して、主要な解析計画を作成する必要がある。ほとんどの国際共同治験において、主要な解析は、治験に参加する全ての地域と属性別集団からのデータに基づく治療効果の仮説検定及びその効果の推定であろう。
地域による層別ランダム化を実施する場合、主要な解析は適切な統計モデルを用いて地域で調整すべきである。治験計画段階において、ある地域が内因性・外因性民族的要因に基づいて併合される場合、あるいは併合された属性別集団が層別化のために定義される場合、これらの併合は解析に反映する必要がある。
地域間及び属性別集団間の一貫性の検討
統計解析計画には、地域間及び属性別集団間の治療効果の一貫性評価を含めるべきである。ここで言う治療効果の一貫性とは、異なる地域間あるいは属性別集団間の治療効果について臨床的に重要な差がないことと定義される。この評価を行うために様々な解析方法が考えられ、以下の(1)から(4)に示すものに限らないが、これらを含め、おそらくこれらを組み合わせて用いることになる。(1)記述的要約、(2)グラフ表示(例えば、フォレスト・プロット)、(3)共変量で調整した解析を含むモデルに基づく推定、(4)治療と地域の交互作用の検定。どの方法にも強みと限界があり(例えば、交互作用の検定は一般的に、検出力が非常に低い)、これらは解析を計画する際に慎重に検討する必要がある。
臨床的に重要な治療効果の差が地域間で観察された場合を想定して、これらの差に関する体系的な探索が計画されるべきである。探索は次のステップで進めることが考えられる:
- 地域間で異なることが先験的に既知である因子や、予後因子や予測因子であると仮定される因子は、統計解析モデルで計画され評価されるべきである。予後因子となりうる内因性・外因性民族的要因の例は、疾患の重症度、人種や他の被験者の特徴(例えば、喫煙歴や体格指数(BMI))、医療習慣・治療法(例えば、臨床現場で使用される併用薬の用量の違い)又は遺伝学的要因(例えば、薬物代謝酵素の遺伝子多型)などであり、疾患又は治療に対して十分確立しているものや、臨床開発の早期段階で示唆されているものである。
- 慎重に計画を立てても、予想外の地域間差が観察されることがあり、その場合にはさらなる検討のために事後的な解析が必要となる。疾患に対する予後因子であることが知られている因子は、異なる治療効果の予測因子であることがしばしば判明するため、はじめに調査されるであろう。予後因子の分布が地域間で異なることが判明した場合、治療効果の明らかな地域間差は予後因子の分布の違いで説明できる場合がある。
- 既知の因子を探索しても説明できない地域間差については、その差に関して納得できる理由を特定するため、あるいは観察された不均一性をさらに理解するために、事後的な検討がさらに必要となるかもしれない。場合によっては、他の臨床試験データなどの追加データや他の情報源からの裏付けとなる証拠が、観察された地域間差の理解のために必要となるかもしれない。
このような起こり得る事態については、計画段階で慎重に検討すべきである。
計画された部分集団解析
国際共同治験で観察される可能性がある地域間あるいは併合された属性別集団間の治療効果の差を検討するための解析に加えて、通常の臨床試験と同様、その他の部分集団解析(例えば、性別や年齢による治療効果の差異の検討)にも関心が払われるものであり、そのような部分集団解析を計画すべきである。全体集団の治療効果に対して部分集団間で違いが観察された場合、その部分集団間の違いが地域あるいは併合された地域においても認められるかどうかを探索することは有益であろう。
要約すると、治療効果の一貫性評価は、規制当局の意思決定に役立つように丹念に行われるべきである。地域、併合された属性別集団あるいは部分集団の結果の信頼性は、生物学的合理性、内的一貫性(例えば、他の副次評価項目で観察される地域間のばらつきと同様な傾向)や外的一貫性(例えば、同じ医薬品の他の臨床試験で同様の傾向が観察される)、証拠の説得力、臨床的意義や統計学的な不確実性を考慮の上、判断すべきである。上述のような観点から検討を行い、ある結果を支持する所見が多ければ多いほど、その結果は誤りではない可能性がますます高くなる。臨床的観点と統計学的観点の両面から一貫性を評価することが肝要であろう。
地域毎の治療効果の推定
個々の地域における治療効果とそれらの不確実性の程度を推定し、報告するための適切な統計手法を、治験実施計画書の統計解析の項に記載すべきである。この計画には、治療効果の報告に関心のある各地域あるいは併合された地域における治療効果を頑健に推定するために、十分な症例数であるかの見極めを含めるべきである。ある地域の症例数が非常に少なく、効果の推定値が信頼できない可能性がある場合には、他の手法を利用す
ることを検討すべきである。他の手法としては、共通性に基づく追加的な地域の併合、適切な統計モデルを用いて他の地域や併合された地域の情報を活用することなどの選択肢を模索することが考えられる。内因性・外因性民族的要因を考慮する方法として、このような状況では共変量で調整する統計モデルが特に重要になる場合がある。地域の症例数が少なく、外れ値が過度に影響を及ぼしている場合には、全体集団の効果の推定値と個々の地域のデータを利用した推定値の加重平均を用いる方法(縮小推定値)が考慮できる場合もあるかもしれない。内因性・外因性民族的要因が地域の治療効果の推定にどのように影響するかを理解した上で、適切な統計手法に基づき、モデルを選択すべきである。また、モデルに必要な仮定を変えた感度分析を計画する必要がある。
試験の質が統計解析に及ぼす影響
試験実施上の地域間差は、解析時に、全体集団の治療効果の検出力だけでなく、治療効果の一貫性評価に対しても悪影響を及ぼす可能性がある。被験者のフォローアップのように治験の質に影響する重要な要素は、地域間で一貫して管理され、治験中に特定された問題は可能な限り早期に修正されるべきである。
国際共同治験の実施中に、治験モニタリング及び盲検下レヴューを実施することで、その治験の解析計画に変更を加える必要がある様々な課題が明らかになる場合がある。例えば、国際共同治験では、地域又は属性別集団の併合戦略が計画時に慎重に定義されるが、複数の地域の集団から基準値特性(例えば、内因性・外因性民族的要因)に関するデータが十分に蓄積された後に、併合戦略を修正することがより適切な評価を行うために必要となる場合があるかもしれない。しかし、そのような変更を行う場合は、根拠を示し、関連する規制当局と協議を行い、治験の信頼性が損なわれない形で実施すべきである。
2.2.8 対照薬の選択
対照群の選択は、利用可能な標準的治療法、選択したデザインを裏付けるエビデンスの適切性及び倫理的配慮に照らして考慮すべきである。対照薬の選択は関連する規制当局と協議し、合意すべきである。国際共同治験における対照薬は、原則として全ての参加地域で同一であるべきである。国際共同治験の立案に関する要素は複雑であることから、対照薬の使用に関連する実務的及び倫理的な課題に焦点を当て、いくつかの重要な事項について以下で述べる。
- 国際的な治療ガイドラインを含む、科学的情報及び他の関連する情報に基づいて、対照薬の選択の妥当性を治験実施計画書にて説明すべきである。
- 実対照薬は、原則として、全ての地域で同じ方法で服用及び投与すべきである。実対照薬の承認用法・用量が地域間で異なる場合は、入手可能なデータを用いて試験で設定された用法・用量の妥当性を説明し、その内容を治験実施計画書に記載すべきである。また、このような用法・用量の違いが国際共同治験結果の解析及び評価に及ぼす影響について、計画立案段階で検討すべきである。
- 治療効果の一貫性と結果解釈を保証するため、実対照薬の投与剤形(例えば、液剤と錠剤など)は、国際共同治験に参加する全ての地域で原則として同じものを使用すべきである。異なる剤形の使用は、溶出プロファイルやバイオアベイラビリティの特性が十分に明らかとなっており、その違いが無視できる場合には可能であろう。
- 実対照薬の均一な品質を確保するため、全ての参加地域で同じ提供元の実対照薬を使用することが推奨される。国際共同治験で異なる提供元の実対照薬を使用する場合は、その妥当性(例えば、製造元により作成された同等性あるいは溶出試験に関する試験記録又は報告書)を説明すべきであり、全ての参加地域で実対照薬が同じ品質を持つことを保証する必要がある。
- いずれかの地域で使用されている最も包括的な製品情報を全参加地域で一律に利用することが推奨される。製品情報が現地の製品情報と異なる場合(例えば、警告や有害事象の表示が異なる場合)は、これについて当該地域の同意説明文書で説明すること。
- 同じ又は類似した薬効分類に属する異なる薬剤を実対照薬として使用することを提案する場合、入手可能な科学的根拠に基づき、治験実施計画書でその妥当性を説明すべきである。
上述の留意点は、治験担当医師によってその地域の標準治療から対照薬が選ばれる場合にも適用できる場合がある。
国際共同治験で使用する実対照薬は、理想的には全ての参加地域で承認されているべきである。しかし、国際共同治験で使用する実対照薬が特定の地域では承認されていない、又は利用できないが、いくつかの ICH 地域では承認されて利用可能な状況もありうる。
そのため、未承認薬を使用する際には、科学的情報、治療ガイドライン及びその他の関連資料に基づいて、その妥当性(安全性の留意点を含む)を治験実施計画書に記載すべきである。その地域での当該未承認薬の開発状況(例えば、開発計画なし、開発中、規制当局による審査中)も、治験実施計画書に記載すべきである。未承認の対照薬の継続入手など試験終了後の治療に関する計画を検討し、同意説明文書で患者に説明すべきである。
2.2.9 併用薬の取り扱い
一般に、治験薬と併用される薬剤は、可能な限り全ての地域で同一であるべきであるが、医療習慣が異なるために、実際に使用される薬剤やその用量に多少の差異が生じる場合がある。この差異は、治験結果に実質的な影響を及ぼすことが予想されなければ、受け入れ可能であろう。治験実施計画書では、許容される及び許容されない併用薬と用量について規定すべきである。
治験実施計画書において、治療の重要な一部として併用薬が必要とされる場合がある。既承認薬を治験薬と併用する状況(例えば、抗がん剤の併用療法)では、原則として、全ての地域で同じ用法・用量を適用すべきである。治験実施計画書で要求される併用薬がある地域で承認されていない場合には、科学的情報、治療ガイドライン及びその他の関連資料に基づき、その使用の妥当性を説明すべきである。また、当該併用薬が少なくとも一つの ICH 地域において承認されていることを文書で示すべきである。未承認薬の併用は一般的には許容されるべきであるが、当該地域において未承認薬を併用する際には、その影響を規制当局と協議し、治験実施計画書で説明すべきである。また、当該併用薬が利用できない、異なる含量や剤形での入手のみ可能、あるいは試験期間中、継続的な供給が確保できない地域においては、その併用薬を提供する必要がある。
医薬品の効果に影響を及ぼしうる併用薬の使用や投与における地域間差を事前に検討し、用量の変更を含む、これらの併用薬に関する情報を治験期間中、記録しておくべきである。これらの留意点は併用療法(例えば、術後の加圧ストッキング、医療機器)にも適用できる場合がある。
3. 用語集
治療効果の一貫性
国際共同治験の異なる地域間、あるいは属性別集団間の治療効果において臨床的に重要な差が認められないこと
国際共同治験/MRCT
単一の治験実施計画書の下、複数の地域で実施される臨床試験
地域
地理的な地域、国又は規制上の地域
規制上の地域
医薬品の承認に関する一連の共通した規制要件を有する国から成る地域(例えば、EU)
併合された地域
国際共同治験の計画立案段階において、いくつかの地理的な地域、国又は規制上の地域における被験者集団が対象疾患や治験薬に関連する内因性・外因性民族的要因の観点から十分に類似していると考えられる場合に、これらを併合した地域
併合された属性別集団
国際共同治験の計画立案段階において、当該医薬品の開発プログラムにおいて重要な一つあるいは複数の内因性・外因性民族的要因が、ある地域の被験者の部分集団と他の地域の被験者の部分集団で類似している場合に、これらを併合した部分集団。併合された属性別集団は、国際共同治験という状況下において特に重要である民族性に関連する部分集団とみなされる。
参照
https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0022.html