臨床試験 規制

ICH-M3 臨床試験のための非臨床試験の実施時期

薬 食審査 発 0 2 1 9 第 4 号
平成 22 年 2 月 19 日

各都道府県衛生主管部(局)長 殿

厚生労働省医薬食品局審査管理課長

「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」について

医薬品の製造販売承認申請に際して提出すべき資料の収集のために行われる非臨床安全性試験に関し、その実施時期等については、平成10年11月13日医薬審第1019号医薬安全局審査管理課長通知「医薬品の臨床試験のための非臨床安全性試験の実施時期についてのガイドライン」(以下「本ガイドライン」という。)により取り扱っているところですが、今般、日米EU医薬品規制調和国際会議(以下「ICH」という。)における合意に基づき、本ガイドラインを別添のとおり改正しましたので、下記事項を御了知の上、貴管内関係業者等に対し周知方御配慮願います。

なお、今般の改正に伴い、本ガイドラインの名称が「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」に改められましたことを申し添えます。

  1. 背景
    優れた医薬品の国際的な研究開発の促進及び患者への迅速な提供を図るため、承認審査資料の国際的なハーモナイゼーション推進の必要性が指摘されている。このような要請に応えるためICHが組織され、その合意に基づき、本ガイドラインが改正された。
  2. 改正の要点
    動物実験の3R(使用動物数の削減/苦痛の軽減/代替法の利用)の原則に従って、各非臨床試験に関する見直しを行うとともに、新たに、一般毒性試験のための高用量の選択、早期探索的臨床試験のための非臨床試験、免疫毒性、光安全性試験、薬物乱用に関する非臨床試験及び配合剤のための非臨床試験等の考え方についての指針を示した。
  3. 本ガイドラインの実施時期
    平成 23 年 1 月 1 日以降に申請される医薬品に添付される非臨床安全性試験に関する資料は、今回の改正をふまえたものであること。ただし、平成 22 年 3 月31 日までに実施され、または開始されている試験については、当分の間、原則として本ガイドラインに基づいた試験に代えてよい。なお、適用期日以前にも今回の改正に基づいて実施された試験による資料を医薬品の製造販売承認申請に際し添付すべき非臨床試験に関する資料とすることは差し支えない。

以上

医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス

1. 緒言

1.1 ガイダンスの目的

本文書の目的は、ヒト臨床試験の範囲と期間に応じて、また、製造販売承認を得るために推奨される医薬品の非臨床安全性試験についての国際的な基準を勧告し、そのハーモナイゼーションを促進することである。

各種非臨床安全性試験のガイダンスのハーモナイゼーションによって、現在の要求事項が明らかにされ、実質的な相違が各地域間に存在する可能性が減少すると期待される。

このガイダンスは、臨床試験の実施時期を適正化し、3R(使用動物数の削減/苦痛の軽減/代替法の利用)の原則に従って動物の使用を抑え、医薬品開発のための資源の有効利用に資するであろう。本ガイダンスでは論じていないが、安全性評価のための新しいインビトロ代替法の利用について考慮すべきである。これらの代替法は、バリデーションが完了し、全てのICH規制当局によって認められれば、現在の標準試験法の代わりに利用可能である。

本ガイダンスによって、医薬品の安全で倫理にかなった開発が促進され、新医薬品を一層早く利用できるようになるであろう。

1.2 背景

この改訂ガイダンスにおける提言は、欧州連合(EU)、日本、そして米国において臨床開発の各段階を実施するのに必要な非臨床安全性試験の範囲をさらに調和させるものである。本ガイダンスは、臨床試験の実施及び製造販売承認を行うために必要な非臨床安全性試験の種類と期間、そして実施時期についての合意事項を示すものである。

1.3 ガイダンスの適用範囲

医薬品の製造販売承認のための非臨床安全性評価には、通常、薬理試験、一般毒性試験、トキシコキネティクス及び非臨床薬物動態試験、生殖発生毒性試験、遺伝毒性試験がある。懸念すべき特別な理由がある場合や長期間の使用を目的とした医薬品の場合には、がん原性の評価も含まれる。その他、光毒性試験、免疫毒性試験、幼若動物を用いる毒性試験、及び薬物乱用に関する非臨床試験は、個々の事例に応じて実施すべきである。本ガイダンスでは非臨床安全性試験の必要性や実施される臨床試験との関係が示されている。

本文書は、医薬品開発において通常起こり得る状況に適用されるものであり、医薬品開発のための一般的な指針としてみなされるべきである。非臨床安全性試験及び臨床試験の計画やデザインは、科学的かつ倫理的に適切なものでなくてはならない。

バイオテクノロジー応用医薬品のための、適切な非臨床安全性試験はICH S6 (1)に沿って決定されるべきである。バイオテクノロジー応用医薬品については、本ガイダンスは、臨床開発に関連する非臨床試験の実施時期に関してのみの指針となる。

開発中の医薬品が、現在治療法のない生命を脅かす疾病又は重篤な疾病(例えば末期がん、抵抗性HIV感染症及び先天的酵素欠損症)を適応とする場合、個々の事例に応じて毒性学的評価と臨床開発を進め、最適かつ迅速な医薬品開発が行われることが必要である。これらの事例や革新的な治療法(例えば、siRNA)では、ワクチンアジュバントと同様に、特定の試験の、簡略化、延期、省略、又は追加もあり得る。特定の医薬品領域のためのICHガイダンスがある場合には、それらを参考にすべきである。

1.4 一般原則

医薬品の開発プロセスは、動物及びヒトから得られた有効性及び安全性情報の評価を行いながら、段階的に進めるものである。非臨床安全性評価の主たる目的は、標的臓器、用量依存性、暴露との関係、及び適切な場合には回復性についての毒性の特徴を明らかにすることである。これらの情報は、初めてヒトを対象とした治験を行う際の安全な初回投与量と用量範囲を推定する上で、また臨床で有害作用をモニターするためのパラメータを明らかにするために用いられる。臨床開発の開始時までに行なわれる非臨床安全性試験は、通常限られたものであるが、臨床試験の条件下で現れる可能性のある有害作用を十分に明らかにするものでなくてはならない。

臨床試験を実施するのは、医薬品の有効性及び安全性を明らかにするためであり、最初は比較的低い全身暴露量で少数の被験者を対象として行われる。引き続き実施される臨床試験では、通常、投与期間が延長され、対象患者数も増加する。臨床試験の拡大は、先行する臨床試験で十分な安全性が実証されていることに加えて、臨床開発の進行と並行して実施される非臨床安全性試験からの追加情報に基づいて行われるべきである。

臨床又は非臨床試験でみられた重篤な有害所見は、臨床試験の継続に影響することがある。臨床的意義を包括的に捉えた上で、これらの有害所見を評価し、追加の非臨床試験ないし臨床試験の必要性やデザインを決定すべきである。

臨床試験が行われる各段階を表す用語は、各地域により異なっている。本文書で使用する用語は、主にICH E8で定義されている(2)。しかしながら、臨床試験の各段階を区別しない傾向が広がっていることから、本文書では、場合によっては、非臨床試験と関連付ける臨床試験を(訳注:臨床各相ではなく)臨床試験の期間、対象被験者の数、また、被験者の特性によっても区別している。

1.5 一般毒性試験のための高用量選択

一般的に、毒性試験においては、最大耐量(MTD)までの用量を用いることにより、臨床的に意味のある影響として、どのような作用が生ずる可能性があるかを十分に明らかにすることができる。全ての毒性試験でMTDを求める必要はない。また、MTDと同等に適切な限界量としては、十分に高倍数の全身暴露量が得られる用量、暴露の飽和が起こる用量、又は投与可能な最大用量(MFD)がある。これらの限界量(詳細は下記及び図1を参照)を設けることで、臨床での安全性予測に有用でない(高)用量を動物に投与することを避けることができる。生殖発生毒性試験やがん原性試験のデザインにおいては、すでに限界量や限界暴露量が推奨されており、この考えと一致するものである(3、4)。

急性、亜急性及び慢性毒性試験での投与量の限界量は、以下で述べるものを除く全ての場合で、げっ歯類及び非げっ歯類ともに1000 mg/kg/日が適切であると考えられる。1000 mg/kg/日の投与量での平均暴露量が臨床における暴露量の10倍未満で、かつ、臨床用量が1 g/日を超えるような場合は、毒性試験の投与量は10倍の暴露量、2000 mg/kg/日あるいはMFDのうちより低い用量を限界量とすべきである。2000 mg/kg/日の投与量での暴露量が臨床における暴露量に達しないような稀な状況では、MFDまでのより高い用量を考慮すべきである。

一般的に、臨床における暴露量に対して50倍の暴露量(通常、母薬物の、あるいはプロドラッグでは薬理活性物質のAUCの群平均値(注1)に基づく)に達する投与量は、いかなる動物種を用いた急性及び反復投与毒性試験においても、最高用量として認められる。

限界量として50倍の暴露量を用いる場合、米国における第Ⅲ相試験を実施するためには、通常、少なくとも1種の動物種で用量制限毒性を明らかにする必要がある。そうでない場合には、1000 mg/kgの限界量、MFDあるいはMTDのうち最も低い投与量を用いる1種における1ヶ月以上の毒性試験が推奨される。しかしながら、このような試験は、より短期間投与の試験において50倍の暴露量に達する投与量よりも高い用量で用量制限毒性が示される場合には、個々の事例に応じて不要とされることもある。

遺伝毒性の指標が一般毒性試験に組み込まれる場合には、適切な最高用量はMFD、MTDあるいは1000 mg/kg/日の限界量に基づいて設定されるべきである。

2. 薬理試験

安全性薬理試験及び薬力学的試験については、ICH S7A(5)で定義されている。安全性薬理試験のコアバッテリーには、心血管系、中枢神経系、呼吸系に対する作用の評価が含まれており、ICH S7A及びS7B(5、6)に従って、これらの評価は一般的にヒトに投与する前に行われるべきである。また、正当な理由があれば、補足的安全性薬理試験及びフォローアップ安全性薬理試験を臨床開発後期に実施してもよい。使用動物を削減するため、インビボで評価する場合には、いずれも、可能な範囲内で、一般毒性試験に組み込んで実施することを考慮すべきである。

さらに、効力を裏づけるためのインビボ及び/又はインビトロにおける薬力学的試験は、目的とする治療標的に対する被験物質の作用機序や効果を調べることを意図している。このような試験は、通常、医薬品開発の探索段階で実施され、通常はGLPに従って行われない。これらの試験結果は、非臨床試験及び臨床試験の用量設定に役立てることができる。

3. トキシコキネティクス及び薬物動態試験

動物及びヒトの薬物代謝及び血漿タンパク結合データに関するインビトロ試験成績、並びに反復投与毒性試験で使用した動物種における全身暴露データ(ICH S3A:7)の評価は、通常、臨床試験の前に行われるべきである。毒性試験で使用した動物種における薬物動態に関するさらなる情報(例えば、吸収、分布、代謝及び排泄)や薬物相互作用の可能性に関するインビトロでの生化学的な情報は、多数の被験者あるいは長期間の投与を行う前(通常、第Ⅲ相試験前)に入手しておくべきである。これらの情報は、ヒトと動物の代謝物の比較を行い、追加の非臨床試験の必要性について決定するために利用できる。

ヒトでみられた代謝物を非臨床試験で特徴づける必要があるのは、その代謝物の臨床での暴露量が、投与薬物に関連する総ての物質の暴露量の10%を超え、かつ、ヒトにおける暴露量が毒性試験での最大暴露量よりも明らかに高い場合のみである。このような非臨床試験は、第Ⅲ相試験の前に実施すべきである。1日の投与量が10 mg未満の薬物では、代謝物の非臨床試験を実施するための指標として、投与薬物に関連する総ての物質の暴露量に対する代謝物の割合を10%よりも高く設定することが適切であろう。ある種の代謝物(例えば、多くのグルタチオン抱合体)には毒性学的な懸念がなく、試験を実施する必要はない。懸念すべき理由がある代謝物(例えば、ヒト特異的な代謝物)については、個々の事例に応じて非臨床試験での評価を考慮すべきである。

4. 急性毒性試験

従来、急性毒性に関する情報は2種のほ乳類における臨床適用経路及び非経口的な投与経路の両方を用いた単回投与毒性試験から得られてきた。しかし、これらの情報は、一般毒性試験に用いられる動物種においてMTDを明らかとするために適切に実施された用量漸増試験もしくは短期間反復投与の用量設定試験からも得ることが可能である(8、9)。

いずれかの試験から急性毒性に関する情報が得られる場合には、別途に単回投与試験を実施することは推奨されない。急性毒性を評価する試験は臨床適用経路に限ることができ、臨床投与をGLPで実施された適切な反復投与毒性試験によって担保する場合には、非GLP試験から得られたデータでよい。また、急性毒性を評価する上で、致死性を評価指標とするべきではない。

ある特定の状況(例えば、マイクロドーズ試験、第7節)では、急性毒性又は単回投与毒性試験がヒトにおける臨床試験の実施を担保するための主たる毒性試験となることがある。これらの非臨床試験においては、毒性試験の高用量の選択は第1.5節とは異なることがあるが、予定されている臨床用量と投与経路を保証するために適切なものでなければならない。このような試験はGLPを遵守して実施されるべきである。

医薬品の急性毒性に関する情報は、ヒトでの過量投与時の影響を予測するために有用であり、第Ⅲ相試験の開始前までに入手すべきである。特に過量投与の危険性が高い患者集団(例えば、うつ病、疼痛、認知症)における外来での臨床試験を行う場合には、より早期に急性毒性の評価を行うことは重要である。

5. 反復投与毒性試験

通常、反復投与毒性試験について推奨される投与期間は、計画されている臨床試験の期間、治療上の適応及びその範囲に関連している。原則として、2種のほ乳動物(1種は非げっ歯類)で実施される毒性試験の期間は、臨床試験の期間と同じか、あるいはそれを超えているべきであり、反復投与毒性試験で推奨される最長投与期間を上限とする(表1)。反復投与毒性試験の実施にあたって適切と考えられる限界量及び暴露については、第1.5節を参照のこと。

治療上の利益が明らかに示されている状況下では、個々の事例に応じて、臨床試験を反復投与毒性試験の期間を超えて延長することができる。

5.1 臨床開発

通常、2種の動物(1種は非げっ歯類)における最短2週間の反復投与毒性試験(表1)によって、投与期間が2週間までの臨床試験の実施が支持される。2週間よりも長期間の臨床試験は、少なくとも同じ期間の反復投与毒性試験によって、その実施が支持される。げっ歯類での6ヶ月の反復投与毒性試験及び非げっ歯類での9ヶ月の反復投与毒性試験によって、通常、6ヶ月以上の期間の臨床試験が支持される。例外については、表1の脚注を参照のこと。

  1. 米国では、2週間の毒性試験の代わりに拡張型単回投与毒性試験(表3の脚注c)でも単回投与の臨床試験が支持される。14日未満の臨床試験は臨床試験と同じ期間の毒性試験により支持される。
  2. げっ歯類の3ヶ月投与試験及び非げっ歯類の3ヶ月投与試験成績が得られており、臨床投与期間が3ヶ月を超える前にげっ歯類及び非げっ歯類の慢性毒性試験の全てのデータが得られる場合には、各極の臨床試験実施手順に矛盾しない限りにおいて、3ヶ月を超える臨床試験を開始することができる。
    生命を脅かす疾病又は重篤な疾病を対象にした臨床試験、あるいは個々の事例に応じて、げっ歯類の慢性毒性試験成績並びに非げっ歯類の慢性毒性試験における生存中及び剖検のデータに基づき、上記の臨床試験期間の延長が認められることがある。その際、非げっ歯類の全臓器の病理組織学的検査結果はその後3ヶ月以内に得られるべきである。
  3. 主たる対象患者が小児であり、すでに実施した動物試験(毒性学あるいは薬理学)において標的器官の発達に対する懸念が示される場合がある。そのような場合、状況によっては、幼若動物を用いた長期間の毒性試験が慢性毒性試験として適切なことがあろう(第12節)。
  4. EUにおいては、6ヶ月間の非げっ歯類の毒性試験によって6ヶ月を超える臨床試験を実施できるとされている。ただし、6ヶ月よりも長期間の毒性試験がすでに実施されている場合には、別途に6ヶ月の試験を実施することは適切ではない。
    下記の例では、日本及び米国においても、6ヶ月間までの非げっ歯類の毒性試験が適切であると考えられる。

    • 免疫原性あるいは不耐性の問題から、長期間の毒性試験が困難な場合
    • 例えば、片頭痛、勃起不全あるいは単純ヘルペスの治療のように、臨床試験の期間としては 6 ヶ月を超えるが、短期間の薬物暴露を繰り返す場合
    • がん再発のリスクを低減するために長期間投与される薬の場合
    • 平均余命が短いと考えられる適用疾患に対する薬の場合

5.2 製造販売承認

製造販売承認後は、臨床試験中と比べて、リスクに曝される対象患者の数が多くなること、及び臨床現場での管理が相対的に不十分であることから、製造販売承認にはより長期の非臨床試験を実施することが重要となる。臨床使用期間が異なる医薬品について、製造販売承認に必要となる反復投与毒性試験の期間を表2に示した。なお、使用期間が2週間から3ヶ月以内のものであっても、これまでの多くの経験から、推奨される適用を超えて、幅広くあるいは長期間使用されることが想定される場合(例えば、不安症、季節性アレルギー性鼻炎、疼痛)には、非臨床試験の期間は、3ヶ月を超える医薬品に推奨される期間と同等とすることが、適切であろう。

6. ヒト初回臨床投与量の算出

ヒトへの初回投与量の算出は、初めてヒトに投与する臨床試験に参加する被験者の安全を確保するための重要な要件である。推奨されるヒト初回投与量の決定にあたっては、薬理学的な用量反応性や、薬理学的/毒性学的プロファイル及び薬物動態を含む、関連する全ての非臨床試験データを考慮すべきである。

一般的に、最適な動物種で実施された非臨床安全性試験で求められた無毒性量が、最も重要な情報となる。また、臨床試験の開始用量は、薬力学、分子としての特性、及び臨床試験のデザインといったさまざまな要因を考慮して設定される。利用可能なアプローチの各々については、各極のガイダンスが参考となる。

ヒトにおける早期探索的臨床試験(第7節)は、臨床開発(第5.1節)で通常求められるものよりも少ない、もしくは異なる種類の非臨床データに基づいて開始できるため、臨床試験の開始用量(及び最高用量)の算出方法も異なる。表3に、種々の早期探索的臨床試験のデザインに推奨される開始用量の基準を示す。

7. 早期探索的臨床試験

ヒトに薬物を投与したときのデータをより早く入手することにより、ヒトにおける生理学/薬理学に関するより深い理解や、候補薬物の特性及び疾病に対する適切な治療標的についての知見が得られる場合がある。合理的な早期の探索的アプローチにより、この目的は達成できる。このガイダンスが目的とする早期探索的臨床試験は、第Ⅰ相試験の初期に実施されることを意図しており、限定的なヒトへの暴露で、治療を目的とせず、かつヒトにおける忍容性を求めるものではない。

早期探索的臨床試験は、例えば、薬物動態や薬力学に関する様々なパラメータを調べるために、また、PETリガンドの受容体への結合や置換、その他の診断的手法などのバイオマーカーなどを調べるために利用できる。これらの試験は、選ばれた集団からの患者、もしくは健常人を被験者として組み入れて実施される。

このような場合に臨床試験実施のために必要とされる非臨床試験のデータの量及び種類は、最高臨床用量や投与期間の観点からみた、ヒトで計画されている暴露の程度によって異なる。5つの異なる探索的臨床試験の例を以下にまとめ、それぞれのアプローチで推奨される非臨床試験プログラムを含めて表3に詳細を示した。

一方、バイオテクノロジー応用医薬品の早期探索的臨床試験の戦略を含め、本ガイダンスに記載されていない他のアプローチもまた利用可能である。これら別のアプローチは、しかるべき規制当局と討議、同意されるべきである。これらアプローチを用いることにより、全体として新薬開発における動物の使用を削減できる。

5つのアプローチにおいて推奨される初回投与量及び最高用量を表3に示す。いずれの場合においても、表3及び第2節に書かれているようなインビボないしインビトロモデルを利用した薬力学及び薬理学的特性の解析が重要であり、ヒトにおける用量設定のために利用されるべきである。

7.1 マイクロドーズ臨床試験

マイクロドーズ試験として、2つの異なったアプローチが以下に記載されている。表3に詳細を示す。

第1のアプローチは、総投与量を100μg以下とし、いずれの被験者にも単回投与あるいは分割して投与するものである。これは、PET試験において、標的受容体への結合や組織分布を検討することに役立つ。もう一つの利用法として、同位体標識薬物を使用した、あるいはこれを使用しない薬物動態の評価に用いることがある。第2のアプローチは、1回あたりの最高用量が100μgで投与回数が5回以下(被験者あたりの総投与量は500μg以下)の試験である。このアプローチでは、前述した第1のマイクロドーズ試験と同様な目的に利用できるが、比較的活性の低いPETリガンドを用いる場合に有用である。

臨床適用経路が経口投与で、既に経口投与による非臨床毒性試験成績が得られている薬物について、静脈内投与でマイクロドーズ試験を実施する状況があり得る。この場合、表1あるいは表3のアプローチ3に記載されている既に実施済みの経口投与毒性試験において暴露レベルで適切な安全域が確認されていれば、静脈内投与によるマイクロドーズ試験の実施は、実施済みの経口投与毒性試験によって認められる。被験薬物の局所刺激性の検討は、投与量が微量(最高用量100μg)であることから、推奨されない。新規の静脈内投与用の媒体が使用される場合は、その媒体の局所刺激性を評価すべきである。

7.2 準薬効用量又は推定薬効域での単回投与試験

第3のアプローチは、典型的には、臨床開始用量として薬効用量以下から始めて、薬理作用発現域あるいは推定薬効域までの増量が可能な単回投与臨床試験である(表3参照)。容認され得る最高用量は、非臨床試験の結果から算出されなければならないが、臨床試験中に得られた新たな臨床情報に基づき制限される場合がある。このアプローチでは、例えば、薬力学的に活性を示すとされる用量又はその付近の用量において、薬物動態指標の評価を非標識化合物を用いて行うことが可能となる。他の例としては、単回投与後における標的分子への結合あるいは薬理作用の評価がある。このアプローチは、臨床最大耐量の検討を意図するものではない(例外は表1脚注aを参照)。

7.3 反復投与臨床試験

反復投与の臨床試験を支持する2つの異なる非臨床試験アプローチ(アプローチ4及び5)を表3に示す。これらのアプローチは、薬効用量域におけるヒトでの薬物動態及び薬力学の測定のために、最長14日間までの投与を支持できるが、臨床最大耐量の検討を意図するものではない。

アプローチ4には、最高臨床用量での推定AUCの数倍の暴露が得られるように用量を設定した、げっ歯類及び非げっ歯類による2週間反復投与毒性試験が必要である。

アプローチ5には、げっ歯類における2週間反復投与毒性試験と、げっ歯類での無毒性量が非げっ歯類においても毒性発現用量でないことを検討するための、非げっ歯類を用いた確認試験が必要である。げっ歯類の無毒性量での暴露量において、非げっ歯類で毒性所見が観察された場合、非げっ歯類での追加の非臨床試験(通常、標準的な毒性試験(第5節参照))が実施されるまでヒトへの投与は延期すべきである。

8. 局所刺激性試験

局所刺激性は、一般毒性試験の一部として、予定臨床適用経路により評価することが望ましく、独立した試験での評価は推奨されない。

臨床適用経路以外の経路による限定的なヒトでの投与(例えば、経口医薬品の絶対的バイオアベイラビリティの測定のための単回静脈内投与)を可能とするには、単一の動物種を用いた単回投与による局所刺激性試験が適切であると考えられる。既存の毒性試験における全身暴露量(AUC及びCmax)が、臨床適用経路以外の投与によるものを超えているのであれば、局所刺激性試験における評価項目は、一般状態ならびに適用部位の肉眼及び顕微鏡による観察に限定してよい。局所刺激性試験に使用される製剤は、臨床製剤と同一である必要はないが、類似したものとすべきである。

経口投与の毒性試験によって実施が支持される静脈内投与マイクロドーズ試験においては(第7節参照)、被験物質の局所刺激性を評価する必要はない。ただし、新規の媒体を使用する場合には、媒体の局所刺激性を評価すべきである。

非経口医薬品では、多くの患者が暴露される(例えば、第Ⅲ相試験)より前に、誤って適用され得る部位の局所刺激性の評価を必要に応じて行うべきである。このような試験の要件は、地域により異なっている。米国においてはこれらの試験は通常推奨されていない(例外として、硬膜外投与薬に対する髄腔内投与試験)。日本及びEUにおいては静脈内投与薬に対して静脈周囲への単回投与試験が推奨されている。その他の非経口投与薬については個別の状況に応じて判断するべきである。

9. 遺伝毒性試験

臨床試験が単回投与に限られる場合に必要な遺伝毒性試験は、通常、遺伝子突然変異に関する試験のみでよいと考えられる。臨床試験が反復投与の場合には、ほ乳類の試験系を用いた染色体損傷検出のための追加評価が実施されるべきである(10)。標準的な組合わせの遺伝毒性試験は第Ⅱ相試験の開始前に完了しているべきである(10)。

陽性結果が得られた場合は、それらの成績を評価した上で、必要であれば追加試験を実施し(10)、臨床試験でのさらなる投与が適切であるかどうかを判断しなければならない。

早期探索的臨床試験に必要な遺伝毒性試験については第7節を参照すること。

10. がん原性試験

がん原性試験が必要となる条件については、ICH S1A(11)を参照のこと。臨床適応を考慮してがん原性試験が推奨される場合は、それらは製造販売承認申請までに完了すべきである。がん原性のリスクが懸念され、その明確な理由がある場合に限り、臨床試験の実施前にがん原性試験成績を提出すべきである。単に臨床試験の投与期間が長いというだけでは、懸念されるリスクの明確な理由とはならない。

がん原性試験が推奨される場合であっても、重篤な疾患の治療のために開発された医薬品については、成人患者/小児患者用を問わず、製造販売承認後にがん原性試験の結論を出すことができる。

11. 生殖発生毒性試験

生殖発生毒性試験(3)は、対象となる被験者集団に応じて、適切な試験が実施されるべきである。

11.1 男性

男性は、雄受胎能試験の実施前に、第Ⅰ相及び第Ⅱ相試験に組み入れることができるが、それは、雄生殖器の評価が反復投与毒性試験のなかで行われるからである(注2)。

雄受胎能試験(3)は、大規模臨床試験あるいは長期投与臨床試験(例えば第Ⅲ相試験)の開始前には、完了しておくべきである。

11.2 妊娠の可能性のない女性

妊娠する可能性のない女性(すなわち、永久的な避妊術を受けた者、閉経後の者)は、適切な反復投与毒性試験(雌生殖器の評価を含む)が実施されていれば、生殖発生毒性試験を実施していなくても、臨床試験に組み入れることができる。閉経とは、別の医学的理由を伴わずに月経の無い状態が12ヶ月以上にわたる場合と定義される。

11.3 妊娠可能な女性

妊娠可能な女性の場合、有益性とリスクについての情報が得られる前に、意図せずに胚/胎児が暴露されてしまうことに対する強い懸念がある。妊娠可能な女性を臨床試験へ組み入れるための生殖発生毒性試験の実施時期については、3極でほぼ同様の推奨がなされている。

臨床試験において妊娠可能な女性を組入れる場合、胚/胎児への意図しない暴露によるリスクを明らかにし、最小限にすることが極めて重要である。そのための一つのアプローチは、生殖発生毒性試験の実施によって治験薬固有のリスクを明らかにし、臨床試験において妊娠可能な女性が暴露されている期間に適切な予防策を講じることである。第2のアプローチは、治験期間中に妊娠を回避する予防措置をとり、リスクを限定することである。妊娠を回避する予防措置としては、妊娠テスト(HCG のβ-サブユニットに基づくものなど)を行うこと、極めて有効性の高い受胎調節方法を使用すること(注3)、及び月経周期を確認した後にのみ臨床試験へ組み入れることが含まれる。臨床試験期間中の妊娠テスト及び被験者への教育を十分に行うことによって、治験薬の暴露期間中(試験期間を超えることもある)、所定の避妊法の遵守を確実なものとすべきである。これらのアプローチを支持するために、インフォームドコンセントは、生殖発生毒性に関連した知り得る限りの適切な情報、例えば、類似した構造や薬理作用を有する医薬品の毒性に関する総合的な評価などに基づくべきである。適切な生殖発生毒性の情報が無い場合には、胚/胎児へのリスクが確定されていないことについて伝えるべきである。

3極とも、一定の状況下では非臨床発生毒性試験(例えば胚/胎児試験)を実施せずに初期の臨床試験に妊娠可能な女性を組み入れることができる。許容される状況の一つは、短い(例えば2週間)臨床試験期間で、妊娠のリスクを徹底して制御できる場合である。他の状況として、女性に特に多い疾患で、妊娠可能な女性を含めないと臨床試験の目的の達成が不可能であり、かつ妊娠を回避する十分な予防措置がとれる場合である(上記参照)。

さらに、非臨床の発生毒性試験を行うことなく妊娠可能な女性における臨床試験を実施するために考慮すべき事項として、治験薬の作用機序、薬剤のタイプ、胎児への暴露の程度、あるいは適切な動物モデルで発生毒性試験を実施することの困難さに関する知見が含まれる。例えば、モノクローナル抗体は、ヒトにおいて器官形成期の胚/胎児への暴露が少ないことが現在の科学的知見から理解されており、発生毒性試験は第Ⅲ相試験の間に実施してもよい。最終報告書は製造販売承認申請時に提出すべきである。

一般的に、2種の動物において適切な予備的発生毒性試験データが得られており(注4)、臨床試験において妊娠を回避する予防措置がとられる場合(上記参照)は、最終的な発生毒性試験を実施する前であっても、妊娠可能な女性(最大150人)を比較的短期間(最長3ヶ月)の治験に組み入れることができる。これはこの規模の人数と期間の管理された臨床試験においては妊娠率が非常に低いこと(注5)、及び臨床試験に妊娠可能な女性を組み入れる際に懸念される発生毒性所見のほとんどが、適切にデザインされた予備的な試験において検出可能であるということに基づいている。臨床試験における妊娠可能な女性の数と試験期間は妊娠率を変化させる集団の特性(例えば、年齢や疾患)によって影響される。

米国では、妊娠可能な女性に妊娠を回避する予防措置がとられている臨床試験(上記参照)においては、胚/胎児発生への影響の評価は、第Ⅲ相試験の前までに実施すればよい。EU及び日本では、前段落に示した状況を除いては、妊娠可能な女性に投与される前に最終的な胚/胎児発生毒性試験を完了しておくべきである。

3極とも、雌受胎能試験の実施前に、妊娠可能な女性を第Ⅰ相及び第Ⅱ相の反復投与試験に組み入れることができるが、それは、雌生殖器の評価が反復投与毒性試験のなかで実施されるからである(注2)。雌の受胎能に特に着目した非臨床試験(3)は、大規模かつ長期の臨床試験(例えば第Ⅲ相試験)で妊娠可能な女性を含める前に完了しておくべきである。

3極とも、出生前及び出生後の発生への影響の評価は、製造販売承認申請時に提出すべきである。

極めて有効性の高い受胎調節方法(注3)を用いていない妊娠可能な女性や妊娠の有無が明らかでない女性を組み入れる全ての臨床試験においては、事前に、全ての雌生殖発生毒性試験(3)と標準的な組合わせの遺伝毒性試験(10)を完了しておくべきである。

11.4 妊婦

妊婦が臨床試験に組み入れられる前に、全ての雌生殖発生毒性試験(3)と標準的な組合わせの遺伝毒性試験(10)を実施しておくべきである。さらに、事前に実施されたヒト暴露試験における安全性データを評価しておかなければならない。

12. 小児における臨床試験

小児患者を臨床試験に組み入れる場合には、通常、先だって実施された成人における臨床使用経験での安全性データが最も有用な情報であり、一般的に小児での臨床試験の前に入手しておくべきである。成人データの必要性及び範囲は個別の状況に応じて決定される。広範囲にわたる成人データが小児に投与する前に得られない場合もあろう(例えば小児特異的な適応疾患)。

小児での臨床試験の開始前には、成熟動物を用いた適切な期間の反復投与毒性試験(表1参照)、安全性薬理コアバッテリー試験、標準的な組合わせの遺伝毒性試験の成績を入手しておくべきである。臨床試験に組み入れる小児患者集団の年齢と性別に対応した生殖発生毒性試験も、直接的な毒性あるいは成長へのリスクについての情報を得るために重要である(例えば、受胎能試験、出生前及び出生後の発生への影響の評価)。胚/胎児発生毒性試験は男児あるいは思春期前の女児での臨床試験を実施するために必須ではない。

同じ薬理学的分類に属する他の薬物のデータを含めて、既存の動物データ及びヒトの安全性データが小児の臨床試験を実施するのに十分でないと判断された場合にのみ、幼若動物を用いた試験の実施を考慮すべきである。幼若動物での毒性試験が必要な場合は、通常、適切な1種の動物種で十分であると考えられ、可能であればげっ歯類を用いることが望ましい。科学的に正当性を示せるのであれば、非げっ歯類を用いた試験が適切な場合もある。

一般的に、小児集団での短期間の薬物動態試験(例えば、1から3回投与)を実施するためには、幼若動物による毒性試験は重要でないと考えられる。

治療上の適応、小児集団の年齢、成熟動物及びヒトへの暴露より得られた安全性データに基づいて、有効性及び安全性評価のための短期間の反復投与による臨床試験を開始する前に、幼若動物を用いた試験成績が妥当かどうかを考慮すべきである。被験者の年齢と臨床試験の期間の関係(すなわち、被験者が薬物に暴露される期間中に、発育上の懸念すべき時期が含まれるか否か)は考慮すべき最も重要な事項の一つである。この評価により、幼若動物による試験の必要性と、実施するのであれば、臨床試験に応じて毒性試験の実施時期が決定される。

長期間の小児の臨床試験のために、幼若動物を用いた毒性の評価が必要な場合には、それらの非臨床試験は長期間の小児の臨床試験を開始する前に完了している必要がある。

小児が主たる対象患者群であり、実施済みの非臨床試験で標的臓器(毒性学的あるいは薬理学的な)の発育に対する懸念が示される場合がある。このような事例の中には、幼若動物を用いた長期の毒性試験の実施が適切な場合もある。発育に対する懸念を検討するには、適切な動物(種及び週齢)を用い、妥当な評価項目が設定された慢性毒性試験(例えば、イヌの12ヶ月投与試験あるいはげっ歯類の6ヶ月投与試験)が有用である。12ヶ月投与試験はイヌにおいて全ての発育期間をカバーすることが可能である。どちらの動物種においても、場合によっては、対応する通常の慢性毒性試験とそれとは別に実施される幼若動物の試験とをこのデザイン(訳注:通常の慢性毒性試験と幼若動物毒性試験を兼ねる)に置き換えることが可能であろう。

がん原性試験の必要性は長期間の小児臨床試験を開始する前に判断しなければならない。しかし、懸念すべき重大な事由(例えば、複数の試験で遺伝毒性が明らかな場合や、想定される機序や一般毒性試験の所見から、発がんに繋がるリスクが懸念される場合)がない限り、がん原性試験は小児の臨床試験を実施するためには必要ない。

13. 免疫毒性

ICH S8ガイダンスに示すように(14)、全ての新規の医薬品については、標準的な毒性試験や、その試験で認められた免疫に関連する変化の重要性を踏まえて追加実施される免疫毒性試験によって、免疫毒性を引き起こす可能性を評価しなければならない。追加の免疫毒性試験が必要とされた場合、これらの試験は大規模な臨床試験(例えば第Ⅲ相試験)の投与前に完了しておくべきである。

14. 光安全性試験

ヒトへの暴露と関連する光安全性試験の妥当性及び試験実施のタイミングは、以下の項目を考慮して決定すべきである。1)化合物分子の光化学的性質(例えば、光吸収性と光安定性)、2)化学的に関連する化合物の光毒性に関する情報、3)組織分布、4)光毒性を示唆する臨床又は非臨床所見。

薬物の光化学的特徴と薬理学/化学的分類に基づいて、光毒性の可能性に関する初期評価を行なうべきである。得られている全てのデータと実施しようとする治験計画から、ヒトでの光毒性のリスクが強く懸念される場合には、外来患者を用いた臨床試験では適切な保護対策をとるべきである。これに加えて、ヒトでのリスク及び追加試験の必要性に関するさらなる情報を得るために、引き続き、非臨床での皮膚や眼における薬物分布の検討を実施すべきである。そして、光毒性に関する実験的評価(インビトロ又はインビボの非臨床試験あるいは臨床試験)は、それが適切であると考えられる場合には、大規模臨床試験(第Ⅲ相試験)の開始前には実施すべきである。

上記の段階的アプローチの代わりに、非臨床又は臨床試験において光毒性を直接評価することも可能である。この試験の結果が陰性ならば、開発早期における眼/皮膚への分布の評価や臨床における保護対策は必要ない。

光毒性評価によって潜在的な光がん原性のリスクが示唆された場合、患者におけるリスクは、臨床試験のためのインフォームドコンセントや販売用の製品情報に警告として記載するなどの保護対策によって、通常、適切に管理することができる(注6)。

15. 薬物乱用に関する非臨床試験

中枢神経系に対し活性がある薬物に関しては、適応症によらず、薬物乱用性の評価の必要性について検討されるべきである(訳注:ここで言う乱用性とは、中枢神経系に対し活性がある薬物の使用に伴う依存性に係る乱用を意味する)。非臨床試験は、乱用の可能性に関する臨床評価デザイン、規制当局による薬物分類とリスト作成、製品情報に役立つものでなければならない。薬物乱用に関するデータパッケージをデザインする上で、各極の薬物乱用に関する非臨床ガイダンスが参考となる。

薬物開発の初期段階で得られる非臨床データは、乱用の可能性の初期指標を同定する上で有用である。これらの初期指標には作用持続時間を明らかにするための薬物動態/薬力学的プロファイル、既知の乱用薬物との化学構造の類似性、受容体結合プロファイル、インビボ非臨床試験での行動/症状観察所見が含まれ、通常ヒトに最初に投与する前までに入手可能である。これらの初期指標から乱用の可能性が認められない場合には、乱用性に関する非臨床評価モデルを用いたそれ以上の試験は不要であろう。一般的に、活性本体に乱用性があることを示唆する所見が得られた場合や、活性本体が中枢神経系に対する新規の作用機序を持つ場合には、大規模な臨床試験(例えば、第Ⅲ相試験)の実施のために、さらなる非臨床試験が推奨される。

げっ歯類での薬物の代謝物プロファイル及び薬物活性の標的がヒトと一致している場合には、乱用性に関する非臨床評価はげっ歯類を用いて行うべきである。ヒト以外の霊長類を使用するケースは、霊長類がヒトでの乱用性を予測し得ると考える明確な根拠があり、しかも、げっ歯類のモデルは不適切である場合に限るべきである。乱用性を評価するために、薬物弁別試験、薬物自己投与試験、退薬症候に関する試験の3つの試験がよく実施される。薬物弁別試験と薬物自己投与試験は、一般的に、独立した試験として実施すべきである。退薬症候の評価は、反復投与毒性試験における回復群のデザインの中に組み入れることもある。これらの乱用性に関する非臨床試験における最高用量は、予測される臨床治療用量での血漿中濃度の数倍相当量までを設定するのが妥当である。

16. その他の毒性試験

当該治験薬又は類薬について、臨床又は非臨床試験でみられた事象から、特別な安全性上の懸念が示唆される場合には、追加的な非臨床試験(例えば、有用なバイオマーカーの特定や毒性機序の理解のため)が必要となることがある。

不純物や分解物を評価するためのアプローチについてはICH Q3A及びQ3B(12、13)に示されている。不純物あるいは分解物を評価する必要がある場合でも、それまでとは明らかに異なる不純物プロファイルを示すような変化がある場合(例えば、新規合成経路、製剤に含まれる成分との相互作用により生成された新規分解物)を除き、通常、これらの評価は第Ⅲ相試験までは必ずしも必要ではない。例外として示した上記の事例においては、第Ⅱ相試験あるいはそれ以降の開発のために、適切な評価のための試験がなされるべきである。

17. 配合剤のための非臨床試験

本節では複数製剤を組合わせたパッケージあるいは複数の有効成分からなる配合製剤(配合剤)について述べる。ここで示す原則は、配合剤以外でも、製品情報においてある特定の薬剤との併用が推奨されることがわかっており、併用に関する臨床情報がほとんどない医薬品の開発にも適用できる。

本ガイダンスが対象としている配合剤の組合わせは以下のように分けられる:(1)後期開発ステージにある被験薬の2つ以上の組合わせ(後期開発ステージとは、十分な臨床経験があるステージ(第Ⅲ相臨床試験中あるいは市販後)と定義される);(2)後期開発ステージにある1つ以上の被験薬と早期開発ステージにある1つ以上の被験薬との組合わせ(早期開発ステージとは、限定された臨床経験しかないステージ(第Ⅱ相あるいはそれ以前)と定義される);あるいは(3)2つ以上の早期開発ステージにある被験薬の組合わせ。

臨床での十分な併用投与経験がある後期開発ステージの2つの被験薬による配合剤のほとんどについて、臨床試験あるいは製造販売承認のための配合剤としての毒性試験は、毒性学的に大きな懸念(例えば、毒性標的器官の類似)がない限り、一般的に必要ない。この毒性学的懸念は、安全域やヒトにおける副作用をモニタリングできるか否かよっても変わり得る。毒性学的に重要な懸念の原因に対処するための試験が実施される場合、一般的に配合剤の臨床試験が実施される前に完了すべきである。

後期開発ステージにある2つの被験薬を含む配合剤で、臨床での併用投与の経験が十分ではないが、得られている個々の被験薬についてのデータに基づく毒性学的な懸念がない場合は、通常、小規模かつ比較的短期間の臨床試験(例えば、3ヶ月までの第Ⅱ相臨床試験)を実施するためには、配合剤の非臨床試験は必要ない。しかしながら、大規模あるいは長期間の臨床試験前や製造販売承認前には試験の実施が推奨される。

臨床試験の経験がある早期開発ステージの被験薬と後期開発ステージにある被験薬の配合剤については、毒性学的に有意な懸念がなければ、1ヶ月までのproof-of-concept (POC)臨床試験を実施するために配合剤の毒性試験は必要ない。これら配合剤の臨床試験は、個々の被験薬について過去に実施された臨床試験期間より長くなってはならない。より後期の開発ステージあるいはより長期間の臨床試験を実施するためには、配合剤の非臨床毒性試験を実施すべきである。

早期開発ステージの2つの被験薬を含む配合剤については、臨床試験を実施するために、配合剤の非臨床毒性試験を前もって実施すべきである。

個々の被験薬について開発のための非臨床試験が既に完了しており、配合剤の非臨床毒性試験がその臨床試験の実施のために必要な場合、毒性試験の期間は最長を90日として臨床試験期間に相当する期間とすべきである。製造販売承認のためには、90日間の配合剤の毒性試験が必要であるが、予定されている臨床使用期間によっては、90日よりも短い毒性試験でもよい。

配合剤の特徴を明らかにするために推奨される非臨床試験のデザインは、個々の被験薬の薬理、毒性及び薬物動態学的プロファイル、適応症、対象とする患者集団及び得られている臨床データに依存する。

配合剤の非臨床試験は通常、適切な動物種1種について実施されていればよい。予期しない毒性が確認された場合には、追加試験が必要な場合がある。

個々の被験薬について開発のための非臨床試験が実施されておらず、個々の薬剤が配合剤としてのみ用いられるのであれば、非臨床毒性試験の全てを配合剤のみを用いて実施することが適切な場合がある。

遺伝毒性、安全性薬理、がん原性について、個々の成分を用いた試験が現在の標準的な試験方法で実施されている場合には、臨床試験の実施や製造販売承認のための配合剤を用いた試験の実施は必要ない。患者集団に妊娠可能な女性が含まれており、個々の成分を用いた試験において胚/胎児発生へのリスクが示されている場合には、ヒトの発生に対する有害影響の可能性がすでに同定されていると考えられるので、配合剤を用いた試験は推奨されない。非臨床の胚/胎児発生毒性試験においていずれの成分についてもヒトの発生へのリスクがないことが示されている場合には、個々の成分の特徴から考えて、配合剤とすることでヒトに有害影響を生じる懸念がない限り、配合剤を用いた胚/胎児発生への影響を評価する必要はない。個々の成分について胚/胎児発生毒性試験で評価されているが、配合剤を用いた胚/胎児発生毒性試験が必要と考えられる場合には、配合剤の試験を製造販売承認申請前に実施すべきである。

18. ハーモナイゼーションの進展に向けて

医薬品の臨床試験を実施するために必要な非臨床安全性試験の実施時期のハーモナイゼーションについては、著しい進歩が達成され、その詳細は本ガイダンスで述べられている。しかしながら、いくつかの領域で相違点が残されている。規制当局及び企業は、引き続きこれらの相違点を認識し、医薬品開発の過程をさらに改善するための作業を続ける次第である。

19. 後注

  • 注1:本文書中の「暴露量」とは通常、AUCの群平均値を意味する。しかし、状況(例えば、急性の心血管系機能変化又は中枢神経系に関連した症状を引き起こすことが知られている化合物又は化合物クラス)によっては、AUC値よりもCmaxの群平均値に基づく暴露量の方が適切であろう。
  • 注2:雌雄受胎能の評価は、2週間の反復投与毒性試験(一般的にげっ歯類)における精巣及び卵巣の標準的な組織病理学的検査を十分に実施することによって、雌雄生殖器への影響を受胎能試験と同等の感度で検出できると考えられる(3, 15, 16)。
  • 注3:極めて有効性の高い受胎調節方法とは、単独又は組合せにより一貫して正しく使用された時、失敗する確率が低い(すなわち年1%未満)方法を指す。被験者がホルモン剤による避妊法を用いている場合には、評価中の治験薬に関する情報、及び治験薬の避妊薬への影響に関する情報が示されるべきである。
  • 注4:この目的に役立つ予備的な胚/胎児発生毒性試験とは、胎児の生存、体重、外形及び内臓観察を含み、1群あたり最低でも6例の母動物に器官形成期を通じて十分な用量段階で投与された試験である。この予備的な非臨床試験は、科学的に質の高い水準で実施され、かつデータの収集記録を容易に確認できるものであるか、又はGLP条件下で実施されるべきである。
  • 注5:妊娠する意思を最初から持っている女性の妊娠率は月経1周期あたり約17%である。 妊娠可能な女性で行われた第Ⅲ相試験から見積もられた妊娠率は月経1周期あたり0.1%未満であった。これらの試験の間、被験者には妊娠を避けるよう勧めるとともに、妊娠を予防するための方策が施された。初期の第Ⅱ相試験の調査では、妊娠率は第Ⅲ相試験よりも低いことが示唆されたが、試験に組み入れられた女性の数に限りがあったため、どの程度低下したのかは推測できなかった。上記の第Ⅲ相試験の経験から、150人の妊娠可能な女性で3ヶ月間実施する第Ⅱ相試験の場合、開発中の医薬品あたりの妊娠例数は0.5例よりも有意に少ないと推測される。
  • 注6:光がん原性試験のために現在使用可能なげっ歯類のモデル(例えば、げっ歯類の無毛動物)は、医薬品開発の裏付けとして有用ではないと考えられており、一般的に推奨されない。光がん原性に対する適切な評価系が利用できるようになった場合は、光毒性評価で光がん原性リスクの可能性が示唆された化合物について、通常、その試験は販売される前までに完了しておくべきであり、その結果はヒトでのリスク評価に考慮されるべきである。

20. 参考文献

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